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2016年8月28日 - 2016年9月3日

”お金かかるから戦争反対”なんつー雑駁なことは言いませんが、それもまた重要な話なんじゃないかな~と思うのであります(永田鉄山 昭和陸軍「運命の男」/富士総合火力演習)

 ども、”会社の至宝”なんぞ一度も呼ばれたことのないおぢさん、たいちろ~です。
 ここんとこ何冊か太平洋戦争に絡んだ本を読みました。そん中で良かれ悪しかれキーパーソンと呼ばれる人物が出てきます。太平洋戦争の開戦に首相を務めた東條英機(*1)なんかはその代表格。で、その次に出てくるのが”帝国陸軍の異端児”と呼ばれた”石原莞爾”と”陸軍の至宝”と言われた”永田鉄山”
 石原莞爾という人は満州事変を成功させた天才的な軍略家、”王道楽土”、”五族協和”を掲げた理想主義者というイメージ。比較的わかりやすせいかコミックなんかでもキーパーソンなキャラで出てきます(*2)。
 ところが”永田鉄山”という人は実は何をした人かよくわかんなかったんですね。暗殺された人で、”永田がいれば大東亜戦争は起きなかった”と言われるほどの人なんですが、よくわかんない。ということで読んでみました。
 ということで、今回ご紹介するのは永田鉄山のことをまとめた伝記”永田鉄山 昭和陸軍「運命の男」”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。富士総合火力演習での10式戦車であります。
(上は4重走行、下は大砲をぶっ放す瞬間)

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【本】永田鉄山 昭和陸軍「運命の男」(早坂隆、文春文庫)
 陸軍内部の統制派として、陸軍改革を指揮し関東軍による戦線拡大を防止に尽力したが、陸軍省内で相沢三郎中佐に惨殺された軍務局長”永田鉄山”。鉄山を中心にこの時代を描いた伝記。
【旅行】富士総合火力演習2016
 静岡県御殿場市の東富士演習場で行われる陸上自衛隊の演習のひとつ。2016年度は8月28日に稲田防衛大臣を招いて開催。参加人員約2,400名、戦車・装甲車約80両、航空機約20機、各種火砲約60門、その他車両約700両が参加(パンフレットより)。ちなみに、今年度のキャッチフレーズは「日本の本気。」(なぜか。付き)です


 話はいきなり飛びますが、先日陸上自衛隊の”富士総合火力演習”というのに行ってきました。前日に高校時代からの友人から”チケットが1枚余ったけど、行くか?”という連絡がありまして。こんなプラチナチケットをムダにする手はないと即時OK!(*3)
 演習の前半の課題は主要装備による攻撃、後半は島嶼部に対する攻撃への対応。おおっ、最新鋭の10式戦車の4重走行だ!、90式戦車もいるぞ! ヘリコプターの編隊飛行だ! 戦闘ヘリ”アパッチ”が機銃掃射をやってるゾ!!
 とまあ、楽しませていただきました。

 なんで、こんな話をしているかというと、戦争と言おうが自衛戦闘と言おうが、戦車が走り回ってドンパチやるっていう状況は恐っそろしく金がかかるんですな。
JNNのニュースページによると、この2時間の演習で弾薬だけで約36トン、3.9億円だとか。大卒男子の生涯賃金がだいたい2.6億円だそうですので(退職金含めず)単純計算だとおぢさんが一生かかって稼ぎだすお金で状況を1時間15分も支えられないと。10式戦車自体のお値段が約9.5億円だそうですので4連走行で合わせて約38億円(これでも航空装備よりはずいぶん安いんですぜ)。まあ、公式数字がでているわけではないのでどこまで正確かはわかりませんがずいぶん高いもんであることは間違いなさそう
 それ以外にも人件費だ燃料代だかかっているはずだし、相当なお金が動いているはず。実際にどっかが攻めてくるとなると、島嶼部にのこのこ上陸される前の作戦行動があり~の、こっちはこっちで輸送コストがあり~のしてステージ以外のコストも膨大。さらい言えば演習ってのは装備、人的リソースの損耗がないので、実際の戦闘で打ち返してこられれば被害が発生するはず。
 で、これらの装備、人材を平時から維持していく必要があるので実際の国防予算ってのはばかにならない金額が必要になるわけです。

 別に”金がかかるから悪い”とか”これは必要なお金だから”とか言うつもりはなくて、要は”ちゃんと金がかかる”という認識をもって物事を考える必要があるということ、さらに、近代戦ではそれが”国家総動員=総力戦”レベルで対応しないと賄えないほどの巨額に膨らむという認識が必要だということです。もっともそれで勝てるとはかぎりませんが・・・

 この近代戦における”総力戦”という概念を日本にもちこんで広げたのが永田鉄山という人(やっと本題に戻ってきました)。第一次大戦時のヨーロッパに駐在していた永田鉄山が研究していたのが、従来”戦争は軍隊だけでやるもの”から産業、財政、教育などを含めた”戦争は国家全体でやる”という価値観の転換。これを準備段階=平時からやると。
 問題は当時の日本が”持たざる国”(平たく言うと貧乏)で、軍事力や経済力、資源力で欧米に圧倒的な差があった。実は永田鉄山にしろ石原莞爾にしろ、この現実認識は同じで、この状況を脱却するために満州国の権益を確保することを重視したのは同じだったそうです。大きな違いは石原莞爾が”武力行使”に訴えても日本を”持てる国”にしようとしたのに対し、永田鉄山は”国家総動員体制の構築”によって日本を漸進的に”持てる国”にしようとした点、つまり方法論レベルの違いなんですね。

 永田鉄山という人は戦争ってモトがとれないって考えていたようで

  一日の戦費があれば、数カ月の平和を維持することができる
  勝利者の利益は、払った犠牲に及ぶべくもない
  国民は戦争による利益を求めてはならない

   (本書より抜粋)

と言ってます。海外派兵による満州国独立の権益を得られた時代ですらこの認識なんで、”専守防衛”で侵略戦争をやらないことになっている現代の日本で、戦争なんかやった日にゃマイナスを防ぐ効果はあっても決してプラスにゃなんないでしょうなぁ・・

 さらに問題をやっかいにしているのは、どうも国民感情として欧米の干渉による海外権益を削減された経緯からか”なんとかしろ”的な空気になり、陸軍内部では”皇軍”だの”精神力”だの危なっかしい派閥が形成されてたりと。ましてや、石原莞爾の”一発当てようぜ!”的な満州での拡大戦略が(良くも悪くも)一時期まで成功してて、永田鉄山を排除しなければ先へ進めないといった風潮になっちゃってと。で永田鉄山は暗殺されることになります。

 当時の世相として、情報公開が十分とは言い難いんでしょうが(まあ、今でもそうかもしれませんが)、なんとなく時代の空気に流されて危ない方向に流れってったみたいのがあんでしょうかね。
 本書で引用されている永井荷風の”断腸亭日乗”(*4)より

  日本現代の禍根は政党の腐敗と軍人の過激思想と国民の自覚なき事の三事なり
  政党の腐敗も軍人の暴行もこれを要するに一般国民の自覚に乏しきに起因するなり
  個人の覚醒せざるがために起ることなり

政党の腐敗”、”軍人の過激思想”、”国民の自覚なき事”の3つが原因でその根本が国民の自覚がないことと言ってますが、まさにそうなんでしょうね。

 人も住まない孤島をどっちのモンだと角つきあわせ、お隣さんはボンボンミサイル飛ばしてくる昨今、”戦争反対”を叫ぶことにどんだけの抑止力があるのかわかりませんが、まあ自覚的に状況を判断するってことは必要なんでしょうね。戦争だろうが自衛だろうが、備えるだけでもお金かかるし、やっちまったらもっとお金かかるし、しかも回収のメドのない投資なんですから。”お金かかるから反対”なんつー雑駁なことは言いませんが、たとえ下世話な話だと思われても、少なからざる金額を使うんだから一つの重要な話なんじゃないかな~と思うのであります。

 どのみち始めちゃったら、いやがおうにも総力戦にならざるとえないんだし、総力戦になれば、人命もまた”総力”のリソース扱いされんでしょうしねぇ・・・


《脚注》
(*1)太平洋戦争の開戦に首相を務めた東條英機
 極東国際軍事裁判でA級戦犯として責任を追及された話が教科書等に載ってたんで、戦時中ず~っと首相だと思っていたんですが、実際には開戦時が東條英機、小磯國昭を挟んで終戦時は鈴木貫太郎降伏文書の調印や戦後政策をになったのが東久邇宮稔彦王ら。もうちょっと真面目に日本史の勉強しとくんだったな~~
(*2)コミックなんかでもキーパーソンなキャラで出てきます
 ”ジパング”(かわぐちかいじ、講談社)では日本で原爆を作成し歴史を変えようとしたメインキャラの草加拓海少佐とつるんで裏でいろいろやっている人。ビジュアルは生前の桂子雀師匠を彷彿とさせます。
(*3)こんなプラチナチケットを~
 2016年度の応募抽選倍率は、ネットとはがき合計で応募総数約14.8万通で約29倍、ネットだけだと12.2万通で約31倍でした(パンフレットより)。はがきには偽造防止用のシールまで貼ってあったみたいです。
(*4)永井荷風の”断腸亭日乗”
 1917年から死の前日の1959年までの永井荷風の日記。今風でいうとツイッターかフェイスブックのノリみたいです。本書の引用は1936年(昭和11年)2月14日のもの。”断腸亭日乗Wiki”で読めますのでこちらからどうぞ

正論も度が過ぎるとろくな社会にならんのでしょうかね(ハーモニー/コーヒーの木)

 ども、尿酸値と糖尿病と高血圧の薬を飲んでるおぢさん、たいちろ~です。
 別に自覚症状があるわけじゃないんですが、会社の健康診断でひっかかちまいまして・・・ この手の薬でめんどくさいのは完治するというより、状況を悪化させないために一生飲み続けないといけないってこと。まあ、処方箋も必要なので月々お金もかかるしねぇ。医者にも行かず、家で手に入れば楽ができんですけど。
 ということで、今回ご紹介するのはそんな夢の医療社会が実現したユートピアのお話、伊藤計劃(いとう けいかく)の”ハーモニー”であります。


写真はたいちろ~さん撮影。
北海道大学植物園のコービーの木です。

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【本】ハーモニー(伊藤計劃、早川書房)
 21世紀後半、人類は医療の発達によりほぼ全ての病気が放逐された福祉国家を実現していた。そんな中、6000人以上の人間が自殺するという事件が勃発する。WHOの上級監察官”霧慧トァン”はその事件の陰に、かつて共に自殺を図った友人”御冷ミァハ”の存在を感じる・・・
 デビュー2年、34歳の若さで病没したで伊藤計劃の長編第3作にして、第40回星雲賞及び第30回日本SF大賞を受賞した現代SFの名作。
【花】コーヒーの木
 アカネ科コーヒーノキ属に属する植物の総称。種子から採れるコーヒー豆はカフェインを多く含む
 カフェインは興奮作用を持つ精神刺激薬の一種で、コーヒ、緑茶、紅茶などの飲料や医薬品では総合感冒薬や鎮痛薬に用いられる一方、副作用として不眠、めまいなどを引き起こす(wikipediaより抜粋)


 伊藤計劃って前から読んでみたかったんですが、たまたまこの前読んだ”BISビブリオバトル部 2(*1)”にその話がでてまして(*2)、さっそく了読。で、感想としては”SFにおけるリアリティってずいぶん変わってきてるんだな~~”ってこと。SFってのは他のジャンルと違って、けっこう好き勝手に社会や歴史を組み立てるってことをやります。”ハーモニー”で語られている世界というのは究極の福祉・健康社会。<大災禍(ザ・メイルストローム)(*3)>という世界規模での大暴動や流出した核弾頭の爆発で破滅の危機に瀕した人類が、健康の保全を最大の責務とする”生命至上主義”のもとに作った社会。健康監視システム(WatchMe)によりモニターされ、薬や医療が大量に消費され、生活習慣病などを未然に防ぐ助言がされる社会。

 まあ、マクロレベルでは高齢化による福祉予算の増大問題を抱える国家から、ミクロレベルでは成人病に悩むおぢさんまで、夢のような社会ではありますが、”羹に懲りてなますを吹く”感もあります。でも、この社会に一定のリアリティを感じてしまうのは、今の社会が一種の正論に安易になびいているんじゃないかな~という漠然とした不安があるからかも。イ○リスのEUからの独立とか、○メリカ大統領選挙におけるトラ○プ氏の躍進とか、国家財政が破綻しても援助でなんとかなんじゃね?的なギリ○ャとか。それぞれの主張には一定の正論を持って国民の支持を得ているわけですが(ポピュリズムうんぬんの話ではなく)それはそれで不気味なものを感じちゃいます。

 本書の中で出てくるカフェインの摂取についての道義的な問題ってのが出てきます。某夫人は控えめに

  某婦人はカフェインがパニック障害を引き起こすことを指摘した
  某婦人はカフェインが睡眠障害を引き起こすことも指摘した
  某婦人はカフェインが痙攣を引き起こすことまでも指摘した
  某婦人はカフェインが頭痛や健忘症などの症状のトリガーになると指摘した

と発言。これに対して科学者にして霧慧トァンの父親でもある霧慧 ヌァザは、ある業務においてカフェインが必要であり、軽減されるストレスもあると訴えるものの受け入れてはもらえない。まあ常識的な発言ではあります。婦人の発言は

  礼を失しない、とても控えめでいて、どこまでも極端で、
  それゆえに人が惹きつけられやすく、何よりも決めつけにあふれていた

 引用が長くなりましたが、実は私にとって本書の中で一番怖かったのがこの場面なんですね。激昂するタイプなら感情的な反発もありますが、礼儀正しくしてるわりには発言の根拠が希薄でそのくせ結論だけ押し付けてくるような。しかもそれが正論だったりすると”空気”として勝ち組みたいな。それが結果として良い結果に結びつくか~てとそれもまた疑問。

 こんな話を受けてのナチスドイツの話題。霧慧トァンに対して父ヌァザの研究仲間である冴紀ケイタの話

  国家的に癌撲滅や禁煙を大々的に始めたのがナチスドイツだって知ってるか
   (中略)
  癌患者登録所というものを作って、癌にり患した人間を把握し、分類し、検査して
  ナチスは人類史上初めて癌を撲滅しようとしたんだ

   (中略)
  まさにその連中が二十世紀はじまって以来の、人類虐殺を行ったにしてもだ
  物事には色々な面があるっていうことだよ
  潔癖症も度が過ぎると民族の純血とかぬかしだすわけだ

正論の行き着く先がこれだったらたまらんですなぁ

 まあ、こういった社会が嫌だって人は当然出てくるわけで、そんな人が究極の調和="ハーモニー”がどんなもので、どうやって実現するかってのが本書の内容。多分に推理小説的な要素のある小説なので詳しくは書きませんが、けっこう面白かったです。伊藤計劃にもうちょっと付き合ってみましょうかと、コーヒーをがぶ飲みしながら思うのであります。


《脚注》
(*1)BISビブリオバトル部 2(山本弘、東京創元社)
 美心国際学園(BIS)高校のビブリオバトル部は、自分のお勧めしたい本を紹介しあい、どれが一番読みたいかを競うクラブ。SFだのノンフィクションだのBLだのいずれ劣らぬ濃ゆい本好きが集まるクラブです。
(*2)その話がでてまして
 死んでしまったSFマニアのじーちゃんと、SF大好き伏木空の会話で、亡くなった伊藤計劃が死後の世界で新作書いてるっていう”地獄八景亡者戯”みないなネタが出てきます。詳しくはこちらをどうぞ
(*3)大災禍(ザ・メイルストローム)
 メイルストローム(maelstrom)はノルウェーのモスケン島周辺海域に存在する極めて強い潮流(大渦巻)。(wikipediaより)。エドガー・アラン・ポーの短編小説”メエルシュトレエムに呑まれて”に渦巻きに巻き込まれて難破した船から脱出する漁師の話ってのがありますが、関連ありそうですねぇ

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