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2017年10月8日 - 2017年10月14日

知れ、息子よ。老いて旅するのは賢明ではない(カーブースの書/タビビトノキ)

 ども、まだ60歳前ですが、いいかげん枯れているあるおぢさん、たいちろ~です。
 ここんとこ、文春砲でもって不倫ネタにされてるおぢさん世代の人が続出しています。まあ、若けりゃいいとか言うつもりはなかですし、個人の話なんでほっときゃよさそうなモンですが、なんだかな~~という感じ。てなことを思っていると、ある本にこんな話が

  かつてある老人がいったとおりである
  年寄りになったら、美女たちが私に見向きもしないだろうと長年悲しんできたが
  いざ年をとってみると。私自身彼女らをほしくないし、
  またほしかったら無様である

 まあ、年をとったら相応に枯れるってことでしょうか。また、このようにも

  

老いて若気のふるまいをする者は、退却時に進軍らっぱを吹くに似る

とも。
 といくことで、今回ご紹介するのは”知れ、息子よ”で始まる人生の忠言集”カーブースの書”であります


写真はたいちろ~さんの撮影。羽田空港にあるタビビトノキです

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【本】カーブースの書(カイ・カーウース、平凡社)
 著者の”カーウース”はセルジューク朝時代の地方王朝ズィヤール朝の七代目の王(*1)。この君主が愛する息子のために残した人生の忠言集が”カーブースの書”。11世紀ごろの本です。
 老いた王が”別離の文が届く前に運命の叱責、名声獲得の益について書を記して”おかれた父性愛にあふれた内容ですが”時代の風潮として、息子は父親の忠言を実践しない”とも。今も昔も変わらんなぁ・・
 ”ペルシア逸話集(平凡社)”に収録
【花】タビビトノキ(旅人の木)
 英名はまんま”トラベラーズツリー”。羽田空港のプレートによると原産地はマダガスカルで、”大きな葉が扇状に広がって一定の方角を示すことから、旅人に方角を示す木として、各国で旅人を意味する名前が付けられている”とのこと


 本書は44章にわたり、神や富、恋愛、作法からいろんな職業に就き時の心得など広範にわたるもの。さすがに、結婚するなら”処女を娶とらねばならぬ”とか”欲情のためなら市場で女奴隷を買うことができる”といった今の時流に合わないもの、”金のない恋人は目的を果たせない”みたいな身も蓋もないものもありますが、全体的にはたいへん”なるほど”と思わせる内容。お国柄イスラム教的なものもでてきますが、虚心で読めばそれもまた忠言です。

 全部を扱うと多すぎるので、ここでは第九章”老齢と青春について”から”老い”の話題を。冒頭の老人の話もこの章からです。
 で、気にいった忠言をいくつか

〔老人は死なぬ限り老齢の病から安らげない〕
 まずは、老齢に関するもの

  老人とは見舞客がいない病人で、老齢とは死以外に癒す薬がわからぬ病気である
  そこで老人は死なぬ限り老齢の病から安らげない

けっこう老齢についてのぼやきが多いんですが、決して死そのものを恐れてはいないんですな。太陽が昇り沈んでいくようにそれは必然だということ。”老齢は私の敵であり、敵については嘆くだけ”との達観も。
 だからこそ

  軽薄な年寄りになるな、また不潔で不正な老人になるな
  老人は知性、行動に若気があってなならぬ。老人はつねに情け深くせよ
  若いうちは若者らしく、年をとったらと年よりらしくせよ
  年をとってから若者らしくするのはみっともない

などなど。まあ、健康に気をつけて長生きするにこしたことはないですが、アンチエイジングとかで若モンになんとかしがみつこうとするのもなんだかなと。”年相応”って意外と重要なのかもね。まあ、行動の話ですが。

 ただし、若者に対しても脅しのひとことも

  老人を敬い、老人に対して下らぬ口をきくな
  老人と賢者の返報は厳しいぞ

〔老いて旅するのは賢明ではない〕
 次は”老人と旅”に関する話。

  老いたら一つの場所に落ち着くよう心掛けよ
  老いて旅するのは賢明ではない
  特に資力のないものはそうである
  老齢は敵であり、貧困もまた敵である
  そこで二人の敵と旅するは賢くなかろう

 ただし、どうしても旅に出ないといけないなら、神の恵みがあれば”異郷を旅することは家にいるよりもよい”とのフォローはしてますが、それでも”決して家を恋しがらず、好きな場所に落ちつけ”とも。

 少し補足すると、カーウースの時代は11世紀なんで、現代みたいに飛行機とかに乗って、安全で快適な旅がホイホイできる時代じゃなかったんですな。大国に挟まれた弱小王朝なんで政情も不安定だったようですし、また交通機関も安全じゃなかったでしょうし。また、”商取引について”の章で商人が利益を得るために商品を運ぶのに”盗賊、追い剥ぎ、人食い動物や道の危険”てのをあげてるし。そんなとこに老人がひょこひょこ旅をするってのは確かにリスキー。

 また、カーウース自身が王族ということもあるんでしょうが、けっこう貧乏人に対してシビアなんですな。”富によりいっそう信仰に励むことについて”の章より巡礼=旅に関してのコメント

  神は体力も資力もない貧しい者には旅を命じなかった
   (中略)
  知れ、息子よ。もし貧しい者が巡礼をしたら身を破滅に陥れよう
  金持ちのすることをする貧乏人は、健康な人がすることをする病人を同じである

 実はこの本を読むきっかけになったのは、沢木耕太郎の”深夜特急(*2)”の4巻に出てたんですな。沢木がイランのシラーズのモスクで日本人から譲り受けた本がこれ。この時沢木はまだ20代半ばですが、貧乏旅行の真っ最中。時代も1974年ごろの話です。
 特に上記の”老いたら一つの場所に落ち着くよう心掛けよ”はこの本の中でも引用されていて、まだ年が若いとはいえ、お金もなく将来の展望もない中、異郷の地で一人この本を読むのってどんな気持ちだったんだろうと思ってこの本を読む気になりました。

 まあ、私も老齢と貧困のダブルパンチ喰らってる人ですが、定年したら、キャンピングカーとか乗って、旅を住処とする生活もいいかな~とか思ってたりもするんですがね。一応”異郷を旅することは家にいるよりもよい”とかも言ってくれているし・・・

 今回は引用が多くなってすいません。まあ、私のつたない文章より本書のほうがよっぽど面白かったんで。
 収録している”ペルシア逸話集”は1969年と古い本ですが、図書館で探すか、高くてもよければオンデマンドで入手が可能。好き嫌いはあるかもしれませんが、私は楽しく読ませんていただきました。

《脚注》
(*1)地方王朝ズィヤール朝の七代目の王
 解説によるとズィヤール朝が927~1090年頃、カーウースが1049年~?。本書が書かれたのは諸説あるようですが、1082~83年ごろだそうです。
(*2)深夜特急(沢木耕太郎、新潮文庫)
 沢木耕太郎がインドのデリーから、イギリスのロンドンまでバスだけ使って旅行するという紀行小説。なけなしのお金、全6巻中第3巻でやっとスタート地点のデリーに到着というスピード感、この無計画さがこの手の旅行の醍醐味なんでしょう、たぶん。
 発刊当時はバックパッカーの間でいわばバイブル的な存在だったそうです。

それじゃ、コンピューターが勝っちまったら”あっ! 名人グ!”(人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?/将棋するロボット)

 ども、囲碁も将棋も不調法なおぢさん、たいちろ~です。
 世の中には”名人”と呼ばれる方がいらっしゃいます。落語ですと昭和の大名人”5代目 古今亭志ん生師匠”人間国宝”3代目 桂米朝師匠”反骨の家元”自称5代目 立川談志師匠”などなど。これが囲碁、将棋の世界になりますて~と、”強い人”というだけでなく”名人戦のチャンピオン”の称号でもございます

 与太郎:て~と、なんですかい。コンピューターでも名人戦に勝てば”名人”で?
 ご隠居:それはそうだが、人間だって最強のメンバーだ。
     そんなに簡単に勝てやしないよ
 与太郎:それじゃ、コンピューターが勝っちまったら”あっ! 名人グ!”

 ということで、今回ご紹介するのは一昔前ならSFだった、世界の名人に勝利する将棋AI”ポナンザ”を開発した技術者による本”人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。
2015年のロボット展で展示されていた将棋するロボット”電王手さん”です

2015c055721


【本】人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?(山本一成、ダイヤモンド社)
 サブタイトルは”最強の将棋AIポナンザの開発者が教える機械学習・深層学習・強化学習の本質”とあるように、2013年に第2回将棋電王戦でコンピュータで初めてプロ棋士”佐藤慎一四段(当時)”に勝利した将棋AI”ポナンザ”の開発者が自ら人工知能の現状をわかりやすく解説した本。お勧めです。
【道具】将棋するロボッ
 写真はデンソーが医薬・医療用ロボット”VS-050S2”をベースに将棋対局専用に設計、開発されたロボットアーム”電王手さん”で、駒を挟んでつかむ、隣の駒に触れずに移動させる、"成り(駒を表から裏にひっくり返す)”ができるもの。
 もっともこれは棋士の動きを再現したもので”思考”そのものをこのアームでやってる訳じゃありません


 さて、ここからはまじめな話。昨今は何度目かの”人工知能ブーム”みたくなってます。やれ、”アルファ碁(*1)”がイ・セドル9段に勝利したとか、ディープラーニングを使って画像解析は人間を凌駕するだとか。
 恥ずかしながら、最近の人工知能の急速な進歩って、プログラム的にすごく改善されたもんだと思っていたんですが、そんだけじゃないんですね。本書にも出てきますが、プログラムを人間の思考をトレースさせることとするとそうじゃないと。なぜなら、人間が”それが何か”を評価するプロセスを解明することができなかったから。
 実際に将棋に勝つためには、どうすれば勝てるかを推測する”探索”と、勝つために目星をつける”評価”が必要で、勝利めがけて多数(将棋で少なくとも10万項目以上)の評価項目を調整する必要があるそうです。で、以前は人間があれこれ評価項目を調整してたそうですが、最近はこの調整を、ものすごい数コンピューター同士で対戦させて、自身で調整=学習させてるんだとか。これが”機械学習”という手法です。最近話題の”ディープラーニング(深層学習)”というのも、この機械学習の一種でニューラルネットワーク(*2)の層を重ねる(深くする)ことで対応しているものです。

 ということを前提知識として、本書から面白いな~と思ったトピックを

〔機械学習の技術は”黒魔術”〕
 ”黒魔術”というとおどろおどろですが、実はこれ機械学習の世界では定着しているスラングなんだとか。本来、プログラムの世界ってのは論理や数学の世界なので”なぜそうなるのか”がはっきりしているように思ってたんですが、機械学習の世界では”プログラムの理由や理屈がわからない”段階だそうです。なぜその数値で良いのか、なぜその組み合わせが有効なのかを真の意味で理解していなくて、経験的実験的に有効だということがわかるだけ。つまり、ロジックがわからない技術だから”黒魔術”
 役に立つなら結果オーライでもい~じゃんと考えることもできますし、実際、全ての事象が科学的に解明されてるワケでもないですし・・・
 ”科学者がそれでは困る”というご意見もありましょうが、物理法則を知らない幼稚園児だって自転車には乗れるし、カゼ薬がなぜ効くかを説明できる人なんて一般人にゃいませんぜ。とわりきることもまあ、ありかなと

〔人類を抹殺する”ポナンザ2045”〕
 ところで、この”コンピューターが何を考えているかわからない問題”ってのが、AI恐怖論につながっている面もあるのかと。る”本書の中で、絶対に人間に負けないという目的を与えられた”ポナンザ2045”が人類を絶滅させる、って小話(出だしの影響が残ってんな~)を書いてますが、これは”目的のために手段を選ばない”としたときの回答の一例。論理的には成立しえても、人間としては倫理的に成り立たないってことですが、”倫理”をコンピューターに求めるのはそうとうハードル高そう。人間としてはどうサーキットブレーカー(*3)を設計するかなんでしょうね。
 ”コンピューターが何を考えているかわからない問題”に興味のある方はジェームス・P・ホーガンの”未来の二つの顔(*4)”なんかを読まれると面白いかも。

〔教師が悪い人だと人工知能も悪い子になる〕
 倫理にかかわる話でもう一つ。
 本書でとりあげられている例で、グーグルの提供する写真管理アプリ”グーグルフォト”で肌の黒い人の写真の”ゴリラ”というタグ(目印)をつけてしまい、担当者が謝罪するという事件。これは、グーグルがインターネット上で収集した写真と文章の中に悪意のあるデータが含まれていて、それを吸収してしまったからだそうです。
 結局のところ、人間が作った教師となるべきデータに”悪意”が含まれていると、それを学習したコンピューターは”悪意”をはらんだものになってることです。
 結論として、この問題を解決する方法は下記だと

  冗談に聞こえるかもしれませんが、
  インターネット上を含むすべての世界で、
  できる限り「いい人」でいることなのです
  これを私は「いい人理論」と呼んでいます

 私もまったく賛成ですね! 科学者にしては散文的な物言いと思われるかもしれませんが、コンピューターに限らず人間だって、親が歪んでる教育をすれば、子供だって歪んだ思考の持ち主になりますし(*5)。それでも一部の思想を色濃く反映した国家や団体のプロジェクトとか、悪の秘密結社が秘密裏に開発したAIになるよりゃよっぽどましかも。
 結局のところ、人間であれコンピューターであれ”子は親を映す鏡”。次の時代をコンピューターが担うかどうかはわかりませんが、コンピューターから

 いらんわい こんなぐるぐる回るような家は!(*6)

と言われんようにしないとね
 お後がよろしいようで(笑)

《脚注》
(*1)アルファ碁(AlphaGo)
 Google DeepMind社によって開発されたコンピュータ囲碁プログラム。2015年に、ヨーロッパ王者でプロ二段のハン・フイを破り、プロ囲碁棋士に初めて勝ったコンピュータ囲碁プログラム。その後も2016年にプロ棋士九段のイ・セドルに、2017年に世界棋士レート1位のカ・ケツに勝利しました
(*2)ニューラルネットワーク
 人間の脳がやっているように”シナプスの結合によりネットワークを形成した人工ニューロン(ノード)が、学習によってシナプスの結合強度を変化させ、問題解決能力を持つようなモデル全般”のこと。(wikipediaより)。すいません、丸写しです。私だってよくわかってる訳じゃないんです、はい。
 1980年代後半に人工知能ブームの時の手法がこれです。
(*3)サーキットブレーカー
 ショートなどで過剰な電流が流れると、ブレーカーが落ちて電源を止めるあれです。
 株式市場などで価格が一定以上の変動すると強制的に取引停止にする”サーキットブレーカー制度”なんてのもあります
(*4)未来の二つの顔(ジェイムズ・P・ホーガン、創元SF文庫)
 今はなきコンピュータ会社”DEC”の技術者だったホーガンによるハードSF。
 月面の掘削工事現場の事故に端を発して、科学者たちがネットワークから切り離されたスペースコロニーで、人工知能の実験を行うというお話。名作です。
(*5)親が歪んでる教育をすれば~
 実は、何が歪んでるかってとっても難しいんですけど
 今でも人種差別的な国家のトップがいるし、異なる宗教や民族へのいわれなき迫害がなくなってる訳じゃなし。たった70年近く前まで、ユダヤ人というだけで国家レベルの大量虐殺をやってたし。人類の英知が急速に進歩していると信じたいですが、過度の期待もまた危険ではないかと・・・
(*6)俺だって、こんなぐるぐる回る家は要りません
 共に酒好きな大旦那と若旦那の親子。酒癖の悪い息子を心配した父親が自分も禁酒するからと息子にも禁酒をさせます。ところがついつい禁酒を破ってしまった父親のもとに、これまたしたたかに酔っぱらった息子が帰宅。口論の末、”お前の顔が三っつも四っつもあるぞ、そんな化け物にこの家は譲れんぞ!”といった父親に対して言い返した息子の言葉がこれです。
 落語”親子酒”より。名人”2代目桂枝雀師匠”の名演をこちらでどうぞ

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