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2014年6月1日 - 2014年6月7日

この人はメフィストフェレスだと、私もそう思いました(おやすみラフマニノフ/トウヒ)

 ども、クラシックは好きですが、指揮者やオケの違いなんかま~ったくわからんおぢさん、たいちろ~です。
 会社の先輩で大学時代オーケストラの指揮をやってた人がいまして、その人に言わせると””同じ曲でも指揮者やオケが違えばぜんぜん違う!”らしいんですが、すいません、良くわかりません。まあ、”ダダダダーン!”や”フロイデ! フロイデ!”を除けば(*1)、素人が違う指揮者やオケでフル楽章聴くことなんてめったにないし、ある世代にはトラウマなクラシック“大学祝典序曲(*2)”でもワンパターンでしか聴いたことないし。
 こんな微妙な違いを言葉で表せるかと言うと、スゴイ作家の人だとやっちゃうんですね~ 
 ということで今回ご紹介するのは音楽の小説を超えた推理小説、中山七里の”岬洋介シリーズ”の第2作”おやすみラフマニノフ”であります。

写真はたいちろ~さんの撮影。
羽根木公園の”ドイツトウヒ”です

3110337


【本】おやすみラフマニノフ(中山七里、宝島社文庫)
 ヴァイオリニストを目指す音大生の城戸晶は恋人でチェロ奏者の柘植初音とともに演奏会の練習に励んでいた。そんな時、密室の楽器保管室から時価2億円のストラディバリのチェロが盗まれるという事件が発生する。初音の祖父であり音大の学長、稀代のラフマニノフのピアノ奏者でもある柘植彰良や大学関係者は警察の介入を良しとせず独自に調査を開始。そんな中、学長のピアノが破壊される。
 生徒たちを指導するピアニストの岬洋介が解明した真実とは・・
【花】トウヒ(唐檜)
 マツ科トウヒ属の常緑針葉樹。英語ではspruce(スプルース)
 写真の”ドイツトウヒ(オウシュウトウヒ)”はドイツのシュヴァルツヴァルト(黒森)の木がこれ。トウヒの木材は将棋盤や家具をはじめ、バイオリンやピアノなどの表面に使われているんだそうです。


 先日、岬洋介シリーズの第1作”さよならドビュッシー(*3)”読みました。いや~ハマりましたね。推理小説としても充分面白いですが、なんといっても音楽の描写がすごい。けっこう音楽の専門用語が多いんですが、そんなこと気にならないぐらい

  美鈴のピアノが最強音で装飾を付けた後、更に加速する。
  疾風のように立ちはだかるものをなぎ倒し、怒涛のように全てを包みこんで邁進する。
  どこまでも駆け上がる強い音。
  メロディが巨大な龍となって天上に上がっていく。
  あと六小節。
  あと四小節。
  そしてオケとともに強打和音の四連打を撃ち付けて最終楽章が終わった

 小説内で行われるコンサートの演目”ラフマニノフ ピアノ協奏曲第二番”のクライマックスシーンの描写ですが、まさに圧巻の描写力です。作者の中山七里という人は音楽の専門家ではないんですが(奥様はエレクトーン教師だそうです)、それにしてこの表現ですから、小説家ってやっぱりすごいな~~
 こんな描写がそれぞれの曲につけられるんですがら、ぐいぐい引っ張られること必定。一気に読ませてくれます。

 ストーリーはというと、密室から時価2億円のストラディバリのチェロが盗まれるというイントロから始まります。まあ、素人でもストラディバリが高いことぐらいは知ってますが、この楽器の表面がイタリアフィエンメ渓谷産の赤トウヒで作られてるってのは初めて知りました。で、この楽器の描写がまたすごい!

  それにしても何て豊穣な音だろう
  G線の震えが隣のD線を共振させ、たったの一音がこんなにも心を波立たせる
  楽器全体をびりびりと震わせる有機物特有の音
  やっぱりこれは生き物だ
  このヴァイオリンには血が通い、そして今にも歌いたがってうずうずしている

 こんなキャッチコピーを書かれたら、そりゃいくらお金を出しても買いたくなりそうだな~~

 引用が長くなってすいませんが、それぐらい感動モノです。

 この小説がユニークなのが岬洋介という人のキャラクター。
 決して濃ゆい押しの強いキャラクターじゃないんですが、ピアノを弾かせたり音楽がからむとまるで別人のような感じになっちゃいます。あと人をその気にさせるのもうまいんですな。コンサートマスターになった城戸晶を最後まで引っ張ったのはこの人だし、上記の描写に出てくるピアノ奏者の”美鈴”だって、唯我独尊を絵にかいたようなきつい女性なのに、傑出した個性がオーケストラとのアンサンブルがとれないという弱点を見抜いて

  君の個性を殺さないままオケとアンサンブルを取る方法がある
  知りたくないかい?

   (中略)
  武器なら既に君が持っている。闘い方なら僕が知っている。
  さあ、君は逃げるかい。それとも僕と一緒に闘うかい。

とかいって、オーケストラに参加させちゃうし。このあと、城戸晶がつぶやく

  この人はメフィストフェレスだと、つくづくそう思った

って、まさにそうだよな~~
 メフィストフェレスって”誘惑する悪魔”ってのもあるけど、ほとんど何でもできる能力がありながら神には抗えない悪魔と、天才的なピアノ奏者で指導者としては卓越ていても音楽家として致命的な欠陥を持つ運命ってのもなんとなく二重写しになっているし
 ふだんはあんまり目立たないけど、いざという時には頼れる人ってけっこう好きなタイプです。

 ”岬洋介シリーズ”は今年度上半期に読んだなかでもベストな本。ぜひご一読のほどを


《脚注》
(*1)”ダダダダーン!”や”フロイデ! フロイデ!”を除けば
 ダダダダーン!:ベートーヴェン 交響曲第5番 ハ短調 作品67「運命」
 フロイデ! フロイデ!:ベートーヴェン 交響曲第9番 ニ短調作品125 「合唱付き」
(*2)大学祝典序曲
 ブラームスの演奏会用序曲。てか、おぢさん世代には旺文社の”大学受験ラジオ講座”の主題歌といった方が通りがいいかも。受験が終わって30数年経ちますが、今だにこの曲を聴くとムズ痒いモノがあります。聴いてみたいかたはきいてみたい向きにはこちらをどうぞ。
(*3)さよならドビュッシー(中山七里、宝島社文庫)
 ピアニスト志望の”香月遥”は不慮の火事のため従姉妹の”片桐ルシア”と祖父の”香月玄太郎”を喪い、自身も全身大火傷の大怪我を負う。生き残った彼女はピアノコンクールの優勝にめざし不自由な体ながら師匠であるピアニストの岬洋介とレッスンに励む。しかし周囲では彼女を傷つけようとする細工や、母が殺される事件が発生し・・・
 詳しくはこちらをどうぞ

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