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”位牌なんてただの板きれです。神も仏も、幽霊も祟りも、何もかも嘘っぱち”ですという人向けの推理小説です(陰摩羅鬼の瑕/鶴)

 ども、死体ではないですが、人生死に体(*1)なおぢさん、たいちろ~です。
 まだ20代の頃にネパールのカトマンズに行ったことがあります。パシュパティナートというヒンドゥー教の寺院があるんですが、そこは火葬場になっていて台の上で死体を荼毘に付すんですな。私が見た時には火葬はしてませんでしたが、まだ煙が残ってる状況。残った灰はそのままバグマティ川(聖なるガンジス河の支流)に流します。火葬が外から見えるってのも驚きでしたが、さらに驚いたのはその灰を流してるすぐ横の河ん中で沐浴をしてるんですな。日本人の感覚とはかなりかけ離れてはいるんですが、”死”と”死体”に対する宗教感ってさまざまだな~と思った記憶があります。
 ということで、今回ご紹介するのはある殺人事件に関する”死”と”死体”の大いなる齟齬の話、百鬼夜行シリーズの第8作”陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず)”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。日比谷公園雲形池にある”鶴の噴水”
黒い鶴ってこんな感じでしょうかね。

Photo


【本】陰摩羅鬼の瑕(京極夏彦、講談社ノベルズ)
 巨大な屋敷””鳥の館”を受け継ぐ伯爵”由良昂允(ゆらこういん)”は過去に4度、新婚初夜に花嫁を殺されていた。5人目の花嫁との婚姻にあたり、探偵”榎木津礼二郎”に護衛を依頼する。旅先で一時的な失明状態になった彼を補佐するため小説家”関口巽”もまた鳥の館を訪れる。
 はたしてふたりは花嫁を守れるのか? ”京極堂”こと中禅寺秋彦が語る事件の真相とは・・・
【動物】鶴
 ツル目・ツル科の鳥の総称。なんとなく霊鳥とか吉兆瑞祥ってイメージから純白ってイメージがありますが、黒い羽根も混じってます。逆に”黒鶴”というのもありますが、真っ黒じゃなくって灰色みたい。
 小説の題になっている”陰摩羅鬼”は”そのかたち鶴の如くして、色くろく”とありますが、イラストに使われている古今画圖續百鬼之中の図だと鶴には見えんなぁ。色が黒でもあのフォルムは美しいと思うんですが・・・


 本書でポイントになっているのが”死とはどういう状態”のことかってのが意外とはっきりしないってのがあります。動かなくなったら死んでるのかというとそんなに簡単じゃないし、心臓が止まったからといってその時点で細胞がすべて死滅しているわけでもないし。逆に脳が活動をとめても心臓は動いている”脳死状態”ってのもあるし、最近の新聞だと”心肺停止状態(*2)”なんて記事もあるし。物理学の世界では”シュレーディンガーの猫”みたく”生きていながら死んでいる”というわけのわからん話もあるし・・
 理屈をつければつけるほど”死”ってなに、”生命”ってなにってことになりますが、突っ込んでくと意外に説明ができないんですな、これが。京極堂の説明

  僕達は死に就いて何ひとつ確実には語れないのです。知らないのですから。
  精精魂が肉体から抜けることですなどと、子供騙しの方便しを述べるしか出来ない

   (中略)
  曰く心臓が止まる。曰く意識がなくなる。曰く動かなくなる‐--
  それはいずれも、正確には死ではない
  生命活動が停止するとこと説明したなら-‐-
  生命とは何かと問われてしまいます

そうはいっても、殺人事件は成立するんですが・・・

 百鬼夜行シリーズ”の特徴である膨大な蘊蓄は本書でも健在。今回面白かったのは”葬儀”つまり、死体に対する考え方。一つの考え方として肉体と精神とを分離して考えるというもので京極堂曰く”霊魂と云う発明”。肉体から霊魂が抜けると死ぬと考えると話が簡単で、霊魂も死後も不滅であるとすると安心だから。輪廻転生なんてのはこっち。なんで、死体に魂が戻ってこないんなら死体を取っといてもしょがないんで片付ける。上記のカトマンズで見たのはこれでしょうか。

 ところが、日本でややこしいのが仏教的な輪廻転生の文化と、儒教的な魂魄(こんぱく 魂=精神、魄=肉体)の文化がまざっちゃってること。本作中で京極堂が”位牌って何”って話をしてます

  京極堂 :板きれでしょう。字が書いてあるだけだ、それ以外の何でもない
        漆は塗ってあろうと金箔が張ってあろうと板きれは板きれです

        (中略)
  楢木刑事:霊がーー依り付くんじゃないんですか?
  京極堂 :霊なんてないですよ。仏教に於いては死者は六道を輪廻する
        成仏すれば仏になる。何が何処に依り付くんです?

そう言われりゃそうですが、実も蓋もないな~~ だいたい

  神も仏も、幽霊も祟りも、何もかもーーー そんなものは全部嘘です

って、断定してんだものな~~ この人。
まったく、神も仏もないものかってぐらい・・・

 相変わらず分厚い百鬼夜行シリーズですが、本書もノベルズ版で約750ページ。で、実際に事件が起るのは約550ページ目、京極堂が現場に登場するのは660ページ目というスローペース。つまりここまで延々いろんな蘊蓄が繰り返されてるんですな。やっと登場した京極堂がまた事件の解決にかこつけた蘊蓄話。でも、この手の話が好きな人にはとっても面白いシリーズです。敬虔な仏教徒には向かないかもしれませんが・・


《脚注》
(*1)死に体
 英語だと”lame duck(レイムダック)”。足の不自由なアヒルという意味で、こっちも鳥つながりでした
(*2)心肺停止状態
 心臓と肺が両方とも機能を失っているのが”心肺停止”。救命措置などで心肺機能が甦る可能性はまだ残っているので”死”ではないんだとか。法律的に医師が死亡宣告を出すまでは”心肺停止状態”という表現が用いられるそうです。

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コメント

怪談が好きで心霊モノが好きで、怪談イベントなどに良く行ってますけど、以外に思うかもしれないけど怪談好きってけっこう霊に対してけっこう懐疑的なんですよ。なぜか?自分で見たことないから。
単純に怖い話が好きで不思議なことがすきだから、本当かなと思いつつもどうにも説明がつかないこととか、あるかもしれないと思う話がけっこうあるから。
かくいう私も半信半疑で、心霊写真に限っては90パーセントは否定してます。特にスマホで撮られたものはほぼ全否定!だってあんなしょぼいレンズでまともな解像度がでるわけないし、まともな画像処理エンジンがあるわけでもない。フルカラー表示とはほどとおい雑な画像データーから無理やり作り出しているんだからねぇ。単なる誤変換です。
自分の一眼レフで、自分で撮るまでは、心霊写真を信じられないなぁ。でも、どうにも説明のつかない心霊写真ていくつかあるからなぁ。本物なのかな?

ところで、京極夏彦の”巷説百物語”シリーズは読んだかな?心霊話や妖怪談を基にした話で、全5冊だから、一度読んでみて!
ちなみに3冊目の”後巷説百物語”(のちのこうせつひゃくものがたり)は直木賞受賞作品です。

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