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2017年12月10日 - 2017年12月16日

バーチャルリアリティでの証言は、はたして採用されうるか?(有限と微小のパン/あのスーパーロボットはどう動く)

 ども、ガチの文系脳のくせに”ファナック(*1)”に就職希望だったおぢさん、たいちろ~です。
 電話をしたところ”文系の採用はしていない”とのことで挫折。多少は関連あるかとコンピューターの会社に就職して現在に至るんですが・・・ まあ、30年以上前の話で、今では文系採用もありそうですけど。
 てなことで、今でもロボット大好きです。で、今年も”国際ロボット展2017”に行ったんですが、行き帰りに読んでた本が奇しくもバーチャルリアリティと絡んだミステリーだったりして。
 ということで、今回ご紹介するのはバーチャルリアリティ空間における殺人事件をリアルなロボット技術で考える”有限と微小のパン”、”あのスーパーロボットはどう動く”であります。

 ※写真はたいちろ~さんの撮影です

【本】有限と微小のパン(森博嗣、講談社文庫)
 ゼミ旅行に先だって、日本最大のソフトメーカ”ナノクラフト”が経営するテーマパーク”ユーロパーク”を訪れた”西之園萌絵”たち。そこで彼女たちは殺人事件に遭遇するが、死体が消えてしまう。一方、指導教官である”犀川創平”助教授は天才工学博士”真賀田四季”からの電話を受け、急きょユーロパークに駆けつける。そこでは新たな作人事件が・・・
 ”すべてがFになる(*2)”から始まるS&Mシリーズの第10巻。
【本】あのスーパーロボットはどう動く(金岡克弥他、B&Tブックス)
 サブタイトルは”スパロボで学ぶロボット制御工学”とあるように、マジンガーZ、ガンダム、パトレイバーなどを題材に”ロボット制御工学”の基本をあつかった実は真面目な本。数式はまったく理解できませんでしたが(もう微分、積分なんて忘れちゃってるので・・・)、解説自体はけっこうおもしろかったです。
【旅行】国際ロボット展2017(INTERNATIONAL ROBOT EXHIBITION 2017)
 産業用・サービス用ロボットを集めた展示会。主催は日本ロボット工業会と日刊工業新聞社。2017年は11月29日~12月2日まで東京ビッグサイトで開催されました。hpから事前登録者していれば無料で半日は遊べます(有料だと1,000円)


 まず、”有限と微小のパン”から、バーチャルリアリティ空間での殺人事件の概要。
 ヴァーチャルリアリティを操作するのは部屋(密室)の中に設置された宇宙服のようなセンサー群右手のみ反力を再現できるので、つかんだ感覚を出すことは可能(ただし、他の部分はできない)。重力も再現できないので自分以外の物体の重さは再現できない(ものすごい力持ちになったと思ってくださいとの説明)。ヘルメットには小型の液晶ディスプレイがついていてコンピュータがリアルタイムに画像を作成して表示。頭を左右に動かせばそれに合わせて画像も動く。被験者の動きは控室のモニタで確認可能。
 この装置を付けた西之園萌絵とナノクラフトの藤原副社長が密室のバーチャルリアリティを体験中に西之園萌絵のディスプレイに真賀田四季が登場し、藤原副社長をナイフで刺殺。装置を切ると実際に藤原副社長が刺殺されていた。密室殺人であり、控室のモニタにはそのような痕跡は映っていない・・・

 ”PlayStation VR(*3)”で遊んでる昨今ではVR用ヘルメット程度では驚かないかもしれませんが、この本が出版されたのは15年近く前の1998年なんですな、これが。

 で、これを”国際ロボット展2017”に展示されていたリアルなシステムと比較するとこんな感じです

〔マスター・スレーブシステムと動きのトレース〕
 写真はたいちろーさんの撮影
 トヨタ自動車が展示していたパートナーロボット”T-HR3”
 写真の左がマスター操縦システム、右がT-HR3

Thr32017
 トヨタ自動車による解説動画トヨタ自動車のHPより
 あんまり人がいっぱいで動いてるとこ撮影できなかったので・・・

 今回の展示会で人気の高かったトヨタのパートナーロボット”T-HR3”。トルクサーボ技術による柔軟制御や全身協調バランス制御により動きは滑らかだわ。カラテのハイキックに太極拳にカメハメ波にシェーにJYOJY0立ちにあちゃんかっこい~に。最後はボルトの決めポーズまで。テクノロジーの無駄使いか! と突っ込んじゃいたいぐらいのスグレモノです。
 でも、今回の話題は操作システムのほう。”あのスーパーロボットはどう動く”によるとこのような操縦者自身の運動を計測し、その動きをトレースするように実際のロボットが動くのを”マスター・スレーブシステム”と呼ぶそうで、このトヨタの左のも”マスター操作システム”という名前です。
 じゃあ、動きをトレースしてそのままいいじゃんと考えそうですが、実際はコントローラーの自由度や再現するロボットの自由度と人間側の自由度が異なるので、それをすり合わせる制御が必要だとか。たとえば肩を動かす場合、回転運動だけでなく並進運動(水平移動)が同時に起こったりするので、回転運動だけ計測した関節角度をロボットに与えても同じ動きにならないとか。奥の深い話です

〔反力の再現〕
 ”有限と微小のパン”の中でバーチャルにコップをつかむことの説明でこんなのが出てきます

  現実にはない仮想のコップを掴むことは可能だし
  それを掴んだという感覚も再現できます
  でも、それを持ち上げたときの重さ、コップの重さは駄目なんです
  その感覚を再現するためには、
  機械が西之園さんの右手を下方向に引っ張らなければなりません

 当たり前のことですが、物体の存在を意識するにはこの重力(反力)を出力する装置が必要。本書の中では技術的、経済的な課題を含めて完璧な再現は困難としています。
 上記の”T-HR3”の左がマスター操縦システムでは、トルクセンサを組み込んだトルクサーボモジュールをマスター・スレーブの両方の関節に配置して力(トルク)を共有して自分の分身のような感覚を実現したとのこと
 ”有限と微小のパン”では困難としたものが実現できてきてんでしょうね。
 このように操作者とロボット、環境を含めた力学的相互作用を取り込んで動かすのを”あのスーパーロボットはどう動く”では”駆動力制御ベースの制御”と呼んでいます(これに対して、各関節の動きを関節サーボで実現するだけのタイプは”軌道制御ベースの制御”)
 ただ、実物を見る限りウエアラブルほど軽量・小型化にまでは至ってないみたい。本書でもかなりヘビーウェイトな装置っぽいですが、トヨタのも座席に座って操作型(クルマの会社だからこういったインタフェースにしたのかもしれませんけど)

〔触覚、温度の再現〕
 両本にはなかったネタでロボット展にあったのが、温度と触覚を再現するシステム(写真はNGだったのでありません)
 3本の指の先にセンサのついているスレーブ側のグローブと、マスター側には同じ指先に”電気刺激”と”ヒーター”と”ペルチェ素子”が一体になっていグローブの構成。
 触覚は皮膚を電気刺激するこのでざらざら感を再現するもの(反力ではないとのこと)。実際に使わせてもらったんですが、スレーブ側が六角鉛筆を指先でころころすると、マスター側にもそれっぽい感覚が。温度は温かいのをヒーターで冷たいのをペルチェ素子で再現するんだとか。スレーブ側があったかい缶コーヒーを持つとマスタ側もほんのりとあったかくなるって仕組み。感覚まで再現されるって、すごいよな~~って思いました

〔バーチャルリアリティでの証言は、はたして採用されうるか?〕
 の~てんきな感想を書いてるんですが、実はこれ”ミステリーの世界”ではお約束破りになりかねん重要なキーなんじゃないかと。ミステリーでは”善良な証人による証言は事実である”ってのがお約束(真実とは限りませんが・・)でなきゃ推理が成り立たんから。名探偵の”この中で嘘をついている人が犯人だ!”ってのは、犯人以外は嘘をついていないという前提があるからこそ。ですんで、犯人はトリックにより証人に事実誤認をさせるべく知恵を絞ってると。
 バーチャルリアリティって、この根底を超絶レベルで覆すんじゃね? と。確かにアクションものでは監視カメラの映像を偽装することで潜入を果たすなんてネタありましたが、バーチャルリアリティはこの非じゃないんじゃないかと。今回のロボット展の技術を使えばグラスに犯行現場を映しだし、ロボットの体を使って倒れた被害者を抱き起し、グローブ越しにナイフの感触を再現し・・・てなことを技術的にはかなり再現できそうな~~ と。手間暇やコストも含めて簡単ではないでしょうし、リアルな画像をバーチャル空間で自由に再現することのリアル感がどこまでできるかも課題ではありますが、現状のテクノロジーのスピードを考えるとけっこういいとこまで行けるんじゃないかと。
 なにを言いたいかというと”バーチャルリアリティでの証言ははたして採用されうるか?”です。だって、かなりの自由度で情報操作できれば、見たこと/触ったものがまんま事実であると断言するのって逆に危ない可能性もあります。
 ”有限と微小のパン”での西之園萌絵の証言がどうだったかというと、それは本書でお楽しみいただくということで

 今後、テクノロジーが進んで遠隔操作や自立型のロボット、バーチャルリアリティの偽装なんかが実現してくると、密室や時間トリックなんて成り立たない犯罪なんかが出てくるのかな~~ と思いつつロボット展を後にしたのであります。

《脚注》
(*1)ファナック
 工作機械用CNC装置で世界首位(国内シェア7割)、多関節ロボットで国内首位を誇り、安川電機、ABBグループ、クーカと並んで世界4大産業用ロボットメーカーのひとつ(wikipediaより)
(*2)すべてがFになる(森博嗣、幻冬舎新書)
 孤島にある研究所の密室で天才工学博士”真賀田四季”が死体となって発見された。偶然、居合わせた建築学科の助教授”犀川創平”と彼の生徒である建築学科1年生”西之園萌絵”はその謎を解こうとするが・・・
 第一回メフィスト賞を受賞した理系ミステリーの名作です
(*3)PlayStation VR
 SIEが2016年10月に発売したPlayStation 4 用バーチャルリアリティシステム。2015年開催の”国際ロボット展2017”ではまだ参考出品で遊んでみましたがけっこう驚いたものです。

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