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2016年12月11日 - 2016年12月17日

”理系あるある”の名探偵と犯人、似た者同士なんでしょうか?(すべてがFになる/UNIX)

 ども、人生すべてがFinishしそうなおぢさん、たいちろ~です。
 先日、森博嗣の”作家の収支(*1)”という本を読みました。まあ、それは普通なんですが、問題はこの人の小説をまったく読んだことながなったんですな。けっこうなベストセラー作家で300冊近い小説を出しているにもかかわらずです。これは本読みとしては猛省せねばならん! ということでさっそく代表作を。
 ということで、今回ご紹介するのは森博嗣のデビュー作にして代表作”すべてがFになる”であります。

写真はたいちろ~さんの撮影。
カリフォルニア大学バークレー校
(UCB University of California,Berkeley)のセイザータワー(Sather Tower)です。

本書には関係ないんですが、行ったことあるので自慢したくて載せました。すいません

2004_08210059


【本】すべてがFになる(森博嗣、幻冬舎新書)
 孤島にある研究所の密室で天才工学博士”真賀田四季”が死体となって発見された。偶然、居合わせた建築学科の助教授”犀川創平”と彼の生徒である建築学科1年生”西之園萌絵”はその謎を解こうとするが・・・
 1996年に出版、第一回メフィスト賞(*2)を受賞した理系ミステリーの名作です
【コンピューター】UNIX
 本書にコンピューターのOSとして”レッド マジック(red magic)”というUNIX系のオリジナルバージョンが出てきます。このUNIX系のバージョンのひとつが上記のUCBで開発された”BSD(Berkeley Software Distribution)”。多数のノーベル賞受賞者を輩出し、孫正義をはじめとするハイテク系企業の起業者も多い名門大学とタメはることをやってんですから真賀田四季ってのはやっぱ天才なんでしょうな。
 ちなみにUNIXライクなLinuxというOSのディストリビューションに”レッド ハット(Red Hat)”ってのが実在します。(提供するレッドハット社の起業は1993年)

 さて、本書の建てつけは”密室の謎とき””孤島モノ”といわれるジャンルになります。交通や通信が途絶し、出ることも入ることもできない孤島や閉ざされた館の中で次々起る殺人事件・・・ ってとこですが、従来の孤島モノと違うのが、古びた洋館じゃなくて孤島にある最新のコンピューターで制御されたハイテク研究所が舞台だって所です。密室を証明?するのに画像データや操作ログを確認するだの、メール発信ができない原因を調べるのにプログラムをチェックするだの、普通の推理物とはかなり違うアプローチ。それ以外にもロボットに殺人ができるって話題は出てくるわ、自然言語解析によるコントロールを実用化してるだとかテクノロジーの話題が満載。さすがに1996年の出版なのでIT系のガジェットは一昔前のものもありますが、そんなに古いって感じじゃないです。

 本書は”理系ミステリー”と称されているそうですが、こういうテクノロジー系の話題が多いからかって~と、読んだ感じはちょっと違うかな。確かに本書は探偵役にワトソン役が建築学、殺された真賀田四季を始め研究所の人はコンピュータ関係者、本書では唯一文系の記者”儀同世津子”もパズル好きと理系資質、登場人物がほとんどすべて”理系”の人です。じゃあ理系を集めると理系ミステリーになるかというとそんなことはないわけで、キャラクターが”理系あるある”っぽい造詣だってことのほうが大きいからでしょうか。
 推理小説の”推理”ってのは”ことわり(理)を推し量る”ですんで、名探偵の多くは与えられた状況に対して分析的で推論を組み立てる、つまり”理系的なアプローチ”をやっています(やっていない人もいますが(*3))。ですんで、名探偵が理系的であることには感心しないんですが、本書に出てくる人達の感情や行動パターンがあまりにもあまりにも”理系あるある”っぽいんで。
 偏見に満ちた”理系あるある”がこんな感じ

〔殺人事件ごときでは動揺しない〕
 さすがに死体を見つけたすぐは動揺をみせていますが、すぐに日常モードに移行。だって、手足を切りとられたウェディングドレスを着た死体ですぜ、これ。普通だったら冷静か行動なんかできないんじゃないかと

〔殺人犯がいるはずなのに、あんまし心配していない〕
 ”孤島モノ”の最大のドキドキポイントは、今いる人の中に殺人犯がいるってこと。”次は自分が殺されるかもしれない”という不安や、”犯人はあいつかもしれない”つ~疑心暗鬼がいやがうえでもストーリーを盛り上げるモンですが、そんな様子は皆無。文系だったら、もっとオロオロしそうですが・・・

〔コンピューターを全面的に信じていない〕
 密室トリックを調べるのにやってるのが”プログラム改竄”や”バグ探し”。さすがに最近は”コンピューターは間違えない”と思う人は少ないでしょうが、このアプローチは理系ならではかも。

〔ホワイダニットよりハウダニット〕
 推理小説ってのはおおまかに”フーダニット(Whodunit 犯人は誰か)”、”ホワイダニット(Whydunit 犯行の動機は何か)”、”ハウダニット(Howdunit どのように犯行を行ったか)”に分類されます。で、本書の特徴は完全に”ハウダニット”偏重。”ホワイダニット”が完全に希薄なんですな。まあ、やり方がわかれば誰が、なぜが解き明かされるんでしょうが、”なぜ(何のために)”という話はほとんどなし。てか、謎ときが終わった後でも”なんでそんなことの為に殺人まで犯して!?”と感じちゃうレベルです。まあ、”ホワイダニット”がないから、自分が殺されるって危機感が薄いのかもしれません。

〔存在場所がどんどんバーチャル〕
 本書の冒頭でディスプレイを介した面談てのが出てきます。だいたい面談って目の前に人間がいるモンだと思いますが、これだと相手の人がどこにいるかは問わない状態。後半になると謎とき場面で、ゴーグル型ディスプレイを使ったヴァーチャル・リアリティってのが出てきます。まあ、技術自体は1990年代前半には存在していたし(*4)、登場人物がぜんぜん違和感なく使っているのはいいんですが、問題はシステムがネットワークに接続されるとアリバイを含めたリアルな所在場所の感覚が希薄になるんですな。しかも、それに違和感を感じてなさそう。このへんのネットワーク当たり前感覚は理系的かも。
 ”名探偵、皆を集めてさてと言い”という川柳がありますが、すでにリアルで集まる必要すらないわけで。集まった人の前で”犯人はお前だ!”ってカタルシスすらないんだから・・・ 

 犯人による、犀川助教授の評価

  貴方の回転の遅さは、貴方の中にいる人格の独立性に起因しているし
  判断力の弱さは、その人格の勢力が均衡しているからです
  でも、その独立性が優れた客観力を作った。
  勢力の均衡が指向性の方向に対する鋭敏さを生むのです

 まあ、名探偵をこんな風に分析した犯人ってそういないんじゃないかな。しかも、犀川助教授は”分析していただいて光栄です”と肯定モード。犯人とどこが違うのかという質問に対し”よく似たアーキテクチャーのCPUですけれど・・・”と返すとこなんか似た者同士なんでしょうなぁ

 本書はS&Mシリーズとしてまだまだ続くようですので、がんばって読んでみましょい!


《脚注》
(*1)作家の収支(森博嗣、幻冬舎新書)
 ベストセラ作家と呼ばれながらこれといった大ヒット作もないマイナな作家(本人申告)な”森博嗣”による、自身の収入(印税+もろもろ)と支出(経費)に関する考察。
 詳しくはこちらからどうぞ
(*2)メフィスト賞
 講談社による”面白ければ何でもあり”の文学新人賞(wikipediaより)
 本書以外にも西尾維新(クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い)、辻村深月(冷たい校舎の時は止まる)、新堂冬樹(血塗られた神話)なんてのが受賞。このへんもまだ読んでないな~~
(*3)やっていない人もいますが
 最近読んだのだと、京極夏彦の”百鬼夜行シリーズ”に登場する私立探偵”榎木津礼二郎”なんかがこれ。人の記憶を見る能力を持っているため、推理もなんもないというトンデモ迷探偵です。
(*4)技術自体は1990年代前半には存在していたし
 ただし、リアルに近づけようとするとけっこうな処理能力が必要(最近ではゲーム機でもやってますが、最近のゲーム機の能力ってすごいんですぜ!)。本書の中で背景を雲にすることで計算量を節約しているという記載がありますが、当時のコンピュータの性能を考慮しててほほえましいです、はい。

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