« 2014年6月1日 - 2014年6月7日 | トップページ | 2014年6月15日 - 2014年6月21日 »

2014年6月8日 - 2014年6月14日

5年前のパニック? そんな昔のこと覚えていないね。明日の相場? そんな先のことはわからないよ。(リーマン・ショック 5年目の真実/蛇口)

 ども、最近どんどん物忘れの激しくなってくるおぢさん、たいちろ~です。
 特に最近何があったかなんてのはどんどん思い出せなくなって・・ 若いころだとそうでもなかったと思うんですが。例えば学生や20代前半あたりの人に”2008年=5年前に何があった?”と聞けばだいたいすらすら出てきそうですが、おぢさんはダメですね~~ まあ、学生とかだとイベントベースがはっきりしているので、連想が効くんでしょうが、歳をとると年年歳歳似たようなことの繰り返しが増えるしなぁ
 ということで今回ご紹介するのはそんなちょっと昔の金融大パニックの話”リーマン・ショック 5年目の真実”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。私んちの蛇口です。

6149743


【本】リーマン・ショック 5年目の真実(日本経済新聞社編 日本経済新聞出版社)
 2008年9月15日、アメリカの大手証券会社”リーマン・ブラザース”が経営破綻。後に”リーマン・ショック”と呼ばれる経済パニックの引き金が引かれた。事態を収束すべくアメリカ政府やFRB(*1)、世界の中央銀行関係者、金融業界が懸命の努力を続けるが・・
 日経新聞に掲載された”混沌の先 リーマン・ショック5年”をまとめて加筆した本
【道具】蛇口
 私の今住んでる所は昔の建物なので”上げ止め式”(上げると水が止まる)、比較的新しい自宅は”下げ止め式”。阪神大震災の時に”上げ止め式”だと落下物で水が出っぱなしになったので下げ止め式に変わっていったという話を聞きましたが、けっこう説得力あるんだよな~~
 中央銀行による資金提供蛇口にたとえて表現することがありますが、景気の下落で水が出るなら”上げ止め式”でしょうか?


 さて、2008年に何があったかというと、今回のテーマであるリーマン・ブラザースの破綻以外にも、”Change Yes We Can!”を叫んでバラク・オバマが第44代アメリカ合衆国大統領に就任し、福田康夫首相が”あなたとは違うんです”と捨て台詞を残して辞任し、麻生・ローゼン・太郎閣下がその跡を引き継ぎ、中国四川省で大地震(マグニチュード8.0)が発生し、北京オリンピックが開催され、松下電器産業が”パナソニック”になり、”レッドクリフ”と”崖の上のポニョ”が公開された年です。ちなみに、秋葉原通り魔事件が発生し、続幼女誘拐殺人事件の宮崎勤が死刑執行されたのもこの年です。ちょっとは思い出しましたか?

 前置きが長くなりましたが、政治・経済の本ってのはリアルタイム系と振り返り系ってのがあると思っていましてこの本は後者。本とかマスコミの論調ってのはその時のムードに多大な影響を受けるモンですんで、リーマン・ショックに先行する住宅バブルってのも当時としてはそんなにネガティブな反応一辺倒ではなかったように思いますし、遠因となった金融緩和政策をとったFRBのグリーンスパン議長(*2)だって当時は”マエストロ(巨匠)”といって持ちあげていたし。

 この本は当時の当事者のインタビューを交えて振り返って何が起こってたのかを検証するって内容ですが、こう言う歴史に学ぶって姿勢は結構重要なんですね。なんとなれば、サブプライム問題やリーマン・ショックを見てそのころ思ってたんは”アメリカは日本のバブル崩壊を見てなかったんかい! 反面教師が身近におったやろが!!”ってこと。

 

バブルってのは簡単に言うと、1985年のプラザ合意による急激な円高が引き金になってカネ余りになって、株式や土地にカネが流れて、お金をバンバン使ってもOK!みたいな雰囲気になって、気が付いたら実態経済とかけ離れちゃって、パン!

 

サブプライム問題ってのは簡単にいうと、低金利政策と持ち家推進が引き金になって、貧乏人に金を貸してもリスク分散できる手法(証券化)が開発されて、”家の値段=資産価値が上がるからお金をバンバン使ってもOK!みたいな雰囲気になって、気が付いたらリスクがどこにあるか分かんなくなって、パン! その加害者にして被害者の一つがリーマンブラザースってワケです。

 この手の話ってのは当事者から見える風景ってのはけっこう違うモンで、本書でも元リーマンブラザース証券(日本)元社長やらAIGの元会長やら元金融庁長官やら三井住友FGの会長やらが出てきます。私の感銘が深かった人を一人上げると、サブプライムローンの設計に使われた信用リスク算出式を開発したデビッド・リー(*3)の言葉

  結果的に金融商品の魅力を高めるのに数式が使われたとしても
  金融危機のにして原因を作ったとは思わない
  新たな金融商品はすでに急拡大しており
  (それを正当化する)尺度が必要だったのだと思う

  1種類のリスクを想定した数式を当てはめるのは適当ではない
  そう、何度も訴えたが、理解を得るのは難しかった

  方程式は万能ではない。理論、適用の両面において問題があり
  そのことを皆がしっかり理解すべきだった

  金融工学は常に目の前の問題を解決するために生まれた
  金融商品を売りつけるために開発されたのではない

 たった3ページの記事ですが、なかなか含蓄の深いものがあります。

 余談ですが、お題の”5年前のパニック? そんな昔のこと覚えていないね~”の元ネタがこれ

  イヴォンヌ:昨日なにしてたの?
      Where were you last night?
  リック:そんな昔のこと覚えていないね。
      That’s so long ago.I don’t remember.
  イヴォンヌ:今夜会える?
      Will I see you tonight?
  リック:そんな先のことはわからないよ。
      I never make plants that for ahead.

 これは、往年の名画”カサブランカ(*4)”の名文句。ハンフリー・ボガート演じるリックが付き合っていたイヴォンヌをふる時の会話です。まあ、ボギーがやればカッコイイセリフですが、経済のかじ取りやってる人や人様のお金を預かってる人が同じこと言われてもな~~
 ということで、時々、こういう過去を振り返る本ってを読んでみるのもいいかも。本書の”はじめに”でも”10年後、20年後にリーマン危機を振り返る材料になれば幸いです”と書いてますが、社会を幸いにするためにも読んどいたほうがいいかも。

《脚注》
(*1)FRB
 金融政策の策定と実施を任務とする経済を安定させるために、アメリカに12ケある連邦準備銀行 (Federal Reserve Banks FRB)を統括するのが連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board FRB) 。
 両方とも略称が”FRB”ですが、○○議長(Chairman)と呼ばれるのは連邦準備制度理事会の長の方。
(*2)グリーンスパン議長
 1987年から2006年までFRBの議長を務めた人。
 低金利政策をとったのは確かですが、べつにリーマン・ショックの責任がこの人だけにあるわけじゃないんだから、そんなに手のひら返したような言い方せんでもいいと思うんですが・・・
(*3)デビッド・リー
 証券化商品の債務不履行リスクを算出する”ガウシアン・コビュラ”を開発したJ・P・モルガンの調査担当者。この人の話は”愚者の黄金”(ジリアン テット 日本経済新聞社)にも出てきますので、ご興味のある方はそちらもどうぞ。
(*4)カサブランカ(監督 マイケル・カーティス、ワーナー・ホーム・ビデオ)
 親ドイツのヴィシー政権の支配下にあったフランス領モロッコのカサブランカを舞台にしたラブロマンス映画。”君の瞳に乾杯”の名言に”時の過ぎゆくままに(As Time Goes By)”の名曲にとお勧めの名画です。

ファイナンスに関わる人間は正義の味方か、悪魔の手先か?(それでも金融はすばらしい/レモン)

 ども、金融機関の人間ではないですが、金融機関相手に商売やってるおぢさん、たいちろ~です。
 職業に貴賎はないと言いますが、正義の味方っぽい職業となんだか悪っぽい職業ってイメージってのはありそうです。正義の味方の代表のような警察官だって犯人を逮捕するって面では正義の味方だけど、誤認逮捕だってあるし、ヤ○ザの人だってボラアンティアやることだってあるし(*1)。自衛隊なんてかなり微妙な職業じゃないかと。まあ、正義の味方であんまし突っ込まれなさそうなのは消防署ぐらいでしょうか(*2)。
 で、今回のお題のファイナンスに関わる人間ってのはどっちかというと分が悪い方でしょうか、別に他意はないんですけど。2013年度に流行った”半沢直樹(*3)”に登場する大和田常務なんて、貸しはがしはするわ、私利私欲で融資を決めるわ、権力闘争に明け暮れるわとかなり悪い人っぽい。半沢直樹だって見方によっては同じ穴のムジナだし。
 ということで今回ご紹介するのはそんなファイナンスに関わる人に勇気を与える本”それでも金融はすばらしい”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。近所で見かけたレモンの花です。

5190429


【本】それでも金融はすばらしい(ロバート・J・シラー  東洋経済新報社)
 2013年にノーベル経済学賞を受賞したロバート・J・シラーによるイェール大学のファイナンス講義の生徒に向けた内容をベースに書かれた本。
 日本語のサブタイトルは”人類最強の発明で世界の難問を解く”ですが、原題は”Finance and the Good Society(金融ファイナンスと良い社会(*4))”とけっこうあっさりしたもの。
【花】レモン
 ミカン科ミカン属の常緑低木。実はよく見る柑橘ですが、花は写真のようなかわいいのが咲きます。ファーストキスはレモンの味などとロマンチックなイメージがありますが、英語では”不良品”というあまり良くないいイメージって本書で初めて知りました。でも花言葉は”心からの思慕”、”愛に忠実”、”心からの思慕”とプラスイメージなんですな。


 さて、結論から。本書に記載されているモンテスキューの”法の精神”より

  商売の精神は生来から慎ましさ、節制、穏健、労働、節度、静謐さ、
  秩序、ルールを伴うものだ
  この精神が続く限り、それらがもたらす富は悪影響を持たない
  よくないのは、過剰な富が商売の精神を破壊するときである
  するとそのとき、格差の不都合が感じられはじめるのである

 この”精神”ってのが曲者で、個人であれ会社であれ社会であれ、この精神が守るべきものを守っていればそうそう問題にはならんわけで、ちゃんとやっていけばすばらしい金融マン=正義の味方になれまっせというのが本書の主題かな?
 でもまあ、これがなかなか守れんわけで、というか金融システム、広げて言うと人間の中にこれが破壊される方向のナニかがビルドインされているんじゃないかと。
 てなことを踏まえて、本書に出てくる職業をいくつか。

〔住宅ローン業者と証券化業者〕

 初手から悪モン代表みたいになってますが、本書が書かれたのは2012年とリーマン・ショックの悪夢醒めやらぬ(今でも醒めてませんか?)ころだから。
 元々抵当証券化とCDO市場(*5)がうまく機能する理由ってのは”レモン(不良品)問題”=不良品だけが市場に放出され、機能不全の市場が生まれること解決すると考えられてました。本来は住宅ローンを使って家を買える人が増えるのは良いことだし、CDOってのもリスクを分散させるはずのものだったし。でも失敗しちゃったのは本来は住宅ローンを借りて返せなそうにもない人にも”貸しちゃえ貸しちゃえ!”って感じで貸しちゃった業者がたくさんいたこと。城南信用金庫の第3代理事長、小原鐵五郎の名言に”貸すも親切、貸さぬも親切”と位のがありますが、まあお客さまのためにならない金なら貸ししないことが親切だってこともあるわけです。CDOも本来リスク分散であるべき商品がいつの間にかどこに何のリスクがあるか分かんなくなっちゃったし。
 でも、本書で最大の誤りは”住宅価格は絶対に下落しない”と多くの人が思いこんだ点をあげてます。まあ、今ならなんでそんなこと思ってたんだ?!と言いそうですが、日本だってバブルのころはみんなそう思ってたんですよ~~
 まあ、形は変わっても住宅ローン業者と証券化業者は今後もあるというのがシラーのご意見。

〔トレーダーとマーケットメーカー〕
 代表的なのは株取引の専門家。秒刻みで株の売買をやって価格変動から利益を得てたりしますが、これがシラー曰く”最も敵視されている存在”。その理由として

  通常、トレーダーが直接的な形で社会に役立つ存在として姿を見せることはない
  かれらは自分の儲けのために売買しているにすぎない

  その活動は賭博を思い起こさせ(*6)
  秀でたトレーダーの成功は時に人の苛立ちを誘う

ずいぶんな言われようって気もしますが、まあ、個人のお金を自分でリスクとってやる分にゃ文句も言いますまい。でも、公的年金積立金の運用で株式の運用比率を高める見直しを前倒しでやってる昨今(田村厚生労働相は2014年6月6日、閣議後記者会見)、この人達に老後の年金たくさにゃならんのだろ~な~
 金融資本主義システムを変革していくにはこの人達が必要ってのが、シラーのご意見。

〔デリバティブ業〕
 この章の書き出しが”近年、「金融派生商品(デリバティブ)」という言葉は汚い言葉とみなされるようになった”。なんつ~言い方だと思いますが、その直後の

  デリバティブ市場を動かす専門家たちは評判が悪いが
  実は、かれらはもっとも創造的で複雑な金融の側面に関わっているのだ

とフォローしてます。
 じゃあ何が悪い印象かというと、オプション(デリバティブの一種)を売るセールスマンがいかがわしい(微妙に誤解を招く議論)とかやってる過去の悪しき慣行のせいではないかと指摘してます。これを無くすためには一般大衆に公平な金融アドバイスを提供すればいいと言ってます。でも、めっちゃ難しいんだよな~ これって。はっきりいって自分の理解できない商品には手を出さない、手を出すなら勉強しろ!ってとこでしょうか
 デリバティブによって市場の有用性と、本当の利益がさらに公平にカバーされるようになるかもしれない、ってのがシラーのご意見。

 まあ、500ページ近くある本だし、上記もかなりはしょっているのでアバウトなところもありますが、本書の言わんとするところは”金融ファイナンスは社会を良いものにするから、がんばれ!”というエールでしょうか。
 帯部分にある

  

すべての金融関係者に勇気と希望を与える書

 ってのは言いえて妙。世間からいろいろ言われてへこんでる金融関係者には絶好の本かも。


《脚注》
(*1)ヤ○ザの人だってボラアンティアやることだってあるし
 1995年の阪神淡路大震災で、山口組が被災地での支援活動を行ったということで話題になりました。
(*2)正義の味方であんまし突っ込まれなさそうなのは~
 消防車や救急車にあんまし悪いイメージ持っている人はいないんじゃないかと。どうも”生命や財産を守ってくれる”からかなぁ。別に義兄が消防署員だったから言うわけじゃないですけど。
(*3)半沢直樹
 池井戸潤の小説”オレたちバブル入行組”、”オレたち花のバブル組”を原作としたTBSのテレビドラマ。いや~銀行員の視聴率を調べたら100%に近いんじゃないかと思うぐらい話題になりました。
 半沢直樹は主人公ですが、国税局や金融庁を出し抜くわ、上司の弱みを出世の取引に使うわと正義の味方ってわけじゃないな~ 大和田常務は半沢直樹の敵役で上記の通りやりたい放題やってます。演じる香川照之がいい味出してました
(*4)金融ファイナンスと良い社会
 訳では”金融ファイナンス”とことさら書いてますが、”Finance”の元はラテン語の”finis”で、これには”目標”や”終了”なんつー意味もあるそうです。
(*5)抵当証券化とCDO市場
 抵当証券は不動産に対する抵当権を小口証券にして、一般の人でも買えるようにした有価証券、CDO(Collateralized Debt Obligation 債務担保証券)は大口金銭債権を裏付資産とした証券化商品でデフォルトなどの際に元本が優先的に確保される順位があるのが特徴。
(*6)その活動は賭博を思い起こさせ
 ファイナンス活動が博打かどうかは未だに結論がでてない問題だそうですが、不確実な未来に資本を投下するって行為は、融資だろ~がトレーディングだろ~が宝くじだろ~が競馬だろ~が同じだと思います。個人的な意見ですけど。

君の音楽がいつまでもショパンの魂ともにあることを願う(いつまでもショパン/スパティフィラム・ショパン)

 ども、気にいったシリーズはすぐに一気読みしちゃうおぢさん、たいちろ~です。
 だもんで、今ハマっている中山七里の”岬洋介シリーズ”の3冊目”いつまでもショパン”を読みました。今回の話って、岬洋介がショパン・コンクール(*1)に登場するって話。前作でもピアノを弾くシーンはありましたが、どちらかというと先生の立場がメインでしたが、今回はピアニストとしての本領発揮です。根は推理小説なんで”ピアニスト”と呼ばれるテロリストの逮捕に協力するんですが、そんなことどうでもいいような圧巻の音楽小説です


写真はたいちろ~さんの撮影。
近所で見かけた”スパティフィラム・ショパン”です

P1050185


【本】いつまでもショパン(中山七里、宝島社文庫)
 岬洋介はショパン・コンクールに出場するためポーランドに来ていた。しかし、ポーランドでは“ピアニスト”というテロリストによる事件が頻発していた。コンクール会場で刑事が殺害され、遺体の指十本がすべて切り取られるという事件が発生、会場周辺では爆弾が爆発し岬と知り合いになった少女が巻き添えになる。一方、ファイナリストとしてコンサートに臨む岬洋介の身にも異変が・・・
【花】スパティフィラム・ショパン
 スパティフィラム属はサトイモ科の属の一つ。写真では緑っぽいですが花を包む部分(仏炎苞)が白くなると”水芭蕉”にそっくり。それもそのはずで”水芭蕉”は同じサトイモ科のミズバショウ属になります。
 ”ショパン”は商品の名前ですが、”水芭蕉”も”夏の思い出(*2)”が思い出されるぐらい音楽のイメージが強いんで、この花もそうなんでしょうか?
 今回は名前つながりだけです。すいません。


 ”岬洋介シリーズ”の特徴として主人公というか語り部が毎作変わるってのがあります。で、今回の主人公は”ヤン・ステファンス”というピアニスト。この人に限らず綺羅星のようなピアニストが続々登場。主だった人を挙げると

〔ヤン・ステファンス(ポーランド)〕
 音楽一家ステファンス家の息子にして”ポーランドのショパン”を継承者する若き新星

〔榊場隆平(日本)〕
 盲目ながらもっともショパンらしい演奏をする”音楽に選ばれた”天才ピアニスト。
 モデルは辻井伸行(*3)?

〔エリアーヌ・モロー(フランス)〕
 愛が聴く者の魂を包みこむ美貌のピアニスト。西村由紀江(*4)みたいな?

〔エドワード・オルソン(アメリカ)〕
 ひたすら陽気で軽快なショパンを弾く軍人一家出身のピアニスト。

 さすがショパン・コンク-ルだけあっていずれ劣らぬ濃いいピアニストなんですが、この中にあって岬洋介がどのようなピアノを奏でるのか? ってのが興味の一つ。ああるんですが、前作までは感動的な描写があるんですが、さて今回はどのように?

 意外なことに、この人って”理不尽なことへ抗う怒りの人”なんだな~ってのが感想。無差別テロのあとのコンクールのファイナル選出の演奏でショパンの”葬送行進曲”に対してのヤンのコメント

  暴虐に対するショパンの怒り、奪われた無辜の生命に対するショパンの悲しみが
  岬のピアノに憑依していた

 怒りって、爆発するような怒りもあれば、静かに燃える怒りもあるのかな。前者の代表例がテロ。最後に近い場面でバスの乗員を人質にとったタリバンの攻撃に対し、アメリカ軍でオルソンの兄が戦場で岬の弾く”ノクターン第二番”を流すってシーンが出てきます。最初は”ミンメイ・アタックか?!(*5)”とかしょ~もないこと考えましたが、これで戦闘がわずかな時間ながら停止されます。本書内では”妙に人恋しくなる”というコメントをしてますが、怒りに燃えるタリバンのテロリストが銃を下して空を見上げてるという行動をとったのは、怒りを打ち消す静かな”何か”があったんじゃないかと。
 世界史苦手だったんで知らなかったんですが、ショパンが生きた時代のポーランドというのはロシア帝国に実質支配されていて、ポーランドの民族運動を徹底的に弾圧されていて、ショパンのポーランドへの想いのたけが込められているんだそうです。”別れの曲”とか、”ノクターン第二番”とかを聴いているとロマンチックな作風の人だと思っていたんですが、それだけではないんですね。

 表題にある

  審査委員たちが与えないのなら我々が君に感謝と栄養を与えよう。
  本当にありがとう、ミサキ。
  君の音楽がいつまでもショパンの魂ともにあることを願う

これは、人質を解放されたパキスタン大統領の言葉。1作目の”さよならドビュッシー(*6)”で作曲家を理解して演奏するといった岬のアドバイスがありますが、こういうことを知ると確かに深みがでてきますねぇ。

 岬洋介は司法試験をトップ合格し司法の世界でも将来を嘱望されるほどの知性と、他のピアニストをして”中毒になる”と言わしめるほどの才能に恵まれ、かつイケメンという数多くの天賦の才にめぐまれながら、突発性難聴(*7)という音楽家にとって致命的な病を抱えてる人。普通だったらそこでめげて別の道を歩みそうなもんですが、この人はそんな運命に抗ってピアニストに自分の道を見つけようとします

  ヤン:第一、そんな状態で長時間の演奏を強いられる本選は不可能だ
  岬 :不可能というのは臆病者の言い訳です

      (中略)
  ヤン:しかし、完調じゃない今の状態で、あの天才サカキバに勝てる訳がない
  岬 :才能というのは怠け者の言い訳です
  ヤン:何て強情なんだよ! さっき柵なんてないと言ったじゃないか
     だったら、いくらだって逃げられるだろう
  岬 :柵はありませんが、義務ならあります

      (中略)
     ある女の子には自分の武器を持っているのなら、
     安穏に長らえるよりもとことん戦えと教えました
     また、ある男子学生には自分で選んだことに最後まで責任を持てと教えました

      (中略)
     今、わたしがステージから下りたら、
     あの時彼女たちとかわした言葉は全部嘘になってしまう

 

天賦の才が神に与えられたものなら、試練もまた神に与えられたもの。てなことを無神論者の私が言っても説得力ないですが。

  

神は我を見捨てず ふたたび剣をとりて戦えとのたもうた(*8)

って言葉があるんですが、そんなん思い出しちゃいました。

 文句なく面白い作品です。ぜひご一読の程を。

《脚注》
(*1)ショパン・コンクール
 ショパンを生んだポーランドにて開催されるピアノコンクール。正確には”フレデリック・ショパン国際ピアノ・コンクール”です。
 なんせ日本人が入賞するだけでもニュースになるという世界で最も権威あるコンクールの一つで、日本人では中村紘子(第7回)、内田光子(第8回)などが受賞してます。
(*2)夏の思い出(作詞 江間章子、作曲 中田喜直)
  夏が来れば 思い出す はるかな尾瀬 とおい空
  きりの中に 浮びくる やさしい影 野の小路
  水芭蕉の花が 咲いている 夢見て咲いている 水のほとり
  しゃくなげ色にたそがれる はるかな尾瀬 とおい空
 この歌を聴いて尾瀬に行かれた方も多いんではないかと。ただし尾瀬で水芭蕉が咲くのは5月末あたりなんでご注意を。
(*3)辻井 伸行
 ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールにおいて日本人として初優勝した盲目のピアニスト。第15回ショパン・コンクールにて”ポーランド批評家賞”を受賞。
(*4)西村由紀江
 大阪出身の作曲家兼ピアニスト。
 1988年から読売テレビで”西村由紀江の日曜はピアノ気分”という番組をやっていて一発で大ハマリ、エレガントなイージーリスニングって感じでしょうか、当時はほとんどCD買ってました。全国区では武田鉄矢”僕は死にましぇん!”で有名なテレビドラマ”101回目のプロポーズ” の音楽を担当、ショパンの”別れの曲”(練習曲作品10第3番ホ長調)を弾いています。
(*5)ミンメイ・アタックか?!
 ”超時空要塞マクロス(石黒昇 バンダイビジュアル)”より。
 戦闘しか知らない異星人に対し歌を流すことによるカルチャーショックを与えることで戦闘不能に陥らせるという作戦です。
 ちなみに、本書では”地獄の黙示録(フランシス・コッポラ、ジェネオン)”と言ってますが。
(*6)さよならドビュッシー(中山七里、宝島社文庫)
 ピアニスト志望の”香月遥”は不慮の火事のため従姉妹の”片桐ルシア”と祖父の”香月玄太郎”を喪い、自身も全身大火傷の大怪我を負う。生き残った彼女はピアノコンクールの優勝にめざし不自由な体ながら師匠であるピアニストの岬洋介とレッスンに励む。しかし周囲では彼女を傷つけようとする細工や、母が殺される事件が発生し・・・
 詳しくはこちらをどうぞ
(*7)突発性難聴
 突発的におきる原因不明の難聴で特定疾患に指定されている難病。坂本龍一、浜崎あゆみ、スガシカオ、大友康平などのアーティストが罹病してるそうです。
(*8)神は我を見捨てず~
 ”ふたり鷹”(新谷かおる 小学館他)”より
 バイクレースの世界耐久選手権のボルドール24時間レースでコケた東条鷹がエンジンを再始動させてレースに復帰する時の言葉。こっちも名作です。

« 2014年6月1日 - 2014年6月7日 | トップページ | 2014年6月15日 - 2014年6月21日 »

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

無料ブログはココログ