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2014年4月20日 - 2014年4月26日

”パンパンのいた時代”と言って説明不要だった時代もあったんでしょうなぁ・・(ゼロの焦点/JR金沢駅)

 ども、もはや戦後ではない時代生まれのおぢさん、たいちろ~です。
 新しい本がしこたま溜まっているのに、時々古い本を読みたくなることがあります。
 最近は京極堂つながりで横溝正史や松本清張のなんか読んでます(*1)。特に松本清張は今でもちょこちょこ映像化されてまして”球形の荒野”もつい先日木村佳乃主演でTVでやってました(見てないけど)。そういや”ゼロの焦点”も広末涼子主演で映画やってたな~(見てないけど)ということで、今回ご紹介するのはこの本であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。JR金沢駅のもてなしドームと鼓門です。

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【本】ゼロの焦点(松本清張、新潮文庫)
 板根禎子(ていこ)は広告代理店に勤める鵜原憲一と見合い結婚した。新婚旅行から帰ってすぐ、憲一は仕事の引継のために金沢へ行くが、そのあと行方が分からなくなった。憲一の後任の本多や義兄の宗太郎、地元の名士である室田社長らの協力で行方を捜すうち、連続殺人事件が発生する。その影には戦後混乱期の悲しい女達の運命があった・・・
【旅行】JR金沢駅
 写真にあるガラス製の”もてなしドーム”と木製の”鼓門”の竣工は2005年だそうです。初めて金沢に行った時はこんなん無かったんだけどなぁ。2014年の北陸新幹線の開業に伴い駅構内のリニューアルも予定されているそうです。昭和もどんどん遠くなっていきます


 話はいきなり飛びますが、先日、予備校の林先生(*2)が夏目漱石の”坊っちゃん”の”おれは清から三円借りている。その三円は五年経った今日までまだ返さない”という文章を引用して、”状況描写としてお金を出すのは有効だが、時代背景が変わると分からなくなる、だから作品を理解するにはそれがどんな時代だったかを知る必要がある”といったような話をしてました。初手からなんでこんな話をしてるかというと”ゼロの焦点”を読んで感じた”時代感覚のずれ”なんですな。
 調べてみると”ゼロの焦点(旧題”零の焦点”)が”宝石”に連載されたのは1958~59年、小説の舞台もその時代です。経済白書に”もはや戦後ではない”と記載されたのは1956年ですからまぎれもなく”現代”なんですが、ずいぶん社会がかわっちゃったんだな~って感じです。

 禎子と憲一はお見合いしてほとんど1~2ケ月ぐらいで結婚、小説内でも禎子が憲一のことをほとんど知らないって話を何度かしてます。今の若い人にとっちゃ”お見合い”なんて死語の世界でしょうが(”出会い系”つ~とちょっとイメージちがいそうだし)、女性が相手のことをよく知らないまま見合い結婚するって(*3)戦前戦後あたりの話を読むとままあったらしいってことはわかります。
 むしろ気になったのは物語のキーワードになっている”パンパン”という言葉。若い人向けにいちおう説明しておきますとパンパンとは”第二次世界大戦後の混乱期の日本で、主として在日米軍将兵を相手にした街頭の私娼(街娼)”のこと(wikipediaより)。で、何が違和感かというと(まあ、今読んでですが)この言葉がなんの説明もなくふつ~に出てるんですな。こういうやたら脚注の多いブログを書いてていうのはなんですが、文章に出てくる”言葉”っていうのは書く人と読む人の間に共通認識なりコンセンサスが必要で、マニアックアなネタが増えると説明しないとわかんないかな~と思っちゃうワケです。逆に言うと説明しなくてもわかると思もやそんなことしないワケで、”ゼロの焦点”が書かれたころはこの言葉の説明が不要なほど一般に理解されてたってことです。
 それ以外にも禎子が義兄の宗太郎を金沢駅偶然見かけるなんて、今見たいにバカでかい駅あとちょっと偶然すぎる感じだし、在来線の電車の中でたばこをスパスパすってるなんて一昔前の風景だしなんてのがいっぱいでてきます。だいたい、会社の人事課の人が社外の人に履歴書を写させたりとか、役所の人間が戸籍の内容を第三者にペラペラしゃべったりとかなんて、個人情報保護がうるさい昨今ならコンプライアンス違反で訴えられかねないコトです。

 そういう観点で読んでると、時代感覚って確実にずれてきてますね。ちょと前までは終戦直後の混乱期あたりがオールディズって感じでしたが、今では70年代ぐらいまでシフトしてきてる感じでしょうか? 会社でも今やマネージャークラスですら”万博を知らない子供たち(*4)”だしな~~

 まあ、私だって”パンパン”を知識としては知っていても直接見た世代ではないんで偉そに言えたもんじゃないですが、”パンパン”であった過去が連続殺人事件にまで発展するってのも時代背景があってわかることなんでしょうなぁ。今だったらリベンジポルノ(*5)の超きついのみたいな感じでしかょうか?

 本編とはほとんど関係のない話をぐだぐだ書いてしまいましたが、小説自体は松本清張を代表する一作、面白いです。過ぎ去った戦後、いや昭和を感じるのもいいかも。

《脚注》
(*1)京極堂つながりで横溝正史や松本清張のなんか読んでます
 ”京極堂”=京極夏彦の”塗仏の宴(講談社)”から横溝正史の”八つ墓村(角川文庫)”やら松本清張の”闇に駆ける猟銃(”ミステリーの系譜”に所収、中公文庫)”やら。これ全部1938年に起こった”津山事件(津山三十人殺し)”つながりです。
(*2)予備校の林先生
 2013年度新語・流行語大賞”いつやるか? 今でしょ!”で一躍スターになった東進ハイスクール現代文担当の林修先生です。流行語大賞をとった人って一発屋で終わるケースが多いんですが、この先生は膨大な知識に裏打ちされた軽妙な語り口でけっこう長く続きそうです。ライトなノリの池上彰かな。
(*3)女性が相手のことをよく知らないまま見合い結婚するって
 ”ゲゲゲの女房”(武良布枝、実業之日本社文庫)でも見合いから5日後に結婚式するってエピソードあったな~ ダンナの水木しげるが日本を代表する漫画家になったんだからこれは大当たり。まあ、長過ぎた春で結婚しなかった人もいりゃ、大恋愛の末に離婚する人もいるんだから、結婚は結果オ~ライなのかもしれません。
(*4)万博を知らない子供たち
 おぢさん世代で”万博”というと1970年に大阪で開催された日本万国博覧会(通称”EXPO’70”がデフォルト。東京オリンピック(昔の)とならんで戦後日本のエポックメイキングなイベントでした。ちなみに”○○を知らない子供たち”のモトネタの”戦争を知らない子供たち”も1970年のヒット曲。こういうのもいちいち書かないとわかんなくなってくんだろうなぁ
(*5)リベンジポルノ
 逆に言うと禎子の時代の人が現在を見ると、なんでそんなヤバイ写真を撮らせるのか、それをネットでだれでも見れる所にわかれた恋人が載せるのか(そんなことしてもヨリが戻るとは思えんのに)自体理解できんかもしれませんが。

”エースをねらえ!”ってより”ブラックジャック”でしょうか? でもすんごい面白いんだ、これが(さよならドビュッシー/ブラックジャック/月)

 ども、一時はクラシックにはまってた(*1)おぢさん、たいちろ~です。
 会社の人と読書好きな人の呑み会ってのをやってます。まあ、今何を読んでるだの、最近読んだのではこの本が面白かっただのを話題にぐだぐだ酒を呑むという、まあ言ってしまえば”堕落した文芸部”みたいなモンです。
 で、前回に行った時に参加した女性の人から”今、中山七里読んでる”って話がでました。そういや”さよならドビュッシー”とかクラシックがらみで読みたいな~~と思ってたんですがまだ手が出てなかったんで、これを機に読んで見たんですが、面白かったんですな~これが。
 ということで、今回ご紹介するのは”さよならドビュッシー”であります


写真はたいちろ~さんの撮影。サラリーマンの聖地、新橋から見上げた満月です。
まあ、しがないサラリーマンのおぢさんだって、たまには空を見上げてお月見ぐらいはするもんです、はい。

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【本】さよならドビュッシー(中山七里、宝島社文庫)
 ピアニスト志望の”香月遥”は不慮の火事のため従姉妹の”片桐ルシア”と祖父の”香月玄太郎”を喪い、自身も全身大火傷の大怪我を負う。生き残った彼女はピアノコンクールの優勝にめざし不自由な体ながら師匠であるピアニストの岬洋介とレッスンに励む。しかし周囲では彼女を傷つけようとする細工や、母が殺される事件が発生し・・・
 第8回”このミス大賞(*2)”を受賞した岬洋介シリーズの第一作。
【本】ブラック・ジャック(手塚治虫 秋田書店)
 天才的な技術を持ちながら無免許、高額な手術料を要求する孤高の医師”ブラック・ジャック”を主人公とする手塚治虫の代表作の一つ。この人も少年時代に不発弾の事故で母親は死亡、自身も瀕死の重傷を負いで大手術の末奇跡的に助かったという過去の持ち主です。
【自然】
 香月遥がコンクールで演奏するのがドビュッシーの”月の光”ですが、月をモチーフにした曲って結構あります。そういや、30年前に初めてCDを買ったのがベートーヴェンのピアノソナタ”月光”だったっけ(ピアノ演奏はホロヴィッツ)
 ”Blow Up!”(細野不二彦、ビッグコミックス)に出てきたリー・モーガンの”Desert Moonlight(”月の砂漠”のジャズ版)”なんかも聞いてみたいんですが見つかんなくってねぇ。


 大森望による解説では

  ハンディキャップを背負いながらピアノ・コンクール優勝を目指す少女の音楽青春小説
  (中略)
  物語のパターンとしてはいわゆる”スポ根もの”に属する。
  少女漫画で言えば、山本鈴美香『エースをねらえ!(*3)』~(中略)の系列ですね

ってあります。まあ、香月遥が岡ひろみで、岬洋介が宗方コーチだとするとそんな感じかな。お蝶夫人や藤堂さんはいないけど音羽さんはいるし(*4)。
 でも、これ読んだ時に最初に思い出したのはブラックジャックかな~~ けっこう香月遥のリハビリの話が書いてあるんですが、ブラックジャックの子供のころってこんな感じかな。”アリの足(*5)”で、かなりむちゃをやったリハビリのエピソードが出てきますがそれ思い出しちゃいました

 それに香月遥の指がPTSD(心的外傷後ストレス障害 Posttraumatic stress disorder)で動かなくってのが出てきますが、ブラックジャックでも精神的な理由で指が動かなくなるエピソードがあります(*6)。 まあ、香月遥もブラックジャックも、そして魔法使い(*7)こと岬洋介もこういったいろいろな十字架を背負いながら神技のようなテクニックを身につけるっていいな~と思います。


  闇をふりはらえ 立ち上がって戦え

 香月遥が岬洋介の演奏を聴いての言葉。そう、ブラックジャックも香月遥も岬洋介も戦ってるんですね。でもそれってコンサートで勝ち抜くってより、異質なる人に対する悪意に。

  君の言う通り、世界は悪意に満ちている
  現代は不寛容の時代だ。誰もが自分意外の人間を許そうとしない
  咎人には極刑を、穢れた者、五体満足でないものは陰に隠れよ
  周囲に染まらぬ異分子は抹殺せよ。今の日本はきっとそういう国なんだろう

   (中略)
  ただ、神様は一部の人間に粋な計らいをしてくれた。
  怒りを吐露する文章の代わりに音譜を、非情を嘆く声の代わりにメロディーを与えてくれた。

   (中略)
  音楽という素晴らしい武器を与えてくれた。
  そして今、君もその武器を手にしている

 引用がちょっと長くなりましたが、これは理不尽な悪意にさらされる香月遥に岬洋介が諭した言葉。こういうのが出てくるってとこが単なるスポ根じゃなくってブラックジャクウかなぁ。

 とにかく、すんごく面白い小説です。もっと早く読んどきゃよかった。
 でも、最後のどんでん返しでブラックジャックの第1話もってくるか!!(*8)


《脚注》
(*1)一時はクラシックにはまってた
 本を読みながらかけっぱにするというふざけた聴き方です。クラシックファンの方、すいません。
(*2)このミス大賞
 ”このミステリーがすごい! 大賞”の略。創設メンバーが宝島社ってのはわかるんですが、電機メーカーのNECと光ディスクを受託製造会社のメモリーテックが入ってる自体がミステリー。浅倉卓弥の”四日間の奇蹟”や海堂尊の”チーム・バチスタの栄光”、乾緑郎の”完全なる首長竜の日”(映画版は”リアル?完全なる首長竜の日?”)なんて話題作を出してるんですが、読んでないな~。読んでるのは岡崎琢磨の”珈琲店タレーランの事件簿”ぐらい。昨日3巻買ってきたので次に読みましょう!(いずれも宝島社より発刊)
(*3)エースをねらえ!(山本鈴美香、集英社他)
 テニスの強豪校、県立西高テニス部に入部した岡ひろみが、宗方コーチの指導の元いじめや苦難にめげずに一流テニスプレーヤーに成長するという女性版スポ根漫画。連載は1973~75年ですが、このころの少年少女はこの漫画の影響でテニスを始めたモンです(どうもうちの奥様もそうらしい?!)
(*4)お蝶夫人や藤堂さんはいないけど音羽さんはいるし
 ”お蝶夫人”はひろみの先輩でテニスの実力と美貌を誇る正真正銘のお嬢様。そんな高校生はおらんぞ! と突っ込んじゃいそうなスーパーレディ。藤堂さんは生徒会長にしてテニス部副キャプテンというひろみの憧れの人。私も高校時代は生徒会長をやってましたが、月とスッポンぐらい差がありましたね~~
 ひろみにいろいろいじわるする敵役が音羽さん。ある年代のお嬢様方には”音羽さん”というだけでわかるというメジャーな存在です。ちなみに”音羽”というのはエースをねらえ!が連載されていた”週刊マーガレット”の出版社”集英社”のライバルだった”講談社”の所在地です。
(*5)アリの足
 第54話。小児麻痺(ポリオ)に苦しむ少年が、自分と同じように手足の不自由な子供が歩いて旅をしたというブラックジャックを手術した本間丈太郎医師の本に感動を受けて自分も同じコースをたどる旅をするというお話。(秋田文庫版 第1巻に収録)
(*6)精神的な理由で指が動かなくなるエピソードがあります
 治療中の医師の不用意な発言から指が動かなくなるとか(第201話 ”20年目の暗示”秋田文庫版 第15巻に収録)、子供の頃のトラウマから気胸の手術中に痙攣を起こすとか(第71話”けいれん” 秋田文庫版 第11巻に収録)
(*7)魔法使い
 なんで、香月遥は”魔法使いの弟子”ですが、これってデュカスの”魔法使いの弟子”思い出しますね。ディズニーのアニメ”ファンタジア”でミッキーマウスがほうきに水汲みさせて大騒ぎになるので有名な曲です。こういったクラシック好き向けの小ネタがちりばめられてるのもお気に入りです。
(*8)ブラックジャックの第1話もってくるか!!
 ”医者はどこだ!”より。内容なネタバレになるので、ぜひオリジナルを読んでください(秋田文庫版 第1巻に収録)

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