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ホロコーストの実行者はサディストではなくノーマルだった。我々と同じように(イェスラエルのアイヒマン/ひまわり)

 ども、私は罪の子なので自信を持って生きてる(*1)おぢさん、たいちろ~です。
 この本を読んでいる時にオウム真理教の菊地直子元被告が殺人未遂罪&爆発物取締罰則違反の幇助罪に問われた裁判で逆転無罪の判決が出ました。事件に対する市民感情(そんなのがあればですが)と法としての正しさ(そんなのがあればですが)(*2)のギャップが大きいこともあり、かなり話題になった裁判。で、この裁判の争点になったのは菊地直子元被告が”人を殺すとわかって薬品を運んだかどうか”。つまり、自分のやってることが犯罪であるという認識があったかどうか。まあ、罪状にもよるので認識がなければみんな無罪ってわけではないですが、少なくとも殺人未遂の幇助罪が成立するには必要なことみたいです。人の行為を裁判で裁くってけっこう難しいんですね、当たり前だけど。
 といいことで、今回ご紹介するのはたぶん人類史上もっともやっかいだった裁判のひとつの記録”イェスラエルのアイヒマン”であります。

上の写真はたいちろ~さんの撮影。三本木のひまわりです
下は弁護士バッチの説明。日本弁護士連合会のhpより転載


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【本】イェスラエルのアイヒマン(ハンナ・アーレント、みすず書房)
 ナティ政権下でユダヤ人問題の”最終的解決”=ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を行ったアドルフ・アイヒマン親衛隊(SS)中佐の裁判記録の本。 サブタイトルは”悪の陳腐さについての報告”
 内容もそうですが、淡々とした文章の筆者アーレントがユダヤ人だというのも驚きです。
 ちなみにこの人の名前を冠した”アイヒマン実験(*3)”というのもあります
【花】ひまわり(向日葵)
 キク科の一年草。太陽に向かって花が回るという明るいイメージからか、弁護士のバッチはひまわりの花弁の中央にはかり(天秤)を組み合わせたもの。ひまわりは自由と正義を、はかりは公正と平等を表しているとのこと。
 今回の話とはあまり関係ないですが、本書の内容と明るいひまわりがあんまし合わないので載せてみました。

 上記のように、判決が成立するためにはいくつかの要件が成立する必要があります。法学部出身ではないのであまり詳しくはないんですが、この本を読んでいると当たり前=前提条件となっている話が実はコトによってはけっこうやっかいってことがわかります。

 ・その行為に対して”犯罪である”という認識があったか
 ・その行為に対して正常な判断力があったか
 ・その行為を実行したのは本人の意思か、上からの命令か
 ・その行為をなさしめた命令は法に準拠するものか
 ・その行為をなさしめた法を定めた国家の意志は正しいものか
 ・その行為を裁く裁判所は正当な権利を有するものか

などなど。”犯罪であるという認識の有無”は菊地直子元被告の判決で比較的わかりやすいですが、それ以外を個別に本書からひろっていくとこんな感じです

〔その行為に対して正常な判断力があったか〕

 裁判で精神鑑定の結果がうんぬんでてくるあれ。行為に対する責任能力があるかというやつです。薬物であじゃぱ~になっているというのは論外ですが、広く知性と呼ばれるものも含まれそうではあります。あとがきにあるアーレントのコメント

  彼は愚かではなかった。
  完全な無思想性-これは愚かさとは決して同じではない-
  それが彼があの時代の最大の犯罪者の一人になる素因だったのだ

 広くいうと嗜好(殺人嗜好とか)もこれでしょうか? アイヒマンに対するアーレントのコメント(上記のアイヒマン実験の元?)

  アイヒマンという人物の厄介なところはまさに
  実に多くの人々が彼に似ていたし
  しかもその多くの者が倒錯してもいずサディストでもなく
  恐ろしいほどノーマルだったし、今でもノーマルであるということなのだ

〔その行為を実行したのは本人の意思か、上からの命令か〕
 なんか起るとサラリーマンがよく言いそうな”上からの命令に従っただけです(*3)”というあれ。てか、よっぽどヤバイ命令でもない限り会社員は上司の指示に粛々と従うもンです。東○とか、ワ○ゲンとかの事件で飛び交うんだろうな~、きっと
 裁判におけるアイヒマンの発言

  自分は決してユダヤ人を憎む者でもなかったし
  人間を殺すことを一度も望みはしなかった
  自分の罪は服従のためであるが、服従は美徳として讃えられている
  自分の美徳はナティの指導者に悪用されたのだ

〔その行為をなさしめた法を定めた国家の意志は正しいものか〕
 これがやっかいなのは、突き詰めると何が”正しい”かってのがあいまいなこと。殺人だって必ず正しくないわけじゃないし(*5)、ある事件が片方から見ればテロだし、もう片方から見れば聖戦だったりなんかしますし。これもあとがきから

  上層の社会全体が何らかの形でヒットラーに屈してしまった以上、
  社会的行動を規定する道徳的戒律や良心を導く宗教的戒律
  -「汝殺すなかれ」-は実質的に消え去ってしまったのだ

 まあ、道徳的戒律や宗教的戒律が正しいとしてですが・・・
 さらには、それが国だと国を守るべきなんとかかんとかがでてくるからこれはもう確信犯。これもあとがきから

  この理論(レゾン・ダデ)によれば、
  国の生存、それ故またその国でおこなわれている法律を維持するための国家の行動は
  その国の市民の行動に適用されるのと同じ規制を受けないことになる
  自己の存立と法支配の存立を確保するために、
  一般的には犯罪と見られている行動をとるべく余儀なくされるることもあるだろう

〔その行為を裁く裁判所は正当な権利を有するものか〕
 ここまで来ると裁判そのものの正当性の問題です、何が正当かも含めて(*6)。
 ドイツの哲学者カール・ヤスパースの言葉とそれに続くアーレントの言葉

  「ユダヤ人に対する罪は人類に対する罪でもあり」
  「従って判決は全人類を代表する法廷によってのみ下され得る」
(ヤスパース)

  一国民のみしか代表していない法廷では、事柄の巨大さは<極小化>されるのだ
   (アーレント)

 本書は1度読んだぐらいでは理解しつくせないようなかなりディープな内容。実際に大論争になったそうです。今だってへたにつつくと大炎上しそうな・・・
 あまり一般的な本ではないかもしれませんが、いつの日か、イ○ラム国との紛争に裁きが下されることがあれば、(どっちが勝つにしても)どうななるかに興味がある人には読んどくべき本かも

  一度おこなわれ、そして人類の歴史に記された行為はすべて、
  その事実が過去のことになってしまってからも
  長く可能性として人類のもとにとどまる
  これが人間のおこなうことの性格なのである


《脚注》
(*1)私は罪の子なので自信を持って生きてる
 自信モテ生キヨ 生キトシ生クルモノ スベテ コレ 罪ノ子ナレバ(太宰治)
(*2)法としての正しさ(そんなのがあればですが)
 裁判所の判決というのは”法律に則って下される”のなので、これは”大前提”のはずというのが疑わしいな~~ってのが今回のテーマです、はい
(*3)アイヒマン実験
 心理学者、スタンリー・ミルグラムによって行われた”ミルグラム実験”のこと。”閉鎖的な環境下における、権威者の指示に従う人間の心理状況を実験”したもの。実験の結果は、普通の平凡な市民が、一定の条件下では、冷酷で非人道的な行為を行うことを証明するものであった。(wikipediaより抜粋)”。詳細はこちらをどうぞ
(4)上からの命令に従っただけです
  しめあげたけど、結局人間だったんだ。だから悪魔を殺していないさ
  上からの命令で仕方なくやってたんだ。俺たちも好きでやってるわけじゃないんだ

 ”デビルマン(永井豪、講談社)”より
(*5)殺人だって必ず正しくないわけじゃないし
  一人を殺せば殺人者だが、百万人を殺せば英雄だ。殺人は数によって神聖化させられる。
 ”殺人狂時代(チャップリン、紀伊國屋書店)”より
 この映画もまだ観てないな~~
(*6)裁判そのものの正当性の問題
 昔、ゴルゴ13で”カンガルーコート”って言葉を知ったんですが、これはマフィアだかなんだかがゴルゴ13に死刑を宣告するというもので、訳すと”人民裁判”、”私的裁判”という意味だとか。マフィアの話だけかと思われるかもしれませんが、ネットで発生する”炎上”とか”祭り”って(以下自主規制)

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