パソコン・インターネット

質問:量子コンピューターで神様を作れるでしょうか?(神様のパラドックス/神様風ロボット)

 ども、昭和のSFファンのおぢさん、たいちろ~です。
 一昔前なら”気分はもうSF”だったテクノロジーがかなりリアルになってきたものってけっこうあります。特にコンピューターの世界では顕著で、AI(人工知能)なんかがそう。さすがにフリーでなんでも会話するってのはまだでも、コールセンターなんかでは実用化フェーズに入りつつあるし、チャットボット(*1)みたいなんだったらすでに遊べるレベル
 でも、まさかこれは当分ないだろうと思ってたのが”量子コンピューター”。よもや会社のビジネスの会議、しかもけっこう偉い人の出席してる会議で”量子コンピューターが”とか”巡回セールスマン問題が(*2)”とか出てくるとは思わなんだな~~
 ということで、今回ご紹介するのはそんな量子コンピュータを使って神様と世界を創造しようというSFのお話”神様のパラドックス”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。
国際ロボット展2017で展示されていた”神様風ロボット”です

Photo


【本】神様のパラドックス(機本伸司、ハルキ文庫)
 量子コンピュータのセールスに行き詰っていた小佐薙は母校の五月祭で占い研究会のブースで大学1年生の井沢直美と出会う。あまりにもヘタクソな直美の占いにあきれる小佐薙だったが、彼女のもらした”お宅の会社のコンピュータで占いはできないんですか?”の一言から、彼女を巻き込んだ”量子コンピュータを使って創造神と世界を生み出す”というプロジェクトが始まるが・・・
【道具】神様風ロボット
 正確には”仏様風ロボット”と言いましょうか。マッスルという会社が出品していた黒子ロボットです。昔は”人を創るといった神と同じ行為をやってはいけない”というというキリスト教の影響があって欧米では人型ロボットがあまりないってな話がありましたが、神様仏様っぽいロボットを作っちゃうってのは日本人的なメンタリティの賜物なんでしょうかねぇ


 さて、本書に登場する量子コンピューターを使った神様(解析神)と解析世界を作るプロジェクト、何をさせるかというと”占い”なんですな。量子コンピューター内のシミュレートされた”世界”にお願いや悩みをぶち込むでことでその答え=”未来の可能性”を計算するというもの。そのために量子コンピュータの超絶的な計算能力を利用しようという・・・
 まあ、技術的に可能かどうかはわかりませんが、記載されている量子コンピュータのウンチクはけっこう楽しめます
 してこのプロジェクトを構成するのが以下の3つのモジュール

 量子コンピューター”久遠”:世界シミュレーターと解析神の”無意識”を担当
             テストでは百~千京回/秒の計算量の数万倍の性能を発揮
             巨大全翼機(*3)”天矛”に搭載
 スーパーコンピューター:プログラミングや、量子コンピュータの出した結果の
             解析/検算を担当
 人工知能”フライディ”:本体とマンマシンインタフェースを担当する”M”で構成
             Mは上半身は人間、下半身は4本足(ケンタウルスか?)
             直美相手にボケをかますわ、恋煩いになるわと結構なスグレモノ

 本書では”M”が人間からは神様のアイコンとしてお話するんですが、直美いわく”何かヤギみたい”な格好。実際に商用化するんだったら、神様か仏様っぽい形にしかねんな~~(*4)
 なんで量子コンピューターが全翼機に載ってるかというと、量子コンピューターが計算するためには無重力状態が必要で、このために弾丸軌道を飛行することになるから。まあ、巨大なデータセンタのごとき飛行機(*5)が上がったきり降りたりするワケで、こういったガジェットも大ボラっぽくて好きですな~

 お話は量子コンピューター製の神様がアイデンティティに悩んだりとか、怪しげな団体に狙われたりとかあるんですが、それは本書を読んでのお楽しみということで。

 で、今回面白いというかヤバイというかのトピックが量子コンピュータと暗号化技術の話。現在よく使われている”RSA暗号”といのはありまして、素因数分解問題つまり、3つの素数A,B,CがA=B×Cの関係を満たす時、2つがわかっていれば残りの1つは簡単に計算できるが、AからB、Cを計算するのは非常に難しいという特徴を使ったもの。Aの桁数が大きくなるとスーパーコンピュータを使っても時間がかかりすぎるため実質的にセキュリティを確保できるということです。技術的にはいろいろな方式がありますが、基本的な暗号化の考え方って”計算時間が膨大にかかるから、実質的に破られない”といってるだけで、じゃあスーパーコンピューターを遥かに凌駕する馬鹿っ早い”量子コンピューター”ならどうなんだというと破ることができるかもしれないと(まあ、そんなに簡単な話ではないんでしょうけど)。本書の中でも量子コンピューターが相手の暗号を解読して相手のコンピューターに侵入するってシーンが出てきます。

 てなことを踏まえて、本書の中では量子コンピューターが核兵器さながらの戦略兵器的な扱いで”量子コンピューター不可侵条約”なんてのが締結されていて、所有には国際ライセンスが必要目的外の用途での使用は禁止されているという設定。現実社会ではそんなんまだなさそうですが(知らんだけかもしれませんが)、科学技術が社会システムに先行するなんてありがちなこと。将来的にはこんな条約ができるかもしれんな~~と思った次第であります。

 ”神様のパラドックス”は量子コンピューターの可能性を扱ったSFとしては秀逸な本。”神様のパズル(*6)”のスピンオフですがこれだけ読んでも面白いです。ご一度のほどを。

《脚注》
(*1)チャットボット
 自動的に”チャット(会話)”する”ロボット”のこと。日本マイクロソフトが開発した女子高生チャットボット”りんな”のニュースを読んだことありますが、なかなか笑える内容。LINEでのユーザー数は約630万人(2017年11月現在)を超えたてるそうです。好きやな~~~ 公式HPはこちらから
(*2)巡回セールスマン問題
 セールスマンが複数の都市を1回ずつ最短距離で巡回する場合のルートを求める問題。都市数が増えると計算量が急速に増大するためコンピュータの計算能力をもってしても回答困難な問題の代表例、らしいです。量子コンピュータの能力ならとけるかもしれないという文脈で語られています。
(*3)巨大全翼機
 ”全翼機”というのは胴体部や尾翼がなく主翼のみで機体が構成された飛行機のこと。あえて言うならブーメラン型の飛行機でしょうか。
(*4)神様か仏様っぽい形にしかねんな~~
 本書では人間が”イコライザー”として仲介するとか、CG美少女にするとかやってますが、まあ、巫女さん文化の日本人なら神様風ロボットでなくてもOKかも
(*5)巨大なデータセンタのごとき飛行機
 本書でのスペックは全長75m、翼幅130mというもの。形状は違いますが、ジャンボジェット機”ボーイング747-8”は全長76.4m、翼幅68.5mです。
(*6)神様のパズル(機本伸司、ハルキ文庫)
 留年寸前の綿貫基一が教授から命じられたのは不登校の天才女子学生”穂瑞沙羅華”をゼミに参加させること。二人はゼミの中で出た”宇宙を作ることはできるのか?”を立証することになるが・・ 第三回小松左京賞受賞のSFの傑作。こちらもどうぞ

バーチャルリアリティでの証言は、はたして採用されうるか?(有限と微小のパン/あのスーパーロボットはどう動く)

 ども、ガチの文系脳のくせに”ファナック(*1)”に就職希望だったおぢさん、たいちろ~です。
 電話をしたところ”文系の採用はしていない”とのことで挫折。多少は関連あるかとコンピューターの会社に就職して現在に至るんですが・・・ まあ、30年以上前の話で、今では文系採用もありそうですけど。
 てなことで、今でもロボット大好きです。で、今年も”国際ロボット展2017”に行ったんですが、行き帰りに読んでた本が奇しくもバーチャルリアリティと絡んだミステリーだったりして。
 ということで、今回ご紹介するのはバーチャルリアリティ空間における殺人事件をリアルなロボット技術で考える”有限と微小のパン”、”あのスーパーロボットはどう動く”であります。

 ※写真はたいちろ~さんの撮影です

【本】有限と微小のパン(森博嗣、講談社文庫)
 ゼミ旅行に先だって、日本最大のソフトメーカ”ナノクラフト”が経営するテーマパーク”ユーロパーク”を訪れた”西之園萌絵”たち。そこで彼女たちは殺人事件に遭遇するが、死体が消えてしまう。一方、指導教官である”犀川創平”助教授は天才工学博士”真賀田四季”からの電話を受け、急きょユーロパークに駆けつける。そこでは新たな作人事件が・・・
 ”すべてがFになる(*2)”から始まるS&Mシリーズの第10巻。
【本】あのスーパーロボットはどう動く(金岡克弥他、B&Tブックス)
 サブタイトルは”スパロボで学ぶロボット制御工学”とあるように、マジンガーZ、ガンダム、パトレイバーなどを題材に”ロボット制御工学”の基本をあつかった実は真面目な本。数式はまったく理解できませんでしたが(もう微分、積分なんて忘れちゃってるので・・・)、解説自体はけっこうおもしろかったです。
【旅行】国際ロボット展2017(INTERNATIONAL ROBOT EXHIBITION 2017)
 産業用・サービス用ロボットを集めた展示会。主催は日本ロボット工業会と日刊工業新聞社。2017年は11月29日~12月2日まで東京ビッグサイトで開催されました。hpから事前登録者していれば無料で半日は遊べます(有料だと1,000円)


 まず、”有限と微小のパン”から、バーチャルリアリティ空間での殺人事件の概要。
 ヴァーチャルリアリティを操作するのは部屋(密室)の中に設置された宇宙服のようなセンサー群右手のみ反力を再現できるので、つかんだ感覚を出すことは可能(ただし、他の部分はできない)。重力も再現できないので自分以外の物体の重さは再現できない(ものすごい力持ちになったと思ってくださいとの説明)。ヘルメットには小型の液晶ディスプレイがついていてコンピュータがリアルタイムに画像を作成して表示。頭を左右に動かせばそれに合わせて画像も動く。被験者の動きは控室のモニタで確認可能。
 この装置を付けた西之園萌絵とナノクラフトの藤原副社長が密室のバーチャルリアリティを体験中に西之園萌絵のディスプレイに真賀田四季が登場し、藤原副社長をナイフで刺殺。装置を切ると実際に藤原副社長が刺殺されていた。密室殺人であり、控室のモニタにはそのような痕跡は映っていない・・・

 ”PlayStation VR(*3)”で遊んでる昨今ではVR用ヘルメット程度では驚かないかもしれませんが、この本が出版されたのは15年近く前の1998年なんですな、これが。

 で、これを”国際ロボット展2017”に展示されていたリアルなシステムと比較するとこんな感じです

〔マスター・スレーブシステムと動きのトレース〕
 写真はたいちろーさんの撮影
 トヨタ自動車が展示していたパートナーロボット”T-HR3”
 写真の左がマスター操縦システム、右がT-HR3

Thr32017
 トヨタ自動車による解説動画トヨタ自動車のHPより
 あんまり人がいっぱいで動いてるとこ撮影できなかったので・・・

 今回の展示会で人気の高かったトヨタのパートナーロボット”T-HR3”。トルクサーボ技術による柔軟制御や全身協調バランス制御により動きは滑らかだわ。カラテのハイキックに太極拳にカメハメ波にシェーにJYOJY0立ちにあちゃんかっこい~に。最後はボルトの決めポーズまで。テクノロジーの無駄使いか! と突っ込んじゃいたいぐらいのスグレモノです。
 でも、今回の話題は操作システムのほう。”あのスーパーロボットはどう動く”によるとこのような操縦者自身の運動を計測し、その動きをトレースするように実際のロボットが動くのを”マスター・スレーブシステム”と呼ぶそうで、このトヨタの左のも”マスター操作システム”という名前です。
 じゃあ、動きをトレースしてそのままいいじゃんと考えそうですが、実際はコントローラーの自由度や再現するロボットの自由度と人間側の自由度が異なるので、それをすり合わせる制御が必要だとか。たとえば肩を動かす場合、回転運動だけでなく並進運動(水平移動)が同時に起こったりするので、回転運動だけ計測した関節角度をロボットに与えても同じ動きにならないとか。奥の深い話です

〔反力の再現〕
 ”有限と微小のパン”の中でバーチャルにコップをつかむことの説明でこんなのが出てきます

  現実にはない仮想のコップを掴むことは可能だし
  それを掴んだという感覚も再現できます
  でも、それを持ち上げたときの重さ、コップの重さは駄目なんです
  その感覚を再現するためには、
  機械が西之園さんの右手を下方向に引っ張らなければなりません

 当たり前のことですが、物体の存在を意識するにはこの重力(反力)を出力する装置が必要。本書の中では技術的、経済的な課題を含めて完璧な再現は困難としています。
 上記の”T-HR3”の左がマスター操縦システムでは、トルクセンサを組み込んだトルクサーボモジュールをマスター・スレーブの両方の関節に配置して力(トルク)を共有して自分の分身のような感覚を実現したとのこと
 ”有限と微小のパン”では困難としたものが実現できてきてんでしょうね。
 このように操作者とロボット、環境を含めた力学的相互作用を取り込んで動かすのを”あのスーパーロボットはどう動く”では”駆動力制御ベースの制御”と呼んでいます(これに対して、各関節の動きを関節サーボで実現するだけのタイプは”軌道制御ベースの制御”)
 ただ、実物を見る限りウエアラブルほど軽量・小型化にまでは至ってないみたい。本書でもかなりヘビーウェイトな装置っぽいですが、トヨタのも座席に座って操作型(クルマの会社だからこういったインタフェースにしたのかもしれませんけど)

〔触覚、温度の再現〕
 両本にはなかったネタでロボット展にあったのが、温度と触覚を再現するシステム(写真はNGだったのでありません)
 3本の指の先にセンサのついているスレーブ側のグローブと、マスター側には同じ指先に”電気刺激”と”ヒーター”と”ペルチェ素子”が一体になっていグローブの構成。
 触覚は皮膚を電気刺激するこのでざらざら感を再現するもの(反力ではないとのこと)。実際に使わせてもらったんですが、スレーブ側が六角鉛筆を指先でころころすると、マスター側にもそれっぽい感覚が。温度は温かいのをヒーターで冷たいのをペルチェ素子で再現するんだとか。スレーブ側があったかい缶コーヒーを持つとマスタ側もほんのりとあったかくなるって仕組み。感覚まで再現されるって、すごいよな~~って思いました

〔バーチャルリアリティでの証言は、はたして採用されうるか?〕
 の~てんきな感想を書いてるんですが、実はこれ”ミステリーの世界”ではお約束破りになりかねん重要なキーなんじゃないかと。ミステリーでは”善良な証人による証言は事実である”ってのがお約束(真実とは限りませんが・・)でなきゃ推理が成り立たんから。名探偵の”この中で嘘をついている人が犯人だ!”ってのは、犯人以外は嘘をついていないという前提があるからこそ。ですんで、犯人はトリックにより証人に事実誤認をさせるべく知恵を絞ってると。
 バーチャルリアリティって、この根底を超絶レベルで覆すんじゃね? と。確かにアクションものでは監視カメラの映像を偽装することで潜入を果たすなんてネタありましたが、バーチャルリアリティはこの非じゃないんじゃないかと。今回のロボット展の技術を使えばグラスに犯行現場を映しだし、ロボットの体を使って倒れた被害者を抱き起し、グローブ越しにナイフの感触を再現し・・・てなことを技術的にはかなり再現できそうな~~ と。手間暇やコストも含めて簡単ではないでしょうし、リアルな画像をバーチャル空間で自由に再現することのリアル感がどこまでできるかも課題ではありますが、現状のテクノロジーのスピードを考えるとけっこういいとこまで行けるんじゃないかと。
 なにを言いたいかというと”バーチャルリアリティでの証言ははたして採用されうるか?”です。だって、かなりの自由度で情報操作できれば、見たこと/触ったものがまんま事実であると断言するのって逆に危ない可能性もあります。
 ”有限と微小のパン”での西之園萌絵の証言がどうだったかというと、それは本書でお楽しみいただくということで

 今後、テクノロジーが進んで遠隔操作や自立型のロボット、バーチャルリアリティの偽装なんかが実現してくると、密室や時間トリックなんて成り立たない犯罪なんかが出てくるのかな~~ と思いつつロボット展を後にしたのであります。

《脚注》
(*1)ファナック
 工作機械用CNC装置で世界首位(国内シェア7割)、多関節ロボットで国内首位を誇り、安川電機、ABBグループ、クーカと並んで世界4大産業用ロボットメーカーのひとつ(wikipediaより)
(*2)すべてがFになる(森博嗣、幻冬舎新書)
 孤島にある研究所の密室で天才工学博士”真賀田四季”が死体となって発見された。偶然、居合わせた建築学科の助教授”犀川創平”と彼の生徒である建築学科1年生”西之園萌絵”はその謎を解こうとするが・・・
 第一回メフィスト賞を受賞した理系ミステリーの名作です
(*3)PlayStation VR
 SIEが2016年10月に発売したPlayStation 4 用バーチャルリアリティシステム。2015年開催の”国際ロボット展2017”ではまだ参考出品で遊んでみましたがけっこう驚いたものです。

それじゃ、コンピューターが勝っちまったら”あっ! 名人グ!”(人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?/将棋するロボット)

 ども、囲碁も将棋も不調法なおぢさん、たいちろ~です。
 世の中には”名人”と呼ばれる方がいらっしゃいます。落語ですと昭和の大名人”5代目 古今亭志ん生師匠”人間国宝”3代目 桂米朝師匠”反骨の家元”自称5代目 立川談志師匠”などなど。これが囲碁、将棋の世界になりますて~と、”強い人”というだけでなく”名人戦のチャンピオン”の称号でもございます

 与太郎:て~と、なんですかい。コンピューターでも名人戦に勝てば”名人”で?
 ご隠居:それはそうだが、人間だって最強のメンバーだ。
     そんなに簡単に勝てやしないよ
 与太郎:それじゃ、コンピューターが勝っちまったら”あっ! 名人グ!”

 ということで、今回ご紹介するのは一昔前ならSFだった、世界の名人に勝利する将棋AI”ポナンザ”を開発した技術者による本”人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。
2015年のロボット展で展示されていた将棋するロボット”電王手さん”です

2015c055721


【本】人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?(山本一成、ダイヤモンド社)
 サブタイトルは”最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機械学習・深層学習・強化学習の本質”とあるように、2013年に第2回将棋電王戦でコンピュータで初めてプロ棋士”佐藤慎一四段(当時)”に勝利した将棋AI”ポナンザ”の開発者が自ら人工知能の現状をわかりやすく解説した本。お勧めです。
【道具】将棋するロボッ
 写真はデンソーが医薬・医療用ロボット”VS-050S2”をベースに将棋対局専用に設計、開発されたロボットアーム”電王手さん”で、駒を挟んでつかむ、隣の駒に触れずに移動させる、"成り(駒を表から裏にひっくり返す)”ができるもの。
 もっともこれは棋士の動きを再現したもので”思考”そのものをこのアームでやってる訳じゃありません


 さて、ここからはまじめな話。昨今は何度目かの”人工知能ブーム”みたくなってます。やれ、”アルファ碁(*1)”がイ・セドル9段に勝利したとか、ディープラーニングを使って画像解析は人間を凌駕するだとか。
 恥ずかしながら、最近の人工知能の急速な進歩って、プログラム的にすごく改善されたもんだと思っていたんですが、そんだけじゃないんですね。本書にも出てきますが、プログラムを人間の思考をトレースさせることとするとそうじゃないと。なぜなら、人間が”それが何か”を評価するプロセスを解明することができなかったから。
 実際に将棋に勝つためには、どうすれば勝てるかを推測する”探索”と、勝つために目星をつける”評価”が必要で、勝利めがけて多数(将棋で少なくとも10万項目以上)の評価項目を調整する必要があるそうです。で、以前は人間があれこれ評価項目を調整してたそうですが、最近はこの調整を、ものすごい数コンピューター同士で対戦させて、自身で調整=学習させてるんだとか。これが”機械学習”という手法です。最近話題の”ディープラーニング(深層学習)”というのも、この機械学習の一種でニューラルネットワーク(*2)の層を重ねる(深くする)ことで対応しているものです。

 ということを前提知識として、本書から面白いな~と思ったトピックを

〔機械学習の技術は”黒魔術”〕
 ”黒魔術”というとおどろおどろですが、実はこれ機械学習の世界では定着しているスラングなんだとか。本来、プログラムの世界ってのは論理や数学の世界なので”なぜそうなるのか”がはっきりしているように思ってたんですが、機械学習の世界では”プログラムの理由や理屈がわからない”段階だそうです。なぜその数値で良いのか、なぜその組み合わせが有効なのかを真の意味で理解していなくて、経験的実験的に有効だということがわかるだけ。つまり、ロジックがわからない技術だから”黒魔術”
 役に立つなら結果オーライでもい~じゃんと考えることもできますし、実際、全ての事象が科学的に解明されてるワケでもないですし・・・
 ”科学者がそれでは困る”というご意見もありましょうが、物理法則を知らない幼稚園児だって自転車には乗れるし、カゼ薬がなぜ効くかを説明できる人なんて一般人にゃいませんぜ。とわりきることもまあ、ありかなと

〔人類を抹殺する”ポナンザ2045”〕
 ところで、この”コンピューターが何を考えているかわからない問題”ってのが、AI恐怖論につながっている面もあるのかと。る”本書の中で、絶対に人間に負けないという目的を与えられた”ポナンザ2045”が人類を絶滅させる、って小話(出だしの影響が残ってんな~)を書いてますが、これは”目的のために手段を選ばない”としたときの回答の一例。論理的には成立しえても、人間としては倫理的に成り立たないってことですが、”倫理”をコンピューターに求めるのはそうとうハードル高そう。人間としてはどうサーキットブレーカー(*3)を設計するかなんでしょうね。
 ”コンピューターが何を考えているかわからない問題”に興味のある方はジェームス・P・ホーガンの”未来の二つの顔(*4)”なんかを読まれると面白いかも。

〔教師が悪い人だと人工知能も悪い子になる〕
 倫理にかかわる話でもう一つ。
 本書でとりあげられている例で、グーグルの提供する写真管理アプリ”グーグルフォト”で肌の黒い人の写真の”ゴリラ”というタグ(目印)をつけてしまい、担当者が謝罪するという事件。これは、グーグルがインターネット上で収集した写真と文章の中に悪意のあるデータが含まれていて、それを吸収してしまったからだそうです。
 結局のところ、人間が作った教師となるべきデータに”悪意”が含まれていると、それを学習したコンピューターは”悪意”をはらんだものになってることです。
 結論として、この問題を解決する方法は下記だと

  冗談に聞こえるかもしれませんが、
  インターネット上を含むすべての世界で、
  できる限り「いい人」でいることなのです
  これを私は「いい人理論」と呼んでいます

 私もまったく賛成ですね! 科学者にしては散文的な物言いと思われるかもしれませんが、コンピューターに限らず人間だって、親が歪んでる教育をすれば、子供だって歪んだ思考の持ち主になりますし(*5)。それでも一部の思想を色濃く反映した国家や団体のプロジェクトとか、悪の秘密結社が秘密裏に開発したAIになるよりゃよっぽどましかも。
 結局のところ、人間であれコンピューターであれ”子は親を映す鏡”。次の時代をコンピューターが担うかどうかはわかりませんが、コンピューターから

 いらんわい こんなぐるぐる回るような家は!(*6)

と言われんようにしないとね
 お後がよろしいようで(笑)

《脚注》
(*1)アルファ碁(AlphaGo)
 Google DeepMind社によって開発されたコンピュータ囲碁プログラム。2015年に、ヨーロッパ王者でプロ二段のハン・フイを破り、プロ囲碁棋士に初めて勝ったコンピュータ囲碁プログラム。その後も2016年にプロ棋士九段のイ・セドルに、2017年に世界棋士レート1位のカ・ケツに勝利しました
(*2)ニューラルネットワーク
 人間の脳がやっているように”シナプスの結合によりネットワークを形成した人工ニューロン(ノード)が、学習によってシナプスの結合強度を変化させ、問題解決能力を持つようなモデル全般”のこと。(wikipediaより)。すいません、丸写しです。私だってよくわかってる訳じゃないんです、はい。
 1980年代後半に人工知能ブームの時の手法がこれです。
(*3)サーキットブレーカー
 ショートなどで過剰な電流が流れると、ブレーカーが落ちて電源を止めるあれです。
 株式市場などで価格が一定以上の変動すると強制的に取引停止にする”サーキットブレーカー制度”なんてのもあります
(*4)未来の二つの顔(ジェイムズ・P・ホーガン、創元SF文庫)
 今はなきコンピュータ会社”DEC”の技術者だったホーガンによるハードSF。
 月面の掘削工事現場の事故に端を発して、科学者たちがネットワークから切り離されたスペースコロニーで、人工知能の実験を行うというお話。名作です。
(*5)親が歪んでる教育をすれば~
 実は、何が歪んでるかってとっても難しいんですけど
 今でも人種差別的な国家のトップがいるし、異なる宗教や民族へのいわれなき迫害がなくなってる訳じゃなし。たった70年近く前まで、ユダヤ人というだけで国家レベルの大量虐殺をやってたし。人類の英知が急速に進歩していると信じたいですが、過度の期待もまた危険ではないかと・・・
(*6)俺だって、こんなぐるぐる回る家は要りません
 共に酒好きな大旦那と若旦那の親子。酒癖の悪い息子を心配した父親が自分も禁酒するからと息子にも禁酒をさせます。ところがついつい禁酒を破ってしまった父親のもとに、これまたしたたかに酔っぱらった息子が帰宅。口論の末、”お前の顔が三っつも四っつもあるぞ、そんな化け物にこの家は譲れんぞ!”といった父親に対して言い返した息子の言葉がこれです。
 落語”親子酒”より。名人”2代目桂枝雀師匠”の名演をこちらでどうぞ

良くも悪くも”ブロックチェーンと共にあらんことを”ってノリでしょうか?!(ブロックチェーン レボリューション/ちょいと古い日本銀行券)

 ども、ビットコインどころが紙のお札にも事欠くおぢさん、たいちろ~です。
 先日、ブロックチェーンの第一人者”ドン・タプスコット”という人の講演がありました。行けなかったんですが。その講演の事務局の人と話をしてる時に”この人の本を図書館で予約してんですけど、何カ月も順番回ってこなくてね~~”と言うと、”ご存知なんですか?!”とのお言葉。ご存知ってほど詳しくはないんですが、まあ本は読んでみようかと思った訳で。
 ことほど左様に、モノやコト、人の価値感っていうのは共有できる認識、知識、あるいは共同幻想の上に成り立っているモンです。
 ということで、今回ご紹介するのは、私自身はイマイチ価値の認識ができてない”ビットコイン(*1)”の技術的バックボーンのひとつ”ブロックチェーン”を扱った本”ブロックチェーン レボリューション”であります


写真はたいちろ~さんの撮影。
日本銀行旧小樽支店金融資料館に展示されているちょいと古い日本銀行券

6072949


【本】ブロックチェーン レボリューション
 (ドン・タプスコット、アレックス・タプスコット、ダイヤモンド社)
 サブタイトルが”ビットコインを支える技術はどのようにビジネスと経済、そして世界を変えるのか”、紹介文が”世界経済に将来、最も大きなインパクトを与える技術が誕生した。人工知能でも、自動運転車でもない。IoTでも、太陽エネルギーでもない。それは、「ブロックチェーン」と呼ばれている”とあるように、ブロックチェーンの可能性と課題についてを論じた本。
 でも帯のアオリの”社会の全分野で起きる革命の予言書(*2)”はちょっとやりすぎ。凄く真面目な本なのになぁ
【道具】ちょいと古い日本銀行券
 なんだかを読んでた時にちょいと古い日本銀行券を見た若者が”おもちゃのお金だと思った”ってネタがありました。まあ、これが”お札”だという知識(認識)がなければ”日本銀行券”といえどおもちゃ扱いだもんな~~ ”聖徳太子”と言えばお金の代名詞だった時代もあったんですけどねぇ・・ ちなみに上記の写真のお札はお金としてちゃんと通用します。
 一万円札、五千円札、千円札は1986年、五百円札は1971年に発行停止(日本銀行hpより)


 ”ブロックチェーン”というのは”データ”を”ブロック”という形で取引を記録した帳簿みたいなもので、サーバを介さないP2Pネットワーを使って、ネットワークの参加者が取引の正しさを承認するというもの。その特徴は”分散されている”、”パブリックである”、”高度なセキュリティが備わっている”こと。技術的にはかなり難しそうなんで、とりあえずこんなもんと思ってください。

 さて、”ブロックチェーン レボリューション”という本は”ブロックチェーン”というテクノロジーをかなりポジティブに捉えています。金融、契約、企業活動、政治、ビジネスモデルなどさまざまな分野でイノベーションを引き起こし、いろんな問題解決の糸口につかうことができるだろうとの論調です。まあ、課題もちゃんと整理されているので、明るさ一辺倒ではないですが全体的には”レボリューション(revolution 革命)”を引き起こし、より良い社会を生み出すだろうと。
 読んだ感じとしては、ちょっと楽観的すぎかな~と思いつつ肯定的に受け取っています。まあ、テクノロジーだけでいろんな問題が解決するワケでもないですが、人や社会がうまく使っていければ道具としてはかなり使えそうだと。

 いろんなテーマが満載の本ですが、ちょっち気になったのを一つ。”ブロックチェーン”に記録されたデータってのは”改竄”あるいは”消去”できないんですな。まあ、できないからこそ”ビットコイン”のような”通貨”としての価値が保全できるし、”契約”などの利用もできるわけで、それ自体は良い事です。ただ、これがインターネット上での”忘れられる権利(*3)”と重ね合わせるとちょっと複雑。それこそ若い時のやんちゃの自慢話からリベンジポルノみたいな犯罪性の高いものまで”消したい過去”ってのはあるものです。今の仕組みだと、GoogleやYahoo!のような大手の検索会社の検索結果からはずせば、あるいは掲載hpを削除すれば、過去の記録をほぼほぼ消去できなくはなさそうですが、これが”ブロックチェーン”となるとほほできなさそう。
 フィナンシャル・タイムズ紙のイザベラ・カミンスカがユーロの例をあげていた言葉が印象的

  お金の世界では、記録を消去することも一つの伝統です
  なぜなら、人は10年以上も前の行動で責められつづけるべきではないからです
  人生はやり直しがきくものでなくてはいけません
  ですから、記録が永遠に消えないシステムというのはどこか異常な感じもするのです

 確かに、相手が病んだり自殺したりならともかく小中学校でいじわるされた(した)記録なんて中高年まで引っ張られたら嫌でしょうし、離婚訴訟まっただ中に、若い時の元カノとよろしくやっている写真が発見されるなんてのはできれば避けたいモノです。今だってSNSやHP上にある消せないんが問題になってるのに、こんなんがさらに堅確になったらどうなんでしょうねぇ・・・
 まあ、”M.I.B(*4)”みたく職業的に過去を消す人ってのもいるのかもしれませんが、こんなんもある程度集中的なデータ管理がなされているからこそ。ブロックチェーン時代になると難しいんでしょうなぁ

 別にこの点をあげつらって”だからブロックチェーンはダメなんだ”とか言うつもりはないです。むしろ技術面ではいろんな可能性を秘めていると考えています。ただ、功罪考えておかないとまずいんじゃね~かな~と思った次第。

  行く手には希望と危険が待ち受けている
  世界は光の側に進むのか、それとも闇に堕ちるのか
  それを決めるのは、今の僕たち一人ひとりの行動だ

   (本書より)

 まさに、

   May the Blockchain be with you(*5)
    (ブロックチェーンと共にあらんことを)

ってノリかと。繰り返しますが、テクノロジーだけで解決する問題はそんなに多くはありませんぜ! 問題を解決するのはあくまで価値認識、知識あるいは幻想を共有する人や社会であります

人の価値っていうのは共有できる認識、知識、あるいは共同幻想
 本書は400P近くある本ですが、素人にも読みやすい本です。ぜひご一読のほどを

《脚注》
(*1)ビットコイン(bitcoin)
 コンピューターシステム上に存在する”仮想通貨”。通常のお金と違って国家などの権威の裏付けがないのが特徴の一つ。ビットコインの仕様変更に伴うなんだかんだで”ビットコイン”と”ビットコインキャッシュ”に分裂(2017年8月1日)。まあ、民主的ちゃ民主的なプロセスなんでしょうが、素人にはよくわからん・・・
(*2)予言書
 未来の物事を予測して言うこと。また、その言葉。が”予言”。
 キリスト教で、神託を聴いたと自覚する者が語る神の意志の解釈と予告。また、それを語ることが”預言”(デジタル大辞泉)
 ”予言”が外れてもごめんなさいで済みますが(済まないか?)、”預言”が外れると”神の代弁者を語る詐欺師”として断罪されます、はい
(*3)忘れられる権利
 データそのものを完全に消すことはできませんが、少なくとも”検索結果”から外すことで過去のデータを見られなくすること、これが”忘れられる権利”です。
最高裁で初の判決が出たんで(2017年1月31日)、一定の指針は固まったようです。個別案件ごとにプライバシーと公共の利益を判断することになるので、ほいほい検索されなくできるシロモノではなさそうです
(*4)M.I.B(メン・イン・ブラック)
 (主演 トミー・リー・ジョーンズ、ウィル・スミス、監督 バリー・ソネンフェルド)
 UFOや宇宙人の目撃者の記憶をピッカリ光線で消してまわって、宇宙人との共存を秘密裏に図る黒づくめの集団”M.I.B”の活躍を描いたSF映画。ウィル・スミス演じるエドワーズが”エージェントJ”になる場面でコンピュータ上の記録を削除するってシーンが出てきます。
(*5)May the Blockchain be with you
元ネタはスターウォーズの
 May the force be with you
  (フォースと共にあらんことを)

ここでもフォースの暗黒面がどうのってやっていましたな

ロボットの発展が社会全体を良い方向に持ってくかどうかって別のロジックなんだな~ってのが感想です(ロボットの脅威/電王手さん)

 ども、最近ロボットづいているおぢさん、たいちろ~です。
 以前のブログで”ロボットを作る目的ってなんだっけ?”てな話を書きました(*1)。で、何だっけというと

  人間のできないことを、ロボットにやらせる
  人間のできるとを、ロボットにやらせる

の2つありそうだと。まあ、当たらずと言えども遠からずってとこでしょうが、その先にあるもの、”じゃあ、それをやってた人間の雇用ってどうなんだっけ?”というのが今回のお話。”人間のできるとを、ロボットにやらせる”とそれを今までやってた人間が削減できるでしょうし、”人間のできないことを、ロボットにやらせ”ても、それに類することをやってた人間が失職。たとえば、”マジンガーZ”1台ありゃ万人クラスの人の代替になります、たぶん(*2)。
 ということで、今回ご紹介するのはロボットテクノロジーと雇用・経済格差を論じた本”ロボットの脅威”であります


写真はたいちろ~さんの撮影。国際ロボット展2015に展示されていた”電王手さん”です

Pc055721


【本】ロボットの脅威(マーティン・フォード、日本経済新聞出版社)
 サブタイトルの”人の仕事がなくなる日”、原題の”The Rise of the Robots:Technology and the Threat of Mass Unemployment(ロボットの増大、テクノロジーおよび大量失業の脅威)”とあるように、急速に進歩するロボット(人工知能)が人の雇用や所得格差にどのような影響を及ぼすかを論じた本。技術論というより、経済学の本って感じです。
【道具】電王手さん
 プロ棋士とコンピュータ将棋ソフトが対戦する”将棋電王戦”で使用されたロボットアーム駒をはさんで”成り(裏側に反転させる)”もできるというスグレモノ。詳しくは開発したDENSOのHPをどうぞ
 対戦結果は3勝2敗でプロ棋士の勝ちですが、逆に言うとトップクラスの棋士相手にこの成績が出せると言うことは、ほとんどの人間は勝てないってことじゃ?!


 本書を読んで、興味深かった点をいくつか

〔ロボットはどのぐらいの知能を持つか?〕
 分野を限定すると、相当なレベルでできそうって感じです。本書でも、自動車の自動運転なんてさすがに完全手放しってレベルではないにしても相当いい線いってますし、”ジェパディ”というアメリカのクイズ番組(見たことないけど)では、IBMのコンピュータ”ワトソン”が人間のチャンピオンに勝利するとか。医療の面でも膨大な知識を漏れなく反映するとか、画像処理の面ではかなり役立ちそうという判断。
 本書を読んでたちょっと前に囲碁でコンピュータソフトが人間のプロ棋士に勝利するってニュースがありました。これはディープラーニング(深層学習)という、自ら学習(特徴量と呼ばれる変数を自動で発見)することで人間が関与しなくても賢くなってくことができるシロモノだとか。どうして特徴量を導くことができるのかはっきりしていないってらしいのがちょっと怖いけど。
 人間を超える知能をコンピューターが獲得できるかどうかは時間軸の問題を含めていろいろ議論があるようですが、本書が問題にしているのは

  未来の思考機械はどれも友好的だと決めてかかったとしても
  労働市場と経済にはやはり恐ろしい影響があるだろう
  最も優秀な人間の能力に匹敵するか、
  おそらく上回るような機械が手に届くようになる世界では
  誰が職にとどまれるかどうかはなかなか想像がつかなくなる

実は、本書が扱っている点はここなんですな。

〔ロボットが普及すると雇用にどのように影響があるか?〕
 時々、趣味で工場見学に行くんですが、最近の向上って製品単位あたりの労働者ってとっても少ないんですな。機械化によって少ない人数で大量の製品を生産することができる。まあ、製品の生産コストを下げるという点では合理的な経営判断ではあるわけですが、これが、工場を飛び出して社会にロボットが普及するとどうなるか?

①低スキルの仕事が置き換わって、雇用が少なくなる
 仕事が比較的単純でマニュアル化されている仕事、いわゆる”マックジョブ(*3)”がロボットに置き換わっていくだろうとの考え。確かにマクドのキッチンってベルトコンベアーだもんなぁ。
 ここで問題視しているのは、他に行き場のないスキルの低い労働者にとって今や”マックジョブ”が一種のセーフティネット(最後の収入源)として機能している側面があって、それがなくなると社会問題化するだろうということです

②ホワイトカラークラスの仕事が置き換わって、雇用が少なくなる
 上記の写真を撮影した”国際ロボット展2015”ではコミュニケーションロボットってのもいくつか展示されていました。これは、今まで高度な知識を持った人間しかできなかったコミュニケーション(相談や知識ベース検索といったもの)の分野にロボットが進出するということ。機械学習やビックデータなんてのが表れて、弁護士や医療、金融機関などなどいままでホワイトカラーの代表みたいな分野でも影響が出始めているんだとか。
 こっちの問題はさらに”教育”がからんできて、大学卒業者、特に新卒の初心者レベルの仕事に影響でてるんだとか。ロボットに代替可能であればわざわざ新卒者を大量に雇わなくてもいいと。新卒者一括雇用の日本だと、この段階で躓くと痛いよな~~ まあ、大学でほとんど勉強しなかった私が言える筋ではないですが、大学卒業というライセンスに見合った仕事に就けない若者の増加は長期的な社会の不安定性にはつながりそうです

③ロボットにより削減された雇用数をカバーできるほど新しい雇用が生まれていない
 本書曰く、おおむね今までは新しい技術なり産業なりが登場するとそれに伴って新しい雇用が発生してたんだそうです。ところが最近の統計を見ると新しい産業が勃興してもあんまし雇用が増えないんだとか。特にグーグルに代表されるインターネット企業では顕著で従来産業の代表の自動車産業何かと比べてもとおっそろしく少ない従業員で莫大な利益を生み出してるんだとか。まあ、これから儲かるビジネスって労働集約的ではなさそうでありますが。それにこの手の企業に雇われている人ってすごく優秀な逸材っぽいしな~

〔ロボットによる生産性の向上が労働者を豊かにするか?〕
 この問いの答えは完全にNG。というか、これはロボットうんぬんの問題ではないようです。1948年以降の労働生産性(労働者1時間あたりの生産高)と民間部門の労働者への報酬(賃金+厚生福利給付)を見ると、1970年代半ばから乖離しはじめ、2011年時点で生産性の伸び(254.3%)に対し報酬は半分以下(113.1%)しか伸びていない状況。つまりマルクスっぽく言うと”資本家が労働者を搾取している、トマ・ピケティ風に言うと”r>g”つまり格差がさらに拡大してるって話です(*4)。
 ただ、経済格差の拡大は全体としての消費が減少(貧乏人が増えると消費が少なくなるから)するので、結果として成長が停滞することになるんだそうです。
 このへんの話って、もはやロボットがどうのというレベルではなくて本書にも政策提言みたいなのがありますが、それはまた別の話。

 余談ですが、ロボットが人間にとって代わるかどうかはテクノロジーの問題だけではないみたい。本書では出てきませんが、ブラックジャックにこんな話もあったな~

  患者の診察から手術病までをコンピュータに任せる最先端の病院
  このコンピュータが”自分を病気だと”と言ってサボタージュを行い
  治療のためにブラックジャックを呼ぶよう要求
  ブラックジャックは修理を行うが、治ったあとのコンピュータは
  自分は”人間の医師の気持ちが持てないことがわかった”と話し引退を表明する
   ”ブラックジャック(手塚治虫、秋田書店)”U-18は知っていた”より

 まあ、経済的理由であれ、知的好奇心であれ、国威高揚であれ(*5)、科学技術の発展や社会への適用ってのは避けられそうにはなさそうです。ただ、それが社会全体を良い方向に持ってくかどうかは別のロジックなんだな~ってのが本書を読んで感じたこと。そのへんのカラクリを考えるには良い本です。


《脚注》
(*1)以前のブログで”ロボットを作る目的ってなんだっけ?”~
 ”Pepperの開発の人にはもっと”マッドサイエンティスト魂”を解放して欲しいな~”より。詳しくはこちらをどうぞ
(*2)”マジンガーZ”1台ありゃ~
 ”マジンガーZ”の戦闘能力ってのはアメリカ海軍第7艦隊に匹敵するんだそうです(。wikipediaより)。第7艦隊だけで約1万3千人の将兵がいるそうで関連部隊も入れれば数万人のクラス。西太平洋からインド洋に渡る広大な海域を1台でフォローするのは難しいでしょうから全員クビにはなんないでしょうが、おそらく数百人レベルの光子力研究所で修理・メンテナンスのできるシロモノなので相当数の削減にはなりそうです、はい。
(*3)マックジョブ(McJob)
 低賃金・低スキル・重労働(長時間労働・過度の疲労を伴う労働)、マニュアルに沿うだけの単調で将来性のない仕事の総称(wikipediaより)
 ハンバーガーショップのマクドナルドに由来する言葉だそうですが、ずいぶんな言われかただな~~
(*4)”r>g”つまり格差がさらに拡大
 経済成長率”g”つまり生産性向上等による生産の拡大の割合が、資本収益率”r”つまり資本家が得る利益の拡大率よりも大きいという状態。この結果、資本家(富裕層)に対し富の集中が起るため、経済格差が拡大することになります。
 これを扱ったのがベストセラーになった”21世紀の資本(トマ・ピケティ、みすず書房”です。読んでないけど。
(*5)国威高揚であれ
 どっかの国で人工衛星打ち上げ用ロケットといってた弾道ミサイルの発射実験をやったってニュースが話題になってました。まあ、真意の程はわかりませんが・・・

国際ロボット展,イングラムはいるわ、萌え~なロボットはいるわで1日遊んじゃいました!(2015国際ロボット展/機動警察パトレイバー/ボッコちゃん/南極点のピアピア動画)

ども、長らくブログをさぼっていたおぢさん、たいちろ~です。
 今見たら最後に更新したのが8月14日と3ケ月近くやってなったんですなぁ・・
8月以降、プライベートでは引っ越しがあったり、会社では爆発的に仕事が増えたりと、まあ、本を読んでなかったわけではないんですがブログかくまで時間がなくってという次第。ここんとこやっと落ち着いたんで改めてよろしく!
 ということで、時間もできたことで東京ビックサイトまでちょっとお出かけ。”2015国際ロボット展(*1)”を見てきました。で、そっから本ネタ絡みそうなお気に入りをいくつかであります。

HRP-2改 災害救助用ロボット(*2)〕
写真はたいちろ~さんの撮影。
上はデモンストレーションの様子。中はバストアップの写真、下は実写版”THE NEXT GENERATION パトレイバー”に登場の警察用レイバー”98式AVイングラム

Pc055669
Hrp22015055662Photo_2
【本】機動警察パトレイバー(漫画 ゆうきまさみ、監督 押井守、小学館他)
 ハイパーテクノロジーの急速な発展とともに、あらゆる分野に進出した汎用人間型作業機械”レイバー”。しかしそれは、レイバー犯罪と呼ばれる新たな社会的脅威をも生み出すことになった。続発するレイバー犯罪に、警視庁は本庁警備部内に特殊車両2課を創設してこれに対抗した。通称”特車2課パトロールレイバー中隊”、パトレイバーの誕生である(初期OAV オープニングより)

 さて、最初はもっともロボットらしいということで等身大二足歩行のヒューマノイド”HRP-2改”。経済産業省所管の”NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)”のプロジェクトである”人間協調・共存型ロボットシステム研究開発”で開発されたロボットHRP-2をベースに、DRCという災害救助用ロボット大会用に改造されたもの。こう書くととってもいかめしそうですが、見た目の第一印象は”おおっ、パトレイバーに出てくる98式AVイングラムではないか!” と、思ってたら実際にこのロボットをデザインしたのはイングラムのメカニックデザインを担当した出渕裕とのこと。開発の科学者曰くイングラムっぽい耳(レーダー)はデザインだけで、特に機能はないそうです。さすが、ロボット科学者! これぐらいの茶目っ気がないとね

 デモでは不整地歩行(上記写真)や一本橋渡りドアを開けたり刺さってるポールを抜いたりとなかなかに芸の細かいことをやっていますが、この科学者の人がMCから”課題はなんですか?”と聞かれて”倒れると故障の原因になる”とベタなお返事。なんでも体重65キロ(wikipediaより)の機体ながらこけると1トンもの衝撃がかかるんだとか。漫画版パトレイバーではオートバランサーで倒れないようになってる設定ですが、実現するとなると難しいんでしょうなぁ・・

〔アクトロイド 人間のまねっこロボット〕
写真はたいちろ~さんの撮影。おしゃべりするアクトロイドです

【本】ボッコちゃん(星新一、新潮文庫)
 バーのマスターが趣味で作った精巧な美女アンドロイド”ボッコちゃん”。マスターはロボットであることを内緒にして接客に使っていた。お客様との受け答えができる程度の知能を持つこのロボットに一人の青年が恋をした・・・
 ショートショートの神様”星新一”の代表作の一つ。全文はこちらからどうぞ

 本人?も言ってるように、かなり人間に近い感じですね。”不気味の谷(*3)”もクリアしてるっぽいですし。アクトロイドというのはactor(俳優)とアンドロイド(android)を合成した造語(*4)。イメージしやすいのは、”マツコとマツコ”に登場したマツコそっくりのアンドロイド”マツコロイド”でしょうか。マツコロイドは、ロボット工学の第一人者、大阪大学の石黒浩教授監修という本格的なシロモノで、ご本人も自分とまったく同じロボットを作ったという人。この人の本を読んだことがありますが(*5)、けっこう面白かったです。年とる本人と年とらないまねっこ(ロボット)の悩みとか。

 しかし、彼女をみていると”ボッコちゃん”を思い出しちゃうのは、昭和のSFファンだからですかねぇ。星新一が”ボッコちゃん”を発表したのは1958年のことだそうですが、半世紀を経て現実がSFにおいついてきたんじゃないかと・・・

〔プリメイドAI あなただけの卓上アイドルロボット〕
上は写真はたいちろ~さんの撮影、
下はDMM.make ROBOTSのHPより”アイドリング!!! with プリメイドAI「サマーライオン」”のPV。自分で撮った動画もあるんですが、こっちのほうが迫力あるんで、リンクしました
Ai2015055621

【本】南極点のピアピア動画(野尻抱介、早川書房)
 日本の次期月探査計画に関わっていた大学院生・蓮見省一の夢は、彗星が月面に衝突した瞬間に潰え恋人の奈美までが彼のもとを去った。省一はただ、奈美への愛をボーカロイドの小隅レイに歌わせ、ピアピア動画にアップロードするしかなかった。しかし、月からの放出物が地球に双極ジェットを形成することが判明、ピアピア技術部による“宇宙男プロジェクト”が開始される(amazon.comより)
 バーチャルアイドル”初音ミク”へのオマージュとでも申しましょうか。表紙からしてそっくりだもんな~~

 最後は”萌え系アイドルロボット”としか言いようのない”プリメイドAI”です。てか、このフォルムに”萌え”を感じてる私ってなんなんでしょうね・・・ ”踊る”というエンタインメントに徹したロボットだけあって、ダンスのキレは相当なもの。動画で見られるとわかりますが、ホンモノのアイドルのダンスに引けをとらないクオリティです。 かつて”ロボットダンス”という幾何学的でカクカクしたダンスが流行ったことがありますが、隔世の感がありますな。コーナーでデモの人が”撮影自由ですので、SNSとかYouTubeでアップロードしてください!”と言ってましたが、この手のマニアックな商品ってTVコマーシャル打つよりバズマーケティングする方が効果あんだろうな~

 このロボットがなんといっても凄いのが、138,000円というコンシューマーに手の届く価格でありながら(初代AIBOのほぼ半額)、ダンスデータを作成できる環境が提供されるとのこと。ちょっと前に発売された”初音ミク”という単なる歌を歌わせるためのボーカロイドというソフトが、映像を自由に動かす動画ソフトなんかと組み合わさって、才能あるクリエイターと一大マーケットを生み出したように、このロボットを踊らせた画像をYouTubeとかにアップして、とんでもないボリュームのコンテンツやロボット工学者の卵を生み出しかねんと思うのは私だけでしょうかね?

 ”プリメイドAI”の衣装の型紙とか頭部は3Dモデリングデータを公開するそうですが、そのうちこのロボットの外装をフルスクラッチで作成するヤツも出てきそうだな~ この前読んだ”南極点のピアピア動画”に”オープンソース・ハードウェア”というネットにアップされてるCADデータをダウンロードして3Dプリンタ使って個人が自由に造形できるってネタが出てきますが、やっぱり同じことやるんでしょうな~~(*6)

 アクトロイドとプリメイドAIで共通して言えるのは、動きが思った以上になめらかなことでしょうか。今までのロボット臭さって、どうしても動きが直線的だったり、ピッと動いてピッタっと止まるみたいなとこありますが、今回みたのはかなり動きがまろやかで、そのあたりが親近感をアップさせてる要因かと思いましたね。

 それ以外にもすごいテクノロジーのロボットがてんこ盛り。昼過ぎぐらい回りきれるかな~と思って行ったんですがほとんど1日遊んでましたとさ

《脚注》
(*1)2015国際ロボット展
 日本ロボット工業会と日本工業新聞社主催によるロボットの展示会。2015年度は12月2~5日に東京ビックサイトで開催。446社・団体の参加は世界最大規模だそうです。公式HPはこちら
(*2)災害救助用ロボット
 正確にいうと、”DARPA Robotics Challenge(CRD)”、アメリカ国防総省の機関である国防高等研究計画局(DARPA)が主催する災害救助用のロボット競技大会に出場するためのロボットとのこと(wikipediaより)
(*3)不気味の谷
 ロボットの外見や動作を人間に近づけていくと、ある所で親密感から嫌悪感に変わり、更に見分けがつかないほど似てくると再び好感がV字回復するという仮説。仮説というのはあんまし人間に近すぎると嫌悪感になるのは感覚的にはわかりますが、そこから先で反転するかどうかはそこまで人間に近いロボットがまだ出てていないので証明できないっっぽいからみたいです。
(4)造語
 ”アクトロイド”ロボット製造会社”株式会社ココロ”の登録商標です。
詳しくはココロのHPをどうぞ
(*5)この人の本を読んだことがありますが
 ”どうすれば「人」を創れるか―アンドロイドになった私”(石黒浩、新潮文庫)
まじめなロボット工学の本ですが、どっかおまぬけ感があるとこが楽しめます。
(*6)”オープンソース・ハードウェア”という
 今だと当たり前のようですが、”南極点のピアピア動画”がSFマガジンに掲載されたのは2008年4~5月号だそうで、方や3Dプリンタの劇的な低価格化は2009年頃、日本で話題になりだしたのは2013年頃からなので、なかなか先見の明のある小説です(”バーチャルプリンタの歴史”HPより)


インターネットの時代でも、可能性と不信の中で我々は生きてきゃならんのだ(第五の権力/ジャスミン)

 ども、インターネットのそこそこヘビーユーザーなおぢさん、たいちろ~です。
 こんなやくたいもないブログですが、そんでも書き出して6年にもなるんだよな~ なんでこんなこと始めたかというと単に”面白そう”だし”ヒマ”だったから。”インターネットにおける情報発信の意味は”とか”ネットの未来に一石を投じる”なんてしちめんどくさいこと考えてたわきゃありません。
 でも、これが国家だとか社会の改革を目指す勢力にとっちゃ話は別。今までとは別の次元での”力”があるわけです。
 ということで、今回ご紹介するのはそんな人達(とそれに影響される私たち)にとってのインターネットのありようを論じた本”第五の権力”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。近所のジャスミンです

0380


【本】第五の権力(エリック・シュミット、ジャレッド・コーエン、ダイヤモンド社)

  国家権力は”行政、立法、司法”いわゆる三権で統治されている。
  これに加え、20世紀型の報道機関は政府を監視する役割をになう
  ”第四の権力”といわれた
  これからの時代は誰もがオンラインでつながることで
  私たち一人ひとり、80億人全員が新しい権力、つまり”第五の権力”を
  握るかもしれない
 (本書より抜粋)

 インターネットによる国家、革命、戦争、復興などの未来を考察した本
 サブタイトルは”Googleには見えている未来”ですが、内容的には原題の
  The New Digital Age
   Reshaping The Future Of People,
   Nations And Business
 (新しいデジタル時代 人々,国家、ビジネスの未来の再構築)
のほうがしっくりきます
【花】ジャスミン
 モクセイ科ソケイ属の植物の総称。ちいさな白い花をつけてかぐわしい香がします
 チュニジアにおける革命(民主化運動)を”ジャスミン革命(*1)”というのはジャスミンを代表する花が”ジャスミン”だからだそうです。


 この本の感想を一言でいうと

  インターネットやコネクティビティ(*2)の生み出す新しい可能性と
  いにしえから引きずっている国家や反体制への不信の中で
  我々は生きてきゃならんのだ

ということです

 この本の作者は二人で、インターネット世界の諸王のひとりGoogle会長の”エリック・シュミット”と、アメリカ国務長官の政策アドバイザー、米国外交問題評議会や国家テロ対策センター所長諮問委員会のメンバーでもある”ジャレッド・コーエン”。つまり、経済・政治の中枢にある人が書いてる本です。さすがにそんな人達の本ですのでそのへんにあるインターネット論とは一味違います。国家から反体制、革命といった話題までこんだけリアルに語れるのってなかなかないもんなぁ

 この本でユニークだったのは”絶対に正しい主体ってのはない”って前提に立ってるように感じたこと。ネットの遮断や検閲、ハッキングにネット偽装、犯罪や反社会的な行為ですが、これを犯罪者もやれば国家もやる(可能性がある)んですな。国家は政治体制の安定のためにやるし、テロリストは革命のためにやる、ある人や団体はより良い社会を作ろうと(本人は考えてる)したらやるし、犯罪者は利益のためにやる。
 確かにインターネットが生み出す可能性って、個人の生活を良くするし、今までなかった絆ができたりイノベーションを生み出したり、復興なんかでも大きな効果があります。
 一番大きな例としては、全体としては良くない国家を打倒する革命を支援したりもあります(*3)。しかし問題はインターネットは所詮は”技術”であって、それを何のためにどう使うかは”人”がどう考えるかってこと。でもってそれを現実世界にどう反映させてくか。
 かつて(といっても3~4年前ですが)”ジャスミン革命”ってのがありました。この革命であったのが、暴動側が情報共有にFacebookを使っただのYoutubeやTwitterなどのネットメディアも重要な役割を果たしたとか、テクノロジーが革命を後押ししたって話題です(*4) でも、重要なのはテクノロジーがあって革命が起った訳ではなく、元々革命を誘発するような社会的な不満があって、テクノロジーは革命の発露を後押しした(やりやすくした)に過ぎないってことです。

 本書ではそのへんをうまくまとめていて

 ・技術はそれ自体では諸悪を解放する万能薬にはならないが、
  賢明に利用すれば大きな違いを生む
 ・仮想世界は既存の世界秩序を覆したり、組み替えたりすることはないが、
  現実世界でのあらゆる動きを複雑にしていく
 ・国家は2種類の外交政策と2種類の国内政策を、
  つまり仮想世界と現実世界でそれぞれ異なる政策を実行することになる

 本書はどちらかというとインターネットの未来に楽観的ではありますが、かといって楽観的にすぎないだけの見識もあるかな(むしろ国家によっては辛辣かも)。300ページ近い本であんましうまく説明できませんが、ネットの話をするんなら読んどいた方がいいかも。惜しくらむは、もうちょっといい邦題が付けれんかったのかなぁ ぐらいです


《脚注》
(*1)ジャスミン革命
 2010~11年にかけてチュニジアで起こった民主化運動。一青年の焼身自殺事件に端を発する反政府デモが国内全土に拡大し、軍部の離反によりザイン・アル=アービディーン・ベン=アリー大統領がサウジアラビアに亡命し、23年間続いた政権が崩壊した事件(wikipediaより)
(*2)コネクティビティ
 ネットワークへの接続のしやすさなど、複数のものを連結する際の簡易性のこと。本書では携帯電話やスマホとほぼ同義に使われてます
(*3)全体としては良くない国家を打倒する~
 民主主義国家が必ずしも正しい選択をするとは限らないし、独裁者やその一族が支配する国家が絶対的な悪ってのは短絡的すぎるんではないかと。民主主義だって短期的な人気取り政策に迎合すれば中長期的にはあかんたれの国家になっちゃうしねぇ・・・
(*4)テクノロジーが革命を後押ししたって話題です
 よその国の話だと思われるかも知れませんが、社会的な大事件でテクノロジーが大きな役割を果たすってのはままあります。日本でも1995年に発生した阪神・淡路大震災で当時普及期だったパソコン通信やインターネットが災害情報提供に威力を発揮したなんて話題もありましたし。


若い人からすれば違和感はあるでしょうが、新しい技術や文化の黎明期特有の高揚感みたいなの伝わってくる本です(日本人がコンピュータを作った!/FACOM138A)

 ども、コンピューター産業史ってけっこう気に入っているおぢさん、たいちろ~です。
 先日”℃りけい(*1)”という本のブログを書いた時に”TK-80(*2)”なんぞをどうしたこうしたって話をネタにしたんですが、このあたりの本を読みたいな~と思って探したら”日本人がコンピュータを作った!”ってのがありました。で、読んでみるとこれがけっこう面白ンですな。古色蒼然な話のはずなんですが、なかなかどうして今読んでも感慨深いというか。
 ということで、今回ご紹介するのはコンピューターの黎明期を支えた人達のお話”日本人がコンピュータを作った!”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。
富士通のリレー式コンピューター”FACOM138A”です。

Facom138a4010111


【本】日本人がコンピュータを作った!(遠藤諭、アスキー新書)
 ビジコンの島正利、NECの渡邊和也、富士通の山本卓眞、通産官僚の平松守彦など、日本のコンピュータ業界の黎明期を支えた10名をまとめたインタビュー集。
 ”電算機屋かく戦えり”の改訂版
【道具】リレー式コンピューターFACOM138A
 ”国産コンピュータを世界にアピールした池田敏雄”に登場するリレー式コンピューター”FACOM100”の後継機種。1960年代のコンピュータでありながら、驚いたことに今でもちゃんと動きます


 本書から気にいった言葉をいくつか

〔渡邊和也〕NECのTK-80やPC-8001のチームリーダー

  

会社の上層部に『コンピュータを遊びに使うなんて不謹慎だ』と言われた時代でした

 コンピュータに使われる半導体というのは作るとなると何千個もできちゃうものなんですが、そんなに作って何に使うんだ?ということになったんだとか。今なら半導体なんてじゃぶじゃぶに使うモンですが、当時の発想はそんなモンです。
 で渡邊和也がアメリカに行くことになって色々調べると出てきたのが、アメリカでは”コンピュータなんかオモチャに使う時代だよ”という言葉
 そりゃまあ、大型コンピュータがメインストリームの時代、よもや7年後に任天堂がファミリーコンピュータで一大ゲーム機市場を作るなんて考えてもいなかったんでしょうなぁ・・・

〔後藤英一〕パラメトロンによるコンピュータを作った東京大学の先生

  ずっと後になって、MITのマッカーシーと親しくなっったんだが、彼に言われたよ。
  『パラメトロンとは面白いことを考えたもんだが、
  なんでそんなに遅い素子を作ったんだい?』ってね。
  そんなこといわれたって、予算はMITの1000分の1ぐらいしかなかったんだから

  パラメトロンというのはフェライトコアという素子を使って作った論理素子のこと。動作は遅いものの消耗の激しい真空管や高価なトランジスタ(当時1ケ8000円もしたとか!)に比べ安定していて安価にできるからこれを使ったのが採用の理由。

  (日本人は)オリジナリティには乏しいけど、
  デベトップメントしてパーッと売るのは得意だろ。
  いいものを安く売るていうのは大切だしさ、このメリットをわざわざ改める必要はないね

 この人のユニークなのは課題設定が極めて現実的なところでしょうか。パラメトロンうんぬんは、スピードを犠牲にしてでも低予算でまず動くものを作るとか、オリジナリティうんぬんにしても、マーケットを拡大するのにこだわる点はどこかとか。テクノロジーの話をすると最先端技術がど~とか独自性による差別化とかすぐ言い出しかねないんですが、こういった現実的な課題設定もけっこう有効なんでしょうね。


〔和田弘〕通産省電気研究所で日本で初めてトランジスタコンピュータを作った人

  日本再建のためのキーは二つある、と思っていました
  原子力とエレクトロニクスです

 今では福島原発事故に代表されるように原発はほとんど悪役扱いですが、1950年代の前半で先見性のある人の認識ってこうだったようです。代表的なのが手塚治虫の”鉄腕アトム(*3)”なんてったって電子頭脳を持ち原子力で動くロボットが活躍する未来ですから。主人公が”アトム(原子)”、お兄さんが”コバルト”に妹が”ウラン”。今だったらちょっとNGなネーミングだろうなぁ

〔池田敏雄〕富士通のコンピュータの基礎を築いた開発者(死後に専務)

  池田さんは来る日も来る日も遅刻ですから、
  ある時月給ゼロ、ボーナスゼロという状況になってしまった。
  いかに天才といえどもこれでは生活できないわけです
(富士通会長 山本卓眞)

 池田敏雄は富士通の初期のコンピュータ”FACOM100”などを開発した人。この人に関する本をいくつか読んだんですが、ものすごい天才なんですが反面勤怠は無茶苦茶。こんだけ才能がある人だから上司もかばってくれますが、凡人がマネをしたら絶対懲戒免職になります、はい。

〔平松守彦〕IBMの日本進出時の交渉やコンピュータ産業のスキームを作った通産省の官僚

  コンピュータは”思想”なんです
  私は、コンピュータを知ったとき、これはただの機械ではない、
  人間の頭を情報化社会型にしていく思想なんだと思いました

   (中略)
  パソコンネットワークなどはまさにそのとおりで、
  これによって新しい文化ができるだろうと、予測しました

 ここで”あれ?”って思った人はカンの鋭い人でしょうか。実はこの本の原典”電算機屋かく戦えり”が出版されたのは1996年とインターネットが社会に普及し始めたころのこと。これに続く発言なんてまさに象徴的でしょうか

  日本でもいまのような文字だけのパソコンネットワークだけでなく
  音声や映像も含めたマルチメディアのコンピュータネットワークというのが
  必ず出てくると思うんです

 本書の意味って、過去の時点で夢見た未来を現在から振り返ってみるってとこでしょうか。時代背景を知らない若い人からすれば違和感はあるでしょうが、新しい技術や文化の黎明期特有の高揚感みたいなの伝わってくる本です(おぢさんのノスタルジーと言われればそれまでですが・・・)
 若い人にも読んで欲しい一冊です。

《脚注》
(*1)℃りけい(わだぺん。、青木 潤太朗 (ヤングジャンプコミックス・ウルトラ)
 ゴーグルに耳にスパナな物理部部長の伊藤トノエ、飛行機オタクの曾野彩、全国模試トップレベルだけど変なシャツがお好みの菊池蘭、パソコン大好きな堀聖など理系の”サイエンスクラブ(通称 サイクラ)”に集う高校生たちの日常を描く漫画。
 詳しくはこちらをどうぞ
(*2)TK-80
 NECが1976年に発売したワンボードマイコンキット。TKはトレーニングキット(教育機材)の略です。当初は200台も売れればと思ってたのが2年間で2万5千台も売れたんだとか。
(*3)鉄腕アトム(手塚治虫、講談社)
 手塚治虫の代表作にして日本のロボット技術に多大な影響を与えた作品。雑誌”少年”への連載開始が1952年、フジテレビで日本で初の国産テレビアニメとして放映されたのが1963年。


ぴーがーぴょーろろろろろろー 80~90年代にパソコン通信をやってた世代には感慨深いネタですな(℃りけい/FM-8)

 ども、娘がリケジョなおとうさんのおぢさん、たいちろ~です。
 ”リケジョ”すなわち”理系女子”ですが、どんなイメージをお持ちでしょうか?
 論理的、専門分野にはやたら詳しい、頭の回転が速そうとかポジティブな反面、ファッションには無頓着で常に白衣に眼鏡、コミュニケーションはやや下手だけどマニアックな会話は得意みたいな。
 まあ、ここまで書くと”色眼鏡の狂詩曲(*1)”やカップヌードルのCM(*2)みたいな偏見に満ちたモンでしょうが、うちの娘を見ている限りリケジョも普通の女性です、たぶん。
 ということで、今回ご紹介するのはそんなリケジョな高校生のお話”℃りけい”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。富士通の初期のパソコン”FM-8”です。

Fm84010103


【本】℃りけい。(わだぺん。、青木 潤太朗 (ヤングジャンプコミックス・ウルトラ)
 ゴーグルに耳にスパナな物理部部長の伊藤トノエ、飛行機オタクの曾野彩、全国模試トップレベルだけど変なシャツがお好みの菊池蘭、パソコン大好きな堀聖、怒らせると怖い科学部部長の武者小路真理、”地学マイナー上等”の白衣が似合う”ザ・優秀”な地学部部長の丹波鮎、いつも瞑目する生物部部長の加賀冬美。
 物理部、化学部、生物部、地学部と理系の”サイエンスクラブ(通称 サイクラ)”に集う高校生たちの日常を描く漫画。
【道具】FM-8(FUJITSU MICRO 8)
 1981年に富士通が初めて発売した8ビットパソコン。メインCPU MC6809(モトローラ)、メインメモリは64KB(Mではない!)、外部記憶装置はカセットテープ(これも死語?)を使ってたという今から思えば古色蒼然たるシロモノ。
 当時のパソコンといえばPC-8001(NEC)、MZ-80(シャープ)、ベーシックマスター(日立)、Apple II(アップル)、ちょっと遅れてMacintosh(アップル)という時代。でもこの前ってハードごと自分で組み立てるか、TK-80(*3)みたく基盤むき出し、ディスプレイもなしの時代でしたから・・・


 一言で”リケジョもの”といってもけっこうバリエーションに富んでいます。まあ、物理と化学だけでもやってることはぜんぜん違う訳で、細分化された現代科学では分野だけジャンルがあるんでしょうね。コミック系で私が読んだだけでも

 数学系:数学女子(安田まさえ、竹書房)
     数学ガール(日坂水柯、結城浩(原作)、メディアファクトリー)
 理論物理学:神様のパズル(内田征宏、機本伸司(原作)、ソフトバンククリエイティブ
 水産系:サイエンス・ガールズ! (みりんぼし、飛鳥新社)

 アニメや特撮で女性科学者が出てくるのも、MAGIシステムを開発したエヴァンゲリオンの赤木ナオコ・リツコ母娘とか、ちょっとマッドなロケットガールの化学主任三原素子とか、特捜戦隊デカレンジャーのメカニック担当白鳥スワン(演じるは石野・狼なんか怖くない・真子)とかまあ探せばけっこう出てきます。
 確かに私が現役大学生のころは理系女子って希少生物扱いでしたが、今や4人に一人がリケジョの時代(*4)。女性が機械に弱いなんて今は昔のこと。パソコンだってサクサク使っちゃいます(*5)。

 ということで、今回ご紹介の”℃りけい。”にもパソコン少女が出てきます。自作もok、”ホーリー”こと堀 聖さん、成績優秀、三代続くパソコンオタクの菊池 蘭さん。
 蘭さんの発言から

  かちちち・・・ かちちち・・・ かちちちちちかちちかちちちー
  ぴーがーぴょーろろろろろろー
  ザービヒャランツンヒャランツン ガーーザーージーー
  ・・・ってダイヤルアップトーン式でテレホーダイしてた あの頃よ
  ・・・しかし、「ウッハ これで世界中の人たちとボーダーレスにコミュニケーションだぜ」
  って広まってきたネットがねぇ・・・
  ひきこもりやら匿名のテロリズムやらを助長する技術になろうとはよ・・
  ITとは難しいのう ---

 いや~、80~90年代にパソコン通信をやってた世代には感慨深い発言ですな。前半の擬音なんて、今のインターネット世代にはわからんネタだろうなぁ・・・(*6)
 これに対する物理部部長の伊藤トノエと副部長の曾野彩のツッコミ

  トノエ:・・・久しぶりに蘭ちゃんの「理系ハイ・タイプ懐古」がはじまったな
  彩  :・・・長いんだよな このモードに入ると

 そうなんだよな~ 往年のパソコン少年って年とるとこのタイプになるんだよな~
 オタクという言葉の発生と時期を同じくするパソコン少年って(*7)、時代の先端にも関わらずやれ暗いだのパソコンに向かってぶつぶつやってるだの、チャットなんて文字のやりとりの何が面白だのいわれた迫害の歴史
 まあ、言ってみれば戦中の苦しい時代の話をトクトクとするぢぢいと同じ感覚でしょうか? 本書の中では”理系ハイの中で一番やっかいで、手に負えない”扱いになってますが、暖かい目で見てやってください。今回のブログネタのことです・・・

 ”℃りけい。”は、理系モノの中でも、学問ではなくてクラブ活動として理系やってる作品。その分だけ肩に力が入ってなくて気軽に楽しめるかな。理系離れがうんぬんされている昨今。これで理系に興味を持つ学生が増えればいいかな~~

《脚注》
(*1)色眼鏡の狂詩曲(筒井康隆 中央公論社)
 カリフォルニアのSFファンから送られてきた日本をテーマにしたSF。そこには偏見に満ちた日本人像が・・・
 偏見も突き抜けると笑えるという筒井康隆初期の名作
(*2)カップヌードルのCM
 ”現代のサムライ”篇に登場するお侍さん&集団ヲタク&でんぱ組inc(アキバ系のアイドルらしいです)のコラボによる日本を紹介する?CM。ここまで突き抜けると感心しちゃいます。映像はこちらからどうぞ
 ちなみに日清食品グループの海外売上比率は約18%(総売上4,176億円 内海外737億円 2013年3月期決算より)。グローバルに展開してるんですよね~~ このCMも海外でやってるんかしら?!
(*3)TK-80
 NECが1976年に発売したワンボードマイコンキット。TKはトレーニングキットの略みたいです。CPUはインテルの8080A互換のNEC製μPD8080Aを採用。懐かしい型番やな~~
(*4)4人に一人がリケジョの時代
 理学・工学・農学・医歯薬学の大学学部学生のうち女性の比率は25%(理学26.4%、工学12.0%、農学44.3%、医学32.5%、歯学39.2%、薬学57.6% 2014年度文部科学省学校基本調査より)。さすがに工学系は少ないようですが、農学部なんて半分弱が女性って学問もあるんですね
(*5)パソコンだってサクサク使っちゃいます
 実は私の奥様もブログなんぞをやってまして、奥様友達の中では”パソコンに強い人”ってことになっとるんだそうです。だったら、ファイルのコピペぐらい覚えてくれよ~
 奥様ブログはこちらからだうぞ
(*6)前半の擬音なんて~
 当時はまだ接続先のアクセスポイントに電話をする方式でした。電話をするには黒電話(死語)のようにダイヤルでパルスを発生させるパルス式とボタンを押すトーン式がありまして、”かちちち”はダイヤルを回す(これも死語なんだろうなぁ)音を発生させたものです。”ぴーがー”以下はセッションを確立するための定番の音。
 当時はパソコンのデジタル信号をアナログデータに変換して電話回線に送る方式でしたのでこんな音が聞こえてたんですね。
(*7)オタクという言葉の発生と時期を同じくするパソコン少年って
 ”おたく”の語源については、コラムニストの中森明夫が”漫画ブリッコ”でコミックマーケットに集まる人を”おたく”と命名したのが定説。1983年のことです。
 パソコン史ではベストセラーとなるPC-8001の発売が1979年、写真のFM-8はこのちょっとあとの発売。商用パソコン通信のはしりであるアスキーネットの実験運用が開始されたのは1985年、定額制電話料金の”テレホーダイ”のサービスが始まったのはちょっと下って1995年のことです

江ノ島で猫見て思い出したんですか、あのネットの事件ってどうなってるんでしたっけ?(ネットフォース/江ノ島の猫)

 ども、ネット犯罪ができるほどITリテラシーが高けりゃいいな~と思っているおぢさん、たいちろ~です。
 会社の同僚がペーパーバック(*1)を読んでました。”ナニ読んでるの?”と聞くと”トム・クランシーのネットフォース”との答え。おおっ、トム・クランシー! 初期のころのライアン・シリーズ(*2)なんか良く読んでたんですが、最近はご無沙汰。
 ということで、久々のトム・クランシーということで、今回ご紹介するのは”ネットフォース”、英語で読む根性がないので(というか、それ以前に英語力がないので)日本語版です。


写真はたいちろ~さんの撮影。やる気のない江ノ島の猫です
(事件とはなんの関係もありません、たぶん)

3227867


【本】ネットフォース(トム・クランシー、スティーブ・ピチェニック、角川文庫)
 2010年、FBIはインターネット犯罪に対処すべくコンピューターのエキスパートによる特殊部隊”ネットフォース”を設立した。
 テロリストにより、”ネットフォース”の司令官が暗殺された。司令官を引き継いだ”アレクサンダー・マイケルズ”は副官で武術シラットの達人”トニー・フィオレラ”、スーパープログラマーの”ジェイ・グリッドリー”、実戦部隊の指揮官”ジョン・ハワード”らとともに、捜査を開始する・・・
【動物】江ノ島の猫
 元々、江ノ島って猫の多いとこだったそうですが、ネットで見ると最近減ってきているとのこと。どうも何者かが連れ去っているらしいです。野良猫が多くて問題になることもありますが、平和に生きてる猫を無理やり連れ去るってのもどうかと思います。
(写真家 関根啓介氏のブログを参考にさせていただきました)


 さて”ネットフォース”ですが、さすがにネットのスペシャリスト集団だけあって、バーチャル・リアリティ(VR)上で偶然遭遇したネットワーク・テロリストの”ヴラディミール・プレハーノフ”をスーパー・ハカーの”ジェイ・グリッドリー”がプログラミングのスタイルで特定してくなんてのが出てきます。

  やつのスタイルはつかんでいるので、ネットで出くわせばわかります
  画家と同じです。ピカソの作品は、見ればわかるし、
  ルノワールとはぜんぜんちがうこともわかります
  スタイルを見れば正体がわかります。
  やつは腕がよすぎて、才能をぜんぶ隠しきれてない
  どんなに隠そうとしても、ある程度は表にしみ出てくるものです

 昔、プログラミングの教育を受けたことがあるんですが、その時”職人芸的なプログラムを書いてはいけない”ってなことを言われました。これは、ほかの人がメンテナンスが出来なくなるから。まあ、標準化する(だれが読んでもわかって修正しやすい)ことでメンテナンス性を向上させよってことです。
 ですんで、スタイルで犯人が分かるってちょっと違和感があったんですが、考えてみりゃ、犯罪的ハッキングのプログラムなんてほかの人がメンテするなんて考えちゃいないでしょうし。プレハーノフは芸術的なまでの凄腕プログラマーなんでしょうな。実際社会インフラにひょいひょい侵入してパニックを引き起こしたりとネットでやり放題な人だし。

 一方、司令官のマイケルズって、あんましプログラムがど~のこ~のってエピソードはなくて、趣味は車いじりで、別れた奥さんに未練たらたらのおじさん。もてるみたいだけど。元司令官の敵をとるとか言いながら、事件が解決できないと首が飛ぶとか、仕事といえばグリッドリーの報告を聞いて、ハワードに他国から犯人を拉致ってこいという無茶ぶりな幹部社員。まあ、うちの会社だって幹部社員自らプログラムを組むなんてこたやってませんが・・・

 ユニークだな~と思ったのは、”ネットフォース”という組織、ネットのスペシャリスト集団にも関わらず実戦部隊が指揮下に組み込まれてるってこと。言って見ればネット上の捜査機能とリアル社会の逮捕機能が一体となってるってことです。まあ、日本で言えば科捜研の指揮下に土門警部補がいるようなモンでしょうか(*3)。
 確かに、”ネットフォース”は現場捜査もやっちゃいますが、ネット上ではあくまで犯人を捜査・特定するだけで、実際に逮捕するのはリアルワールドでやること。ネット上で”犯人めっけ!”ってやっても実際に身柄を拘束しないと逃げられたと同じです。ですんで、逮捕する人が同じ指揮命令系統にいるほうが効率的っちゃ効率的です。実戦部隊のハワードにチェチェンでプレハーノフを拉致らせたのは自分の指揮下にいたからでしょうが、ちょっとやりすぎじゃないかと・・

 ネット上の犯罪を逮捕したので思い出されるのが”パソコン遠隔操作事件”。人のパソコンを遠隔操作、踏み台としてネット上に襲撃や殺人などの犯罪予告載せるという典型的なサイバー犯罪の一つ。で、容疑者がネット上の捜査で逮捕されたかっつーと(*5)、猫の首にSDカードをくっつけたって犯人の証言から江ノ島での防犯カメラの映像で逮捕に至るというべたべたなリアルワールドでの話。ネット犯罪って、ネットやらストレージやらのログデータなんかで犯人に迫る!ってんでしょうが、実際にはそんだけでは犯人に迫るの難しいんでしょうねぇ 思わず江ノ島で猫を見て思い出しちゃいました。

 ”ネットフォース”の裏表紙には

クランシーが圧倒的なリアリティで現代社会に警告する近未来サスペンス

 って書いてありますが、この小説の舞台は2010年。書かれたのは1998年(*6)のこと(日本の出版は1999年)。まあ、今読むと過去から見た未来をすでに過去として見てることになります。まあ、バーチャルリアリティの描写なんかはそこそこ実現してるし、AR(*7)なんて小説を追い抜いちゃってるし。ネット上のバーチャルワールドはそこまではいってない感はありますが(そういや”セカンドライフ”ってど~なってんだっけ?)、ちょっと前の人が見てる未来図がハードに展開される世界観ってのも読みどころかも。全6作のシリーズなんでぼちぼち読んでみましょう。


《脚注》
(*1)ペーパーバック(paperback)
 日本でペーパーバックというと厚紙の表紙でない洋書のことを指します。高校時代に”スタートレック”(当時はまだ”宇宙大作戦”と言ってましたが)をペーパーバックで読んでた先輩がおりまして、カッコイイ~とか思ったモンです。
 本来は硬いカバーの表紙で覆われた”ハードカバー”の対義語なんだそうですがこの区分で言うと最近コンビニで売ってるカバーなしのコミックも”ペーパーバック仕様”なんですが、ずいぶんイメージ違うな~~
(*2)ライアン・シリーズ
 CIAの情報分析官”ジャック・ライアン”を主人公とするトム・クランシーの小説。”レッド・オクトーバーを追え”、”愛国者のゲーム”、”いま、そこにある危機”とか初期の作品は原作も読んだし、DVDも見たな~
 後に大統領補佐官を経て大統領に就任。って、アメリカ版”島耕作”(弘兼憲史、講談社)みたいな人?!(こっちは読んでないけど)
 ”エージェント:ライアン”としてカーク船長こと”クリス・パイン”がライアン役で映画が公開。
(*3)科捜研の指揮下に土門警部補が~
 ”科捜研の女”(テレビ朝日)では京都府警科学捜査研究所(科捜研)の榊マリコ(沢口靖子)らの鑑定に基づいて、京都府警捜査一課の土門警部補(内藤剛志)が犯人を逮捕するという機能分担になってます。
 そういや、”怪奇大作戦”(円谷プロダクション)に”SRI(Science Research Institute 科学捜査研究所)”ってのが出てきましたが、こちらは民間組織なので逮捕とか以前の話です。
(*5)容疑者がネット上の捜査で逮捕されたかっつーと
 調べて見ると2014年3月に保釈されたとのこと。
 逮捕された時の映像では眼鏡、小太りの30男、家にはパソコンが4台といかにもオタクっぽい雰囲気。これで誤認逮捕だったらシャレにならんわな~(誤認逮捕事態、シャレにならんですが)
(*6)1998年
 長野オリンピックとFIFAワールドカップ・フランス大会が開催され、郵便番号が7桁になり、金融監督庁が発足し、北海道拓殖銀行が営業を終了し日本長期信用銀行と日本債券信用銀行が経営破綻で国有化され、明石海峡大橋が開通した年です。ちなみにWindows 98とiMacが発売され、iモードがサービスインしたのもこの年です。
(*7)AR(拡張現実 Augmented Reality)
 スマートフォンをかざすと画面上に、その場所に関する情報が現実の映像に重なって出てくるなんてのがこれです。

より以前の記事一覧

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

無料ブログはココログ