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このろくでもない、すばらしき世界に住む住民はエコン(ホモエコノミカス)にはなれないらしい(行動経済学の逆襲/切り株)

 ども、根がチキンハートなんで株式取引をしたことないおぢさん、たいちろ~です。 まあ、最大の理由は”お金がない”ことなですが。
 トランプ氏 VS クリントン氏によるアメリカ大統領選挙が終わりました。この結果が今後の世界経済にどう影響するかはわかりませんが、瞬間的にはすんげ~大波乱になっとります。密接な関係にある日米経済とはいえ、選挙当日11月9日の日経平均株価はトランプ氏優勢が伝えられると前日比919円(5%)下げ、現実路線の政策になりそうとなった翌日10日には前日比1,092円(7%)上昇。(日本経済新聞 11月12日より)
 先行き不透明とはいえ1~2日で日本経済のファンダメンタルズがこんなに変化するワケもなく、外から見てると相場がちょちょまっているんじゃね~かと思っちゃいます。なんでこんなことになっちゃうんでしょうね?!
 ということで、今回ご紹介するのは合理的とは程遠い経済の動きを経済学的なアプローチで解明しようとしている経済学者の本”行動経済学の逆襲”であります。

写真はたいちろ~さんの撮影(2014年8月頃)
鶴岡八幡宮の大銀杏の切り株です(*1)

8130302


【本】行動経済学の逆襲(リチャード・セイラー、早川書房)
 合理的な考え方をする人間を前提に構築された伝統的な経済学に異を唱えた”行動経済学”の第一人者であるリチャード・セイラーによる、”行動経済学”の説明を伝記的な歴史解説の側面を加えて解説した本。
 原題は”Misbehaving:The Making of Behavioural Economics”。Behavioural Economicsの訳は”行動経済学”ですが”Misbehave”は”行儀の悪いことをする、不正を働く”という意味。まあ、伝統的な経済学から見ると行動経済学で扱う人間像って”正しくない”行動をする人なんでしょうなぁ
【花】切り株
 木を切った後の根元の部分。
 ”株式”の名前の由来は”株の部分がずっと残っている”という意味から世襲などによって継続的に保持される地位や身分を”株”というようになり、そこから共同の利権確保のための同業組合を”株仲間”というようになり、出資持分割合に応じて権利が保持されることを”株式”と呼ぶようになったとのこと(”語源由来辞典”より抜粋)
 現代でも相撲の親方になるのに”年寄株”ってのを耳にしますが、根っこは同じみたいです


 伝統的な経済学で扱う人間ってのは”ホモエコノミカス(homo economicus 合理的経済人)”、本書では略して”エコン”というモデルを想定しています。これはどんな人かというと,すべての選択を

 合理的期待(Rationarl Exprctations)

に基づいて行う人。簡単に言うと、自分で買うものはすべての財やサービスから最も最良な物を選び、余計なバイアス(偏り)がなく、自信過剰にはならず、どこまでも合理的で冷徹に行動する人。本書では”スタートレック”に登場する”ミスタースポック(*2)”のような存在を例に上げています。
 で、実際の人間(本書ではヒューマン)はどうかというと、モノを選ぶのはいいかげんだし、目先の利益にとらわれるし、同額なら利益を得るより損失のほうが悲しいし、自信過剰だしと、エコンとは似ても似つかない存在。つまり、

  このろくでもない、すばらしき世界に住む住民は
  エコン(ホモエコノミカス)にはなれないらしい
(*3)

ですな。
 本書では、行動経済学に登場する原点から左右非対称な価値関数だの、プロスペクト理論だの保有効果だの、サンクコストの誤謬だの、メンタル・アカウンティングだの、現在バイアスだの損失回避性などの各種のバイアスだのといったトピックが出てきます。単語だけ見るとおどろおろどしいですが、合理的に見ると正しくないけど実際にはやっちゃいそうな行動の説明なんで、意外なほどわかりやすいです。それぞれを説明してるとたいへんなので、本書を読んでいただければと。

 まあそんだけだと投げっぱなので気にいったトピックをひとつ。よく株価って美人コンテストに例えられますが(*4)、それのちょっと数学的バージョンを。セイラーがフィナンシャルタイムスで行ったクイズです。問題はこちら

  参加者は0から100までの中から任意の数字を1つ選びます
  全部の数字の平均値の2/3に一番近い数字を選んだ人が勝ちとなります
  あなたはどの数字を選びますか?

 一応、この問題には数学的な解き方が存在します。まず全員がまったくランダムに数字を選んだとすると、平均値は50になります。ですので2/3の答えは33。ところがもう少し頭のいい人がいると、”みんなが33を選んだら答えは22になるはず”という答えになります。これに気がついて2/3の掛け算を繰り返すと最終的には”0”に収束します(これをナッシュ均衡(*5)というそうです)
 実際にとうなったかというと、結果を多い順に並べると、”22”を選んだ人約8%、(2段階思考をした人)、”1”を選んだ人約7%&”0”を選んだ人約5%、合わせて約12%(経済学の訓練を受け過ぎている人)、”33”を選んだ人約6%、(1段階思考をした人)(カッコ内は本書でのコメント)。最終結果は約2%の人が選択した”13”になったそうです。
 この結果がなぜ気にいったかというと、世の中には頭の良い人だけじゃないんだな~ってのと、頭の悪い人がどう行動するかの”読み”ってのは計算だけじゃ出てこないんだな~と。セイラーはこの結果でフィナンシャルタイムスの読者は頭の良い人が多くてナッシュ均衡に気付いた(0や1を選択した)と言っていますが、実際には世の中には頭の悪い人(1~2段階で思考を止めた人や絶対出ない66以上を回答した人も僅かながらいた)がいてかなり平均を押し上げる結果になってます。さらにいうと”99”とか”100”を答えたいたずら行為をした人もいて(合計で約3弱%)、結果的には数学的な結果と一致しなかったと。

 まあ、考えてみりゃ世の中みんな頭のいい人ばっかりとは限んないし、いちびりもいてなかなか計算どおりにゃいかないんでしょうね。エコンをベースにした(このクイズだとナッシュ均衡の結果に賭けた人)ばっかりじゃないってのは当たり前っちゃ当たり前です。実際に自分のお金をかけて投資をするとなれば、同じ相場を見てもブルと判断する人もいれば、ベアと見る人間もいるんだろうから(*6)もっと数字通りにゃいかないんでしょうなぁ

 と、ここまで書いていて最近の気になる記事から。日経新聞が人工知能(AI)を使った対話型対応エンジン”日経DeepOcean”を提供するとのこと(日経新聞 2016年11月7日 HPはこちら)。データに基づいた数理統計的なAIの分析なんて、まさに究極の”エコン”かも。こいつの言う通りに動いたら伝統的な経済学の世界になっちゃうんでしょうか? それとも”第3の経済学”みたいのが登場するんでしょうかね?

 本書はちょっとお堅いような本ですが、物語っぽくなってる分だけ”行動経済学”の入門書としても良いかも。経済に興味を持っている人にはお勧めです

《脚注》
(*1)鶴岡八幡宮の大銀杏の切り株です
鶴岡八幡宮の大銀杏は、源頼家の子の公暁がこの銀杏の木に隠れて源実朝を殺害した(1219年)という伝説がある樹。2010年の強風により根元から倒れました。写真は根元から高さ4mまでの部分を元の樹の横に移植したものです
(*2)ミスタースポック
 アメリカのSF映画&TV”スタートレック”シリーズに登場する宇宙船エンタープライズ号の副長兼技術主任を務めるヴァルカン人(宇宙人)と地球人とのハーフ。普段は感情を抑制し表情に出さない、非常に合理的な思考のすが、持ち主ながら、時々感情に流されるのが魅力。
 13作目の映画”スター・トレック BEYOND”が公開中ですがまだ観に行ってないな~~
(*3)このろくでもない、すばらしき世界に住む住民は~
 缶コーヒー”BOSS”のCM”宇宙人ジョーンズの地球調査シリーズ”より。宇宙人ジョーンズはトミー・リー・ジョーンズが演じています。ちなみジョーンズの吹き替えを担当している菅生隆之は2009年からの新”スター・トレック”シリーズでは老年期ミスタースポックの声も担当してます、はい
(*4)美人コンテストに例えられますが
 たとえば100人の中から最も美しいと思われる人を6人選んで全体の平均的な選好に最も近い選択をした人に賞金を与えるというゲームをやるとします。賞金を貰おうとすると、自分が最も美しいと感じる人ではなく、他の参加者が最も美しいと感じるであろう人を予測(場合によっては数次にわたって)することになるというもの。ケインズの説明だそうです。
(*5)ナッシュ均衡
 ナッシュ均衡は、他のプレーヤーの戦略を所与とした場合、どのプレーヤーも自分の戦略を変更することによってより高い利得を得ることができない戦略の組み合わせである。ナッシュ均衡の下では、どのプレーヤーも戦略を変更する誘因を持たない(wikipediaより抜粋)。まあ、ボールの中に入ったピンポン球みたいな状態かと。
(*6)同じ相場を見てもブルと判断する人もいれば、ベアと見る人間もいるんだろうから
 相場などで上がると見る(強気)ことを角を下から上に突き上げる雄牛に見立てて”ブル(Bull)”、下がると見る(弱気)を爪を振り下ろして攻撃する熊に見立てて”ベア(Bear)”と言います。凶暴そうな動物にたとえていますが、ブルもベアもどっちも食べちゃう人間が一番凶暴なんですけどね

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