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2015年5月3日 - 2015年5月9日

中国人を登場させてはならない、っていうより時代の違いのほうが推理小説にとって面白いかも(枯草の根/虹の舞台/海岸ビルジング)

 ども、大学時代の第二外国語は中国語でしたが、ま~ったく中国語は読めないおぢさん、たいちろ~です。よくあれで単位がとれたなぁ・・・
 先日、ジェフリー・ディーヴァーの”石の猿”を読んでましたら中国人の刑事”ソニー・リー”ってのが登場しました。東洋思想の持ち主で、調和を重んじる(と言ってる割には横紙破りな)人です。海外で活躍する探偵役の中国人って私が読んだことないのか、実際数が少ないのか、でも昔なんとなくいたような気がして調べてみたらいましたね、陳舜臣の推理小説に登場する”陶展文”ってのが。1961年の江戸川乱歩賞枯草の根”に初登場ですのでリアルタイムってわけではなさそうですが。
 ということで、今回ご紹介するのは”陶展文”を主人公とする推理小説”枯草の根”、”虹の舞台”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。
神戸海岸通りにある”海岸ビルジング”です

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【本】枯草の根(陳舜臣、講談社文庫)
 神戸海岸通にある料理店”桃源亭”の店主”陶展文”。シンガポールの大富豪”席有仁”はかつて危機に瀕していた会社を救ってくれた神戸在住の中国人の元銀行家を訪れた。その直後に”陶展文”の友人である老高利貸しの中国人が殺された。一見無関係の事件は、かつての戦争時代の混乱期のある事情がからんでいた・・・
【本】虹の舞台(陳舜臣、毎日新聞社)
 料理店”桃源亭”の店主”陶展文”は三宮のレストラン街に出店を求められる。そのレストラン街にインド料理店を出店するインド人”マニラル・ライ”の家を訪れると何者かに銃撃され、直後にライの死体が発見される。彼はインド独立の英雄”チャンドラ・ボース”の宝石を横取りしたという噂があり、何者かが彼の暗殺を企てているという・・
【旅行】海岸ビルジング
 神戸三宮の海岸通りにある石造りの風格のある建物。パネルによると、竣工1911年(明治44年)とありますので”桃源亭”がお店を開いていたころにはあったはず。竣工当時は海岸通りで一二を争う名建築だったそうです。現在はセレクトショップや事務所などが入っています。
 元町駅から南京町をぬけて海側にいくとすぐ近くにありますので、神戸観光の際はぜひどうぞ(地図はこちらから


 いろいろ見たんですが、どうも中国人が探偵役の小説ってそもそも少ないみたいです。まあ、1961年なんて日中国交正常化の前なんで中国の人自体が少なかったこともあるようですが(*1)、どうも原因は”ノックスの十戒(*2)”にありそうです。これは推理小説の基本指針をまとめたもので、こん中に

    中国人を登場させてはならない

ってのがあります。理由は”この「中国人」とは、言語や文化が余りにも違い、既存の価値観や倫理観が通用しない外国人全般、という意味である”とのこと(wikipediaより)。 まあ、イギリスの聖職者だったノックスにしてみれば、中国人ってのはナゾの宇宙人扱いだってんでしょうかね。でも、”枯草の根”や”虹の舞台”を読んでみると主人公の”陶展文”ってとてもロジカルシンキングな人。むしろ、時代背景なんかのほうが違ってるって感じかな。まあ1960~70年代ごろの”ちょっと昔の戦後の風景”に感じる違和感というか、感じ方のズレというか、ガジェットの不思議感というか、推理小説に限らずあるんですね。ただ、推理小説に色濃く出る傾向にあるっていうか・・・

 思うに、推理小説って、トリックだとか動機って時代に引っ張られるからかなぁ。たとえばほとんどの人が携帯電話を持っている現代と、固定電話しかなかった時代とではトリックの組み立て方がまったく違うだろうし。
 街の風景にしても、その風合いを決める要素なんでしょうが、時代が変わるとテイストも変わるんでしょうか。料理店”桃源亭”のある場所は神戸・湾岸通の東南ビルってことになっていますが、今の湾岸通って高速道路の高架が通っている場所でとっても近代的な雰囲気。すぐ近くには神戸メリケンパークやポートタワーがあります。写真の”海岸ビルジング”は明治末期の建物ですが、作中の”東南ビル”は明治初年に建てられたとのことですんで、雰囲気近いでしょうか。でも、エキゾチックな建物がむしろ観光スポットになるってことは、もう残り少ないってことでもあるんでしょうねぇ

 でも、一番の違いってのは戦争や時代の流れに翻弄される人々の過去のありようでしょうか。”枯草の根”では、戦争により零落した元銀行家や、その銀行家に助けられ今や新興財閥となった男。そしてその男に会えない過去を抱えたもう一人の男。”虹の舞台”ではアウトカーストから必死に抜け出そうとしたインドの男と、貧困からの脱出を図る女。それぞれの時代や虐げられた社会から足掻こうとして起る殺人事件・・・
 決して殺人が許されることではないですが、2作とも名探偵”陶展文”はある意味歴史の結果として犯行に及んだ犯人の内省を促すことで自供させるってパターン。後に歴史小説家として名を成す陳舜臣ですが、そんな作風につながるような作品ですねぇ。

 当時は、中国の人がまあ珍しかった時代だったでしょうか(*3)。だからこそ神戸の中国人コミュニティみたいなのが時代の空気を持ってたんだな~ って感じです。現在の”銀座で中国人の爆買”なんてニュースを見ると隔世の感がありますが・・・

 ノックスの十戒に言う”中国人を登場させてはならない”ってのは、これだけグローバル化が進んだ現代では通用しないっていうか、推理(論理)に国境はないっていうか。むしろ”あの時代の空気をまとった推理小説”ってコトで読んだ方が面白いかもね。


《脚注》
(*1)1961年なんて日中国交正常化の前なんで~
 田中角栄、周恩来首相による日中国交正常化が1972年福田赳夫首相による日中平和友好条約の調印が1978年のことです。ちなみに私が最初に見た中国系の映画ってのはブルース・リー主演の”燃えよドラゴン”で1973年公開ですから、中国の人が主人公ってのももうちょっと後の時代になってからでしょうかねぇ・・
(*2)ノックスの十戒
 他にも”未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない”とかありますが、これだと今読んでるジェフリー・ディーヴァーの”リンカーン・ライムシリーズ”なんかはアウトかなぁ
 ちなみにこれを書いたロナルド・ノックスという人は退職時はカトリックの大司教という偉い人。推理小説を書くことは教会からは不評だったようですが、当たり前っちゃ当たり前です。
(*3)中国の人がまあ珍しかった時代だったでしょうか
 総務省統計局の資料によるとこの小説が書かれた1961年当時の外国人登録者数は約64万人、内中国の人は6.4万人法務省統計によると2014年6月末現在の在留外国人は208.6万人、うち中国の人は64.9万人中国の人はほとんど10倍に増加しています。まあ、外国人自体が珍しい時代だったんでしょうね。

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