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2014年6月

ポップコーンはみな一斉に弾けるわけではない。だがすべてが熱せられている。(マネーの支配者/トウモロコシ)

 ども、金のなる木があるじゃなし♪(*1)なおぢさん、たいちろ~です。
 さて、問題です。

  Q:お金を増やすにはどうすればよいでしょうか?
  A:中央銀行がお札の輪転機を回せばよい

 いやいや、お金自体が銀行のコンピューター上でやりとりされる昨今、ボタンをポチっとなすればどんどん増えるのかもしれません。まあ、サラ金にいってキャッシングすればお金が出てくるのと見た目は同じで、違うのは何のために、何を裏付けにお金を出すのかってことでしょうか。
 ということで今回ご紹介するのは、そんな現在の錬金術師の頂点に立つ男達の物語”マネーの支配者”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。私んちで植えてる”トウモロコシ”です。

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【本】マネーの支配者(ニール・アーウィン 早川書房)
 世界経済を安定に導くため、巨大な権力を握る中央銀行総裁。連邦準備制度理事会(FRB)議長”ベン・バーナンキ”、欧州中央銀行総裁の”ジャン・クロード・トリシェ”、イングランド銀行総裁の”マービン・キング”。彼らは何を成し、何を成しえなかったのか。リーマンショックやギリシャ危機などに立ち向かうマネーの支配者たちを描いたドキュメント。
【動物】トウモロコシ
 イネ科の一年生植物ということで意外なことにお米や麦と同じ括りです。
 お菓子のポップコーンはトウモロコシの中でも爆裂種という危ない名前の種を乾燥させて炒っったもの。wikipediaによるとポップコーンの人気が出たのは世界恐慌時代のアメリカで、インフレで物価が上がる中ポップコーンは比較的値段が上がらなかったからだとか。今回のネタ向きとしては出来過ぎ?


 さて、日本銀行の金融政策には”公定歩合操作”、”預金準備率操作”(*2)、”公開市場操作”というのがあります。社会の時間に習いましたが覚えてますか? で、本書に出てくる話題の中心は”公開市場操作”。簡単にいうと国債や債権などを市場で買ったり(買いオペ)、持っている債権を売ったり(売りオペ)するもの。中央銀行が債権を買えば世の中に流れるお金の量が増え金利が下がり、売ればお金の量が減って金利が上がります。ってなことを習ったような気がしますが、本書でやっているのはまったく別次元の話。平たく言えば、誰も買わなくなった(価値が著しく棄損している、あるいは棄損するリスクの高い)債権(とそれを保有する企業価値)を中央銀行が下支えするって感じです。この操作をできるのは現在では中央銀行だけ(*3)

 ただ、中央銀行だって無制限に買えるかというとそんなわけゃなくて、実体経済を無視してお金をどんどん作ればお金の価値が下がる=インフレが発生するし(*4)、それは物価安定を目標とする中央銀行の依って立つところに反するし、ルール上、救える所と救えない所がある。リーマン・ショックの時、FRBがリーマン・ブラザースを救えなかった(救わなかった)のはある意味ルールに則った行動であり、保険会社のAIG救われたのは反則ぎりぎりの行動だったり。中央銀行は”最後の貸し手(レンダー・オブ・ラスト・リゾート)”と言われますが、誰彼かまわず救える魔法使いじゃないんですね。

 これがもっとでかくなったのがEU危機で、代表的だったのが”ギリシャ危機”。放漫財政の結果、破綻の瀬戸際だったギリシャ(というかギリシャ国債)をどう救済するかってのがテーマ。本書を読んでると、ユーロという統一通貨がありながら、政治や財政はバラバラ、でもどっかがずっこけると対岸の火事ではすまない運命共同体のEUの経済を引っ張る中央銀行の男達の苦悩がよくわかります。

 話は飛びますが、実は昔”経営管理システム”の拡販ってのをやってました(これは本当)。この手のシステムってのはまず言葉がわかんないとお客様と会話が出来ないわけで、簡単な用語集を作って配布しました。といえばカッコいいんですが、こんなブログ書いてるおぢさんが作るモンだからまともなシロモンであるはずがなく(*5)、そこに書いたのがこんなの  

  マリリン、ソブリン、ゆうこりん

 マリリンというのは、往年の大スター”マリリン・モンロー”、ゆうこりんというのは当時ブレイクし始めてたアイドル”小倉優子”のニックネーム。で、ソブリンというのは政府や政府関係機関が発行し又は保証している債券(国債など)のこと。たしか、”国家が保障しているため、その国では一番信用格付けが高く、デフォルト(債務不履行)になる可能性が最も低い(*6)”てな説明をしてました。
 当時はロシア危機(1998年に発生したロシア中央銀行による対外債務の90日間支払停止)の後なんで、国家レベルのデフォルトリスクがなかったわけじゃないんですが、少なくとも西側諸国でデフォルトが発生するとかってあんま想定してなかったですね~
 素朴な疑問に”なぜ、ギリシャ国債みたいなヤバそうなのをいっぱい買ってたんだ?”というのがありそうですが、これは後知恵であって”もっとも高格付け=安全な債権”だと思ってりゃ買うわな普通

 本書の中で面白かった言葉を。負のスパイラル(連鎖反応)をよくドミノ倒しに例えますが、当時の様子の記載をちょっと長いですが引用すると

  2008年秋を表す常套句は、「ドミノ倒し」である
  ある投資銀行が破綻し、それが保険会社を倒し、それが商業銀行を倒し、
  という具合だ。
  しかし、ブッシュの顧問だったエドワード・P・ラジアーがのちに語ったように
  それは「ポップコーン」と言う方がふさわしい。
  一社の破綻が順番に次の破綻につながるのではなく
  金融機関がフライパンの上のポップコーンの粒のように、
  バラバラに弾けていたのである。
  その熱源はひとつ。
  モーゲージ証券をはじめとするさまざまな証券の損失が、
  だれも想像しなかったほどに巨額にのぼることがわかったことだ。
  ポップコーンはみな一斉に弾けるわけではない。
  まったく弾けないポップコーンをある。
  だがすべてが熱せられている。
  AIG後の世界の中央銀行の挑戦は、コンロの火を止めることだった。

言いえて妙な言葉です

 本書の原題は”Theと”Alchemists”。直訳すると”錬金術師”ですが、錬金術師と言われても”ハガレン(*7)”ぐらいしか思いつかない日本で”マネーの支配者”って題名は直線的ながらなかなかの名訳。ちょっと前の話ですが、まだまだ危なっかしい世界経済を知るには良い本かと。


《脚注》
(*1)金のなる木があるじゃなし♪
 植木等の往年の名曲”ハイそれまでョ”(作詞 青島幸男、作曲 萩原哲晶)より。
(曲はこちらからどうぞ)
 もっともベンケイソウ科クラッスラ属の多肉植物に”金のなる木”ってのはありますが、当然お金がなるわきゃありません。
(*2)”公定歩合操作”、”預金準備率操作”
 公定歩合操作は日銀が民間銀行にお金を貸す金利=公定歩合を変更すること。金利を上げればお金の流通量が減り、下げれば増えます。昔は民間銀行の金利を決める基準だったんですが、現在は民間銀行金利が自由化されたため短期金融市場金利(無担保コール翌日物の金利)を操作してるんだとか。
 預金準備率操作は、日本銀行が民間銀行に預金や金融債などを一定率、無利子で日銀に預け入れさせること。預金準備率を上げるとお金がへり、下げると増えます。
(*3)現在では中央銀行だけ
 売り買いすれば誰がやっても同じことが起きるんで、”だけ”というのは語弊があるんですが、こんだけ巨大化しまくった世界経済で、巨大金融資本を協調させたりとか保証の重みの安心感という意味で、圧倒的な存在感を持ちうるのは中央銀行だけといってもいいでしょうか。
(*4)インフレが発生するし
 本書の中で第一次世界大戦の敗戦国であるドイツが巨額の賠償金に苦しむ中発生したハイパーインフレ。1923年11月には1ドル4兆2000億マルクになったそうですが、ほとんどお金の体をなしてなかったんじゃないかと。
 本書にライヒスバンクのハーフェンシュタインが
  あと数日のうちに、我々は(通貨)総流通量の三分の二を
  一日で供給できるようになるのです

という演説をしたエピソードが出てますが、まともな経済政策じゃないです。
(*5)まともなシロモンであるはずがなく
 題名が当時流行ってた”サルでも描けるまんが教室”(竹熊健太郎、相原コージ 小学館)のもじりで”サルでもわかる経営管理入門”、表紙のイラストが綾小路きみまろ。今にして思えば、当時の上司がよく許可してくれたよな~~
(*6)デフォルト(債務不履行)になる可能性が最も低い
 BIS2(当時)の標準的手法の場合、S&Pの格付ベースで民間企業の格付け”AAA~AA-(超優良企業と思ってください)”でもリスクウェイトが20%、無格付けだと100%だったのに対し、ソブリンのそれは”AAA~AA-”なら0%、”A+~A-”で20%と優遇された扱い。つまり、”国家”というのはそれだけ信用がある(あった?)ってことです。
(*7)ハガレン
 荒川弘の漫画”鋼の錬金術師”(スクウェア・エニックス)の通称。
 アニメにもなった大ヒット作なんですが読んでません。魔法使いとか出てくるファンタジー系苦手なんです・・

まあ、もしドラ系推理小説とでも言いましょうか・・・(エウレカの確率/錨)

 ども、行動経済学はけっこう気に入っているなおぢさん、たいちろ~です。
 行動経済学ってのはなにモンかというと、経済学の一分野なんですが、人間行動原理への立ち位置が違うんですな。今までの経済学ってのは経済人(ホモ・エコノミクス homo economicus)という経済的合理性のみに基づいて個人主義的に行動するという人間を前提にした学問なんですが、行動経済学ってのは思い込みや状況に流されるわ、状況に引っ張られるわ、損は大きく得は小さく感じちゃうわというい~かげんな、つまり私のような人間を想定している学問です。
 で、そんな行動経済学者が犯罪捜査をしたらど~なるかというのが、今回ご紹介する”エウレカの確率”であります。

写真はたいちろ~さんの撮影。海上自衛隊横須賀基地の錨です。

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【本】エウレカの確率(石川智健 講談社)
 女性ばかりをねらう連続殺人事件が発生した。特捜本部は犯人逮捕に全力を尽くすが1ケ月たっても犯人の手掛かりすらつかめない状態だった。そんな時、2人の人間が捜査に投入された。一人はプロファイリングのスペシャリスト”盛崎”、そしてもう一人はなんと経済学者の”伏見”だった・・・
 サブタイトルが”経済学捜査員 伏見真守”とありますが、本書内で伏見は”僕は経済学者ではなく、行動経済学者です”とわざわざことわってんだからそのように付けてやれよ~~
【乗り物】(いかり)
 英語で書くと(Anchor アンカー
 本書の中で”アンカリング Anchoring)てのが出てきますが、これは最初に感じたことなど特定の状況=錨を降ろした地点に引っ張られるという認知バイアス(*1)の一種です。


 本書では三つのタイプの捜査官が出てきます。一人目は捜査本部のリーダー、刑事一課長の”阿久津”。推理がどうのこうのというより現場を指揮する実行の人です。二人目はプロファイリングのスペシャリスト”盛崎”。”プロファイリング”というのは犯罪の性質や特徴から犯人の特徴を推論すること。本書の中では”犯行がずさんなので知能指数高くなく、精神的に不安定、女性の下着を盗ってないので男性、お金や宝石を取ってないので生活に困っおらず犯行時間から不労所得のある失業者、ホラー映画好き”ってなぐあい。だもんで、捜査本部は犯行現場の近くでレンタルビデオショップでホラー映画や猟奇モノばかりを借りてる人間を探せ!(*2)となってます。それっぽいっちゃそれっぽいですが、外した時の反動でかそうだな~~

 話は飛びますが、今でこそ”プロファイリング”って時々聞くようになりましたが、私が最初に見たのが”俺の空 刑事編(*3)”。手元にないんで記憶で書いてますが確か主人公の安田一平が財力に任せて私設警察作って、大学の先生とか集めてプロファイリングやって犯人を特定して、いきなり全国手配をかけるってかなりムチャぶりな話だったような。正直”マジでやったらかなりヤバイ”と思ったもんです。

 で、三人目の捜査官がそんな”プロファイリング”の危なっかしさを認識しつつ、”行動経済学的アプローチ”で補完できないかと考えてる”伏見真守”。この人もやってることは”プロファイリング”と良く似てるんですが、こだわっているのは”何故、この犯罪を起こしたのか”。まあ、徹底した”ホワイダニット(*4)”の人でしょうか。
 でも、本書の中で伏見もちらっと言ってますが、”犯行が行われて一番得をしたのは誰か?”、”この犯罪を行うだけのメリットがあるか?”という古典的なテーマを行動経済学だのゲームの理論(*4)だの持ってきて小難しく展開してんだよな~ 確かにこう言った犯罪を経済的なアプローチで理屈こねたのは新しいっちゃ新しいですが。でも分析結果から状況証拠を無視して犯人を決めつけてるんですが、いいんかい?!

 まあ、犯人探しという意味では二転三転あって推理小説としても面白いんですが、読後感としては”もしドラ(*6)”思い出しちゃいました。この本で行動経済学に興味を持たれた方は経済書の本も読んでみてください。そっちも面白いから。


《脚注》
(*1)認知バイアス
 意思決定に偏りを生じさせる要因となるもの。適切な情報を無視したり(事前確率無視)、不適切な情報に影響されたり(フレーミング効果)、重要ではないが突出した部分を課題に重視したり(アンカリング)など。ある程度のレベルで正解に近い解を短時間で得ることのできる”ヒューリスティクス”などもこれ。
 と書くと難しそうですが、要は先入観と偏見。”お前の意見は偏見だ!”と言うと喧嘩になりそうですが”君の意見には認知バイアスがかかっている”と言えば喧嘩にはならないかも。無理かなぁ
(*2)レンタルビデオショップでホラー映画や猟奇モノばかりを~
 こういうの見てると、そのうちamazonやyahoo!、google、Facebookなんかの情報をビック・データ解析して犯人捜査なんかやりそうだな~~ やってるかもしれんけど
(*3)俺の空 刑事編(本宮ひろ志 集英社)
   安田グループ総帥の御曹司にして頭脳明晰、剣道大会で優勝するスポーツマン、イケメンという完璧超人な”安田一平”を主人公とした漫画。でもなぜか刑事やってます。
 まあ、漫画版”富豪刑事”(筒井康隆 新潮文庫)といったとこです。
(*4)ホワイダニット
 推理小説のアプローチは大きく3つに分かれます。
  フーダニット (Whodunit = Who (had) done it):誰が犯人なのか
  ハウダニット (Howdunit = How (had) done it):どのように犯罪を成し遂げたのか
  ホワイダニット (Whydunit = Why (had) done it):なぜ犯行に至ったのか
一言で言うと、”犯人探し”、”トリック”、”動機”です
(*5)ゲームの理論
 フォン・ノイマンが体系化した”合理的な意思決定者間の紛争と協力の数理モデル
 本書の中では明示していませんが、得失点のマトリクスを作ってマクシマックス(maximax 最もうまくいった場合の利得が最大となる)、マクシミン(maximin 最悪の場合の利得が最大となる)なんてやるのはゲームの理論の考え方です。
(*6)もしドラ
 正式名称は”もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら”(岩崎夏海 ダイヤモンド社)。公立高校野球部のマネージャーみなみがドラッカーの経営書”マネジメント”を読んでチームを甲子園に出場させるという小説。
 話題になる前に読んでて”この本、売れるんかい?”と思ってたんですが、ダイヤモンド社初のミリオンセラーになったとか。

カエル男、こんなゆるキャラは嫌だ!(連続殺人鬼 カエル男/蛙)

 ども、カエルのゆるキャラと聞かれたら”ケロヨン”(*1)と答えちゃうおぢさん、たいちろ~です。
 世の中、ゆるキャラブームです。まあ、動物系の”くまモン”や”ぐんまちゃん”、鳥系の”バリィさん”、植物系の”ふなっしー”、人間系の”ちっちゃいおっさん”となんでもあり~の状態ですが、立場がビミョ~なのが両生類系。カエルなんて”けろけろけろっぴ(サンリオ)”やコルゲンコーワの”ケロちゃん”や”ケロロ軍曹”なんてメジャー所がそろっているのに意外といないんですな(*2) 。
 だからってこんなゆるキャラはできればご勘弁を、ということで今回ご紹介するのは、”きょう、かえるをつかまえたよ”という犯行声明を残す連続殺人事件の本”連続殺人鬼 カエル男”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。水戸にある別雷皇太神の”六福六蛙”です。

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【本】連続殺人鬼 カエル男(中山七里、宝島社文庫)
 口にフックをかけられ全裸で吊るされた死体。これが飯能市連続殺人事件の始まりだった。”きょう、かえるをつかまえたよ”という幼児性を持った犯人はマスコミから”カエル男”と名付けられた。埼玉県警捜査一課の渡瀬警部と若手刑事の古手川は捜査に従事するが犯人の手掛かりは杳として知れず、警察への不信はつのる一方だった・・・
【動物】蛙(カエル)
 三角形の頭に上に飛び出た目、丸っこい胴体に、分類だと無尾目とあるようにシッポがない生き物。デフォルメされたキャラはかわいいですが、リアルでかわいいかはちょっと微妙
 名前の連想からか縁起物になっていて、上記の六福は交通安全(無事かえる)、金運上昇(金かえる)、不老長寿(若がえる)、学業成就(良く考える、無病息災(体がもとにかえる)、出世開運(卵→オタマジャクシ→蛙)だそうです。


 最近は知りませんが、おぢさん世代では学校の授業で”カエルの解剖”ってのがありました。まあ、大き目のカエルに麻酔をかけてメスでお腹を開くだとか、脚に電気を流すとピッっと伸びるだとか、今考えるとけっこうグロいことやってたんですな。どうもカエルって昔はありふれた生き物だったんで、男の子にとっては被虐の対象だったようで。やれ、お尻の穴からストローつっこんでふくらますだとか、爆竹突っ込んで爆死させる(*3)だとか、板に挟んで潰しちゃうだとか、紐で吊るしてザリガニ釣りのエサにするだとか、こ手のネタには事欠きませんでしたね。決して褒められた行為ではないですが・・・

 で、これを人間相手にやりゃ立派な犯罪ですが(カエルだって動物虐待です)、これが本書に出てくる”連続殺人鬼 カエル男”。ネタバレになりますがフックで吊るす、プレス機で自動車ごと潰す、解剖して臓器を並べる、火で焼くとまあ、やりたい放題。しかも子供の日記のような犯行声明が残されてるんだから、ほとんどサイコな世界です。

 ここでサイコホラーに行くのかなと思っていると、これがパニック映画のノリに。
渡瀬警部と若手刑事の古手川刑事の会話

 渡瀬 :人が人を殺める理由は数々あるが煎じ詰めれば三つしかない
     愛憎、カネ、そして狂気だ
     このうち愛憎とかねは絞り込みが楽だ。そいつが死んで笑う奴を探せば良い
     だが狂気の場合、こいつは厄介だ。容疑者の絞り込みができん

      (中略)
     異常者全てに動機があるようなものだからな
 古手川:でも、そうやって苦労して犯人捕まえたって
     相手が狂ってたら三十九条(*4)で結局無罪になっちまうんでしょ?

 まあ、愛憎やカネによる犯罪ってのはある意味合理的というか”なんでやねん?”というのが一般人にも理解できんことはないわけですが、”狂気”っていうのは理解できないノリなわけで、”ワケのわからんものには恐怖を感じる”って心理はあるわけです。そのくせ、目撃者もいないような周到さがあったり、ミョ~な規則性があったりなんかすると被害者予備軍はもうパニック状態。で、”ヤラレル前にヤレ! 犯人予備軍は誰だ?”ってことになって普段は善良な(はずの)一般市民がリスト持ってそうなトコに押し掛け狼藉の限るなんて言う狂気の再生産ループに入っちゃうわけです。
 確かに最近は”人を殺して、自分も死刑になりたかった”だの”誰でもよかった”など訳のわからん供述をする犯人がいるからな~ しかも、この手の犯罪はおおむねヤラレ損になる可能性が高いわけで(まあ、どの犯罪もヤラレ損ではありますが)、犯人の罪にすら問えないってのは被害者感情としてはわからんでもないですが・・・

 この予備軍ってのがまた曲者で、正気と狂気の間に明確な区別があるのかとか、狂気は完治できるのかだとか、京極堂なら延々と能書き喋りそうな内容(*5)。話がそっちに行くのかな~と思ってたら、落ちはマジな推理小説に。へぇ~~

 中山七里という作家は2009年に”さよならドビュッシー(宝島社文庫)”で”このミステリーがすごい!大賞”を受賞した人ですが、この時に最終ノミネートに残ったのが”連続殺人鬼カエル男(原題は”災厄の季節”)”。最終選考で同じ作者の作品がダブルノミネートされたのは初めてだそうですが、甲乙つけがたいとの評価だったとか。結局、商業的により広い読者が見込まれると理由で”さよならドビュッシー”の受賞が決まったそうですが、両方読みましたが確かに両方とも面白い。この2作がほとんどデビューしたての新人の作品だっていうんだから、確かに才能のある人なんでしょうね。私なんかきっちりハマってるし!

 あらすじだけ読むとホラー系苦手な人に向かなさそうですが、中身はけっこう本格推理系です。ぜひご一読のほどを


《脚注》
(*1)ケロヨン
 1966年から70年に放映された”木馬座アワー”の中の”カエルのぼうけん”に登場するカエルのキャラクター。ご年配の方には懐かしい名前かと(こんなキャラです)。
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 影絵作家”藤城清治”のプロデュースという由緒あるキャラですが、今回調べて原作(ケネス・グレアム ”たのしい川べ”)があるって初めて知りました。
(*2)意外といないんですな
 ネットで見ると愛媛県の”一平くん”なんてのがいましたが、正直ちょっと不気味。
 ”ぴょこたん”なんつ~カエルになる事を夢見るヒヨコという”お前はいったいどっちなんや!”とツッコミ入れたくなるようなキャラのいましたし・・・
(*3)爆竹突っ込んで爆死させる
 5センチぐらいの長さの紙の細い円筒の中に火薬を詰めて導火線のついたモノ。昔は駄菓子屋なんかで売ってましたが今はどうなんだろう? ネットでは買えるようですが。
 大きな音で驚かすとか、そこそこ破壊力があっていろんなものを壊したりとか、鉄管の中に入れて弾を飛ばすとか使いでのあるアイテムだったんですがねぇ・・
(*4)三十九条
 刑法第39条:1.心神喪失者の行為は、罰しない。
          2.心身耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
(*5)京極堂なら延々と能書き喋りそうな内容
 京極夏彦の”百鬼夜行シリーズ”の探偵役にして憑物落としの”京極堂”こと中禅寺秋彦のこと。この人にこの手の能書きを語らせると、延々何十ページ続きます。
 そういや、本書の市民の暴動も憑物みたいなモンだったな~~

舞台はニューヨークだわ、マフィアが動機なき殺人を気にするわ、マシンガンはバナナわと”GOSICK”の新シリーズの違和感が面白い!(GOSICK RED/バナナ)

 ども、ラノベ時代から桜庭一樹のファンのおぢさん、たいちろ~です。
 映画情報を見てましたら”私の男(*1)”の映画が公開されるそうです。まあ、直木賞受賞の名作なんですが、ダメダメな義父と少女の禁断の愛の物語なんてやっていいんかな~ まあ、ライトノベル出身の作家が一般に認知されるってのはいいことですが、やっぱりラノベの桜庭も捨てがたいな~ ”GOSICK”とか”荒野の恋(*2)”とか。と思ってたら、なんと”GOSICK”の続編が出てました。
 ということで今回ご紹介するのは”GOSICK”新大陸編”GOSICK RED”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。那須塩原の温室にあったバナナの木です。

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【本】GOSICK RED(桜庭一樹 角川書店)
 陶人形のような美貌、ミルキーウェイの長い銀色の髪、そして超頭脳”知恵の泉”を持つ”灰色狼”ことヴィクトリカと彼女の恋人(従者?)久城一弥は旧大陸を逃れ日本で再会を果たした。そして第二次世界大戦後。二人はニューヨークに渡り久城は新聞社の見習い記者に、そしてヴィクトリカは”グレイウルフ探偵社”を開業していた。
 ある日、イタリアンマフィアの”ジョン・スミス(*3)”が訪れ”ガルボ・ボス”から連続殺人事件の謎を解く依頼を受ける・・・
【花】バナナ
 バショウ科バショウ属のうち、果実を食用とする品種群の総称。実の形から曲がった状態の代名詞のように使われます。
 写真に見える赤褐色の巨大な花状のものは苞葉(ほうよう)と呼ばれる葉っぱで、花は苞葉の所にある黄色いの。バナナはこの花の根元のところに成ります。


 さて、”GOSICK RED”ですが一言で言うと”古色蒼然たるソヴュール王国からいきなりニューヨークに持ってくるか!?” 確かに超美少女で銀髪のヴィクトリカを戦後の日本に持ってくればそうとうなお目立ち度でしょうが(*4)、まさかニューヨークとはねぇ。いや、悪いってわけじゃなくて。まあ、クラシックの作曲家ガーシュウィンがアメリカっぽい”ラプソディ・イン・ブルー”を作曲したような感じでしょうか。

 で、物語は1931年の戦後ニューヨーク(架空の世界なので史実とは違っています)。本書の中でヴィクトリカの生年月日が”1909年12月25日”という記載があるんですが、えぇ? この計算でいくとヴィクトリカが22歳?? 本書を読んでると前シリーズとほとんど容姿がかわってないようだし、やってることはガキっぽいし、とても世間では就活やってる年齢の人とは思えん・・・
 もっとも、お母さんのコルデリア・ギャロも年齢不詳、ただでさえ幼く見える娘のヴィクトリカと見間違えられるぐらいで、とても子持ちのおかんには見えない人。灰色狼の家系って歳をとらんのか?

 でもって、名探偵ヴィクトリカの推理の冴えも相変わらず。今回の依頼はマフィアのボスから動機なき3件の殺人事件の解決。

  素人は知らんだろうが、ギャング殺人には
  必ず報復や恨みなどの理由があるもんなんだよ。
  復讐(ヴェンデッタ)というやつだな。
  まぁ、酒場でのつまらん喧嘩が原因のこともあるがねぇ
  しかしこの三件にだけは理由がなく、犯人候補もいない・・・

上記のジョン・スミスがヴィクトリカに依頼を説明するセリフですが、マフィアってそんなに品行方正なんでしょうか? まあ、殺されるほどの理由がないってレベルかもしれませんが・・
 でも、この3人の共通点ってのが新聞読んでりゃわかるレベルなんだから、マフィアって新聞読まんのか? って突っ込んじゃいそうです。その殺人のやり方ってのはなかなか、でもヴィクトリカはあっさり解いちゃってるし(*5) むしろ理由=動機なき殺人犯の動機って方が秀逸かな。ネタバレになるので書きませんが、この手のやり方、過去の作品でもなかった訳ではありませんが、その仕掛け人が変人トラウマの博士っていうぶっ飛び方が桜庭一樹っぽいっちゃぽいです。

 ど~でもいいことですが、ちょこっと気になったのが”バナナマシンガン”。普通、ギャング映画っていうとトンプソン・サブマシンガン、通称”トミーガン”のイメージなんですが。お皿のようなドラムマガジンがくっついた奴なんで、この手の映画を見られたことがある方ならお解かりになるかと。
 で、本書に登場の”バナナマシンガン”って、ご丁寧にバナナの刻印付きの銃弾なんて出てますが、バナナマガジン付きのマシンガンでしょ。代表的なのは1947年式カラシニコフ自動小銃、通称”AK-47(*6)”。下の写真はちょっとひねって”ダイ・ハード2(*7)”より。スチュアート大佐(ウィリアム・サドラー)が構える”H&K MP5”です。この映画でバナナ型のマガジンがトリックに使われてたんで印象的だったからこっち載せてみました。

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 まあ、こんな形の銃ですが、なんでわざわざバナナマシンガンに? 何かの伏線でしょうか? なんしょかんしょ、まだ続きそうなので続編が楽しみなシリーズであります。

《脚注》
(*1)私の男(桜庭一樹 文春文庫)
 腐野淳悟は孤児となった少女”花”を引き取った。惨めでどこか優雅な淳悟と美しく成長した花の禁断の関係が時を遡って語られていく2008年直木賞受賞の恋愛小説
 2014年6月、浅野忠信と二階堂ふみの主演で映画化されました。
(*2)荒野の恋(桜庭一樹 文春文庫)
 日本人形みたいな少女、山野内荒野を主人公とする恋愛小説。元々はファミ通文庫というラノベのレーベルから出てましたが、桜庭一樹が直木賞をとっちゃったせいなのか”荒野”の名前で文藝春秋から出版。現在も”荒野 xx歳”の三分冊で出ています。
 詳しくはこちらをどうぞ。
(*3)ジョン・スミス
 ”涼宮ハルヒの憂鬱”(谷川流 角川スニーカー文庫)でも出てくる名前なので調べてみたら、ジョンもスミスもありふれた名前なんで、”偽名”の代名詞なんだとか。本書の中でも名前を聞かれて”私の名は・・・ そうだな、ジョン・スミスだ”といかにもな答え方をしてたし。
(*4)超美少女で銀髪のヴィクトリカを戦後の日本に持ってくれば~
 アニメ版の最終回でモンペ姿のヴィクトリカが出てくるシーンがありますが、さすがに”似合ってね~~”。まっ、かわいいけど。
(*5)ヴィクトリカはあっさり解いちゃってるし
 ヴィクトリカの推理ってのは”状況から考えてありうる方法と、それが可能な人間を特定する”というやり方が多いですね。いわゆる状況証拠ってやつです。でもこれで裁判に持ってけるんでしょうか?
(*6)AK-47
 歩兵用アサルトライフル。自動小銃の中では極めて信頼性と耐久性が高い名銃なんだそうです。1949年にソビエト連邦軍が制式採用したという経緯から東西冷戦時代はソ連側の、今ならテロリスト側が持ってるケースが多いという、悪役っぽいイメージのアイテム(関係者の方、すいません)。
(*7)ダイ・ハード2
 ワシントン・ダレス国際空港の管制システムがスチュアート大佐率いるテロリストに乗っ取られた。上空を旋回する飛行機に乗っている妻を救うべく、ロサンゼルス市警察のジョン・マクレーン刑事(ブルース・ウィリス)はぶつぶつぼやきながらも事件解決に関与していく・・
 このころのブルース・ウィリスってまだ髪の毛あったんだな~~

あ~あ~デブ~ マイスイートウイルデブ~ う~うう~ 太った悪魔~♪(どすこい/走る取的/銀杏)

 ども、中年になったらデブってもしょうがないかな~~と思ってるおぢさん、たいちろ~です。
 カラオケってあんまし好きでないんですが、モチネタの中に”○○さんに捧げる替え歌シリーズ”ってのがあります。まあ、会社の人をネタに替え歌を作るってたわいのないモンですが、この中にデブのSさんネタ(*1)でこんなんあります。

 あ~あ~デブ~ マイスイートウイルデブ~ 
 う~うう~ 太った悪魔~♪

元の曲はご存知、キャンディーズの往年の名曲”やさしい悪魔(*2)”です。
 ということで今回ご紹介するのはそんなデブ話、京極夏彦の”どすこい”&筒井康隆の”走る取的”であります。

上の写真はたいちろ~さんの撮影。名古屋銀杏並木の銀杏
下の写真は四季通販のhpより。お相撲さんの髪型”大銀杏”です。

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【本】どすこい(京極夏彦 集英社)
 元禄時代、12月14日雪の降る夜、吉良家を目指して進む四十七人の男たちがいた。主君、浅野内匠頭の敵を撃つべく大石内蔵助に率いられた四十七士・・・ ではなく四十七人の力士であった。四十八手を次々決め吉良家の侍たちを倒す力士たち。そして最後に残った吉良上野介と横綱大石山との結びの一番が始まる(四十七人の力士
 ”地響きがする―と思って戴きたい”という出だしで始まる力士パロディ小説集。
【本】走る取的(筒井康隆 新潮社)
 学生時代の友人とスタンド・バーで呑んでいたおれは太った友人を相撲取りみたいだと笑っていた。ところがそのバーに相撲取りが居合わせており、俺達をすごい眼で睨んできた。彼を挑発したおれ達は店を出たが、そのあと相撲取りに追いかけられるはめになった。逃げても逃げても追いかけてくる相撲取り。追い詰められたおれと友人は・・・
(”懲戒の部屋―自選ホラー傑作集”、”メタモルフォセス群島”に収録)
【花】銀杏(いちょう)
 裸子植物門イチョウ綱の木。葉っぱが扇形なので見ればわかります。
 お相撲さんの髪型で”大銀杏(おおいちょう)”というのがありますが、確かに後ろからみればそんな感じです。wikipediaで見て初めて知ったんですが、”取的”というのは通常序二段や序ノ口などを指す言葉で、髷(まげ)は丁髷姿大銀杏が結えるのは一部を除けば十両以上の関取が結うもんだそうです。本書の中で”大銀杏じゃなく、丁髷だものね。取的ってやつさ”という発言が出てきますが、なるほどね~


 さて、推理作家にして妖怪研究家、膨大な知識と明晰な頭脳で憑物を落とす京極堂を主人公とする”百鬼夜行シリーズ”の作者である京極夏彦が何故にこのような小説を書いたのか? その謎は”脂鬼”の中で京塚昌彦をして語らせたこの一言にある

  笑かそうと思って書いたんだよう
  僕だってたまには書きたいよギャグ

 いや、気持ちはわかりますがここまでやりますか! なんせ題名が”パラサイト・デブ”に”すべてがデブになる”に”土俵(リング)・でぶせん”だもの。で、登場するのがすべてデブ=相撲取りなんだもの。ここまでよ~やるってのが正直な感想。出色なのが美人で優秀な編集者でプッツンすると凶暴にキレまくる”Cちゃん”。これがモデルになった編集者がいたらお会いしてみたいな~ってキャラ。いや、いそうだけど。なんせ、へたれぞろいの作者たち(月極夏彦とか南極夏彦とか)をしばきあげつつ真相に迫る(迫っているか?)迫力は満点。この本を勧めてくれた友人のYO~YO~氏が(*3)”筒井康隆”と評してましたが、このぶっ飛び具合はまさに往年の筒井康隆ですな~~
 それでも、最後の最後で妖怪モノで落とすのは、さすがに京極夏彦と言うべきか。

 筒井康隆が出てきたところで、こっちからも相撲取りネタを一本。モダンホラーの傑作”走る取的”であります。今の若い人だと筒井康隆って”時をかける少女”の原作者かもしれませんが、この小説は発表された1975年ごろって、ナンセンス、ブラックユーモア、スラップスティックなSFでノリノリだったころ。ストーリーは上記の通りですが、そりゃあもう、相撲取りがトラウマになりそうな一品。京極夏彦もだいたい私と同じぐらいの歳なんですが、若いころ読んでたんじゃないかな~

 最後に取的に追っかけられないようにフォローを一つ。
 相撲取り=デブというのは実は間違いで、お相撲さんってすごい筋肉質なんだそうです。ずいぶん昔の”所さんの目がテン!”(*4)でやってたんですが、お相撲をCTスキャンで調べたところ、厚い脂肪の下にすごい筋肉が隠されてるんだとか。まあ、そうじゃなければあんな巨体を投げたりできんわな~


《脚注》
(*1)デブのSさんネタ
 私んとこの部署では”3大デブ”の一人だったんですが、転勤でしばらく見ないうちにすんごい痩せてました。何があった、Sさん!
(*2)やさしい悪魔
 1977年にリリースされたキャンディーズの13枚目のシングル。作詞は喜多條忠、作曲は吉田拓郎。原曲は下記のとおり。聴きたい方はこちらをどうぞ。
  AH! Devil my Sweet Little Devil
  UH やさしい悪魔

(*3)この本を勧めてくれた友人のYO~YO~氏が
 最初に勧めてくれたのが”小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所”(監修 日本推理作家協会、集英社)に収録された”ぬらりひょんの褌”というこち亀のパロディ小説。こっちも面白かったです。詳しくはこちらをどうぞ。
(*4)ずいぶん昔の”所さんの目がテン!”
 日本テレビの科学番組”所さんの目がテン!”の”相撲の科学”(1998年1月25日放映)です。HPのアーカイブで見れますのでご興味のある方はこちらをどうぞ。

5年前のパニック? そんな昔のこと覚えていないね。明日の相場? そんな先のことはわからないよ。(リーマン・ショック 5年目の真実/蛇口)

 ども、最近どんどん物忘れの激しくなってくるおぢさん、たいちろ~です。
 特に最近何があったかなんてのはどんどん思い出せなくなって・・ 若いころだとそうでもなかったと思うんですが。例えば学生や20代前半あたりの人に”2008年=5年前に何があった?”と聞けばだいたいすらすら出てきそうですが、おぢさんはダメですね~~ まあ、学生とかだとイベントベースがはっきりしているので、連想が効くんでしょうが、歳をとると年年歳歳似たようなことの繰り返しが増えるしなぁ
 ということで今回ご紹介するのはそんなちょっと昔の金融大パニックの話”リーマン・ショック 5年目の真実”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。私んちの蛇口です。

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【本】リーマン・ショック 5年目の真実(日本経済新聞社編 日本経済新聞出版社)
 2008年9月15日、アメリカの大手証券会社”リーマン・ブラザース”が経営破綻。後に”リーマン・ショック”と呼ばれる経済パニックの引き金が引かれた。事態を収束すべくアメリカ政府やFRB(*1)、世界の中央銀行関係者、金融業界が懸命の努力を続けるが・・
 日経新聞に掲載された”混沌の先 リーマン・ショック5年”をまとめて加筆した本
【道具】蛇口
 私の今住んでる所は昔の建物なので”上げ止め式”(上げると水が止まる)、比較的新しい自宅は”下げ止め式”。阪神大震災の時に”上げ止め式”だと落下物で水が出っぱなしになったので下げ止め式に変わっていったという話を聞きましたが、けっこう説得力あるんだよな~~
 中央銀行による資金提供蛇口にたとえて表現することがありますが、景気の下落で水が出るなら”上げ止め式”でしょうか?


 さて、2008年に何があったかというと、今回のテーマであるリーマン・ブラザースの破綻以外にも、”Change Yes We Can!”を叫んでバラク・オバマが第44代アメリカ合衆国大統領に就任し、福田康夫首相が”あなたとは違うんです”と捨て台詞を残して辞任し、麻生・ローゼン・太郎閣下がその跡を引き継ぎ、中国四川省で大地震(マグニチュード8.0)が発生し、北京オリンピックが開催され、松下電器産業が”パナソニック”になり、”レッドクリフ”と”崖の上のポニョ”が公開された年です。ちなみに、秋葉原通り魔事件が発生し、続幼女誘拐殺人事件の宮崎勤が死刑執行されたのもこの年です。ちょっとは思い出しましたか?

 前置きが長くなりましたが、政治・経済の本ってのはリアルタイム系と振り返り系ってのがあると思っていましてこの本は後者。本とかマスコミの論調ってのはその時のムードに多大な影響を受けるモンですんで、リーマン・ショックに先行する住宅バブルってのも当時としてはそんなにネガティブな反応一辺倒ではなかったように思いますし、遠因となった金融緩和政策をとったFRBのグリーンスパン議長(*2)だって当時は”マエストロ(巨匠)”といって持ちあげていたし。

 この本は当時の当事者のインタビューを交えて振り返って何が起こってたのかを検証するって内容ですが、こう言う歴史に学ぶって姿勢は結構重要なんですね。なんとなれば、サブプライム問題やリーマン・ショックを見てそのころ思ってたんは”アメリカは日本のバブル崩壊を見てなかったんかい! 反面教師が身近におったやろが!!”ってこと。

 

バブルってのは簡単に言うと、1985年のプラザ合意による急激な円高が引き金になってカネ余りになって、株式や土地にカネが流れて、お金をバンバン使ってもOK!みたいな雰囲気になって、気が付いたら実態経済とかけ離れちゃって、パン!

 

サブプライム問題ってのは簡単にいうと、低金利政策と持ち家推進が引き金になって、貧乏人に金を貸してもリスク分散できる手法(証券化)が開発されて、”家の値段=資産価値が上がるからお金をバンバン使ってもOK!みたいな雰囲気になって、気が付いたらリスクがどこにあるか分かんなくなって、パン! その加害者にして被害者の一つがリーマンブラザースってワケです。

 この手の話ってのは当事者から見える風景ってのはけっこう違うモンで、本書でも元リーマンブラザース証券(日本)元社長やらAIGの元会長やら元金融庁長官やら三井住友FGの会長やらが出てきます。私の感銘が深かった人を一人上げると、サブプライムローンの設計に使われた信用リスク算出式を開発したデビッド・リー(*3)の言葉

  結果的に金融商品の魅力を高めるのに数式が使われたとしても
  金融危機のにして原因を作ったとは思わない
  新たな金融商品はすでに急拡大しており
  (それを正当化する)尺度が必要だったのだと思う

  1種類のリスクを想定した数式を当てはめるのは適当ではない
  そう、何度も訴えたが、理解を得るのは難しかった

  方程式は万能ではない。理論、適用の両面において問題があり
  そのことを皆がしっかり理解すべきだった

  金融工学は常に目の前の問題を解決するために生まれた
  金融商品を売りつけるために開発されたのではない

 たった3ページの記事ですが、なかなか含蓄の深いものがあります。

 余談ですが、お題の”5年前のパニック? そんな昔のこと覚えていないね~”の元ネタがこれ

  イヴォンヌ:昨日なにしてたの?
      Where were you last night?
  リック:そんな昔のこと覚えていないね。
      That’s so long ago.I don’t remember.
  イヴォンヌ:今夜会える?
      Will I see you tonight?
  リック:そんな先のことはわからないよ。
      I never make plants that for ahead.

 これは、往年の名画”カサブランカ(*4)”の名文句。ハンフリー・ボガート演じるリックが付き合っていたイヴォンヌをふる時の会話です。まあ、ボギーがやればカッコイイセリフですが、経済のかじ取りやってる人や人様のお金を預かってる人が同じこと言われてもな~~
 ということで、時々、こういう過去を振り返る本ってを読んでみるのもいいかも。本書の”はじめに”でも”10年後、20年後にリーマン危機を振り返る材料になれば幸いです”と書いてますが、社会を幸いにするためにも読んどいたほうがいいかも。

《脚注》
(*1)FRB
 金融政策の策定と実施を任務とする経済を安定させるために、アメリカに12ケある連邦準備銀行 (Federal Reserve Banks FRB)を統括するのが連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board FRB) 。
 両方とも略称が”FRB”ですが、○○議長(Chairman)と呼ばれるのは連邦準備制度理事会の長の方。
(*2)グリーンスパン議長
 1987年から2006年までFRBの議長を務めた人。
 低金利政策をとったのは確かですが、べつにリーマン・ショックの責任がこの人だけにあるわけじゃないんだから、そんなに手のひら返したような言い方せんでもいいと思うんですが・・・
(*3)デビッド・リー
 証券化商品の債務不履行リスクを算出する”ガウシアン・コビュラ”を開発したJ・P・モルガンの調査担当者。この人の話は”愚者の黄金”(ジリアン テット 日本経済新聞社)にも出てきますので、ご興味のある方はそちらもどうぞ。
(*4)カサブランカ(監督 マイケル・カーティス、ワーナー・ホーム・ビデオ)
 親ドイツのヴィシー政権の支配下にあったフランス領モロッコのカサブランカを舞台にしたラブロマンス映画。”君の瞳に乾杯”の名言に”時の過ぎゆくままに(As Time Goes By)”の名曲にとお勧めの名画です。

ファイナンスに関わる人間は正義の味方か、悪魔の手先か?(それでも金融はすばらしい/レモン)

 ども、金融機関の人間ではないですが、金融機関相手に商売やってるおぢさん、たいちろ~です。
 職業に貴賎はないと言いますが、正義の味方っぽい職業となんだか悪っぽい職業ってイメージってのはありそうです。正義の味方の代表のような警察官だって犯人を逮捕するって面では正義の味方だけど、誤認逮捕だってあるし、ヤ○ザの人だってボラアンティアやることだってあるし(*1)。自衛隊なんてかなり微妙な職業じゃないかと。まあ、正義の味方であんまし突っ込まれなさそうなのは消防署ぐらいでしょうか(*2)。
 で、今回のお題のファイナンスに関わる人間ってのはどっちかというと分が悪い方でしょうか、別に他意はないんですけど。2013年度に流行った”半沢直樹(*3)”に登場する大和田常務なんて、貸しはがしはするわ、私利私欲で融資を決めるわ、権力闘争に明け暮れるわとかなり悪い人っぽい。半沢直樹だって見方によっては同じ穴のムジナだし。
 ということで今回ご紹介するのはそんなファイナンスに関わる人に勇気を与える本”それでも金融はすばらしい”であります。


写真はたいちろ~さんの撮影。近所で見かけたレモンの花です。

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【本】それでも金融はすばらしい(ロバート・J・シラー  東洋経済新報社)
 2013年にノーベル経済学賞を受賞したロバート・J・シラーによるイェール大学のファイナンス講義の生徒に向けた内容をベースに書かれた本。
 日本語のサブタイトルは”人類最強の発明で世界の難問を解く”ですが、原題は”Finance and the Good Society(金融ファイナンスと良い社会(*4))”とけっこうあっさりしたもの。
【花】レモン
 ミカン科ミカン属の常緑低木。実はよく見る柑橘ですが、花は写真のようなかわいいのが咲きます。ファーストキスはレモンの味などとロマンチックなイメージがありますが、英語では”不良品”というあまり良くないいイメージって本書で初めて知りました。でも花言葉は”心からの思慕”、”愛に忠実”、”心からの思慕”とプラスイメージなんですな。


 さて、結論から。本書に記載されているモンテスキューの”法の精神”より

  商売の精神は生来から慎ましさ、節制、穏健、労働、節度、静謐さ、
  秩序、ルールを伴うものだ
  この精神が続く限り、それらがもたらす富は悪影響を持たない
  よくないのは、過剰な富が商売の精神を破壊するときである
  するとそのとき、格差の不都合が感じられはじめるのである

 この”精神”ってのが曲者で、個人であれ会社であれ社会であれ、この精神が守るべきものを守っていればそうそう問題にはならんわけで、ちゃんとやっていけばすばらしい金融マン=正義の味方になれまっせというのが本書の主題かな?
 でもまあ、これがなかなか守れんわけで、というか金融システム、広げて言うと人間の中にこれが破壊される方向のナニかがビルドインされているんじゃないかと。
 てなことを踏まえて、本書に出てくる職業をいくつか。

〔住宅ローン業者と証券化業者〕

 初手から悪モン代表みたいになってますが、本書が書かれたのは2012年とリーマン・ショックの悪夢醒めやらぬ(今でも醒めてませんか?)ころだから。
 元々抵当証券化とCDO市場(*5)がうまく機能する理由ってのは”レモン(不良品)問題”=不良品だけが市場に放出され、機能不全の市場が生まれること解決すると考えられてました。本来は住宅ローンを使って家を買える人が増えるのは良いことだし、CDOってのもリスクを分散させるはずのものだったし。でも失敗しちゃったのは本来は住宅ローンを借りて返せなそうにもない人にも”貸しちゃえ貸しちゃえ!”って感じで貸しちゃった業者がたくさんいたこと。城南信用金庫の第3代理事長、小原鐵五郎の名言に”貸すも親切、貸さぬも親切”と位のがありますが、まあお客さまのためにならない金なら貸ししないことが親切だってこともあるわけです。CDOも本来リスク分散であるべき商品がいつの間にかどこに何のリスクがあるか分かんなくなっちゃったし。
 でも、本書で最大の誤りは”住宅価格は絶対に下落しない”と多くの人が思いこんだ点をあげてます。まあ、今ならなんでそんなこと思ってたんだ?!と言いそうですが、日本だってバブルのころはみんなそう思ってたんですよ~~
 まあ、形は変わっても住宅ローン業者と証券化業者は今後もあるというのがシラーのご意見。

〔トレーダーとマーケットメーカー〕
 代表的なのは株取引の専門家。秒刻みで株の売買をやって価格変動から利益を得てたりしますが、これがシラー曰く”最も敵視されている存在”。その理由として

  通常、トレーダーが直接的な形で社会に役立つ存在として姿を見せることはない
  かれらは自分の儲けのために売買しているにすぎない

  その活動は賭博を思い起こさせ(*6)
  秀でたトレーダーの成功は時に人の苛立ちを誘う

ずいぶんな言われようって気もしますが、まあ、個人のお金を自分でリスクとってやる分にゃ文句も言いますまい。でも、公的年金積立金の運用で株式の運用比率を高める見直しを前倒しでやってる昨今(田村厚生労働相は2014年6月6日、閣議後記者会見)、この人達に老後の年金たくさにゃならんのだろ~な~
 金融資本主義システムを変革していくにはこの人達が必要ってのが、シラーのご意見。

〔デリバティブ業〕
 この章の書き出しが”近年、「金融派生商品(デリバティブ)」という言葉は汚い言葉とみなされるようになった”。なんつ~言い方だと思いますが、その直後の

  デリバティブ市場を動かす専門家たちは評判が悪いが
  実は、かれらはもっとも創造的で複雑な金融の側面に関わっているのだ

とフォローしてます。
 じゃあ何が悪い印象かというと、オプション(デリバティブの一種)を売るセールスマンがいかがわしい(微妙に誤解を招く議論)とかやってる過去の悪しき慣行のせいではないかと指摘してます。これを無くすためには一般大衆に公平な金融アドバイスを提供すればいいと言ってます。でも、めっちゃ難しいんだよな~ これって。はっきりいって自分の理解できない商品には手を出さない、手を出すなら勉強しろ!ってとこでしょうか
 デリバティブによって市場の有用性と、本当の利益がさらに公平にカバーされるようになるかもしれない、ってのがシラーのご意見。

 まあ、500ページ近くある本だし、上記もかなりはしょっているのでアバウトなところもありますが、本書の言わんとするところは”金融ファイナンスは社会を良いものにするから、がんばれ!”というエールでしょうか。
 帯部分にある

  

すべての金融関係者に勇気と希望を与える書

 ってのは言いえて妙。世間からいろいろ言われてへこんでる金融関係者には絶好の本かも。


《脚注》
(*1)ヤ○ザの人だってボラアンティアやることだってあるし
 1995年の阪神淡路大震災で、山口組が被災地での支援活動を行ったということで話題になりました。
(*2)正義の味方であんまし突っ込まれなさそうなのは~
 消防車や救急車にあんまし悪いイメージ持っている人はいないんじゃないかと。どうも”生命や財産を守ってくれる”からかなぁ。別に義兄が消防署員だったから言うわけじゃないですけど。
(*3)半沢直樹
 池井戸潤の小説”オレたちバブル入行組”、”オレたち花のバブル組”を原作としたTBSのテレビドラマ。いや~銀行員の視聴率を調べたら100%に近いんじゃないかと思うぐらい話題になりました。
 半沢直樹は主人公ですが、国税局や金融庁を出し抜くわ、上司の弱みを出世の取引に使うわと正義の味方ってわけじゃないな~ 大和田常務は半沢直樹の敵役で上記の通りやりたい放題やってます。演じる香川照之がいい味出してました
(*4)金融ファイナンスと良い社会
 訳では”金融ファイナンス”とことさら書いてますが、”Finance”の元はラテン語の”finis”で、これには”目標”や”終了”なんつー意味もあるそうです。
(*5)抵当証券化とCDO市場
 抵当証券は不動産に対する抵当権を小口証券にして、一般の人でも買えるようにした有価証券、CDO(Collateralized Debt Obligation 債務担保証券)は大口金銭債権を裏付資産とした証券化商品でデフォルトなどの際に元本が優先的に確保される順位があるのが特徴。
(*6)その活動は賭博を思い起こさせ
 ファイナンス活動が博打かどうかは未だに結論がでてない問題だそうですが、不確実な未来に資本を投下するって行為は、融資だろ~がトレーディングだろ~が宝くじだろ~が競馬だろ~が同じだと思います。個人的な意見ですけど。

君の音楽がいつまでもショパンの魂ともにあることを願う(いつまでもショパン/スパティフィラム・ショパン)

 ども、気にいったシリーズはすぐに一気読みしちゃうおぢさん、たいちろ~です。
 だもんで、今ハマっている中山七里の”岬洋介シリーズ”の3冊目”いつまでもショパン”を読みました。今回の話って、岬洋介がショパン・コンクール(*1)に登場するって話。前作でもピアノを弾くシーンはありましたが、どちらかというと先生の立場がメインでしたが、今回はピアニストとしての本領発揮です。根は推理小説なんで”ピアニスト”と呼ばれるテロリストの逮捕に協力するんですが、そんなことどうでもいいような圧巻の音楽小説です


写真はたいちろ~さんの撮影。
近所で見かけた”スパティフィラム・ショパン”です

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【本】いつまでもショパン(中山七里、宝島社文庫)
 岬洋介はショパン・コンクールに出場するためポーランドに来ていた。しかし、ポーランドでは“ピアニスト”というテロリストによる事件が頻発していた。コンクール会場で刑事が殺害され、遺体の指十本がすべて切り取られるという事件が発生、会場周辺では爆弾が爆発し岬と知り合いになった少女が巻き添えになる。一方、ファイナリストとしてコンサートに臨む岬洋介の身にも異変が・・・
【花】スパティフィラム・ショパン
 スパティフィラム属はサトイモ科の属の一つ。写真では緑っぽいですが花を包む部分(仏炎苞)が白くなると”水芭蕉”にそっくり。それもそのはずで”水芭蕉”は同じサトイモ科のミズバショウ属になります。
 ”ショパン”は商品の名前ですが、”水芭蕉”も”夏の思い出(*2)”が思い出されるぐらい音楽のイメージが強いんで、この花もそうなんでしょうか?
 今回は名前つながりだけです。すいません。


 ”岬洋介シリーズ”の特徴として主人公というか語り部が毎作変わるってのがあります。で、今回の主人公は”ヤン・ステファンス”というピアニスト。この人に限らず綺羅星のようなピアニストが続々登場。主だった人を挙げると

〔ヤン・ステファンス(ポーランド)〕
 音楽一家ステファンス家の息子にして”ポーランドのショパン”を継承者する若き新星

〔榊場隆平(日本)〕
 盲目ながらもっともショパンらしい演奏をする”音楽に選ばれた”天才ピアニスト。
 モデルは辻井伸行(*3)?

〔エリアーヌ・モロー(フランス)〕
 愛が聴く者の魂を包みこむ美貌のピアニスト。西村由紀江(*4)みたいな?

〔エドワード・オルソン(アメリカ)〕
 ひたすら陽気で軽快なショパンを弾く軍人一家出身のピアニスト。

 さすがショパン・コンク-ルだけあっていずれ劣らぬ濃いいピアニストなんですが、この中にあって岬洋介がどのようなピアノを奏でるのか? ってのが興味の一つ。ああるんですが、前作までは感動的な描写があるんですが、さて今回はどのように?

 意外なことに、この人って”理不尽なことへ抗う怒りの人”なんだな~ってのが感想。無差別テロのあとのコンクールのファイナル選出の演奏でショパンの”葬送行進曲”に対してのヤンのコメント

  暴虐に対するショパンの怒り、奪われた無辜の生命に対するショパンの悲しみが
  岬のピアノに憑依していた

 怒りって、爆発するような怒りもあれば、静かに燃える怒りもあるのかな。前者の代表例がテロ。最後に近い場面でバスの乗員を人質にとったタリバンの攻撃に対し、アメリカ軍でオルソンの兄が戦場で岬の弾く”ノクターン第二番”を流すってシーンが出てきます。最初は”ミンメイ・アタックか?!(*5)”とかしょ~もないこと考えましたが、これで戦闘がわずかな時間ながら停止されます。本書内では”妙に人恋しくなる”というコメントをしてますが、怒りに燃えるタリバンのテロリストが銃を下して空を見上げてるという行動をとったのは、怒りを打ち消す静かな”何か”があったんじゃないかと。
 世界史苦手だったんで知らなかったんですが、ショパンが生きた時代のポーランドというのはロシア帝国に実質支配されていて、ポーランドの民族運動を徹底的に弾圧されていて、ショパンのポーランドへの想いのたけが込められているんだそうです。”別れの曲”とか、”ノクターン第二番”とかを聴いているとロマンチックな作風の人だと思っていたんですが、それだけではないんですね。

 表題にある

  審査委員たちが与えないのなら我々が君に感謝と栄養を与えよう。
  本当にありがとう、ミサキ。
  君の音楽がいつまでもショパンの魂ともにあることを願う

これは、人質を解放されたパキスタン大統領の言葉。1作目の”さよならドビュッシー(*6)”で作曲家を理解して演奏するといった岬のアドバイスがありますが、こういうことを知ると確かに深みがでてきますねぇ。

 岬洋介は司法試験をトップ合格し司法の世界でも将来を嘱望されるほどの知性と、他のピアニストをして”中毒になる”と言わしめるほどの才能に恵まれ、かつイケメンという数多くの天賦の才にめぐまれながら、突発性難聴(*7)という音楽家にとって致命的な病を抱えてる人。普通だったらそこでめげて別の道を歩みそうなもんですが、この人はそんな運命に抗ってピアニストに自分の道を見つけようとします

  ヤン:第一、そんな状態で長時間の演奏を強いられる本選は不可能だ
  岬 :不可能というのは臆病者の言い訳です

      (中略)
  ヤン:しかし、完調じゃない今の状態で、あの天才サカキバに勝てる訳がない
  岬 :才能というのは怠け者の言い訳です
  ヤン:何て強情なんだよ! さっき柵なんてないと言ったじゃないか
     だったら、いくらだって逃げられるだろう
  岬 :柵はありませんが、義務ならあります

      (中略)
     ある女の子には自分の武器を持っているのなら、
     安穏に長らえるよりもとことん戦えと教えました
     また、ある男子学生には自分で選んだことに最後まで責任を持てと教えました

      (中略)
     今、わたしがステージから下りたら、
     あの時彼女たちとかわした言葉は全部嘘になってしまう

 

天賦の才が神に与えられたものなら、試練もまた神に与えられたもの。てなことを無神論者の私が言っても説得力ないですが。

  

神は我を見捨てず ふたたび剣をとりて戦えとのたもうた(*8)

って言葉があるんですが、そんなん思い出しちゃいました。

 文句なく面白い作品です。ぜひご一読の程を。

《脚注》
(*1)ショパン・コンクール
 ショパンを生んだポーランドにて開催されるピアノコンクール。正確には”フレデリック・ショパン国際ピアノ・コンクール”です。
 なんせ日本人が入賞するだけでもニュースになるという世界で最も権威あるコンクールの一つで、日本人では中村紘子(第7回)、内田光子(第8回)などが受賞してます。
(*2)夏の思い出(作詞 江間章子、作曲 中田喜直)
  夏が来れば 思い出す はるかな尾瀬 とおい空
  きりの中に 浮びくる やさしい影 野の小路
  水芭蕉の花が 咲いている 夢見て咲いている 水のほとり
  しゃくなげ色にたそがれる はるかな尾瀬 とおい空
 この歌を聴いて尾瀬に行かれた方も多いんではないかと。ただし尾瀬で水芭蕉が咲くのは5月末あたりなんでご注意を。
(*3)辻井 伸行
 ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールにおいて日本人として初優勝した盲目のピアニスト。第15回ショパン・コンクールにて”ポーランド批評家賞”を受賞。
(*4)西村由紀江
 大阪出身の作曲家兼ピアニスト。
 1988年から読売テレビで”西村由紀江の日曜はピアノ気分”という番組をやっていて一発で大ハマリ、エレガントなイージーリスニングって感じでしょうか、当時はほとんどCD買ってました。全国区では武田鉄矢”僕は死にましぇん!”で有名なテレビドラマ”101回目のプロポーズ” の音楽を担当、ショパンの”別れの曲”(練習曲作品10第3番ホ長調)を弾いています。
(*5)ミンメイ・アタックか?!
 ”超時空要塞マクロス(石黒昇 バンダイビジュアル)”より。
 戦闘しか知らない異星人に対し歌を流すことによるカルチャーショックを与えることで戦闘不能に陥らせるという作戦です。
 ちなみに、本書では”地獄の黙示録(フランシス・コッポラ、ジェネオン)”と言ってますが。
(*6)さよならドビュッシー(中山七里、宝島社文庫)
 ピアニスト志望の”香月遥”は不慮の火事のため従姉妹の”片桐ルシア”と祖父の”香月玄太郎”を喪い、自身も全身大火傷の大怪我を負う。生き残った彼女はピアノコンクールの優勝にめざし不自由な体ながら師匠であるピアニストの岬洋介とレッスンに励む。しかし周囲では彼女を傷つけようとする細工や、母が殺される事件が発生し・・・
 詳しくはこちらをどうぞ
(*7)突発性難聴
 突発的におきる原因不明の難聴で特定疾患に指定されている難病。坂本龍一、浜崎あゆみ、スガシカオ、大友康平などのアーティストが罹病してるそうです。
(*8)神は我を見捨てず~
 ”ふたり鷹”(新谷かおる 小学館他)”より
 バイクレースの世界耐久選手権のボルドール24時間レースでコケた東条鷹がエンジンを再始動させてレースに復帰する時の言葉。こっちも名作です。

この人はメフィストフェレスだと、私もそう思いました(おやすみラフマニノフ/トウヒ)

 ども、クラシックは好きですが、指揮者やオケの違いなんかま~ったくわからんおぢさん、たいちろ~です。
 会社の先輩で大学時代オーケストラの指揮をやってた人がいまして、その人に言わせると””同じ曲でも指揮者やオケが違えばぜんぜん違う!”らしいんですが、すいません、良くわかりません。まあ、”ダダダダーン!”や”フロイデ! フロイデ!”を除けば(*1)、素人が違う指揮者やオケでフル楽章聴くことなんてめったにないし、ある世代にはトラウマなクラシック“大学祝典序曲(*2)”でもワンパターンでしか聴いたことないし。
 こんな微妙な違いを言葉で表せるかと言うと、スゴイ作家の人だとやっちゃうんですね~ 
 ということで今回ご紹介するのは音楽の小説を超えた推理小説、中山七里の”岬洋介シリーズ”の第2作”おやすみラフマニノフ”であります。

写真はたいちろ~さんの撮影。
羽根木公園の”ドイツトウヒ”です

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【本】おやすみラフマニノフ(中山七里、宝島社文庫)
 ヴァイオリニストを目指す音大生の城戸晶は恋人でチェロ奏者の柘植初音とともに演奏会の練習に励んでいた。そんな時、密室の楽器保管室から時価2億円のストラディバリのチェロが盗まれるという事件が発生する。初音の祖父であり音大の学長、稀代のラフマニノフのピアノ奏者でもある柘植彰良や大学関係者は警察の介入を良しとせず独自に調査を開始。そんな中、学長のピアノが破壊される。
 生徒たちを指導するピアニストの岬洋介が解明した真実とは・・
【花】トウヒ(唐檜)
 マツ科トウヒ属の常緑針葉樹。英語ではspruce(スプルース)
 写真の”ドイツトウヒ(オウシュウトウヒ)”はドイツのシュヴァルツヴァルト(黒森)の木がこれ。トウヒの木材は将棋盤や家具をはじめ、バイオリンやピアノなどの表面に使われているんだそうです。


 先日、岬洋介シリーズの第1作”さよならドビュッシー(*3)”読みました。いや~ハマりましたね。推理小説としても充分面白いですが、なんといっても音楽の描写がすごい。けっこう音楽の専門用語が多いんですが、そんなこと気にならないぐらい

  美鈴のピアノが最強音で装飾を付けた後、更に加速する。
  疾風のように立ちはだかるものをなぎ倒し、怒涛のように全てを包みこんで邁進する。
  どこまでも駆け上がる強い音。
  メロディが巨大な龍となって天上に上がっていく。
  あと六小節。
  あと四小節。
  そしてオケとともに強打和音の四連打を撃ち付けて最終楽章が終わった

 小説内で行われるコンサートの演目”ラフマニノフ ピアノ協奏曲第二番”のクライマックスシーンの描写ですが、まさに圧巻の描写力です。作者の中山七里という人は音楽の専門家ではないんですが(奥様はエレクトーン教師だそうです)、それにしてこの表現ですから、小説家ってやっぱりすごいな~~
 こんな描写がそれぞれの曲につけられるんですがら、ぐいぐい引っ張られること必定。一気に読ませてくれます。

 ストーリーはというと、密室から時価2億円のストラディバリのチェロが盗まれるというイントロから始まります。まあ、素人でもストラディバリが高いことぐらいは知ってますが、この楽器の表面がイタリアフィエンメ渓谷産の赤トウヒで作られてるってのは初めて知りました。で、この楽器の描写がまたすごい!

  それにしても何て豊穣な音だろう
  G線の震えが隣のD線を共振させ、たったの一音がこんなにも心を波立たせる
  楽器全体をびりびりと震わせる有機物特有の音
  やっぱりこれは生き物だ
  このヴァイオリンには血が通い、そして今にも歌いたがってうずうずしている

 こんなキャッチコピーを書かれたら、そりゃいくらお金を出しても買いたくなりそうだな~~

 引用が長くなってすいませんが、それぐらい感動モノです。

 この小説がユニークなのが岬洋介という人のキャラクター。
 決して濃ゆい押しの強いキャラクターじゃないんですが、ピアノを弾かせたり音楽がからむとまるで別人のような感じになっちゃいます。あと人をその気にさせるのもうまいんですな。コンサートマスターになった城戸晶を最後まで引っ張ったのはこの人だし、上記の描写に出てくるピアノ奏者の”美鈴”だって、唯我独尊を絵にかいたようなきつい女性なのに、傑出した個性がオーケストラとのアンサンブルがとれないという弱点を見抜いて

  君の個性を殺さないままオケとアンサンブルを取る方法がある
  知りたくないかい?

   (中略)
  武器なら既に君が持っている。闘い方なら僕が知っている。
  さあ、君は逃げるかい。それとも僕と一緒に闘うかい。

とかいって、オーケストラに参加させちゃうし。このあと、城戸晶がつぶやく

  この人はメフィストフェレスだと、つくづくそう思った

って、まさにそうだよな~~
 メフィストフェレスって”誘惑する悪魔”ってのもあるけど、ほとんど何でもできる能力がありながら神には抗えない悪魔と、天才的なピアノ奏者で指導者としては卓越ていても音楽家として致命的な欠陥を持つ運命ってのもなんとなく二重写しになっているし
 ふだんはあんまり目立たないけど、いざという時には頼れる人ってけっこう好きなタイプです。

 ”岬洋介シリーズ”は今年度上半期に読んだなかでもベストな本。ぜひご一読のほどを


《脚注》
(*1)”ダダダダーン!”や”フロイデ! フロイデ!”を除けば
 ダダダダーン!:ベートーヴェン 交響曲第5番 ハ短調 作品67「運命」
 フロイデ! フロイデ!:ベートーヴェン 交響曲第9番 ニ短調作品125 「合唱付き」
(*2)大学祝典序曲
 ブラームスの演奏会用序曲。てか、おぢさん世代には旺文社の”大学受験ラジオ講座”の主題歌といった方が通りがいいかも。受験が終わって30数年経ちますが、今だにこの曲を聴くとムズ痒いモノがあります。聴いてみたいかたはきいてみたい向きにはこちらをどうぞ。
(*3)さよならドビュッシー(中山七里、宝島社文庫)
 ピアニスト志望の”香月遥”は不慮の火事のため従姉妹の”片桐ルシア”と祖父の”香月玄太郎”を喪い、自身も全身大火傷の大怪我を負う。生き残った彼女はピアノコンクールの優勝にめざし不自由な体ながら師匠であるピアニストの岬洋介とレッスンに励む。しかし周囲では彼女を傷つけようとする細工や、母が殺される事件が発生し・・・
 詳しくはこちらをどうぞ

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