小説

潜水艦は”沈む”ではなくて”潜る”。ではオスプレイは”墜落”なのか”不時着”なのか?(クジラの彼/オスプレイ)

 ども、ブログを書くのに”言葉”を大切にするおぢさん、たいちろ~です。
 2016年12月13日に沖縄の海岸近くにオスプレイが落っこちました。何かと話題になる機体ではありますが、今回の報道で気になったのが同じ事象について登場する人やマスコミによって言葉の使い方がまったく違うんですな。沖縄県や一部のマスコミは”墜落”という言葉を使い、アメリカの司令官や日本政府、他のマスコミは”不時着”という言葉を使い。朝日新聞の天声人語(2016年12月15日)では、アメリカ軍と日本政府が”不時着”という言葉を使うのは”正常性バイアス(*1)”ではないかとう論調で書いてたんですが、ある本を思い出してそ~なんか~とちょっと気になりまして。
 ということで、今回ご紹介するのはOLと自衛官のレンアイを描いた有川浩の”クジラの彼”であります。

写真はたいちろ~さんの撮影。
2015年の横田基地日米友好祭(*2)で展示されていたオスプレイ(MV-22)です

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【本】クジラの彼(有川浩、角川文庫)
 平凡なOL”中峰聡子”が人数合わせで参加した合コンで潜水艦乗りの自衛官”冬原春臣”と出会う。彼女の何気ない一言で意気投合した二人。行方がわからない、いつ帰ってくるかもわからない、メールも電話もほとんどつながらないというハードル高い春臣の職場環境の中、二人のレンアイの行方は??
 名作”海の底(*3)”のスピンオフ、自衛隊系ベタ甘ラブコメです。
【乗り物】オスプレイ(V-22)
 アメリカのベル・ヘリコプター社とボーイング・ロータークラフト・システムズが共同で開発した垂直/水平飛行が可能な垂直離着陸機。可変式のティルトローターが特徴。カテゴリーとしては”輸送機”になります。
 アメリカ海兵隊所属だと”MV-22”アメリカ空軍所属だと”CV-22”と別の組織による運用。事故率が高いと言われているのは”CV-22”の方。任務が違うので一概には言えませんが、これとて他機種に比べてことさら高い訳ではないとの意見もあります(wikipediaより)。細かい話のようですが、このへんもごっちゃにすると話がかみ合わなくなるので・・・


 さて、上記の潜水艦の話題での中峰聡子と冬原春臣の会話から。

  春臣 :潜水艦乗りからすると世間の人って二種類に分かれるんだよね。
       潜水艦が『潜る』って言う人と『沈む』って言う人。
       素人さんは半々ぐらいの確率で『沈む』って言いがちなんだけど、
       君は違うんだなって
  聡子  :え、だって クジラが沈むとか言わないじゃない
  春臣  :・・・そこで更にクジラが出てくるか

        (中略)
  春臣  :潜水艦はね、沈むって言わないの。必ず浮上するから。
       潜水艦乗りの生理として沈むって言われるのは我慢ならないんだよね。
       潜水艦が沈むのは撃沈されたときだけだから
  自衛官:・・・しつこいようですが、潜水艦は『潜る』です

 外見的には”潜水艦が海上から水中に進んでいく”という事象でありながら、立場が違うと似たような言葉でもまったく違うニュアンスになるってことです。

 てなことを踏まえて、今回のオスプレイの事故をつらつらと。報道されている内容を最大公約数でみると

 ・12月13日に、アメリカ海兵隊の新型輸送機オスプレイ(MV22)が
  沖縄県名護市沖に着水、大破
 ・市街地への直接的な被害はなし。パイロット等は無事脱出

あたり。この事象に対して、沖縄としては

  海上に”墜落”して大破している。そんな危ない飛行機を我々の上空で飛ばすな!

だし、アメリカ軍としては

  あれだけ機体が損傷していても県民や搭乗者に被害を出さなかったで”不時着”
  オスプレイやパイロットが優秀さの証明で、表彰ものだ!

というとこでしょうか。
 飛行機が操作不能あるいは困難な状況の中で目的以外の場所に着地することを指すことまでは同じでも、”墜落”は最悪の事態を引き起こしたってニュアンスがあるのに対し、”不時着”となると最悪の事態を回避できたってニュアンスで使われる言葉じゃないかと。ですんで、御巣鷹の尾根に突っ込んだジャンボジェットは”墜落事故”と呼ばれるし(*4)、一人の死傷者も出さずにハドソン川に不時着したエアバスA320は”ハドソン川の奇跡”と称賛されることになります(*5)。両機長とも最悪の事態を避けるべく最大限の努力を行ったことは想像に難くないですが、結果によって使われる”言葉”が違ってしまうのは仕方がないとはいえ、残念なことでもあります。

 今回の事故に関して言えば、発言する人の立場も違うし、事象へ評価姿勢も違うので使われる言葉が異なるのはわかりますが、言葉の使い方をちゃんと踏まえとかないと重要なモノが見えてこないんじゃないかとちょっと不安になります。マスコミですら半月近くたった今でも、”墜落”を使っているとこと”不時着”を使っているとこが混在。議論がかみ合あっていないのがわかります。

 ことわっておきますが、私は”墜落”か”不時着”のどっちの言葉が適切かとか言うつもりはないし、アメリカや沖縄のどっちかに与するモンでもありません。事故を起こすことは避けなければならないし、事故に対する原因究明と再発防止が重要な課題だと思っとります(だから炎上などさせないように!) ただ、”言葉”がなんとなく軽く使われているんじゃないかな~という昨今の状況をちびっと気にしているだけであります。

《脚注》
(*1)正常性バイアス
 事故や災害が起こったとき「きっと大したことじゃない」と自らに都合よく解釈し、事の深刻さを見誤ることをいう。同時多発テロの時、高層ビルから「ここは大丈夫」。「すぐに収まる」という思い込みで避難しなかった人がいたのもこの心理によるもの(本紙より抜粋)
(*2)横田基地日米友好祭
 毎年9月に横田基地でアメリカ空軍/航空自衛隊により開催される基地開放のイベント。マニア垂涎の航空機の展示や飛行訓練の様子を見ることに加え、都心からのアクセスも良いことからけっこうな人出。福生市観光協会のhp(2016年度)はこちら
(*3)海の底(有川浩、角川文庫)
 横須賀米軍基地が巨大な甲殻類に襲撃された。次々と人が襲われていく中、海上自衛隊潜水艦”きりしお”の夏木三尉、冬原三尉は逃げ遅れた少年少女とともに潜水艦に避難する。一方、神奈川県警の明石警部と警察庁烏丸参事官は状況を打開するためある秘策を実行する・・・
 有川浩の”自衛隊三部作”の”海”オチオシの名作です!
(*4)御巣鷹の尾根に突っ込んだジャンボジェットは~
 1985年8月12日に羽田発伊丹行きのボーイング747が御巣鷹の高天原山の尾尾根(通称御巣鷹の尾根)に墜落した事故。乗員乗客524名中520名が死亡するという惨事となりました。
(*5)一人の死傷者も出さずにハドソン川に不時着したエアバスA320は~
 2009年1月15日にニューヨーク発シアトル行きのUSエアウェイズのエアバスA320がエンジントラブルによりハドソン川に不時着水した事故。
 2016年にクリント・イーストウッド監督、トム・ハンクス主演で”ハドソン川の奇跡”として映画化。この映画もまだ観ていないなぁ。

”理系あるある”の名探偵と犯人、似た者同士なんでしょうか?(すべてがFになる/UNIX)

 ども、人生すべてがFinishしそうなおぢさん、たいちろ~です。
 先日、森博嗣の”作家の収支(*1)”という本を読みました。まあ、それは普通なんですが、問題はこの人の小説をまったく読んだことながなったんですな。けっこうなベストセラー作家で300冊近い小説を出しているにもかかわらずです。これは本読みとしては猛省せねばならん! ということでさっそく代表作を。
 ということで、今回ご紹介するのは森博嗣のデビュー作にして代表作”すべてがFになる”であります。

写真はたいちろ~さんの撮影。
カリフォルニア大学バークレー校
(UCB University of California,Berkeley)のセイザータワー(Sather Tower)です。

本書には関係ないんですが、行ったことあるので自慢したくて載せました。すいません

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【本】すべてがFになる(森博嗣、幻冬舎新書)
 孤島にある研究所の密室で天才工学博士”真賀田四季”が死体となって発見された。偶然、居合わせた建築学科の助教授”犀川創平”と彼の生徒である建築学科1年生”西之園萌絵”はその謎を解こうとするが・・・
 1996年に出版、第一回メフィスト賞(*2)を受賞した理系ミステリーの名作です
【コンピューター】UNIX
 本書にコンピューターのOSとして”レッド マジック(red magic)”というUNIX系のオリジナルバージョンが出てきます。このUNIX系のバージョンのひとつが上記のUCBで開発された”BSD(Berkeley Software Distribution)”。多数のノーベル賞受賞者を輩出し、孫正義をはじめとするハイテク系企業の起業者も多い名門大学とタメはることをやってんですから真賀田四季ってのはやっぱ天才なんでしょうな。
 ちなみにUNIXライクなLinuxというOSのディストリビューションに”レッド ハット(Red Hat)”ってのが実在します。(提供するレッドハット社の起業は1993年)

 さて、本書の建てつけは”密室の謎とき””孤島モノ”といわれるジャンルになります。交通や通信が途絶し、出ることも入ることもできない孤島や閉ざされた館の中で次々起る殺人事件・・・ ってとこですが、従来の孤島モノと違うのが、古びた洋館じゃなくて孤島にある最新のコンピューターで制御されたハイテク研究所が舞台だって所です。密室を証明?するのに画像データや操作ログを確認するだの、メール発信ができない原因を調べるのにプログラムをチェックするだの、普通の推理物とはかなり違うアプローチ。それ以外にもロボットに殺人ができるって話題は出てくるわ、自然言語解析によるコントロールを実用化してるだとかテクノロジーの話題が満載。さすがに1996年の出版なのでIT系のガジェットは一昔前のものもありますが、そんなに古いって感じじゃないです。

 本書は”理系ミステリー”と称されているそうですが、こういうテクノロジー系の話題が多いからかって~と、読んだ感じはちょっと違うかな。確かに本書は探偵役にワトソン役が建築学、殺された真賀田四季を始め研究所の人はコンピュータ関係者、本書では唯一文系の記者”儀同世津子”もパズル好きと理系資質、登場人物がほとんどすべて”理系”の人です。じゃあ理系を集めると理系ミステリーになるかというとそんなことはないわけで、キャラクターが”理系あるある”っぽい造詣だってことのほうが大きいからでしょうか。
 推理小説の”推理”ってのは”ことわり(理)を推し量る”ですんで、名探偵の多くは与えられた状況に対して分析的で推論を組み立てる、つまり”理系的なアプローチ”をやっています(やっていない人もいますが(*3))。ですんで、名探偵が理系的であることには感心しないんですが、本書に出てくる人達の感情や行動パターンがあまりにもあまりにも”理系あるある”っぽいんで。
 偏見に満ちた”理系あるある”がこんな感じ

〔殺人事件ごときでは動揺しない〕
 さすがに死体を見つけたすぐは動揺をみせていますが、すぐに日常モードに移行。だって、手足を切りとられたウェディングドレスを着た死体ですぜ、これ。普通だったら冷静か行動なんかできないんじゃないかと

〔殺人犯がいるはずなのに、あんまし心配していない〕
 ”孤島モノ”の最大のドキドキポイントは、今いる人の中に殺人犯がいるってこと。”次は自分が殺されるかもしれない”という不安や、”犯人はあいつかもしれない”つ~疑心暗鬼がいやがうえでもストーリーを盛り上げるモンですが、そんな様子は皆無。文系だったら、もっとオロオロしそうですが・・・

〔コンピューターを全面的に信じていない〕
 密室トリックを調べるのにやってるのが”プログラム改竄”や”バグ探し”。さすがに最近は”コンピューターは間違えない”と思う人は少ないでしょうが、このアプローチは理系ならではかも。

〔ホワイダニットよりハウダニット〕
 推理小説ってのはおおまかに”フーダニット(Whodunit 犯人は誰か)”、”ホワイダニット(Whydunit 犯行の動機は何か)”、”ハウダニット(Howdunit どのように犯行を行ったか)”に分類されます。で、本書の特徴は完全に”ハウダニット”偏重。”ホワイダニット”が完全に希薄なんですな。まあ、やり方がわかれば誰が、なぜが解き明かされるんでしょうが、”なぜ(何のために)”という話はほとんどなし。てか、謎ときが終わった後でも”なんでそんなことの為に殺人まで犯して!?”と感じちゃうレベルです。まあ、”ホワイダニット”がないから、自分が殺されるって危機感が薄いのかもしれません。

〔存在場所がどんどんバーチャル〕
 本書の冒頭でディスプレイを介した面談てのが出てきます。だいたい面談って目の前に人間がいるモンだと思いますが、これだと相手の人がどこにいるかは問わない状態。後半になると謎とき場面で、ゴーグル型ディスプレイを使ったヴァーチャル・リアリティってのが出てきます。まあ、技術自体は1990年代前半には存在していたし(*4)、登場人物がぜんぜん違和感なく使っているのはいいんですが、問題はシステムがネットワークに接続されるとアリバイを含めたリアルな所在場所の感覚が希薄になるんですな。しかも、それに違和感を感じてなさそう。このへんのネットワーク当たり前感覚は理系的かも。
 ”名探偵、皆を集めてさてと言い”という川柳がありますが、すでにリアルで集まる必要すらないわけで。集まった人の前で”犯人はお前だ!”ってカタルシスすらないんだから・・・ 

 犯人による、犀川助教授の評価

  貴方の回転の遅さは、貴方の中にいる人格の独立性に起因しているし
  判断力の弱さは、その人格の勢力が均衡しているからです
  でも、その独立性が優れた客観力を作った。
  勢力の均衡が指向性の方向に対する鋭敏さを生むのです

 まあ、名探偵をこんな風に分析した犯人ってそういないんじゃないかな。しかも、犀川助教授は”分析していただいて光栄です”と肯定モード。犯人とどこが違うのかという質問に対し”よく似たアーキテクチャーのCPUですけれど・・・”と返すとこなんか似た者同士なんでしょうなぁ

 本書はS&Mシリーズとしてまだまだ続くようですので、がんばって読んでみましょい!


《脚注》
(*1)作家の収支(森博嗣、幻冬舎新書)
 ベストセラ作家と呼ばれながらこれといった大ヒット作もないマイナな作家(本人申告)な”森博嗣”による、自身の収入(印税+もろもろ)と支出(経費)に関する考察。
 詳しくはこちらからどうぞ
(*2)メフィスト賞
 講談社による”面白ければ何でもあり”の文学新人賞(wikipediaより)
 本書以外にも西尾維新(クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い)、辻村深月(冷たい校舎の時は止まる)、新堂冬樹(血塗られた神話)なんてのが受賞。このへんもまだ読んでないな~~
(*3)やっていない人もいますが
 最近読んだのだと、京極夏彦の”百鬼夜行シリーズ”に登場する私立探偵”榎木津礼二郎”なんかがこれ。人の記憶を見る能力を持っているため、推理もなんもないというトンデモ迷探偵です。
(*4)技術自体は1990年代前半には存在していたし
 ただし、リアルに近づけようとするとけっこうな処理能力が必要(最近ではゲーム機でもやってますが、最近のゲーム機の能力ってすごいんですぜ!)。本書の中で背景を雲にすることで計算量を節約しているという記載がありますが、当時のコンピュータの性能を考慮しててほほえましいです、はい。

”小説家で食っていけるか?”どうかを考えるには参考になる本です(作家の収支/ダンボー)

 ども、密かにベストセラー作家になることを夢見るおぢさん、たいちろ~です。まっ、妄想ですけど。
 ”ブロガー”を強引に”表現者”だと言いきってしまえば、”小説家”だの”エッセイスト”なんぞになって見たいと思うこともあろうかと。まあ、小説を書くだけだったらがんばりゃできんこたなさそうだし、発表するだけだったら、自分のホームページに掲載すりゃ”発表”したと言いきれるし。ここまではOKなんですが、”××家”と名乗る以上食えないまでも、収入になってなきゃ恥ずかしいかと。このハードルってけっこう高そうなんですな。そもそも作家ってどれくらい稼いでるんだっけ? ってことすらよくわかりません。
 ということで、今回ご紹介するのはそんな作家の収支報告に関するお話”作家の収支”であります。

写真はたいちろ~さんの撮影。

2015国際ロボット展(*1)”で見かけた”ロボダンボー”です。

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【本】作家の収支(森博嗣、幻冬舎新書)
 ベストセラ作家と呼ばれながらこれといった大ヒット作もないマイナな作家(本人申告)な”森博嗣”による、自身の収入(印税+もろもろ)と支出(経費)に関する考察
 ちなみに、19年間に出版した本は278冊、総部数約1400万冊、稼いだ総額は約15億円だそうです。
【道具】ダンボー
 あずまきよひこの漫画”よつばと!(*2)”登場するロボットというかダンボール製の着ぐるみ。よつばの友達の恵那とみうらが作成。写真の”ロボダンボー”はダンボーをホントにロボットにして動かしちゃうというお茶目なスグレモノ。作製している”ヴィストン”のhpによると11個のサーボモータによりうなずく、首をふる、首をかしげるなどの動きが可能とのこ
と。

 先に謝っときます。実は森博嗣の本読むのこれが初めてで、代表作の”すべてがFになる(*3)”すら読んでおらず、森雅裕(*4)とごっちゃにする始末。心入れ替えて今度読みます。

 森博嗣という人は本人はベストセラ作家ではないと言ってますが、実際には2010年の”Amazon10周年記念 人気商品ランキング”の和書部門20名に選出され、Amazon仕様の”ダンボー”(*5)を贈呈された作家ですんで、まあ、日本でも有数の作家のひとりと言えます(すいません、私はまだ読んでないけど)。

 さて、本代もとい本題に戻って作家の収入の話。本書によると、大まか収入は”印税”、”原稿料(雑誌への掲載、ブログ等)”、”講演料”、”著作権料(漫画、映画、ノベルティ他での使用許諾)”、”対談料”など、どの収入が多いかは人それぞれだそうです。原稿料は1枚4,000~6,000円ぐらいだそうで、ベストセラー作家とそれ以外の人の差が1.5倍程度しかないってのは大きいと見るか小さいと見るか・・・

 よく名前の出る”印税”ですが、これは本の値段に対する作家の取り分。ですんで

 印税 =(本の単価 × 売れた冊数) × 印税率

つ~計算になります。印税の率は出版物の形態により異なっていて

 ・単行本   :10%(雑誌などに発表された場合)
 ・文庫/ノベルズ:10%(最初から文庫だと12%)
 ・ライトノベル:8%(イラストレーター 2%)←噂です
 ・書き下ろし :12%
 ・電子書籍  :15~30%(定価の15%、最終価格の30%)

 面白いのが、どの作家や売れ行きに関わらず印税率は一定で、印税は印刷された部数に対して支払われるんだとか(電子書籍は実売数に対して支払われる)。
 この式でいうと、とにかく”本が売れなきゃお金にならない”、逆に言うと”本が売れれば「不労所得」” まあ、本書でも”不謹慎な言い方”とことわっていますが、作家は追加の労働なしで、出版社は輪転機を回せば商品ができる(限界コストが低い)ので、美味しい商売になると。     松田奈緒子の漫画”重版出来!(*6)”で増刷が決まると大喜びしてますが、作品が世に中に受け入れられたってのもありますが、実利的な部分も大きいんでしょうね。

 ここまで書いててふと思ったんですが、本の形ってこれからどうなってくんでしょう? 一般的には、”単行本→ノベルズ→文庫”の順に出版されて、お値段も”単行本>ノベルズ>文庫”になってます。販売部数もほぼほぼこの順番みたい。でも電子書籍化が進んでいる昨今、本の形にこだわる必要があるんでしょうか?
 ”ライトノベル”というジャンルはマーケットが中高生中心(まあ、大きいお友達もいますが)ってこともあるのか、ほとんど文庫版で出版されているみたいですが、これって”単行本”で出版する(電子書籍版なら単行本の価格で販売する)のってどうなんでしょう?
 最近読んだ初野晴の”惑星カロン(*6)”って本があるんですが、これは”ハルチカシリーズ”っていう青春ミステリーの1冊。これを”ライトノベル”ジャンルとするかどうかはありますが、高校生が主人公のミステリーで、実際読んでみた感じはラノベっぽいし、深夜アニメ化やマンガ化で萌え絵系にもなっているんで、まあ中高生がメインターゲットだとは思います。この本の表紙の変遷ってのがユニークで

 単行本:女子高生の写真が表紙など
 文庫本:表紙イラスト 丹地陽子
 文庫本:表紙イラスト 山中ヒコ(現在はこのバージョンに戻ってます)
 文庫本:表紙イラスト アニメ版(P.A.WORKS制作のアニメバージョン)

実物が”その日、その時のはまり事”のhpに載ってたんで見比べると、出版社側が”文芸→ジュブナイル→一般小説→ライトノベル→一般小説”として売ろうとしてる意図がなんとなく透けて見えそうな・・・
 でもね~、中高生に売りたいんだったら初手から低価格の文庫と電子書籍で出してくれたっていいんじゃないかね~ とか思っちゃいます。まあ、おぢさんも読んでるけど。
 1冊ごとの収入を増やすか、価格を下げて売れる数を増やして収入を伸ばすかは出版社と作家の戦略なんでしょうが、読み手の側から見ると単価を下げてもらった方が助かるんですけどねぇ

 さて、小説家になりたいと思う人にとって最大の問題は”小説家で食っていけるか?”かどうかでしょう。他に収入があって別に印税だけで生活することができればいいんでしょうけど、”プロ”と名乗りたいならそれなりの収入を小説家として確保したいもの。そのへんの話を含め、本書は役立ちそうです。
 この業界に興味のある方は、ぜひご一読のほどを。

《脚注》
(*1)2015国際ロボット展
 2015年に東京ビックサイトで開催されたロボットショー。446社が参加し、人型ロボットから、最新の産業工作機械などいろんなジャンルのロボットが展示・デモされていてけっこう楽しめました。次回は2017年11月に開催されるそうです。hpはこちら
(*2)よつばと!(あずまきよひこ、電撃コミックス)
 5歳の女の子”よつば”と”とーちゃん”が織りなす日常を描いた漫画。トラマチックな何かがおこる訳でもなく、爆笑するようなネタがある訳でもないにもかかわらず、面白んダよな~~。読むとなんだか幸せな気分になる本です。
(*3)すべてがFになる(森博嗣、講談社文庫)
 犀川助教授とお嬢様学生萌絵によるミステリィ。森博嗣のデビュー作にして最大のヒット作。今、読んでます。総出版部数 約78万部、印税合計6,000万円(本人申告 電子書籍除く)
(*4)森雅裕
 ”モーツァルトは子守唄を歌わない”で江戸川乱歩賞を受賞した推理小説家。クラシックをテーマにした作品なのに講談社文庫版の表紙が”パタリロ”の魔夜峰央というアンバランスさで、こっちも読もうと思ってたのにまだだな~ (講談社文庫版はすでに絶版。ワニの本版で読むことはできるみたいです)
(*5)Amazon仕様の”ダンボー”
 ダンボーの頭が”Amazon”の箱になっているフィギュア。本書には写真が掲載されています。”Amazon”=ダンボール箱でお荷物届くイメージなんで、けっこう素敵なアイデアだと思います!
(*6)重版出来!(松田奈緒子、ビッグコミックス)
 新人女性漫画編集者”黒沢心”を主人公にしたお仕事系コミック。黒木華の主演でテレビドラマ化。ちなみに”じゅうばんでき”ではなく”じゅうはんしゅったい”と読みます
(*7)惑星カロン(初野晴角、角川書店)
 清水南高吹奏楽部に所属する上条春太(ハルタ)と穂村千夏(チカ)はふとしたきっかけで中学3年生のフルート奏者”倉田あゆみ”と知り合う。彼女はコンクールで”惑星カロン”の演奏許可をもらう為に新藤誠一のブログにアクセスする。誠一は演奏許可のお礼にある事件の謎を解いて欲しいと依頼する。この謎ときに協力することになったハルタとチカだが・・・
 ハルタとチカを主人公とする青春ミステリー”<ハルチカ>シリーズ”第五巻に収録

植物由来をありがたがるのって、化粧品や食べ物だけじゃないんですね。毒薬もできます(スキン・コレクター/有毒植物/キョウチクトウ)

 ども、温泉に入れなくなるので刺青はしないおぢさん、たいちろ~です。
 タトゥーをしている外国の人が温泉に入れる入れないでもめてるニュースが時々流れます。入場規制の張り紙に”暴力団ならびに関係者、刺青の方”と暴力団=刺青みたいに扱ってますが、なんでそこまで神経質になりますかねぇ。外国の人にとってはファッションの一種にすぎないんじゃないかと。そもそも、私が子供の頃って銭湯に行けばだいたい一人や二人、背中にりっぱなもんもん背負ったお兄さんやおっちゃんがいたもんですが(*1)。さすがにじ~っと見ることはなかったですが、”すんげ~かっこいい”みたいなのと、”でも、彫ったらすんごい痛そう”みたいなのとないまぜになった感じだったでしょうか。まあ、個人が彫るなら”痛い”かどうかで済む話ですが、これを使っての殺人事件となると話は別
  ということで、今回ご紹介するのは殺人の手段として被害者にタトゥーを彫るというシリアルキラーのお話”スキン・コレクター”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。
近所で見かけたキョウチクトウ。てか、小学校の校庭だったんですけど・・

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【本】スキン・コレクター(ジェフリー・ディーヴァー、文藝春秋)
 科学捜査官”リンカーン・ライム”と刑事”アメリア・サックス”の元に、天才的犯罪者”ウォッチメイカー”が死亡したとの報が届けられた。一方、腹部に毒薬で刺青された女性の死体が発見される。残された証拠物件の中にかつてライムが関わった連続殺人事件に関する書籍の切れ端が発見される。そして第二の殺人事件が発生した・・
【花】有毒植物
 全体あるいは一部に毒を持つ植物。毒草。致死性のある毒性の強いのものから、かぶれや、痙攣、嘔吐を引き起こす程度の弱いものまで様々。一律有害というわけではなく、ちゃんと処理すれば食べれるもの(銀杏、ジャガイモ等)から、量によっては薬になる(チョウセンアサガオ)、蚊取り線香の原料になる(除虫菊)など役に立つものも。
 ”有毒植物”自体はそんなに珍しいということもなく”スズラン”、”ヒガンバナ(曼珠沙華)”、”福寿草”なんかもこの仲間。園芸店で”ジギタリス”が売っていた時にはちょっと驚きましたが。
【花】キョウチクトウ(夾竹桃)
 キョウチクトウ科キョウチクトウ属の常緑低木もしくは常緑小高木。葉が”竹”に、花が”桃”に似ているのでこの名前がついたとか。花、葉、果実などすべての部分に加え周辺土壌にも毒性があり、嘔吐、脱力、倦怠感などの中毒症状を起こすそうです。
(wikipediaより抜粋)


 本書の内容は微小な証拠物件を元にリンカーン・ライムとアメリア・サックス達のチームが”スキン・コレクター”というシリアクキラーを追い詰めていくというもの。相変わらず最後の最後までどんでん返しの連続というディーヴァーならではの推理小説。今回の犯人”スキン・コレクター”はというと、殺人現場で被害者の肌に謎の文字を、しかも毒薬で刺青するという人。単純に殺人だけなら銃やナイフで方が付くものを、わざわざ時間をかけてタトゥー(しかもかなりの出来栄え)をいれるなんてのは、推理小説史上、もっともめんどくさい殺し方の一つではないかと。

 で、今回のネタはそんなユニークな犯人を離れてちょっと毒薬の話を。なぜだかスキン・コレクターは植物から作った毒物がお好みなんですな。前半に登場するだけでも

〔シクトキシン〕
 ドクセリに含まれる。激しい吐き気、強直性の痙攣を引き起こす
〔悪魔の吐息〕
 エンジェルストランペットに含まれる。全身麻痺、記憶喪失を引き起こす
〔ストリキニーネ〕
 マチン科の樹木等から採取される。大きな苦痛を与える

などなど。他にもナス科の植物から採取されるニコチン、ホワイトホコシュから採取されるドールズ・アイズなど続々と(説明は本書での説明)。植物由来をありがたがるのって、化粧品や食べ物だけじゃないんですね。で、困ってしまうのはリンカーン・ライム。本書より抜粋すると

  工業プロセスで使用され、一般市場で流通している業務用の有害物質であれば
  まずメーカーを突き止め、そこから購入者を追跡することも可能だ
  製造者を識別するための化学標識が含まれていて、
  それが手がかりになって犯人の氏名が書かれた領収書が手に入れることもある。
  しかし、今回の犯人が凶器を自分の手で地中から掘り出したのだとすれば、
  それは期待できない
  地域を絞り込むのがせいいっぱいだろう

 つまり、自分で毒薬を製造するから証拠の追跡ができないと。確かに今の分析技術ってかなりのことができるようで、”和歌山毒物カレー事件(*2)”ではカレーに混入した亜ヒ酸の異同識別をするのに”SPring-8(*3)”つー大型放射光施設までひっぱりだしてやってたし。

 リンカーン・ライムのチームの凄いのは、ほとんど塵のような残留証拠物件をガスクロマトグラフィーやらなんやらで分析して、どこから来たかをデータベースなんかも駆使して解析して、その証拠が持っている意味や犯人の手口、さらには次の犯行を予測する(しかもかなりの確率で当たっている)とこ。そんな天才ライムにとっても”植物由来”ってけっこうやっかいっぽいんですね

 だからといって、一般人が毒物で殺人なんかやっちゃまず捕まるでしょうし(毒物でなくてもNGです)、下手に植物から成分抽出なんぞやった日にゃ、作っている人が真っ先に毒物にやられそうだし。この手の話は推理小説の中だけで楽しむのんが無難なんでしょうなぁ

《脚注》
(*1)立派なもんもん背負った~
 ”もんもん”というのは”くりからもんもん”の略で漢字で書くと”倶利迦羅紋紋”。不動明王の変化身”倶利伽羅竜王”を背中に彫った入れ墨から転じて”入れ墨”も指すようになったとか。(語源由来辞典より
(*2)和歌山毒物カレー事件
 1998年、和歌山県園部で行われた夏祭りで出されたカレーを食べた人が腹痛や吐き気などを訴え、4人が死亡した事件。主婦の林眞須美がカレーへの亜ヒ酸の混入による殺人及び殺人未遂の容疑で逮捕、2009年に死刑が確定(再審請求中)
(*3)SPring-8(スプリングエイト)
 兵庫県播磨科学公園都市内に位置する大型放射光施設140mの線形加速器に周長1.4Kmにおよぶ蓄積リングで8GeVの電子エネルギーを生み出すという施設。書いてる本人は理解できてませんが、すごい施設みたいです。詳しくは公式hpをご参照

チャットボットで蘇った魂は、人を幸せにするのでせうか?(惑星カロン/ブラックジャック/ロボホン)

 ども、さすがにこの年で女子高生ボット(*1)で遊ぶのはな~~と思っているおぢさん、たいちろ~です。
 先日、チャットボットの説明ってのを聞きました。チャットボットつーのはLINEなどのチャットのインタフェースを使ってロボット(人工知能)が会話をしてくれるというシステム(サービス)チャット+ロボット=チャットボットだそうです。
 説明を聞いた個人的な感想としては、フレーム問題が発生しにくいように問題を設定してやれば実用には耐えうるかな~ってレベルには達しているようです(*2)。”フレーム問題”ってのは、人工知能が問題解決するのにあらゆるケースを全て想定してると情報処理できないので、問題の枠(フレーム)を設定してあ~でもないこ~でもないやりだすのを回避しないといけないという考え方。人間だと”常識”を使って無意識にやっていることを人工知能だと意図的に設定しないといけないつ~話です。
 最近は何度目かのAIブームだそうで、IBMのスーパーコンピューターがアメリカの”ジェパディ!”というクイズ番組で人間代表相手に優勝しただの、プロ棋士とコンピュータソフトによる”将棋電王戦”でプロ棋士に勝っただの、”ロボットは東大に入れるかプロジェト”で偏差値57.1をたたき出しただの(*3)、いろいろ盛り上がっています。
 実際、範囲を限定すればかなりのとこまでできそう。ですが、この先何をやるかて~と”実在の人間の人格をモデルにシミュレーションできないか?”なんてことをやりだしそうかな~なんて思っています。
 ということで、今回ご紹介するのはそんなソフトの出てくる話”<ハルチカ>シリーズ”より”惑星カノン”であります。
 ※今回の話はネタバレを含みますので、まだ読まれていない方は本書を読んでからどうぞ


写真はたいちろ~さんの撮影。ロボット型携帯電話”ロボホン”です。キハチ青山本店で開催された”ロボホン・カフェ”にて

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【本】惑星カロン(初野晴角、角川書店)
 清水南高吹奏楽部に所属する上条春太(ハルタ)と穂村千夏(チカ)はふとしたきっかけで中学3年生のフルート奏者”倉田あゆみ”と知り合う。彼女はコンクールで”惑星カロン”の演奏許可をもらう為に新藤誠一のブログにアクセスする。誠一は演奏許可のお礼にある事件の謎を解いて欲しいと依頼する。この謎ときに協力することになったハルタとチカだが・・・
 ハルタとチカを主人公とする青春ミステリー”<ハルチカ>シリーズ”第五巻に収録
【本】ブラック・ジャック(手塚治虫、秋田文庫)
 ”忠明”は愛する恋人”さより”を電車事故で喪ってしまう。忠明は天才外科医”ブラック・ジャック”に対し、テープに残されたさよりの声をペットのプードル”ヌーピー”にしゃべらせて欲しいと依頼する。気が進まないブラック・ジャックだが、声をミニテープレコーダーにセットし犬の声帯に埋め込む手術を施すが・・・
 ”犬のささやき”より。秋田文庫版第11巻に収録
【道具】ロボホン
 SHARPの提供するロボット型携帯電話おしゃべりするロボットのイメージキャラクターとして登場いただきました(ロボホン自体はチャットボットではありません
 身長19.5cmという小型ながら、歩くわ踊るわ喋るわとめちゃかわういロボット。デザインはロボットクリエーターの第一人者”高橋智隆”氏。携帯電話なのでちゃんと電話出来るし、おでこにプロジェクタがついていて、画面やカベに写真や動画を投影することもできます。最近はロボホンに話しかけると日記にまとめてくれる機能なで出来たとか。いたれりつくせりです。


 今回の”実在の人間の人格をモデルにシミュレーションできないか?”というネタですが、本書にでてきた内容をふまえ、3つに分けて考えてみます

〔人格をシミュレーションできるか?〕
 本書には”デジタルツイン”というAIが登場します。これは既に死んでしまっっている人の情報を埋め込んでチャット上で生き返らせようというオープンソースソフトウェア。本書の説明だと

  行動、思考、癖、声をコンピュータに模倣させ意思決定を行わせる技術

ということになります。死者の思考をコンピュータに移植して復活させるというアイデアそのものはSFなんかではけっこう昔からありますし、日本のTVアニメの最初期作品”8マン(*4)”なんていう名作もあります。
 まあ、お話するだけだったら、現在でもけっこういいセンいってそうですが、問題は特定の人格にどこまで似せられるかということ。本書でのミソはこのデータを

  メールやブログの記録、フェイスブックといったソーシャルネットワークでの情報
  パソコンやスマートフォンでの操作履歴などから集めたデータを基に
  自分自身の物の見方、考え方、癖、好き嫌いを学習させていきます

こう言われるとなんとなくできちゃうかな~って気になります。

〔シミュレーションした人格はオリジナルの人格と同じものか?〕
 これには”正直”と”成長”というのが絡んできます。
 ”正直”てのは、上記のようにネットに書かれた情報がはたして本心なのかどうかというテーマ。ブログやFBのようなデータは誰かに見られることを前提に書かれているのであくまで”表現”でありどうしても修飾や虚勢がまじっちゃう、これは自分だけのために書かれる日記とは本質的に違うものではないかという疑問です。
 ここではハルタ達の音楽の先生による会話なので

  モーツァルトやシューベルトの楽譜は読めても、
  彼らの日記の秘めたる内容まで読み解くことはできないと?

確かに、モーツァルトはあんなにすばらしい音楽を残していますが品行方正とは言い難い人だったようですし、文学の世界なんて文豪レベルの人でも人格的にはどうなのよ? って人が山ほど出てきます。

 ”成長”の問題も実はやっかい。特に死んじゃっている人の場合は。本書の中でデジタルツインの欠点に”復活を遂げた人格は年を取らない”ってのを上げていますが、これは正確ではないんじゃなかろかと。会話によるデータの蓄積や、オープンソースでロジックをアップデートしていけば学習=成長は起こります。むしろ成長した結果がオリジナルと乖離してないかどうかを検証できないこと。だってオリジナルは既にこの世の人じゃないんだし・・・

〔シミュレーションした人格は人を幸せにするか?〕
 非常に漠然とした問いですが、これは目的をどう設定するかにもよるでしょうか。本書での”デジタルツイン”の利用目的を

  後継者が助言を必要をしたとき、自分を見失ったとき、判断に迷ったとき
  イエスかノーかだけ導いてくれればいい
  私たちの心は弱い。だれだって身近な人間を亡くせば
  『あのひとだったらどうするのか?』
  と問いたい瞬間や転機はおとずれるはずです

まあ、気持ち的にはわからんでもないですが、それが良いことかどうか、生きてる人間のエゴイズムではないかという疑問が・・・
 この話でふと思い出したのが、ブラック・ジャックの”犬のささやき”という作品。犬に恋人の声を喋らせた忠明ですが、同じ言葉しか喋らないヌーピーにだんだん飽きてきちゃいます。さらに新しい恋人ができると、その恋人の為にヌーピーを捨てに行くことに

  やれやれ これでやっとさよりの亡霊からのがれられた・・・

ですから、まあひどっちゃひどいですが、自分がそうならないかどうかと問われたら、どうなんでしょうねぇ。 愛する人を失った悲しみを乗り越えて前に進むってことと、愛する人を忘れることとは別なことだと思うんですがね、冷たいかもしれませんが・・・
 結局、チャットボットを使って魂を蘇えらせたとしても、それが人を幸せにするかどうかは結局わかんない。それは技術レベルやデータの揺らぎより、移ろいゆく人間の心のゆらぎのほうが大きいってことでしょうか・・・

 ”惑星カノン”は”<ハルチカ>シリーズ”の中でもかなり異色作ですが、これはこれとしてこっこう面白かったです。

《脚注》
(*1)女子高生ボット
 ”りんな”という女子高校生がチャットしているという設定のサービスを、日本マイクロソフトが開発したって話です、やったことないけど。hp等で公開されてるのを見ると確かに面白そう(まあ、面白そうなのを集めてるサイトなんで)。でも、おぢさん世代が電車の中で遊ぶにゃ、ちっと世間様の視線が・・・
(*2)フレーム問題が発生しにくいように問題を設定してやれば~
 主人:番頭さん、金魚が2匹いなくなったんだが、おまえさん知らないかい
 番頭:あたしは食べていませんよ
 主人:誰がおまえが食べたと言った
    縁側に金魚を置いとくと猫が食べてしまうから、高いところに置いとくれ
 番頭:それじゃ、湯屋の煙突の上へ
 主人:私が眺められないじゃないか。金魚鉢を湯殿の棚の上に上げてくれといってるんだ
 番頭:金魚鉢を湯殿の棚の上に上げてきました。
    ところで金魚はどこへ上げましょう?
落語”猫と金魚”より。話はいろんなバリエーションがありますが、これってフレーム問題の例じゃね?
(*3)偏差値57.1をたたき出したの~
 人間のチャンピオンに勝つというのは”あらゆる人間を凌駕する”ということの比喩であって、コンピューターの方が既に凡人では勝てないとこまで行っています。単純計算だと偏差値”57”というのはおおむね上位から1/4(24.2%)。実際の大学入試だと、”関関同立”、”MARCH”など難関校を含む535大学への合格がA判定(合格率80%以上)に相当するそうで、”俺の方が勉強できる!”と胸を張って言える受験生ってやっぱ少数派じゃないかと・・・Yahoo!ニュースより抜粋
(*4)8マン
 原作はSF作家の平井和正と漫画家の桑田次郎。漫画版は1963年に少年マガジンに連載、アニメ版は1964年に放映。”8マン”は凶悪犯により殺された刑事”東八郎”の人格と記憶を電子頭脳に移植し蘇ったスーパーロボットという設定です。

やっと出ました”R.O.D”12巻! 長かったよ~ 長かったよ~~よ(R.O.D/折り紙飛行機)

 ども、大英図書館特殊工作部のエージェントのおぢさん、たいちろ~です。(ウソです)
 小説やコミックとかで未完に終わる作品ってのがままあります。作者がお亡くなりになったとか(引き続き誰かが書くこともありますが(*1))、掲載誌や出版社がつぶれちゃったとか(掲載誌を変えて続きを書くこともありますが(*2))、人気がなくなって打ち切りになったりとか、作家がやる気をなくしちゃったのかな~とか。
 まあ、読む方からすると復活に一縷の望みをかけて続編を待ってたりなんかしちゃう訳です。しかも10年以上も・・・
 ということで、今回ご紹介するのは前回の発刊から10年間の刻を超え、やっと続編が出版された小説版”R.O.D”12巻であります。


写真はたいちろ~さん撮影。シンプルな折り紙飛行機であります。

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【本】R.O.D(倉田英之、羽音たらく、集英社スーパーダッシュ文庫)
 大英図書館特殊工作部のエージェントで”ザ・ペーパー”の異名を持つ紙使い”読子・リードマン”を主人公に、不老不死の秘法が書かれている”グーテンベルク・ペーパー”と解読可能な人間”ファウスト”を奪取せんとする西洋世界の裏の支配者”ジェントルメン”と読子の上司”ジョーカー”、それを阻止せんとする東洋世界の裏の支配者”おばあちゃん”と”読仙社”の戦いを描いた壮大なSFアクションビブリオマニア小説?
 小説版の正式名称は「R.O.D  READ OR DIE YOMIKO READMAN ”THE PAPER”」(読むか、死ぬか)
【道具】折り紙飛行機
 折り紙の一種で、紙を折って作った飛行機。意外と長く滑空可能で、ギネス・ワールドレコードでは室内の最長飛行距離が69.14m、最長飛行時間29.2秒も飛んだそうです。最大の紙飛行機は全長5.16m、羽幅10.2mで実際に約18m飛行したんだとか(HPはこちらから)。
 もっとも本書のように人間2人も乗せて大空高く舞いががるってのムリがありそうですけど・・・

 やっと出ました”R.O.D”12巻! 11巻の発売が2006年2月と10年半前長かったよ~ 長かったよ~~
 前回の終わりが裏の支配者”ジェントルメン”が若返って、”グーテンベルク・ペーパー”とファウストを求めて中国に上陸、それを迎え撃つ”おばあちゃん”と”読仙社”。ジェントルメンとおばあちゃん達を殲滅するために核攻撃を企むジョーカーにそれを止めるべく戦いの場に急行する読子・リードマンにと、ドラマはクライマックスに向けて大いに盛り上がる! この状態で10年半もほたっとくかよ~~

 でも、待っちゃうのって、やっぱり好きなんだよな~ この小説。特に主人公の読子・リードマンって私のお気に入りキャラのベスト3に入る人。紙を自由に操れる最強の超能力者なんですが、本以外のこととなるとまったくのダメ人間。亡くなった恋人のドニー・ナカジマを思い続ける純情乙女ながら、ムダに巨乳(同僚のナンシー・幕張 談)。
 本書でも、ジェントルメン VS おばあちゃんという人類の存亡をかけた戦い(まあ、壮大な夫婦喧嘩でもありますが)の真っ只中に、緊張感をぶち壊す登場。ま~ったく空気を読まない”皆さんっ! ケンカはやめましょうっ!”というおまぬけな発言。こういう完璧超人に程遠いアンバランスさって好きなんでよね。

 なにより好きなポイントは、この人超のつく重度なビブリオマニア(愛書狂)本を保管するためだけにビルやらアパートやらを借りているとか、本屋さんの本を丸ごと一軒分大人買いとか(*3)。なんせ第1巻が出たのが2000年と”Amazon Kindle”出る7年も前だしな~~(*4) まあ、本読みにとってはあこがれの人、こんな生活がしてみたい! と思わせるヒロイン?であります。

 12巻の内容って、上記のように、ジェントルメン VS おばあちゃんの因縁の決着とか、ファウストの持つ”グーテンベルク・ペーパー”の謎ときとか、迫りくる核ミサイルの危機とか、10年半前に盛り上げるだけ盛り上げてぶん投げ状態だった物語のクライマックス編。嫌が上にも増す緊張感の中、核ミサイルの迎撃に向かうのはなんと紙飛行機?! というジェットコースター状態

  冗談だろ・・? そんなミッション、ハリウッドのバカ映画でも見たことねぇぞ?
  まあ、普通は脚本段階でボツにするよな

とツッコまれてますが、これが通っちゃうのが読子・リードマン! まあ、それ以前に対外天然系やらかしている人ですから。書いてる原作者の倉田英之がアニメ脚本家ってのがまた笑えます。

 12巻あるシリーズですがけっこうサクっと読めますし絶版にもなっていないので、まだの方はぜひご一読いただきたいシリーズです。ビブリオマニアでなくとも楽しめること請け合いです。

 ところで本シリーズ、この12巻で終わりかと思ってましたら、13巻目が出るそうです。著者紹介に

  次巻を必ず1年以内にお届け・・・。本当。たぶん

とありますが、今度こそお約束守ってくださいね! せめてダッシュエックス文庫があるうちに・・・(*6)


《脚注》
(*1)引き続き誰かが書くこともありますが
 先日読んだ”屍者の帝国(河出文庫)”がこのタイプ。34歳で早逝したSF作家の伊藤計劃が残した草稿を、生前親交の深かったSF作家の円城塔が遺族の了解を得て完成させたSF小説。詳しくはこちらからどうぞ
(*2)掲載誌を変えて続きを書くこともありますが
 私が読んだ中での代表例はSFコミック”強殖装甲ガイバー”。1985年の”少年キャプテン(徳間書店)”創刊号から連載開始、同誌が97年に休刊後、1999年創刊の”エースネクスト(角川書店)”で再開するも2002年に同誌もまた休刊。2007年の”少年エース(角川書店)で連載再開。高校生の深町晶が偶然拾った”殖装体”でガイバーに変身するというヒーロー物がいつの間にやら人類創生の謎までいっちゃってる大風呂敷。ぜひたたむまで突っ走っていただきたいものです。
(*3)本屋さんの本を丸ごと一軒分大人買いとか
 先日読んだ”ひまわりさん”(菅野マナミ、メディアファクトリー)の7巻で本屋さんをやってるひまわりさんに”店ごと全部の本 買ってもいいわよ”という作家に対し”読子さんか”とツッコミ入れるシーンがあります。この作品も面白いですよ
(*4)”Amazon Kindle”出る7年も前だしな~~
 電子書籍が一般化する大きなトレンドとなった”Amazon Kindle”の第一世代が出たのが2007年。新刊を含め全ての本が電子化されてるわけではないですが、旧作・名作のたぐいも電子化されつつあるので、収納スペースに苦しむ本読みにはとってもありがたい存在です。
(*5)せめてダッシュエックス文庫があるうちに・・・
 ”R.O.D”は元々”スーパーダッシュ文庫”という2000年に始まった集英社のライトノベル系レーベルから出てましたが(創刊第一号!)、このレーベルって14年で事実上廃止このレーベルを引き継いだのがダッシュエックス文庫
 ”R.O.D”はというと消滅しているスーパーダッシュ文庫をこの本だけのために復活させて、公式hpはダッシュエックス文庫に載ってます。あぁ、ややこしい・・
 公式hpはこちらからどうぞ

ハードSFっぽいノリが好きか、ゾンビとBLが好きか、お好みによりチョイスしてみてください(屍者の帝国/パンチカード)

 ども、死して屍拾うものなしのおぢさん、たいちろ~です。
 さて、”ハーモニー”に続く伊藤計劃2冊目の了読です。フランケンシュタインモノと言いましょうか、ゾンビがくるりと輪をかいたホ~イのホイ♪とでも言いましょうか。屍がソロソロ歩き回る世界にスチームパンク(*1)をホイップしたスペキュレーションフィクション?!(*2) なんたって、題名がそのモノずばりの”屍者の帝国”ですから。
 ということで、今回ご紹介するのは伊藤計劃の遺作にして円城塔が完成させた異色のSF”屍者の帝国”であります。


写真はたいちろ~さん撮影。
レトロなコンピュータで使われていたパンチカードシステムです。

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【本】屍者の帝国(伊藤計劃、円城塔、河出文庫)
【DVD】屍者の帝国
 (原作 伊藤計劃、円城塔、出演 細谷佳正、菅生隆之、監督 牧原亮太郎、アニプレックス)
 ヴィクター・フランケンシュタインが屍を甦らせることに成功してから100年、屍者は、機械式解析機関とともに社会インフラとなっていた。医学生ワトソンは大英帝国の諜報員となり、フランケンシュタインの残した”ヴィクターの手記”と、彼が最初に復活させた屍者”ザ・ワン(*3)”を追うことになる・・・
 早逝した伊藤計劃が残した草稿を、円城塔が完成させたSF小説、第33回日本SF大賞・特別賞、第44回星雲賞日本長編部門を受賞。
【道具】パンチカード
 厚手の紙に開けた穴の位置や有無から情報を記録するメディア。原理的には試験で使っているマークシートみたいなのです。原作では穴の形や大きさがばらばらとのことですので、記憶ルールは全く異なるもののようです。
 コンピュータの記憶媒体としては現在ではほとんど使われることはありませんが、私が入社した1980年代中ごろではまだ使ってたんですけどねぇ


 さて、”屍者の帝国”です。原作読みました。DVDも観ました。ブログ書こうと思ってます。で、困っています。てか、なんでこんな違う話になっとんねん???
 いや、確かに原作もDVDも面白かったんですよ。原作っていわゆる屍者=ゾンビとかフランケンといったホラー物の系譜というよりハードSFの後継者って感じでしょうか。”ザ・ワン”ことフランケンシュタインの怪物と医学生ワトソンとの魂の在り方の対話なんて、シェリー版の”フランケンシュタイン”を彷彿とさせる哲学的ともいえる内容だし。
 DVD版は、ストーリー的にはかなりわかりやすくなってるし、クライマックスでの解析機関”チャールズ・バベッジ”をめぐる戦いなんてビジュアル的にはかなり良くできてるし。世界のネットワークを統べるスーパーコンピューターっぽい扱いなのに、入出力インタフェースはパイプオルガンにパンチカードシステムつ~ギャップがたまらんし。なんといっても白髭のナイスな老人”ザ・ワン”が沖田艦長の声で語るわライバルキャラはドメル将軍だわと、けっこうそっちの人にも受けそうだし(*4)

 登場人物はほぼ同じ、扱われているガジェットもほぼ同じながら、結果的にはかなり違うテイストの話になってんですな、この作品。言ってみれば”新世紀エヴァンゲリオン”と”碇シンジ育成計画(*5)”の違いみたいな。パロディ云々のレベルではなく語るべき”物語”がぜんぜん違うと。

  全員が絶望を感じることができなくなるのは、至福の一つの実現ではないかね
  そこにはにはもう争いはない。争いを知る機能も喪失されるからだ

 本作のキーワードになるセリフですが、原作では潜水艦ノーチラスの中でザ・ワンがワトソンに”魂のありよう”を語ったもの。これがDVDだとぜんぜん別な人が全然別のシーンで使われているんですね。ザ・ワンやワトソンの行動目的もまったく別物だし、そもそも語るべき内容がまったく別次元。でも、なまじキャラクターなんかがいっしょなんで原作とDVDを続けて観るとけっこう混乱しちゃったりします。

 内容は推理モノのノリもあるんで詳しくは書けませんが、両方とも面白いんですよ。別にどっちが良いとか悪いとかの話じゃないんで、両方お勧めですがあえて言うなら

〔原作〕
 どっちかというとSFファン向きハードSFっぽいノリや、生命(魂)の謎にせまるみたいなオールディズっぽい大上段に振りかぶったSFが好きな人にはよさそう。”ヴィクターの手記”とか”チャールズ・バベッジ”とかそのワード自体がけっこうディープな意味を持つとこがあるんで、SF的な知識がある人ならさらに突っ込めるかも。

〔DVD〕
 SFというより冒険活劇かな。ビジュアルもけっこういけてますが、ゾンビもまたリアルなんで”ゾンビ好き”ならOK。ワトソンとフライデーの人間関係を見ると”BL好き”には美味しいかも。”フランケンシュタインの花嫁”みたいな恋愛モノのノリはありますがデート向きの作品とは言えんだろうなぁ

 どっちを選ぶかはかなり好みがでそうですが、よろしければご一読のほどを

《脚注》
(*1)スチームパンク
 蒸気機関や機械式計算機などのテクノロジーが発展した世界観を持つSFのジャンル。時代的にはイギリスのヴィクトリア朝やエドワード朝、日本だと明治~大正期あたり。インダストリアルデザインとしてはたいへん面白いんですが、あまり読んでいないジャンルです。すいません。
(*2)スペキュレイティブ・フィクション?!
 さまざまな点で現実世界と異なった世界を推測、追求して執筆された小説などの作品を指す語(wikipediaより抜粋)
 日本語では思弁小説。略して”SF”。”SF(サイエンスフィクション)”とは違うんだ的なノリもありますが、面白ければどっちでもいいんじゃないかと。
(*3)ザ・ワン
 SFとかホラーを読まない人向けにに補足すると、メアリー・シェリーの小説”フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス”に登場する”フランケンシュタイン”というのは怪物(クリーチャー)を作った人の名前で、怪物そのものに名前はついていないんですね。ちなみに、この怪物は頭悪そうなイメージがありますが、原作では哲学的な会話も交わすとってもインテリジェンスな人。1994年に公開されたフランシス・コッポラ製作総指揮、ロバート・デ・ニーロ主演の”フランケンシュタイン”(ポニーキャニオン)が原作に近いのでこちらもどうぞ。
(*4)白髭のナイスな老人が沖田艦長の声で語るわ~
 ”ザ・ワン”のCVを担当したのはリメイク版の”宇宙戦艦ヤマト2199”で 沖田艦長を担当した菅生隆之。なんとなくこの声で言われると納得しちゃうんだな、これが。DVD版のライバルキャラの声の担当が同じく”宇宙戦艦ヤマト2199”で名将ドメル将軍を担当した”大塚明夫”。対決のシーンは本作の聴きどころです。
(*5)碇シンジ育成計画(原作 カラー、作画 高橋脩、カドカワコミックス・エース)
 ”新世紀エヴァンゲリオン”を原作とした”学園エヴァ”モノ。登場人物はほぼ同じですがパロディとかスピンオフとかのレベルを超えてまったく別な次元にとんでっちゃってます。
 原作の出版社がこういう二次著作物っぽい本を出すってのは良い時代なんでしょうねぇ

なんとなく”さよならジュピター”みたいな科学の大風呂敷を広げたような話が減っているんじゃないかな~~って気がします(さよならジュピター/国際宇宙ステーション)

 ども、機会があったら宇宙に移住するのも悪くはないかな~と考えてるおぢさん、たいちろ~です。
 一般の人がリアルな”生活圏”として認識できる空間ってどんなもんでしょうか? たかだか150年前の江戸時代だと”藩”とか”村”、明治時代で”アジア大陸”、大正、昭和の世界大戦をへて”世界”、”宇宙船地球号(*1)”という概念は20世紀後半になってからじゃないかと思います。”スペースコロニー(*2)”ってのを日本で一般化したのが”機動戦士ガンダム”だとすると”居住空間としての宇宙”ってたかだか40年弱ぐらい。まだてきてませんけど。で、将来”5億人の人類が宇宙に住むようになったら”という世界が登場したらどうなるか?
 ということで、今回ご紹介するのはそんな世界を舞台にしたSF小説”さよならジュピター”であります。

写真はすべてたいちろ~さんの撮影。
余市の宇宙記念館”スペース童夢”にある国際宇宙ステーションの模型です

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【本】さよならジュピター(小松左京、徳間文庫他)
 22世紀前半、地球人口は185億人を数え、太陽系空間には5億人近い人々が暮らし、イノベーションの70%、エネルギーの40%を宇宙に依存していた。太陽系開発機構は、外惑星地域のエネルギー問題を解決すべく木星を”第二の太陽”とする”JS計画”を推進していた。一方、彗星の減少を調査するため飛び立った宇宙船”スペース・アロー号”の事故から、太陽へのピンポイント・クラッシュする”ブラック・ホール”が発見される・・・
【旅行】国際宇宙ステーション
 (ISS International Space Station)
 アメリカ合衆国、ロシア、日本、カナダ、欧州宇宙機関が協力して運用している宇宙ステーション。地上約400km上空を秒速約7.7kmで飛行中。2011年7月に完成し、現在では6名体制で4~6ケ月交代で滞在しているとのこと(wikipediaより抜粋)
 カテゴリは”旅行”にしてますが、気軽に行けるとこではないです、はい。


 この前、映画版”さよならジュピター”(*3)の話を書きましたが、本書はそのノベライゼーション。ノベライゼーションと言っても小松左京御大が自ら書いたというもの。しかしまあ、映画とノベライズでここまで評価が分かれるってのも珍しいでしょうな。”黒歴史”だ”青春のトレラウマ”だの言われる映画版と、星雲賞の日本長編部門賞を受賞したノベライズと。まあ、映画が詰め込みすぎなのは確かですが、そこまでボロクソ言わんでもいい出来だと思うんですがねぇ・・・

 さて、この小説の面白さっていうのは、当時の科学力の延長にあるイマジネーションの壮大さでしょうか。ニュートリノを使った木星太陽化を中心に、宇宙空間を居住するスケースコロニーや月面や宇宙空間にある基地、ヘリウム3・重水素による核融合推進宇宙船、冷凍睡眠による長期間宇宙航行などなど。脱出船団(エクソダス・フリート)には乗員数130万~250万人、総数千隻の大船団が60組、行き先は5.9光年離れたバーナード星(*4)、到着は60年後! まだ、居住できるかどうかの調査すら終わっていない星への移住計画ですから、かなりハイリスクなプロジェクトですが・・・

 で、本書の最大の見せ場はもちろん”木星”を爆発させてブラックホールのコースを変更させるという”木星爆破計画(JN計画)”。将来、人類の科学でそんなことができるかどうかはわかりませんが、それを”できそう!”と思わせちゃうところが小松御大のすごさです。まあ、究極の自然破壊と言えなくもなく、積極的に推進する人(太陽系開発機構の本田英二たち、世界連邦大統領)、積極的に妨害する人(本田英二の恋人のマリアたちテロリスト、大統領の政敵の上院議員)、”なにもせんほうがええ(*5)”を決め込む人(ジュピター教団のピータ)。こういったポリティカルとか人間模様みたいなのがちゃんと背景としてあるからこそ小説版って評価されんですかね(逆に言うとこのへんが描き切れなかったのが映画版の低評価につながっているんでしょうか)

 ところで、この小説が書かれたのは1982年(映画公開が1984年)と34年前とそれなりに昔の作品なんですが、改めて読み返してみると、SFというかSFと科学の感じ方ってずいぶん変わったような感じがします。
 木星爆破50時間前に。世界連邦大統領(映画版では森繁久彌)と副大統領が交わす会話。”神に祈りますか?”という副大統領に対しての大統領の答え

  いや-- 不遜なようだが、今度ばかりはそんな気になれない・・
  むしろ・・・ 人類の叡知と技術にむかって祈りたい・・

   (中略)
  これまで何度か、一人で祈りたくなったり、神にすがりたくなった事はあった
  だが、今度の場合はなぜか・・・
  突然、この宇宙の中に、神というものはいないのではないか、と思うようになった
  人間は・・・ 所詮、
  この宇宙では、神なしでやって行かなければならないのではないか、と

 当時って、”たとえ空想科学であっても、その科学に信頼を寄せて未来を拓くという”時代だったんでしょうか。今ではその”空想”がとれて、あながち絵空事でなくなった反面、物語の世界において科学を超える”空想”がなんとなく希薄になってきているような気がするのは、私だけでしょうかね

 ・人工の大地となる”スペースコロニー”はできなかったけど、
  恒常的に人がすめる”国際宇宙ステーション”はできた
 ・七つの威力の”鉄腕アトム”はできなかったけど、
  等身大のヒト型ロボット”Pepper”が街に登場した
 ・人智を超える”人工知能”はまだできていないけど
  越えられそうなシンギュラリティ(技術的特異点)がもうすぐ来そうな雰囲気
 ・万能薬や、不老長寿の秘薬ではないけど
  医療を飛躍的に発展させる”iPS細胞”や遺伝子操作がもうすぐ実用化しそう

 確かに、科学が空想に追いつきつつある昨今、ぶっとんだ”空想”科学の物語を描きにくい時代なのかもしれませんが、なんとなく”さよならジュピター”みたいな科学の大風呂敷を広げたような話が減っているんじゃないかな~~、私が読んでないだけかもしれませんが・・・

 おぢさん世代のSFファンとして、ちょっと昔のSFを読んでそんなことを感じた次第です。面白い本ですので、若い人もぜひご一読のほどを

《脚注》
(*1)宇宙船地球号(Spaceship Earth)
 この言葉を有名にしたバックミンスター・フラーの著書”宇宙船地球号操縦マニュアル”が書かれたのが1963年。地球資源の有限性を研究したローマクラブの”成長の限界”が発表されたのは1972年のことです。
(*2)スペースコロニー(Space Colony)
 ジェラルド・オニールらによって”宇宙空間に作られた人工の居住地”というアイデアが誕生したのが1969年、一般に知られるようになったのは1974年にニューヨーク・タイムズ誌に掲載されてから(wikipedia)。島3号とよばれるシリンダー型のスケースコロニーを舞台にした”機動戦士ガンダム(ファーストガンダム)”の放映が開始されたのは1979年のことです。
(*3)映画版”さよならジュピター”(総監督 小松左京、主演 三浦友和、東宝)
 ストーリーはほぼ本書にそっていますが、初稿で映画化すると3時間半を超えるため、大幅にカットされました。前後半で作ればもうちっと評判が良かったかもしれませんねぇ・・
 詳しくはこちらをどうぞ
(*4)バーナード星
 1916年にアメリカの天文学者エドワード・エマーソン・バーナードにより発見された。へびつかい座にある2番目に太陽系に近い恒星系。実際に英国惑星間協会 (BIS) が1973年から行った”ダイダロス計画”という恒星間原子力推進宇宙船の想定目標だったとのこと。
(*5)なにもせんほうがええ
 同じく小松左京の”日本沈没”より。日本人の海外脱出に関するレポートを作成させた渡老人が、結論の一つとして山本総理に伝えた言葉。SFの中でも屈指の名セリフだと思います。

ランプ売りのおじいさんは、意外に優秀なイノベーターだったようです(ビックバン・イノベーション/おぢいさんのランプ/ランプ)

 ども、イノベーティブな人生とは縁のないおぢさん、たいちろ~です。
 近頃会社で流行るモノの一つに”イノベーション”ってのがあります。まあ、旧態然としたビジネスをやってると先細りになるのが目に見えているので、”なんか新しいことやろうぜ!”みたいな話ですが、そんなに簡単に新しいことを思いつきゃ苦労はしないですし、それを”儲かるビジネス”にしようとするとひと山ふた山ではきかない困難が予想されます。そうは言ってもやらん訳にゃいかんのですが・・・
 ”イノベーション”ってさも新しそうな顔をしてますが、意外にも童話の中にこんな話を見つけました
 ということで、今回ご紹介するのは”ビックバン・イノベーション”をテキスト解説する新美南吉の童話”おぢいさんのランプ”であります


写真はたいちろ~さんの撮影。小樽の北一ガラスにあったランプです

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【本】ビッグバン・イノベーション(ラリー・ダウンズ、ポール・F・ヌーネス、ダイヤモンド社)
 マーケットの変化は従来の釣鐘型曲線(ベル・カーブ)ではなく、一夜にて爆発的な成長をとげ、突然死を迎える、鮫のひれ(シャークフィン)のように。
 イノベーションによるマーケット変化の分析と対処のルールをまとめた本。
 原書は2014年、日本では2016年に発刊。
【本】おぢいさんのランプ(新美南吉、青空文庫他)
 東一少年が遊んでいる時に、蔵の中で一つのランプを見つける。東一君のおじいさんはそのランプを見て、自分が若かったころに”ランプ売り”をしていたころの話を東一少年に語りはじめた・・・
 童話集「おぢいさんのランプ」(1942年)に収載
【道具】ランプ
 電気・油脂・ガスによる光源と、笠やホヤなどの保護装置がある照明器具。ランプの中で手に提げるか持って運べるものが”ランタン”です(wikipediaより抜粋)
 現在でのキャンプ用品やアンティークな装飾品として使われることもあります。


 従来のマーケティングの話ですと、エベット・ロジャーズが提唱した釣鐘型をした5つの市場セグメントってのがでてきます。”革新者”、”初期導入者”、初期多数導入者”、”後期多数導入者”、”導入遅延者”というので、初期多数導入者から後期多数導入者への切り替わり時期をピークに、ゆるかやな釣鐘型のカーブを描くというもの。ところが、イノベーションが進展するとこんな悠長なことにならなくて、先行した人達による”特異点”、急速に立ち上がる”ビックバン”、あっというまに衰退する”ビッククランチ”、生き残った人達による”エントロピー”というサイクルが極めて短いスパンで発生し、鮫のひれのような形を描くというのが本書の主張。で、これを乗り切るためにそれぞれのマーケットに対しての12のルールが提示されています。

 で、このルールというのが、実に”おぢいさんのランプ”に登場する巳之助じいさんの行動に当てはまるんですなぁ。”おぢいさんのランプ”は小学校(だったかな?)の教材で出てきたんで読まれた方も多いと思います。おじいさんがランプの商売に見切りをつけて、池のほとりで灯をつけたランプを壊していくシーンが幻想的で印象に残る作品です。改めて読み返してみましたが、実にこれがイノベーターなんですな。あらすじを追いながら説明してみます。※〔 〕内は”ビッグバン・イノベーション”で提示されたルール

〔ルール3:一見ランダムな市場実験に着手する〕
 岩滑新田という灯りといえば行燈しかないような村で育った孤児だった巳之助は、町で見かけたはランプの明るさに心を奪われどうしても欲しいと思いました。持っているお金では足りないため、ランプ屋の主人と交渉して、ランプを村で売るからということで安く売ってもらいました。
 保守的な百姓相手に、始めは流行らなかった商売ですが、商い屋のおばあさんにただで貸し出すことで便利さを理解してもらい、それを見た村人にランプが売れ始めました

  →→→
 まず、灯りのない村にランプというテクノロジーを持ち込むことで利便性の拡大と新たなマーケットを生み出すという先見性はイノベーターの元祖とでもいいましょうか(*1)。ランダムとまでは言いませんが、”特異点”において起爆剤となる先行者を実験的に捕まえてマーケットを拡大するとこはこのルールっぽいです。

〔ルール6:「ブレッドタイム」を作る〕
 順調にランプを売っていた巳之助ですが、ある時電燈を見かけます。電燈の明るさに自分のビジネスの危機を感じる巳之助。そしてとうとう岩滑新田にも電気がひかれ電燈が導入されることになりました。そこで巳之助は”電気というものは、長い線で山の奥からひっぱって来るもんだでのイ、その線をば夜中に狐や狸がつたって来て、この近ぺんの田畠を荒らすことはうけあいだね”と、電燈への反対意見をまくしたてました

  →→→
 ”ブレッドタイム”というのは時間稼ぎという意味。映画”マトリックス(*2)”に登場したネオが”銃弾(ブレッド)”の速度を遅くして時間稼ぎをして銃弾をさけることからきています。ここでは、反対意見をまくしたてマーケットの拡大を阻止しようという点で、先行するイノベーターが守りにはいる行動と同じです。ただし、時間稼ぎはあくまで時間稼ぎ。根本的な解決にはなりません

〔ルール8:負債化する前に資産を処分する〕
 電気を引こうとする村長を怨んで、牛小屋に火をつけようとする巳之助。マッチを忘れて火打石で火をつけようとするが失敗。”こげな火打みてえな古くせえもなア、いざというとき間にあわねえだなア”という自分の言葉に自分の過ちを悟った巳之助
 家に戻った巳之助は、家中にあるランプの全てを、池のほとりにもっていき、火を灯して石ころを投げつけて壊していきます

  →→→
 ”おぢいさんのランプ”の中でも最も印象的なシーンです。
”ビッグバン・イノベーション”風に言うと”ランプ=コア資産”が急速に価値を失うことを察知したおぢいさんは、負債化する前に処分したということになります。まあ、本来なら売却とかするんでしょうが、思い切りのいいおぢいさんは”わしの、しょうばいのやめ方はこれだ”といって壊してしまいますが。

〔ルール9:リードしている間に撤退する〕
 おぢいさんが壊しそこなって残ったランプは誰かが持っていったそうです。
 こうして、おぢいさんは”ランプ屋”を廃業しました。それから町に出て”本屋”という新しい商売を始めました。

  →→→
 ”損しちゃったね。四十七も誰かに持ってかれちゃって”という東一君に答えて、おぢいさんの話

  今から考えると、何もあんなことをせんでもよかったとわしも思う
  岩滑新田に電燈がひけてからでも、
  まだ五十ぐらいのランプはけっこう売れたんだからな
  岩滑新田の南にある深谷なんという小さい村じゃ、まだ今でもランプを使っているし
  ほかにも、ずいぶんおそくまでランプを使っていた村は、あったのさ
  しかし何しろわしもあの頃は元気がよかったんでな
  思いついたら、深くも考えず、ぱっぱっとやってしまったんだ

   (中略)
  わしのやり方は少し馬鹿だったが、わしのしょうばいのやめ方は、
  自分でいうのもなんだが、なかなかりっぱだったと思うよ
  わしの言いたいのはこうさ、日本がすすんで、
  自分の古いしょうばいがお役に立たなくなったら、すっぱりそいつをすてるのだ
  いつまでもきたなく古いしょうばいにかじりついていたり
  自分のしょうばいがはやっていた昔の方がよかったといったり
  世の中のすすんだことをうらんだり、
  そんな意気地のねえことは決してしないということだ

実にすがすがしいまでの、イノベーターとしての身の処し方って感じしませんか?

 ”おぢいさんのランプ”は青空文庫他でも読むことができます(こちらからどうぞ)。ぜひ童心に帰ってご一読の程を(といいながら、私自身は生臭い読み方してますけど・・・)

《脚注》
(*1)イノベーターの元祖とでもいいましょうか
 ここでのイノベーターはすこし広義にとらえて”市場開拓者”、”ベンチャー起業家”ぐらいのノリで見てください
(*2)マトリックス
 (主演 キアヌ・リーブス、監督 ウォシャウスキー兄弟、ワーナー・ブラザース)
 コンピュータに支配された社会を救世主であるネオ(キアヌ・リーブス)が解放するというSF映画。1999年公開。のけぞって銃弾をよけるシーンは当時けっこうインパクトありましたね~~(映像はこちらから)

正論も度が過ぎるとろくな社会にならんのでしょうかね(ハーモニー/コーヒーの木)

 ども、尿酸値と糖尿病と高血圧の薬を飲んでるおぢさん、たいちろ~です。
 別に自覚症状があるわけじゃないんですが、会社の健康診断でひっかかちまいまして・・・ この手の薬でめんどくさいのは完治するというより、状況を悪化させないために一生飲み続けないといけないってこと。まあ、処方箋も必要なので月々お金もかかるしねぇ。医者にも行かず、家で手に入れば楽ができんですけど。
 ということで、今回ご紹介するのはそんな夢の医療社会が実現したユートピアのお話、伊藤計劃(いとう けいかく)の”ハーモニー”であります。


写真はたいちろ~さん撮影。
北海道大学植物園のコービーの木です。

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【本】ハーモニー(伊藤計劃、早川書房)
 21世紀後半、人類は医療の発達によりほぼ全ての病気が放逐された福祉国家を実現していた。そんな中、6000人以上の人間が自殺するという事件が勃発する。WHOの上級監察官”霧慧トァン”はその事件の陰に、かつて共に自殺を図った友人”御冷ミァハ”の存在を感じる・・・
 デビュー2年、34歳の若さで病没したで伊藤計劃の長編第3作にして、第40回星雲賞及び第30回日本SF大賞を受賞した現代SFの名作。
【花】コーヒーの木
 アカネ科コーヒーノキ属に属する植物の総称。種子から採れるコーヒー豆はカフェインを多く含む
 カフェインは興奮作用を持つ精神刺激薬の一種で、コーヒ、緑茶、紅茶などの飲料や医薬品では総合感冒薬や鎮痛薬に用いられる一方、副作用として不眠、めまいなどを引き起こす(wikipediaより抜粋)


 伊藤計劃って前から読んでみたかったんですが、たまたまこの前読んだ”BISビブリオバトル部 2(*1)”にその話がでてまして(*2)、さっそく了読。で、感想としては”SFにおけるリアリティってずいぶん変わってきてるんだな~~”ってこと。SFってのは他のジャンルと違って、けっこう好き勝手に社会や歴史を組み立てるってことをやります。”ハーモニー”で語られている世界というのは究極の福祉・健康社会。<大災禍(ザ・メイルストローム)(*3)>という世界規模での大暴動や流出した核弾頭の爆発で破滅の危機に瀕した人類が、健康の保全を最大の責務とする”生命至上主義”のもとに作った社会。健康監視システム(WatchMe)によりモニターされ、薬や医療が大量に消費され、生活習慣病などを未然に防ぐ助言がされる社会。

 まあ、マクロレベルでは高齢化による福祉予算の増大問題を抱える国家から、ミクロレベルでは成人病に悩むおぢさんまで、夢のような社会ではありますが、”羹に懲りてなますを吹く”感もあります。でも、この社会に一定のリアリティを感じてしまうのは、今の社会が一種の正論に安易になびいているんじゃないかな~という漠然とした不安があるからかも。イ○リスのEUからの独立とか、○メリカ大統領選挙におけるトラ○プ氏の躍進とか、国家財政が破綻しても援助でなんとかなんじゃね?的なギリ○ャとか。それぞれの主張には一定の正論を持って国民の支持を得ているわけですが(ポピュリズムうんぬんの話ではなく)それはそれで不気味なものを感じちゃいます。

 本書の中で出てくるカフェインの摂取についての道義的な問題ってのが出てきます。某夫人は控えめに

  某婦人はカフェインがパニック障害を引き起こすことを指摘した
  某婦人はカフェインが睡眠障害を引き起こすことも指摘した
  某婦人はカフェインが痙攣を引き起こすことまでも指摘した
  某婦人はカフェインが頭痛や健忘症などの症状のトリガーになると指摘した

と発言。これに対して科学者にして霧慧トァンの父親でもある霧慧 ヌァザは、ある業務においてカフェインが必要であり、軽減されるストレスもあると訴えるものの受け入れてはもらえない。まあ常識的な発言ではあります。婦人の発言は

  礼を失しない、とても控えめでいて、どこまでも極端で、
  それゆえに人が惹きつけられやすく、何よりも決めつけにあふれていた

 引用が長くなりましたが、実は私にとって本書の中で一番怖かったのがこの場面なんですね。激昂するタイプなら感情的な反発もありますが、礼儀正しくしてるわりには発言の根拠が希薄でそのくせ結論だけ押し付けてくるような。しかもそれが正論だったりすると”空気”として勝ち組みたいな。それが結果として良い結果に結びつくか~てとそれもまた疑問。

 こんな話を受けてのナチスドイツの話題。霧慧トァンに対して父ヌァザの研究仲間である冴紀ケイタの話

  国家的に癌撲滅や禁煙を大々的に始めたのがナチスドイツだって知ってるか
   (中略)
  癌患者登録所というものを作って、癌にり患した人間を把握し、分類し、検査して
  ナチスは人類史上初めて癌を撲滅しようとしたんだ

   (中略)
  まさにその連中が二十世紀はじまって以来の、人類虐殺を行ったにしてもだ
  物事には色々な面があるっていうことだよ
  潔癖症も度が過ぎると民族の純血とかぬかしだすわけだ

正論の行き着く先がこれだったらたまらんですなぁ

 まあ、こういった社会が嫌だって人は当然出てくるわけで、そんな人が究極の調和="ハーモニー”がどんなもので、どうやって実現するかってのが本書の内容。多分に推理小説的な要素のある小説なので詳しくは書きませんが、けっこう面白かったです。伊藤計劃にもうちょっと付き合ってみましょうかと、コーヒーをがぶ飲みしながら思うのであります。


《脚注》
(*1)BISビブリオバトル部 2(山本弘、東京創元社)
 美心国際学園(BIS)高校のビブリオバトル部は、自分のお勧めしたい本を紹介しあい、どれが一番読みたいかを競うクラブ。SFだのノンフィクションだのBLだのいずれ劣らぬ濃ゆい本好きが集まるクラブです。
(*2)その話がでてまして
 死んでしまったSFマニアのじーちゃんと、SF大好き伏木空の会話で、亡くなった伊藤計劃が死後の世界で新作書いてるっていう”地獄八景亡者戯”みないなネタが出てきます。詳しくはこちらをどうぞ
(*3)大災禍(ザ・メイルストローム)
 メイルストローム(maelstrom)はノルウェーのモスケン島周辺海域に存在する極めて強い潮流(大渦巻)。(wikipediaより)。エドガー・アラン・ポーの短編小説”メエルシュトレエムに呑まれて”に渦巻きに巻き込まれて難破した船から脱出する漁師の話ってのがありますが、関連ありそうですねぇ

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