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君の音楽がいつまでもショパンの魂ともにあることを願う(いつまでもショパン/スパティフィラム・ショパン)

 ども、気にいったシリーズはすぐに一気読みしちゃうおぢさん、たいちろ~です。
 だもんで、今ハマっている中山七里の”岬洋介シリーズ”の3冊目”いつまでもショパン”を読みました。今回の話って、岬洋介がショパン・コンクール(*1)に登場するって話。前作でもピアノを弾くシーンはありましたが、どちらかというと先生の立場がメインでしたが、今回はピアニストとしての本領発揮です。根は推理小説なんで”ピアニスト”と呼ばれるテロリストの逮捕に協力するんですが、そんなことどうでもいいような圧巻の音楽小説です


写真はたいちろ~さんの撮影。
近所で見かけた”スパティフィラム・ショパン”です

P1050185


【本】いつまでもショパン(中山七里、宝島社文庫)
 岬洋介はショパン・コンクールに出場するためポーランドに来ていた。しかし、ポーランドでは“ピアニスト”というテロリストによる事件が頻発していた。コンクール会場で刑事が殺害され、遺体の指十本がすべて切り取られるという事件が発生、会場周辺では爆弾が爆発し岬と知り合いになった少女が巻き添えになる。一方、ファイナリストとしてコンサートに臨む岬洋介の身にも異変が・・・
【花】スパティフィラム・ショパン
 スパティフィラム属はサトイモ科の属の一つ。写真では緑っぽいですが花を包む部分(仏炎苞)が白くなると”水芭蕉”にそっくり。それもそのはずで”水芭蕉”は同じサトイモ科のミズバショウ属になります。
 ”ショパン”は商品の名前ですが、”水芭蕉”も”夏の思い出(*2)”が思い出されるぐらい音楽のイメージが強いんで、この花もそうなんでしょうか?
 今回は名前つながりだけです。すいません。


 ”岬洋介シリーズ”の特徴として主人公というか語り部が毎作変わるってのがあります。で、今回の主人公は”ヤン・ステファンス”というピアニスト。この人に限らず綺羅星のようなピアニストが続々登場。主だった人を挙げると

〔ヤン・ステファンス(ポーランド)〕
 音楽一家ステファンス家の息子にして”ポーランドのショパン”を継承者する若き新星

〔榊場隆平(日本)〕
 盲目ながらもっともショパンらしい演奏をする”音楽に選ばれた”天才ピアニスト。
 モデルは辻井伸行(*3)?

〔エリアーヌ・モロー(フランス)〕
 愛が聴く者の魂を包みこむ美貌のピアニスト。西村由紀江(*4)みたいな?

〔エドワード・オルソン(アメリカ)〕
 ひたすら陽気で軽快なショパンを弾く軍人一家出身のピアニスト。

 さすがショパン・コンク-ルだけあっていずれ劣らぬ濃いいピアニストなんですが、この中にあって岬洋介がどのようなピアノを奏でるのか? ってのが興味の一つ。ああるんですが、前作までは感動的な描写があるんですが、さて今回はどのように?

 意外なことに、この人って”理不尽なことへ抗う怒りの人”なんだな~ってのが感想。無差別テロのあとのコンクールのファイナル選出の演奏でショパンの”葬送行進曲”に対してのヤンのコメント

  暴虐に対するショパンの怒り、奪われた無辜の生命に対するショパンの悲しみが
  岬のピアノに憑依していた

 怒りって、爆発するような怒りもあれば、静かに燃える怒りもあるのかな。前者の代表例がテロ。最後に近い場面でバスの乗員を人質にとったタリバンの攻撃に対し、アメリカ軍でオルソンの兄が戦場で岬の弾く”ノクターン第二番”を流すってシーンが出てきます。最初は”ミンメイ・アタックか?!(*5)”とかしょ~もないこと考えましたが、これで戦闘がわずかな時間ながら停止されます。本書内では”妙に人恋しくなる”というコメントをしてますが、怒りに燃えるタリバンのテロリストが銃を下して空を見上げてるという行動をとったのは、怒りを打ち消す静かな”何か”があったんじゃないかと。
 世界史苦手だったんで知らなかったんですが、ショパンが生きた時代のポーランドというのはロシア帝国に実質支配されていて、ポーランドの民族運動を徹底的に弾圧されていて、ショパンのポーランドへの想いのたけが込められているんだそうです。”別れの曲”とか、”ノクターン第二番”とかを聴いているとロマンチックな作風の人だと思っていたんですが、それだけではないんですね。

 表題にある

  審査委員たちが与えないのなら我々が君に感謝と栄養を与えよう。
  本当にありがとう、ミサキ。
  君の音楽がいつまでもショパンの魂ともにあることを願う

これは、人質を解放されたパキスタン大統領の言葉。1作目の”さよならドビュッシー(*6)”で作曲家を理解して演奏するといった岬のアドバイスがありますが、こういうことを知ると確かに深みがでてきますねぇ。

 岬洋介は司法試験をトップ合格し司法の世界でも将来を嘱望されるほどの知性と、他のピアニストをして”中毒になる”と言わしめるほどの才能に恵まれ、かつイケメンという数多くの天賦の才にめぐまれながら、突発性難聴(*7)という音楽家にとって致命的な病を抱えてる人。普通だったらそこでめげて別の道を歩みそうなもんですが、この人はそんな運命に抗ってピアニストに自分の道を見つけようとします

  ヤン:第一、そんな状態で長時間の演奏を強いられる本選は不可能だ
  岬 :不可能というのは臆病者の言い訳です

      (中略)
  ヤン:しかし、完調じゃない今の状態で、あの天才サカキバに勝てる訳がない
  岬 :才能というのは怠け者の言い訳です
  ヤン:何て強情なんだよ! さっき柵なんてないと言ったじゃないか
     だったら、いくらだって逃げられるだろう
  岬 :柵はありませんが、義務ならあります

      (中略)
     ある女の子には自分の武器を持っているのなら、
     安穏に長らえるよりもとことん戦えと教えました
     また、ある男子学生には自分で選んだことに最後まで責任を持てと教えました

      (中略)
     今、わたしがステージから下りたら、
     あの時彼女たちとかわした言葉は全部嘘になってしまう

 

天賦の才が神に与えられたものなら、試練もまた神に与えられたもの。てなことを無神論者の私が言っても説得力ないですが。

  

神は我を見捨てず ふたたび剣をとりて戦えとのたもうた(*8)

って言葉があるんですが、そんなん思い出しちゃいました。

 文句なく面白い作品です。ぜひご一読の程を。

《脚注》
(*1)ショパン・コンクール
 ショパンを生んだポーランドにて開催されるピアノコンクール。正確には”フレデリック・ショパン国際ピアノ・コンクール”です。
 なんせ日本人が入賞するだけでもニュースになるという世界で最も権威あるコンクールの一つで、日本人では中村紘子(第7回)、内田光子(第8回)などが受賞してます。
(*2)夏の思い出(作詞 江間章子、作曲 中田喜直)
  夏が来れば 思い出す はるかな尾瀬 とおい空
  きりの中に 浮びくる やさしい影 野の小路
  水芭蕉の花が 咲いている 夢見て咲いている 水のほとり
  しゃくなげ色にたそがれる はるかな尾瀬 とおい空
 この歌を聴いて尾瀬に行かれた方も多いんではないかと。ただし尾瀬で水芭蕉が咲くのは5月末あたりなんでご注意を。
(*3)辻井 伸行
 ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールにおいて日本人として初優勝した盲目のピアニスト。第15回ショパン・コンクールにて”ポーランド批評家賞”を受賞。
(*4)西村由紀江
 大阪出身の作曲家兼ピアニスト。
 1988年から読売テレビで”西村由紀江の日曜はピアノ気分”という番組をやっていて一発で大ハマリ、エレガントなイージーリスニングって感じでしょうか、当時はほとんどCD買ってました。全国区では武田鉄矢”僕は死にましぇん!”で有名なテレビドラマ”101回目のプロポーズ” の音楽を担当、ショパンの”別れの曲”(練習曲作品10第3番ホ長調)を弾いています。
(*5)ミンメイ・アタックか?!
 ”超時空要塞マクロス(石黒昇 バンダイビジュアル)”より。
 戦闘しか知らない異星人に対し歌を流すことによるカルチャーショックを与えることで戦闘不能に陥らせるという作戦です。
 ちなみに、本書では”地獄の黙示録(フランシス・コッポラ、ジェネオン)”と言ってますが。
(*6)さよならドビュッシー(中山七里、宝島社文庫)
 ピアニスト志望の”香月遥”は不慮の火事のため従姉妹の”片桐ルシア”と祖父の”香月玄太郎”を喪い、自身も全身大火傷の大怪我を負う。生き残った彼女はピアノコンクールの優勝にめざし不自由な体ながら師匠であるピアニストの岬洋介とレッスンに励む。しかし周囲では彼女を傷つけようとする細工や、母が殺される事件が発生し・・・
 詳しくはこちらをどうぞ
(*7)突発性難聴
 突発的におきる原因不明の難聴で特定疾患に指定されている難病。坂本龍一、浜崎あゆみ、スガシカオ、大友康平などのアーティストが罹病してるそうです。
(*8)神は我を見捨てず~
 ”ふたり鷹”(新谷かおる 小学館他)”より
 バイクレースの世界耐久選手権のボルドール24時間レースでコケた東条鷹がエンジンを再始動させてレースに復帰する時の言葉。こっちも名作です。

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