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2016年8月14日 - 2016年8月20日

”日米開戦で、大国アメリカと戦争やってほんとうに勝てると信じていたのか”との疑問へのひとつの回答です(昭和16年夏の敗戦/タンカー)

 ども、勝てないケンカはしない主義のおぢさん、たいちろ~です。
 先日、”横須賀 フレンドシップデー&サマーフェスタ”に行ってきたブログで”彼我の戦力差を観て、アメリカとガチで戦ったら勝てる気しませんな~~”ってな話を書きました(内容はこちらをどうぞ)。まあ、目的や目標をどう設定するかはありますが、戦争ってのは完膚なまでに敵国を叩き潰すとは言わないまでも、外交交渉でイーブン以上の講和条約を結べる程度には勝たなきゃやる意味がないんじゃないかと。となると、やったらどうなるかのと見込み=将来シミュレーションぐらいはやっとく必要があります。で、出た結果をどう評価するかで先行きが大きく変わります。
 現在から過去を振り返ればど~とでも言えるのを承知の上での疑問ですが、先の大戦でなぜ”日本は戦争をするという決断”をしたのか?、勝てるとふんだのか?” 実は、まったく同じ疑問を持って本を書いた人がいたんですな。
 ということで、今回ご紹介するのはそんな疑問に答えた本、作家にして元東京都知事、猪瀬直樹の”昭和16年夏の敗戦”であります。


写真はすべてたいちろ~さんの撮影
川崎市沖で見かけた大型原油タンカー(VLCC)”GASSAN”です

071336


【本】昭和16年夏の敗戦(猪瀬直樹、中公文庫)
 日米開戦直前の昭和16年(1941年)夏。”総力戦研究所”に集められた軍部、省庁、民間の若きエリートたちは疑似内閣を組閣し戦争を行った場合の帰結についてのシミュレーションを行った。その結果は”日本は必ず負ける”。
 この結果を受けた東条英機陸軍大臣(*1)の結論は、そしてその後の日本の帰趨は・・
【乗り物】タンカー
 液体を輸送する輸送機械(船など)のこと。写真のタンカーはVLCC(Very Large Crude Oil Carrier)といういわれるクラスで20~30万重量トンの積載能力があります。上記の”GASSAN”は積載重量30.8万トン。下に記載している450万トンという数字はこのクラスのタンカーを持ってしても輸送には15往復必要ってこと(攻撃されて撃沈されないという前提で)。逆に備蓄量15万トンというのはこのタンカーの半分しか手元に残んないってことです。


 結果から言うと、”総力戦研究所”が出したシミュレーションの結果は”緒戦は優勢ながら、徐々に国力の差が顕在化、やがてソ連が参戦し、開戦3~4年で日本は敗れる”という、原爆投下以外はほぼその通りになったとのこと(*2)。
 猪瀬直樹が本書を書こうとした理由が”大国アメリカと戦争やってほんとうに勝てると信じていたのか”を知りたかったと書いています。エリート集団とはいえ30代の若手の集まりの集団がここまで見通せていたのになぜ本物の政治中枢が戦争に踏み切ったのかは今から見ればという点をさっぴいても確かに不思議です。
 で、何でかってのを本書からピックアップしてみます

〔根拠のない自信〕
 ”総力戦研究所”の結果に対しての”東条英機”陸軍大臣のコメント

  日露戦争でわが大日本帝国は、勝てるとは思わなかった。
  しかし、勝ったのであります。

   (中略)
  戦というものは、計画通りにはいかない。意外裡なことが勝利につながっていく
  したがって、君たちの考えていることは、机上の空論とはいわないとしても
  あくまでも、その意外裡の要素というものをば考慮したものではないのであります

まあ、”前に戦った時には勝てないと思ったけど勝てたんだから、今回も勝てんじゃね?!”みたいなノリですが、少なくともトップの人間がこれ言っちゃいかんのではないかと。まあ、これに近いこと言っちゃうトップは今でもいそうですけど・・・

〔根拠がありそでなさそな数字〕
 物事を決めるのに客観的な指標として数字を上げるってのがあります。”総力戦研究所”はそれぞれの省庁から数字を持ち寄って比較検討して出した結論が”日本必敗”
 じゃあ、実際の政治中枢がやっていないかというとちゃんとやってはいるんですな。じゃあなぜ逆の結論になったかというと数字でつじつま合わせを始めちゃうから。本書の中で御前会議で鈴木企画院総裁が石油の需給バランスを説明するというのが出てきます。昭和17年度は備蓄を含む供給はインドネシアからの輸送から30万トンを入れて775万トンあって、需要が520万トン。これが昭和18年度にはインドネシアが占領できるから200万トンに増えるから、残量はプラス15万トン。16年度からはインドネシア分が450万トンに増えるのでV字回復します、みたいな。なんで”戦争遂行能力あり”という結論が出るわけです。
 これに対する陸軍省資源課長の高橋中尉のコメント

  これならなんとか戦争をやれそうだ、
  ということをみなが納得し合うために数字を並べたようなものだった

実際、この数字を決めるのに最初は吹っかけて需要を提出した陸軍はその数字を下げたり、インドネシアからの輸送分を増やせると海軍が言いだしたりとかなりアバウトな調整をやっったようです。
 ”なんでまた”と思われるかもしれませんが、今でも似たようなことやってることありませんか? ”目標必達”とかで。たとえば東芝とか三菱自動車の(以下自主規制)

〔空気読んじゃう〕
 上記の高橋中尉のコメントには続きがあります

  赤字になって、これではとても無理という表をつくる雰囲気ではなかった
  そうするよ、と決めるためには、そうするしかないな、というプロセスがあって、
  じゃこうなのだから納得しなくちゃな、という感じだった

 猪瀬直樹が巻末の勝間和代(経済評論家)との対談で書いてますが、日米開戦を回避するために中国の利権を手放したとすると、”日中開戦以来の十万の英霊に申し訳が立つのか”という反論がでてきちゃう。つまり投資・リターンの評価ができなくなってその場の空気に流されちゃうと。

  投資とリターンという発想では、とても語られなかったのですね
  冷静な議論ではなく、
  そういう「空気」によって物事が決められていくのは恐ろしいことです

   (中略)
  そんな世論の中で、軍部の意向に逆らってまで
  損得勘定で戦争を語れる雰囲気ではなかった
  総力戦研究所の模擬内閣が「日本は負ける」という結論を引き出せたのは
  そういう「空気」の縛りがなかったからとも言えます

 一時期”KY(空気読めない)”って流行語になりましたが、意外に空気が読めないてか、空気を読んでも反論すべきは反論するってのが必要なんでしょうね、まあ、嫌われるんでしょうけど

 実際は制度的な欠陥(政治と統帥権の権力二重構造)だの、陸軍と海軍の対立(中国での戦線は陸軍、アメリカと戦うのは海軍)だの、一筋縄ではいかないんでしょうが、実際には”総力戦研究所”の結論が顧みられることなく、日米開戦に突入し無条件降伏に至ることになります。
 まあ、戦争なんてのは”勝てそうだからやる”とか”負けそうだからやらない”なんてシロモノではないですし、それ以前にやらないために最大限の努力を払うモンだと考えてます。ただ”反対”だけ言ってても回避できる訳でもない以上、やっちまったら(あるいはやらなかったら)どうなるかということに対する”冷徹なまでの状況判断”ができることが不可欠ではないかと、終戦の日を前に思うのであります。


《脚注》
(*1)東条英機陸軍大臣
 後に内閣総理大臣となる東条英機はこの時点では陸軍大臣(総理就任はこの直後の41年10月)。イケイケの主戦派だと思っていましたが、本書によると総理就任で一転、戦争回避の立場に立たされるなど、単なる独裁政権というわけでもなかったようです。
(*2)原爆投下以外はほぼそのとうりになったとのこと
 wikipediaによると、ウラン爆弾の実現可能性を評価するMAUD委員会によりウラン爆弾の実現可能性が示されたのが1941年10月、原子爆弾開発にあたった”マンハッタン計画”が承認されたのは1942年10月。さすがにこれを予測しろというのは無茶ぶりです。逆にいうとこれ以外を予測しえたというのはパーフェクトに近いんじゃないかと

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