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2016年1月

東日本大震災の対応を安物の”ポピュリズム”にしないためにも読んどいた方がよさそうです(震災復興の政治経済学/ガーベラ)

 ども、家族が2つの大震災を経験しているおぢさん、たいちろ~です。
 冗談抜きで、義理の両親と兄の家族が阪神淡路大震災を、奥様と長男が東日本大震災に被災しております。私自身は両方とも直接は体験してはいないんですが、大変さは良くわかるつもりです。
 で、以前から謎だったんですが、この2つの大震災に対する復興ってなぜこうも違うんだろうと。イラチでちゃっちゃとやらんと気が済まない関西って

  国がなんかしてくれるンなんか待ってられへんワ! 
  こっちであんじょうやっとくから、後は金だけなんとかして!

という復興感みたいのあって、そっから見ると東北ってなんとなくじれったいというか。元宮城県民ですので現場の方が苦労されているのは良くわかりますが、それでも国の方針待ちみたいな印象を持っちゃいます。というか、”我々はこうしたい”みたいなエネルギーが関西に比べて少ないような。”知恵を出したところは助けるけど、知恵を出さないやつは助けない。そのくらいの気持ちを持て”と言って辞任した復興大臣がいましたが(*1)、そんなこと関西のおばちゃんに言った日にゃ、ソッコ~10ケも20ケも要求並べて

  あんたが出せ言うたんやから、きっちりやっつけてくれるンやろな!

ぐらいのかましありそう。
 前置きが長くなりましたが、今回ご紹介するのは未曽有の東日本大震災を経済的な面から分析した本”震災復興の政治経済学”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。近所のガーベラです

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【本】震災復興の政治経済学(齊藤誠、日本評論社)
  私たちは、震災復興政策について、あまりに広すぎる政策的な構えをし
  原発危機対応について、あまりに狭すぎる政策的な構えをしてしまった
  その結果、前者については、政策の過剰が、後者については、政策の不徹底が、
  不幸にも生じてしまったのである
 (本書より)
 では、なぜこのような結果が生じてしまったのかを経済学の立場から分析した本
【花】ガーベラ
 キク科ガーベラ属の総称。
 復興支援ソング”花は咲く(作詞 岩井俊二、作曲 菅野よう子)”で皆さんが手に持っている花がガーベラだそうです(映像はこちら)。花言葉は”神秘的な美しさ、悲しみ、希望”ですが、花言葉が映像に合っていて素敵です。今でもこの曲を聞くと涙が出てきてしまいます。


 最初にお断りしておきます。政治・経済というのは人間の営みですので、感情的な側面と合理的な側面というのが好む好まざるにかかわらず出てきます。前者を重視するとより人間的な政治ってことになりますが、重視しすぎると経済合理性をややもすると軽視することになります。まあ、バランスの問題ですが。で、本書はというと合理性の観点から震災復興を分析したものですので、読む人によっては”非情で冷たい”印象を受けるかもしれません。ただ、あまりに合理性の観点から震災が論じられることがなさすぎたので、個人的にはこういった意見は非常に重要であると感じます。
 ということをふまえて、本書の話。この本って、情緒的な話を極力踏まえて”経済合理性”をつきつめるとどのような判断がありえたかという内容です。

 本書を読んだ感想としては、今回の(本書が主張する)ミスリードが発生したのは”初動における判断ミス”と、いったん走り出したコトは止められないという”慣性力”みたいなもんがあったんではないかと。

〔震災復興政策について、あまりに広すぎる政策的な構えをしたこと〕
 3.11のあの津波に襲われる街の状況って、会社でUstreamで観てました(*2) あの時の画像がのちの状況を決める大きな要因の一つになるほど衝撃であったのは確か。でも、本書では状況的には岩手県、宮城県、福島県の沿岸部に集中していた被害が”東日本”という言葉でイメージが拡張していったという評価をしています。本書で行っている統計的な分析では”県”単位のデータをメッシュを細かくしていくことで被害状況の正確性を上げるというアプローチをしていますが、確かにこれをみるといかに被災規模が過大に見積もられたかがわかります。(被災地域の被害が過小だったということではありません)
 さらに言うと、大震災前から経済が縮小しているこの地区に、復旧(もとの状態に戻す)じゃなくて復興(成長路線に戻す)メインな政策スローガンになっちゃったわけで。阪神淡路と東日本を両方見た身としては、”株式会社神戸市”と称された成長する都市部の復興イメージを、ぶっちゃけ過疎化が進展している東北地方沿岸部に当てはめるのはかなり違和感を感じてました。
 さらに当時の日本の政治・経済状況を重ね合わせてみると、バブル崩壊からリーマンションクを経ての不況や、財政健全化に対応した公共投資の抑制、政権を失った自民党、てなことに対し一発逆転を狙うような思惑があって歯止めの利かない拡大路線に突っ走っちゃった感があります。

〔原発危機対応について、あまりに狭すぎる政策的な構えをしてしまったこと〕
 こっちは政治的な側面と事故対応の側面があります
 政治的な側面。寡聞にして知らなかったんですが”原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)”ってのがあって、この法律では①電力会社(事業者)は過失の有無にかかわらず損害賠償の無限責任を持つ、②異常に巨大な天災地変又は社会天的動乱によって生じた時は除く、ということになってるんだそうです。で、責任を極小化したい国としては早々に②を適用しないことにして東京電力に責任を取らせる形に決めちゃうわけです。”あの大震災が巨大な天災地変でない”と言われると何が天災地変か? とか思っちゃいます。もっとも東京電力がお金も含めて責任を取りきれるはずもなく、そっから非常にわかりにくい政治スキームが出来上がっていくということを本書では詳しく分析をしています。

 事故対応の側面については素人が軽々に扱える話ではなさそうなので、割愛します。

 まあ、状況に対処するには何かを最初に決めて方針決めて動き出すことが必要なんでしょうが、データーのぶれやステークホルダーの思惑があるにせよ、初動での食い違いを検証して軌道修正がちゃんとできない、その裏っ側にある”状況に乗っかってあれこれいっぺんに片付けようとするスケベ根性”みたいなのが問題じゃないかなぁ。今回の対応がまったく間違っていたというつもりはありませんが、じゃああれでよかったかというといろいろ見直すべきじゃなかったかと

 最後に。本書の”終わり”に出てくる、政治学者からの反論

  ①復興予算の根拠となったストック推計が過大であったこと
   ←震災直後にどれだけの規模の復興予算を提出すれば
    『国民』が十分に納得するかが政治的には重要な課題であって、
    ストック被害額推計の精度は本質的な問題ではない

  ②復興予算の過大推計が明らかになった時点で見直しをすべきであったこと
   ←政府がいったん”19兆円”という数字を出してしまえば、
    増やすことはできても、減らすことなど政治的には絶対不可能である

なんだか、えらい言いようだなぁ。ちょっと、国民をナメてるんじゃないかと。まあ、いろいろな意見があるのでそんな側面がないとはいいませんが、これじゃあ安物の”ポピュリズム”です。

 かれこれ東日本大震災から5年、今までの総括と今後どうするかを考え直すには読んどいた方がよさそうな本です。

《脚注》
(*1)辞任した復興大臣がいましたが
 初代復興大臣、松本龍の発言。”ハッパをかけている”という意味では言ってることはしごくまともなんですが、ほかに色々言っちゃって結局9日間で辞任に。
(*2)Ustreamで観てました
 事務所でテレビが見れなかったんですが、”Ustreamで見れるぞ”との情報があり大型ディスプレイにつなげて視聴。なんでもある中学生がNHKの放送をスマホを使ってそのままUstreamにアップしたとのこと。まさにコロンブスの卵です。
(*3)ポピュリズム
 一般大衆の利益や権利、願望、不安や恐れを利用して、大衆の支持のもとに既存のエリート主義である体制側や知識人などと対決しようとする政治思想または政治姿勢のことである(wikipediaより)
 まあ、これ自体が必ずしも悪いとは言いませんが、良いとこ取りで矛盾だらけの政策になっちゃうとねぇ・・


私が面白いと思った映画こそが最高に面白い映画なのよ!!(木根さんの1人でキネマ/ステレオスコープ)

 ども、オタクではありません、趣味が読書なだけのおぢさん、たいちろ~です。
 同好の志とでも言いましょうか、人が付き合うきっかけに”同じ趣味”ってのがあります。男女のお付き合い以外にも就活に役に立つことも(*1)。
 その中でありふれている趣味の一つが”読書”(*2)。ところがこれも蓋を開けてみるとぐちゃぐちゃなんですな。お堅い所では経済書や歴史モノや技術書、エンタメではSFに推理小説に恋愛小説、一大ムーブメントのライトノベル、これにマンガを加えりゃ魑魅魍魎の世界なんですな~ これが人によってかなり濃淡あって。私はわりと手あたり次第に読む派ですがファンタジー系は苦手とか。
 ことほど左様に”読書”とひとくくりにすると大外しするリスクもあるんですが、同様なのが同じくありふれた趣味の”映画鑑賞”。”スターウォーズ”みたいに社会現象みたいのもありますが、ホラー系なんかだとかなりマニアック?。
 ということで、今回ご紹介するのは映画マニアの苦悩を描いたマンガ”木根さんの1人でキネマ”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。
明治村に展示されていたステレオスコープ(ホームズ型ビューアー)

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【本】木根さんの1人でキネマ(アサイ、白泉社)
 木根真知子、三十(バキューン)歳、独身。趣味 映画鑑賞&映画ブログの作成。会社では美人で有能な課長さんですが、その実態は映画愛をこじらせちゃってる残念な人。彼女の元に映画を見ない同僚の佐藤さんが転がり込んできて・・・
【道具】ステレオスコープ
 1枚の写真を右目で、もう1枚を左目で見ることで1つの映像が立体的に浮き上がってもせるという秘密道具。写真のステレオスコープは1910年頃のものだそうですが、原理的には現在の”3D映画”と同じです。


 はっきり言いますが、木根さんの苦悩はよくわかります。映画であれ読書であれ一つの趣味でくくれるほど簡単じゃないんですな~ ”映画観に行こうか?”といって恋愛映画を観に行くか、SFを観に行くかではぜんぜん違うし。ましてや同居人が映画に興味のない人だったらそうとうイラっとくるんだろうなぁ ましてや木根さんけっこうマニアックなネタをふってくるし。ということで本書からそんなネタを

〔ターミネーターは何作目が面白いか?〕
 第一話で”ターミネーター”をブログにアップした木根さん。”ターミネーター3”に星4つをつけたらリツイートが”ターミネーター2のが面白いですよ”。”ターミネーター1の方が好き”と返せば

  1の方がいいってババァの思い出補正www

い~じゃね~かよ~ 若き日のシュワちゃん不気味~~ とか、サラ・コナーがんばれ! とか言ってもよ~~ そりゃ今のCGに比べりゃSFXは荒いかもしんないけど、30年前にそんなこと期待すんな! ジェームズ・キャメロン監督がこの映画でブレイクしなけりゃ”タイタニック”も”アバター”も”エイリアン2”もなかったんだぜ!!


〔スターウォーズはどの順番で観るか?〕
 商談中にいきなりスターウォーズ7のネタバラシ話を始めたお客さんと部長。予告編を観ないと心に決めた木根さんが、暗黒面に堕ちてまで振ったネタが”スターウォーズはどの順番で観るか?”。”フォースの覚醒”が公開されるまで6つのエピソードだったスターウォーズですが(*3)、エピソード4から始めるという異例な構成のため、ストーリーの時系列で観るか、公開順に見るかは確かに話題です(作中ではなんと5からというおっさんも)。このおっさんたちがノリノリで、書類を丸めてライトセーバーにして、しかも擬音の”ブォン”付きで!
 まあ、私もリアルタイム世代なんで気持ちはよくわかります
 ちなみにこの部長、12月18日はお休みをとりました(*4)


〔なぜマニアって生き物は自分の趣味をアピールしたがるのか?〕
 中学時代を思い出して恥ずかしさのあまりピクピクしてしまう木根さん。なんたって読んでる雑誌が”スターログ”。”キネマ旬報”だってけっこうマニアックなのによりによって”スターログ”ですか?! 
 ”スターログ(Starlog)”ってのはアメリカの月刊SF映画雑誌の日本版。1978年にツルモトルームより出版され87年に休刊。99年に竹書房から再度発売されたけど2006年に再度休刊。なので、読んだことある人はけっこうなオールドSFファンでしょうなぁ。(ちなみに木根さんは竹書房版と思われます)。
 こちらから表紙をごらんいただけますが、ツルモトルーム版だと表紙がダースベーダーにスポックに(レナード・ニモイのファーストシーズンのほう)にスーパーマン(クリストファー・リーヴのほう)だもんな~ 回を重ねるごとにどんどんマニアックになってくし。竹書房版だと”スターウォーズ エピソード4”や”ハリーポッター”の時代なんでツルモトルーム版よりは目立たなかったとは思いますが、それでも友達から後ろでひそひそされてます。い~じゃね~かよ~ 別に”映画の友”読んでるわけじゃないんだからよ~(*5)


〔ゾンビ映画の大半はゴミ?〕 
 夏風邪のために棚ぼた休日になった木根さん。溜まりまくったゾンビ映画を一気に観ることに。観たいと思わないものNo.1の死体が人類最大のタブー、カニバリズムするという

  この圧倒的 見たらいかんもの感!!

 私自身、怖いの苦手なんでゾンビ映画って”ワールドウォーZ”ぐらいしか見たことないですがちょっとジャンル的にはとっつきにくいのも確か。日本の妖怪って水木御大のおかげか異形ではあってもどっか愛嬌があるし、モンスターでも吸血鬼なんてドラキュラはハンサムだし、トワイライトサーガはイケメンのお兄ちゃんお姉ちゃんだし、ベイオウルフはかっこいいし、まあフランケンシュタインの怪物はあれだけど。ところがゾンビって一部の例外を除くとほとんどグロいしな~~ まあ、デートに誘って観に行く映画ではないわな~
 ちなみに木根さんの評価は大半が”信じられないクソ!”で更に苦悩が深まったとさ。


〔なんでわざわざ映画館行くの?〕
 これは同居人の佐藤さんの質問。で、木根さんの答えは

  映画を観るってことはね「鑑賞」ではなく「体験」なのよ!!

本人的には”私、今 いい事言わなかった!?”と高評価ですが、佐藤さんはいまいちピンと来ていない様子。私自身、お金がないのでDVD借りてきてみる派ですが、お金あったら映画館行きたいな~~ ”黒部の太陽”に限らず(*6)、迫力ある大画面で観たい映画もあるし、3D映画なんてまだまだ映画館じゃないと観れないし・・・
 で、木根さんの結論

  そこに宝があるからよ!!
  宝探しは 伊達や酔狂でやるもんだよ!!

映画って、結局観てみないとわかんないし、観るんだったら最高の環境で観たい。私もお金があればな~~~


 でもって、本書のネタで最大の話題は”面白い映画ってなに?”。
 結局のところ、映画って観てみて初めて宝かクソかがわかるもの。それが自分のテイストに合ってりゃ、他人が”なんじゃこりゃ~!”とか思っても関係ないし。個人が面白いかどうかなんて多数決じゃないんだし

  私が面白いと思った映画こそが最高に面白い映画なのよ!!

本だって同じ。いいじゃん、自分が読んで面白いと思ったんだからよ~~ ビブリオマニアなおぢさんは考えるのであります

 ”木根さんの1人でキネマ”は、各話のタイトルがスターウォーズやターミネーター、インディージョーンズとかメジャーな映画なのにその中身にほとんど触れていないという本。でも、ある種の方にとってはと~っても面白ろそうです、はい。


《脚注》
(*1)就活に役に立つことも
 マイナビのhp”履歴書の書き方”にも”面接などで、趣味や特技から話が弾むこともあるので、なるべく記入します”と書いてあります。ただし、あんまり書き過ぎると趣味優先の生活と思われるのでマイナス、ギャンブル系はNGとかありますのでご注意を。
(*2)ありふれている趣味の一つが”読書”
 ちょっと古いデーターですが総務省の”平成23年社会生活基本調査”によると自由時間についやした趣味・娯楽(総数)では
 1)趣味としての読書               39.5%
 2)映画鑑賞(テレビ・ビデオ・DVDなど除く)  35.1%
 3)映画鑑賞(DVD・ビデオなど。TV録画除く) 40.5%

2)は映画館で、3)はレンタルビデオ等を指すようです。面白いのは、読書に使った時間が年10~19日から年200日以上の人までほぼ15~18%程度で変わらないのに対し、映画館派は年1~4日が63%程度、年に19日以下の合計が95%程度を占めます。。まあ、年200日以上映画見てる人が0.3%いるってのも驚きですが。
(*3)6つのエピソードだったスターウォーズですが
 エピソード4が公開された頃は9つのエピソードって言ってたような気がするんだけどな~ 気のせいかな~
(*4)12月18日はお休みをとりました
 ”フォースの覚醒”が公開された日です。部長に対する木根さんのリアクションは蛍光灯をかかえて”ブォン”。
(*5)別に”映画の友”読んでるわけじゃないんだからよ~
 ”映画の友”は近代映画社がかつて出版していた映画雑誌。映画は映画でも”ポルノ映画(死語)”ですが。
(*6)”黒部の太陽”に限らず
 石原裕次郎の代表作で観たかったんですが、生前の石原裕次郎自身が”こういった作品は映画館の大迫力の画面・音声で見て欲しい”と言い残したことから(wikipediaより)長い間DVD化されませんでした。2013年にDVDが出たんで喜んで借りましたよ!。

じゃあ、明治維新が無かったら、もうちょっとましな日本になっていたかというとどうなんですかねぇ・・・(明治維新という過ち/日本の一番長い日/風雲児たち/萩)

 ども、日本史はあまり得意じゃないおぢさん、たいちろ~です。だからといって、世界史が得意ってわけでもないんですが・・・
 当たり前のことですが、歴史は過去から未来に向かって流れていきます。歴史に”IF”を求めても意味はないんですが、もしあんときあ~しときゃ良かったと悩むのは人の常。まあ、そん中でもターニングポイントとなるデキゴトてぇのは確かにあって、そこには人なり組織なりの行動原理がかかわってきます。てなことを書いているのはたまたま立て続けに2冊、この手の本を読んだんで。
 ということで、今回は近代の本のターニングポイントを扱った本”明治維新という過ち”、”日本の一番長い日”に加えて”風雲児たち”であります。

写真はたいちろ~さんの撮影。作並温泉で見かけた萩の花です

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【本】明治維新という過ち(原田伊織、毎日ワンズ)
 サブタイトルが”日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト”とあるように明治維新は”新しい日本の夜明け”どころじゃなく、長州藩・薩摩藩のテロにより樹立された政権であり、太平洋戦争に至る滅びの原点であり、今の歴史観は長州藩を中心とした明治政府に都合の良い歴史教育の賜物であるという本。
【本】日本のいちばん長い日(半藤一利、文春文庫)
 日本は原爆の投下、ソ連軍の満州侵略により戦争継続を断念、天皇の聖断によりポツダム宣言を受諾、敗戦が決定した。だが、これを良しとしない帝国陸軍の一部はクーデターにより戦争継続に動きだす。終戦をめぐる日本の最も長い日、八月十五日をめぐるノンフィクション
【本】風雲児たち(みなもと太郎、 リイド社)
 幕末の群像を描くのに関ヶ原の戦いから始めるというとんでもない長編漫画。なんせ、”幕末編”に行くまでだけでワイド版で20巻ですぜ! 単なる”歴史漫画”ではなく、”歴史ギャグ漫画”なんですが、全体としてはちゃんと真面目に歴史を語っているところはさすがです。名作ですんで、ご一読の程を。
【花】萩(はぎ)
 マメ科ハギ属の総称。落葉低木。
 長州藩の藩庁があった萩城(萩市)にちなんで調べたんですが、萩市の花は椿と萩(しかも椿のほうが先)。なんでも、椿(ツバキ)が詰まって萩(ハギ)になった説があるからとか。なんやねん?

 歴史の順からでまず”明治維新という過ち”からこの本を読んで感じた主張をまとめると

  ①明治維新を行った長州藩・薩摩藩の志士はテロリストである(*1)
  ②明治以降の歴史は明治政府によって都合が良く書かれている
  ③太平洋戦争は薩長政権のキャラクターが基盤要因となっている

でしょうか(他にもいっぱいありそうですが)。
 あんまし歴史オタクとか歴女ほど詳しい方ではないですが、素人目に見てもこれらはある意味当たり前の話です。①についてはおおよそ社会体制をひっくりかえすような活動ってのは旧体制から見れば(失敗すれば)犯罪者。成功して体制変更ができればチャラ、逆に旧体制側が犯罪者扱いです。
 ②について言えば、勝った方が自分に都合の良い歴史書を書くのは当たり前といえば当たり前で、そもそも死んだ人間が歴史書を書いたりなんかしません。埋もれた歴史が発掘されて云々なんてのは、現体制の許容範囲か、外圧という別のパワーバランスがあってと考えた方がありそうです。
 ③にしても、組織が継続する限り、根本になるキャラクターが継続されるのはありそうなこと。組織というのはだいたい慣性力が働くモンで何にもなしにいきなりその性格が変わったりはしないですから、長州藩出身の人が中核になってできた組織ならそうなっちゃうんでしょうね

 で、この明治維新から大正、昭和にかけて出来上がった体制が行った太平洋戦争ですが、この幕引きをどうするかという話が”日本のいちばん長い日”。こっちの話のメインはというと

 ①戦争継続が困難になのにポツダム宣言を受け入れるかどうか決まらず、
  最後は聖断(天皇の決裁)によって敗戦が決定
 ②天皇に間違った決断をくださしめた奸臣を撃ち、
  戦争継続を企図した一部青年将校を中心にクーデターが発生
 ③クーデターは鎮圧され、天皇の玉音放送が流れることで太平洋戦争が終了

本書の中で興味深かったのは戦争継続に対する”能力”と”意志”の評価

 戦争を知らない世代なんで、この時期だとほとんど兵力が残っていないと思ってたんですが、本書によると本土決戦に備えての将兵陸海軍合わせて430万、特攻機1万、海上特攻兵器3,300があったそうです。で、本格的な十数個師団が正面切ってぶつかり合う陸上作戦ならむざむざ敗れはしないと豪語してたそうです。まあ、実際に闘えばどうなっていたかはわかりませんが、そこそこ闘えたと考えられていた様子(*2)。実際にクーデターに与するかどうか登場した陸軍将校は多かれ少なかれ悩んでます
 じゃあ、”意志”はどうかというと、こちらはかなり別れてるんですな。さすがに国家のトップクラスは状況認識はあるもののしがらみが多すぎておいそれと”はいわかりました”とは言えない状況(だから敗戦決定が長引いたんですが)。青年将校は完全に精神論で”一億の日本人は軍人精神にのみ生き、この精神の中に死ぬべき”で”日本の国体(天皇を戴く君主性)の維持”だの”たとえ全滅するもそれは敗北ではない”と。

 で、ここまで読んで思ったのがこれと同じメンタリティを持った藩が”明治維新という過ち”にあるんですな。それが会津藩と二本松藩。特に会津ってのは初代藩主”保科正之”を戴く徳川忠義の藩で、”城を枕に討ち死に”するような徹底抗戦をしたんだとか。原田伊織はこのあたりの精神性を高く評価し、長州閥の陸軍には批判的。本書より

  幕末の長州とその長州が創り上げた後の陸軍に共通するのもは、「狂気」である
  「長の陸軍」、「薩の海軍」という言葉が示す通り、
  帝国陸軍とは実は長州軍閥の巣窟ともいえる集団であって、
  戊辰戦争を経て成立した薩長政権のキャラクターは
  実は大東亜戦争(太平洋戦争)の基礎要因となっているのである

 でも、会津藩といい長州の流れの陸軍といい根っこのメンタリティって似たりよったりのような感じがします。あるいはこの時代のある種の日本人自体なのかも?

 長期的な流れで見ると、明治維新の中心だった薩摩、長州、土佐ってみんな関ヶ原の負け組なんですね。薩摩は関ヶ原で正面突破の撤退戦で辛くも逃げのびながらも弱体化政策でいじめられ、関ヶ原西軍総大将毛利輝元は敗れて周防・長門に押し込められ、さらに城は萩っていう中州に押し込められ、土佐は土佐で、坂本龍馬や中岡慎太郎らは”郷士”という下級武士なんですがこれは関ヶ原の戦いで敗れた長宗我部氏の家来の系譜(*3)。つまり明治維新の中心となった藩って、みんな徳川家に怨み骨髄の連中なんですな。まあ、260余年、虐げられた怨念が容赦ない戦いに突っ込んでくのもわからんではないですが。このへんの話は、実はみなもと太郎の”風雲児たち”で読みました。歴史書としても面白いですよ~~

 で、話は戻って”明治維新という過ち”が答えてくれていない疑問

  じゃあ、明治維新がなかったらもうちょっとマシな日本になってたのか?

明治の御一新により、攘夷から手のひら返しの西洋かぶれだろうが、曲がりなりにもヨーロッバをモデルにした立憲君主制らしきものが成立し、中央集権化し、建前であっても四民平等による下層部の人材登用の機会がでてきたのも御一新のおかげっぽいです。というより徳川の幕藩体制でこれらが起ったとはちょっと考えにくいですね。まあ、起ったとしたらもっと血みどろの市民革命があってとかなりそうだし・・・

 この質問は、”IF”というより、起こった事象に対する評価の問題だと言えるかと。ある事象に対して批判的であるということは、何がしかの評価軸があるはずで、これは”○○史観”みたいなもの。”明治維新という過ち”という本も原田伊織史観として読めばユニークではありますが、これにはまりこんでしまうのもまた明治政府が作った史観のみを正とするのと同じリスクじゃないかなぁ。まあ、本書では批判的な司馬遼太郎史観(*4)とか、みなもと太郎史観とか、いろいろ読んでみることが多面的に歴史を理解するのには重要なんでしょうかねぇ

《脚注》
(*1)明治維新を行った~
 本書によると”明治維新”という言葉は昭和になってから極右勢力によって一般化したことばで幕末の御一新当時に使われたものではないんだとか。
(*2)そこそこ闘えたと考えられていた様子
 さすがに勝てるとまでは言ってませんが、相手をビビらせることで講和条件を有利にしようとは考えていた様子。まあ、やってみてそうなったかどかもわかりませんが。
(*3)関ヶ原の戦いで敗れた長宗我部氏の家来の系譜
 土佐に進駐してきたのは”山内一豊”。一豊の妻が”内助の功”で有名な見性院(千代)。でもみなもと版では完全に恐妻家で妻の尻に引かれるおっさん化されています
(*4)司馬遼太郎史観
 歴史小説家。代表作に”竜馬がゆく”、”坂の上の雲”、”街道をゆく”など多数。良くも悪くもおぢさんたちの頭の中にある歴史観を形作ったのは司馬遼太郎であると言いきってもいいぐらいに影響力のあった人。私はあんまし読んでませんけど・・・

話聞いてくれるいう相手がいつまでもおる思とんのか!? 思いあがるのもええかげんにせえ!(海街diary/成就院)

 ども、もったいぶって人に話す過去のないおぢさん、たいちろ~です。
 それはそれで幸せなのか、単なる薄っぺらい人生なのか・・・
 さて、待ちに待った”海街diary”第7巻が発刊されました。長女の幸さんはリハビリ科の井上先生と新しい恋を初め、次女の佳乃さんも上司の坂下さんをゲットし、四女のすずも同級生の風太といい感じに。三女の千佳さんはちょっとお悩みのご様子。彼女達の恋愛事情も大きく動き出した巻ですが、7巻で印象的だったのは喫茶店”山猫亭”のおっちゃん”福田さん”かな~~


写真はたいちろ~さんの撮影。
鎌倉成就院山門側から由比ヶ浜方向を望む

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【本】海街diary(吉田秋生、小学館)
 中学生の”浅野すず”は父の死をきっかけに腹違いの姉”香田幸、佳乃、千佳”達とともに鎌倉に住むことになった。真面目な性格ながら不倫に悩む幸、愛の狩人ながら男運の悪い佳乃、バイト先の店長とラブラブな千佳。そしてすずもまた同級生の尾崎風太と淡い初恋に・・・
 吉田秋生による青春グラフィティー。2015年に広瀬すず他主演で映画化。
【旅行】成就院
 鎌倉市にある真言宗大覚寺派の寺院。写真を撮ったのが夏でしたので咲いていませんが道の両側はアジサイ。
 階段に山門と墓地、遠景の海岸から”海街diary”7巻の口絵(”同じ月を見ている”の扉)はたぶんここです(間違ってたらすいません)。場所は4姉妹の住む江ノ島電鉄極楽寺駅から極楽寺坂切通を下っていくと道の横に階段があるので、ここを上がっていくと成就
院。写真の場所は長谷駅側に下ったあたり。”海街diary”の聖地巡礼にぜひどうぞ

 6巻では大衆食堂”海猫食堂”のおばちゃん”幸子さん”が末期ガンで亡くし人格者の一面を見せた福田さん。関西弁で口は悪いわ、往年の死神博士を彷彿とさせるおもざしながら(*1)周りの人には頼りにされ、すずちゃんや風太君に慕われている人。あまり自分の過去を語らないかわりに(昔ネパールのホテルで働いていたことがあることぐらい)、人のことも深く詮索をしないという節度のあるおっちゃんです。

 で、今回はそんなおっちゃんが珍しく自分の過去(しかも相当暗い・・)を語るエピソード。
 佳乃さんの上司で都市銀行から地元の信用金庫に転職してきた坂下さん。昔自分の担当していたお客さんが自殺した件で、なぜその人を救えなかったのかと後悔を福田さんに話すんですが、それに対する福田さんの返事

  あんた 話す相手間違うてるのと違うか?
  あんたんとこのべっぴんさん 話聞く言うてくれてはるのやろ

べっぴんさん=佳乃さんに対して自分と釣り合わないとうじうじしている坂下さんに、福田さんは自分の過去を語りはじめます。そして、この話は亡くなった”海猫食堂”のおばちゃん、幸子さんににはずだったと・・・

  おばちゃんに話すはずやったんや
  いつでも話聞くて言うてくれたんや
  けど 話聞いてくれるいう相手はもうおらん
  そやから見てみい あんたなんぞに話してしもたやないか

  なんちゅうせいたくな もったいないことする男なんや 腹立つ
  話聞いてくれるいう相手がいつまでもおる思とんのか!?
  そんな相手が明日もまたおんなじように笑ろてくれる保証がどこにあんねん!
  思いあがるのもいいかげんにせえ!

自分がやってしまったことへの後悔、やらなかったことへの後悔。それが坂下さんの煮え切らなさにふと口に出してしまった一瞬。こういう発言って飄々としていながら重い人生を歩んできたおじさんならではのものでしょうか。”海街diary”の中でも屈指の名シーンだと思います。

”海街diary”は最近のコミックでは最も面白いお勧めの本。ぜひ本書を読んで鎌倉に遊びに行きましょう!


《脚注》
(*1)往年の死神博士を彷彿とさせる~
 仮面ライダーに登場した屈指の悪役の”死神博士”。演じるは往年の名優”天本英世”。是枝裕和監督の実写版の福田さん役はリリー・フランキーが演じたそうですが、天本さんがご存命ならぜひ演じて欲しかったですなぁ。

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