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2013年1月27日 - 2013年2月2日

”今ここにある危機”ってトム・クランシーを所信表明演説で使うかね(今そこにある危機/コカノキ)

 ども、CIA情報担当補佐官のおじさん、たいちろ~です。(ウソです)
 先日(2013年1月28日)にニュースで安倍首相の所信表明演説を聞いてましたら、こんな発言がでてきました。

  今ここにある危機を突破し、
  未来を切りひらいていく覚悟を共に分かち合おうではありませんか

 へぇ~、ここでトム・クランシー(*1)持ってくるか! と思いながらも、でもこの発言をした大統領って悪役じゃなかったっけ?!
 ということで、今回ご紹介するのはジャック・ライアン(*2)シリーズの1冊”今そこにある危機”であります。

Kokanokihana
 写真は昭和大学薬学部薬用植物園ホームページより。コカノキです。

【本】いまそこにある危機(トム・クランシー 文春文庫)
【DVD】今そこにある危機
   (原作 トム・クランシー、主演 ハリソン・フォード、監督 フィリップ・ノイス)
 CIA副長官代行を任命されたライアンは、大統領が指示した南米の麻薬カルテル組織撲滅の調査を開始する。一方、大統領は密かに組織への攻撃を大統領補佐官に命令していた。しかし、組織のNo.2と裏取引をした補佐官は侵攻中の兵士たちを見殺しにする・・・
 原題は”Clear and Present Danger”。1994年にライアン役をハリソン・フォードで映画化。
【花】コカノキ
 コカノキ科コカ属の常緑低木樹。コカの葉からコカイン(麻薬)を抽出できます。
 コカインによる危険性から、コカノキ、コカの葉を含め栽培・持ち込み・流通等が厳しく規制されているというヤバいシロモノ。さすがに写真持っていないので、昭和大学のHPから転載しました。


 

 さて、安倍首相が何気に使っている”今ここにある危機”という言葉ですが、映画のシーンでの使われ方はこんな感じ。
 麻薬撲滅に成果の上がらない状況に苛立った大統領と補佐官の会話。

  大統領:私はこの国へなだれ流れ込んでくる麻薬の流れを食い止めると
      公約したんだぞ
        (中略)
  補佐官:どのような措置を取れとおっしゃるので?
  大統領:私が望んでいる処置というは、口には出せんと分かるっとるだろうが
  補佐官:しかし、それだけでは判断のしようが
  大統領:ああした麻薬カルテルの存在こそ、
      我が合衆国にとって国家の安全を脅かす
      ”今そこにある危機”だよ

      (These drug cartels represent
       a clear and present danger
       to the national security 
       of the United States)(*3)

 意訳すると

  手段は選ぶな。ただし、私は知らないことにしろ

政治的に正しい翻訳
をすると

  それは、補佐官のやったことですから

ってな、感じでしょうか。
実際に、終盤でこの事件の顛末を補佐官から聞かされた後のライアンでの会話では全く同じような抗弁をしてますし。このシーンで興味深い大統領の発言ってのが

  大統領 :我が国にもはや、スキャンダルで揺れている余裕はない
       国を守るためには、政治の空白を作ってはならん
       トップに立つ人間への疑惑は国益に反する
       責任は君達がとれ

        (中略)
       後は全部グリ-アにかぶせればいい。そうとも、彼を道連れにすることだ
       君の責任は少なくなる
       ま、うまく踊ることだよ。政界という舞踏会でな
  ライアン:せっかくですが、私はダンスは嫌いです

 なんだかな~~。政権末期になるとなんとなく言いだしそうな話だし。
 ここで出てくるグリ-アというのはCIA副長官にして、ジャックの上司である提督。かなり人望もある人物です。大統領は”死人に口なし”ぐらいの気持ちでしょうが、この人に罪をなすりつけろという一言がライアンに対するダメ押しになりました。

 末期ガンに侵されて病床にあるグリ-ア提督に、ライアンが状況を報告する会話。ライアンにとっては遺言みたいなものになりました。

  ライアン:掘れば掘るほどいやになります
       これ以上掘っても、誰も喜ばない
  グリ-ア:誓っただろう。覚えてるか。
       初めて公務についた日に、
       君は国家のために力を尽くして働くという誓いを立てたはずだ。
       君のボスに対して。大統領ではないぞ。
       誓いの言葉を、君は、大統領の雇い主でもある国民に対して立てたはずだぞ
       その誓いを全うしろ

 この高潔さって、まさに大統領と対極にあるものです。

 映画では、結局、上院監視委員会に大統領を告発するシーンで終わっています。

 ”今そこにある危機”は原作が1989年、映画の公開が1994年ともう20年近く昔の作品ですので、こんな昔の話を引っ張り出してくるコンジョ曲がりはそうそういないでしょうが、言葉ってのはいろんなこと連想させちゃうんですよねぇ。
 ま、できれば、安倍総理退陣の時に”ああ、やっぱりねぇ”と言わなくて済むようにして欲しいと一国民としては思うのであります。


《脚注》
(*1)トム・クランシー
 アメリカのベストセラー作家。代表作は今回ご紹介するジャック・ライアンシリーズ(”レッド・オクトーバーを追え”、”愛国者のゲーム(パトリオット・ゲーム)”、”恐怖の総和”、”日米開戦”など。
(*2)ジャック・ライアン
 ”ジャック・ライアンシリーズ”の主人公。CIA情報担当副長官、国家安全保障問題担当大統領補佐官などを歴任の上、アメリカ大統領に就任。
 CIAというと007シリーズのジェームス・ボンドのようにドンパチやるイメージがありますか、ライアンは”情報分析”が専門のどっちかというと学者に近い人(実際に博士やドクターの称号で呼ばれてます)
(*3)Clear and Present Danger
 ”Present”は(ほかの所でなく)ここ[そこ]にいる、今起こっているという意味の形容詞。ですので、”ここ”でも”そこ”でも同じ文脈です。
 その上に出てくる”represent”は~を象徴する、~を代表する、~と同等であるという動詞。原文ではちゃんと掛け言葉になってるんですね。

理想的なノマドってのも命がけのようです(用心棒/桑)

 ども、さすらいの用心棒のおじさん、たいちろ~です。(ウソです)
 前回、”ノマド(*1)”の話をしたんで、そのおまけです。
 理想的なノマドな人のイメージっていうと

  ①特定の組織に属さず仕事をするフリーランスな人(一匹狼またはチーム)
  ②専門的な仕事に従事する人が多い
    (コンピュータやWebの運用管理者、ライター、コンサルタントなど)
  ③ハイスペックな能力
    (職業的な技能、知力、集中力、コラボレーション力、人間的な魅力など)
  ④場所にこだわらず、どこでも仕事をこなす

てな感じです。具体的にどんなんかな~と思ってたら、いましたね理想的な人が。
 ということで、今回ご紹介するのは理想的なノマドの人、黒澤明監督の名作”用心棒”であります。


0111
 写真はたいちろ~さんの撮影。近所で見かけた山桑です。


【DVD】用心棒(主演 三船敏郎、監督 黒澤明、東宝)
 2組のヤクザが縄張り争いに明け暮れ、荒廃した小さな宿場町。そこに一人の凄腕の浪人がやってくる。彼の名は”桑畑三十郎(三船敏郎)”。居酒屋の権爺(東野英治郎(*2))から事情を聞いた三十郎は、用心棒として雇われる振りをして、双方のヤクザを同士打ちさせようと画策する・・・
 黒澤明監督による娯楽時代劇の名作。主演の三船敏郎も”七人の侍(*3)”とは違ったいい味出しています。
【花】桑(くわ)
 クワ科クワ属の総称。葉はカイコの餌として利用されます。
 三十郎が名前を聞かれた時、とっさに名乗ったのは廊下ら”桑畑”が見えていたから(*4)。この宿場ではカイコと絹の生産を行っていて、三十郎が拉致された子平一家を逃がす時に襲撃を偽装するため天井からざさぁっとカイコの繭が落ちてくるシーンなんかも印象的に使われてます。


 ”用心棒”の主人公”桑畑三十郎”がいかにノマド的かっていうとこんな感じです。

〔特定の組織に属さず仕事をするフリーランスな人〕
 さすらいの浪人ですので、組織には属していません。
 抗争に付け込んでやくざの組に売り込んでいますが、一時的な雇用で正社員(構成員?)になる気もなさそうですし、雇用主(ヤクザの親分)もそうする気はなさそうです。

〔専門的な仕事に従事する人が多い〕

 この時代の侍が専門的な仕事かどうかは微妙ですが、”用心棒”を傭兵かボディーガードと考えると専門的な仕事と言えそうです。

〔ハイスペックな能力〕
 数人のヤクザを一瞬にたたっ切る技量は相当なもの。ヤクザ同士を相打ちさせるという構想力や実行力、自分の技量をオークション?にかけてせり上げる交渉力なんかも大したものです。権爺が命がけで助けようとする義侠心と精神力、子平一家に金を渡して逃がしてやるような人間的な魅力にもあふれています。
 これらを総合すると、三十郎は相当ハイスペックな人物のようです。もし三十郎がどこかの殿様に士官してたとすればかなり出世してたかも。

〔場所にこだわらず、どこでも仕事をこなす〕
 一時的にヤクザの家にいても、基本的には権爺の居酒屋を根城にしています。
 まあ、今のノマドがスターバックスなんかで仕事をしているのと似たようなモンかと

 ことほど左様に”桑畑三十郎”って理想的なノマドなんだな~と思っちゃいます。

 もっともこれは”桑畑三十郎”が用心棒として傑出した能力を持っているからであって、普通の”用心棒”ってけっこうかわいそうな存在。組同士が手打ちになって用心棒が不必要になると、即日解雇(*5)。手切れ金=退職金が出ているだけましかもしれませんが。 もっとも、親分が再度”用心棒”を集めようとしても集まらなくって、三十郎から

  三十郎:無理もねえや
       この前 集めた奴ら
(解雇された用心棒たち)
       おめえたちの仕打ちを褒めてあるくはずはねえからな

 まあ、相応の実力がなければぞんざいな扱いをされるようです。

 もっとも、三十郎の腕をもってしても安心かと言うとそうでもなさそうです。三十郎へ用心棒代を払うかどうかと会話するの組の親分と女房、息子の会話(雇用する経営者層の会話ってとこでしょうか)

  女房:でも、お前さん そうなりゃまた二十五両だろう
     こっちが勝ったところであいつを殺しゃあ
     まるまる五十両助かるんだがねえ
  息子:汚なすぎるぜ、そんな
  女房:お黙り! それぐらいのことができなきゃ お父っあんの跡目は継げないよ!
     博打打ちにきれいも汚いもあるもんかい
  親分:そうだ、おっ母の言う通りだ
     人殺し 盗っ人と言われるようにならなきゃ蔵はたたねえ

 こうなってくると、ノマドも命がけです。

 ”用心棒”はモノクロ映画ながら今見ても面白い映画。ノマド云々を別にしても楽しめるお勧めの映画です。


《脚注》
(*1)ノマド
 読んだのは”仕事をするのにオフィスはいらない ノマドワーキングのすすめ(佐々木俊尚 光文社新書)”です。
 本書ではノマドを”遊牧民がラクダという砂漠で最強の乗り物を駆り、オアシスからオアシスへと移動しながら生活しているように、狭苦しいオフィスを出て、さまざまな場所を移動しながら働いている人たちです”と言ってます。詳しくはこちらをどうぞ。
(*2)東野英治郎
 若い人にはわからんかもしれませんが、TV時代劇で初代”水戸黄門”を演じた人です(1969年の第1部から1983年の第13部まで)。
 最近は”光圀伝(冲方 丁、角川書店)”でマッチョな黄門様が出てくるようですが、おぢさん世代の黄門様といえばやっぱりこの人です。
(*3)七人の侍(主演 志村喬、三船敏郎、監督 黒澤明、東宝)
 野武士が野盗化していた戦国時代。貧しい百姓たちがは侍を雇って対抗しようとする。雇われた島田勘兵衛(志村喬)、菊千代(三船敏郎)ら七人の侍たちは百姓たちとともに野武士に立ち向かう。
 黒澤明の最高傑作。三船敏郎演じる菊千代は三十郎とはとはまた違った荒々しい魅力を見せてくれます。お勧めの映画です。
(*4)廊下ら”桑畑”が見えていたから
 三十郎はこのネタがお気に入りのようで、続編の”椿三十郎”でも同じの使っています。”もうそろそろ四十郎だがな”と言ってるので、三十郎は30代後半の模様。しかし、この歳で士官もせずにふらふら放浪してるってのもまあ、ノマドらしいとも言えますが・・・
(*5)用心棒が不必要になると、即日解雇
 まあ、現代でいう雇い止めとか派遣切りだって似たようなんじゃないかと。
 ”用心棒”のエピソードでもそうですが、あんまし無体なことをやってると後でしっぺ返しがありますよ、きっと。

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