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古典・名作も別に未来の文学者に褒めてもらうために書いてるわけではない(カッパ・ブックスの時代/バンクスマツ)

 ども、古い世代の本の読み手のおぢさん、たいちろ~です。
 長いこと本なんぞを読んでいると”あれ、このレーベルの本って最近見ないな~”ってことがあります。まあ、栄枯盛衰は世の習い、いつの間にか消えてくってのはしょうがないんでしょうが、意外とビックネームなレーベルも無くなってることもあります。
 思いつくところでは、マニアックなSFのラインナップを誇った”サンリオSF文庫(サンリオ)”、学校図書館の定番だった”旺文社文庫(旺文社)”、ライトノベル系では第一作が石津嵐版”宇宙戦艦ヤマト”だった”ソノラマ文庫(朝日ソノラマ)”、イラストに道原かつみを起用した”銀河英雄伝説(田中芳樹)”の”徳間デュアル文庫(徳間書店)”、縦19cm、横11cmとサイズが特殊だった”GomaBooks(ごま書房)”、アニメや特撮の豆本を出していた”大百科シリーズ(勁文社)”などなど。H系では”美少女文庫”のご先祖様”ナポレオン文庫(フランス書院)”や、金子國義の表紙が芸術的だった”富士見ロマン文庫(富士見書房)”なんつ~のもありましたな(*1)。
 でも、このレーベルまで消えてるとは思いませんでした。ということで、今回ご紹介するのは消えたレーベルを扱った本”カッパ・ブックスの時代”であります。


写真はwikipediaのHPより。バンクスマツです。
Photo


【本】カッパ・ブックスの時代(新海均、河出書房新社)
 知識人向けに出版された”岩波新書(岩波書店)”に対し、大衆向けに出版された”カッパ・ブックス(光文社)”。その誕生から終焉までをカッパ・ブックスの最後の編集部員だった新海均が描いたノンフィクション。
【花】バンクスマツ(バンクス松)
 マツ科マツ属。自家受粉を避けるために花粉を風に乗って飛ばす”風媒花”という特徴があります。生物は進化の過程でいろいろな形質を獲得しますが、この松が適応したのは火事。松かさは樹上に何年もとどまって、50℃以上の熱を受けない限り種子を散布することはないんだとか。よっぽど山火事が多かったんでしょうかね。


 さて、”カッパ・ブックス”というレーベルを出していたのは”光文社”という出版社ですが、この出版社を聞いて何を思い出すでしょうか? 
 お嬢様方だったら、”JJ”や”CLASSY.”、奥様方だったら”女性自身”、定年後のおぢさま方だったら”処女探し(*2)”の”週刊宝石”あたりでしょうか? まあ、出版社なんか気にしない方のほうが多いか・・・
 ある世代のおぢさんにとってはやっぱりラッパを吹くカッパのマークの”カッパ・ブックス”でしょうか。本書の冒頭にミリオンセラーになった17冊が出ていますが、私の記憶だと

・カッパブックスで読んだ本
  頭の体操 第一集、第二集、第三集、第四集(ともに多湖輝)
  日本沈没(上・下)(小松左京)、民法入門(佐賀潜)
・カッパ・ブックスかどうかは分かんないけど読んだ本
  点と線ゼロの焦点砂の器(ともに松本清張)、
・記憶があいまいだけど確か持ってた本
  冠婚葬祭入門続冠婚葬祭入門(ともに塩月弥栄子)

あたり。松本清張を除けば出版はだいたい1960年代後半から70年代前半ぐらいですから読んだのは中学校ぐらいだったかな。よくお世話になったモンです(*3)。

 で、この大躍進を支えたのが光文社社長で天才的なプロデューサー編集者でもあった”神吉晴夫”とその部下で同じく天才的なイノベーター編集者の”長瀬博昭”。(プロデューサー、イノベーターの発言は長瀬博昭の部下だった上野征洋のもの。本書より)。本書の前半はこの2人の活躍に焦点を当てています。

 この二人の話で面白かったのを挙げて見ます。まずは神吉晴夫から

  彼(近松門左衛門)は、当時の京・大阪の裏だなのかみさんたちの井戸端会議での
  ウワサ話、心中や人殺し、暴行事件をとりあげて、町人たちを喜ばすために
  そのニュースを人形浄瑠璃にしたものじゃないか
  作者・近松門左衛門は、三百年後の文学者たちから、
  これこそ日本を代表する芸術作品だと褒めてもらうために書いたかというと、
  そんなもんじゃない。
  サービス精神で書いたものが、
  結果において、人間精神の底にふれたものになっているからこそ、
  今日もなお、生命をもっている

 これは”百年たっても千年たっても残る、なぜ古典となるような本を出さないのか”と言われたことに対する反論。
 確か”ドラゴン桜(*4)”(三田紀房)の中で桜木先生が”源氏物語”をして

  古典の作品はスケベなやつらがヒマつぶしに書いたものなんだ。
  だから中身はたいしたこと書いちゃいない。
  まあいいとこ、当時のオバハンとオッサンの世間話ってやつだ。

って話をしてますが、一脈通じるものがあります。

  いいのか悪いのかは別として、
  本はとっておくものから、捨てる(消費する)ものへ変えた。
  大量生産と大量消費時代にピタリはまったベストセラー。
  長瀬はよく、このことを判っていた。
  そして『マンネリスムが最大の敵だ』とよく語っていた。

 これは、上記の上野征洋が長瀬博昭について語ったものから。
 子供のころはお金がなかったんでなかなか買えなかったし、確かに捨てるってこともほとんどしませんでしたね~~(*5) 本書の扱っている時代もほぼ高度成長時代と重なっているんで、こういった発想の転換が必要なんでしょうね。
 今や紙の本だけで年間8万冊、インターネットだ同人誌ブームだと大量生産の時代。さらには電子書籍の拡大により”大量蓄積”すら可能になった昨今、本をめぐる光景はどう変わってくんでしょうかね

 本書の後半は、神吉晴夫の経営策(主に成果評価主義や抜擢人事)に反発して中高年を中心に労働争議が勃発。このあたりを中心に描かれています。これにより優秀な編集者がスピンアウトして祥伝社の”ノン・ブック”、ごま書房の”GomaBooks”、かんき出版の”かんきブック”なんかに受け継がれていったとのこと。この辺読んでて思い出したのが”バンクスマツ”って奴。これは火事になって種をばらまくって木ですが、まさに社内が火事ボ~ボ~でそこなら飛んでった種(編集者)がいろんなところで芽吹いてった感じがです。

 本書はカッパ・ブックスの興亡を縦軸に、当時のベストセラーシーンを横軸に描かれていて、おぢさん世代には懐かしい書名がいっぱい出てきてそれを追っかけるだけでも楽しいです。でも、ちょっと不満を言うなら、カッパ・ブックスが衰退に至る原因をもうちょっと踏み込んで欲しかったな~~ 長きに渡る労働争議と優秀な編集者の離反、トップの無責任な経営、新レーベル立ち上げの失敗、女性誌へのリソースシフトなどいろいろあったようですが、そのへんだけでも1冊書けそうなネタなのに・・・

《脚注》
(*1)マニアックなSFのラインナップを誇った~
 他のレーベルで再版されているものもありますがほとんどは絶版になってて、モノによっては古書市場で良い値で取引されてるんだとか。あのキティちゃんを販売してるサンリオが何を思ったか出版した”サンリオSF文庫”なんて1万円近くするものもあるそうなんで、本棚をひっくりかえせば意外とお宝本があったりするかも。
(*2)処女探し
 確か、一般のお嬢さんのピンナップ写真を観て処女かどうかを当てるという企画でした。もちろん自己申告制。いかにもやってそう(何を?)な人が処女だったり、清楚を絵に描いたようなお嬢さんがお済ませになっておられるとかのギャップ萌えを楽しむゲーム。子供のころに読みましたが”正直に答えてるんだろうか?!”と思ったモンです。
(*3)よくお世話になったモンです
 逆にナゼか読んでないのが”「NO」と言える日本”。1989年に発行されたソニーの盛田昭夫元会長と前東京都知事の石原慎太郎の共著。バブルイケイケ、石原慎太郎は海部俊樹と自民党総裁の座を争ってた時代です。今読んだら笑えるんだろうな~~
(*4)ドラゴン桜(三田紀房、講談社)
 落ちこぼれ高校生が1年間で東大合格を目指すという受験漫画。”東大に合格する”という一点のみに絞った受験ノウハウは秀逸。効果があるかどうかは知らんけど。
 ちなみに神吉晴夫は光文社の親会社である講談社に入社後、光文社に移籍しています
(*5)捨てるってこともほとんどしませんでしたね~~
 先日事情があって本を1.500冊ほど処分しました。なんせ、押し入れの中の大半を占拠していたもので。結婚した時にも実家の本を処分しましたが、そん時は1階の部屋にいた両親から”お前が引っ越したら、障子が開きやすくなった”と言われました。根太が歪むほど本があったんでしょうか・・・


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