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2014年7月

”隠逸の志”いいな~ とっとと年金もらって晴耕雨読の毎日を送りたいものです(光圀伝/水戸黄門像)

 ども、会社では人畜無害なおっさんキャラで通っている(はず)のおぢさん、たいちろ~です。
 人は多かれ少なかれ後天的なキャラのイメージってのに左右されます。ヴェートーヴェンってななんだか難しそうな人っぽいし、芥川龍之介は苦虫かみつぶしたようなおっさんだし、三島由紀夫は筋肉ムキムキで”愛国ニッポン”ってな存在だし。まあ、教科書だのニュースで紹介される映像によるところが大きいんでしょうが、テレビドラマによるものもあるでしょう。その典型が”水戸黄門”こと第2代水戸藩主”徳川光圀”。白髪に白髭、杖をつきつき全国を漫遊する好々爺ってイメージです。まあ、誰が演じたかというより(*1)、誰が演じても同じフォーマット。ですが別に黄門様だって木の股から生まれたわけじゃなく若い時もあるわけです。
 ということで今回ご紹介するのは、そんなイメージをま~~ったく無視した黄門様の物語”光圀伝”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。上はJR水戸駅前の黄門様ご一行の像、下は偕楽園千波湖の黄門様像です。

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【本】光圀伝(冲方丁、角川書店)
 ”なんで、おれなんだ?” 優秀な兄を差し置いて世子(跡継ぎ)となった水戸藩初代藩主”徳川頼房”の三男”徳川光圀”。そんな懊悩をかかえつつ学問、詩歌の才能を開花させる光圀はやがて二代目藩主となり”大日本史”の編纂に乗り出す・・・
 ”マルドゥック・シリーズ(*2)”の冲方丁による徳川光圀の生涯を描いた歴史小説。
【人物】水戸黄門像
 NAVERまとめによると水戸市内に水戸黄門像は8体あるんだそうです。
  ”黄門”というのは中納言の唐名で、徳川光圀が権中納言となったのは63歳の時ですから黄門様の像がぢぢいなのは正解。でもなぜだかみんなテレビ版のイメージなんだよな~


 全部で700ページを超える本なので、まあ、気にいった人物から。

〔読耕斉〕
 若こぼき日の光圀が論破合戦を挑んでボコボコにされながら、酔っぱらって反吐を吐きかけられイーブンになったという友人(どんな友人や?!) その正体は林羅山(*3)の子息にして英才。
 本書では「音の響きが”独行”、”独耕”に通じ、隠者然とした潔白さと若者らしい意気盛んな有様が、ともに字面から感じ取られる」と評してますが、むしろ”晴耕雨読”じゃないかなぁ
 名前がそれっぽいせもあってか志望が”隠者”。読耕斉と光圀の会話

  読耕斉:もしおれが二人のように西山にいけたなら(*4)、
      それこそ荘子のように志のままに遊んで暮らしただろう
      これぞ、隠逸の志だ
  光圀 :隠逸を志と呼ぶか
       (中略)
  読耕斉:それがおれの志だ。
      兼好法師のように庵に隠れ、
      あるいは一休禅師のように碧空夜天を屋根として暮らし
      世を離れて真実の聖賢の道を求められたなら、
      どれほどこの心も清々とすることだろう

 いいな~、こういうの。私もとっとと年金もらって晴耕雨読の毎日を送りたいものです。 もっとも、こういうのは自他共に認める才能の持ち主がいうからかっこいいんであって、凡人が言えば単なる引きこもり希望なんでしょうが・・・

〔左近〕
 光圀の嫁”泰姫”の侍女として水戸家に入った女性。笑顔を見せたことがないという怜悧な美貌の少女で、博識と冷静な判断力、観察力を兼ね備えたクール&ビューティ。精神的な意味で光圀がもっとも信頼をよせる人の一人。後の”左近の局”。数多の交際希望の男たちをよせつけず、生涯独身を貫き、光圀の最期をみとるという役どころ。好きですね~ こういう女性って!
 ”光圀伝”は主に光圀の視点で書かれていますが、左近の視点で光圀を描いても面白いかも

〔藤井紋太夫〕
 光圀に仕える小姓。少年時代より優秀で、のちに三代目藩主の”綱條”の大老となり最後には光圀に刺殺される人。テレビや講談では悪役らしいですが本書ではそんなに悪い人にはおもえんな~ まあ、光圀が晩年に強烈なしっぺ返しを食らったのは確かですが。
 ネタバレになりますが、そもそも”光圀”の大義を10倍返しにしたような”大政奉還”を企図した人ですが、水戸学ってのはそういう側面を内包しているようで、明治維新の原動力となったのも水戸学。
 ”風雲児たち”(みなもと太郎 SPコミックス)”の中で、東照宮の建立を持って自らを神格化し体制の安定を図る徳川家康に対し、尊皇攘夷にかぶれる光圀をアホの子扱いするってのがありますが、視点を変えるといろんな見方ができるもんですなぁ

〔水戸光圀〕
 気にいった人というより、まあ主人公ですので。
 なんつっても、固いんだこの人。ありあまる文才と知性がありながら大義がどうの藩の事業がどうのと。まあ為政の最高責任者なので当たり前っちゃ当たり前ですが、もうちょっと肩の力を抜いて生きたってようさそうなもん。だからこそ読耕斉に憧れる面もあるのかも。
 そんな光圀ですがおちゃめな言葉。庶民から称賛されてるのを知っての一言

  あれは、余ではない。彼らの心に生まれた、別人だ

 後の世で、全国漫遊世直し旅(*5)をやってる自分の姿を見せられたら同じこと言いそうだよな~~

 ”光圀伝”は、テレビの水戸黄門とはまったく違う”水戸光圀”の話。ってか年表を見る限りこっちのほうが史実に近いようです。史書ってか伝記モノとしてはけっこう面白かったです。でも、冲方丁ってこっち方向の作家になっちゃうんかなぁ。SF作家としても稀有な人なんだけど。

《脚注》
(*1)誰が演じたかというより
 まあ、足掛け42年続いたナショナル劇場が定番でしょうが、おぢさん世代だと初代の”東野英治郎”でしょうか。西村晃はなんとなく悪役のイメージ強いし、石坂浩二は男前すぎるし、里見浩太朗は助さんっぽいしなぁ。
(*2)マルドゥック・シリーズ
 賭博師シェルにより少女娼婦バロットは瀕死の重傷を負う。彼女は捜査協力と引き換えに禁断の科学技術により優れた身体能力と電子機器を触れずに操作する能力、そして万能兵器のネズミ”ウフコック”を得る。(マルドゥック・スクランブル 圧縮)
 ”光圀伝”や”天地明察(角川文庫)”から冲方丁を読みだした人にはついていけんノリだろうな~~
(*3)林羅山
、江戸時代初期の朱子学派儒学者。徳川家康のブレーンの一人として徳川幕府の制度(士農工商の身分制度)の正当化などを行った人らしいです。
 wikipediaには”徳川時代の最初のエンサイクロペディスト”って記載がありますが、だったら水戸藩は”ファウンデーション”でしょうか?
(*4)二人のように西山にいけたなら
 二人とは孤竹国の王子王位を兄弟で譲り合い隠者となった伯夷(はくい)と叔斉(しゅくせい)のこと。本書では光圀の後継者問題での手本となっている故事です。
(*5)全国漫遊世直し旅
 実際の光圀は日光、鎌倉とか遠くてもせいぜい熱海ぐらいまでしか訪れたことがないんだそうです(wikipediaより)。実際に全国を飛び回ってたのは水戸黄門で助さんのモデルとなった佐々介三郎(宗淳)達。まあ、部下にはいろいろやらせてみとくもんですね。

呪いは既に術者の手を離れて、それ自身が意思を持つようになった・・・(魔女は甦る/カラス)

 ども、一時期ハーブ作りにはまっていたおぢさん、たいちろ~です。
 あれば料理にいろいろ使えるだろうってことで、ローズマリーやらセージやらディルやらフェンネルやらマジョラムやらと手あたり次第に植えてみました。でもまあ、考えてみりゃけっこう大きく育つわりには料理に使うのは少量なわけで、結局残ったのはシソ、山椒、バジルぐらいです(*1)。
 この手のものを作っている分には趣味の園芸の世界ですが、これが脱法ハーブとなりゃ話は別(*2)。さすに”ハーブ”って名前がやさしすぎるのか呼び方を見直す動きが出てるようですが、これは麻薬の一種なんでしょ! こんなもん摂取して精神がアジャパ~な状態になるようなモンを使って車の運転なんかしちゃいかん訳です。
 ということで今回ご紹介するのは、”脱法ハーブ”どころじゃないアブナイ薬の出てくるお話”魔女は甦る”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。舎人公園にいたカラスです。
(花の写真を載せたかったんですが、さすがに、麻薬系の植物の写真なんかもってませんので・・)

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【本】魔女は甦る(中山七里 幻冬舎文庫)
 製薬会社の”スタンバーグ社”の研究員”桐生隆”が肉片となった死体になって発見された。埼玉県警の”槙畑啓介”らは捜査を始めるが、研究所は2ケ月前に閉鎖され会社からは立ち入り検査さえ拒否、研究所員らの消息すらつかめない状態だった。また、桐生の死の原因を追う彼の恋人で薬科大学生”毬村美里”の存在が・・・
【動物】カラス(烏、鴉)
 スズメ目カラス科の総称。鳥類のなかでも最も知能が発達しているんだそうで、ある程度の社会性を持って協力したりするんだとか。
 カラスのイメージっていうと良いモンと悪いモンの両極端のようで、前者が神武天皇の東征に登場する”八咫烏(やたがらす)”や、ノアの洪水で最初に放たれたのが鴉とか。後者は悪魔や魔女の使い魔など。


 ハーブの効用ってのは、胃腸の調子を整えたり利尿効果があったりお肌に良いといういわゆる”薬”に近いものから、気分を落ち着かせリラックスさせるというのもあります。つまり精神に作用するってとこだけで括ると、違法だろうが合法だろうが脱法だろうが同じ。じゃあ何が違うかというと効果が社会生活において良い方向に向かうかヤバイ方向に向かうかと、効果が極端に走るかどうかということ。心をリラックスさせるのは良い方向だし、ハーブティーをがぶ飲みしたって暴れまわることはないでしょうが、麻薬みたく正常な判断を無くして車で暴走するなんてのは悪い方向。
 ところがやっかいなのが、悪い方向が必要とされるような状況ってのがあるワケでその最たる例が”戦争”。つまり殺人を犯す禁忌の判断能力を奪って、恐怖に対する感覚を無くした、つまり”攻撃本能”を拡大した兵士ってのはまあ、求められるワケです。
 ネタバレになりますが、こんなことができる”ヒート”ってのが本書に出てくるスタンバーグ社の開発した薬で、これをめぐって桐生隆バラバラ殺人事件やら嬰児誘拐事件が発生するのが本書のストーリーです。

 で、この手の薬のもう一つの問題点ってのは、コントロールが効かずに暴走し始めること。正常な判断能力を失うってことは服用した人そのものがコントロールできない状態になるわけですが、それが社会に与える影響もまたコントロールできなくなるってコトです。槙畑啓介が毬村美里に語った言葉

  これは現代に甦った魔女の物語だ
  人間不信に陥っていた○○という魔女の末裔が、
  その怨念から人の世に災いを為すような呪いをかけてしまった
  途中で気が変わって呪いを解除しようとしたが、
  呪いはすでに術者の手を離れて、それ自身が意思を持つようになった・・・
  人が憎悪の呪縛から逃れられない限り、魔女はいつでも何度でも甦る

 まあ、憎悪だけでなく銭儲けなんかもあるんでしょうが、思惑を外れて制御できなくなった状況てのはだれも幸せにしないんでしょうねぇ 麻薬やドラッグの恐ろしさってのはまさにここにあるんじゃないかと。
 本書ではこれに”カラス”の暴走までからんできて謎が謎を呼ぶ状況に・・・

 しかし、作者の中山七里って本書や”連続殺人鬼 カエル男(*3)”みたいな救いのない話もあれば”岬洋介シリーズ(*4)”みたいに音楽を通じて癒しのある推理小説もありと両極端な資質の持ち主なんだな~~ どっちかこの人の本質に近いんだろう?
 最近この人の作品はまっててて、暴走ぎみに読んでます。ひょっとして中毒?!
 面白い本ですので、ご一読のほどを

《脚注》
(*1)シソ、山椒、バジルぐらいです
 シソはシソジュースに、山椒は新芽をおすそわけ。バジルはオリーブオイルと混ぜてジェノベーゼソースにして、こちらもおすそ分け。まあ、使いでと保存がきくかどうかで残ったっててこでしょうか。
(*2)脱法ハーブとなりゃ話は別
 ”脱法ハーブ”ってのは、合成カンナビノイド(マリファナなどの主成分)を含んでいる薬物の中で法律の取締りの対象外のもの。つまり法の規制が追いついていないだけの麻薬なんでしょ?
 ちなみに合法、違法を問わず正常な運転が困難な状態やその恐れのある状態で車を運転して人を死傷させると”危険運転致死傷”に問われるそうです。
(*3)連続殺人鬼 カエル男(中山七里、宝島社文庫)
  口にフックをかけられ全裸で吊るされた死体。これが飯能市連続殺人事件の始まりだった。”きょう、かえるをつかまえたよ”という幼児性を持った犯人はマスコミから”カエル男”と名付けられた。埼玉県警捜査一課の渡瀬警部と若手刑事の古手川は捜査に従事するが犯人の手掛かりは杳として知れず、警察への不信はつのる一方だった・・・
 詳しくはこちらをどうぞ。
(*4)岬洋介シリーズ
 若手ピアニストであり、名探偵でもある岬洋介を主人公としたシリーズ。
  さよならドビュッシー、おやすみラフマニノフ、いつまでもショパン
 要介護探偵の事件簿(ともに宝島社)
 いずれも面白いので、ご一読のほどを

つまんね~ はけなしていますが、くっだらね~はホメ言葉です。たぶん(南極/葦(あし))

 ども、さすがに後頭部の髪の毛がささやかになってきたおぢさん、たいちろ~です。
 なぜこれに気がついたか言うとか、私んちのエレベーターに監視カメラとモニターがついてるんですね。ちょうど後ろ頭が映る位置にカメラがあって、入り口横にモニターが付いていて、それはもうバッチリ!
 まあ、多かれ少なかれおぢさんってのは歳をとればハゲてくるのは自然の摂理ですが、いっぽうそれを隠したいと考える人はいるわけで。典型的なのは頭頂部から額にかけてすっかりつるっと禿げ上がっているのに、後頭部に僅かに残存する毛髪を伸ばして前に回し、前髪に見せかけるべく垂らしている、俗にいう”簾禿げ(すだれはげ)”。そういや”バーコード禿げ(*1)”って言い方もあったな~
 ということで今回ご紹介するのは、そんな簾禿げのおっさんの物語”南極”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。
川崎マリエンにあった葦(あし)と簾(すだれ)を作る道具です。

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【本】南極(京極夏彦 集英社)
 人気ミステリー作家”大握寿司昌”の別荘で子供の幽霊やらタケノコを煮る婆ァが出るらしい。売れない小説家”赤垣廉太郎”は小説シュバルの鬼編集長”椎塚有美子”の依頼(命令? パワハラ?)を受けて除霊をするハメに。しかも毒マッスル海胆(海胆)のマー君と一緒に。別荘を訪れた一行の前に、椎塚の天敵である文芸評論家”北極星ヒカル”が除霊対決をするために立ちはだかる・・・
 (毒マッスル海胆ばーさん用米糠盗る)
 史上最低の売れないカス作家、簾禿げこと”南極夏彦”を主人公とした(主人公か?)連作集。
【花】葦(あし)
 。イネ科ヨシ属の多年草。簾(すだれ)や舟を作ったり(*2)なんかに使います。
”あし”が忌み言葉”悪し”といくことで別名は逆の意味の”よし(良し)”。なんで簾のことを葦簀(よしず)とも言います。


 さて、上記のあらすじ説明に登場しない”南極夏彦”とは何者か? 実はこの人、先日読んだ”どすこい(*3)”に収録されてる”すべてがデブになる”に登場するダメな小説家。最初のころは単なるダメな小説家だったのが、後半になると悪口雑言罵詈讒謗を一手に引き受ける史上最低のホームレスに。最後にはとうとう妖怪扱いです。
 これに合わせるように、不運の編集者から編集長に出世した”椎塚有美子”もパワーアップ。パワハラに言葉いぢめ、暴力のキレのスルドさはもう少年ジャンプ的パワーインフレ(*4)の世界です。
 で、本作から登場した”北極星ヒカル”こと”大森望”。宍道湖鮫”で登場した時はかわいいけど頭悪そうな女子高生で、後半からは有美子達をおちょくりまくる新進気鋭の美人書評家。パワーアップした有美子とタメはれるというかほとんどコブラ対マングースというか竜虎相打つというか

 てな風に書いてますが、内容は一言でいうと”くっだらね~~~~”。題名は有名な推理小説やホラー小説のパロディ、登場人物は有名作家の名前のもじり、マンガの名言満載と、ど~しようもない話。でも、これがとんでもなく面白いんダよな~~ いや、コトの良し悪しじゃなく、くだらなさも突き抜けると名作になるという。漫才の世界で”笑われるのと、笑わせるのは違う”なんてこと言いますが、まさにくだらないことを意図的に、かつ小説でやるって大変みたいですな。本書で掲載されてる赤塚不二夫とのコラボ”巷説ギャク物語”の中で”荒唐無稽なのと漫画的なのは同義ではない”てなことを言ってますが、確かに小説という文字の世界でこの手のノリをやるのはたいへんなんだろ~な~

 しかし、あの京極夏彦がこんな作品を書くとはね~ しかもノリノリで。でも理屈言いの京極らしいのもあって、これは妖怪研究家らしい言葉。”毒マッスル海胆ばーさん用米糠盗る”で、だれかれ構わず祟る”貞○”っぽいネタへのつっこみ

  まあ、とりあえず怨みはあるんだろうが、怨みを晴らす訳ではなく、
  誰彼かまわず八つ当たりするのだ、最近の幽霊は。
  もう通り魔か無差別テロである

   (中略)
  もし、幽霊を捕まえたとして、犯行動機を尋問できたとしても、きっと犯行の理由は   「あのー、別に誰でもォ、良かったんですよォ。
    なんかぁ、自分だけ不幸ってのはぁ、納得いかないつうかぁ
    ドイツもコイツも道連れってゆうかぁ」
  ってな具合なのだ。

言われてみると、昔の怪談って理不尽な理由で殺された怨みで化けて出る、だから祟られる人が特定できてて、道徳的には”だからそんなこと止めようね”みたいな説話的な側面がありましたが、最近はね~。まあ、街中でナイフ振り回したあげく”誰でもよかった”みたいな犯人だとか、脱法ハーブ吸って車で歩道を暴走するとか理由にならない理不尽があるからなー、リアルで。

 もうひとつは、憑き物落としの”京極堂”らしい一言。同じく”毒マッスル海胆ばーさん用米糠盗る”より。除霊する廉太郎に対する有美子の言葉。

  いい? 除霊だの憑き物落としだのってのはね、パフォーマンスなのよ
   (中略)
  だからね、演出が大事なのよ。
  呪文だの呪具だの、そういう決めゼリフやら持ち道具やらというのは、要は演出。

   (中略)
  だから、専門も蜂の頭もないの。使い手の腕次第、技量次第でどうにでもなるもんなのよ
  鰯の頭も信心からとはそういう意味なのよ

 ”詳しいっすね、椎塚さん”という廉太郎の質問に有美子の答え

  中野の古本屋のお爺さんに聞いたのよ(*5)

どうも、京極堂もご健在のようです。

 ”南極”はどこからどう読んでもくっだらない本。でも、これって最大級の賛辞ですから。だから私に祟らんで下さい・・・
 本に為になることを期待するとか、文学は人生を考えるためにあるとか言ってる頭の固い人意外はぜひご一読のほどを。


《脚注》
(*1)バーコード禿げ
 昔、この手の禿げに若い女性が”そこのバーコード!”って怒鳴りつけるってCMがあったな~ 調べたんですけど何のCMかわかんなかったんですが、どなたかご存知ありませんか?
 ちなみに、上記の簾禿げの文章は本書からの引用。だから私を責めないでください。
(*2)舟を作ったり
 ”古事記”にイザナギとイザナミの最初の子供”蛭子”(ヒルコと読みます、エビスではないです)が葦の舟に入れて流されるという話があるそうな。リアルでやったら間違いなく保護責任者遺棄罪。神話って怖い・・
(*3)どすこい(京極夏彦 集英社)
 ”地響きがする―と思って戴きたい”という出だしで始まる力士パロディ小説集。妖怪系推理小説の第一人者、京極夏彦が”僕だってたまには書きたいよギャグ”というだけで書いた本。何があったんだ、京極夏彦!
 詳しくはこちらをどうぞ。
(*4)少年ジャンプ的パワーインフレ
 敵や味方の強さが急激に高まる”パワーインフレ”、武術の達人を決める大会からいつの間にか地球の命運をかけた戦いになっちゃった”ドラゴン・ボール”とか、中学生のボクサーがいつのまにか、ど~みてもそんなパンチはできね~だろ~というスーパーブローで神様がどうしたこうしたの話になっちゃった”リングにかけろ”とか、喧嘩自慢の集まる高校がいつのまにかそりゃ間違いなく死ぬわな的な戦いをやってる”魁!!男塾”とか。
 ネタが古くて申し訳ない。なんせさすがに最近は少年ジャンプ読んでないんで・・
(*5)中野の古本屋のお爺さんに聞いたのよ
 京極夏彦の”百鬼夜行シリーズ”の主人公でしょう、間違いなく。
 このシリーズは本が分厚いので有名ですが、どうも原因は有美子の発言にありそう
  いつだって、中々本題に入らないのよ。
  無駄な部分こそが小説だと思ってるのよ、きっと

人類滅亡テーマのSFに”少子高齢化系”ってのもありでしょうか?(イン・ザ・ヘブン/黄昏)

 

えっと、あとがきです(*1)
 すいません、間違えました。2人の子持ちのおぢさん、たいちろ~です。
 図書館で新井素子の新作をめっけたんで読みました。けっこうこの人の作品ファンなんでだいたい読んでたんですが、この本出てたの知らなくて。なんでも33年ぶりの短編集だとか。読みだすとかつての新井文体そのままでやっぱしいいな~とか思ってましたが、中身は油断してましたね~ なんたって少女同士の会話だと思ってたらなんと80代と50代の女性同士。で、読み進めるとこれって人類滅亡の物語?!
 ということで今回ご紹介するのは、そんな新井素子のファンタジ~っぽいSF小説”イン・ザ・ヘブン”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。黄昏時の富士山。丹沢山系塔ノ岳山頂付近にて

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【本】イン・ザ・ヘブン(新井素子 新潮社)
 余命少ない今日子さんにこう尋ねられた。
  ”ねえ、史子ちゃん、天国ってあると思う?
 答えにこまった私は、天国では自分の好きな歳になれるとか、小さい時に死んだ子供を育てる”天国互助会”があるとか、物故作家による天国図書館(*2)とか、今日子さんを励ますお話をいっぱい考えた。
 やがて今日子さんの心臓の鼓動が止まる時、若き日の旦那さん”ノリさん”が現れ・・・
(イン・ザ・ヘブン)
【自然】黄昏(たそがれ)
 夕方。wikipediaでは”日没直後の雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯”だそうです。このイメージから”盛りを過ぎて終わりに近づこうとする”の比喩に。”神々の黄昏(*3)”なんかです。


 さて、SFファンにとって、人類滅亡テーマってのはメインストリームのネタです。これを滅亡する原因別に分類すると、

〔宇宙人が攻めてくる系〕
 別名、”侵略モノ”。それこそ”宇宙戦争”から始まって”宇宙戦艦ヤマト”だの”宇宙の戦士”だの”エンダーのゲーム”だの作品てんこもり。このジャンルでの最大の謎は近場の火星人ならいざしらず、なんでわざわざ14万8千光年の遥かかなたから攻めてこにゃならんのだ?

〔訳のわからんモノが攻めてくる系〕
 代表例が”新世紀エヴァンゲリオン”。使徒という訳のわからん生物?が攻めてきて、ジオフロントにいるリリスと接触するとサードインパクトが起きるという設定。まあ起爆装置みたいなもんでしょうか?

〔隕石が落ちてくる系〕
 ”ディープ・インパクト”(馬の名前じゃありません)や”アルマゲドン”など。なぜだかこの2本の映画は同じ1998年に公開されましたが、この年何かあったっけ? まあ、”ノストラダムスの大予言(*4)”の前の年ではありましたが・・・

〔コンピューターの反乱系〕
 コンピューターが自我をもってじゃまな人類を排除するってモノ。”ターミネーター”なんかがこれ。フランケンシュタイン・コンプレックス(*5)の代表例です。

〔パンデミック系〕
 致死率が高い病気が流行して人類が滅亡しかけるというもの。最近だと”天冥の標”とか。咬まれると伝染するという意味では、ゾンビ映画の”ワールド・ウォーZ”も広義ではこのジャンルかな?

〔核兵器系〕
 いわゆる核ミサイルが飛びまわって地球が滅亡するもの。確信的に発射ボタンを押すってより、きっかけは精神に異常をきたした指揮官の命令だった”博士の異常な愛情”とか、コンピューターがかってに戦争始めちゃった”火の鳥 未来編”だったり。
 だいたい戦争なんて相手の国のリソース(地下資源、農工業生産物、人、土地)を利用したいわけであって、人も住めないような土地を占領したってしょうがないワケで・・

 まあ、書き出すときりがないですがここにきてちょっと気になるのが”少子高齢化系”としか言いようのないのがでてきてること。(ここからが本題です。前置き長くてすいません)

 今回ご紹介の”イン・ザ・ヘブン”で描かれているのは超少子化、つまり出生率が急激に下がって=社会全体として子供が生まれなくなって、最後にはきわめて少数のお年寄りしかいなくなった世界。本書に掲載されている”つつがなきよう”も同様で人口が飽和してしまい衰退に至る世界です。
 ”少子高齢化系”の特徴って、明確な敵(宇宙人とか)や脅威(核兵器とか隕石とか)が不在で、長期的かつゆるやかに進行するとこ。少子高齢化の議論って、原因が経済的な理由(給料が安くて家庭が持てない)とか、社会的な風潮とか(結婚するより自由な独身)とか、子育て環境が弱い(待機児童が多い)とかいろいろ複雑に絡み合ってってしかも決定打がないような、連帯責任のノリだとか。それに今日明日ど~のこ~のという話ではなく何十年、百年単位の話なんで、なんとなくなっちゃったな~的なノリもあるし。

 それだけにこの系ってみょ~に達観したような明るさがありそうな気がします(いや、見方によっては悲劇的ではあるんですけど)。上記の”宇宙人が攻めてくる系”だの”隕石が落ちてくる系”ってのはそれを阻止するのに(あるいは滅亡の危機から立ち上がるのに)がんばるぞ!的なドラマがあるわけですが、”少子高齢化系”って”いろいろやってみたけどダメでした”みないにさらっと流れちゃってるような気がします。
 それだけに、責任者出て来い!みたいなノリじゃなくて、”長い間でこ~なっちゃったから、まっ、しょうがないか”みたいな空気かな。最近だと”人類は衰退しました”みたく、新人類”妖精さん”に”あとはよろしくね”って感じでとけっこう仲良く暮らしてく感じ。まあ、今更じたばたしたってしょうがないし、人類より優秀な種があればいいんじゃねってのはあんましなかったノリですね。

 SFってジャンルも社会から独立して存在してる訳ではないので、世相(冷戦、核戦争の脅威、世界的な疫病の流行、テクノロジーへの不信感うんぬん)を繁栄してはやりすたりはありそうです。そういった観点で見ると”少子高齢化系”ってのは今風なのかなぁ
 新井素子がこの系の名作”チグリスとユーフラテス(*6)”を書いたのは1996~98年。書籍になった1999年ってのは”少子化対策推進基本方針”だとか”新エンゼルプラン”なんかが策定された年。つまり、国家レベルでさすがにヤバイからなんかせんといかんと動き出した頃。まあ、十数年以上前の話ですからテーマとしてはなかったわけではないんですが、当時と切迫感が違うというかあんまし効果上がってないんじゃね? ってとこでしょうか・・・

 ”イン・ザ・ヘブン”はSFファンでなくても面白い本ですが、こんなことうだうだ考えちゃうってのは古いSFファンの性なんでしょうかねぇ。 ああ、これって”せい”じゃなくて”さが”ですから。


・宇宙戦争:H・G・ウェルズ 創元SF文庫
・宇宙戦艦ヤマト:西崎義展、松本零士 バンダイビジュアル
・宇宙の戦士:ロバート・A・ハインライン ハヤカワ文庫
・エンダーのゲーム:オースン・スコット・カード ハヤカワ文庫
・新世紀エヴァンゲリオン:庵野秀明、GAINAX キングレコード
・ディープ・インパクト:ロバート・デュヴァル、ミミ・レダー パラマウント
・アルマゲドン:ブルース・ウィリス、マイケル・ベイ ブエナ・ビスタ
・ターミネーター:アーノルド・シュワルツェネッガー、ジェームズ・キャメロン
         20世紀フォックス
・天冥の標:小川一水 ハヤカワ文庫
・ワールド・ウォーZ:ブラッド・ピット、マーク・フォースター 角川書店
・博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
     :ピーター・セラーズ、スタンリー・キューブリック ソニー・ピクチャーズ
・火の鳥 未来編:手塚治虫 小学館他
・人類は衰退しました:田中ロミオ ガガガ文庫


《脚注》
(*1)えっと、あとがきです
 初期の新井素子の本にでてくるあとがきの書き出し。現在は”あとがきであります”。往年のSFファンならこれ読んだだけで”新井素子だ!”とわかる有名なフレーズです
けっこう、このあとがき読みたくて新井素子の本読んだんだよな~
(*2)物故作家による天国図書館
 シェイクスピアや紫式部ら物故作家による新刊が納められてる図書館。読んでみて~
そういえば落語のネタに天国の寄席には名人上手が多数出演! ってのがあって、その看板を見た天国の新参者が”○○って、まだ生きてまっせ?”って質問に”横に書いてあるやろ、近日来演予定って”というブラックなのが。けっこう好きな笑いです。
(*3)神々の黄昏
 リヒャルト・ワーグナーの楽劇”ニーベルングの指環”四部作の四作目。ワーグナー好きでレーザーディスク買ったんだけどまだ見てないな~~ プレーヤー、まだ動くかな?
(*4)ノストラダムスの大予言
 ”1999年7の月、空から恐怖の大王が来るだろう”で有名な予言書。
五島勉が”ノストラダムスの大予言”(祥伝社)を執筆したのは意外と早く1973年。そのころはまだ先のことと思ってましたが、98~99年頃はマジなネタで盛り上がってましたな~~
(*5)フランケンシュタイン・コンプレックス
 神にかわってロボットや知性を創造するあこがれと、それに反乱を起こされるんじゃないかという不安がまじった感情のこと。命名はロボットSFの大家”アイザック・アシモフ”で、これへのアンチテーゼが有名な”ロボット工学三原則”だそうです。
(*6)チグリスとユーフラテス
 惑星ナインに移住した人類は原因不明の人口減少をたどる。最後に生き残った子供”ルナ”は話相手を求めてコールドスリープ装置で眠る人を次々に起こしていく・・
 1999年日本SF大賞受賞の名作

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