小説

質問:量子コンピューターで神様を作れるでしょうか?(神様のパラドックス/神様風ロボット)

 ども、昭和のSFファンのおぢさん、たいちろ~です。
 一昔前なら”気分はもうSF”だったテクノロジーがかなりリアルになってきたものってけっこうあります。特にコンピューターの世界では顕著で、AI(人工知能)なんかがそう。さすがにフリーでなんでも会話するってのはまだでも、コールセンターなんかでは実用化フェーズに入りつつあるし、チャットボット(*1)みたいなんだったらすでに遊べるレベル
 でも、まさかこれは当分ないだろうと思ってたのが”量子コンピューター”。よもや会社のビジネスの会議、しかもけっこう偉い人の出席してる会議で”量子コンピューターが”とか”巡回セールスマン問題が(*2)”とか出てくるとは思わなんだな~~
 ということで、今回ご紹介するのはそんな量子コンピュータを使って神様と世界を創造しようというSFのお話”神様のパラドックス”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。
国際ロボット展2017で展示されていた”神様風ロボット”です

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【本】神様のパラドックス(機本伸司、ハルキ文庫)
 量子コンピュータのセールスに行き詰っていた小佐薙は母校の五月祭で占い研究会のブースで大学1年生の井沢直美と出会う。あまりにもヘタクソな直美の占いにあきれる小佐薙だったが、彼女のもらした”お宅の会社のコンピュータで占いはできないんですか?”の一言から、彼女を巻き込んだ”量子コンピュータを使って創造神と世界を生み出す”というプロジェクトが始まるが・・・
【道具】神様風ロボット
 正確には”仏様風ロボット”と言いましょうか。マッスルという会社が出品していた黒子ロボットです。昔は”人を創るといった神と同じ行為をやってはいけない”というというキリスト教の影響があって欧米では人型ロボットがあまりないってな話がありましたが、神様仏様っぽいロボットを作っちゃうってのは日本人的なメンタリティの賜物なんでしょうかねぇ


 さて、本書に登場する量子コンピューターを使った神様(解析神)と解析世界を作るプロジェクト、何をさせるかというと”占い”なんですな。量子コンピューター内のシミュレートされた”世界”にお願いや悩みをぶち込むでことでその答え=”未来の可能性”を計算するというもの。そのために量子コンピュータの超絶的な計算能力を利用しようという・・・
 まあ、技術的に可能かどうかはわかりませんが、記載されている量子コンピュータのウンチクはけっこう楽しめます
 してこのプロジェクトを構成するのが以下の3つのモジュール

 量子コンピューター”久遠”:世界シミュレーターと解析神の”無意識”を担当
             テストでは百~千京回/秒の計算量の数万倍の性能を発揮
             巨大全翼機(*3)”天矛”に搭載
 スーパーコンピューター:プログラミングや、量子コンピュータの出した結果の
             解析/検算を担当
 人工知能”フライディ”:本体とマンマシンインタフェースを担当する”M”で構成
             Mは上半身は人間、下半身は4本足(ケンタウルスか?)
             直美相手にボケをかますわ、恋煩いになるわと結構なスグレモノ

 本書では”M”が人間からは神様のアイコンとしてお話するんですが、直美いわく”何かヤギみたい”な格好。実際に商用化するんだったら、神様か仏様っぽい形にしかねんな~~(*4)
 なんで量子コンピューターが全翼機に載ってるかというと、量子コンピューターが計算するためには無重力状態が必要で、このために弾丸軌道を飛行することになるから。まあ、巨大なデータセンタのごとき飛行機(*5)が上がったきり降りたりするワケで、こういったガジェットも大ボラっぽくて好きですな~

 お話は量子コンピューター製の神様がアイデンティティに悩んだりとか、怪しげな団体に狙われたりとかあるんですが、それは本書を読んでのお楽しみということで。

 で、今回面白いというかヤバイというかのトピックが量子コンピュータと暗号化技術の話。現在よく使われている”RSA暗号”といのはありまして、素因数分解問題つまり、3つの素数A,B,CがA=B×Cの関係を満たす時、2つがわかっていれば残りの1つは簡単に計算できるが、AからB、Cを計算するのは非常に難しいという特徴を使ったもの。Aの桁数が大きくなるとスーパーコンピュータを使っても時間がかかりすぎるため実質的にセキュリティを確保できるということです。技術的にはいろいろな方式がありますが、基本的な暗号化の考え方って”計算時間が膨大にかかるから、実質的に破られない”といってるだけで、じゃあスーパーコンピューターを遥かに凌駕する馬鹿っ早い”量子コンピューター”ならどうなんだというと破ることができるかもしれないと(まあ、そんなに簡単な話ではないんでしょうけど)。本書の中でも量子コンピューターが相手の暗号を解読して相手のコンピューターに侵入するってシーンが出てきます。

 てなことを踏まえて、本書の中では量子コンピューターが核兵器さながらの戦略兵器的な扱いで”量子コンピューター不可侵条約”なんてのが締結されていて、所有には国際ライセンスが必要目的外の用途での使用は禁止されているという設定。現実社会ではそんなんまだなさそうですが(知らんだけかもしれませんが)、科学技術が社会システムに先行するなんてありがちなこと。将来的にはこんな条約ができるかもしれんな~~と思った次第であります。

 ”神様のパラドックス”は量子コンピューターの可能性を扱ったSFとしては秀逸な本。”神様のパズル(*6)”のスピンオフですがこれだけ読んでも面白いです。ご一度のほどを。

《脚注》
(*1)チャットボット
 自動的に”チャット(会話)”する”ロボット”のこと。日本マイクロソフトが開発した女子高生チャットボット”りんな”のニュースを読んだことありますが、なかなか笑える内容。LINEでのユーザー数は約630万人(2017年11月現在)を超えたてるそうです。好きやな~~~ 公式HPはこちらから
(*2)巡回セールスマン問題
 セールスマンが複数の都市を1回ずつ最短距離で巡回する場合のルートを求める問題。都市数が増えると計算量が急速に増大するためコンピュータの計算能力をもってしても回答困難な問題の代表例、らしいです。量子コンピュータの能力ならとけるかもしれないという文脈で語られています。
(*3)巨大全翼機
 ”全翼機”というのは胴体部や尾翼がなく主翼のみで機体が構成された飛行機のこと。あえて言うならブーメラン型の飛行機でしょうか。
(*4)神様か仏様っぽい形にしかねんな~~
 本書では人間が”イコライザー”として仲介するとか、CG美少女にするとかやってますが、まあ、巫女さん文化の日本人なら神様風ロボットでなくてもOKかも
(*5)巨大なデータセンタのごとき飛行機
 本書でのスペックは全長75m、翼幅130mというもの。形状は違いますが、ジャンボジェット機”ボーイング747-8”は全長76.4m、翼幅68.5mです。
(*6)神様のパズル(機本伸司、ハルキ文庫)
 留年寸前の綿貫基一が教授から命じられたのは不登校の天才女子学生”穂瑞沙羅華”をゼミに参加させること。二人はゼミの中で出た”宇宙を作ることはできるのか?”を立証することになるが・・ 第三回小松左京賞受賞のSFの傑作。こちらもどうぞ

バーチャルリアリティでの証言は、はたして採用されうるか?(有限と微小のパン/あのスーパーロボットはどう動く)

 ども、ガチの文系脳のくせに”ファナック(*1)”に就職希望だったおぢさん、たいちろ~です。
 電話をしたところ”文系の採用はしていない”とのことで挫折。多少は関連あるかとコンピューターの会社に就職して現在に至るんですが・・・ まあ、30年以上前の話で、今では文系採用もありそうですけど。
 てなことで、今でもロボット大好きです。で、今年も”国際ロボット展2017”に行ったんですが、行き帰りに読んでた本が奇しくもバーチャルリアリティと絡んだミステリーだったりして。
 ということで、今回ご紹介するのはバーチャルリアリティ空間における殺人事件をリアルなロボット技術で考える”有限と微小のパン”、”あのスーパーロボットはどう動く”であります。

 ※写真はたいちろ~さんの撮影です

【本】有限と微小のパン(森博嗣、講談社文庫)
 ゼミ旅行に先だって、日本最大のソフトメーカ”ナノクラフト”が経営するテーマパーク”ユーロパーク”を訪れた”西之園萌絵”たち。そこで彼女たちは殺人事件に遭遇するが、死体が消えてしまう。一方、指導教官である”犀川創平”助教授は天才工学博士”真賀田四季”からの電話を受け、急きょユーロパークに駆けつける。そこでは新たな作人事件が・・・
 ”すべてがFになる(*2)”から始まるS&Mシリーズの第10巻。
【本】あのスーパーロボットはどう動く(金岡克弥他、B&Tブックス)
 サブタイトルは”スパロボで学ぶロボット制御工学”とあるように、マジンガーZ、ガンダム、パトレイバーなどを題材に”ロボット制御工学”の基本をあつかった実は真面目な本。数式はまったく理解できませんでしたが(もう微分、積分なんて忘れちゃってるので・・・)、解説自体はけっこうおもしろかったです。
【旅行】国際ロボット展2017(INTERNATIONAL ROBOT EXHIBITION 2017)
 産業用・サービス用ロボットを集めた展示会。主催は日本ロボット工業会と日刊工業新聞社。2017年は11月29日~12月2日まで東京ビッグサイトで開催されました。hpから事前登録者していれば無料で半日は遊べます(有料だと1,000円)


 まず、”有限と微小のパン”から、バーチャルリアリティ空間での殺人事件の概要。
 ヴァーチャルリアリティを操作するのは部屋(密室)の中に設置された宇宙服のようなセンサー群右手のみ反力を再現できるので、つかんだ感覚を出すことは可能(ただし、他の部分はできない)。重力も再現できないので自分以外の物体の重さは再現できない(ものすごい力持ちになったと思ってくださいとの説明)。ヘルメットには小型の液晶ディスプレイがついていてコンピュータがリアルタイムに画像を作成して表示。頭を左右に動かせばそれに合わせて画像も動く。被験者の動きは控室のモニタで確認可能。
 この装置を付けた西之園萌絵とナノクラフトの藤原副社長が密室のバーチャルリアリティを体験中に西之園萌絵のディスプレイに真賀田四季が登場し、藤原副社長をナイフで刺殺。装置を切ると実際に藤原副社長が刺殺されていた。密室殺人であり、控室のモニタにはそのような痕跡は映っていない・・・

 ”PlayStation VR(*3)”で遊んでる昨今ではVR用ヘルメット程度では驚かないかもしれませんが、この本が出版されたのは15年近く前の1998年なんですな、これが。

 で、これを”国際ロボット展2017”に展示されていたリアルなシステムと比較するとこんな感じです

〔マスター・スレーブシステムと動きのトレース〕
 写真はたいちろーさんの撮影
 トヨタ自動車が展示していたパートナーロボット”T-HR3”
 写真の左がマスター操縦システム、右がT-HR3

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 トヨタ自動車による解説動画トヨタ自動車のHPより
 あんまり人がいっぱいで動いてるとこ撮影できなかったので・・・

 今回の展示会で人気の高かったトヨタのパートナーロボット”T-HR3”。トルクサーボ技術による柔軟制御や全身協調バランス制御により動きは滑らかだわ。カラテのハイキックに太極拳にカメハメ波にシェーにJYOJY0立ちにあちゃんかっこい~に。最後はボルトの決めポーズまで。テクノロジーの無駄使いか! と突っ込んじゃいたいぐらいのスグレモノです。
 でも、今回の話題は操作システムのほう。”あのスーパーロボットはどう動く”によるとこのような操縦者自身の運動を計測し、その動きをトレースするように実際のロボットが動くのを”マスター・スレーブシステム”と呼ぶそうで、このトヨタの左のも”マスター操作システム”という名前です。
 じゃあ、動きをトレースしてそのままいいじゃんと考えそうですが、実際はコントローラーの自由度や再現するロボットの自由度と人間側の自由度が異なるので、それをすり合わせる制御が必要だとか。たとえば肩を動かす場合、回転運動だけでなく並進運動(水平移動)が同時に起こったりするので、回転運動だけ計測した関節角度をロボットに与えても同じ動きにならないとか。奥の深い話です

〔反力の再現〕
 ”有限と微小のパン”の中でバーチャルにコップをつかむことの説明でこんなのが出てきます

  現実にはない仮想のコップを掴むことは可能だし
  それを掴んだという感覚も再現できます
  でも、それを持ち上げたときの重さ、コップの重さは駄目なんです
  その感覚を再現するためには、
  機械が西之園さんの右手を下方向に引っ張らなければなりません

 当たり前のことですが、物体の存在を意識するにはこの重力(反力)を出力する装置が必要。本書の中では技術的、経済的な課題を含めて完璧な再現は困難としています。
 上記の”T-HR3”の左がマスター操縦システムでは、トルクセンサを組み込んだトルクサーボモジュールをマスター・スレーブの両方の関節に配置して力(トルク)を共有して自分の分身のような感覚を実現したとのこと
 ”有限と微小のパン”では困難としたものが実現できてきてんでしょうね。
 このように操作者とロボット、環境を含めた力学的相互作用を取り込んで動かすのを”あのスーパーロボットはどう動く”では”駆動力制御ベースの制御”と呼んでいます(これに対して、各関節の動きを関節サーボで実現するだけのタイプは”軌道制御ベースの制御”)
 ただ、実物を見る限りウエアラブルほど軽量・小型化にまでは至ってないみたい。本書でもかなりヘビーウェイトな装置っぽいですが、トヨタのも座席に座って操作型(クルマの会社だからこういったインタフェースにしたのかもしれませんけど)

〔触覚、温度の再現〕
 両本にはなかったネタでロボット展にあったのが、温度と触覚を再現するシステム(写真はNGだったのでありません)
 3本の指の先にセンサのついているスレーブ側のグローブと、マスター側には同じ指先に”電気刺激”と”ヒーター”と”ペルチェ素子”が一体になっていグローブの構成。
 触覚は皮膚を電気刺激するこのでざらざら感を再現するもの(反力ではないとのこと)。実際に使わせてもらったんですが、スレーブ側が六角鉛筆を指先でころころすると、マスター側にもそれっぽい感覚が。温度は温かいのをヒーターで冷たいのをペルチェ素子で再現するんだとか。スレーブ側があったかい缶コーヒーを持つとマスタ側もほんのりとあったかくなるって仕組み。感覚まで再現されるって、すごいよな~~って思いました

〔バーチャルリアリティでの証言は、はたして採用されうるか?〕
 の~てんきな感想を書いてるんですが、実はこれ”ミステリーの世界”ではお約束破りになりかねん重要なキーなんじゃないかと。ミステリーでは”善良な証人による証言は事実である”ってのがお約束(真実とは限りませんが・・)でなきゃ推理が成り立たんから。名探偵の”この中で嘘をついている人が犯人だ!”ってのは、犯人以外は嘘をついていないという前提があるからこそ。ですんで、犯人はトリックにより証人に事実誤認をさせるべく知恵を絞ってると。
 バーチャルリアリティって、この根底を超絶レベルで覆すんじゃね? と。確かにアクションものでは監視カメラの映像を偽装することで潜入を果たすなんてネタありましたが、バーチャルリアリティはこの非じゃないんじゃないかと。今回のロボット展の技術を使えばグラスに犯行現場を映しだし、ロボットの体を使って倒れた被害者を抱き起し、グローブ越しにナイフの感触を再現し・・・てなことを技術的にはかなり再現できそうな~~ と。手間暇やコストも含めて簡単ではないでしょうし、リアルな画像をバーチャル空間で自由に再現することのリアル感がどこまでできるかも課題ではありますが、現状のテクノロジーのスピードを考えるとけっこういいとこまで行けるんじゃないかと。
 なにを言いたいかというと”バーチャルリアリティでの証言ははたして採用されうるか?”です。だって、かなりの自由度で情報操作できれば、見たこと/触ったものがまんま事実であると断言するのって逆に危ない可能性もあります。
 ”有限と微小のパン”での西之園萌絵の証言がどうだったかというと、それは本書でお楽しみいただくということで

 今後、テクノロジーが進んで遠隔操作や自立型のロボット、バーチャルリアリティの偽装なんかが実現してくると、密室や時間トリックなんて成り立たない犯罪なんかが出てくるのかな~~ と思いつつロボット展を後にしたのであります。

《脚注》
(*1)ファナック
 工作機械用CNC装置で世界首位(国内シェア7割)、多関節ロボットで国内首位を誇り、安川電機、ABBグループ、クーカと並んで世界4大産業用ロボットメーカーのひとつ(wikipediaより)
(*2)すべてがFになる(森博嗣、幻冬舎新書)
 孤島にある研究所の密室で天才工学博士”真賀田四季”が死体となって発見された。偶然、居合わせた建築学科の助教授”犀川創平”と彼の生徒である建築学科1年生”西之園萌絵”はその謎を解こうとするが・・・
 第一回メフィスト賞を受賞した理系ミステリーの名作です
(*3)PlayStation VR
 SIEが2016年10月に発売したPlayStation 4 用バーチャルリアリティシステム。2015年開催の”国際ロボット展2017”ではまだ参考出品で遊んでみましたがけっこう驚いたものです。

オタクの本質と探偵って意外にあってそう、でも文章にするのって難しいんじゃないかい?(体育館の殺人/水族館の殺人/”ちはやふる”のラッピング電車)

 ども、ミステリーはマニアってほどじゃないですし、アニメもヲタクってほどじゃないおぢさん、たいちろ~です。
 さて、アニヲタってどんなイメージをお持ちでしょうか?

  コミュ障、ただしスイッチが入るととっても饒舌
  小太りまたはヤセ型にメガネ
  部屋の中にはマンガとDVDとフィギュアの山。壁にはアニメのポスターが・・
  ファッションセンス皆無。Tシャツは萌え絵のプリント
  背にはナップサック、手にはアニメの紙袋
  自分のジャンルには熱心だけど、それ以外には無関心
  意外と頭が良かったりする(趣味の範囲では超人的な記憶力とか観察力とか)

あくまで個人の感想であり、個人差があります(笑)(*1)

 ステレオタイプな人物像ですいません。まあ、これだけ見るとなかなかに残念な人っぽいですが、これで意外と向いてるかもしれんお仕事が。
 ということで、今回ご紹介するのはそんなアニヲタが名探偵役を務めるミステリー”体育館の殺人”と”水族館の殺人”であります


写真はたいちろ~さんの撮影。京阪電車の”ちはやふるのラッピング電車”です
(浜大津駅付近 2013年11月)

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【本】体育館の殺人(青崎有吾、創元推理文庫)
 風ヶ丘高校の旧体育館で、放送部の部長が刺殺された。現場は実質的に密室状態であり、”仙堂警部”と部下の”袴田優作”現場にいた女子卓球部の部長の犯行だと考える。部長の無罪を証明すべく卓球部員の”袴田柚乃(はかまだゆの)”は部長の嫌疑を晴らすため全科目満点をとった”裏染天馬(うらぞめ・てんま)”に解決を依頼する。しかし彼は百人一首研究会の部室を私物化して住み着くアニメオタクの駄目人間だった・・・
【本】水族館の殺人(青崎有吾、創元推理文庫)
 風ヶ丘高校新聞部の向坂香織達は夏休みのを利用して丸美水族館の取材に出掛ける。取材中に巨大水槽の前でサメが飼育員と思われる男性に食らいついているシーンに遭遇。容疑者である11人にはそれぞれアリバイがあった。困り果てた仙堂警部は”体育館の殺人”を解決に導いた”裏染天馬”に事件の解決を依頼するが・・・
【乗り物】”ちはやふる”のラッピング電車
 裏染天馬が住み着いている”百人一首研究会”ということでチョイスしてみました(本書には出てきません、すいません)。百人一首って人気なさそうなんで部室を不法占拠できたっぽいですが”ちはやふる”(*2)がブレイクした今ではどうなんでしょうね? 
 聖地巡礼のおかげでしょうか、電車とアニメ/マンガって意外と相性がよいのか、最近この手のラッピング電車増えましたよね~~

 さて、探偵役の”裏染天馬”ですが、部室に住み着いて漫画やDVDをしこたまため込み、授業には真面目に出ないという引きこもりアニメオタクの駄目人間。基本的にはめんどくさがりで、やる気なし。でも頭脳は優秀で、自分の推理には饒舌やる気をだせば凄い人。

  ちょっと興味が出たんだよ。俺は興味のあることには全力で取り組む

 こういうのって、名探偵向きなんじゃないかな。事件をえり好みするとか、ムラっ気があるのって、名探偵の魅力の一つだし・・・
 推理方法は、”細かいことに異常にこだわる”。普通ならスルーしそうな枝葉末節、ちょっとした矛盾に徹底的にツッコ入れるスタイル。”刑事コロンボ(*3)”に似てるかな~ って思っちゃいました。

 ことほどさように、オタクの本質と探偵って意外にあってそうなんですが、問題が一つ。”オタク”のディープさ文章で表現するってけっこう難しそうなんですな。これがマンガやアニメみたいなビジュアルだと、コレクションの山だとか萌え絵だとか、ださいファッションセンスだとかわかりやすそうなんですが、これを文字にしちゃうとなんだか薄っぺらな感じになりそう。だからオタク的なアイコンって、しかもあまりパンピーが知らなさそうな作品が元ネタになってるとかが必要になるんじゃないかと。さらにこれがどのあたりの時代の作品かなんて絡んでくるとさらに読む側にとって難しくなんじゃないかと

 本作品での裏染天馬の発言から

  ・ユノね。二〇一号室の住人かヤンデレヒロインみたいな名前だな
  ・一刻も早く今週の『絶望先生』を読んであびるちゃんの包帯属性を愛でてから~
  ・逃げちゃダメだ、か。確かにこりゃ、名ゼリフだな
  ・ハカイダーかよ。色は何色だよ。黒か、銀か
  ・おま・・・ お前、馬鹿野郎! ダンクーガをよくも! 買ったばかりなのに!
  ・おかげでこの部屋、灼熱地獄だよ・・・ 火の二日間だよ、畜生・・・
  ・テレ朝でスマプリを見なきゃいかんからな

これ以外にもいっぱい出てくんですけど、半分もわかんなかったかな~~ しかたがないのでググりましたが(この辺も度し難いと自覚はあんですけどねぇ)
 ”体育館の殺人”は2012年、”水族館の殺人”は2013年の出版なので当時ならまだわかりやすいネタも、読書層が入れ替わりの早い中高生世代だったら5年もたてばわかんないネタもけっこうあったんじゃないかと・・・
 アニメや漫画、ドラマネタなんて劣化が早そうなんで、この手でキャラ設定するのって作家的には結構リスキーなんじゃなかなと思いつつ。

 ”体育館の殺人”ミステリーの新人文学賞である”鮎川哲也賞”を2012年に受賞。”本格モノ”ミステリーとしても高い評価を受けています。実際、面白かったし!
 でもよくオタク探偵で受賞したよな~~ 審査員の中でも日本アニメ界のレジェンド”辻真先”ならいざしらず(*5)、芦辺拓、北村薫がよくOKだしたよね~~~

 裏染天馬シリーズは現在4冊発刊されているんで、あと2冊。がんばって読みまっしょい!

《脚注》
(*1)”あくまで個人の感想であり、個人差があります”(笑)
 健康食品やダイエットのCM番組に必ず出てくるこのフレーズ。これは効果効能をを明示(あるいは暗示)して”薬事法”や”景品表示法”に抵触する恐れがあるため。
 ツッコミ所満載であっても、あえて笑ってスルーするのが大人のマナーというものです、はい
(*2)ちはやふる(末次由紀、BE LOVE KC)
 競技かるたに没頭する少女の青春を描いた漫画。2007年12月から連載中で、2011年にアニメ化、2016年に広瀬すず主演で映画化。すいません、見てません。
(*3)刑事コロンボ
 ロサンゼルス市警察殺人課の刑事”コロンボ”を主人公としたサスペンス・テレビ映画。主演はピーターフォーク風采の上がらないユーモラスなおっさんのコロンボが完全犯罪をたくらむ一流の犯人をじわじわ追い詰めていくストーリーが圧巻。
 倒叙物ミステリーの傑作です。お勧めです。
(*4)ユノね。二〇一号室の住人か~
 二〇一号室の住人:”ひだまりスケッチ”に登場する女子高校生”ゆの”
 ヤンデレヒロイン:”未来日記”に登場する”我妻由乃”。実はストーカー。
 あびるちゃん:”さよなら絶望先生”に登場する包帯まみれの”小節あびる”
 逃げちゃダメだ:”新世紀エヴァンゲリオン”の主人公”碇シンジ”のセリフ
 ハカイダー:”人造人間キカイダー”シリーズに登場する悪役ロボット
 ダンクーガ:”超獣機神ダンクーガ”に登場する合体/巨大ロボット
 火の二日間:”風の谷のナウシカ”で人類を滅亡の淵に追い込んだ”火の七日間”
 スマプリ:”スマイルプリキュア!”の略
多分、モトネタはこの辺りではないかと。私も全部見たわけじゃないですし、正解が書いてあるわけでもないので・・・
(*5)日本アニメ界のレジェンド”辻真先”ならいざしらず
 なんせ、”鉄腕アトム”の脚本を執筆してたという筋金入りの人。wikipediaに作品一覧が載ってますが、SF、ロボット、特撮、伝奇、ギャグ、スポコン、魔女っ子、少女モノなどなど。ジュブナイルやミステリーも多数。改めて凄い人だと感心しました

生首に関する、とあるミステリーでの考察について(数奇にして模型/生首)

 神奈川県座間市の某殺人事件に触発されてってわけではないんですが、先日読んだ、森博嗣の”数奇にして模型(森博嗣、講談社文庫)”というミステリーに、首の切断に関する考察めいた話が出ています。あらすじをいうと

  模型交換会の会場で首が切断されて持ち去られたモデル女性の死体が発見される
  殺された部屋は密室で、中には大学院生”寺林高司”が昏倒して倒れていた
  時を同じくしてM工業大学の密室では女子大生の死体が発見された
  この事件の容疑者として”寺林高司”の名前が挙がる
  不可能犯罪に見えるこの事件にN大学助教授”犀川創平”と女子大生”西之園萌絵”が挑む・・

といった内容。
 本書の中でキーになっている一つが”何故、首が切断されて持ち去られたのか”という謎。本書の中での考察

〔被害者の身元を分からなくするため〕
 ミステリーの常道ですが、本書の中では否定的。指紋やDNA鑑定があたりまえの昨今。そんなに時間稼ぎにはなんないんではないかと。座間市の某殺人事件でも事件発覚から10日そこそこで警察が特定したと発表してるんで確かに効果は限定的かも。裏付け捜査もやってるはずなので、実際はもっと早くから分かっていたんでしょうし

〔子供と同じ〕
 ”首が欲しかったんでしょう”、”ただ単に首を切り離したかっただけ”という意見。前者については”興味はありますし、やってみたいと思うこともありますね”、後者については”子供が人形の首を引きちぎるのと同じなんじゃないの? 残虐な行為にそもそも理由なんてないと思うな”とも。わからん理屈でもないですが、警察はこれでは納得してくれんでしょうな

〔殺したいほど憎いから〕
 殺したいほど憎いなら顔だって嫌いなはず、そんな人の首を欲しがる感情が生まれるか? ということで、これは否定。理系らしい犀川創平の考察

〔好きでしかたがないから〕
 私は好きだけど、相手からは嫌われている。嫌われることは許せない。殺してしまえば嫌われることもない。抜け殻になった人形としての相手を自分のものとして所有したい、という心理。犀川創平の疑問は”そのあと、どうするのだろう?” そもそも相手が歳をとってしまう前に現状維持で保存したいのなら、ドライフラワーみたいなものだと。
 これに比較的近いのは、オスカー・ワイルドの”サロメ”でしょうか。王女”サロメ”は踊りの礼として王に自分の愛を拒絶した”預言者ヨカナーン(洗礼者ヨハネ)”の首を所望し、その生首に口づけするという物語です。

  写真はビアズリーによる”サロメ”のイラスト
  おそらく世界で最も有名な”生首”の絵ではないかと

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〔首を切る行為が必要だった〕
 視点を変えて、首が必要だったのではなく”首を切る”という行為のほうに意味かある場合。さらに”首を持ち去る行為”の理由が必要だとも。

 本書の考察以外にも

・殺害の証拠にするもの
 いわゆる”首実検”。戦国時代などで、部下が敵方の首級の身元を大将が判定し論功行賞を決定するために行われたもの。体ごと持って帰るのがたいへだから首だけ。写真も冷蔵車もない時代ですし

・杯の材料
 いわゆる”髑髏杯”。織田信長が、浅井久政らの髑髏に漆を塗って作成したものが有名。はっきり言って悪趣味だと思います。

などでしょうか・・・

 さて、本書での犯人の動機はというと・・・
 それは本書を読んでいただくということで

 別に某事件の犯人の動機がどうしたこうした言うつもりはないんですが、たまたま某事件と本書を読んだのがあまりにもタイミングが合ってたんで書いてみました。ビブリオマニアの業とでもいいましょうか。申し訳ない。

 文末になりますが、被害にあわれた方のご冥福を謹んで祈りします

P.S.
 本書のもう一つのテーマは”型(かた)”と”形(かたち)”。模型は”型”で人形は”形”。

  それも我々の型にはめようとすると理解できない事象だった
  自分で作った”形”でも次の瞬間には壊そうとしている

 ということで、今回はいつもの型と形を変えて書いてみました。どうでしょう

自分の持っているイメージのと”違和感”があること、あるいはないことに関して自覚的である必要があるんじゃないかと(ナイフを失われた思い出の中に/鶴岡八幡宮)

 ども、心に闇を持つおぢさん、たいちろ~です。
 2016年、17年と平成犯罪史に残るような大事件が立て続けに発生しています。2016年7月には神奈川県相模原市の知的障害者施設で発生した大量殺人事件。19人を刺殺、26人に重軽傷を負わせたのは戦後では最も犠牲者の多い事件でした。
 2017年は先日神奈川県座間市で発生した連続殺人・死体遺棄事件。男女9人の遺体が見つかったこの事件も連続殺人としては過去最多。前者は知的障害者を後者は自殺願望のある人を対象とするという陰鬱な事件です
 で、ちょっと気になったのが初期の報道におけるイメージの違い。相模原市の大量殺人の容疑者って、当初から”障害者の抹殺”なんていうとんでもない主張をする人物ということが報道されていて、犯行=容疑者像(*1)もなんとなく納得感みたいな空気があったんですが、後者はあんまりこれがなかったようで。たまたま今読んでる本でこの報道で感じたような話がありまして。
 ということで、今回ご紹介するのは犯罪にまつわる記者の目の話”ナイフを失われた思い出の中に”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。鎌倉の鶴岡八幡宮です

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【本】ナイフを失われた思い出の中に(米澤穂信、東京創元社)
 ”ヨヴァノヴィッチ”は妹の友人で今はフリーの”記者”である”大刀洗万智”の元を訪れてきた。彼女は浜倉市で発生した16歳の少年”松山良和”が姪で3歳の少女”松山花凛”を刺殺した事件を取材中で、彼もその取材に同行することになる。目撃者があり逮捕された犯人は犯行を認める手記を残している。一見簡単に見える事件だったが、その真相は・・・
 ”さよなら妖精(*2)”に登場する大刀洗万智を主人公とした短編推理小説集。
 ”真実の10メートル手前(米澤穂信、東京創元社)”に収録
【旅行】鶴岡八幡宮
 本書で事件が発生したのが浜倉市。モデルになっているのは記載の内容から鎌倉市と思われます。松山良和が逮捕されたのが”浜倉八幡宮”で万智はヨヴァノヴィッチに”神殿”と説明しています。神社の建物なので”神殿”っていうのは間違いじゃないんでしょうが、日本人がイメージするのとビミョ~にずれてる感が・・・(*3)


 座間市の死体遺棄事件の初期での報道の違和感ってのは”容疑者を知る人”へのインタビューの答えが”普通にあいさつする普通の子”、”おとなしくていい子”といった”善良な普通の知人”だったこと。このような常軌を逸した事件の容疑者が”普通の人”でSNSを使いこなす今ドキの若者だったってことに驚きを感じたのは私だけじゃないと思うんですがどうでしょう?
 宮﨑勤の事件(*4)なんかが代表的な例なんでしょうが、”やっぱりこんな人間がこんな犯罪をするんだ”的な微妙な納得感、露悪的に言うと安心感ってのが社会にあったんじゃないかと。まあ、善良だと思っていた隣人が実は凶悪犯だと思うより、”あいつはヤバそう”と思って防衛に出たほうが精神的に安定できるってのはわからんでもないですが、それはそれで危険なこと。偏見と憎悪がかえって社会的な不安を招いている例は歴史に数多くあります。まあ、現代もそうですが・・・

 で、本書ですが大刀洗万智がこの事件を追いかける理由ってのが、容疑者である松山良和の本棚が社会にさらされ、それが大量でも特別異常なもでなかったにも関わらず、趣味と犯罪が結び付けられて、多くの人嗜虐的な幼児性愛者と信じてしまって、それが殺人の動機の根幹根幹であると考えられていること、それをマスコミがそのように伝えたこと。 事態は松山良和の手記が無加工のまま流されたことによって事態はさらに深刻に。

 大刀洗万智がヨヴァノヴィッチに”記者の仕事は人間の器官の延長か?”という問答をするんですが、ヨヴァノヴィッチが”目、でしょう”という回答に対して大刀洗万智はこんな反論をしています

  目とは、人が見たいと思っているものを見るための器官なのです
  錯覚にまみれ、そこにあるものを映さない。
  それは決して、目という器官の物理的限界によるものではありません
  見たくないものをカットし、見たいように見るからこそ
  そうしたことが起きるのです

だから真実を明らかにするのは”目”の仕事ではないと。だから記者は”目”ではないと。だから、”目”の言い分としてではなく記者は事実は加工されるべきだと。

 念のためいっときますが、だから偏向報道やフェイクニュースがいいと言ってるわけではないですし(そんなのはもってのほかです!)、そもそも偏見を持つなということ自体人間が多かれ少なかれヒューリスティクス(*5)な思考方法をとる以上、まったく排除するのは困難でしょう、たぶん。

 重要なのは、自分の持っているイメージのと”違和感”があること、あるいはないことに関して自覚的である必要があるんじゃないかと。この事件の真犯人が容疑者だっかたどうかという話ではなく、気をつけないと99人の断罪と1人の冤罪を生み出しかねないな~という自戒をこめて書いてみました。

 先日、朝日新聞の記事で”「理想の貧困」に苦しむリアル当事者”って話が出てましたが、これは自分のイメージにある”理想の貧困”と当事者の状況が合っていないと”お前は貧困じゃない”と批判する”貧困たたき”になっちゃうと。もともとは善意からなのかもしれませんが・・・ うっかりすると自分もこの手の話をやっちゃいかねないので、ちょっと怖くもあります。

 本書は”さよなら妖精”の続編ですが、これだけ読んでも大丈夫。
 ご一読のほどを

《脚注》
(*1)容疑者像
 ”容疑者”は犯罪を犯した容疑があるとして捜査対象になっていてまだ公訴が提起されていない者、法律用語では”被疑者”。起訴された後は”被告人”。
(*2)さよなら妖精(米澤穂信、創元推理文庫)
 1991年4月。雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるおれたちの街にやって来た少女、マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日常。そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の謎解きが始まる(amazon.comより)
(*3)日本人がイメージするのとビミョ~にずれてる感が・・・
 私の場合だと”神殿”ってパルテノン神殿あたりをイメージしちゃうんですが・・・
 一般的に神体を安置する社殿は”本殿”、”本堂”あたりでしょうか。鶴岡八幡宮のhpだと本殿を日本語では”本宮(上宮)”、英語だと”Main Shrine(主となる聖なる場所や建物)”になっています。
(*4)宮﨑勤の事件
 1988年に発生した”東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件”のこと。犯人の宮﨑勤がおたく・ロリコン・ホラーマニアと報道されたことで”オタクバッシング”の元となりました
(*5)ヒューリスティクス
 必ず正しい答えはだせないにしても、ある程度のレベルで正解に近い解を得ることができる方法のこと。答えの正しさは保証しないかわりに、答えを出す時間が少なくできます。行動経済学なんかの本を読むとよく出てきます。

この”解”の冷徹さが”冷たい方程式”なる所以なのかも(冷たい方程式/ニュートンのリンゴの木)

 ども、ランダムな人生を生きているおぢさん、たいちろ~です。
 なんかのSFで読んだんですが、宇宙船であれモビルスーツであれ、宇宙空間を飛ぶ飛翔体ってのは恐っそろしく物理法則に従うんだそうです。宇宙船は推進力を与えない限り、引力とかを勘案すればある時間後の予想到達地点ってのはほぼ算出できるし、無重力状態に見える衛星軌道上でもドックファイトなんかやった日にゃ落っこちると(*1)。
 地上だと空気抵抗やらなんやらでもっとランダムに動くみたいですが、宇宙空間ってのはもっと厳密な方程式に従う世界みたい。ニュートンが万有引力を発見してからこっち、人類は”方程式”の存在を意識せざるを得ないということです。
 ということで、今回ご紹介するのはそんな宇宙空間での冷徹な現実に直面する本”冷たい方程式”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。
小石川植物園にあった”ニュートンのリンゴの木”です。

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【本】冷たい方程式(トム・ゴドウィン、ハヤカワ文庫SF)
 災害の薬を待つ人の星まで、パイロット”バートン”一人分の燃料しか積んでいない緊急発進艇(EDS)。その中で若い娘”ミーミア”が密航者として発見された。EDSが星までたどり着ためには彼女を”船外遺棄”するしかない。バードンとミーミアが出した結論は・・・
 SF史に残る名作短編。アンソロジー”冷たい方程式(新版)”に収録
【花】ニュートンのリンゴの木
 ニュートンの生家にあったリンゴの木は、接ぎ木により各国の科学機関に分譲されていますが、小石川植物園の株は、1964年に英国物理学研究所所長サザーランド卿から、日本学士院長 柴田雄次博士に贈られたものです(小石川植物園のHPより抜粋)


 あらすじを兼ねて解くべき方程式を説明すると

・惑星ウォードンで病気が発生し血清がとどかなければ6人が死ぬ
・バートン乗るEDSには一人分の燃料しか積んでいない
・現在のEDSにはミーミアの重量分の燃料がなく、このままだと墜落して2人は死ぬ
・40光年以内にEDSを救出できるクルーザー(宇宙船)はない

この方程式の一般解はというと、星間法規に定められている

  EDS内で発見された密航者は、発見と同時にただちに艇外に遺棄する

というもの。つまり密航者は死を持って償うということです。

 まあ、むさ苦しいオッサン(私みたいな?)だったら速攻遺棄していいかつ~とそういう問題ではないですが、これが美しい少女となるとどうしても”特殊解”がないモンかと考えちゃうわけです。で、本書での密航者はというと二十歳にもならない娘”ミーミア”。ウォードンにいる兄に会いたくて密航を企てたと。規則を破っているという自覚はあるものの、安全な地球育ちの彼女はそれが死に直結するような重要なこととは考えていません。そこにあるのは

  燃料の量hは、質量mプラスxのEDSを
  安全に目的地に運ぶ推力を与えることができない

という”冷たい方程式”だけ。
 この状況の中で、バートンたちはミーミアを救う手立てを検討するんですが、その方程式の”解”が何だったかというのはぜひ本書を読んでみてください。

 解説で編者の伊藤典夫も書いていますが、日本では”方程式もの”といれるジャンルができたほど魅力的なテーマで私もいくつか読んだ記憶があるんですが、まさか本家本元の”解”がこんなんだったのはな~とちょっと驚き。でもこの”解”の冷徹さが”冷たい方程式”なる所以なのかも。
 名作です。ぜひご一読のほどを

 余談ですが、”冷たい方程式”は”君の知らない方程式 BISビブリオバトル部 4(*1)”という本でSFマニアの空さんが話題にしてて、今回読んでみたんですが、他にもいろんな本の話題が出てきます。その中の1冊に”それどんな商品だよ! 本当にあったへんな商標(*2)”ってのがありました。変なネーミングを扱った本なんですが、まだ読んでなかったのでamazonで調べてみると”この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています”で”冷たい方程式”のみならず、アニメの”RWBY”や、SFの”ゲームウォーズ”が!(*3) ネーミングの話をSFではコンテンツベースのフィルタリング(*4)で引っかかるはずはないんで、きっと”BISビブリオバトル部 4”を読んだ人が、この本に関連したビックデータを元に”協調フィルタリング(*5)”とかを使ってクールな方程式で抽出された結果なんでしょうね、きっと

《脚注》
(*1)君の知らない方程式 BISビブリオバトル部 4(山本弘、東京創元社)
 美心国際学園(BIS)高校ビブリオバトル部。集まる本好きが集まるクラブ。ここに集う若者たちの日常を描いた本好きイチオシの小説です。
(*2)それどんな商品だよ! 本当にあったへんな商標(友利昴、文庫ぎんが堂)
 特許庁に登録商標として届けられた笑える珍ネーミングを集めた本。まだ読んでませんが、なんだかおもしろそう
(*3)アニメの”RWBY”や、SFの”ゲームウォーズ”が!
 RWBY:監督 モンティ・オウム、ワーナー・ブラザース
 ゲームウォーズ:アーネスト・クライン、SBクリエイティブ
(*4)コンテンツベースのフィルタリング
 本の内容や著者などが似ているかどうかを判別して、推薦するものを決めるというやり方
(*5)協調フィルタリング
 多くのユーザの嗜好情報を蓄積し、あるユーザと嗜好の類似した他のユーザの情報を用いて自動的に推論を行う方法論(wikipediaより抜粋)
 これを使うと、上記のように関連する本を次々と紹介したり、個人ごとに好みの本を推してくれたりすることが可能になります。

怪物にだって論理は通用します(アンデッドガール・マーダーファルス/鳥かご)

 ども、最近ミステリー小説読む数が増えてきているおぢさん、たいちろ~です。
 ミステリー界の中には”ノックスの十戒”と呼ばれるお約束が存在します。これは
聖職者にして推理作家でもあった”ロナルド・ノックス”という人が発表した”推理小説を書く際のルール”で、その一つに

  探偵方法に超自然能力を用いてはならない

てのがあります。まあ、超能力で犯人を当てたり、占いで”犯人はお前だ!”やったり、幽霊が出てきて”私を殺したのはこの人です・・ 恨めしや~~”では興ざめというもの。まあ、うまく書けばないわけじゃないですが(*1)正統派ミステリーとは違うかなと
 ただ、これはあくまで普通の人間相手の話で、これが犯人も被害者も、そして探偵も普通の人間じゃなかったら・・・

 ということで、今回ご紹介するのはそんな怪物を専門に扱う探偵チームのお話”アンデッドガール・マーダーファルス”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。
近所のペットショップでみかけた鳥かごです

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【本】アンデッドガール・マーダーファルス(青崎有吾、講談社タイガ)
 齢962歳、不死の美少女”輪堂鴉夜(りんどうあや)”、半人半鬼の”鬼殺し”こと”真打津軽(しんうちつがる)”、薙刀銃をあやつるクールなメイドさん”馳井静句(はせいしずく)”の3人による”怪物専門の探偵”チームの活躍を描く推理小説シリーズ。いや、マジで。
【道具】鳥かご
 文字どおり鳥を飼うかご。たまに生首が入ってたりします・・・

 さて、犯人や被害者が人間ならざる能力の持ち主だったら、”ノックスの十戒”よろしく通常の推理小説は成立しません。なぜならテレポーターに密室は必要ないですし、タイムリーパーにアリバイ工作は無意味です(*2)。とはいっても、万能ではないんでいろいろ制約条件を設定することで推理小説にすることもできはしそう。同じく、無敵の怪物といってもそれはそれでいろいろ制約条件ってのがあります。
 たとえば、怪物の王”吸血鬼”もしかり。強靭な肉体の持ち主で、心臓に杭を打たれても死なないし、腕がちぎれても2日で再生する。ただし、太陽は苦手で銀や聖水は触れないし、銀の杭で貫かれれば死ぬ(本書での設定)。ここんとこがミソで、じゃあこの怪物が殺されてたらその犯行は? ってのが第一章”吸血鬼”のお話。

 人類と共存を図ろうとする”人類親和派”の吸血鬼”ハンナ”が何者かに殺され、夫であるゴダール卿が犯人を捜すために”怪物専門の探偵”である輪堂鴉夜達を雇うってのがあらすじ。ハンナは杭で殺され、聖水をかけられて死んでいるのが発見されるんですが、凶器と思われる銀の杭は屋敷内で発見されます。外部からの犯行が難し状況で、屋敷内の人間の犯行とも思われにくく、銀や聖水を忌み嫌うい吸血鬼の犯罪とも考えにくく・・
 一種の不可能犯罪に近い状況で輪堂鴉夜が下した推理はなんだってのがこのお話の面白い所。怪物でなければ起りえないHowdunit(ハウダニット)つまり、”どのように犯罪を成し遂げたのか”がすごいオチなんですな。なにがすごいって”怪物”の特性あるいは制約条件をクリアしつつ、実に論理的というか
 第二章の”人造人間”で、グリ警部と輪堂鴉夜が密室の中で発見された首なし死体の謎を解明する時の会話

  グリ警部:なるほど、これがあたなの捜査法というわけですか
       怪物を人間の世界に引きずり下ろし、論理に当てはめる
  輪堂鴉夜:別に引きずり下ろしてなんかいませんよ
       怪物にだって論理は通用します

 つまり怪物であっても、人間であっても従うべき論理は同じ。ただ従う前提条件が違っているだけだと。でも、考えようによっちゃこのひねり方って普通の推理小説より書くの難しいんじゃないか??

 で、この犯人を追いつめる輪堂鴉夜ご一行様ですが、この人たちもまたユニーク。バディーもの、いわゆるホームズ+ワトソンみたいなのの頭脳労働と肉体労働の役割分担って意外にまちまちなんですが、まったく肉体労働しかしないってちょっと珍しいかも。アームチェア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)の代表作”隅の老人(*3)”だって多少は肉体労働はやってるし、頭脳派探偵のシャーロック・ホームズだってフェンシングやボクシングができるなんていう武道派の面もあります。二人で一人の仮面ライダー探偵”仮面ライダーW(*4)”だって、肉体労働=翔太郎、頭脳労働=フィリップの組み合わせですが、フィリップもまったく肉体労働やってないってことないです。まあ、私の読んだ中でほんとに体を動かさないってのは”リンカーン・ライム(*5)”ぐらいでしょうか
 輪堂鴉夜というとホントに肉体労働をまったくしないという完全”頭脳労働”オンリー。なんたって、現場に行っても歩きもしない。闘うなんてもってのほか。本人曰く

  なにしろ、頭を使うこと以外できない体でしてね

 でもって、肉体労働担当が真打津軽。”鬼殺し”という芸をやっていただけあってバリバリの武道派なんですが、けっこうお調子モノで寒いギャクをかます人。
 真打津軽が”ボケ”、輪堂鴉夜が”ツッコミ”でちょくちょく二人で漫才を。頭脳労働と肉体労働の分業体制ってのもあって、最初は”染之助・染太郎か!(*6)”とつっこんじゃいましたよ

  津軽は肉体労働、鴉夜は頭脳労働、これでギャラは同じなの

とかね。
 少し読み進むと意外や意外、おいしいとこ持ってってるのがクールメイドの馳井静句。寡黙ながら鴉夜の指示で津軽をブルボッコするし、敵への戦闘ではけっこうな大活躍。第四章ではかなかなに艶っぽいシーンも出てきますし。普段は目立たないけどやるときゃやるタイプです。
 この三人見てるとまさにミステリー界の”レツゴー三匹(*7)”ですなぁ。寒いギャグでボケる津軽に、辛辣なツッコの鴉夜、締めるとこは締めるフリの静句とか。なかなか秀逸なキャラ設定です。

 ”アンデッドガール・マーダーファルス”はモンスターとか登場するんでホラーモノっぽいですが、実はけっこう本格モノの推理小説かも。面白い本です。ぜひご一度のほどを。

《脚注》
(*1)うまく書けばないわけじゃないですが
 ”鎌倉ものがたり(西岸良平、双葉社)”には”恐山妖介”という降霊術を使って事件を解決する鎌倉の刑事さんが登場します。ただ、この作品には一色正和というミステリー作家がいて、鎌倉という人間と魔物、妖怪と普通に住んでいる土地柄が舞台になっているから成立するお話。ここまでうまくやってくれるとむしろ感心してしまいます
(*2)テレポーターに密室は必要ないですし~
 ”テレポーター”(空間跳躍者)なら密室だろうがなんだろうが侵入できますし、”タイムリーパー”(時間跳躍者)なら、アリバイ工作なんかしなくても任意の時間に移動できるだろうし。
(*3)隅の老人(バロネス・オルツィ、創元推理文庫)
 女性新聞記者のポリー・バートンが喫茶店の隅にすわる老人に事件の話をすると、その老人が事件を解決するという推理小説。アームチェア・ディテクティブの先駆にして代表的な小説です。
(*4)仮面ライダーW
 左 翔太郎とフィリップの二人がUSBメモリみたいのを使って合体するという平成仮面ライダーシリーズ第11作目の作品。子供向けとは思えないミステリマニアも楽しめる番組です。フィリップを演じたのは今をときめく人気俳優”菅田将暉”。しかし、この人がここまで売れるとは思わなんだな~~~
(*5)リンカーン・ライム
 ”リンカーン・ライムシリーズ(ジェフリー・ディーヴァー、文藝春秋)”に登場する科学捜査のスペシャリスト。捜査中の事故により左手の人差し指と首から上だけしか動かないという典型的なアームチェア・ディテクティブ。
(*6)染之助・染太郎か!
 かつてお正月の名物だた漫才コンビ”海老一染之助・染太郎”師匠です。傘の上ので枡を回すのが弟の染之助、横ではやし立てるのが兄の染太郎。上記のギャクの元ネタは
  弟は肉体労働、兄は頭脳労働、これでギャラは同じなの
(*7)レツゴー三匹
 ツッコミ役の正児、ボケ役のじゅん、フリ役の長作による昭和を代表するトリオ漫才。そういえば、最近トリオ漫才のビックネームってあんましみないですな。お笑い番組の1組あたりの時間が短くなってるせいですかねぇ・・

本には、人生を変える力がある(君の知らない方程式 BISビブリオバトル部 4/”文豪スレイドックス”ポスター)

 ども、こう見えて(どう見えて?)子供の頃にはあんまし本を読まなかったおぢさん、たいちろ~です。
 人間、誰しも人生にインパクトを与えた本ってのが存在するのではないかと。私の場合は”デビルマン(*1)”でしょうかね。小学校の頃ですが、たぶんはじめて自分おこずかいで買ったマンガじゃなかったかと。こっから本の爆買が始まったような・・・
 活字の本だったら”空とぶ家(*2)”かな(”カールじいさんの空飛ぶ家(*3)”じゃなくて!) 10歳のニッキィ、9歳のリンダ、そしてベンおじさんの3人が、新発明のために浮き上がった家に乗ってジャングルまで飛んでいってしまうお話で、子供向けのSFってとこでしょうか。
 ことほどさように本にはまるってのは教科書に載っているような名作とは限らず、SFだってマンガだってかまわないワケですし、今ならライトノベルだってぜんぜんOKではないかと。
 ということで、今回ご紹介するのはビブリオバトル部で自分の人生を変えた本を紹介するお話”君の知らない方程式 BISビブリオバトル部 4”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。
横浜市立図書館の巡回展示で飾られていた”文豪スレイドックス”のポスターです

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【本】君の知らない方程式 BISビブリオバトル部 4(山本弘、東京創元社)
 美心国際学園(BIS)高校ビブリオバトル部。<驚異の翼(ウィング・オブ・ワンダー)>伏木空、<燃える氷(バーニング・アイス)>埋火武人、<天然の狙撃手(ナチュラル・スナイパー)>輿水銀、<双面の話者(ヤヌス・トーカー)>安土聡、<愛の伝道師(ラブ・ミショナリー)>小金井ミーナ、<科学の魔女(ウイッチ・オブ・サイエンス)>菊地明日香など、本好きが集まるクラブ。空さんに告白してつきあうことになった銀くんですが、それを見ていた武人くんは心落ち着かない様子で・・・
【ポスター】”文豪スレイドックス”ポスター
 ”文豪スレイドックス(原作 朝霧カフカ、作画 春河35、KADOKAWA)は横浜を舞台に”異能”と呼ばれる超能力を駆使する武装探偵社とポートマフィアの抗争を描くバトルアクションコミック
 このポスターは横浜市立図書館と文豪ストレイドッグスのコラボ企画として作成されたもので、キャッチコピーが

  本には、人生を変える力がある

なかなか粋なことするじゃん、横浜市立図書館!
ちなみに、左が太宰治、中央が中島敦、右が芥川龍之介です


 さて、今回のお話は空をめぐる武人くんと銀くんとの恋愛バトル。空さんは地味キャラながら、SFに喰いつくと話の止まらない超弩級のSFオタク武人くんは祖父の残したお宝SF本を持ちながらノンフィクションしか読まないという超堅物銀くん学園のショタコンのお姉さま方から愛でられる美少年。学園行事のコスプレ大会では”RWBY(*4)”のコスプレをして、ミーナさんから”美少女三人がかりで、男の娘一人に勝てんとは”と、悔しがられています。空さんはお宝SF本目当てに足しげく武人くんちに通って、”武人くんにSFを読ませる!”ことになって、いい雰囲気なのかと思いきや、銀くんの空さんへの交際申し込みで、一気に流れが変わって・・・というのが前巻までのお話。

 今回はみごとヒロイン役に大抜擢?の空さんですが、中学校の時にはいじめにあってたという過去を持つ少女。同じく空の恋を応援する(三角関係を面白がってるだけ?)のミーナさんもハーフや母親のことできついことを言われた過去があり。そんな彼女たちの人生を変えた本がビブリオバトルのイベントで紹介されます

〔空さんの紹介した本”ゲームウォーズ(アーネスト・クライン、SB文庫)〕
 人々が”オアシス”と呼ばれるコンピュータの仮想世界にのめりこんでいる未来。”オアシス”を運営する億万長者”ジェームズ・ハリデー”が死亡し、遺言か公開される。それは”オアシス内に隠したイースターエッグを一番先に見つけたものに、遺産のすべてをゆずる”というものだった・・・
 というのが本書のあらすじ。まだ読んでませんけど
 このオアシスを作ったハリデーって人はガチのオタクで、この宝探しを解くにはビデオゲームからRPG、アニメに至るまで80年代のサブカルの膨大な知識が必要だと。で、主人公のウェイドは社会の最下層の人間で希望なんかもてない高校生ですが、この謎に挑戦していくと。空さんの紹介する話に出てくるだけでも、マクロスにエヴァにメカゴジラにと。ウェイドがミッションクリアで手に入れるのが実写版”スパイダーマン”が操縦する巨大ロボット”レオパルドン”(*5)ってんですから、どんだけやねん!!

 こんだけ読んだらとんでもないバカ話に聞こえますが、でも、空さにとっては”あきらめずに戦い続けたら、きっと未来を手にできる”という本書のメッセージが、死んでしまいたいぐらい苦しい状況から救ってくれたと

  確かにこれは荒唐無稽なSFです。オタクの夢です。願望充足です
  でも、未来への希望が詰まっています
  だから、今も苦しんでいる人たちに、
  この小説を読んで、希望を持ってほしいと願います。
  あきらめず、希望を持ってほしいと。
  生きていればいつか、チャンスが訪れるから・・・

〔ミーナさんの紹介した本”ラノベ部(平坂 読、MF文庫)〕
 とある高校にある軽小説部、ライトノベルを愛好するクラブを舞台にした日常系ライトノベル、らしいです。まだ読んでませんけど
 本書の登場人物にボーイズラブ(BL)大好きな腐女子がいて、これに興味を持ったミーナさんがBLに手を出してずぶずぶどころか”垂直にストーン”とBLにハマリましてっと
 上記のようにミーナさんも人と違うことでつらかった過去があるんですが、BLを読むことで”自由”を知った

  でもね、BLを知って変わりました。自由、というものを知りました
  男が男と愛し合ったってかまわないじゃないか。
  そんなマンガや小説を好きになったってかまわないじゃないか
  それどころか、”私はBLが好きだ”って胸を張って開き直ったってかまわない
  素晴らしい世界じゃないか。
  そうだ、他人と違ったっていいんだって--それ以来、人生が少し楽になりましたね

”いきなりそっちに行きますか?!”感はありますが、いいじゃないですか、それで人生が楽になるなら

 まあ、ライトノベルで人生が変わっちゃったってぜんぜんいいんですが、ただな~、最近のライトノベルって全然軽く(light)ないんだよな~。本書で空さんが銀くんから借りた”俺の妹がこんなに可愛いわけがない(*6)”で12巻。名前の出てきた”ソードアート・オンライン”で24巻、”はたらく魔王さま!”で19巻。本書では名前出てませんが”境界線上のホライゾン”なんて26巻というボリュームもさることながら、1冊がとってもぶ厚い!(*7) ゼクシィかおまいわ!!(*8)
 空さんが”ラノベでしょ? 1日2冊は読める”と言ってるように、まあ読むほうはなんとかなりそうなんですが、お財布にゃきついですね。空さんは銀くんから”俺妹”を借りる約束してますが、おぢさんにゃそんな知り合いいないですし(貸してくれそうな女子高生がお知り合いなら、そっちのが問題っぽいですが・・・

 本書を読んでると、確かに”本には、人生を変える力がある”っての信じる気になりますね。”ビブリオバトル部”は本好きにはたまらない本です。ぜひご一読のほどを。

《脚注》
(*1)デビルマン(永井豪、講談社)
 テレビアニメもありましたが、1972~3年に少年マガジンに連載された永井豪の原作のほう。主人公の不動明が親友の飛鳥了の頼みを受けてかつて地球を支配した人類”悪魔”と合体することで人類を救うというお話。当初は美しい裸体の悪魔”シレーヌ”やら居候先の美少女”美樹”ちゃんのお風呂シーンにムフフしてたのが途中から壮大な黙示録の世界に。日本SF・コミック史に残る名作です
(*2)空とぶ家(ウォルター・ホッジス、イラスト 久里洋二、学研プラス)
 ニッキィとリンダは発明好きのベンおじさんの家に遊びに行きました。
 今回のベンおじさんの発明は大型気球用のガス。ちょっとだけ試してみるはずが、うっかりガスが止まらなくなって、家が浮き出しちゃった!!!
 すでに絶版ですので、図書館で探してみてください。名作です
(*3)カールじいさんの空飛ぶ家
(製作総指揮 アンドリュー・スタントン、ピクサー、ウォルトディズニースタジオ)
 頑固者のカールじいさんは、亡き妻エリーとの約束を守るために人生最初で最後の冒険に挑む。それは我が家に風船を大量にくくりつけて家ごと南米に旅にでることだった!
 2009年に公開されたアニメなので私の子供の頃ってことはないです、はい。
(*4)RWBY(監督 モンティ・オウム、ワーナー・ブラザース)
 異形の生命体”グリム”と人類の戦士”ハンター”との戦いを描くSFバトルアニメ。てか、アメリカ版”プリキュアシリーズ”?(男性も出てますけど)。本書ではヒロインの4人をビブリオバトル部の女性陣がコルプレしてます。現在、DVDで見てますが、けっこう面白い! これはまた別の話で
(*5)実写版”スパイダーマン”が操縦する巨大ロボット”レオパルドン”
 1978年に放映された東映の特撮テレビドラマシリーズ。スーパー戦隊シリーズではないものの”ジャッカー電撃隊”の放映後に登場し、等身大ヒーロー=スパイダーマン(マーベル・コミック社公認!)が変形する巨大ロボット”レオパルドン”に乗り込んで戦うという、後のスーパー戦隊モノのフォーマットを確立した記念碑的作品いやマジで
 画像を見たい方はこちらをどうぞ
(*6)俺の妹がこんなに可愛いわけがない(伏見つかさ、イラスト かんざきひろ、電撃文庫)
 勝ち気でかわいいけど”隠れオタク”とその妹や個性的な女性たちに振り回される兄によるコメディらしいです、まだ読んでないんで。電撃文庫の小説で全12巻、コミカライズが電撃コミックスから全4巻、DVD(アニプレックス)が2期16巻、その他スピンオフ多数となかなかのボリューム。作品にはまるとわりとコンプする方なので、うかうか手を出すととんでもないことに・・・
(*7)名前の出てきた”ソードアート・オンライン”~
・ソードアート・オンライン:川原礫、イラスト abec、電撃文庫
・はたらく魔王さま!:和ヶ原聡司、イラスト 029、電撃文庫
・境界線上のホライゾン:川上稔、 イラスト さとやす、電撃文庫
すいません、3作ともまだ読んでません。
しかしまあ、KADOKAWA/アスキー・メディアワークスの本を宣伝してるんだから東京創元社も太っ腹だな~~
(*8)ゼクシィかおまいわ!!
 リクルートが発行している結婚情報誌。とってもぶ厚い。結婚をないがしろにする彼氏を彼女が”ゼクシィの角”で殴るというネタがありますが、とっても痛そうです・・・

ビジネスシーンでも使えそうな”ジャック・リーチャー”の名言 かな?(警鐘/UH-1 ヘリコプター)

 ども、学校で真面目に訓練(勉強)しなかったのであまり出世しなかったおぢさん、たいちろ~です。
 さて、最近”ジャク・リーチャーシリーズ”にはまっています。この小説は元軍の憲兵隊少佐で今は放浪者の”ジャック・リーチャー”がいろんな事件に巻き込まれてそれを解決するハードボイルドな話ですが、軍のメソッドを使って行動するせいかビジネスでも通じそうな名言がけっこう出てきます。”ビジネスも一種の戦争だ”なんて青いことは言いませんが、読んでるとけっこう役に立つというか一度は使ってみたい名言ってのがちらほら。
 ということで、今回ご紹介するのはジャク・リーチャーシリーズの原作第三作”警鐘”から拾った名言集であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。アメリカ軍横田基地のUH-1ヘリコプターです

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【本】警鐘(リー・チャイルド、講談社文庫)
 ”ジャック・リーチャー”を探しに来た私立探偵が殺された。彼の捜索を依頼したのは元上司で恩人でもある”リオン・ガーバー中将”の娘で、かつて恋心をいだいていた”ミセス・ジェイコブ”こと”ジョディ・ガーバー”であった。二人がヴェトナム戦争中にヘリコプターの墜落で行方不明になった”ヴィクター・ホビー”の生死を調べることになるが、その影に会社の乗っ取りを企む陰謀と国家機密に関わる黒い闇が広がっていた・・・
【乗り物】UH-1 ヘリコプター
 アメリカのベル・エアクラフト社が開発した汎用ヘリコプター。愛称”ヒューイ”。本書は現代(原書は1999年発刊)とヴェトナム戦争(~1975年)の間をいったりきたりするんですが、UH-1は物語のきっかけとなったヴェトナム戦争中の撃墜シーンで登場。この機体は1959年にアメリカ陸軍で採用され、ベトナム戦争でも活用され、モデルチェンジを重ねつつ現在でも自衛隊を始め現役で活躍中という超ロングセラー機。ほんとに軍って物持ちいいですな~~


 さて、ビジネスでも使えそうな名言を

〔当面の仕事に集中しろ〕
 悪漢に待ち伏せされている中、ジョディをオフィスに送り届けるリーチャー。相手があまりに隙だらけなので反撃できそうなんですが・・・ というシーンでの言葉。
 当たり前のようですが、色々仕事をしているとこっちのほうもうまくいきそうだとか目移りしることもままあります。状況しだいなんで絶対ではないんですが”二兎を追うもの一兎も得ず”とも言いますし。

なにごともなめてかかるな、って
 上記の悪漢が思いもよらぬ攻撃を仕掛けてきた時のリーチャーの言葉。優秀な刺客を送り込んでくる可能性を失念したことに対しての反省の弁。”リオンにこのヘマを見られていたら私に失望しただろう”とのこと。”油断大敵”とも言いますし

〔われわれの見るところ、SASですね〕
 捜査のためにかつてヴィクターの同僚だったデヴィット将軍を訪れたリーチャー。そこの基地で門番をしていた軍曹に”将軍はどんな感じの人だ”と質問。で、軍曹の答えがこれ。SASは”Stupid Asshole Sometimes(*1)”の略で日本語だと”ときどき愚かなことをするアホなやつ”。あまりお上品な言葉じゃなさそうですが、リーチャーは”好意的”との評価

  自分をみくださずにきちんと接してくれれば、
  こちらも協力的になれる上官、ということだった

上官たるもの、部下には多少の隙を作っとかないといけないのかも。”優れたリーダーは部下に弱みを見せる”とも言いますし。まぁ、逆も言うんですけンド・・

〔勇気のあるやつは、恐怖心を克服できる男だ。ヴイックは、何も感じない男だった〕
 同じくデヴィット将軍がヴィクター(ヴイック)を評しての言葉。勇気があることと、なにも感じないことば別で、ヴィクターは後者だと。それでも(それゆえ)、ヴィクターって人はヘリのパイロットとしては優秀だったようです。”恐怖は心を殺すもの(*2)”とも言いますし。

〔狭いグラウンドで、これが野球というものだと教わって、
  つぎにはメジャー・リーグでプレーさせられるようなものだ〕

 同じくデヴィット将軍の言葉。訓練所でトップの成績で卒業した若き日の将軍ですが、実戦ではヴィクターのほうが優秀だったと。ヴィクターは”UH-1 ヒューイ”のパイロットとしてヴェトナム戦争に赴き、実戦に即したやり方を開発してそれが標準操作手順に採用されるほど優れていたとのこと。ヴィクターの優秀さを表すのに使ったのがこの言葉。

  私たちは訓練ですべてを学んだ。言わば極めた。
  だが、じつはあんな訓練はなんの役にも立たなかった
  狭いグラウンドで、これが野球というものだと教わって、
  つぎにはメジャー・リーグでプレーさせられるようなものだ

で、自分達がそうだったようになんの準備もなく若者たちを戦場に送りたくないと将軍はヘリの養成所の運営やってます。まあ”実戦証明済み(*3)”が重要とも言いますし

〔なぜまちがったなどと考えるな。ただまちがいを正せばよい〕

 拉致されたジョディを助けるために閉じ込められている部屋の前で悩むリーチャーが思い出したリオンの言葉。前作の”キリング・フロアー(*4)”でも、犯人探しや原因分析ななど”そんなことはあとでやればいい”という言葉が出てきますが、どうも陸軍のメソッドは行動第一主義のようです。”First things first(最初にやるべき大切なことは最初に)”とも言いますし

〔一度だけ訊け、どうしても必要なら二度訊け。だがぜったいに三度訊いてはならない〕
 上から続いて部屋に突入したリーチャーが悪漢の部下を捕まえて、”協力するか、死ぬか”を選択させる質問をしたシーン。この言葉はリオンの教えから。二度訊いても抵抗するようなら何度訊いても無駄だから時間を浪費するなということでしょうか? これが敵ならまあ許されるかもしれませんが、部下との間でここまで厳しくやったら、けっこう軋轢ありそうだな~~ ”仏の顔も三度まで”とも言いますし。(仏様は優しいので一回分増量のようです)

〔放浪の最大のよさは、選択肢などいっさいないことを
  幸せな気分で受動的に受け入れることなのだ〕

 リオンに遺産として家を譲られ、ジョディと良い雰囲気になっているリーチャーのモノローグ。このまま、ジョディーと一緒に暮らすか放浪の旅に戻るか逡巡するシーンから。 結局、リーチャーが怪我で入院したこともあって、ラストシーンはジョディーと一つ所に落ち着くような雰囲気ですが、次回作があるってことはやっぱり放浪生活にもどんだろうなぁ

 ということで、次回作は映画の原作にもなった”アウトロー(*5)”に続きます

《脚注》
(*1)Stupid Asshole Sometimes
 ”Stupid”は愚かな、ばかな、”Asshole”は直訳すると”尻の穴”でスラングとしては”嫌な奴”
(*2)恐怖は心を殺すもの
 ”デューン 砂の惑星”(フランク・ハーバート、早川文庫)より
(*3)実戦証明済み
 ”コンバットプルーフ(Combat Proof)”、”バトルプルーフ(Battle Proof)”とも。武器などが実戦で使用され、その性能や信頼性などがカタログスペックどおり(またはそれ以上)であることが証明されること。ビジネス現場で学校の成績が良いからといって、実績が上がるかというとそうとは限んないんでしょう。それ以前に”学校の成績が良かったかどうか”なんて話題がそもそも出てきませんし。
(*4)キリング・フロアー(リー・チャイルド、講談社文庫)
 ジョージアの田舎町で元軍人、今は放浪者の”ジャック・リーチャー”は身に覚えのない殺人容疑で逮捕される。釈放された彼だったが、殺された男が兄であり、財務省で通貨偽造を捜査していたことを知る。彼は刑事部長の”フィンレイ”と女性巡査の”ロスコー”とともに見えない敵に迫っていく・・・ 詳しくはこちらをどうぞ
(*5)アウトロー(監督 クリストファー・マッカリー、主演 トム・クルーズ、パラマウント)
 ピッツバーグ近郊で起きた銃乱射事件で、元米軍スナイパーのジェームズ・バーが逮捕される。証拠はすべて揃い、事件は解決へ向かうかに見えた。しかしバーは黙秘を続け、「ジャック・リーチャーを呼べ」と紙に書いて要求する・・・
 2012年にトム・クルーズ主演で公開された映画。原作では9作目。

”霊的な祝福付き”の首都大改造計画、ってありでしょうか?(帝都物語/日本橋)

 ども、自分の結婚式はキリスト教ですが、葬式はたぶん仏教になりそうなおぢさん、たいちろ~です。
 おそらく、日本人ってのは世界でも類をみないほど宗教や占い、おまじないに関してよく言えば寛容、悪く言えば無節操な国民性なんじゃないかと思います。
 生まれたら神社にお宮参りに七五三、結婚式はキリスト教、葬式は仏教。正月に初詣に行って、夏にはお盆、秋にはハロウィン(*1)、年末の一大イベントがクリスマス・イブ。神社に行けばおみくじを引くけど、恋愛運は星占い、結婚式や葬式は六曜にこだわるけど、家を買う時は風水云々言い出すし。まあ、バレンタインデーみたいなマーケティングの勝利!(*2)みたいのもありますが。
 こんだけ無節操だと”霊的に祝福された都市計画”なんつ~のも滑稽無糖って訳でもないのかな~なんて。まあ、議会で予算が通るかどうかはビミョ~ですが。
 ということで、今回ご紹介するのはそんな都市計画から始まるサイキック奇伝小説”帝都物語”であります


写真はたいちろ~さんの撮影。東京の日本橋(上)と欄干に飾られている麒麟です。

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【本】帝都物語(有栖川有栖、日本経済新聞出版社)
 明治40年、東京を軍事のみなならず霊的にも祝福された都市に改造する、渋沢栄一を中心に秘密裏にプロジェクトが開始された。集められたメンバーは天皇家に使える”土御門一門”、理学博士”寺田寅彦”、平将門の復権を目指す”織田完之”、若き大蔵官僚の宮辰洋一郎”など。そして陸軍からは陰陽道にも通じる”加藤保憲”の姿もあった・・・
 平将門の怨霊により帝都破壊を目論む”加藤保憲”とその野望を阻止すべく立ち向う人々との物語がここから始まる(第一巻”神霊編)
【旅行】日本橋(東京)
 東京都中央区の日本橋川に架かる橋。読み方は”にほんばし”。大阪にも道頓堀川にかかる”日本橋”というのがありますが、これの読み方は”にっぽんばし”。初代は1603年(慶長8年)に徳川家康の全国道路網整備計画によって作られた五街道の起点。そのため、今でも国道1号線を始めとする7つの国道の起点となっています。

 さて、”帝都物語”の第一巻ですがまずは主要キャラクターの登場編。上記以外にも文学者の”幸田露伴”に”森鷗外”、物理学者の”長岡半太郎”、地政学者”カール・ハウスホーファー”など、実在の人物がキャラクター化して話を紡ぐってのは”文豪スレイドックス(*3)”の御先祖様って感じでしょうか?

 本作の悪役といえば”加藤保憲”。あらゆる魔術に精通し、陰陽道を始め暗殺術の蠱毒だの式神使いもよくし、剣も達人。中国語や朝鮮語にも通じてるんだから大陸進出には重宝されたんでしょうな。確かに有能な人のようで登場時には陸軍少尉ですぐに中尉に昇進しています。
 悪者感満載の”加藤保憲”ですが、ちょっと意外だったのはこの人少尉とか中尉ってことで軍隊組織の中では意外と偉くないんですな。態度はLサイズで、大佐ぐらいの感じなんですけど。本を読んでいて困るのが”組織の中での地位”ってのがけっこう分かりにくいことです。これによって組織の中での権力(意志決定への影響力、動員できるリソースなど)がどの程度あるかが決まるンでリアリティが違ってきちゃうんで。調べてみると時代や組織でかなり異なりますが”少尉”だと小隊長(10~50人)、”中尉”だと中隊長(4個小隊相当 200人程度)だそうです。現在の会社組織だと200人の部下がいるならかなりの偉いさんですが・・・ 偉そうな加藤中尉ではありますが、原隊に帰れば中間管理職としていろいろ苦労してんでしょうかねぇ・・・

 さて、第一巻のメインの話は東京を”霊的に祝福された都市”に改造するための基礎設計をするってことです。渋沢栄一をリーダーとするプロジェクトですが、初期段階なんで防災計画の専門家、裏付けとなる財政の担当者、防衛の観点から軍部の関与なんかはわかりますが、これに”霊的”が混じると陰陽道の専門家が入るわ、なぜだか物理学の専門家まで。まあ、こんだけ専門の違うメンツを集めてのプロジェクトだからまとめんの大変だろうな~~ という出だしです

 ところで、平安時代や江戸時代ならともかく、”霊的に祝福された建築”なんてできるかというと実は近代でもあったりなんかするんですな。その一例が本書の中でもちらっと出てくる”日本橋”がそれ。写真では上に走っているのが首都高速道路でその下が日本橋です。橋のたもとにあるのが”獅子”で、橋の中央にあるのが霊獣”麒麟”。麒麟は東京市の繁栄を、獅子は守護を表しています(中央区教育委員会の看板より)。橋の完成は1911年(明治44年)で、時代的には日露戦争終了後(1905年)、江戸幕府が締結した不平等な”日米修好通商条約(*4)”から脱却し新しい”新日米通商航海条約”を締結した年で、議会制民主主義を推進する第一次護憲運動(憲政擁護運動 1912年~)の直前あたりです。日本史の授業でやりましたが覚えてますか? 私はまったく忘れてましたが
 ”合理主義”的なメンタリティとしては江戸時代よりは現代に近いと思われる時代なんですが、それでも守護獣たる”獅子”や霊獣たる”麒麟”が登場するんですな。”橋”を”河川を横断する道”という機能に限定すれば多少の意匠はあっても獅子や麒麟である必要はないはずなんですが、それでもこの獣にしたのはやっぱり”霊的な祝福”を望むメンタリティが色濃くあるんではないかと。さすがに現在で”霊的に祝福された都市計画”を正面切って国会や東京都議会に提出したら会議はけっこう紛糾しそうだし、ネットでは格好の炎上ネタになりそうですが、個別建築物の意匠レベルで極小化しちゃえば意外とすんなり通っちゃうかも。まあ、最後は小○さん次第ってことになりそうですが・・・

 本書の中で語られる都市計画のなかでユニークさでは出色なのが”寺田寅彦”の提案した”地下都市構想”。約100尺(約30m)の地下に建築物の基礎を作って帝国の中枢建築物を移し地下道路や鉄道で結んで、地上には緑地や水路を作るというもの。渋沢栄一はノリノリですが、大蔵官僚の宮辰洋一郎は渋い顔ですが、当たり前です。国家財政の困窮でストップしていたのが、事業公債の発行でやっとこ財源の裏付けできたのに、地下都市なんか作った日にゃいったいいくら掛かるネン!!
 現在、2020年の東京オリンピック目指して首都高速道路の老朽化対策をどうするかの議論をやっていますが、高架のまま改築すると約1,400億円で、地下化すると約5,000億円かかるんだとか。予算ベースでこれですから実際にやったらもっと掛かるんでしょうね。たかだか道路の改修工事でこんだけかかるんだから、街ごと地下化すればいったいどんだけ掛かるんでしょう?? 学者の論としてはありうるんでしょうが、国家財政を預かる大蔵官僚としては”はい、わかりました”と言えるシロモノではないんだろ~な~

 ”帝都物語”における加藤保憲の悪者話はこれからのようですが、前から一度読んでみたかったので(*5)、これからが楽しみです

《脚注》
(*1)ハロウィン
 最近盛り上がっているハロウィンですが、元々は古代ケルト人が起源の秋の収穫祭り兼悪霊なんかから身を守る行事。でも、正確に理解できる人ってどれぐらいいんだろ? どう見ても政府公認のコスプレイベントとしか思えんが・・・
(*2)バレンタインデーみたいなマーケティングの勝利!
 元々はローマ皇帝の迫害下で殉教した聖ウァレンティヌス(バレンタイン)に由来する記念日ですが、日本式の女性から男性にチョコレートを贈るというのはモロゾフ製菓が考案したんだとか。まあ、土用の丑の日にウナギを食べるを定着された平賀源内みたいなもんかと。
(*3)文豪スレイドックス(原作 朝霧カフカ、作画 春河35、角川コミックス・エース)
 横浜を舞台に異能と呼ばれる超能力を駆使して戦う福沢諭吉率いる”武装探偵社”と森鷗外をボスに仰ぐ”ポートマフィア”の抗争を描くサイキックアクションコミック自殺マニアの太宰治やらやたらコンプレックス丸出しの芥川龍之介など、文豪をイメージしたキャラ設定が秀逸。お勧めです。
(*4)日米修好通商条約
 1858年(安政5年)に日本とアメリカの間で結ばれた通商条約。日本に関税自主権がないなど不平等な内容でした。で、関税自主権を回復したのが”新日米通商航海条約”(1911年)です。
(*5)前から一度読んでみたかったので
 本書は1985年の発表、1987年に日本SF大賞受賞、映画がヒットしたのが1988年なんで、30年近くほったらかしにしてたんだなぁ。ちなみに本書を読む気になったのは、”虚実妖怪百物語(京極夏彦、KADOKAWA)”のモトネタだったから。こちらも面白い本。詳しくはこちらをどうぞ。

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