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2014年6月22日 - 2014年6月28日

まあ、もしドラ系推理小説とでも言いましょうか・・・(エウレカの確率/錨)

 ども、行動経済学はけっこう気に入っているなおぢさん、たいちろ~です。
 行動経済学ってのはなにモンかというと、経済学の一分野なんですが、人間行動原理への立ち位置が違うんですな。今までの経済学ってのは経済人(ホモ・エコノミクス homo economicus)という経済的合理性のみに基づいて個人主義的に行動するという人間を前提にした学問なんですが、行動経済学ってのは思い込みや状況に流されるわ、状況に引っ張られるわ、損は大きく得は小さく感じちゃうわというい~かげんな、つまり私のような人間を想定している学問です。
 で、そんな行動経済学者が犯罪捜査をしたらど~なるかというのが、今回ご紹介する”エウレカの確率”であります。

写真はたいちろ~さんの撮影。海上自衛隊横須賀基地の錨です。

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【本】エウレカの確率(石川智健 講談社)
 女性ばかりをねらう連続殺人事件が発生した。特捜本部は犯人逮捕に全力を尽くすが1ケ月たっても犯人の手掛かりすらつかめない状態だった。そんな時、2人の人間が捜査に投入された。一人はプロファイリングのスペシャリスト”盛崎”、そしてもう一人はなんと経済学者の”伏見”だった・・・
 サブタイトルが”経済学捜査員 伏見真守”とありますが、本書内で伏見は”僕は経済学者ではなく、行動経済学者です”とわざわざことわってんだからそのように付けてやれよ~~
【乗り物】(いかり)
 英語で書くと(Anchor アンカー
 本書の中で”アンカリング Anchoring)てのが出てきますが、これは最初に感じたことなど特定の状況=錨を降ろした地点に引っ張られるという認知バイアス(*1)の一種です。


 本書では三つのタイプの捜査官が出てきます。一人目は捜査本部のリーダー、刑事一課長の”阿久津”。推理がどうのこうのというより現場を指揮する実行の人です。二人目はプロファイリングのスペシャリスト”盛崎”。”プロファイリング”というのは犯罪の性質や特徴から犯人の特徴を推論すること。本書の中では”犯行がずさんなので知能指数高くなく、精神的に不安定、女性の下着を盗ってないので男性、お金や宝石を取ってないので生活に困っおらず犯行時間から不労所得のある失業者、ホラー映画好き”ってなぐあい。だもんで、捜査本部は犯行現場の近くでレンタルビデオショップでホラー映画や猟奇モノばかりを借りてる人間を探せ!(*2)となってます。それっぽいっちゃそれっぽいですが、外した時の反動でかそうだな~~

 話は飛びますが、今でこそ”プロファイリング”って時々聞くようになりましたが、私が最初に見たのが”俺の空 刑事編(*3)”。手元にないんで記憶で書いてますが確か主人公の安田一平が財力に任せて私設警察作って、大学の先生とか集めてプロファイリングやって犯人を特定して、いきなり全国手配をかけるってかなりムチャぶりな話だったような。正直”マジでやったらかなりヤバイ”と思ったもんです。

 で、三人目の捜査官がそんな”プロファイリング”の危なっかしさを認識しつつ、”行動経済学的アプローチ”で補完できないかと考えてる”伏見真守”。この人もやってることは”プロファイリング”と良く似てるんですが、こだわっているのは”何故、この犯罪を起こしたのか”。まあ、徹底した”ホワイダニット(*4)”の人でしょうか。
 でも、本書の中で伏見もちらっと言ってますが、”犯行が行われて一番得をしたのは誰か?”、”この犯罪を行うだけのメリットがあるか?”という古典的なテーマを行動経済学だのゲームの理論(*4)だの持ってきて小難しく展開してんだよな~ 確かにこう言った犯罪を経済的なアプローチで理屈こねたのは新しいっちゃ新しいですが。でも分析結果から状況証拠を無視して犯人を決めつけてるんですが、いいんかい?!

 まあ、犯人探しという意味では二転三転あって推理小説としても面白いんですが、読後感としては”もしドラ(*6)”思い出しちゃいました。この本で行動経済学に興味を持たれた方は経済書の本も読んでみてください。そっちも面白いから。


《脚注》
(*1)認知バイアス
 意思決定に偏りを生じさせる要因となるもの。適切な情報を無視したり(事前確率無視)、不適切な情報に影響されたり(フレーミング効果)、重要ではないが突出した部分を課題に重視したり(アンカリング)など。ある程度のレベルで正解に近い解を短時間で得ることのできる”ヒューリスティクス”などもこれ。
 と書くと難しそうですが、要は先入観と偏見。”お前の意見は偏見だ!”と言うと喧嘩になりそうですが”君の意見には認知バイアスがかかっている”と言えば喧嘩にはならないかも。無理かなぁ
(*2)レンタルビデオショップでホラー映画や猟奇モノばかりを~
 こういうの見てると、そのうちamazonやyahoo!、google、Facebookなんかの情報をビック・データ解析して犯人捜査なんかやりそうだな~~ やってるかもしれんけど
(*3)俺の空 刑事編(本宮ひろ志 集英社)
   安田グループ総帥の御曹司にして頭脳明晰、剣道大会で優勝するスポーツマン、イケメンという完璧超人な”安田一平”を主人公とした漫画。でもなぜか刑事やってます。
 まあ、漫画版”富豪刑事”(筒井康隆 新潮文庫)といったとこです。
(*4)ホワイダニット
 推理小説のアプローチは大きく3つに分かれます。
  フーダニット (Whodunit = Who (had) done it):誰が犯人なのか
  ハウダニット (Howdunit = How (had) done it):どのように犯罪を成し遂げたのか
  ホワイダニット (Whydunit = Why (had) done it):なぜ犯行に至ったのか
一言で言うと、”犯人探し”、”トリック”、”動機”です
(*5)ゲームの理論
 フォン・ノイマンが体系化した”合理的な意思決定者間の紛争と協力の数理モデル
 本書の中では明示していませんが、得失点のマトリクスを作ってマクシマックス(maximax 最もうまくいった場合の利得が最大となる)、マクシミン(maximin 最悪の場合の利得が最大となる)なんてやるのはゲームの理論の考え方です。
(*6)もしドラ
 正式名称は”もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら”(岩崎夏海 ダイヤモンド社)。公立高校野球部のマネージャーみなみがドラッカーの経営書”マネジメント”を読んでチームを甲子園に出場させるという小説。
 話題になる前に読んでて”この本、売れるんかい?”と思ってたんですが、ダイヤモンド社初のミリオンセラーになったとか。

カエル男、こんなゆるキャラは嫌だ!(連続殺人鬼 カエル男/蛙)

 ども、カエルのゆるキャラと聞かれたら”ケロヨン”(*1)と答えちゃうおぢさん、たいちろ~です。
 世の中、ゆるキャラブームです。まあ、動物系の”くまモン”や”ぐんまちゃん”、鳥系の”バリィさん”、植物系の”ふなっしー”、人間系の”ちっちゃいおっさん”となんでもあり~の状態ですが、立場がビミョ~なのが両生類系。カエルなんて”けろけろけろっぴ(サンリオ)”やコルゲンコーワの”ケロちゃん”や”ケロロ軍曹”なんてメジャー所がそろっているのに意外といないんですな(*2) 。
 だからってこんなゆるキャラはできればご勘弁を、ということで今回ご紹介するのは、”きょう、かえるをつかまえたよ”という犯行声明を残す連続殺人事件の本”連続殺人鬼 カエル男”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。水戸にある別雷皇太神の”六福六蛙”です。

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【本】連続殺人鬼 カエル男(中山七里、宝島社文庫)
 口にフックをかけられ全裸で吊るされた死体。これが飯能市連続殺人事件の始まりだった。”きょう、かえるをつかまえたよ”という幼児性を持った犯人はマスコミから”カエル男”と名付けられた。埼玉県警捜査一課の渡瀬警部と若手刑事の古手川は捜査に従事するが犯人の手掛かりは杳として知れず、警察への不信はつのる一方だった・・・
【動物】蛙(カエル)
 三角形の頭に上に飛び出た目、丸っこい胴体に、分類だと無尾目とあるようにシッポがない生き物。デフォルメされたキャラはかわいいですが、リアルでかわいいかはちょっと微妙
 名前の連想からか縁起物になっていて、上記の六福は交通安全(無事かえる)、金運上昇(金かえる)、不老長寿(若がえる)、学業成就(良く考える、無病息災(体がもとにかえる)、出世開運(卵→オタマジャクシ→蛙)だそうです。


 最近は知りませんが、おぢさん世代では学校の授業で”カエルの解剖”ってのがありました。まあ、大き目のカエルに麻酔をかけてメスでお腹を開くだとか、脚に電気を流すとピッっと伸びるだとか、今考えるとけっこうグロいことやってたんですな。どうもカエルって昔はありふれた生き物だったんで、男の子にとっては被虐の対象だったようで。やれ、お尻の穴からストローつっこんでふくらますだとか、爆竹突っ込んで爆死させる(*3)だとか、板に挟んで潰しちゃうだとか、紐で吊るしてザリガニ釣りのエサにするだとか、こ手のネタには事欠きませんでしたね。決して褒められた行為ではないですが・・・

 で、これを人間相手にやりゃ立派な犯罪ですが(カエルだって動物虐待です)、これが本書に出てくる”連続殺人鬼 カエル男”。ネタバレになりますがフックで吊るす、プレス機で自動車ごと潰す、解剖して臓器を並べる、火で焼くとまあ、やりたい放題。しかも子供の日記のような犯行声明が残されてるんだから、ほとんどサイコな世界です。

 ここでサイコホラーに行くのかなと思っていると、これがパニック映画のノリに。
渡瀬警部と若手刑事の古手川刑事の会話

 渡瀬 :人が人を殺める理由は数々あるが煎じ詰めれば三つしかない
     愛憎、カネ、そして狂気だ
     このうち愛憎とかねは絞り込みが楽だ。そいつが死んで笑う奴を探せば良い
     だが狂気の場合、こいつは厄介だ。容疑者の絞り込みができん

      (中略)
     異常者全てに動機があるようなものだからな
 古手川:でも、そうやって苦労して犯人捕まえたって
     相手が狂ってたら三十九条(*4)で結局無罪になっちまうんでしょ?

 まあ、愛憎やカネによる犯罪ってのはある意味合理的というか”なんでやねん?”というのが一般人にも理解できんことはないわけですが、”狂気”っていうのは理解できないノリなわけで、”ワケのわからんものには恐怖を感じる”って心理はあるわけです。そのくせ、目撃者もいないような周到さがあったり、ミョ~な規則性があったりなんかすると被害者予備軍はもうパニック状態。で、”ヤラレル前にヤレ! 犯人予備軍は誰だ?”ってことになって普段は善良な(はずの)一般市民がリスト持ってそうなトコに押し掛け狼藉の限るなんて言う狂気の再生産ループに入っちゃうわけです。
 確かに最近は”人を殺して、自分も死刑になりたかった”だの”誰でもよかった”など訳のわからん供述をする犯人がいるからな~ しかも、この手の犯罪はおおむねヤラレ損になる可能性が高いわけで(まあ、どの犯罪もヤラレ損ではありますが)、犯人の罪にすら問えないってのは被害者感情としてはわからんでもないですが・・・

 この予備軍ってのがまた曲者で、正気と狂気の間に明確な区別があるのかとか、狂気は完治できるのかだとか、京極堂なら延々と能書き喋りそうな内容(*5)。話がそっちに行くのかな~と思ってたら、落ちはマジな推理小説に。へぇ~~

 中山七里という作家は2009年に”さよならドビュッシー(宝島社文庫)”で”このミステリーがすごい!大賞”を受賞した人ですが、この時に最終ノミネートに残ったのが”連続殺人鬼カエル男(原題は”災厄の季節”)”。最終選考で同じ作者の作品がダブルノミネートされたのは初めてだそうですが、甲乙つけがたいとの評価だったとか。結局、商業的により広い読者が見込まれると理由で”さよならドビュッシー”の受賞が決まったそうですが、両方読みましたが確かに両方とも面白い。この2作がほとんどデビューしたての新人の作品だっていうんだから、確かに才能のある人なんでしょうね。私なんかきっちりハマってるし!

 あらすじだけ読むとホラー系苦手な人に向かなさそうですが、中身はけっこう本格推理系です。ぜひご一読のほどを


《脚注》
(*1)ケロヨン
 1966年から70年に放映された”木馬座アワー”の中の”カエルのぼうけん”に登場するカエルのキャラクター。ご年配の方には懐かしい名前かと(こんなキャラです)。
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 影絵作家”藤城清治”のプロデュースという由緒あるキャラですが、今回調べて原作(ケネス・グレアム ”たのしい川べ”)があるって初めて知りました。
(*2)意外といないんですな
 ネットで見ると愛媛県の”一平くん”なんてのがいましたが、正直ちょっと不気味。
 ”ぴょこたん”なんつ~カエルになる事を夢見るヒヨコという”お前はいったいどっちなんや!”とツッコミ入れたくなるようなキャラのいましたし・・・
(*3)爆竹突っ込んで爆死させる
 5センチぐらいの長さの紙の細い円筒の中に火薬を詰めて導火線のついたモノ。昔は駄菓子屋なんかで売ってましたが今はどうなんだろう? ネットでは買えるようですが。
 大きな音で驚かすとか、そこそこ破壊力があっていろんなものを壊したりとか、鉄管の中に入れて弾を飛ばすとか使いでのあるアイテムだったんですがねぇ・・
(*4)三十九条
 刑法第39条:1.心神喪失者の行為は、罰しない。
          2.心身耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
(*5)京極堂なら延々と能書き喋りそうな内容
 京極夏彦の”百鬼夜行シリーズ”の探偵役にして憑物落としの”京極堂”こと中禅寺秋彦のこと。この人にこの手の能書きを語らせると、延々何十ページ続きます。
 そういや、本書の市民の暴動も憑物みたいなモンだったな~~

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