カレル・チャペックのパーソナリティとは無関係に職業選択の自由が保障されている以上、SF作家が園芸家だってよい訳で・・・(園芸家12ヶ月/カレル・チャペックの家)

 ども、こう見えてIT企業に勤めるおぢさん、たいちろ~です。
 ある仕事をしている人ってのは、なんとなく特定の趣味を持っているようなイメージがあります。IT企業に勤めていると家でも日長夜長パソコンをいじっているような感じがしますし、自動車メーカーに勤めていると休日にはドライブに行ってそうだし。職業的にも警察官は推理小説がお好みだったり、本屋さんだと寸暇を惜しんで本を読んでたり。作家だと、恋愛小説家は恋を夢見る妄想にふけり、SF作家は科学の専門書を読みふけり。まあ、推理小説家が趣味で殺人を企てているとは言いませんが・・・
 実際は職業的イメージと本人の趣味が必ずしも一致するわけではないでしょうが、さすがに最先端のSF作家の趣味が園芸だとなるとちょっと意外感があろうかと
 ということで、世界で最も有名はSF作家による園芸の本”園芸家の12ヶ月”であります。

写真はたいちろ~さんの撮影。花菜ガーデンにあるカレル・チャペックの家です

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【本】園芸家12ヶ月(カレル・チャペック、中公文庫)
 チェコの作家カレル・チャペックによる園芸マニアの生態を描いた?エッセイ。今風だと園芸オタク?? エスエフのエの字も出てきませんのでSFファンの方には肩すかしかもしれませんが、そのマインドはSFオタクに通じるものがあるかと。
【旅行】カレル・チャペックの家
 神奈川県平塚市の神奈川県立花と緑のふれあいセンター”花菜ガーデン”にあるカレル・チャペックの家と庭をイメージした建物(休憩所)です。私が行った時にはチューリップ祭りやってて、そのほかにもネモフィラ、やフロックス、アネモネ、梨、レンギョウなんてのが咲いてました。結構広い公園で入場料520円(5月のピークシーズンは880円)とリーズナブル。園芸マニアの方はぜひどうぞ

 カレル・チャペックという人、今さらですが戯曲”R.U.R(*1)”の中で世界で初めて”ロボット”という言葉を使った人です(本人曰く、ロボットという言葉を作ったのは兄のヨゼフだとか)。チャペック自身は作家、劇作家、ジャーナリストですので(wikipediaより)必ずしも理系の人という訳ではなさそうですが。
 まあ、チャペックのパーソナリティとは無関係に職業選択の自由が保障されている以上、チャペックにはなんの責任もない訳ですが(*2)、それにしてもSF作家と園芸家のギャップってけっこう大きいよなぁ・・・

 でも、本書を読んでると園芸家の生態と現在のSFオタクの生態って微妙にオーバーラップするところがあるかと。
 なんせ、ありとあらゆる種類の苗を植え、マニアックな品種の違いにこだわり、所狭しと苗を植え、隙間があろうもんならさらに新しい苗を植え、人には珍しい苗を自慢し、人が自慢するのはなんとか手に入れようとし、品種にこだわるとすべての種類を集めないと居ても立ってもおられず、普通の人なら見向きもしないような土壌の改良に情熱を傾け、お休みするはずの冬にもカタログで集めるべき苗の注文にいそしみ etc、etc、etc

 これってSFオタクと同じ?!
 ありとあらゆるSFを読み、マニアックなストーリの見解にこだわり、所狭しと本を並べ、隙間があろうもんなら更に新しい本を買い、人にはレアアイテムを自慢し、人が自慢するアイテムはネットークションで手に入れようとし、ジャンルにこだわるとすべての本を読了しないと居ても立ってもおられず、普通の人なら見向きもしないようなマイナーな知識の吸収に情熱を傾け、お休みするはずの(しないけど)のレジャーシーズンにも読むべき本をAmazonでポチットし etc、etc、etc
 そこ、炎上させないように!

 このブログで園芸家向けの人も読むかもしんないんでそっちの話も一つ。
 私自身、土地を借りて園芸ってか野菜作りをしてた時期もありまして。てか花は一切植えず食べられるものしか植えてないというのが正確な表現です。
 チャペック自身はアンチ野菜作りの人のようで、一時期野菜作りをした時のことがトラウマみたいです

  むろん、一種のローマンチシズムから、
  自分は百姓になったような幻想にひたりたいためだった。
  ところが、間もなくわたしは、
  一日に百二十個の廿日ダイコンをひとりで平らげなけねばならないことがわかった
  うちじゅうでもう、みんなが食べようとしなくなったからだ

 野菜というのは一度育ててみれば分かりますが、ある時期にいっぺんに大量に収穫できます。まあ、長期間にわたってずっと採れるものもありますが、それでも1~2ケ月というレンジです。まあ我が家の場合は少なくとも家族は喜んで食べてくれましたんで、一人で平らげることはなかったですが(*3)、それでも会社におすそ分けするとかしないとさばききれんかったですねぇ。確かにある程度の面積で家庭菜園やる時のネックかもしれません

 本書は、まったく園芸の本なので図書館で探される場合は日本十進分類法で”園芸(620)”のコーナーにあります(私が借りた時はそうでした)。SFとはまったく縁のない本ですが、それをさっぴいても面白いですよ。

P.S.
 最近、近所で土地を貸していただけることになり家庭菜園を再開いたしました
 久しぶりの鍬使いで筋肉痛でピキピキですが・・・

《脚注》
(*1)R.U.R
 岩波文庫で”ロボット(R.U.R)”で読めるみたいですが、すいません、まだ読んでません。ちなみに”R.U.R”は”ロッサム万能ロボット会社”の略です
(*2)チャペックのパーソナリティとは無関係に~
 モトネタは川原泉の”空の食欲魔人(白泉社文庫)”より
  しかしながら、それ自体彼のパーソナリティとは無関係に
  職業選択の自由が保障されている以上、彼にはなんら責任はない
  なぜなら、彼はパイロットだった・・・

(*3)一人で平らげることはなかったですが
 その代わり手伝ってくれることもなかったですが・・・

植物由来をありがたがるのって、化粧品や食べ物だけじゃないんですね。毒薬もできます(スキン・コレクター/有毒植物/キョウチクトウ)

 ども、温泉に入れなくなるので刺青はしないおぢさん、たいちろ~です。
 タトゥーをしている外国の人が温泉に入れる入れないでもめてるニュースが時々流れます。入場規制の張り紙に”暴力団ならびに関係者、刺青の方”と暴力団=刺青みたいに扱ってますが、なんでそこまで神経質になりますかねぇ。外国の人にとってはファッションの一種にすぎないんじゃないかと。そもそも、私が子供の頃って銭湯に行けばだいたい一人や二人、背中にりっぱなもんもん背負ったお兄さんやおっちゃんがいたもんですが(*1)。さすがにじ~っと見ることはなかったですが、”すんげ~かっこいい”みたいなのと、”でも、彫ったらすんごい痛そう”みたいなのとないまぜになった感じだったでしょうか。まあ、個人が彫るなら”痛い”かどうかで済む話ですが、これを使っての殺人事件となると話は別
  ということで、今回ご紹介するのは殺人の手段として被害者にタトゥーを彫るというシリアルキラーのお話”スキン・コレクター”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。
近所で見かけたキョウチクトウ。てか、小学校の校庭だったんですけど・・

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【本】スキン・コレクター(ジェフリー・ディーヴァー、文藝春秋)
 科学捜査官”リンカーン・ライム”と刑事”アメリア・サックス”の元に、天才的犯罪者”ウォッチメイカー”が死亡したとの報が届けられた。一方、腹部に毒薬で刺青された女性の死体が発見される。残された証拠物件の中にかつてライムが関わった連続殺人事件に関する書籍の切れ端が発見される。そして第二の殺人事件が発生した・・
【花】有毒植物
 全体あるいは一部に毒を持つ植物。毒草。致死性のある毒性の強いのものから、かぶれや、痙攣、嘔吐を引き起こす程度の弱いものまで様々。一律有害というわけではなく、ちゃんと処理すれば食べれるもの(銀杏、ジャガイモ等)から、量によっては薬になる(チョウセンアサガオ)、蚊取り線香の原料になる(除虫菊)など役に立つものも。
 ”有毒植物”自体はそんなに珍しいということもなく”スズラン”、”ヒガンバナ(曼珠沙華)”、”福寿草”なんかもこの仲間。園芸店で”ジギタリス”が売っていた時にはちょっと驚きましたが。
【花】キョウチクトウ(夾竹桃)
 キョウチクトウ科キョウチクトウ属の常緑低木もしくは常緑小高木。葉が”竹”に、花が”桃”に似ているのでこの名前がついたとか。花、葉、果実などすべての部分に加え周辺土壌にも毒性があり、嘔吐、脱力、倦怠感などの中毒症状を起こすそうです。
(wikipediaより抜粋)


 本書の内容は微小な証拠物件を元にリンカーン・ライムとアメリア・サックス達のチームが”スキン・コレクター”というシリアクキラーを追い詰めていくというもの。相変わらず最後の最後までどんでん返しの連続というディーヴァーならではの推理小説。今回の犯人”スキン・コレクター”はというと、殺人現場で被害者の肌に謎の文字を、しかも毒薬で刺青するという人。単純に殺人だけなら銃やナイフで方が付くものを、わざわざ時間をかけてタトゥー(しかもかなりの出来栄え)をいれるなんてのは、推理小説史上、もっともめんどくさい殺し方の一つではないかと。

 で、今回のネタはそんなユニークな犯人を離れてちょっと毒薬の話を。なぜだかスキン・コレクターは植物から作った毒物がお好みなんですな。前半に登場するだけでも

〔シクトキシン〕
 ドクセリに含まれる。激しい吐き気、強直性の痙攣を引き起こす
〔悪魔の吐息〕
 エンジェルストランペットに含まれる。全身麻痺、記憶喪失を引き起こす
〔ストリキニーネ〕
 マチン科の樹木等から採取される。大きな苦痛を与える

などなど。他にもナス科の植物から採取されるニコチン、ホワイトホコシュから採取されるドールズ・アイズなど続々と(説明は本書での説明)。植物由来をありがたがるのって、化粧品や食べ物だけじゃないんですね。で、困ってしまうのはリンカーン・ライム。本書より抜粋すると

  工業プロセスで使用され、一般市場で流通している業務用の有害物質であれば
  まずメーカーを突き止め、そこから購入者を追跡することも可能だ
  製造者を識別するための化学標識が含まれていて、
  それが手がかりになって犯人の氏名が書かれた領収書が手に入れることもある。
  しかし、今回の犯人が凶器を自分の手で地中から掘り出したのだとすれば、
  それは期待できない
  地域を絞り込むのがせいいっぱいだろう

 つまり、自分で毒薬を製造するから証拠の追跡ができないと。確かに今の分析技術ってかなりのことができるようで、”和歌山毒物カレー事件(*2)”ではカレーに混入した亜ヒ酸の異同識別をするのに”SPring-8(*3)”つー大型放射光施設までひっぱりだしてやってたし。

 リンカーン・ライムのチームの凄いのは、ほとんど塵のような残留証拠物件をガスクロマトグラフィーやらなんやらで分析して、どこから来たかをデータベースなんかも駆使して解析して、その証拠が持っている意味や犯人の手口、さらには次の犯行を予測する(しかもかなりの確率で当たっている)とこ。そんな天才ライムにとっても”植物由来”ってけっこうやっかいっぽいんですね

 だからといって、一般人が毒物で殺人なんかやっちゃまず捕まるでしょうし(毒物でなくてもNGです)、下手に植物から成分抽出なんぞやった日にゃ、作っている人が真っ先に毒物にやられそうだし。この手の話は推理小説の中だけで楽しむのんが無難なんでしょうなぁ

《脚注》
(*1)立派なもんもん背負った~
 ”もんもん”というのは”くりからもんもん”の略で漢字で書くと”倶利迦羅紋紋”。不動明王の変化身”倶利伽羅竜王”を背中に彫った入れ墨から転じて”入れ墨”も指すようになったとか。(語源由来辞典より
(*2)和歌山毒物カレー事件
 1998年、和歌山県園部で行われた夏祭りで出されたカレーを食べた人が腹痛や吐き気などを訴え、4人が死亡した事件。主婦の林眞須美がカレーへの亜ヒ酸の混入による殺人及び殺人未遂の容疑で逮捕、2009年に死刑が確定(再審請求中)
(*3)SPring-8(スプリングエイト)
 兵庫県播磨科学公園都市内に位置する大型放射光施設140mの線形加速器に周長1.4Kmにおよぶ蓄積リングで8GeVの電子エネルギーを生み出すという施設。書いてる本人は理解できてませんが、すごい施設みたいです。詳しくは公式hpをご参照

このろくでもない、すばらしき世界に住む住民はエコン(ホモエコノミカス)にはなれないらしい(行動経済学の逆襲/切り株)

 ども、根がチキンハートなんで株式取引をしたことないおぢさん、たいちろ~です。 まあ、最大の理由は”お金がない”ことなですが。
 トランプ氏 VS クリントン氏によるアメリカ大統領選挙が終わりました。この結果が今後の世界経済にどう影響するかはわかりませんが、瞬間的にはすんげ~大波乱になっとります。密接な関係にある日米経済とはいえ、選挙当日11月9日の日経平均株価はトランプ氏優勢が伝えられると前日比919円(5%)下げ、現実路線の政策になりそうとなった翌日10日には前日比1,092円(7%)上昇。(日本経済新聞 11月12日より)
 先行き不透明とはいえ1~2日で日本経済のファンダメンタルズがこんなに変化するワケもなく、外から見てると相場がちょちょまっているんじゃね~かと思っちゃいます。なんでこんなことになっちゃうんでしょうね?!
 ということで、今回ご紹介するのは合理的とは程遠い経済の動きを経済学的なアプローチで解明しようとしている経済学者の本”行動経済学の逆襲”であります。

写真はたいちろ~さんの撮影(2014年8月頃)
鶴岡八幡宮の大銀杏の切り株です(*1)

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【本】行動経済学の逆襲(リチャード・セイラー、早川書房)
 合理的な考え方をする人間を前提に構築された伝統的な経済学に異を唱えた”行動経済学”の第一人者であるリチャード・セイラーによる、”行動経済学”の説明を伝記的な歴史解説の側面を加えて解説した本。
 原題は”Misbehaving:The Making of Behavioural Economics”。Behavioural Economicsの訳は”行動経済学”ですが”Misbehave”は”行儀の悪いことをする、不正を働く”という意味。まあ、伝統的な経済学から見ると行動経済学で扱う人間像って”正しくない”行動をする人なんでしょうなぁ
【花】切り株
 木を切った後の根元の部分。
 ”株式”の名前の由来は”株の部分がずっと残っている”という意味から世襲などによって継続的に保持される地位や身分を”株”というようになり、そこから共同の利権確保のための同業組合を”株仲間”というようになり、出資持分割合に応じて権利が保持されることを”株式”と呼ぶようになったとのこと(”語源由来辞典”より抜粋)
 現代でも相撲の親方になるのに”年寄株”ってのを耳にしますが、根っこは同じみたいです


 伝統的な経済学で扱う人間ってのは”ホモエコノミカス(homo economicus 合理的経済人)”、本書では略して”エコン”というモデルを想定しています。これはどんな人かというと,すべての選択を

 合理的期待(Rationarl Exprctations)

に基づいて行う人。簡単に言うと、自分で買うものはすべての財やサービスから最も最良な物を選び、余計なバイアス(偏り)がなく、自信過剰にはならず、どこまでも合理的で冷徹に行動する人。本書では”スタートレック”に登場する”ミスタースポック(*2)”のような存在を例に上げています。
 で、実際の人間(本書ではヒューマン)はどうかというと、モノを選ぶのはいいかげんだし、目先の利益にとらわれるし、同額なら利益を得るより損失のほうが悲しいし、自信過剰だしと、エコンとは似ても似つかない存在。つまり、

  このろくでもない、すばらしき世界に住む住民は
  エコン(ホモエコノミカス)にはなれないらしい
(*3)

ですな。
 本書では、行動経済学に登場する原点から左右非対称な価値関数だの、プロスペクト理論だの保有効果だの、サンクコストの誤謬だの、メンタル・アカウンティングだの、現在バイアスだの損失回避性などの各種のバイアスだのといったトピックが出てきます。単語だけ見るとおどろおろどしいですが、合理的に見ると正しくないけど実際にはやっちゃいそうな行動の説明なんで、意外なほどわかりやすいです。それぞれを説明してるとたいへんなので、本書を読んでいただければと。

 まあそんだけだと投げっぱなので気にいったトピックをひとつ。よく株価って美人コンテストに例えられますが(*4)、それのちょっと数学的バージョンを。セイラーがフィナンシャルタイムスで行ったクイズです。問題はこちら

  参加者は0から100までの中から任意の数字を1つ選びます
  全部の数字の平均値の2/3に一番近い数字を選んだ人が勝ちとなります
  あなたはどの数字を選びますか?

 一応、この問題には数学的な解き方が存在します。まず全員がまったくランダムに数字を選んだとすると、平均値は50になります。ですので2/3の答えは33。ところがもう少し頭のいい人がいると、”みんなが33を選んだら答えは22になるはず”という答えになります。これに気がついて2/3の掛け算を繰り返すと最終的には”0”に収束します(これをナッシュ均衡(*5)というそうです)
 実際にとうなったかというと、結果を多い順に並べると、”22”を選んだ人約8%、(2段階思考をした人)、”1”を選んだ人約7%&”0”を選んだ人約5%、合わせて約12%(経済学の訓練を受け過ぎている人)、”33”を選んだ人約6%、(1段階思考をした人)(カッコ内は本書でのコメント)。最終結果は約2%の人が選択した”13”になったそうです。
 この結果がなぜ気にいったかというと、世の中には頭の良い人だけじゃないんだな~ってのと、頭の悪い人がどう行動するかの”読み”ってのは計算だけじゃ出てこないんだな~と。セイラーはこの結果でフィナンシャルタイムスの読者は頭の良い人が多くてナッシュ均衡に気付いた(0や1を選択した)と言っていますが、実際には世の中には頭の悪い人(1~2段階で思考を止めた人や絶対出ない66以上を回答した人も僅かながらいた)がいてかなり平均を押し上げる結果になってます。さらにいうと”99”とか”100”を答えたいたずら行為をした人もいて(合計で約3弱%)、結果的には数学的な結果と一致しなかったと。

 まあ、考えてみりゃ世の中みんな頭のいい人ばっかりとは限んないし、いちびりもいてなかなか計算どおりにゃいかないんでしょうね。エコンをベースにした(このクイズだとナッシュ均衡の結果に賭けた人)ばっかりじゃないってのは当たり前っちゃ当たり前です。実際に自分のお金をかけて投資をするとなれば、同じ相場を見てもブルと判断する人もいれば、ベアと見る人間もいるんだろうから(*6)もっと数字通りにゃいかないんでしょうなぁ

 と、ここまで書いていて最近の気になる記事から。日経新聞が人工知能(AI)を使った対話型対応エンジン”日経DeepOcean”を提供するとのこと(日経新聞 2016年11月7日 HPはこちら)。データに基づいた数理統計的なAIの分析なんて、まさに究極の”エコン”かも。こいつの言う通りに動いたら伝統的な経済学の世界になっちゃうんでしょうか? それとも”第3の経済学”みたいのが登場するんでしょうかね?

 本書はちょっとお堅いような本ですが、物語っぽくなってる分だけ”行動経済学”の入門書としても良いかも。経済に興味を持っている人にはお勧めです

《脚注》
(*1)鶴岡八幡宮の大銀杏の切り株です
鶴岡八幡宮の大銀杏は、源頼家の子の公暁がこの銀杏の木に隠れて源実朝を殺害した(1219年)という伝説がある樹。2010年の強風により根元から倒れました。写真は根元から高さ4mまでの部分を元の樹の横に移植したものです
(*2)ミスタースポック
 アメリカのSF映画&TV”スタートレック”シリーズに登場する宇宙船エンタープライズ号の副長兼技術主任を務めるヴァルカン人(宇宙人)と地球人とのハーフ。普段は感情を抑制し表情に出さない、非常に合理的な思考のすが、持ち主ながら、時々感情に流されるのが魅力。
 13作目の映画”スター・トレック BEYOND”が公開中ですがまだ観に行ってないな~~
(*3)このろくでもない、すばらしき世界に住む住民は~
 缶コーヒー”BOSS”のCM”宇宙人ジョーンズの地球調査シリーズ”より。宇宙人ジョーンズはトミー・リー・ジョーンズが演じています。ちなみジョーンズの吹き替えを担当している菅生隆之は2009年からの新”スター・トレック”シリーズでは老年期ミスタースポックの声も担当してます、はい
(*4)美人コンテストに例えられますが
 たとえば100人の中から最も美しいと思われる人を6人選んで全体の平均的な選好に最も近い選択をした人に賞金を与えるというゲームをやるとします。賞金を貰おうとすると、自分が最も美しいと感じる人ではなく、他の参加者が最も美しいと感じるであろう人を予測(場合によっては数次にわたって)することになるというもの。ケインズの説明だそうです。
(*5)ナッシュ均衡
 ナッシュ均衡は、他のプレーヤーの戦略を所与とした場合、どのプレーヤーも自分の戦略を変更することによってより高い利得を得ることができない戦略の組み合わせである。ナッシュ均衡の下では、どのプレーヤーも戦略を変更する誘因を持たない(wikipediaより抜粋)。まあ、ボールの中に入ったピンポン球みたいな状態かと。
(*6)同じ相場を見てもブルと判断する人もいれば、ベアと見る人間もいるんだろうから
 相場などで上がると見る(強気)ことを角を下から上に突き上げる雄牛に見立てて”ブル(Bull)”、下がると見る(弱気)を爪を振り下ろして攻撃する熊に見立てて”ベア(Bear)”と言います。凶暴そうな動物にたとえていますが、ブルもベアもどっちも食べちゃう人間が一番凶暴なんですけどね

人間は頭で考えるより権威には服従するみたい。だとするといじめやハラスメントの問題に関心のある方は読んどいて損のない本です(服従の心理/トネリコ)

 ども、偉い人にへ~こらしないんで、あんまし出世してないおぢさん、たいちろ~です。
 大方の予想を裏切ってトランプ氏が第45アメリカ大統領になりました。どうも彼の国は閉塞感の漂う社会に強力なリーダーシップを求めたようです。まあ、リーダーシップのあることは別に悪いこっちゃないですが、かつて”カリスマ的なリーダーシップ”と”服従の国家システム”を構築することで後から考えると”なんでそんな非道なことをやったんや!”てことをやっちゃった国もあったんでね。
 別にトランプ氏が第二のヒットラーになるなんて言う気は毛頭ないんですが、状況がリーダーの思惑を超えておっとっとな過剰適用をしちゃうこともあります。歴史から教訓を学びうるのであれば、ちゃんと見るべきとこは見といて、嫌なものは嫌だと言わないとって~話です。まあ、彼の国だけの話ではないですが・・・
 ということで、今回ご紹介するのは人間というのは意外なほど権威に服従してひどいことをちゃっやいかねないという話”服従の心理”であります。

写真は”sasikiの雑記帳”のhpより。トネリコの木です

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【本】服従の心理(河出文庫、スタンレー・ミルグラム、訳 山形浩生)
 1960年から63年にかけて、アメリカのイェール大学である実験が行われた。通称”アイヒマン実験”。ナチス親衛隊中佐”アドルフ・アイヒマン”の名を冠するこの実験は、人間の権威に服従する心理を検証するものだった。そしてこの実験の結果は大方の予想を裏切るほど”人間は権威に服従する”ものだった・・・
 心理学者ミルグラムによる実験結果とその考察をレポートした本。
【花】トネリコ
 モクセイ科トネリコ属に分類される落葉樹。花言葉は”偉大、高潔、服従”など
 北欧神話に登場する世界を内包する”世界樹(ユグドラシル)”はセイヨウトネリコの樹だそうです。この樹から枝を1本折り取って”グングニル”という槍を作ったのが主神にして戦争と死の神”オーディン”、その枝の傷が元でこの樹は枯れてしまったそうです。なんだか象徴的だなぁ


 実験の名前の元となった”アドルフ・アイヒマン”という人ですが、”ユダヤ人問題の最終解決”という何百万人ものユダヤ人虐殺に関与し戦犯として処刑されたナチス親衛隊中佐。これだけ聞くと極悪非道の大悪人のように聞こえますが、この人がある意味有名なのは、その実態が大方の人がイメージしたような人物ではなく、家族を愛し、上からの命令で淡々と仕事をこなす普通の人だったこと。今風に言うと残虐なラスボスだと思って倒したら、実はその後ろにいる真のラスボスにへ~こらしているだけの小物だったみたいな・・・
 この人に興味がある方はハンナ・アーレントによる”イエルサレムのアイヒマン(*1)”を読んでいただければ。

 この実験の内容を簡単に説明すると

 ・外見は”人が正しく学習するのは、間違えたら罰を受ける場合”という主張の調査
 ・メンバーは
  被験者:学習に関する実験と称して公募された一般人
  学習者:学習をする人(被害者。実は役者だが被験者には内緒。以下被害者)
  実験者:権威としての実験を指揮する人
 ・学習者は15~450ボルトの電撃を発生させる機械と接続される
   (命に別条はないと説明されている)
 ・被験者は学習者が間違えるた電撃のスイッチを入れる
 ・電撃は答えを間違えるたびに15ボルトづつ強くなる
 ・被害者は75ボルトでうめきだし、150ボルトで助けてくれと叫び、
  270ボルトで苦悶の絶叫を上げ、330ボルトで何の反応も示さなくなる
 ・被験者が電撃を上げることに拒絶を示した場合、実験者は実験を続けるよう促す

このような条件の元での真の実験の目的は”被験者はどこまで電撃をあげるか”、つまり”被験者はどこまで権威に服従して加虐的な行為を取りうるか”を調べるというもの。あなたならどこまでボルトを上げますか?

 この実験に対し、どのぐらいまで電撃を上げるかを別のグループに聞いたところ、ほとんどの人が150ボルトは超えず、最高の450ボルトまで上げる人は0.125%しかいないだろうと予想されたとのこと。
 で、いろいろなシュチエーションで行われた実験の結果はというと、主だったものは

〔高位の結果〕
 ・被害者と離れている場合:65.0%(40人中26名)
 ・音声が聞こえている場合:62.5%(40人中25名)
 ・被験者以外にスイッチを押す人(同僚)がいる場合
             :92.5%(40名中37名)

〔低位の結果〕
 ・抵抗したら押さえつけて電撃を流す場合:17.9%(40人中12名)
 ・実験者が不在の場合  :20.1%(40人中9名)
 ・被験者が電撃レベルを選択できる場合:2.5%(40人中1名)
 ・実験者がただの人の場合:20%(20人中4名)
 ・実験者の一人が続行、一人が中止を指示した場合:0.0%(20人中0名)
 ・被験者以外に2名の同僚(役者)がいて同僚が中止を主張した場合
             :10.0%(40名中4名)

 最も強い電撃まで続ける人は1000に1人ぐらいしかいないだろうという大方の予想を裏切ってそこまでやっちゃった人が実に2/3に達しているという結果に。被害者と離れているほど、責任を感じなくていいほど最高レベルまで上げちゃう傾向と。まあ、押さえつけてでも電撃を与え続けた人ですら20%弱いますが。

 単にサディスティックな人間が集まっただけと考える方もあるかもしれませんが、電撃レベルを選択できる場合だとそこまでいったのはたった一人(まあ、この人はそっち系の人かもしれませんが)。分布で見ると、うめきだしてる75ボルト以下までしか上げなかった人の累計が70%(40名中28名)助けてくれと叫ぶ150ボルトのレベルで同じく95%(40名中28名)。そんなにS系の人が集まっているとは言えなさそう
 逆に”実験者がいない”、”実験者が権威でない”、”実験者の意見が分かれている”あるいは”周囲が反対”の場合は最も強い電撃まで続ける人は減ってしまうようです。

 この結果から

  権威ある人からの指示があり、責任を感じにくい状況であれば人は従順になる
  権威が機能しにくい状況や、廻りの意見に同調できる環境では従順度は下がる

ことが見てとれます。なんだか、本の紹介ってより実験内容の説明ばっかになってすいません。本書はこの実験の内容を踏まえ、このようなことが起るメカニズムなどを詳しく紹介しています。実験が行われたのはもう半世紀以上前、本書の原典の出版ですら1974年と40年以上前ですが、そのショッキングな内容は今でも十分読み応えがあります。翻訳を担当した評論家”山形浩生”による現代的な視点での訳者あとがき”服従実験批判”も出色(というか、かなりえぐいツッコミ?)
 特にいじめやハラスメントの問題に関心のある方は読んどいて損のない本です。

《脚注》
(*1)イエルサレムのアイヒマン(ハンナ・アーレント、みすず書房)
 ナティ政権下でユダヤ人問題の”最終的解決”=ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を行ったアドルフ・アイヒマン親衛隊(SS)中佐の裁判記録の本。サブタイトルは”悪の陳腐さについての報告”。アイヒマンの裁判が行われたのが1961年、本書が出版されたのは1963年のことです。
 一般受けするような本ではないですが、それでも”アイヒマン・ショー”(まだ観てません)という映画が公開された時に本屋の特設コーナーに置いてあったのはちょっと驚きました。
 詳しくはこちらをどうぞ

正論も度が過ぎるとろくな社会にならんのでしょうかね(ハーモニー/コーヒーの木)

 ども、尿酸値と糖尿病と高血圧の薬を飲んでるおぢさん、たいちろ~です。
 別に自覚症状があるわけじゃないんですが、会社の健康診断でひっかかちまいまして・・・ この手の薬でめんどくさいのは完治するというより、状況を悪化させないために一生飲み続けないといけないってこと。まあ、処方箋も必要なので月々お金もかかるしねぇ。医者にも行かず、家で手に入れば楽ができんですけど。
 ということで、今回ご紹介するのはそんな夢の医療社会が実現したユートピアのお話、伊藤計劃(いとう けいかく)の”ハーモニー”であります。


写真はたいちろ~さん撮影。
北海道大学植物園のコービーの木です。

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【本】ハーモニー(伊藤計劃、早川書房)
 21世紀後半、人類は医療の発達によりほぼ全ての病気が放逐された福祉国家を実現していた。そんな中、6000人以上の人間が自殺するという事件が勃発する。WHOの上級監察官”霧慧トァン”はその事件の陰に、かつて共に自殺を図った友人”御冷ミァハ”の存在を感じる・・・
 デビュー2年、34歳の若さで病没したで伊藤計劃の長編第3作にして、第40回星雲賞及び第30回日本SF大賞を受賞した現代SFの名作。
【花】コーヒーの木
 アカネ科コーヒーノキ属に属する植物の総称。種子から採れるコーヒー豆はカフェインを多く含む
 カフェインは興奮作用を持つ精神刺激薬の一種で、コーヒ、緑茶、紅茶などの飲料や医薬品では総合感冒薬や鎮痛薬に用いられる一方、副作用として不眠、めまいなどを引き起こす(wikipediaより抜粋)


 伊藤計劃って前から読んでみたかったんですが、たまたまこの前読んだ”BISビブリオバトル部 2(*1)”にその話がでてまして(*2)、さっそく了読。で、感想としては”SFにおけるリアリティってずいぶん変わってきてるんだな~~”ってこと。SFってのは他のジャンルと違って、けっこう好き勝手に社会や歴史を組み立てるってことをやります。”ハーモニー”で語られている世界というのは究極の福祉・健康社会。<大災禍(ザ・メイルストローム)(*3)>という世界規模での大暴動や流出した核弾頭の爆発で破滅の危機に瀕した人類が、健康の保全を最大の責務とする”生命至上主義”のもとに作った社会。健康監視システム(WatchMe)によりモニターされ、薬や医療が大量に消費され、生活習慣病などを未然に防ぐ助言がされる社会。

 まあ、マクロレベルでは高齢化による福祉予算の増大問題を抱える国家から、ミクロレベルでは成人病に悩むおぢさんまで、夢のような社会ではありますが、”羹に懲りてなますを吹く”感もあります。でも、この社会に一定のリアリティを感じてしまうのは、今の社会が一種の正論に安易になびいているんじゃないかな~という漠然とした不安があるからかも。イ○リスのEUからの独立とか、○メリカ大統領選挙におけるトラ○プ氏の躍進とか、国家財政が破綻しても援助でなんとかなんじゃね?的なギリ○ャとか。それぞれの主張には一定の正論を持って国民の支持を得ているわけですが(ポピュリズムうんぬんの話ではなく)それはそれで不気味なものを感じちゃいます。

 本書の中で出てくるカフェインの摂取についての道義的な問題ってのが出てきます。某夫人は控えめに

  某婦人はカフェインがパニック障害を引き起こすことを指摘した
  某婦人はカフェインが睡眠障害を引き起こすことも指摘した
  某婦人はカフェインが痙攣を引き起こすことまでも指摘した
  某婦人はカフェインが頭痛や健忘症などの症状のトリガーになると指摘した

と発言。これに対して科学者にして霧慧トァンの父親でもある霧慧 ヌァザは、ある業務においてカフェインが必要であり、軽減されるストレスもあると訴えるものの受け入れてはもらえない。まあ常識的な発言ではあります。婦人の発言は

  礼を失しない、とても控えめでいて、どこまでも極端で、
  それゆえに人が惹きつけられやすく、何よりも決めつけにあふれていた

 引用が長くなりましたが、実は私にとって本書の中で一番怖かったのがこの場面なんですね。激昂するタイプなら感情的な反発もありますが、礼儀正しくしてるわりには発言の根拠が希薄でそのくせ結論だけ押し付けてくるような。しかもそれが正論だったりすると”空気”として勝ち組みたいな。それが結果として良い結果に結びつくか~てとそれもまた疑問。

 こんな話を受けてのナチスドイツの話題。霧慧トァンに対して父ヌァザの研究仲間である冴紀ケイタの話

  国家的に癌撲滅や禁煙を大々的に始めたのがナチスドイツだって知ってるか
   (中略)
  癌患者登録所というものを作って、癌にり患した人間を把握し、分類し、検査して
  ナチスは人類史上初めて癌を撲滅しようとしたんだ

   (中略)
  まさにその連中が二十世紀はじまって以来の、人類虐殺を行ったにしてもだ
  物事には色々な面があるっていうことだよ
  潔癖症も度が過ぎると民族の純血とかぬかしだすわけだ

正論の行き着く先がこれだったらたまらんですなぁ

 まあ、こういった社会が嫌だって人は当然出てくるわけで、そんな人が究極の調和="ハーモニー”がどんなもので、どうやって実現するかってのが本書の内容。多分に推理小説的な要素のある小説なので詳しくは書きませんが、けっこう面白かったです。伊藤計劃にもうちょっと付き合ってみましょうかと、コーヒーをがぶ飲みしながら思うのであります。


《脚注》
(*1)BISビブリオバトル部 2(山本弘、東京創元社)
 美心国際学園(BIS)高校のビブリオバトル部は、自分のお勧めしたい本を紹介しあい、どれが一番読みたいかを競うクラブ。SFだのノンフィクションだのBLだのいずれ劣らぬ濃ゆい本好きが集まるクラブです。
(*2)その話がでてまして
 死んでしまったSFマニアのじーちゃんと、SF大好き伏木空の会話で、亡くなった伊藤計劃が死後の世界で新作書いてるっていう”地獄八景亡者戯”みないなネタが出てきます。詳しくはこちらをどうぞ
(*3)大災禍(ザ・メイルストローム)
 メイルストローム(maelstrom)はノルウェーのモスケン島周辺海域に存在する極めて強い潮流(大渦巻)。(wikipediaより)。エドガー・アラン・ポーの短編小説”メエルシュトレエムに呑まれて”に渦巻きに巻き込まれて難破した船から脱出する漁師の話ってのがありますが、関連ありそうですねぇ

文化面や愛情面が満たされない精神的貧困状態にあると、結果的に金銭面においても貧困になってしまうのではないかということだ(貧困女子のリアル/ダイヤモンドリリー)

 ども、相変わらずお金のない生活を送っているおぢさん、たいちろ~です。
 最近”下流老人”に関する本を何冊か読みました。まあ、自分自身が定年後の生活をど~するんだ的な話が切実になってきまして。この手の話で問題なのは低所得層だけでなくそこそこちゃんと暮らしていた人でも、トラブル(病気や失業等々)一つで貧困になってしまうリスクがあること。まさに”一寸先は闇”です。私自身は幸いなことに今んとこ”将来に対する唯ぼんやりした不安(*1)”ぐらいですんでますが現在進行形の”リアル”で貧困に困ってる人もいます。
 ということで、今回ご紹介するのは老人じゃないですが、普通の女性の貧困事情をまとめた本”貧困女子のリアル”であります。

写真はたいちろ~さんの撮影。
横浜イングリッシュガーデンのダイヤモンドリリーです

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【本】貧困女子のリアル(沢木文、(小学館新書)
 シングルマザーなどではなく、短大や大学を卒業した普通の学歴を持ちで普通に働き普通に収入も得ている30代女性貧困状態に陥っている状況をインタビューを元にまとめた本。
 非正規雇用といった収入面の不安だけでなく、心の闇もまた貧困となる原因となりうることが良くわかります。
【花】ダイヤモンドリリー
 ”リリー”と名前についていますが、ユリ科ではなくヒガンバナ科。別名”ネリネ”
 花が輝いているように見えるのは花弁の表皮細胞が不規則な形をしていて、光が当たると乱反射するからだそうです(ダイヤモンドが光るのと同じ原理)。
 花言葉は”華やか、また会う日を楽しみに、幸せな思い出、輝き、忍耐、箱入り娘”など。
 この花は10月17日の誕生花なんですが、この日は”貯蓄の日”、”貧困撲滅のための国際デー(*2)”。最初に見た時はたちの悪い冗談かと思いましたよ!


 ”貧困状態とはなにか”というといろいろなご意見があるでしょうが、話を簡単にするのに下記の式で考えてください

  生活余力=現時点での預貯金+(収入-支出)×n年-イベント費用

実はこれ、先日聞きに行った”年金生活セミナー”でやってた考え方なんですね。”n年”という時間の概念があるのは、仮に80歳まで生きれるとしてそれまでお金が持つかどうかという判断になるから。イベント費用ってのは子供の結婚とかで突発的に大金が必要になるので織り込み、ローン返済は”支出”に含みます。ぶっちゃけ言うと収入が限定的(年金のみ)な高齢者にとって80歳までに”生活余力”がマイナスになると生活できなくなるということです。
 ”家とかの資産は?”って言われそうですが、”家”ってのは売れて初めて現金になるんで売れなきゃ生活の足しにならない。少子化の上に新築マンションがボンボン建てちゃって”空き家問題”が顕在化しつつある昨今、”不動産”が”負動産”化して始末に困ることだってありますし。てなことで、特に話は出ませんでした。

 この式を見ながら”貧困女子のリアル”を読むと、”低所得”だけではない様々なケースが見えてきます。てのは、登場する女性たちが必ずしも低所得ってわけではないんですな。むしろ収入に見合ったレベルを超えてお金を使っているとか(その理由がブランドモノや美容などや家族を養う(たかられる)だったりはしますが)。不足分が借金(負の預貯金)になって、これを返済するために支出(返済金)が増加しさらに生活を圧迫すると。親が借金を肩代わりして清算してくれた(外部の預貯金)ケースもありましたが、しこたま怒られた付きではあります。預貯金はというと、収入と支出がプラスにならないのでほとんどのケースでゼロになっています。
 こうなってくると”将来に対する唯ぼんやりした不安”どころではなく”今目の前にあるリアルな危機”なんでしょう。

 ”生活余力”の式自体はそんなに難しくはないですし、当たり前の話なんですが、わかっていてもなかなか”生活余力”が向上しない=貧困から抜け出せないってのはそれなりの事情があるんでしょう。本書の”はじめに”で沢木文がこのように書いています

  30人以上の女性たちの取材で感じたことは、
  愛情や文化、キャリアというお金で買えないものの資源が薄いと
  何かに依存して結果的に貧困になる可能性が高くなるという事実だ

   (中略)
  彼女たちから”私を愛して”という言葉が聞こえたような気がしたが
  30歳を過ぎた女性が、人をきちんと愛せる人から尊重されるには
  寛容、忍耐、知性、教養などさまざまな要素が必要だ

これを”あとがき”で要約しているのが表題の

  文化面や愛情面が満たされない精神的貧困状態にあると、
  結果的に金銭面においても貧困になってしまうのではないかということだ

です。沢木文自身、これが”原因”と言ってるわけではないですし(あくまで”感じた”ということ)、お金で買えない資源が薄くなったこと自体の原因は別のところにあるんでしょうが、今まで論じられてきた”低所得層の貧困”と違った”貧困”といったモノを生み出す実態の一つであることは間違いなさそうです。

 個々のケースで言えば、同情を禁じ得ないものもあれば、”あんた、それアカンやろ!”ってのもあります。読み手としてむしろ重要なのは、今貧困でない人なら”貧困に陥るリスクをどうやって回避するか”、今貧困に近い状態なら”貧困からどうやって脱出するか”を考えることかも。本書に回答が書いてあるわけではないんで、それは各人が考えるしたないんでしょうな。ぶん投げの結論で申し訳ないですが。
 ただ、こう言ったことを考えるという点では、この手の本は読んどいた方がいいかもしれませんね

 余談ですが、ダイヤモンドリリー(ネリネ)の花言葉”箱入り娘”はネリネの名前の由来となったギリシャ神話の水の妖精”ネレイデス”がエーゲ海の海底で優雅に暮らす”箱入り娘”だったから。花言葉辞典では”ちょっと引きこもり!?”というツッコミが!
 昔は”箱入り娘”といえばセレブの代名詞だったんですがねぇ やな時代になったモンです・・・


《脚注》
(*1)将来に対する唯ぼんやりした不安
 芥川龍之介の”或旧友へ送る手記”より。芥川龍之介はこの遺稿を残して1927年に自殺しました。
 本手記の中に
  僕はゆうべ或売笑婦と一しよに彼女の賃金(!)の話をし、
  しみじみ「生きる為に生きてゐる」我々人間の哀れさを感じた

という文章があります。こういうセリフは大芥川が言うからサマになるのであって、凡人がこんなこと書いて自殺しても誰も感心してくれませんぜ!(全文はこちらから
(*2)貧困撲滅のための国際デー
 国際連合が制定した国際デーの一つ。1987年に貧困、飢え、暴力、恐怖の犠牲者に敬意を表するためパリのシャイヨ宮の人権広場に集まったのが最初だそうです(Wikipediaより)

だが、野心は論理から生まれるものではない(ゴースト・スナイパー/アーティチョーク)

 ども、出世など縁がなくス~ダラに生きてるおぢさん、たいちろ~です。
 意外なようですが、会社で仕事をやっていると”指揮命令系統”なんつー言い方をする割には”命令書”という名前の書類ってお目にかかることはありません。こういうことやるぞという”中期○○計画”とか”XX度方針”や、こういった物を作るぞという”仕様書”みたいのはあるんですが”命令書”とは書いてない。”そんなこと言っても、命令(指示)はでてるやん!”と言われそうですが、実際口頭ですんじゃってるケースがほとんどじゃないかと。まあドキュメント化されているのも”稟議書”だったり”方針伺い”に対する”議事録”だったりで、上の人から”命令書”って形式にはないですな。
 まあ、この辺は企業文化だったりしそうなので一般論ではないかもしれませんが、明確に”命令書”って形のものもあるんでしょう。
 ということで、今回ご紹介するのは暗殺事件にまつわる1枚の命令書のリークをめぐる”リンカーン・ライムシリーズ”の第10作”ゴースト・スナイパー”であります。


写真は”お料理ダイスキ!ニューヨークおうちごはん”のhpより。
アーティチョークです

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【本】ゴースト・スナイパー(ジェフリー・ディーヴァー、文藝春秋)
 テロリストの活動家”モレノ”がバハマで暗殺された。この事件を巡って地方検事補”ローレル”は元ニューヨーク市警中央科学捜査部長で科学捜査の天才”リンカーン・ライム”を訪れる。この暗殺に関してアメリカの諜報機関から”命令書”がリークされ、しかもモレノは無実だった。ローレルはライムに操作を依頼するが、現場は遠く離れたバハマ。難航する捜査に業を煮やしたライムはバハマに直接乗り込むが・・・
【花】アーティチョーク
 キク科チョウセンアザミ属の多年草。和名はチョウセンアザミ(朝鮮薊)
 日本ではあまりなじみがありませんが、若いつぼみが食用になります。食べたことないけど。本書で暗殺者が作る料理”パッチワーク・グースの贅沢な料理”のレシピの中にある食材の一つがこれ
 ちなみに、ニューヨークにはアーティチョークビジネスで大儲けした”アーティチョーク・キング”と呼ばれたマフィアのリーダーがいたそうですが、マフィアって意外なモンもビジネスしてるんですな


 本書に出てくるのは”STO(Special Task Order、特殊任務命令書)”という書類。この書類を発行しているのは”NIOS(National Intelligence and Operation Serve、国家諜報運用局(*1))という、なかなか危険な香りの組織のトップです。
 で、この”STO”ってのには書かれていることとして、”誰を”、”いつまでに”、”どのように”暗殺するか、書かれてないことに”誰が”、”なぜ”暗殺するかってことがあります。書かれている”誰を”は”暗殺するターゲット(本書では対象=タスク)”と”いつまでに”は明示的なんですが、”どのように”はオペレータ(暗殺者)がどの手段でってのと、”CD(付随的損害)”が”承認(ただし最小限とすること)”ぐらい。まあ、”大まかなやり方は決めるけど詳細は任せる、あと、巻き込まれる被害者は少なくしてね”とバクっとしかないんですな。どっかの会社で、子会社に性能実験調査を丸投げして、上司が部下に”何としてでも燃費目標を達成しろ。やり方はおまえが考えろ(*2)”的な指示があって社会問題化していますが、この手の指示だと何やりだすか分かんない手合いのも出てくるわけで。本書だと元々非合法活動を命令してるんで、どう考えてもそれはやり過ぎだろ~ってヤバい話になっちゃてます。

 ぐだぐだ書いてますが、本書のポイントは命令書に書かれざる”なぜ”暗殺するのかにあります。いちおう国家機関が命令してるんで”国家の安全を脅かすテロリストは排除する”という大義名分はあるんですが、これがどのような判断でなされるかって実はけっこうあいまい。ある上司のお話

  法は解釈と権限の移譲を要求している。全面的な移譲だ。
  私のような人間に移譲することーーー
  私のように、国を統治する法の隙間をどう埋めるかを決める人間に

   (中略)
  な? きみも私もそれぞれ法を解釈し、考え、判断を下す
  この世界は灰色なんだよ

この上司は”私の仕事に独断の入り込む余地はない”とも言ってますが、命令を決めるって多かれ少なかれ独断で決めなきゃいけないことって多いと思うんだがな~~ 国家機関のトップがこれ言いだすのってかなりアブナイとも思うんですが・・・

 ここまではまあまっとうと言えなくもないですが(言えるのか?)、問題はこの命令書を自分の野心に利用しようとする奴もいること。まあ、その人が出世するかどうかはこんな手で上司を排除しても自分がとってかわることができるとは限んないですが。印象に残ったある上司のつぶやき

  

だが、野心は論理から生まれるものではない

 独断ではないにしても、野心から情報操作なんかが混じりだすと”判断の誤り”って必ず発生しちゃいます。それもまたアブナイとも思うんですが・・・
 もっとも、逮捕する側だって自分が政界に打って出るための花火にしようとする奴もいてどっちもどっちってとこはあるんですがねぇ・・・

 推理小説って、あんまし内容を書くとネタバレになるんでバクっとした話になっていますが、ご興味のある方はどうぞ。面白いシリーズです

ps.
 ジェフリー・ディーヴァーのhpに暗殺者の作る料理のレシピが載ってます。英語ですけど(リンクはここから


《脚注》
(*1)国家諜報運用局
 アメリカ国家安全保障局(NSA National Security Agency)ってのは実在しますが、NIOSも実在するんでしょうか? やってることは冷戦時代のCIA(Central Intelligence Agency アメリカ中央情報局)っぽいんですが・・・
(*2)何としてでも燃費目標を達成しろ。やり方はおまえが考えろ
 三○自動車の軽自動車燃費不正操作事件のんです。ちなみに、私んちの車も例の4車種にひっかっかっておりまして・・・ まあ、乗ってる分には別に不便ないんですけどね

そのうち”株の高速取引に勝つための唯一の手はプレイしないこと”人工知能は宣ふかもしれません(ウォール街のアルゴリズム戦争/ウォー・ゲーム/すずかけの木)

 ども、今まで一度も株なんぞ買ったことのないおぢさん、たいちろ~です。
 人間もおぢさんになってくると”あれ、昔も同じことなかったって?”ってことが良くあります。最近だと人工知能を利用した高速取引を検証する審議会を立ち上げるって話がありました(2016年4月8日 日経新聞) コンピューターの判断で高速売買を繰り返す”アルゴリズム取引”が株価の乱高下の原因の一つではないかと言われてることに対応するてことのようですが、これって”ブラックマンデー(*1)”の時も同じこと言ってなかったけ? この時も”プログラム売買”が暴落に拍車をかけたって話があったような・・
 ということで、今回ご紹介するのはコンピュータによる株取引の現在を扱った本”ウォール街のアルゴリズム戦争”であります。


 写真はたいちろ~さんの撮影。赤坂の”高橋是清翁記念公園(*2)”で見かけたプラタナスです

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【本】ウォール街のアルゴリズム戦争(スコット・パタースン、日経BP社)
 コンピュータの発展はニューヨーク証券取引所やナスダックをどのように変えていったか? ますます高速化するアルゴリズム取引の行方は?
 高速・高頻度化するマーケットをウォールストリート・ジャーナル記者が描いたノンフィクション。
【DVD】ウォー・ゲーム(監督 ジョン・バダム,20世紀フォックス)
 コンピュータオタクの高校生デビッドは、偶然ハッキングした”ジョシュア”というコンピューターと”アメリカとソ連の核戦争ゲーム”を始めた。ゲーム会社の新型ゲームと思っていたデビットだが、”ジョシュア”はNORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)に設置された人工知能、デビッドのゲームは”リアル・ウォー”を引き起こそうとしていた・・
 ※ステファニー・チャップマン・ベイカー出演のとは別のものです。ご注意ください
【花】すずかけの木(鈴懸)
 スズカケノキ科スズカケノキ属に属する植物の総称。別名”プラタナス
 若い人にはAKB48の”鈴懸の木の道で(以下略)”なんでしょうが、おじさん世代にははしだのりひこの”プラタナスの枯葉舞う冬の道で~ プラタナスの散る音に振りかえる~”でしょうか(*3)


 ”プログラム売買”と”アルゴリズム取引”って同じコンピュータを使った株(にかぎんないけど)取引って点では同じですが、扱いがビミョ~に違う感じがしてます。
 ”ブラックマンデー”で悪役扱いだったのが”プログラム売買”。株ってのは安く買って高く売るのが商売なんで、これをプログラムしてコンピュータにやらせるものです。まあ、コンピュータがやってくれればそれなりに楽にはなるし、人間みたく感情に振り回されることは少なくなりますが、状況によって下げが下げを生む負のフィードバックを淡々とこなすことにもなります(で、暴落の悪役扱いにされちゃいました)

 大量の株を大きな差額(売値-買値)で売り買いすればいっぱい儲かるんですが、少ない量で小さな差額でも高速に高頻度でやれば1件あたりの儲けは少なくても数が増えるんでけっこう儲けがでる、これが本書で扱っている”アルゴリズム取引”ってのです(かなりはしょって書いてるんで、実際はもっと複雑です)
 本書に登場するのはこの”アルゴリズム”の原型を作り、電子取引ネットワーク”アイランド”を創設した天才プログラマー”ジョシュア・レヴィン(*4)”、ジョシュアの師匠で荒稼ぎした”シェルドン・マシュラー”、”アイランド”のCEO”マット・アンドレセン”、”アイランド”のライバル”アーキペラゴ”設立した”ジェリー・パットナム”などなど、ウォール街を変革させたビジネスマンからコンピュータオタクまで多彩なメンバーが登場してきます。

 結果的にはニューヨーク証券取引所は”アーキペラゴ”と合併し、ナスダックは”アイランド”のシステムに移行と、従来の人間中心のシステムから電子取引ネットワークにとって代わられちゃいます
 ”ニューヨーク証券取引所”って”1792年にウォール街のスズカケノキ(プラタナス)の下で売買手数料を定めた「すずかけ協定」に基づき、24の仲買人が始めた”ってことらしいですが、この24人だってまさか200数十年後にこんなことになるとは夢にもおもってなかったんでしょうなぁ・・

 本書では、こういった人間模様の話とともに技術的な話もたくさん出てきます。”アルゴリズム取引”って高速に高頻度と書きましたが、これが高性能のコンピュータでやらせるモンだからもうバカっ速い人間がやると10~20秒かかっていたものが、”アルゴリズム取引”だと1秒間に万単位のオーダーで取引され、ミリ秒単位で儲ける(損する)と、もう人間の手に負えるスピードをはるかに超えちゃってます
 2010年には”フラッシュ・クラッシュ”というのが発生したんですが、これは僅か数分でダウ平均株価が1000ドル以上近く下落、時価総額にして1兆ドル近くが吹っ飛んだというもの。”アルゴリズム取引”がこの原因の一つとして悪役になっちゃってます。最近ではこれにコロケーション(*5)だ、人工知能だ、ビックデータだが加わって、取引自体が人間の手を離れて(まあ、アルゴリズムは人間が創ってはいますが)コンピュータそのもの商売やってる感ありありです。

 でこうなると、だんだん儲からなくなってくるというか勝者だけ総取りあとはみんな負けというか。象徴的なのがインタラクティブ・ブローカーズのCEO”ピーターフィー”と”アンドレセン”との会話。アイランドを使い始めてすぐやめてしまったインタラクティブ社に理由を問う場面

  アンドレセン :われわれは競合他社よりも10倍速く、10倍安いのです
  ピーターフィー:マット、おっしゃる通りだ。アイランドは速いし安い
  アンドレセン :ではなぜ弊社を使わなくなられたんでしょうか
  ピーターフィー:それは、アイランドでは儲けられないからだ!

 つまり、アイランドで競合するトレーダーが巧みすぎて”互いを食い荒す鮫でいっぱい”になってしまっているということ。プロ同士でこれですから、ここに個人投資家=”無知な金”なんかが入ってっても餌扱いです。

 この本を読んでふと思い出したのが、”ウォー・ゲーム”という映画。1983年公開とまだ米ソ冷戦まっただなかの時代で、今見るとコンピュータの描写なんかノスタルジーを感じちゃいますが(音響カプラーなんて今の若い人わかるかなぁ?(*6))、内容的には今でも示唆に富んでます。
 ネタバレになりますが、デビッドが”ジョシュア”の始めたリアルな核戦争ゲームを止めるため、あるゲームをすることを提案。ジョシュアはそのゲームをやって、それを元に核戦争ゲームを高速でシミュレーションします。その結果は

  WINNER:NONE(勝者 なし)

ディスプレイに表示されるジョシュアがたどり着いた結論

  A STRANGE GAME
  THE ONLY WINNING MOVE IS NOT TO PLAY
  HOW ABOUT A NICE GAME OF CHESS?

  奇妙なゲームです
  勝つための唯一の手は、プレイしないことです
  チェスをしませんか?

 ”アルゴリズム取引”の行き着く先、プロ同士がやってもみんな引き分け、勝者なしならそのうちやんなくなるかも。ましてや素人じゃ絶対勝てないゲームなんて誰もやらんでしょうな。
 そうなりゃマーケットそのものが成り立たなくなっちゃうし、経済にとってそれが良いとか思いませんが。これもコンピュータのもたらす未来の一つの形になるかもしれんなぁ・・・


《脚注》
(*1)ブラックマンデー(暗黒の月曜日)
、1987年に発生した、史上最大規模の世界的株価大暴落。ダウ平均株価は▲22.6%、日経平均株価は▲14.9%の大暴落となりました。
(*2)高橋是清翁記念公園
 高橋是清は金融恐慌や、アメリカの株価大暴落”ブラックサーズデー(暗黒の木曜日)”に端を発した世界恐慌に対応した内閣総理大臣、大蔵大臣。”二・二六事件”により1936年死亡。高橋是清翁記念公園は、高橋是清邸宅跡(一部)です
(*3)はしだのりひこの”プラタナスの枯葉舞う冬の道で~ 
 曲名は””(作詞 北山修、作曲 端田宣彦、唄 はしだのりひことシューベルツ)。1969年発表とフォークブーム初期の名曲です。こちらからどうぞ
(*4)ジョシュア・レヴィン
 ジョシュア・レヴィンは1967年生まれ。”ウォー・ゲーム”の公開は1983年ですので(ジョシュアが15~6歳)名前の一致はたぶん偶然だと思います
(*5)コロケーション
 取引所のシステムと取引を指示するシステムが離れると、間のネットワーク分だけ僅かに遅延が発生します。ですので、取引所のコンピュータの横に指示するシステムを置いてた方が有利になります。コロケーションってのは、取引所内に指示システムを置くという方法。”光の速度で飛び交うデータにどんだけ差があんねん?!”と思っちゃいますが、それぐらいシビアあんだそうです
(*6)音響カプラーなんて今の若い人わかるかなぁ?
 パソコンをネットにつなげるには今ならLAN接続ですが、当時は音声回線しかなかったので電話の受話器を”音響カプラー”にパカッとはめて音声(アナログ)をデジタルデータに変換するという方式をとってました。初期のころの通信速度は300bps程度(メガでもギガでもないです。1秒間におおむね30数文字ぐらい送れる速度)

今の人が考える桜=ソメイヨシノのメンタリティって、日本史レベルではかなり後天的なもののようです(桜が創った「日本」/ソメイヨシノ)

 ども、花より団子、団子より酒のおぢさん、たいちろ~です。
 花と言えば桜、ちょうどお花見まっさかりです。と言うと日本全国そんなイメージになっちゃいますがそれって違うんですな。出身が関西なんで桜と言えば”入学”って感じですが、以前暖冬の年に仙台の人から”今年は入学式に桜が咲く”ことがわざわざ話題になったことがありまして。聞いてみたら、だいたい仙台の桜の満開は入学式にやや遅れるのが多いんだそうです。
 まあ、春爛漫、入学式に卒業とイベントベースな”桜”ですが、死体が埋まっていたり(*1)、その下で死にたがったり(*2)、国の為に散っちゃったり(*3)と意外にネガティブなイメージもあったりなんかします。
 ということで、今回ご紹介するのはそんな桜(ソメイヨシノ)のお話”桜が創った「日本」 -ソメイヨシノ 起源への旅ー”であります


 写真はたいちろ~さんの撮影。東急田園都市線たまプラーザ駅前の桜です

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【本】桜が創った「日本」 -ソメイヨシノ 起源への旅ー(佐藤俊樹、岩波新書)
 日本を代表する”桜”ソメイヨシノ。日本のメンタリティのアイコンのように思ってますが、実は明治以降に造られたイメージだってのがけっこう驚き。植物学者でも文学者でもなく、社会学の先生という視点で書いたユニークな本です
【花】ソメイヨシノ(染井吉野)
 桜はバラ科モモ亜科スモモ属の落葉樹の総称。ソメイヨシノ(染井吉野)はエドヒガン系の桜とオオシマザクラの交配で生まれた日本産の園芸品種。登場は江戸末期で学術的に同定されたのは1890年(明治23年)と、意外と新種。
 上記のたまプラーザの桜は高度成長期に植えられたもののようです(*4)

、本書はソメイヨシノを題材に”桜”のイメージの変遷を追いかけた本とでもいいましょうか。いくつかをトリビアっぽくまとめてみました

〔ソメイヨシノはクローン〕
 割と最近話題に出てくるのに”ソメイヨシノはクローン”ってのがあります。”クローン”というとSFっぽいですが、ぶっちゃけ”接ぎ木”や”挿し木”のこと。遺伝子的には同じなのでクローンなんですが(*5)、人工的なイメージと桜って合わね~と思われそうですが、ソメイヨシノって実はかなり恣意的な存在だね~ってのがこのあと出てきます。 ちなみに、クローンだってのは知ってたんですがなんでかを知ったのは本書から。ソメイヨシノって自家不和合性という同じ樹のおしべとべしべの間では受粉できないという性質があるんで、他の樹を受粉させて種を造ると性質が変わってしまうんだそうです。そうなるとソメイヨシノの亜種になってしまうんで接ぎ木にするしかないんだとか。へぇ~~

〔昔の花見はもっと長い期間楽しめた〕
 ぱっと咲いてぱっと散るのが桜。花見の時期が短くなる理由です。まあ、間違っちゃいないんですが、これは植えられている桜が”ソメイヨシノ”という単一品種だから起こることで、複数の種類が植えられているととっかえひっかえ観れるので長い間花見が楽しめるんですが。実際、昔の上野公園の桜って複数品種が植えられていて花の期間は1ケ月ぐらいあったそうです。
 じゃあ、なんでソメイヨシノばっかになったかというと、特に戦後の復興期には接ぎ木しやすく大量に安価に提供できる、移植後の根付きもいい、成長が速く見栄えがするまでが短い(ソメイヨシノは10年、ヤマザクラなら20年)という経済的な理由が大きかったようです。実も蓋もない言い方ですが・・ へぇ~~

〔ソメイヨシノの”吉野”はブランディング〕
 実際のソメイヨシノの起源にはいくつか説があるようですが、染井村で造られたものだそうです。じゃあ”吉野”はっていうと、実は直接関係ないらしい。昔は桜の名所といえば”吉野の桜”だったんで、この名前をつけたとか。てか”吉野の桜”自体が一種のブランド化していて、当時の実際の吉野山は若木が多くてそんなにいい感じじゃなかったのに”フィクション”としての吉野のイメージが突っ走ってたみたい。まあ、今でもありそうなことです。 へぇ~~

〔日本といえば桜ってイメージは実は明治以降の話〕
 西行法師もそうですが、

  敷島の大和心を人問わば 朝日ににほふ山桜花(本居宣長)
  花は桜木 人は武士(一休宗純)

みたく、日本人は昔から桜好きっちゃ好きなんですが、戦後の日本人が考えるような戦争、ナショナリズムと結びついた桜のイメージって明治中期以降に造られたモンみたいです。まあ、ナショナリズム自体、明治20年代後半(1885年~)に拡大したものと言えそうで、新たな日本の国民統合の象徴として”桜”がはまったと結び付けられなくもないみたい。靖国神社の境内に桜の森が出現するのもこの頃だそうです。
 ”みごと散りましょ、国の為”的メンタリティーでいうと

  一樹の花よりは、全山の集合体を以て優れりとなす
  此の如きは日本民族の長処が個人主義にあらずして
  むしろ団体的活動にあるを表現してあまりありというべきなり

 この文書が国定教科書”高等小學讀本”に載ったのは大正2年(1913年)とまだ先の話。だいたい、町中の桜自体が元々は一本桜で、ソメイヨシノの単品集中型に変わっていったのは大正から昭和にかけてのことなので、今の人が考えるような桜=ソメイヨシノのメンタリティってのは、日本史レベルでいうとかなり後天的なもののようです。 へぇ~~

 本書を読んでの感想ですが、今の人が思い浮かべる桜=ソメイヨシノのイメージって考えているほど古いモンではなくって、けっこう新しいものだってこと。ソメイヨシノが普及したのだって実は伝統的ってより新しさって側面もあったようです。常識っぽく思えるものでもいろいろひも解いてくと似て非なるもんだったりするんですなぁ
 まあ、そんな面倒くさいこと考えるのはヤボ、桜の樹の下で酒でも呑みながら花見にいそしむほうが粋なのかもしれませんけどね

《脚注》
(*1)死体が埋まっていたり
  桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる!
   ”櫻の樹の下には”(梶井基次郎、青空文庫他)より
(*2)その下で死にたがったり
  ねかはくは 花のしたにて 春しなん そのきさらきの もちつきのころ
   ”山家集”(西行、岩波文庫)
(*3)国の為に散っちゃったり
  貴様と俺とは 同期の桜 同じ兵学校の 庭に咲く
  咲いた花なら 散るのは覚悟 みごと散りましょ 国のため

   ”同期の桜”(作曲 大村能章、原詞 西條八十)
(*4)たまプラーザの桜は高度成長期に植えられたもののようです
 東急田園都市線”たまプラーザ駅”の開業が1966年(昭和41年)、桜が植えられた桜は45年目で再整備するとのことですので植えられたのは1970年頃(推定樹齢50年)のようです。
 世は高度成長期、大阪万博(EXPO’70)のシンボルマークに、日本館を上から見た形と、桜が戦後日本の頂点を極めた時代でもあります。
(*5)遺伝子的には同じなのでクローンなんですが
 接木雑種といって、接ぎ木でも新種が生まれることもあるそうです。

科学捜査が発展した現在では、大時代的なトリックって組み立てにくいんでしょうかねぇ(リンカーン・ライムシリーズ/黄色い部屋の秘密/コナラ)

 ども、犯罪にはとんと縁のないおぢさん、たいちろ~です。
 ”犯罪”に縁がないと書きましたが、実は高校時代に警察の取り調べを受けたことがあります。近くのゴミ捨て場に捨ててあった自転車を修理して乗ってたんですが(*1)、たまたまその直前にその自転車の持ち主の家で自転車の盗難があったそうでパトカーで警察署まで。結局車体の登録番号が違っていたのと、その家が家族の知り合いの家で修理して使っているのを知ってるからということで、無罪放免となりました。
 ことほどさように、犯罪を立証するには物的証拠と推理(そんなおおげさなもんじゃありませんが)が必要になります。この場合だと物的証拠=自転車、推理=お前が盗ったんやろ!です。でも証拠が必ずしも推理の正しさを証明するわけではないんですなぁ、これが。
 ということで、今回ご紹介するのは物的証拠と推理の対極にある本、ジェフリー・ディーヴァーの”リンカーン・ライムシリーズ”とガストン・ルルーの”黄色い部屋の秘密”であります。

写真はたいちろ~さんの撮影。近所の公園の”コナラ”です

0437
【本】リンカーン・ライムシリーズ(ジェフリー・ディーヴァー、文藝春秋)
 捜査中の事故により首と左の薬指以外が動かない元ニューヨーク市警中央科学捜査部長”リンカーン・ライム”と、助手として現場で鑑識捜査にあたるアメリア・サックスを主人公にした推理小説。”ボーン・コレクター”や最新作の”スキン・コレクター”など11作のシリーズ。
【本】黄色い部屋の秘密(ガストン・ルルー、ハヤカワ・ミステリ文庫)
 真夜中、スタンガーソン博士の娘、マチルド嬢の寝室から助けを求める悲鳴と銃声が聞こえた。博士たちがただ一つの扉を壊して部屋に入ると、マチルド令嬢が倒れており、黄色の壁紙には大きな血染めの手形が。しかし犯人の姿はどこにもなかった。密室から消えた犯人の謎を解くべく、18歳の若き新聞記者”ルールタビーユ(*2)”がのりだすが・・・
【花】コナラ
 ブナ目ブナ科コナラ属の落葉広葉樹。ドングリのなる樹といったほうがなじみがあるでしょうか
 落葉樹ですが、秋に葉が枯れて茶色になっても葉っぱは落ちずに春に新葉ができるころに落葉するとのことです(写真は5月に撮影のもの)

 まずは、科学分析による物的証拠から推理を進める”リンカーン・ライムシリーズ”から。リンカーン・ライムはニューヨーク市警を引退した身ながら、市警の委託を受けて刑事のアメリア・サックス、鑑識課のメル・クーパーたちと事件に取り組むという天才科学捜査官。日本だと”科捜研の女”のおじさん版ってとこでしょうか?(*3) 自宅にはコンピュータや顕微鏡は言うに及ばず、ガスクロマトグラフィー(気化しやすい化合物の同定・定量に用いられる機器)やら質量分析計(物質に含まれる成分や質量を分析をする機器)なんぞがたくさんあって、これで犯人の残した微細な証拠物件を分析して、それを元に犯人の行動を推理するという手法の人。
 この人の信条は犯罪が行われると証拠物件が犯人と被害者、現場で交換されるという”ロカールの相互交換の原則”。だもんで、塵や埃みたいなものでも何でも証拠物件として集めてきて徹底して分析しちゃいます。まとめると

  証拠物件を元に推理を組み立てる

という方向で思考が進んでいきます。

 リンカーン・ライムシリーズシリーズ第一作の”ボーン・コレクター”の出版が1997年ですが、これを遡ること90年前、1907年に新聞連載の形で発表されたのがガストン・ルルーの”黄色い部屋の秘密”です。こっちは”カーを、クリスティーを、そして乱歩を瞠目させた密室ミステリの最高傑作!(amazon 内容紹介より)”とあるように完全な密室での犯行、脱出不可能な通路からの犯人消失といったHowdunit(How done it どのように犯罪を為しとけたのか)の推理小説。
 探偵役が18歳の新聞記者”ルールタビーユ”。この人の思考方法は、ライムとまったく逆で”推理を元に証拠物件を精査する”という方向。本書でのルールタビーユの言い方だと

  つまり、僕は<論理的>に言って、XXXが犯人だと確信したのです
  そうなったら、あとはやはりこの<論理の輪>の中に入る、
  <目に見える証拠>を見つけるだけです

   (本書ではXXXに犯人の名前が入っていますが、ネタバレなので伏せ字)

 まあ、どっちの方向が良いかは一長一短ありますが、割り引いて考えないといけないのは”証拠物件に対する堅確性”。なんたって”黄色い部屋の秘密”が発表されたのは1907年と、ガスクロマトグラフィーや質量分析計なんて一般的じゃないし、DNA鑑定なんて夢のまた夢の時代。だいたい、血染めの手形が残っているのに指紋の話ひとつ出てきませんぜ!(*4)
 じゃあ、どうやってるかというとほとんどやっていないんですな~ これこれはこの人の持ち物がどうかを聞くかどうかぐらいで。コナラの林や部屋の中とかに残っている足跡だと、形に合わせて紙を切り抜いて大きさを比べるとかでとってもおおざっぱ。これじゃあ証拠物件ベースで犯人を特定するにも限界がありそうです。

 まあ、昔のミステリーってか一昔前まではルールタビーユ型のほうが当たり前だったんだけどね。髪の毛1本から個人が特定できるとか、そこここに防犯カメラがあって監視されているような時代だと、こういった大時代的なトリックって組み立てにくいんでしょうかねぇ 100年近いタイムスパンで見ると、科学捜査の発展がミステリーにも多大な影響を与えているってのがしみじみと感じられます・・・

《脚注》
(*1)近くのゴミ捨て場に捨ててあった自転車を~
 今ですと粗大ゴミとして手続きや廃却手数料の支払いなんかが必要なんですが、昭和の時代ですからそんなのはなし。拾ってきたのを修理して使うなんてのも当たり前でしたから、まあ、牧歌的な時代ではありました。
(*2)ルールタビーユ
 これはあだ名かペンネームみたいなので、本名は”ジョゼフ・ジョゼファン”。今だったら”ジョジョ”って呼ばれてそうだな~~
(*3)”科捜研の女”のおじさん版ってとこでしょうか?
 ”科捜研の女”は京都府警科学捜査研究所の研究員”榊マリコ”(演じるは沢口靖子)”を主人公とするテレビ朝日のドラマ。ちなみに現実の科学捜査研究所職員は警察官ではなく技術職員のため、捜査権などはないそうです。
(*4)ガスクロマトグラフィーや質量分析計なんて一般的じゃないし~
。ヴィルヘルム・ヴィーンが質量電荷比に応じて分離させる装置を組み立てたのが1988年、イングランドとウェールズで指紋を用いた犯罪捜査が始まったのが1901年、ミハイル・ツウェットがクロマトグラフィーの論文を発表したのが1906年、アレック・ジェフリーズが、DNA指紋を抽出する方法を発表したのが1985年のことです。
(wikipedia他より)

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