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正論も度が過ぎるとろくな社会にならんのでしょうかね(ハーモニー/コーヒーの木)

 ども、尿酸値と糖尿病と高血圧の薬を飲んでるおぢさん、たいちろ~です。
 別に自覚症状があるわけじゃないんですが、会社の健康診断でひっかかちまいまして・・・ この手の薬でめんどくさいのは完治するというより、状況を悪化させないために一生飲み続けないといけないってこと。まあ、処方箋も必要なので月々お金もかかるしねぇ。医者にも行かず、家で手に入れば楽ができんですけど。
 ということで、今回ご紹介するのはそんな夢の医療社会が実現したユートピアのお話、伊藤計劃(いとう けいかく)の”ハーモニー”であります。


写真はたいちろ~さん撮影。
北海道大学植物園のコービーの木です。

0245


【本】ハーモニー(伊藤計劃、早川書房)
 21世紀後半、人類は医療の発達によりほぼ全ての病気が放逐された福祉国家を実現していた。そんな中、6000人以上の人間が自殺するという事件が勃発する。WHOの上級監察官”霧慧トァン”はその事件の陰に、かつて共に自殺を図った友人”御冷ミァハ”の存在を感じる・・・
 デビュー2年、34歳の若さで病没したで伊藤計劃の長編第3作にして、第40回星雲賞及び第30回日本SF大賞を受賞した現代SFの名作。
【花】コーヒーの木
 アカネ科コーヒーノキ属に属する植物の総称。種子から採れるコーヒー豆はカフェインを多く含む
 カフェインは興奮作用を持つ精神刺激薬の一種で、コーヒ、緑茶、紅茶などの飲料や医薬品では総合感冒薬や鎮痛薬に用いられる一方、副作用として不眠、めまいなどを引き起こす(wikipediaより抜粋)


 伊藤計劃って前から読んでみたかったんですが、たまたまこの前読んだ”BISビブリオバトル部 2(*1)”にその話がでてまして(*2)、さっそく了読。で、感想としては”SFにおけるリアリティってずいぶん変わってきてるんだな~~”ってこと。SFってのは他のジャンルと違って、けっこう好き勝手に社会や歴史を組み立てるってことをやります。”ハーモニー”で語られている世界というのは究極の福祉・健康社会。<大災禍(ザ・メイルストローム)(*3)>という世界規模での大暴動や流出した核弾頭の爆発で破滅の危機に瀕した人類が、健康の保全を最大の責務とする”生命至上主義”のもとに作った社会。健康監視システム(WatchMe)によりモニターされ、薬や医療が大量に消費され、生活習慣病などを未然に防ぐ助言がされる社会。

 まあ、マクロレベルでは高齢化による福祉予算の増大問題を抱える国家から、ミクロレベルでは成人病に悩むおぢさんまで、夢のような社会ではありますが、”羹に懲りてなますを吹く”感もあります。でも、この社会に一定のリアリティを感じてしまうのは、今の社会が一種の正論に安易になびいているんじゃないかな~という漠然とした不安があるからかも。イ○リスのEUからの独立とか、○メリカ大統領選挙におけるトラ○プ氏の躍進とか、国家財政が破綻しても援助でなんとかなんじゃね?的なギリ○ャとか。それぞれの主張には一定の正論を持って国民の支持を得ているわけですが(ポピュリズムうんぬんの話ではなく)それはそれで不気味なものを感じちゃいます。

 本書の中で出てくるカフェインの摂取についての道義的な問題ってのが出てきます。某夫人は控えめに

  某婦人はカフェインがパニック障害を引き起こすことを指摘した
  某婦人はカフェインが睡眠障害を引き起こすことも指摘した
  某婦人はカフェインが痙攣を引き起こすことまでも指摘した
  某婦人はカフェインが頭痛や健忘症などの症状のトリガーになると指摘した

と発言。これに対して科学者にして霧慧トァンの父親でもある霧慧 ヌァザは、ある業務においてカフェインが必要であり、軽減されるストレスもあると訴えるものの受け入れてはもらえない。まあ常識的な発言ではあります。婦人の発言は

  礼を失しない、とても控えめでいて、どこまでも極端で、
  それゆえに人が惹きつけられやすく、何よりも決めつけにあふれていた

 引用が長くなりましたが、実は私にとって本書の中で一番怖かったのがこの場面なんですね。激昂するタイプなら感情的な反発もありますが、礼儀正しくしてるわりには発言の根拠が希薄でそのくせ結論だけ押し付けてくるような。しかもそれが正論だったりすると”空気”として勝ち組みたいな。それが結果として良い結果に結びつくか~てとそれもまた疑問。

 こんな話を受けてのナチスドイツの話題。霧慧トァンに対して父ヌァザの研究仲間である冴紀ケイタの話

  国家的に癌撲滅や禁煙を大々的に始めたのがナチスドイツだって知ってるか
   (中略)
  癌患者登録所というものを作って、癌にり患した人間を把握し、分類し、検査して
  ナチスは人類史上初めて癌を撲滅しようとしたんだ

   (中略)
  まさにその連中が二十世紀はじまって以来の、人類虐殺を行ったにしてもだ
  物事には色々な面があるっていうことだよ
  潔癖症も度が過ぎると民族の純血とかぬかしだすわけだ

正論の行き着く先がこれだったらたまらんですなぁ

 まあ、こういった社会が嫌だって人は当然出てくるわけで、そんな人が究極の調和="ハーモニー”がどんなもので、どうやって実現するかってのが本書の内容。多分に推理小説的な要素のある小説なので詳しくは書きませんが、けっこう面白かったです。伊藤計劃にもうちょっと付き合ってみましょうかと、コーヒーをがぶ飲みしながら思うのであります。


《脚注》
(*1)BISビブリオバトル部 2(山本弘、東京創元社)
 美心国際学園(BIS)高校のビブリオバトル部は、自分のお勧めしたい本を紹介しあい、どれが一番読みたいかを競うクラブ。SFだのノンフィクションだのBLだのいずれ劣らぬ濃ゆい本好きが集まるクラブです。
(*2)その話がでてまして
 死んでしまったSFマニアのじーちゃんと、SF大好き伏木空の会話で、亡くなった伊藤計劃が死後の世界で新作書いてるっていう”地獄八景亡者戯”みないなネタが出てきます。詳しくはこちらをどうぞ
(*3)大災禍(ザ・メイルストローム)
 メイルストローム(maelstrom)はノルウェーのモスケン島周辺海域に存在する極めて強い潮流(大渦巻)。(wikipediaより)。エドガー・アラン・ポーの短編小説”メエルシュトレエムに呑まれて”に渦巻きに巻き込まれて難破した船から脱出する漁師の話ってのがありますが、関連ありそうですねぇ

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