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ねむりぐすりはうわごと謂うと申すから、それが怖くってなりません(儚い羊たちの祝宴/外科室/ケシ)

 ども、自分の寝言って聞いたことはないおぢさん、たいちろ~です。当たり前です。
 学生時代ですが、テントで泊まっていた時に”夜中にいきなり笑い出してましたが、どうしたんですか?”って聞かれたことがあります。夢を見てた(んでしょうが)記憶もないし、身に覚えがなかったんですが、どうも”寝る”という行為は人を無防備にするようです。
 まあ、夜中に笑いだすぐらいは”不気味だ”ぐらいで済みますが(まあ、ハタ迷惑ではありますが)、これが犯罪行為や浮気の告白となると話は別。
 ということで、今回ご紹介するのはそんな寝るとヤバイ人のお話”儚い羊たちの祝宴”&”外科室”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。清水公園で見かけたポピーです

3303037


【本】儚い羊たちの祝宴(米澤穂信、新潮文庫)
 孤児だった”村里夕子”は丹沢家の令嬢”丹沢吹子”に仕えるメイドとなった。長じて美貌、教養にあふれる娘となった吹子は大学で”バベルの会”という読書会に入会する。まもなく夏合宿を控えたある日、勘当となった丹沢家の長男が狂乱し惨殺するという事件が発生した。その翌年、また翌年と長男の命日に親類の女性が惨殺されという事件が起こるにおよび、夕子はある疑問を持つ。ひょっとして私が夢遊病で寝ている間に二人を殺してしまったのではないかと・・・ (身内に不幸がありまして)
 2015年度”満願(*1)”でミステリ3冠を獲得した米澤穂信の短編集
【本】外科室(泉鏡花、岩波文庫他)
 貴船伯爵夫人。秀麗な夫人は病をえて手術を受けることとなった。外科室の手術台に横たわる彼女は麻酔をかけられることを頑として拒否する。執刀医の高峰は麻酔をかけずに執刀を始める。夫人が麻酔を恐れたその訳は・・・
 幻想文学作家”泉鏡花”によるロマンティシズム初期の短編。
【花】けし(芥子)
 ケシ科ケシ属に属する一年草。ケシでややこしいのは英語で”poppy(ポピー)”というとヒナゲシ(Corn poppy)のことで、日本でいうケシは”Opium poppy アヘンケシ”。Opium poppyからは麻薬のアヘン(阿片)が生産できますが、あへん法で栽培が禁止されてますので、かなりヤバイ系の植物です。
 花言葉は”慰め”、”妄想”、”忘却”、”眠り”など


 推理小説やドラマなんかを見てますと、夢にうなされる犯人ってのが出てきます。”俺の空 刑事編(*3)”では、夢うつつでうなされる犯人に対し、殺された刑事のそっくりさんを使って自供に追い込むなんてネタもありましたねぇ。
 ことほどさように、寝てる時ってのは精神的にも無防備になるようです。で、心に秘密がある人は”寝言でなんか言っちゃうとヤバイ!”って心理があるようで。この秘密が”殺人”だったり”浮気”だったりするとちょっと厄介なことになります。
 まずは殺人ネタということで”儚い羊たちの祝宴”から。犯人の殺人の動機が”寝言で私の秘密を口走ってしまわないか? それを防ぐには寝言を聞かれない状況を作るしかない”ってもの。まあ、動機としてはかなりユニークな部類に入るでしょうな。で、その秘密ってのはひとつは殺人、もうひとつは”秘密の本棚を知られたくない”ってのです。しかも殺人ってほうが副次的で本棚の方がメインってのもすごいです。
 よく”本棚は人格を表す”的なことを言いますが、確かにその人の本棚を見るとまあ傾向(性癖?)がわかるかと。犯人の読書が横溝正史や江戸川乱歩、谷崎潤一郎に志賀直哉で、これで”悪趣味”あつかいですがら、BLを隠す腐女子とはレベルが違います

 この犯人が恐れているのが毎日訪れる茫然自失の時間、すなわち”眠り”です。眠ってるうちに途方もないことや、本心を口走ってしまわないか、起きだして取り返しのつかないことをしてしまわないかと恐れてます。
 で、この犯人の恐怖の原因を教えたのが泉鏡花の”外科室”

  それをわたしに教えたのは、一冊の本。一篇の、短編だった
  一言一句を諳んじることもできる。泉鏡花の『外科室』
  自失の内に漏れ出るかもしれないうわごとを、死よりも恐れる婦人の心性は、
  わたしにとってただの観念ではなかった。
  あれを読んだその日から、わたしは、夜の自分を誰にも見られない場所に
  閉じ込めることを希求した。壁に厚みを、部屋に鍵を望んだのだ

 ここまでくると強迫神経症(*4)じゃないかと思っちゃいますが、なんだか眠りと妄想のお題ってケシみたいだな~と(外科室の方は麻酔薬の話だし)

 ということで”外科室”も読んでみました。
 ストーリーは上記の通りですが、なんとも鬼気迫るものがあるんですな。手術を受けるのに麻酔薬を使おうとする看護婦に対する夫人の描写

  このとき夫人の眉は動き、口は曲がみて、瞬間苦痛に堪えざるごとくなりし。
  半ば目をみひらきて
  「そんなに強いるなら仕方がない。私はね、心に一つの秘密がある。
  痲酔剤(ねむりぐすり)は贍言(うわごと)を謂うと申すから、
  それがこわくってなりません
  どうぞもう、眠らずにお治療ができなようなら、
  もう快らんでもいい、よしてください

言っときますが、これって胸部切開手術ですよ!
 夫人の決意も大したものですが、執刀医の高峰も大したもの。夫人の要望にこたえてホントに麻酔なしで手術をしちゃいます。手術でメスが骨に達した時

  夫人は俄然器機のごとく、その半身を跳ね起きつつ、刀取れる高峰が右手の腕に両手をしかと取り縋りぬ
  「痛みますか」
  「いいえ、あなただから、あなただから」

    (中略)
  医学士は真蒼になりて戦きつつ「忘れません」
  その声、その呼吸、その姿、その声、その呼吸、その姿
  伯爵夫人はうれしげに、いとあどけなき微笑を含みて高峰の手より手をはなし、
  ばったり、枕に伏すとぞ見えし、唇の色変わりたり
   そのときの二人が状(さま)、あたかも二人の身辺には、
  天なく、地なく、社会なく、全く人なきがごとくなりし

 別に二人がドロドロの不倫関係って書いてあるわけじゃないんですよ。むしろ9年前に公園で見かけたとかしか書いてないんですが、それでもこのプラトニック。現代の小説ならこっちも神経症扱いされそうですが、そこは明治28年の小説。泉鏡花の手によってロマンチシズムあふれるお話になってます。
 深窓のご令嬢(死語?)ならはまっちゃうんでしょうなぁ


《脚注》
(*1)満願(米澤穂信、新潮社)
 主人を殺した妻の動機、交番勤務の警官が発砲したわけ、取材に来たフリ-ライターを襲った不幸・・・ 6つの殺人事件を巡る短編集。
 ”このミステリーがすごい!”、”週刊文春ミステリーベスト10”、”ミステリーが読みたい!”で第1位。他にも山本周五郎賞受賞、直木三十五賞候補、”本格ミステリ・ベスト10”で第2位と受賞だらけの本。
 この前読んだとこだけど、時間がなくてブログ書けなかったんだなぁ。書いてりゃアクセス数が稼げたかもしれんのだが・・
(*2)夢
 FFJのhpによると、花言葉が”夢”なのは他にアメリカデイコ、ヒョウタン、ゼンマイ、シダなんってのが載っています。花言葉に合理性を求めるのはなんですが、このバリエーションはいったいなんなんだ?!
(*3)俺の空 刑事編(本宮ひろ志、集英社)
 日本最大の財閥”安田グループ”の跡取り息子”安田一平”が知恵と財力を使って犯人を追いつめるという漫画。筒井康隆の”富豪刑事”(新潮文庫)や、”謎解きはディナーのあとで”(小学館文庫)”といった金持ち刑事の系譜の1冊。さすがに大財閥の息子だけあって死体発見のためだけにアメリカの超高層ビルを買っちゃうわ、私財で私設警察を作っちゃうわとハンパない金使い。社員はたまらんだろうなぁ
(*4)強迫神経症
 同じ行為を繰り返してしまう”強迫行為”と、同じ思考を繰り返してしまう”強迫観念”を併発すると”強迫性障害(強迫神経症)”と診断されるそうです。強迫症状はストレスにより悪化する傾向にあるそうで、犯人の場合は”良い子”でいることを強いられて発症してます。


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