自然

ハンドメイド 宇宙のロマン、ソフトでもハードでも(進め!なつのロケット団/増上寺 天の川ライトアップ2017)

 ども、”無限に広がる大宇宙(*1)”なおぢさん、たいちろ~です。
 7月7日と言えば”七夕”。仙台在住が長かったうちの奥様は8月と思ってましたが(*2)。あんまし天文とかに詳しくない私でもこの日だけは”宇宙のロマン”みたいな話題に乗っかっちゃうモンです。
 世の中に”鉄”と呼ばれる鉄道オタクがいますがこの趣味も”乗り鉄”、”撮り鉄”、”録り鉄”、”車両鉄”、”駅弁鉄”(*3)と人それぞれのようですが、天文マニアってのもいろいろバリエーションがありそうです。オーソドックスな天体望遠鏡で宇宙を観察する”見上げてごらん、夜の星を派”、宇宙飛行士を目指す”宇宙兄弟派”といったハード系から、星座に思いを馳せる”聖闘士派”、今や市民権を得たと言っても過言ではない(過言かな?)”SFヲタク”などソフト系まで。
 ということで、今回ご紹介するのはそんな天文マニアな趣味より、ハード系な話”進め!なつのロケット団”とソフト系な話”増上寺 天の川ライトアップ”のご紹介であります

写真はたいちろ~さんの撮影。増上寺 天の川ライトアップ。
分かりにくいですが、上左が増上寺大殿、中央上の青く光っているところが東京タワーです

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【本】進め!なつのロケット団(あさりよしとお、白泉社)
 小学生たちが集まってロケットを作るという”なつのロケット(あさりよしとお、白泉社)”というお話から、リアルでロケットを作っちゃうという”なつのロケット団”(キャラクターは”なつのロケット”と同じ小学生)のお話に。
 著者は”まんがサイエンス(*4)”の著者でもあるあさりよしとお。”宇宙へ行きたくて液体燃料ロケットをDIYしてみた 実録なつのロケット団(あさりよしとお、学研プラス)”というのもあります(まだ読んでないけど)
【旅行】増上寺 天の川ライトアップ2017
 正式名称は”増上寺七夕祭り 和紙キャンドルナイト2017”。2017年7月7日に増上寺境内で開催。企画運営は多摩大学 村山貞幸ゼミ 日本大好きプロジェクト
 三解脱門(正門)から大殿(本堂)までの全長80mに約2,700ケの和紙キャンドルを並べて天の川を表現したもの。けっこう綺麗でしたよ!


 ということで、ハンドメイドでロケットを作っちゃうというハードな話から。
 七夕といえば宇宙ネタってことでしょうか、7月6日に”ホリエモンロケット 7月29日打ち上げ 成功すれば民間初”つ~ニュースが出てました。内容を要約すると、宇宙ベンチャー”インターステラテクノロジズ”が開発した小型ロケット(直径約50センチ、全長約10メートル、重さ約1トン)を7月29日に打ち上げると発表、高度100キロ(大気圏と宇宙空間の境界)まで上昇し、通信試験などをするのが目的、成功すれば民間単独によるロケットの宇宙空間への到達は日本初”といったもの。なぜホリエモンが出てくるかというと、本書の”なつのロケット団(リアルのほう)”が始めたプロジェクトがインターステラテクノロジズの前身で、さらにインターステラテクノロジズを創業したんが元ライブドア社長の堀江貴文からです。

 ”莫大なコストのかかる宇宙開発を民間企業なんかでできるんかい?!”と思われるかもしれませんが、実際やっちゃってる訳ですし。ただし、これはペイロードなり到達高度なりをかなり制限しているからです。このへんの話が本書の”誕生秘話 なぜ我々はマンガの中のロケットをリアルに作りはじめてしまったのか”に詳しく出ています。
 日本独自の有人宇宙飛行プランを提唱したものの国家に受け入れられなかったメンバーが”じゃあ、民間で有人ロケットを上げちゃえば”という話に。で、ホリエモンを巻き込んでロシアから買ったらと見積もりしたら足下見られて想定の10倍以上の見積もりに。ここでホリエモンからの提案

  自分の手で作るんだよ
  たとえ実用にならなかったとしても・・・
  選択肢があるとなれば相手も無視できない
  それにロケットエンジンの何たるかを知らない人間が交渉などおこがましい
  ロケットエンジンについて技術的な方向から語れない人間が
  対等な話ができるわけないじゃないか

 この発言、ホリエモンって実はすごいんじゃないかと。”選択肢を作るため”、”技術的なバックボーンをもって交渉力を高める”って、言うのは簡単ですが実際にやるってのはけっこう大変なことですし、そもそもなかなか発想しないでしょ!
 その後、ホリエモン逮捕だとかなんだとかあっていったんプロジェクトは挫折するんですが、夢が捨てられない有志が集まってプロジェクトが再起動(*5)。で、今日につながると・・・

 本書は”民間(小学生)によるハンドメイドのロケット開発”ていう内容なんですが、成功したり失敗したりと紆余曲折ありますが、やっていることは意外に地味。まあ開発なんてそんなもんでしょうが・・・ でもけっこう面白いんですね、これ。科学的な解説なんで分かりやすくのっかってるし、何のためにこれやんだっけみたいなものも明確。子供向けのマンガっぽいですが、大人の方にもお勧めです。

 さて、ソフトは話つ~ことでハンドメイドで天の川を作っちゃう”増上寺 天の川ライトアップ”のネタです。
 ハンドメイドで宇宙を作るといっても”フェッセンデンの宇宙(*6)”みたく実際に作っちゃうSFもありますが、それはまた別の話。ここでのお話はいわゆる”見立て”です。”見立て”といってもバカにしたもんじゃないです。”プラネタリウム”だって立派な”見立て”でしょ? 重要なのは”見立て”に何を求めるか。科学館にあるプラネタリウムみたいに科学的な正確性を求められるものもありますが、そこそこなら手作りキットだって売ってるし、専門家がやればかなり高度なものでも手作りできちゃうみたい。要は学問的・教育的な観点を求めるか、イメージとして宇宙への興味を高めるか。子供たちが”天の川”というものに興味を持って、実際の天の川を見たいとか(東京ではなかなか見れませんぜ!)、宇宙のことをもっと知りたいと思うなら”見立て”だって充分役にたってるんじゃないかな
 まあ、浴衣デートでちゃいちゃしてるだけのおにいちゃんとおねえちゃんはこのあとホテルでの”良いではないかゴッコ(*7)”のことだけ考えてりゃいいんです。ケッ!

 すいません、取り乱しました。”天の川ライトアップ”は”日本大好きプロジェクト”という伝統文化伝承って位置づけで”天文”ってカテゴリじゃないんでしょうが、”伝統文化”に興味を持つ人が出てくればそれはそれでOKでしょう。
 すなおに”綺麗”ってだけでもまた良しなんでしょうね

 来年も開催されるかどうかは分かりませんが、JR浜松町駅、地下鉄御成門駅や大門駅から歩いて行けますし、21時と東京近郊の人なら会社が終わってからでも行けますんでご興味のあるかたはぜひどうぞ

《脚注》
(*1)無限に広がる大宇宙
 ご存知”宇宙戦艦ヤマト”のナレーション。このアニメのパート1の放映が1974年だから、もう40年以上もなるんだな~ 1978年公開の映画”さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち”のリメイク版”宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち”が2017年に公開開始。脚本が福井晴敏となるとやっぱし観ちゃうんだよな~~~
(*2)仙台在住が長かったうちの奥様は8月と思ってましたが
 東北三大祭りの一つ”仙台七夕”は旧暦なので8月6~8日に開催。関西出身ですが仙台在住が長くなると、意外と簡単にカレンダーが上書きされるようです
(*3)”乗り鉄”、”撮り鉄”~
 電車での旅行を楽しむ”乗り鉄”、鉄道や風景の写真を撮りまくる”撮り鉄”、発車メロディーや車内放送を録音する”録り鉄”、キハだのクハだのにやたら詳しい”車両鉄”、電車というよりグルメ系?な”駅弁鉄”。
(*4)まんがサイエンス(あさりよしとお、学研プラス)
 学研の”5年の科学”、”6年の科学”などで連載されていた科学学習漫画。本来は子供向けなんですが、大人が読んでも面白いしためになる本。お勧めです。
(*5)夢が捨てられない有志が集まって~
 あさりよしとおがプロジェクトを受けた理由
  まー 世の中にはやっていい事と、やったら面白い事がある・・・
  がモットーだしな

 いいですな~~、このノリ!
(*6)フェッセンデンの宇宙(エドモンド・ハミルトン、河出文庫)
 アメリカのSF作家エドモンド・ハミルトンによる短編SF小説。天文学者フェッセンデンが実験室で人工の宇宙を作っちゃうというお話。科学者のはずのフェッセンデンが神様モードになっちゃうというのが秀逸です
(*7)良いではないかゴッコ
 別名”帯クルクル”
  拉致された町娘:あれ~、お殿様、お戯れを
  お殿様    :良いではないか、良いではないか
(以下自主規制)

”狼”のイメージってブレ幅が大きいですが、”狼王ロボ”は暴虐の王から夫婦愛まで大ジャンプ?

 ども、子供時代はあんまし本を読んでなかったかもしれないおぢさん、たいちろ~です。
 先日”うちは寿!(*1)”というマンガを読んでたら、”シートン動物記(*2)”の”狼王ロボ”を読んで三人の孫たちが涙するってシーンが出てきました。そういえば、”シートン動物記”って読んでないな~。そういや、本好き小学生の通過儀礼ともいえる”ドリトル先生航海記”も”楽しいムーミン一家”も”ファーブル昆虫記”もみんな読んでないな~~(*3) 対して外に出て遊んでた記憶もないんでいったい何してたんだろう? 寝てばっかいたのかなぁ
 ということで、今回ご紹介するのは反省をこめていいおぢさんになってから読んでみました”シートン動物記”より”狼王ロボ”であります
 

写真はたいちろ~さんの撮影。日比谷公園にある”ルーパロマーナ(ローマの牝狼)像”です

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【本】狼王ロボ(シートン、集英社他)
 巨大な体躯と人間の罠をものともしない狡知にたけたコランポーに君臨する狼の王”ロボ”。白くて美しくロボの妻である牝狼の”ブランカ”。ロボが率いる群れによりコランポー一帯の牧場は多大な被害を受けていた。そんなロボを捕まえるべくシートンはある計画を実行する・・・
 原題は”Lobo, the King of Currumpaw(ロボ、カランポーの王)。
【動物】狼
 ネコ目(食肉目)イヌ科イヌ属に属する哺乳動物。
”一匹狼”という言葉があるので単独行動する動物かと思っていましたが、実際は雌雄のペアを中心とした平均4~8頭ほどの社会的な群れ(パック)を形成し、通常は繁殖するペアが最上位に位置するんだそうです(wikipediaより)


 多くの人にとって”狼”に対するイメージってその精神性のブレ幅が大きい動物ってそうそういないんじゃないかと(*4)。いやいや、”狐”は狡賢いから神の眷属まであるし、猫だって癒しのペットから化けて出るしと他にもいるだろうと反論はありそうです。でも、狼ってのは残虐から、勇猛果敢、慈愛、あるいは夫婦愛まで”精神のありよう”みたいなとこでは真逆に近いとこまで広がっているんじゃないかと

 残虐のイメージの筆頭は童話”赤ずきんちゃん”や”三匹の子豚”。なんせおばあちゃんやら子豚やらなんでも食べちゃうし。勇猛果敢つまり強さの象徴としてはスポーツや軍隊なんかでとく見かけるかと。故横綱”千代の富士”のあだ名が”ウルフ”とか、旧ドイツ海軍の”ウルフパック(群狼作戦)(*5)”とか。慈愛となると、上記の写真にある古代ローマを建国した双子”ロムルス”と”レムス”を育てた牝狼とか(あんまし詳しくは知らんけど)
 まあ、私自身は中学時代に”ウルフガイ・シリーズ(*6)”にはまった口なんで孤高のヒーローってイメージが強いですけどね。

 前置きが長くなりましたが、”夫婦愛”の代表格が今回ご紹介の”狼王ロボ”でしょうか。あらすじを続けます(ネタバレになりますのでご注意ください)

 シートンはボロの群れの足跡を観察することで、ブランカがロボの妻ではないかと考える。そしてまずブランカを捕獲することに成功する。悲しみの咆哮をあげるロボ。復讐に燃え、妻の探索をあきらめきれないロボは、取り乱し仕掛けられた罠にかかってしまう。仲間にも見捨てられ、抵抗するも力つきてしまうロボ。
 捕獲したロボを殺すことをおもいとどまったシートンだった。だが、力を奪われ、自由を奪われ、そして妻を失った悲しみの三重苦の中、老いた狼の王は死んでしまった。ロボの死骸をブランカの死骸のそばに寄り添わせるシートン。ロボを運んだカウボーイは大声で言った

  ほれ、お前はこいつのそばに来たかったんだろう
  これで、また、いっしょってわけだ

なんという名シーン。寿家の三人の孫たちが涙するのも納得です。

 でも、ちょっと待って。前半のロボたちって相当な悪役じゃなかったっけ? 5年間に牛を2000頭以上殺したとか、一晩で羊を250頭殺したとか。しかも遊び半分で。これらをして”狂暴なロボの一隊の暴虐ぶり”って書いてあるし。なんせ”人狼”だの”悪魔と結託している”だのさんざんな言われような王様なはずなんだけどなぁ
 小説だと他人には冷酷だけど家族には優しいキャラだとか、歴史上にもアイヒマンみたく残虐なナチス将校が実は平凡なおぢさんだったりとかあるけど(*7)、ロボやブランカって筋金入りの悪役だったのに、夫婦愛ですべてチャラってのはなぁ・・・

 いかんなぁ、大人になると本の読み方がひねくれてきて。少年のころのあの純粋な魂は失われてしまったんでしょうか・・・
 元からなかったのかもしれませんが

 なにはともあれ”シートン動物記”って面白い本です。私の読んだ集英社版に収録された”灰色グマの伝記”や”サンドヒルの雄ジカ”も良かったし。今更ながらですがお勧めの1冊です。


《脚注》
(*1)うちは寿!(小池恵子、竹書房)
 イケメン大好きなおばあちゃん”寿かめ”さんと、優秀なキャリアウーマンで家事ダメダメな長女”万里(32歳)”、クール&ビューティにして家事万能、時々マニアックな次女”美鶴(17歳)”、元気いっぱい、絵日記が得意な長男”千宏(7歳)”という3人の孫たちがおりなす日常系4コママンガ。
 本エピソードは4巻から。結構お勧めです。
(*2)シートン動物記(シートン、講談社他)
 アメリカの博物学者アーネスト・トンプソン・シートンによる動物物語の総称。
 ”シートン動物記”という名前は日本でつけられた題名で、これに正確に対応する原題はないんだそうです(wikipediaより)。まあ、小学校の図書館に行けば必ずある本だから気にすることないけど
(*3)本好き小学生の通過儀礼ともいえる~
ドリトル先生航海記(岩波少年文庫他)
 アメリカの小説家ヒュー・ロフティングによる”ドリトル先生シリーズ”より
たのしいムーミン一家(講談社)
 フィンランドの作家トーベ・ヤンソンによる”ムーミンシリーズ”より
ファーブル昆虫記
 フランスの博物学者、作家のジャン・アンリ・ファーブルの代表作
(*4)”狼”に対するイメージって~
 ニホンオオカミに限って言うと1905年に捕獲されたのが確実な情報としては最後のものだそうで、110年以上前の話。つまり、生きている狼を見た人はほとんどいないということです。したがって現在の”狼”のイメージは文学や映画などにより形作られたものかと
(*5)ウルフパック(群狼作戦)
 ドイツ海軍潜水艦隊司令カール・デーニッツ少将により考案された敵輸送船団を攻撃する通商破壊戦術の一つ。偵察機からの情報で輸送艦隊の進行方向を予測し、複数の潜水艦により予測海域にて各艦が包囲陣形を取りこれを撃滅するというもの。
(*6)ウルフガイ・シリーズ(平井和正、 早川書房他)
 名前と裏腹に暴力の渦巻く私立中学 博徳学園に転校した”犬神明”。彼は、満月が近づくと不死となる人狼(狼男)だった。彼を執拗に狙う不良グループのボス”羽黒獰”、そして二人の対立に巻き込まれる美しき教師”青鹿晶子”の運命は・・・
 初期のころのははまって読みましたが、”黄金の少女”以降まだ読んでないなぁ
(*7)アイヒマンみたく
 アドルフ・オットー・アイヒマンはナチスドイツ親衛隊中佐でホロコーストに関与して数百万の人々を強制収容所へ移送する指揮的役割を担った人物。戦後に逮捕されてみると小役人的で、家族を愛する凡人であったことが判明。
 詳しくは”ホロコーストの実行者はサディストではなくノーマルだった。我々と同じようにをどうぞ。

山登りには星座早見盤を持って!(野尻抱影 星は周る/富士裾野演習場)

 ども、そろそろ”死兆星(*1)”が見えそうな歳になりつつあるおぢさん、たいちろ~です。
 ペンネームというのは本人の自由に付けられるので、意図的によく似た名前ってのがでてきます。まあ、オマージュの一種なんでしょうがこれが漫画みたいに絵柄が違えばすぐに気が付くでしょう。まあ、絵柄をひと目見れば山上たつひこと山止たつひこを混同する(*2)なんてことはなさそうですし。
 でも、これが文章のみとなると、読んでみないとわかんない。うっかりするとちょっと読み進めてから”あれっ?”ってことも。ましてやジャンルが同じだとなおさらのことです。
 ということで、今回ご紹介するのは、女子高生をロケットで宇宙に飛びださせたりしない方の”野尻さん”の本”野尻抱影 星は周る”であります


写真はたいちろ~さんの撮影。旧”富士裾野演習場”、現”陸上自衛隊 東富士演習場”です。

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【本】野尻抱影 星は周る(野尻抱影、平凡社)
 ”星の文人”と呼ばれた英文学者にして天文随筆家だった野尻抱影による随筆集。
活躍したのは1920年代半ばからで没年1977年と戦前戦後の時代の人ですが、今読んでも十分面白いです。
【旅行】富士裾野演習場
 富士山東麓の御殿場市、小山町、裾野市にまたがる陸上自衛隊の演習場。面積は約88㎢。行った時はどこからが演習場かわかりませんでしたが、とにかく人家もない広大な敷地だったのは確か。
 写真は2013年の”富士総合火力演習(*3)”の予行演習の時のもの。左側が標的になっている台地、右下にちっちゃく写っている戦車っぽいんは”99式自走155mmりゅう弾砲”です。こいつを始め、10式戦車多目的誘導弾だを使って実弾ぶっぱなすんですから、近くに家なんかあろうはずがございません。


 すいません、実はこの本”野尻 抱介”と間違えて借りたんですな。こっちは”ロケットガールシリーズ”、”ふわふわの泉”、”南極点のピアピア動画”(ともに早川書房)などを書いたSF作家。上記の”女子高生をロケットで宇宙に飛びださせた”のは”ロケットガールシリーズ”のことです。いや~~、最初はまったく気付かんかったんですが、読んでみるとこれがけっこう面白い。気にいったとこをいくつかご紹介。

〔宇宙の知識は変わっていく〕
 最初に違う人の本を読んでると気が付いたのが本文の中でアンドロメダ大星雲までの距離が95万光年、註で約250万光年とあったから。科学技術の発達で変わったんでしょうか。これなかったらもうちょっと先まで誤解したまま読んでたかも。
 ちなみにこの人は”冥王星”の和訳命名者だそうです。発見されたのは1930年でこのころはまだ惑星でしたが、2006年に”準惑星”に。科学の進歩がいろいろ変えてくんですな。

〔変わらないのは星の悠久感〕
 逆に星座の位置の形や星の位置は数万年たっても目立った変化はないとのこと
4000年前のミイラやギリシャの詩人ホーメロスを現代に甦らせて星を見せてもその当時とほとんど変わらないだろうという感覚って、言われてみればすごいな~~

〔望遠鏡で星を覗くのは距離を近づけるのと同じ〕
 200倍の倍率で望遠鏡を使って星を見るということは1/200だけ星の位置がこっちへ近づくってこと。あるいはこっちが地球を離れて星に近づくってこと。この感覚ってすごいな~~っと感心。だって上記のアンドロメダ大星雲だったら10万光年分ですぜ!!
 そりゃ、実際に近づくわけじゃないことは百も承知ですが、でもこれってロマンを感じませんか?

〔減っているのは星の数〕
 科学の発達で望遠鏡の倍率は高くなったかもしれませんが、逆に見える星の数は減っているみたい。野尻抱影は桜新町に住んでましたが、戦前に比べると星数がげっそり減ったと。駒沢球場(1962年に廃止。現駒沢オリンピック公園)でナイターがあると天頂までダメになるとお嘆き。ほかにも横浜の空明かりでカノープスが見えなくなったなんて話が出てきます。まあ、今の感覚から言うと桜新町あたりで夜の星が見えたってほうが驚きです。行ったことないけど(*4)。

〔山の頂でみる星が良い〕
 じゃあ、どこがいいかというと高い山の頂驚くばかり鮮やかで数も夥しいと。友人から聞いた話として、奥穂高で北斗七星の枡の中の小さい星が数えられたとか、富士の裾野へ演習に行った人が北冠座(かんむり座)で細かな星が直角三角形をなしているのを見たとかの話を紹介

 こんな星は、下界では、特に都会の濁った空では見えないのが普通である

 富士の裾野が山かどうかってのはありますが、要は回りに空を照らすような明かりがない所。ビルや民家がない広大な演習場って確かに星は綺麗にみえそうです。民間人なら山の上もそう。空気も澄んでいるんでなお良いんでしょう。私も山登りをしますが確かに山での星ってすごいんですよね!

〔山行であると同時に、時には星行〕
 ことほどさように山と星ってのは相性が良いようで、山と星の話題もいくつか出てます。そん中から下記の名言をどうぞ

  願わくばアルピニストの紀行も、山行であると同時に。時には星行出会って欲しい
  これは独り天文ファンのみからの註文ではないと思う
  かつ登山家自身が星を知ることによって登山の楽しみを加え得ることは
  おそらく予想以上だろう

 今年は夏休みで八ヶ岳に行く予定ですが、星座早見盤でも持っていきましょうかね。最近はスマホのアプリもあるみたいなんで荷物にもならなさそうだし。むしろ星観る前に酔っぱらって寝てしまわんようにしなくっちゃ!

《脚注》
(*1)死兆星
 北斗七星の脇に輝く小さな星”死兆星”が見えると死ぬという。”北斗の拳(武論尊、原哲夫、集英社)”でのフィクションだとばっかり思ってたらホントに”アルコル”というのがあって、”見えると死ぬ”、”見えないと死ぬ”という伝説が各地にあるんだとか。へぇ~~
(*2)山上たつひこと山止たつひこを混同する
 ”山上たつひこ”は”がきデカ”、”喜劇新思想大系”などで一斉を風靡した漫画家。”山止たつひこ”は”こちら葛飾区亀有公園前派出所”の作者”秋本治”のこち亀連載開始当時のペンネーム。実際に100話まではこのペンネームだったとか。まあ、40年以上前の話ですけど。
(*3)富士総合火力演習
 東富士演習場で行われる陸上自衛隊の演習の一つ。実弾をぶっ放す戦車が走りまわり、戦闘ヘリが飛び回りとその手の好きモン垂涎のイベント。一般公開はされているものの競争率が28倍(2016年度 陸上自衛隊hpより)となかなかのプラチナチケットです、はい。
(*4)行ったことないけど
 隣駅の駒沢大学駅は先日行きましたので、一応。東急田園都市線の桜新町駅は渋谷から4駅目、距離にして6キロ程度に位置します。

このお嬢様、変人の探偵というより、マッドサイエンティストの系譜かな(櫻子さんの足下には死体が埋まっている/蝶形骨)

 ども、骨折り損のくたびれ儲けな人生を送るおぢさん、たいちろ~です。
 さて問題です。  

誰もがみんな持っていて、食器にもネックレスにも武器にもなるもの、な~んだ? 

 答えは”骨”。いやマジで。”食器”というのは頭蓋骨を加工して盃にする”髑髏杯”というもの。織田信長が使ったのは有名ですが、最近読んだのだと”光圀伝(*1)”にも出てたな~。同じく頭蓋骨を”ネックレス”にしたのは沙悟浄。作品や場面にもよりますが9ケの骸骨をネックレスにしています。”武器”にしたのは”2001年宇宙の旅(*2)”より。人類の祖先のヒトザルが謎の物体”モノリス”に接触することで知恵を得て、動物の骨を武器に敵対する群れを攻撃するってシーン(THE DAWN OF MAN 人類の夜明け)から映画は始まります(シーンを観たい方はこちらから

 ことほど左様にけっこう使い勝手のある”骨”ですが、一般的にはあまり愛される存在ではなさそうです。ここにそんな”骨”を偏愛する美女がいたら?
 ということで、今回ご紹介するのはそんな骨愛ずる姫君を主人公にした本”櫻子さんの足下には死体が埋まっている”であります。

写真はたいちろ~さんの撮影
小樽の北一ヴェネチア美術館にあった”仮面”です

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【本】櫻子さんの足下には死体が埋まっている(太田紫織、角川文庫)
【本】櫻子さんの足下には死体が埋まっている
   (原作 太田紫織、作画 水口十、角川コミック・エース)
【DVD】櫻子さんの足下には死体が埋まっている
   (原作 太田紫織、CV 伊藤静、監督 加藤誠、KADOKAWA)
 その笑顔は太陽のように、花のように輝くように綺麗で、無邪気で可愛い。眼力のある美人でスタイルもいいお嬢様。そんな彼女が大好きなものは”骨”。あらゆる生き物の”骨に恋焦がれ、耽溺している。彼女の名前は”九条櫻子。そんな彼女の我儘振り回される”僕”は平凡な高校生”館脇正太郎”。二人の訪れるところにはなぜか事件が・・
【動物】蝶形骨
 目から鼻のあたりにある骨。形が蝶の羽を広げている形に似ているのでこの名前がついたそうです。上記の写真のように仮面舞踏会に出てくる蝶の形をした目隠し(マスク)をイメージしてもらえると近いかも。これを美しいと感じるか不気味と感じるかは意見の分かれそうなところです。恐いもの見たさで正確な形を見たければWikipediaでどうぞ。


 さてこのシリーズ、前から気にはなってたんだよな~ 表紙は黒髪ロングのクール&ビューティなお嬢様だし(すいません、ドストライクなんです)。アニメ化もされたみたいだし、でも手を出したらはまっちゃいそうだし。で、たまたま図書館で見つけちゃいまして1冊目を読んだら、ダメでしたね~~ DVD6巻まとめてイッキに見ちゃったし、原作は立て続けに3巻まで読んでるし、コミックも買っちゃったし・・・

 お話はというと裏表紙の”最強キャラ×ライトミステリ!”とあるように推理系ライトノベルかな。事件そのものは”ライト”でもないけど。主人公は優秀だけど残念な性格のお姉さんとそれに振り回される弟キャラってところ。姉萌えですか? 出色なのはやはり主人公の”櫻子さん”。すごい美人で、古いお屋敷に住むお嬢様で、法医学の知識も豊富で、並はずれた推理力を持っていると書くと完璧超人のようですが、性格的にはかなり残念な人。”骨”を愛するあまり、拾った頭蓋骨を持って帰ると言いだすわ、見つけた死体をたまに見にきたいから警察に黙っとこうといってすねだすわ。保護者役の正太郎少年から”それは犯罪です!(*3)”と言われ”いいじゃないか、黙っていればきっとバレやしない”と言いだす始末。まあ、性格もそうですが、櫻子さんの行くところなぜか死体と出会うはめに 

  私の足下には、いつだって死体が転がっているんだよ

と自覚はあるもよう。まるで行く先々で殺人事件が起るどこぞの小学生のような・・・

 櫻子さんが偏愛する”骨”ですが、なぜ一般の人から愛されないかというとやはり”死”を連想させるからでしょうか。普通の人なら本物の骨って”納骨”の時ぐらいしか見ることないし、子供時代にギャートルズを見てた世代だと死神ってホネホネだし(*4)。
 でも、いったん”死”というイメージをはずして”骨”を見ると意外と美しいモノかもしれません。作中で櫻子さんがカレイの骨格標本をして

  どうだ? 非常に美しいだろう?
  平べったくて滑稽な外見からは、想像つかない繊細さだとは思わないかね?

こんな目で見てカレイの煮つけを食べたこたないですが、確かに骨って美しいフォルムをしてますね。”鎖骨美人”って言葉もあるぐらいだし。
 本書には”蝶形骨”をコレクションするために犯罪を教唆するおっさんてのが出てきますが、ここまでくるとかなりビミョ~。確かに蝶の形には似てるんですが実物見せられたらちょっと引きそうだなぁ まあ、他の骨でも引きそうだけどね

 このお嬢様、変人の探偵というより、マッドサイエンティストの系譜かな。私が見ると一般人より膨大な知識はあるけど、死などの感情に対する常識がないとか、自分の”骨”に対する偏愛が全ての価値判断に優先するとか。このあたりって、科学的興味だけで危ない実験とか平気でやっちゃったりする由緒正しき?マッドサイエンティストって感じがすんですけどね~ まあ、面白いシリーズですんで、ぜひ読んでみてください。
 とりあえず3巻目まで読みましたが、9巻目が出たとこなんでもうちっと楽しめそうです。ということで、残り6巻も骨骨(コツコツ)読んでいきます
 つまらん落ちですいません・・・


《脚注》
(*1)光圀伝(冲方丁、角川書店)
 ”光圀伝”ではのっけからこのエピソード。徳川光圀といえば好々爺の”水戸黄門様”であらせられますが、本書ではガチムチの肉体派のイメージ。まあ黄門様って実態と虚像がかなりかけ離れた人ではありますが、ここまで違うとはなぁ
(*2)2001年宇宙の旅(監督 スタンリー・キューブリック、ワーナー・ホーム・ビデオ)
 言わずと知れた不朽の名作SF映画。1968年公開とかれこれ半世紀前の映画ですが、今だに古さをまったく感じさせないのはさすが。ぜひご一見のほどを。
(*3)それは犯罪です!
 調べてみたんですが
 ・遺骨、遺髪、または棺内に蔵置した物を損壊、遺棄または領得した者は、
  三年以下の懲役に処する
(刑法第190条 礼拝所及び墳墓に関する罪)
 ・自己の占有する場所内に死体があることを知りながら公務員(警察官等)に
  速やかに通報せず放置していた場合は、軽犯罪法違反

だそうです(wikipediaより)
(*4)子供時代にギャートルズを見てた世代だと~
 園山俊二原作のアニメ”はじめ人間ギャートルズ”に登場する死神は骨の馬に乗って骨の槍をもってます。調べてみると実は”神様の使い”だそうです。まあ死に”神”ですから

窓際に居場所があったのって、中高年のおぢさんにはまだましな時代だったんかも(窓際のスパイ/遅い馬)

 ども、会社でも窓際のおぢさん、たいちろ~です。
 これでも一応会社では幹部社員(中間管理職)をやっっておりましたが、規定の年齢になりましたんですでに離任をしております。本来でしたら後進に道を譲ってのんびりさせてもらえっかな~と甘いことを考えておりましたが、やることは変わらんわ給料は下がるわとホントに甘かったな~~
 まあ、人生年をとって引退するとかリストラ喰らうとか閑職に追いやられるとかいろいろありますが、その姿って職業や組織によってまあ様々。
 ということで、今回ご紹介するのは閑職に追いやられた”スパイ”のお話”窓際のスパイ”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。
北海道、苫小牧市にある”ノーザンホースパーク”の馬車です

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【本】窓際のスパイ(ミック・ヘロン、ハヤカワ文庫NV)
 英国情報部(保安局)の窓際の部署”泥沼の家(Slough House)”に集められた”遅い馬(Slow Horse)”達。訓練中にドジを踏んだ若き諜報部員”リヴァー・カートライト”もその一人。くだらない任務を与えられた彼だが、その任務はやがて保安局を揺るがしかねないミッションに変貌する。一発逆転を狙う”泥沼の家”のメンバーがとった行動とは・・・
 原題は”窓際のスパイ”とはまったく関係のない”Slow Horse(遅い馬)
【動物】遅い馬
 馬というとどうしても”サラブレッド”をイメージしちゃいますが、農耕や重量物の運搬のために改良された”重種”という品種というのもあります。写真の馬車を引いている”クライスディール種”がこれに当たるそうです。昔は重装備の騎士を乗せたり”ばんえい競馬 (*1)”で使われているのがこの種類。ですんで必ずしも”遅い”わけではないんでしょうが、サラブレットよりは遅そうなイメージです。


 話はいきなり飛びますが、冷戦終結以降”スパイ”ってのはなかなか辛い立場に置かれている話ってのが出てきます。最近だと”007 スペクター(*2)”でも時代遅れの00セクションを解体するって話が出てくるぐらいし。
 この手の話で思い出されるのは”フレデリック フォーサイス”の”マクレディ・シリーズ(*3)”。イギリス情報機関で優秀なエージェント”サム・マクレディ”が冷戦終結に伴い閑職に追いやられることになるなり、これに対抗して聴聞会を開き過去を振り返る・・・みたいな話。出版が1991年とソビエト連邦が消滅した年。当時読んだ時にはそれはそれなりに寂寥感のあるリアリティがありましたねぇ・・・

 さて、”窓際のスパイ”ですが、主人公のリヴァー・カートライトは昇級試験として与えられたミッションでキングス・クロス駅(*4)を大混乱に陥れるというドジをふんで泥沼の家送りになった人。言ってみりゃ入社早々、研修完了の試験で会社に大損害を与えて将来を閉ざされた若者って感じでしょうか。
 その他にも、機密扱いの磁気ディスクを置き忘れたミン・ハーバーとか、酒びたりになってリハビリ施設に収容されていたキャサリン・スタンディッシュとか、コンピュータオタクで性格悪しのローデリックミン・ホーとか、まあ、閑職に回されてもしょうがないな~って人や、なんでここに送られたんかわからん人までさまざま。まあ、一様に今の仕事に満足してないのは確かですが。

 ここまで書いてて思ったんですが、”じゃあなぜこの人達はクビにならないんだろう?”ってこと。まあよくよく考えてみりゃ国家機密レベルの汚れ仕事をやってた面々を簡単にクビにしちゃったら今だったらネットに何書き出すかわかんないリスクもあるし、本人だって履歴書に”スパイやってました”とは書けないだろうし(スパイの再就職先ってどんなんあんだろう?) で、妥協の産物ってのが泥沼の家ってことでしょうか?

 本書の中で秀逸なのが泥沼の家のリーダー”ジャクソン・ラム”。この人が泥沼の家に来た経緯は書いてないんですが、なかなかに喰えないおっさん。腹が出てるわよれよれのレインコート(刑事コロンボか?!)、仕事はせんわ口は悪いわと良い上司とは言えんわな~~ でも昔はかなりブイブイ言わしてた人みたいです。物語後半では状況を正確に把握して上司である保安局のナンバー2のダヴァナーを追い詰める手腕なんかはなかなかのモノ。落ちこぼれ集団が意外な実力を発揮してサラブレッド集団のエリート達をやりこめるって、ストーリーはスパイ小説というよりサラリーマン小説として読んだ方が面白いかも(半沢直樹か!)

 本書って”窓際のスパイ”という表題が気になって読んだんですが、邦題としては秀逸でしょうね。原題の”Slow Horse(遅い馬)”だったら読んでないかも。
 ”窓際族”ってのは調べてみると1970年代後半に出てきた言葉のようで、終身雇用制の時代に一見すると管理職席のような窓際に実際は厄介払いされてるということだとか。成果主義だリストラだとせちがない昨今、窓際に居場所があったのって中高年のおぢさんにはまだましな時代だったのかもしれません。
 ”働いたら負け”的発想の今の若者にとって、大した働きもせずに給料の貰える”窓際”が勝ち組に見えるという意見もあるようですが、そんなに甘かね~ぞ~ たぶん遅い馬だって馬車ぐらい引かなきゃメシだって出てこないんだろうしな~~


《脚注》
(*1)ばんえい競馬
 競走馬がそりをひきながら力や速さなどを争う競馬。公営競馬としては北海道帯広市が主催する”ばんえい十勝”が唯一という世界的にみても珍しいものなんだそうです。
 hpはこちらからどうぞ
(*2)007 スペクター
 (主演 ダニエル・クレイグ、監督 サム・メンデス、20世紀フォック)
 ”007シリーズ”第24作目の老舗のスパイ映画
 第一作の”ドクター・ノオ”が1962年とアメリカとソ連が一触即発だった”キューバ危機(1962年)”の時代ソ連のゴルバチョフとアメリカのジョージ(パパ)ブッシュが冷戦の終結を宣言した1989年に公開されたのが16作目の”消されたライセンス”。時代とともに敵の組織も変わっていきますが、スパイ組織そのものが無用の長物扱いされてくってのも時代なんでしょうか
 そういや”007 スカイフォール”では兵器開発担当者で若造の”Q”が、ネットを重視して昔のスパイ道具を”古い”の一言で片づけてるのも時代なんですかねぇ・・・
(*3)マクレディ・シリーズ(フレデリック・フォーサイス、角川文庫)
 ”騙し屋”、”売国奴の持参金”、”戦争の犠牲者”、”カリブの失楽園”の4部作。現在は全て絶版の様子。フォーサイスと言えば”ジャッカルの日”とか”オデッサ・ファイル”とか”戦争の犬たち”とかけっこうブームだったんですがねぇ。ご興味のある方は図書館ででも探してみてください。
(*4)キングス・クロス駅
 読んでないんですが、ハリー・ポッターシリーズではホグワーツ特急の始発駅です。
年間乗降客数約24.6百万人と、JRだけでカウントするとだいたい新橋、大宮、秋葉原と同じぐらいです。このクラスの駅で大混乱を引きおこしゃ、そりゃ閑職にも回されるわなぁ

”位牌なんてただの板きれです。神も仏も、幽霊も祟りも、何もかも嘘っぱち”ですという人向けの推理小説です(陰摩羅鬼の瑕/鶴)

 ども、死体ではないですが、人生死に体(*1)なおぢさん、たいちろ~です。
 まだ20代の頃にネパールのカトマンズに行ったことがあります。パシュパティナートというヒンドゥー教の寺院があるんですが、そこは火葬場になっていて台の上で死体を荼毘に付すんですな。私が見た時には火葬はしてませんでしたが、まだ煙が残ってる状況。残った灰はそのままバグマティ川(聖なるガンジス河の支流)に流します。火葬が外から見えるってのも驚きでしたが、さらに驚いたのはその灰を流してるすぐ横の河ん中で沐浴をしてるんですな。日本人の感覚とはかなりかけ離れてはいるんですが、”死”と”死体”に対する宗教感ってさまざまだな~と思った記憶があります。
 ということで、今回ご紹介するのはある殺人事件に関する”死”と”死体”の大いなる齟齬の話、百鬼夜行シリーズの第8作”陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず)”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。日比谷公園雲形池にある”鶴の噴水”
黒い鶴ってこんな感じでしょうかね。

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【本】陰摩羅鬼の瑕(京極夏彦、講談社ノベルズ)
 巨大な屋敷””鳥の館”を受け継ぐ伯爵”由良昂允(ゆらこういん)”は過去に4度、新婚初夜に花嫁を殺されていた。5人目の花嫁との婚姻にあたり、探偵”榎木津礼二郎”に護衛を依頼する。旅先で一時的な失明状態になった彼を補佐するため小説家”関口巽”もまた鳥の館を訪れる。
 はたしてふたりは花嫁を守れるのか? ”京極堂”こと中禅寺秋彦が語る事件の真相とは・・・
【動物】鶴
 ツル目・ツル科の鳥の総称。なんとなく霊鳥とか吉兆瑞祥ってイメージから純白ってイメージがありますが、黒い羽根も混じってます。逆に”黒鶴”というのもありますが、真っ黒じゃなくって灰色みたい。
 小説の題になっている”陰摩羅鬼”は”そのかたち鶴の如くして、色くろく”とありますが、イラストに使われている古今画圖續百鬼之中の図だと鶴には見えんなぁ。色が黒でもあのフォルムは美しいと思うんですが・・・


 本書でポイントになっているのが”死とはどういう状態”のことかってのが意外とはっきりしないってのがあります。動かなくなったら死んでるのかというとそんなに簡単じゃないし、心臓が止まったからといってその時点で細胞がすべて死滅しているわけでもないし。逆に脳が活動をとめても心臓は動いている”脳死状態”ってのもあるし、最近の新聞だと”心肺停止状態(*2)”なんて記事もあるし。物理学の世界では”シュレーディンガーの猫”みたく”生きていながら死んでいる”というわけのわからん話もあるし・・
 理屈をつければつけるほど”死”ってなに、”生命”ってなにってことになりますが、突っ込んでくと意外に説明ができないんですな、これが。京極堂の説明

  僕達は死に就いて何ひとつ確実には語れないのです。知らないのですから。
  精精魂が肉体から抜けることですなどと、子供騙しの方便しを述べるしか出来ない

   (中略)
  曰く心臓が止まる。曰く意識がなくなる。曰く動かなくなる‐--
  それはいずれも、正確には死ではない
  生命活動が停止するとこと説明したなら-‐-
  生命とは何かと問われてしまいます

そうはいっても、殺人事件は成立するんですが・・・

 百鬼夜行シリーズ”の特徴である膨大な蘊蓄は本書でも健在。今回面白かったのは”葬儀”つまり、死体に対する考え方。一つの考え方として肉体と精神とを分離して考えるというもので京極堂曰く”霊魂と云う発明”。肉体から霊魂が抜けると死ぬと考えると話が簡単で、霊魂も死後も不滅であるとすると安心だから。輪廻転生なんてのはこっち。なんで、死体に魂が戻ってこないんなら死体を取っといてもしょがないんで片付ける。上記のカトマンズで見たのはこれでしょうか。

 ところが、日本でややこしいのが仏教的な輪廻転生の文化と、儒教的な魂魄(こんぱく 魂=精神、魄=肉体)の文化がまざっちゃってること。本作中で京極堂が”位牌って何”って話をしてます

  京極堂 :板きれでしょう。字が書いてあるだけだ、それ以外の何でもない
        漆は塗ってあろうと金箔が張ってあろうと板きれは板きれです

        (中略)
  楢木刑事:霊がーー依り付くんじゃないんですか?
  京極堂 :霊なんてないですよ。仏教に於いては死者は六道を輪廻する
        成仏すれば仏になる。何が何処に依り付くんです?

そう言われりゃそうですが、実も蓋もないな~~ だいたい

  神も仏も、幽霊も祟りも、何もかもーーー そんなものは全部嘘です

って、断定してんだものな~~ この人。
まったく、神も仏もないものかってぐらい・・・

 相変わらず分厚い百鬼夜行シリーズですが、本書もノベルズ版で約750ページ。で、実際に事件が起るのは約550ページ目、京極堂が現場に登場するのは660ページ目というスローペース。つまりここまで延々いろんな蘊蓄が繰り返されてるんですな。やっと登場した京極堂がまた事件の解決にかこつけた蘊蓄話。でも、この手の話が好きな人にはとっても面白いシリーズです。敬虔な仏教徒には向かないかもしれませんが・・


《脚注》
(*1)死に体
 英語だと”lame duck(レイムダック)”。足の不自由なアヒルという意味で、こっちも鳥つながりでした
(*2)心肺停止状態
 心臓と肺が両方とも機能を失っているのが”心肺停止”。救命措置などで心肺機能が甦る可能性はまだ残っているので”死”ではないんだとか。法律的に医師が死亡宣告を出すまでは”心肺停止状態”という表現が用いられるそうです。

少子・高齢化への対応は”撤退戦”であり、どこに”防衛線”を設定するかが重要です(地方消滅/七人の侍/ブラックホール)

 ども、毎年本部方針を策定しているおぢさん、たいちろ~です(これは本当)。
 この手のモンはお決まりのフォマーットてものがありまして、だいたいは

   環境分析 ⇒ SWOT分析(*1) ⇒ 基本戦略の決定 ⇒ 具体的な施策

という手順でやります。
 で、この”環境分析”の中に出てくるお約束のワードに”少子・高齢化”ってのがあります。生産年齢人口(*2)が減る、将来の生産年齢人口=子供が減る、非生産的で介護が必要な高齢者が増えることにより社会構造が急速に変化するぞ、だからそんな社会で成長を続けるにはどんな戦略が必要かなんつ~議論をやるわけです。そんなことやってる時に”消滅可能性都市が896自治体”なんていうニュースがでました。で、これは読んでみねばなるまい、ということで、今回ご紹介するのはこのレポートを作成した日本創成会議座長、増田寛也編集による”地方消滅”であります。


写真はブラックホールの概念図。すばる天文台のHPより。

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【本】地方消滅(増田寛也、中公新書)
 このまま推移すると急激な人口減少に遭遇すると”消滅可能性都市”は896自治体、49.8%に及ぶ、といういう日本創成会議のによるレポートをわかりやすくまとめた本。サブタイトルが”東京一極集中が招く人口急減”とあるように、出生率の問題だけでなく都市/地方の格差問題なんかも取り上げています
 発表当時はかなりセンセーショナルに報道されましたが、みんな薄々感じてたことを名指しであからさまにダメ出しくらってちょちょまっているってのが本当のとこじゃないでしょうか?
【DVD】七人の侍(監督 黒澤明、主演 志村喬、三船敏郎、東宝)
 戦国時代、盗賊と化した野武士に襲われた村はある決断をする。”侍を雇って野武士を退治する”と。そして初老の浪人”島田勘兵衛(志村喬)”、山犬のような男”菊千代(三船敏郎)”ら七人の侍が村を守りるために集まった・・・
 今なお絶大な人気を誇る黒澤明監督による日本映画の金字塔。
【自然】ブラックホール
 質量の大きな恒星が進化した最晩年の天体の一種。質量の大きな星はその重力により周りのものをすいよせながら星自体が縮小限界が来て一気にはじけ飛んじゃいます(超新星爆発)。そのあとに残るのが中心核が中性子でできている中性子星。
 これよりさらにでかい恒星だと光さえ脱出できない星”ブラックホール”になります。(wikipediaより要約。合ってるかな、これで)


 ”消滅可能性都市”というのは子供を産む”20~39歳の女性人口”を説明変数にして、この人口が50%以下になる自治体で、急激な人口減少に見舞われることになります。非常に話を単純化すると、将来の人口というのは

  将来の総人口=現在人口 + 人口移動 + 出生者数 - 死亡者数
   人口移動=他の自治体から入ってくる人数 - 他の自治体へ出ていく人数
   出生者数=20~39歳の女性人口 × 出生率
   死亡者数=高齢者を中心に死亡する人数

という計算式になります。で地方と東京圏の人口の推移メカニズムというと

〔地方における若年人口の減少〕
 高度経済成長やバブル経済期に地方の若者は都市圏に移動した
 低成長期には地方で若者の雇用状況が悪化し、地方から都市圏へ若者が移動した

〔極点社会と、都市圏における出生率(新生児数)の低下〕
 人口移動に伴い、東京圏への人口増の一極集中(極点社会)が発生した
 若者が集中した都市圏は、非正規雇用の増大に代表される経済的な不安定、親の子育て支援が期待できない、女性の社会進出などなどによる晩婚化、未婚人口の増加(*3)、出生率の低下(東京の出生率は全国最低の1.06)で少子化が進展

〔高齢化率の上昇〕
 若者の減少と高齢者層の増加により総人口における高齢化率上昇。特に東京圏はかつて流入した若者層が高齢化し2040年には388万人の高齢者(高齢者率 35%)が発生する。

〔若年人口減少+高齢者の死亡による総人口の現象〕
 上記の結果により都市、地方でタイムラグがあるものの総人口そのものが減少

ということになります。
 まあ、若者が超重力の星に吸い込まれるように集中して、その星がボン! あとに残るのはさらに周りの物を限りなく吸い込んでしまうブラックホールだけみたいな・・・
 この本を読んであらためてわかったのは生産年齢人口(労働者)だけでなく総人口も急速に減ってくってこと。仮に出生率を上げる施策が成功して2030年に人口を維持するに必要な2.1を実現しても(現在は1.43)、人口減少が9,900万人で安定するのはさらに60年後の2090年になるんだとか。つまり、当面(てか相当長い間)人口はどうしようもなく減り続けるんですな。

 じゃあどうするかというので、ユニークな論だと思ったのは当面(てか相当長い間)は人口減少を前提に対応を”撤退戦”と位置づけ、”防衛・反転線”をどこに設定するかを考えるという点。ぶっちゃけ生産人口は減少するし、経済のポテンシャルを決める総人口は減るんだから成長戦略なんか言ってないで、出生率を上げるとともに、東京への一極集中を回避するための”ダム機能”を有する中核都市にリソースを集中して適度な分散を図ろうってことです(だいぶ丸めて書いてますが)
 まあ、言うは易し行うは難し、総論賛成各論反対になりそうな話ではありますが。”話はわかったが、で、おらの村はどうなんだっけ?!”ってなことになりそうだなぁ

 この話を読んで思い出したのが不朽の名作”七人の侍”です。”リーダーシップ育成セミナー”なんかだと、勘兵衛のリーダーシップがど~のとか七人の侍のチーム力がこ~のだとか出てくるおぢさん大好きなネタのあれです。
 この映画の中であんまし取り上げられない(てか、私はあんまし聞いたことない)ネタにこんなのがあります。野武士が攻めてくる村を防衛するために勘兵衛は川を防衛線として設定、離れ屋までは守りきれないからという理由で橋向うの離れ屋と長老の住む水車小屋を引き払うよう指示する。当然、橋向うに住む茂助は反対するワケです

  茂助 :へっ、ばかばかしくって話にならねえ
      おう、橋向うの者は ここさ来い! みんな、投げれ
      自分の家捨てて人の家守るためにこんな物かつぐこたあねえ!
      来い! おら達はおら達だけで家守るだ!
      (槍を捨てて、自分の家に走り帰ろうとする百姓)
  勘兵衛:待て! この槍をとれ! 列へ戻れ!
      (刀を抜いて、百姓を追う勘兵衛)
  勘兵衛:離れ屋は三つ、部落の家は二十だ
      三軒のために、二十軒を危うくはできん
      また、この部落を踏みにじられて 離れ屋の生きる道はない
      いいか、戦とはそういうものだ 人を守ってこそ自分も守れる
      己のことばかり考える奴は 己をも滅ぼす奴だ!
      今後 そういう奴は・・・

と村人を前に説得(てか、抜き身の刀もって脅しかけてる?)するんです。まあ、全体最適のために一部の民意に逆らって強硬にでも政策を進めるリーダーシップってのはこれぐらいやらないとうまくいかないんでしょうなぁ。今年(2014年)の年末になんの為かわからん総選挙があるようですが、こんだけ気骨のある政策を掲げて立候補する政治家が(以下自主規制)

 どっちにしても、グーローバル化や新規マーケットの拡大とかはあっても当面(てか相当長い間)は高度な成長を期待するのは難しいわけです。だから、相変わらず右肩上がりのビジネス戦略なんて作っちゃいけないんじゃないかなぁ 偉い人は聞いてくれなさそうだけど・・・

 ”地方消滅”は現代日本の抱える問題をわかりやすく説明した本。孫子の代まで祟られないためにもぜひ読んどいた方がいいです。

《脚注》
(*1)SWOT分析
 戦略策定に考慮すべき要因を内部(自分自身による要因)と外部(環境による要因)に分けて、内部”強み(Strengths)”、”弱み(Weaknesses)”、”機会(Opportunities)”、”脅威(Threats)”の4つのカテゴリーで分析するもの。やってみるとわかりますが、”それって、ホントに強みかよ?”とか、”これ、今や弱みじゃね?!”ってのがけっこうあったりなんかします。
(*2)生産年齢人口
 生産活動に従事する年齢の人口のこと。日本では15歳以上65歳未満の人。おいおい、年金もらえず65歳まで働けって織り込み済みかよ!
(*3)晩婚化、未婚人口の増加
 あまり議論されることないんですが、結婚生活に期待するスタートアップコストがかなりあがってるんじゃないかと。私が子供の頃って、家は六畳四畳半長屋、風呂は銭湯、家具はと言えばタンス一竿に水屋にちゃぶ台、これで一家四人で生活してましたが、今のお嬢様方にこっからスタートするってのは根性がいるでしょうなぁ。だいたい安月給の20代の男にトレンディードラマ(死語)のような新婚生活を期待するのは無茶ぶりってモンじゃないかと・・・


人類滅亡テーマのSFに”少子高齢化系”ってのもありでしょうか?(イン・ザ・ヘブン/黄昏)

 

えっと、あとがきです(*1)
 すいません、間違えました。2人の子持ちのおぢさん、たいちろ~です。
 図書館で新井素子の新作をめっけたんで読みました。けっこうこの人の作品ファンなんでだいたい読んでたんですが、この本出てたの知らなくて。なんでも33年ぶりの短編集だとか。読みだすとかつての新井文体そのままでやっぱしいいな~とか思ってましたが、中身は油断してましたね~ なんたって少女同士の会話だと思ってたらなんと80代と50代の女性同士。で、読み進めるとこれって人類滅亡の物語?!
 ということで今回ご紹介するのは、そんな新井素子のファンタジ~っぽいSF小説”イン・ザ・ヘブン”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。黄昏時の富士山。丹沢山系塔ノ岳山頂付近にて

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【本】イン・ザ・ヘブン(新井素子 新潮社)
 余命少ない今日子さんにこう尋ねられた。
  ”ねえ、史子ちゃん、天国ってあると思う?
 答えにこまった私は、天国では自分の好きな歳になれるとか、小さい時に死んだ子供を育てる”天国互助会”があるとか、物故作家による天国図書館(*2)とか、今日子さんを励ますお話をいっぱい考えた。
 やがて今日子さんの心臓の鼓動が止まる時、若き日の旦那さん”ノリさん”が現れ・・・
(イン・ザ・ヘブン)
【自然】黄昏(たそがれ)
 夕方。wikipediaでは”日没直後の雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯”だそうです。このイメージから”盛りを過ぎて終わりに近づこうとする”の比喩に。”神々の黄昏(*3)”なんかです。


 さて、SFファンにとって、人類滅亡テーマってのはメインストリームのネタです。これを滅亡する原因別に分類すると、

〔宇宙人が攻めてくる系〕
 別名、”侵略モノ”。それこそ”宇宙戦争”から始まって”宇宙戦艦ヤマト”だの”宇宙の戦士”だの”エンダーのゲーム”だの作品てんこもり。このジャンルでの最大の謎は近場の火星人ならいざしらず、なんでわざわざ14万8千光年の遥かかなたから攻めてこにゃならんのだ?

〔訳のわからんモノが攻めてくる系〕
 代表例が”新世紀エヴァンゲリオン”。使徒という訳のわからん生物?が攻めてきて、ジオフロントにいるリリスと接触するとサードインパクトが起きるという設定。まあ起爆装置みたいなもんでしょうか?

〔隕石が落ちてくる系〕
 ”ディープ・インパクト”(馬の名前じゃありません)や”アルマゲドン”など。なぜだかこの2本の映画は同じ1998年に公開されましたが、この年何かあったっけ? まあ、”ノストラダムスの大予言(*4)”の前の年ではありましたが・・・

〔コンピューターの反乱系〕
 コンピューターが自我をもってじゃまな人類を排除するってモノ。”ターミネーター”なんかがこれ。フランケンシュタイン・コンプレックス(*5)の代表例です。

〔パンデミック系〕
 致死率が高い病気が流行して人類が滅亡しかけるというもの。最近だと”天冥の標”とか。咬まれると伝染するという意味では、ゾンビ映画の”ワールド・ウォーZ”も広義ではこのジャンルかな?

〔核兵器系〕
 いわゆる核ミサイルが飛びまわって地球が滅亡するもの。確信的に発射ボタンを押すってより、きっかけは精神に異常をきたした指揮官の命令だった”博士の異常な愛情”とか、コンピューターがかってに戦争始めちゃった”火の鳥 未来編”だったり。
 だいたい戦争なんて相手の国のリソース(地下資源、農工業生産物、人、土地)を利用したいわけであって、人も住めないような土地を占領したってしょうがないワケで・・

 まあ、書き出すときりがないですがここにきてちょっと気になるのが”少子高齢化系”としか言いようのないのがでてきてること。(ここからが本題です。前置き長くてすいません)

 今回ご紹介の”イン・ザ・ヘブン”で描かれているのは超少子化、つまり出生率が急激に下がって=社会全体として子供が生まれなくなって、最後にはきわめて少数のお年寄りしかいなくなった世界。本書に掲載されている”つつがなきよう”も同様で人口が飽和してしまい衰退に至る世界です。
 ”少子高齢化系”の特徴って、明確な敵(宇宙人とか)や脅威(核兵器とか隕石とか)が不在で、長期的かつゆるやかに進行するとこ。少子高齢化の議論って、原因が経済的な理由(給料が安くて家庭が持てない)とか、社会的な風潮とか(結婚するより自由な独身)とか、子育て環境が弱い(待機児童が多い)とかいろいろ複雑に絡み合ってってしかも決定打がないような、連帯責任のノリだとか。それに今日明日ど~のこ~のという話ではなく何十年、百年単位の話なんで、なんとなくなっちゃったな~的なノリもあるし。

 それだけにこの系ってみょ~に達観したような明るさがありそうな気がします(いや、見方によっては悲劇的ではあるんですけど)。上記の”宇宙人が攻めてくる系”だの”隕石が落ちてくる系”ってのはそれを阻止するのに(あるいは滅亡の危機から立ち上がるのに)がんばるぞ!的なドラマがあるわけですが、”少子高齢化系”って”いろいろやってみたけどダメでした”みないにさらっと流れちゃってるような気がします。
 それだけに、責任者出て来い!みたいなノリじゃなくて、”長い間でこ~なっちゃったから、まっ、しょうがないか”みたいな空気かな。最近だと”人類は衰退しました”みたく、新人類”妖精さん”に”あとはよろしくね”って感じでとけっこう仲良く暮らしてく感じ。まあ、今更じたばたしたってしょうがないし、人類より優秀な種があればいいんじゃねってのはあんましなかったノリですね。

 SFってジャンルも社会から独立して存在してる訳ではないので、世相(冷戦、核戦争の脅威、世界的な疫病の流行、テクノロジーへの不信感うんぬん)を繁栄してはやりすたりはありそうです。そういった観点で見ると”少子高齢化系”ってのは今風なのかなぁ
 新井素子がこの系の名作”チグリスとユーフラテス(*6)”を書いたのは1996~98年。書籍になった1999年ってのは”少子化対策推進基本方針”だとか”新エンゼルプラン”なんかが策定された年。つまり、国家レベルでさすがにヤバイからなんかせんといかんと動き出した頃。まあ、十数年以上前の話ですからテーマとしてはなかったわけではないんですが、当時と切迫感が違うというかあんまし効果上がってないんじゃね? ってとこでしょうか・・・

 ”イン・ザ・ヘブン”はSFファンでなくても面白い本ですが、こんなことうだうだ考えちゃうってのは古いSFファンの性なんでしょうかねぇ。 ああ、これって”せい”じゃなくて”さが”ですから。


・宇宙戦争:H・G・ウェルズ 創元SF文庫
・宇宙戦艦ヤマト:西崎義展、松本零士 バンダイビジュアル
・宇宙の戦士:ロバート・A・ハインライン ハヤカワ文庫
・エンダーのゲーム:オースン・スコット・カード ハヤカワ文庫
・新世紀エヴァンゲリオン:庵野秀明、GAINAX キングレコード
・ディープ・インパクト:ロバート・デュヴァル、ミミ・レダー パラマウント
・アルマゲドン:ブルース・ウィリス、マイケル・ベイ ブエナ・ビスタ
・ターミネーター:アーノルド・シュワルツェネッガー、ジェームズ・キャメロン
         20世紀フォックス
・天冥の標:小川一水 ハヤカワ文庫
・ワールド・ウォーZ:ブラッド・ピット、マーク・フォースター 角川書店
・博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
     :ピーター・セラーズ、スタンリー・キューブリック ソニー・ピクチャーズ
・火の鳥 未来編:手塚治虫 小学館他
・人類は衰退しました:田中ロミオ ガガガ文庫


《脚注》
(*1)えっと、あとがきです
 初期の新井素子の本にでてくるあとがきの書き出し。現在は”あとがきであります”。往年のSFファンならこれ読んだだけで”新井素子だ!”とわかる有名なフレーズです
けっこう、このあとがき読みたくて新井素子の本読んだんだよな~
(*2)物故作家による天国図書館
 シェイクスピアや紫式部ら物故作家による新刊が納められてる図書館。読んでみて~
そういえば落語のネタに天国の寄席には名人上手が多数出演! ってのがあって、その看板を見た天国の新参者が”○○って、まだ生きてまっせ?”って質問に”横に書いてあるやろ、近日来演予定って”というブラックなのが。けっこう好きな笑いです。
(*3)神々の黄昏
 リヒャルト・ワーグナーの楽劇”ニーベルングの指環”四部作の四作目。ワーグナー好きでレーザーディスク買ったんだけどまだ見てないな~~ プレーヤー、まだ動くかな?
(*4)ノストラダムスの大予言
 ”1999年7の月、空から恐怖の大王が来るだろう”で有名な予言書。
五島勉が”ノストラダムスの大予言”(祥伝社)を執筆したのは意外と早く1973年。そのころはまだ先のことと思ってましたが、98~99年頃はマジなネタで盛り上がってましたな~~
(*5)フランケンシュタイン・コンプレックス
 神にかわってロボットや知性を創造するあこがれと、それに反乱を起こされるんじゃないかという不安がまじった感情のこと。命名はロボットSFの大家”アイザック・アシモフ”で、これへのアンチテーゼが有名な”ロボット工学三原則”だそうです。
(*6)チグリスとユーフラテス
 惑星ナインに移住した人類は原因不明の人口減少をたどる。最後に生き残った子供”ルナ”は話相手を求めてコールドスリープ装置で眠る人を次々に起こしていく・・
 1999年日本SF大賞受賞の名作

カエル男、こんなゆるキャラは嫌だ!(連続殺人鬼 カエル男/蛙)

 ども、カエルのゆるキャラと聞かれたら”ケロヨン”(*1)と答えちゃうおぢさん、たいちろ~です。
 世の中、ゆるキャラブームです。まあ、動物系の”くまモン”や”ぐんまちゃん”、鳥系の”バリィさん”、植物系の”ふなっしー”、人間系の”ちっちゃいおっさん”となんでもあり~の状態ですが、立場がビミョ~なのが両生類系。カエルなんて”けろけろけろっぴ(サンリオ)”やコルゲンコーワの”ケロちゃん”や”ケロロ軍曹”なんてメジャー所がそろっているのに意外といないんですな(*2) 。
 だからってこんなゆるキャラはできればご勘弁を、ということで今回ご紹介するのは、”きょう、かえるをつかまえたよ”という犯行声明を残す連続殺人事件の本”連続殺人鬼 カエル男”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。水戸にある別雷皇太神の”六福六蛙”です。

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【本】連続殺人鬼 カエル男(中山七里、宝島社文庫)
 口にフックをかけられ全裸で吊るされた死体。これが飯能市連続殺人事件の始まりだった。”きょう、かえるをつかまえたよ”という幼児性を持った犯人はマスコミから”カエル男”と名付けられた。埼玉県警捜査一課の渡瀬警部と若手刑事の古手川は捜査に従事するが犯人の手掛かりは杳として知れず、警察への不信はつのる一方だった・・・
【動物】蛙(カエル)
 三角形の頭に上に飛び出た目、丸っこい胴体に、分類だと無尾目とあるようにシッポがない生き物。デフォルメされたキャラはかわいいですが、リアルでかわいいかはちょっと微妙
 名前の連想からか縁起物になっていて、上記の六福は交通安全(無事かえる)、金運上昇(金かえる)、不老長寿(若がえる)、学業成就(良く考える、無病息災(体がもとにかえる)、出世開運(卵→オタマジャクシ→蛙)だそうです。


 最近は知りませんが、おぢさん世代では学校の授業で”カエルの解剖”ってのがありました。まあ、大き目のカエルに麻酔をかけてメスでお腹を開くだとか、脚に電気を流すとピッっと伸びるだとか、今考えるとけっこうグロいことやってたんですな。どうもカエルって昔はありふれた生き物だったんで、男の子にとっては被虐の対象だったようで。やれ、お尻の穴からストローつっこんでふくらますだとか、爆竹突っ込んで爆死させる(*3)だとか、板に挟んで潰しちゃうだとか、紐で吊るしてザリガニ釣りのエサにするだとか、こ手のネタには事欠きませんでしたね。決して褒められた行為ではないですが・・・

 で、これを人間相手にやりゃ立派な犯罪ですが(カエルだって動物虐待です)、これが本書に出てくる”連続殺人鬼 カエル男”。ネタバレになりますがフックで吊るす、プレス機で自動車ごと潰す、解剖して臓器を並べる、火で焼くとまあ、やりたい放題。しかも子供の日記のような犯行声明が残されてるんだから、ほとんどサイコな世界です。

 ここでサイコホラーに行くのかなと思っていると、これがパニック映画のノリに。
渡瀬警部と若手刑事の古手川刑事の会話

 渡瀬 :人が人を殺める理由は数々あるが煎じ詰めれば三つしかない
     愛憎、カネ、そして狂気だ
     このうち愛憎とかねは絞り込みが楽だ。そいつが死んで笑う奴を探せば良い
     だが狂気の場合、こいつは厄介だ。容疑者の絞り込みができん

      (中略)
     異常者全てに動機があるようなものだからな
 古手川:でも、そうやって苦労して犯人捕まえたって
     相手が狂ってたら三十九条(*4)で結局無罪になっちまうんでしょ?

 まあ、愛憎やカネによる犯罪ってのはある意味合理的というか”なんでやねん?”というのが一般人にも理解できんことはないわけですが、”狂気”っていうのは理解できないノリなわけで、”ワケのわからんものには恐怖を感じる”って心理はあるわけです。そのくせ、目撃者もいないような周到さがあったり、ミョ~な規則性があったりなんかすると被害者予備軍はもうパニック状態。で、”ヤラレル前にヤレ! 犯人予備軍は誰だ?”ってことになって普段は善良な(はずの)一般市民がリスト持ってそうなトコに押し掛け狼藉の限るなんて言う狂気の再生産ループに入っちゃうわけです。
 確かに最近は”人を殺して、自分も死刑になりたかった”だの”誰でもよかった”など訳のわからん供述をする犯人がいるからな~ しかも、この手の犯罪はおおむねヤラレ損になる可能性が高いわけで(まあ、どの犯罪もヤラレ損ではありますが)、犯人の罪にすら問えないってのは被害者感情としてはわからんでもないですが・・・

 この予備軍ってのがまた曲者で、正気と狂気の間に明確な区別があるのかとか、狂気は完治できるのかだとか、京極堂なら延々と能書き喋りそうな内容(*5)。話がそっちに行くのかな~と思ってたら、落ちはマジな推理小説に。へぇ~~

 中山七里という作家は2009年に”さよならドビュッシー(宝島社文庫)”で”このミステリーがすごい!大賞”を受賞した人ですが、この時に最終ノミネートに残ったのが”連続殺人鬼カエル男(原題は”災厄の季節”)”。最終選考で同じ作者の作品がダブルノミネートされたのは初めてだそうですが、甲乙つけがたいとの評価だったとか。結局、商業的により広い読者が見込まれると理由で”さよならドビュッシー”の受賞が決まったそうですが、両方読みましたが確かに両方とも面白い。この2作がほとんどデビューしたての新人の作品だっていうんだから、確かに才能のある人なんでしょうね。私なんかきっちりハマってるし!

 あらすじだけ読むとホラー系苦手な人に向かなさそうですが、中身はけっこう本格推理系です。ぜひご一読のほどを


《脚注》
(*1)ケロヨン
 1966年から70年に放映された”木馬座アワー”の中の”カエルのぼうけん”に登場するカエルのキャラクター。ご年配の方には懐かしい名前かと(こんなキャラです)。
Photo_2
 影絵作家”藤城清治”のプロデュースという由緒あるキャラですが、今回調べて原作(ケネス・グレアム ”たのしい川べ”)があるって初めて知りました。
(*2)意外といないんですな
 ネットで見ると愛媛県の”一平くん”なんてのがいましたが、正直ちょっと不気味。
 ”ぴょこたん”なんつ~カエルになる事を夢見るヒヨコという”お前はいったいどっちなんや!”とツッコミ入れたくなるようなキャラのいましたし・・・
(*3)爆竹突っ込んで爆死させる
 5センチぐらいの長さの紙の細い円筒の中に火薬を詰めて導火線のついたモノ。昔は駄菓子屋なんかで売ってましたが今はどうなんだろう? ネットでは買えるようですが。
 大きな音で驚かすとか、そこそこ破壊力があっていろんなものを壊したりとか、鉄管の中に入れて弾を飛ばすとか使いでのあるアイテムだったんですがねぇ・・
(*4)三十九条
 刑法第39条:1.心神喪失者の行為は、罰しない。
          2.心身耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
(*5)京極堂なら延々と能書き喋りそうな内容
 京極夏彦の”百鬼夜行シリーズ”の探偵役にして憑物落としの”京極堂”こと中禅寺秋彦のこと。この人にこの手の能書きを語らせると、延々何十ページ続きます。
 そういや、本書の市民の暴動も憑物みたいなモンだったな~~

”エースをねらえ!”ってより”ブラックジャック”でしょうか? でもすんごい面白いんだ、これが(さよならドビュッシー/ブラックジャック/月)

 ども、一時はクラシックにはまってた(*1)おぢさん、たいちろ~です。
 会社の人と読書好きな人の呑み会ってのをやってます。まあ、今何を読んでるだの、最近読んだのではこの本が面白かっただのを話題にぐだぐだ酒を呑むという、まあ言ってしまえば”堕落した文芸部”みたいなモンです。
 で、前回に行った時に参加した女性の人から”今、中山七里読んでる”って話がでました。そういや”さよならドビュッシー”とかクラシックがらみで読みたいな~~と思ってたんですがまだ手が出てなかったんで、これを機に読んで見たんですが、面白かったんですな~これが。
 ということで、今回ご紹介するのは”さよならドビュッシー”であります


写真はたいちろ~さんの撮影。サラリーマンの聖地、新橋から見上げた満月です。
まあ、しがないサラリーマンのおぢさんだって、たまには空を見上げてお月見ぐらいはするもんです、はい。

9196015



【本】さよならドビュッシー(中山七里、宝島社文庫)
 ピアニスト志望の”香月遥”は不慮の火事のため従姉妹の”片桐ルシア”と祖父の”香月玄太郎”を喪い、自身も全身大火傷の大怪我を負う。生き残った彼女はピアノコンクールの優勝にめざし不自由な体ながら師匠であるピアニストの岬洋介とレッスンに励む。しかし周囲では彼女を傷つけようとする細工や、母が殺される事件が発生し・・・
 第8回”このミス大賞(*2)”を受賞した岬洋介シリーズの第一作。
【本】ブラック・ジャック(手塚治虫 秋田書店)
 天才的な技術を持ちながら無免許、高額な手術料を要求する孤高の医師”ブラック・ジャック”を主人公とする手塚治虫の代表作の一つ。この人も少年時代に不発弾の事故で母親は死亡、自身も瀕死の重傷を負いで大手術の末奇跡的に助かったという過去の持ち主です。
【自然】
 香月遥がコンクールで演奏するのがドビュッシーの”月の光”ですが、月をモチーフにした曲って結構あります。そういや、30年前に初めてCDを買ったのがベートーヴェンのピアノソナタ”月光”だったっけ(ピアノ演奏はホロヴィッツ)
 ”Blow Up!”(細野不二彦、ビッグコミックス)に出てきたリー・モーガンの”Desert Moonlight(”月の砂漠”のジャズ版)”なんかも聞いてみたいんですが見つかんなくってねぇ。


 大森望による解説では

  ハンディキャップを背負いながらピアノ・コンクール優勝を目指す少女の音楽青春小説
  (中略)
  物語のパターンとしてはいわゆる”スポ根もの”に属する。
  少女漫画で言えば、山本鈴美香『エースをねらえ!(*3)』~(中略)の系列ですね

ってあります。まあ、香月遥が岡ひろみで、岬洋介が宗方コーチだとするとそんな感じかな。お蝶夫人や藤堂さんはいないけど音羽さんはいるし(*4)。
 でも、これ読んだ時に最初に思い出したのはブラックジャックかな~~ けっこう香月遥のリハビリの話が書いてあるんですが、ブラックジャックの子供のころってこんな感じかな。”アリの足(*5)”で、かなりむちゃをやったリハビリのエピソードが出てきますがそれ思い出しちゃいました

 それに香月遥の指がPTSD(心的外傷後ストレス障害 Posttraumatic stress disorder)で動かなくってのが出てきますが、ブラックジャックでも精神的な理由で指が動かなくなるエピソードがあります(*6)。 まあ、香月遥もブラックジャックも、そして魔法使い(*7)こと岬洋介もこういったいろいろな十字架を背負いながら神技のようなテクニックを身につけるっていいな~と思います。


  闇をふりはらえ 立ち上がって戦え

 香月遥が岬洋介の演奏を聴いての言葉。そう、ブラックジャックも香月遥も岬洋介も戦ってるんですね。でもそれってコンサートで勝ち抜くってより、異質なる人に対する悪意に。

  君の言う通り、世界は悪意に満ちている
  現代は不寛容の時代だ。誰もが自分意外の人間を許そうとしない
  咎人には極刑を、穢れた者、五体満足でないものは陰に隠れよ
  周囲に染まらぬ異分子は抹殺せよ。今の日本はきっとそういう国なんだろう

   (中略)
  ただ、神様は一部の人間に粋な計らいをしてくれた。
  怒りを吐露する文章の代わりに音譜を、非情を嘆く声の代わりにメロディーを与えてくれた。

   (中略)
  音楽という素晴らしい武器を与えてくれた。
  そして今、君もその武器を手にしている

 引用がちょっと長くなりましたが、これは理不尽な悪意にさらされる香月遥に岬洋介が諭した言葉。こういうのが出てくるってとこが単なるスポ根じゃなくってブラックジャクウかなぁ。

 とにかく、すんごく面白い小説です。もっと早く読んどきゃよかった。
 でも、最後のどんでん返しでブラックジャックの第1話もってくるか!!(*8)


《脚注》
(*1)一時はクラシックにはまってた
 本を読みながらかけっぱにするというふざけた聴き方です。クラシックファンの方、すいません。
(*2)このミス大賞
 ”このミステリーがすごい! 大賞”の略。創設メンバーが宝島社ってのはわかるんですが、電機メーカーのNECと光ディスクを受託製造会社のメモリーテックが入ってる自体がミステリー。浅倉卓弥の”四日間の奇蹟”や海堂尊の”チーム・バチスタの栄光”、乾緑郎の”完全なる首長竜の日”(映画版は”リアル?完全なる首長竜の日?”)なんて話題作を出してるんですが、読んでないな~。読んでるのは岡崎琢磨の”珈琲店タレーランの事件簿”ぐらい。昨日3巻買ってきたので次に読みましょう!(いずれも宝島社より発刊)
(*3)エースをねらえ!(山本鈴美香、集英社他)
 テニスの強豪校、県立西高テニス部に入部した岡ひろみが、宗方コーチの指導の元いじめや苦難にめげずに一流テニスプレーヤーに成長するという女性版スポ根漫画。連載は1973~75年ですが、このころの少年少女はこの漫画の影響でテニスを始めたモンです(どうもうちの奥様もそうらしい?!)
(*4)お蝶夫人や藤堂さんはいないけど音羽さんはいるし
 ”お蝶夫人”はひろみの先輩でテニスの実力と美貌を誇る正真正銘のお嬢様。そんな高校生はおらんぞ! と突っ込んじゃいそうなスーパーレディ。藤堂さんは生徒会長にしてテニス部副キャプテンというひろみの憧れの人。私も高校時代は生徒会長をやってましたが、月とスッポンぐらい差がありましたね~~
 ひろみにいろいろいじわるする敵役が音羽さん。ある年代のお嬢様方には”音羽さん”というだけでわかるというメジャーな存在です。ちなみに”音羽”というのはエースをねらえ!が連載されていた”週刊マーガレット”の出版社”集英社”のライバルだった”講談社”の所在地です。
(*5)アリの足
 第54話。小児麻痺(ポリオ)に苦しむ少年が、自分と同じように手足の不自由な子供が歩いて旅をしたというブラックジャックを手術した本間丈太郎医師の本に感動を受けて自分も同じコースをたどる旅をするというお話。(秋田文庫版 第1巻に収録)
(*6)精神的な理由で指が動かなくなるエピソードがあります
 治療中の医師の不用意な発言から指が動かなくなるとか(第201話 ”20年目の暗示”秋田文庫版 第15巻に収録)、子供の頃のトラウマから気胸の手術中に痙攣を起こすとか(第71話”けいれん” 秋田文庫版 第11巻に収録)
(*7)魔法使い
 なんで、香月遥は”魔法使いの弟子”ですが、これってデュカスの”魔法使いの弟子”思い出しますね。ディズニーのアニメ”ファンタジア”でミッキーマウスがほうきに水汲みさせて大騒ぎになるので有名な曲です。こういったクラシック好き向けの小ネタがちりばめられてるのもお気に入りです。
(*8)ブラックジャックの第1話もってくるか!!
 ”医者はどこだ!”より。内容なネタバレになるので、ぜひオリジナルを読んでください(秋田文庫版 第1巻に収録)

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