« 2013年10月20日 - 2013年10月26日 | トップページ | 2013年11月3日 - 2013年11月9日 »

2013年10月27日 - 2013年11月2日

”タチコマ”誕生秘話だったりして・・(富士学校まめたん研究分室/攻殻機動隊/10式戦車)

 ども、ミリタリーオタクというより単なるメカ好きのおぢさん、たいちろ~です。
 SFの中に”開発モノ”としかいいようのないジャンルがあります。リアルの社会だと”プロジェクトX(*1)”や”黒部の太陽(*2)”みたいのをSFの中でやっちゃうような作品。代表的なのは”楽園の泉(*3)”とか”第六大陸(*4)”みたいなのといえばSFファンにはご理解いただけるかと。
 まあ、”前田建設ファンタジー営業部(*5)”なんかもそうですが、こういう一見SFでしかないものを真面目に作ったらどうなるかといったことを真面目に扱った本っていうのが結構好きなんですが、先日ロボットモノでこういうのを扱った本を読みました。ということで、今回ご紹介するのはそんな開発を扱った”富士学校まめたん研究分室”であります。


102
写真はたいちろ~さんの撮影。
富士総合火力演習(2013年 予行演習)での”10式戦車”です(横に走りながら砲塔をぶっ放すところ)。


【本】富士学校まめたん研究分室(芝村裕吏、ハヤカワ文庫)
 陸上自衛隊富士学校勤務の藤崎綾乃はロボットを研究するめんどくさいアラサー工学系女子(処女)。セクハラ騒動の責任を押し付けられて閑職にまわされるが、”自分の必要性を認めさせてから辞めてやる!”と研究に着手したのがローコストな自立型戦車”まめたん”だった。同僚でおせっかいな”伊藤信士”の協力で発足した研究はいつのまにやら一大プロジェクトになって・・・
 最近自衛隊モノ流行りですが、その中でも開発を扱ったという異色のミリタリー系ラブコメ開発エンタテインメントSFです。
【DVD】攻殻機動隊(士郎正宗 講談社)
 士郎正宗による漫画及び原作とするアニメ。電脳や義体(サイボーグ)、ロボットなどが登場するやたらマニアックなサイバーパンクSFです。
【乗り物】10式戦車(ひとまるしきせんしゃ)
 2009年に制式化された日本の四代目主力戦車。
 主砲に自動追尾機能付き44口径120mm滑腔砲、最高時速70kmの高速移動が可能で実際に演習では走行中に高速移動しながら正確に目標を破壊するというのをやってました。また、基幹連隊指揮統制システム(Regiment Command Control system, ReCs)という戦術レベルのC4I(戦車同士が相互に情報をやりとりし、連携して攻撃ができるシステム)が組み込まれています。


 ところで、上記にある10式戦車ですが、wikipediaによると開発費が約484億円、単価約9.5億円。高いと見るか、安いと見るかは人それぞれでしょうが(*6)、まあ、単体の乗り物としては高いんでしょうね。
 いきなり真面目な話になりますが、管理会計ではモノの値段というのは簡単に言うと下記の式で決まります。

  利益  = 売上高 - 変動費 - 固定費
  売上高 = 単価 × 販売数量
  損益分岐点売上高(利益が0となる点)=固定費÷{1-(変動費÷売上高)}

 

固定費とは人件費、研究開発費用、設備関係費用(減価償却費)など、生産量にかかわらず固定的にかかるコスト、変動費は原材料費や仕入原価など製品を1ケ作る度に増加するコストのことです。
 なぜ、兵器が高いかというと開発費がめちゃめちゃ高い上に、転売が効きにくいので該当する兵器でコストを回収しないといけない。生産数量が限られるから固定費率も高く品質の良い物を使ってそうなので変動費も高そう。つまり1台あたり単価は調達台数が少なくなるほど高くなります。それでも、戦闘機なんかだとハードウェアよりパイロット育成の費用が高いそうですから、映画みたいに簡単に落っことされた日にゃお金がいくらあっても足りません。(*7)

 ということを理解した上で、本書に登場する”まめたん”こと”20式自動歩兵(*8)(にまるしきじどうほへい)”の開発を見ると、実に理にかなっているんですな。

①機能の絞り込み
 要求される機動力、攻撃力、防御力のうち機動力に特化してます。元々歩兵の代わりに戦車の死角をカバーして、ビル陰などに潜む歩兵を掃討することに重点を置くというコンセプトなので重装備はいらないという考え方。機能の絞り込みによる開発・生産コスト=固定費の削減です。作品中でも水陸両用機能や空挺能力の追加の話がでてきますが、前者はお断り、後者は外付けオプションで対応していますがこれは正解。実際にシステムの開発でも”せっかく作るんだからあれもこれもやらそう!”とかやりだすと納期は伸びるわコストは膨らむわとロクなことになりません

②量産化が前提
 いきなり10万台の作成ってことになってますが、これだけ量産すれば1台あたり100万円を切るんだとか。ダイハツの軽自動車”ミラシリーズ”なみの低価格です。ワンオフの試作機が7000万円ぐらいかかるだろうと言ってますので、相当なコスト削減です。大量生産すると1台あたりの固定費は下がりますし、大量発注による調達コストの削減もありますから、かなり効果が見込めます。フォード・モデルTに代表されるマス・プロダクション手法大幅なコスト削減を実現しましたし、ウェポンシステムでは(バリエーションはあっても)一律装備のほうが望ましいでしょうから、なおさらです。

③あり物はできるだけ使う
 多足歩行基礎理論は公表されている論文から、銃器関係は人間の使うものをそのまま流用、作成は日立建機の土浦工場(*9)、操作はタブレット端末(*10)。新兵器のわりにはけっこうありもので組み立てています。まあ、一からやれば1年半なんかでロールアウトしないでしょうし。
 最近のシステム開発でも機能の多くをミドルウェアみたいな汎用品にして、ビジネスロジック部分のみを開発するという手法が流行りですが同じようなもの。まあ、多少機能を割り切ってでも”汎用品でもなんでも使えるものはなんでも使う”って貧乏人の発想は開発費、原材料費を下げるには有効なんでしょう。

④コンパクトに軽く作る

 まあ、なんでも小さくすればコストが下がるとは限りませんが、普通はコンパクトに作ればその分材料費(変動費)は安くなります。防御力に劣るまめたんは物陰に隠れるなんて使い方も想定されますし、小さい方が弾が当たりにくいのでなにかといいことありそう。また小さく作ると軽くなるので輸送にも便利。本書では3トン半トラックで16台搭載できると書いてますが、輸送機による搬送数も増えます。これは”兵装をすばやく展開する”という戦術的メリットにつながります。
 上記の10式戦車の最高速度を見て”あんまし早くない”と思われたかもしれませんがなんせ全備重量約44トンもあるシロモノなのでしょうがないか。どう見ても燃費悪そうですからランニングコストもばかにならなさそうだし。この点、まめたんは燃費よさそうだしな~

⑤全体最適化を図る
 一台一台の性能はあまり高くありませんが、10式戦車にも搭載されている”ReCs(基幹連隊指揮統制システム)”の2型というのが組み込まれていて、それぞれが連動して稼働、作中でも700mの遠距離狙撃を成功させてます。このように低性能のセンサーしか搭載してなくても相互補完するとか、高度な作戦機能を外出しするのも1台あたりのコストを下げることにつながります。現実でもコンピューターの分散処理みたいに、1台あたりの性能が低いCPUでも数を集りゃスーパーコンピュータ並みの性能をたたき出すってことをやってます。簡単ではないんですけどね。

⑥人は乗せない
 実は機械の中に人を乗せないというのは、スペース面、防御力を削減できるなどメリットが。このあたりは”機能を絞る”にもつながります。それに、もし人間が乗るとなると10万人の自衛隊員が必要なわけで、開発以前に運用コストがかかりすぎます。まあ、平時では人間が一番コストがかかりますから(戦時ではこの限りではありませんが・・・

 ところで、この”まめたん”って、なんとなく攻殻機動隊に出てくる”タチコマ”のご先祖様って感じがするんだよな~~ (こんな感じ)
  Photo

 人こそ乗りますが、丸っこい胴体にマニピュレータ、車輪と4本脚足のハイブリットで移動するとか、自立行動のできるAIがネットワークにより協調して動くとか。
 まあ、”タチコマ”の開発秘話があるとしたら意外とこんな感じだったりして。そうだったら面白いだろうなぁ。
 まあ、本編とあんまし関係ない話ばっかしか来ましたが、これも開発マニアの性ということでご容赦のほどを。ストーリーもめんどくさいアラサーのツンデレもとっても面白い本です。


《脚注》
(*1)プロジェクトX
 2000年代前半にNHKで放映されたドキュメンタリー番組及び書籍。無名のリーダー達を主人公とした開発物語は全国のお父さん達が感涙にむせび泣いたものです。日本の産業史を開発者側から捉えたという点では秀逸な番組でした。
(*2)黒部の太陽(監督 熊井啓、主演 三船敏郎、石原裕次郎 ポニーキャニオン)
 黒部第四ダム建設の苦闘を描いた木本正次の小説を三船敏郎、石原裕次郎の主演で1968年に映画化。観たい映画の一つだったんですが、石原裕次郎が”映画館の大迫力の画面・音声で見て欲しい”と言い残したことから長らくDVD化されていませんでした。2013年にDVDが出たんでさっそく観ましたが期待を裏切らない良い映画です。
(*3)楽園の泉(アーサー・C・クラーク ハヤカワ文庫)
 赤道上空の静止衛星とスリカンダの山頂をケーブルをつなげて地球~宇宙間の”軌道エレベーター”を建造を作成するというSF。カーボンナノチューブの発見により実現のための研究が行われているという現実がSFに追いついてきたモノの一つです。
 高校時代のSFマニアの友人が新婚旅行にスリランカに行きましたが、きっとこの山を見に行ったんだろうな~ 
(*4)第六大陸(小川一水 ハヤカワ文庫)
 ”月面に結婚式場を建てる”というお話。なんとなく、”ひょっとしたら出来ちゃうかも?!”と思わせる建築系エンタテインメントSFです。
(*5)前田建設ファンタジー営業部
 ”マジンガーZの格納庫”や”銀河鉄道999の高架橋”などを実際に作ったらいくらぐらいかかるかを前田建設工業(実在の会社です)が真面目に見積もった本。うちの会社もこれぐらい洒落っ気のあることやんないかなぁ、”MAGI”(エヴァンゲリオンに登場するスーパーコンピューター)の見積もりとか・・・
(*6)高いと見るか、安いと見るかは~
 ちなみに、同じく富士総合火力演習で飛んでいたヘリコプター”AH-64D(アパッチ・ロングボウ)”は機体の価格が83億円、アメリカの最新鋭ステルス戦闘機”F-22(ラプター)”に至っては初期生産1台あたりコストは約1億5,000万ドル(約148億円)だとか(諸説あるようです)。まあ、貧乏人は戦争なんかしちゃいかんということです。
(*7)映画みたいに簡単に落っことされた日にゃ
 自衛隊の装備って、おっそろしく長く使ってるケースがあります。富士総合火力演習でも登場したヘリコプター”CH-47(チヌーク)”なんて初飛行が1961年ですが50年たった今でも現役で飛んでいます。まあ、おいそれとリプレースなんかできないんでしょうなぁ
(*8)20式自動歩兵
 名称の”○○式”の○○は採定年度(制式採用された年)の下二桁なので、この物語は2020年頃の話ってことになります。ま、東京オリンピックの時に新国立競技場の周りを”まめたん”が警備してるってのはまさにSFみたいでしょうね。
(*9)日立建機の土浦工場
 日立建機は建設機械、運搬機械などの製造・販売などを行う実在の企業。土浦工場も実際にあります。建物や生産ラインぐらいは作るかもしれませんが、あり物の工場を使うほうが新しく生産設備を準備するよりゃ圧倒的に安く済むでしょう。
(*10)操作はタブレット端末
 市販品とは書いてませんが、まあ、自衛隊仕様にしたとしても基礎技術は市販品をベースだと思われます。実際、10万台のまめたんに対しコントローラーは予備機も入れれば数万台ぐらい必要でしょうから、このぐらい数がでれば市販品の高級機よりやや高いぐらいの価格になるんじゃないかと。

体制に対する民衆の信頼をえるには、公平な裁判と、公平な税制度があればいい(国家はなぜ衰退するのか/銀河英雄伝説/食虫植物)

 ども、脱税どころか節税するお金もないおぢさん、たいちろ~です。
 消費税が5%から8%に上がることが決まったようです。まあ、食べ物と酒と本以外にほとんどお金を使わない人なので、上がるからと言って節税ができるようなもんじゃありません。せいぜい”B○○K○FFの105円棚は110円になるのか? 108円になるのか?”が気になるぐらいでしょうか。
 さて、今回の税金のアップが景気にどう影響するかが焦点になってますが、税制ってもっと根深くて国家が繁栄するのか衰退するのかのターニングポイントでもあります。ということで、今回ご紹介するのはそんな国家の繁栄・貧困の起源を分析した本”国家はなぜ衰退するのか”であります。


Photo

写真はたいちろ~さんの撮影。
尾瀬牛首十字路付近に自生するナガバノモウセンゴケです。


【本】国家はなぜ衰退するのか
 (ダロン・アセモグル、ジェイムズ・A・ロビンソン 早川書房)
 サブタイトルが”権力・繁栄・貧困の起源”とあるように、世界にはなぜ豊かな国と貧しい国が存在するのかを古代ローマから、名誉革命期のイングランド、日本、ソ連、ラテンアメリカとアフリカ諸国までの事例を分析し繁栄と衰退の要因を分析した本。
【本】銀河英雄伝説(田中芳樹、創元SF文庫他)
 銀河系にまでその範囲を拡大させた人類は銀河連邦を成立させるが、社会が閉塞感する中、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムは独裁政権を確立し”銀河帝国”を建国した。帝国暦164年、アーレ・ハイネセンは帝国からの逃亡に成功し、民主共和政治を礎とする”自由惑星同盟”を建国した。その後、退廃と停滞の続く”銀河帝国”、政治的な腐敗にみまわれる”自由惑星同盟”は150年にわたる戦争状態に陥る。その状況を打破したのが帝国軍の”常勝の英雄”ラインハルト・フォン・ローエングラムと同盟軍の”不敗の名将”ヤン・ウェンリーであった・・・
 銀河系に広がる人類の興亡を描いた一大SF長編小説。お勧めです。
【花】食虫植物
 食虫という習性を持っている植物の総称。一般的には光合成はするんですが、土地が痩せてるんで虫を食べて栄養補給をしてるんだとか。上記のモウセンゴケも湿地帯に自生しています。先端の花っぽいのは実は葉で、粘毛から甘い香りのする粘液を分泌して虫を捕獲します。


 結論から言うと国家が繁栄するか衰退するかの最大の要因は地理でも、気候でも、文化でも、為政者の無知でもなく、政治・経済上の”制度”と結論づけています。まあ、東西ベルリン(*1)や韓国と北朝鮮なんて分断されたのは第二次世界大戦後の話ですし、この期間での経済発展差の発生は地理や、気候、文化の差では説明しにくいでしょうね。

 では、なぜ国家の繁栄にはどんな”制度”なのかというとポイントは2つ

〔包括的制度〕
 制度には”包括的制度”と”収奪的制度”があるそうで、”収奪的”とははエリート層(国王や貴族、独裁政権のトップ)が利益を独占するための制度。これに対応するのが”包括的”。多元的つまりステークホルダーがたくさんいる中で、体制のトップを選挙によって選出でき、利益が適正に分散されるような制度です。
 まあ、政治的制度と経済的制度とがあるんで4つの象限に分かれるんですが、ここではひとまとめにしときます

〔中央集権体制〕
 発展をするためには”制度”を施行(強制)するための体制が必要で、それが国家内で集権的である必要があります。まあ、現代日本が中央集権的、群雄割拠した戦国時代が分権的といえばわかりやすいかも(*2)。現代では中央集権が成立せず分権的勢力が権力闘争をすると”内乱”になります。

 で、繁栄をするためにはこの組み合わせで、中央集権体制でかつ、包括的制度が確立しているのが望ましいとのこと。でないと革新に至るモチベーションが発生しないからだそうです。
 社会が”繁栄=成長”するには従来と違うやり方(発想や技術、生産体制)などが必要になります。で、こういったものを作りだそうというエンジンがモチベーション。ところが、モチベーションというのは

  ①自分が行ったモチベーションに対する受益が保証されている
    (少なくとも得られるであろう利益を理不尽に収奪されない)
  ②モチベーションに対して不当な弾圧が加えられない

が担保されている必要があります。

 ①はたとえば、春に自分の植えた野菜が、秋の収穫期に土地ごと持ってかれる可能性があれば、だれも真面目に耕作しようとは思いません。ですので、モチベーション以前に生産性の向上自体が望めません。
 ②はちょっと解かりやすいにくいです。普通なら”モチベーションによる生産性や利便性の向上は社会にとって良いこと”と思いがちですが、モチベーションには創造的破壊という側面があって、ここで”破壊”されるのが往々にして旧勢力や職を失う人だったりします。モチベーションにより経済的利益を得るのが新興の商人だったりすると彼らが力をつけることで政治権利を求めるようになり、旧勢力の王族、貴族にとって望ましいものではないですし、機械による生産性の向上は旧態然とした作業に従事している労働者の職業を奪われるんじゃないかと恐れられちゃいます。その典型が”ラッダイト運動(*3)”。世界史でやったけど覚えてますか? 歴史上の話と思われるかもしれませんが、パソコンの登場期に”IT革命に取り残されたおぢさんの仕事がなくなる!”みたいな話が真面目にあったんですから、まあ、いつの時代でも起こりうることなんでしょう。
 一時期のソ連や現在の中国のように、中央集権体制で収奪的制度の社会でも繁栄がないわけではないんですがモチベーションがなければ長続きしないんじゃないかとも言ってます。また、このような社会では”親の総取り”的な様相があるんで、政権交代(クーデターとか)が起こっても独裁的な性格がそのまま(場合によってはより悪く)継承されるだけってケースもあります。
 このような繁栄しない社会=痩せた土地でなにが起こるかというと、エリート層はより簒奪的に富を集中させ、権力基盤をより強固にしようという行動に移ります。仮に一時期は利益誘導(甘い香りのする蜜)でいい目にあっても、トップの気まぐれでいつパクっと食べられちゃうかわかんないという不安定な状況でもあります。

 上下2冊の分量があるので、かなり大まかに丸めてますが、だいたいこのような話が歴史的な事実をもとにまとめられているのがこの本です。

 話は飛びますが”銀河英雄伝説”というSF歴史小説の中に銀河帝国皇帝になるローエングラム侯がこんなことを言っています

  体制に対する民衆の信頼をえるには、ふたつのものがあればよい。
  公平な裁判と、同じく公平な税制度。ただそれだけだ。 

   (ラインハルト・フォン・ローエングラム 第3巻”雌伏篇”より)

 ここで”公平な裁判”を政治的な、”公平な税制度”を経済的な権利と捉えると(*4)、同じようなモンかなと思っちゃいます。

 本書のユニークなのは、数々の事例を引きながら、”中央集権体制でかつ包括的制度が歴史の必然”とはしていないこと。むしろ、現在繁栄しているアメリカ、ヨーロッパ諸国、日本などは歴史の偶然によってこのような制度になったと考察しています。まあ、北京の蝶々(*5)よろしく小さな初期条件の違いが後に大きな差異を生み出すものだと。ましてや、中央集権は権力を握るとより大きい権力を手に入れたいという権力者のモチベーションが発生するので、国民がしっかりしていないと収奪的な方向に流れかねません(*6)。
 歴史的な発展認識としては、資本主義の高度な発展にが共産主義社会を生み出すとした”カール・マルクス”や、すべての社会が民主化へ向かうとした”シーモア・リプセット”の”近代化理論”なんかがありますが、それらとは一線を隔した”突き放した感”がけっこうお気に入りです。経済学としても、歴史学としても面白い本です。


《脚注》
(*1)東西ベルリン
 冷戦の象徴だった”ベルリンの壁”が建設されベルリンが東西に分断されたのは1961年。この壁が破壊されたのは1989年11月10日のこと。もう四半世紀近く経つんですねぇ。”サイボーグ009”の第一話(初出は1964年)で”004(ハインリヒ)”が東ベルリンから亡命を図るというエピソードが出てきますが、今の若い人にはもう歴史上の話なんでしょうか。
(*2)現代日本が中央集権的~
 ”地方分権”はなにかと言われそうですが、これは機能の問題。国防や外交なんかを県レベルでやるのは現実的ではないってことです。仮にTPP交渉なんかを県単位でやってたら、きっとぐちゃぐちゃになるんでしょうねぇ(ちょっと見たい気もしますが・・)
(*3)ラッダイト運動
 1811年~1817年頃にイギリスの織物工業地帯に起こった機械破壊運動。産業革命にともなう機械使用の普及で、失業のおそれを感じた労働者が起こした、まあ反産業革命みたいなものです。
(*4)”公平な裁判”を政治的な~
 なぜ”公平な選挙”ではないかというと、元々銀河帝国には民主主義的な選挙制度なるものが存在しないのでそのような発想がないから。同じくラインハルトは
  民主共和政とは、人民が自由意志によって自分たち自身の制度と
  精神をおとしめる政体のことか

   (第5巻”風雲篇”より)
とヤン・ウェンリーに質問していますが、対立勢力たる自由惑星同盟が政治的な腐敗に陥ってるんだから、そんな疑問も出てこようと言うものです。
(*5)北京の蝶々
 別名”バタフライ効果”。通常なら無視できるような小さな差が、大きな結果の違いをもたらすというカオス理論で使われる比喩です。
(*6)収奪的な方向に流れかねません
 ”銀河英雄伝説”では民主共和制の銀河連邦から銀河帝国が成立過程をちゃんと書いてるんですが、まさにこれです。(第1巻”黎明篇 銀河系史概略”他)

 

どんなにリスク管理が高度化しても、不確定要素のある未来への意思決定は本質的にはギャンブルです(金融リスク管理を変えた10大事件/餃子)

 ども、ハイリスク・ハイリターンなんかいらんので、のんびり本でも読んで暮らしたいおぢさん、たいちろ~です。
 これでも入社以来、某IT企業で金融機関向けソリューションの企画・販売をやっております(これは本当)。まあ、半沢直樹風に言うと”バブル直前入社組”ですので(1)、かれこれ30年弱になりますか。んで、たまたまちょうどこの時期の金融史を書いた本があったんで読んでみました。今回ご紹介している”金融リスク管理を変えた10大事件”であります。

4203109
写真はたいちろ~さんの撮影。自家製の餃子です(事件とは関係ありません)


【本】金融リスク管理を変えた10大事件(藤井健司、きんざい)
 日本長期信用銀行。三和銀行(*2)、三菱UFJフィナンシャルグループ、あおそら銀行などでリスク管理を担当した著者によるブラックマンデー(1987年)からフラッシュ・クラッシュ(2010年)までの金融リスク管理に多大な影響を及ぼした10ケの事件をまとめた本。
【料理】餃子
 挽肉、ニラ、白菜等の餡を薄皮で包んだ代表的な中華料理の一つ。自分で作ると安くできるんですが、材料をみじん切りにして、こねて、包んで、焼いてととっても手間がかかりますできあいのを買った方が安いんですけどねぇ。


 まあ、10ケ並べるとけっこう量が多いので自分史に重ね合わせてつらつら書いてみます。

〔ブラックマンデー 1987年〕
  ※1987年10月19日の月曜日、ニューヨーク証券取引所で株価が1日で
   22.8%暴落、時価にして5000億ドル(約71兆円)を失った事件。
 まだ入社からあんましたっなかったので、事件の重要性があんまり解かってなくて、新聞の株式欄が”▲”で真っ黒になってるぐらいの(*3)印象しかありませんでした。
 この時話題になったのが”プログラム・トレーディング”(プログラム売買と言ってたかなぁ)。これはコンピューターがあらかじめ決められたプログラムに従って株を売買するという仕掛けで、株価暴落の犯人扱いされてました。当時のパソコンはというとCPUがIntel 80386/80286、OSがMS-DOS 3.1と今から見ればスマホよりも圧倒的にしょぼい性能でしたが、”コンピューターってすげ~”と思った記憶があります。

〔ベアリングズ銀行と不正トレーダー 1995年〕
  ※イギリスのベアリングズ銀行の先物子会社のトレーダー”ニック・リーソン”の
   トレーディング失敗に端を発し、ベアリングズ銀行が破綻した事件。
 実はこの年、大規模なトレーダーの不正事件が2件ありました。一つが上記のベアリングズ銀行の事件で、もうひとつが大和銀行(*4)のニューヨーク支店の現地行員”井口俊英”による米国国債にかかわる不正トレーディング事件です。一介のトレーダーの不正(正確に言えばアメリカ金融当局への報告をせず隠蔽しようとした経営姿勢のが問題だったんですが)が原因で大和銀行がアメリカから撤退することになりました。まあ、護送船団方式(*5)どっぷりの時代でしたから”アメリカって厳しいんだなぁ”とか思いました。
 あと、逮捕された井口俊英が書いた”告白(*6)”がベストセラーになったのもちょっと驚き。今でこそ”ホリエホン”みたいに堀江貴文が刑務所内で書いた本が売れてますが、当時は珍しかったんじゃないかなぁ

〔ヘッジファンドLTCM破綻 1998年〕
  ※巨大ヘッジファンドLTCM(Long-Term Capital
   Management)が運用失敗から破綻した事件
 ノーベル賞経済学者のマイロン・ショールズ(*7)をはじめとするドリームチーム”LTCM”が高い運用成績を上げながらロシア財政危機を契機に膨大な損失を計上。正直”天才的に頭のいい人が集まっても失敗するときゃ失敗するんだ!”とか凡人の私は思ったもんです。
 金融工学というのは”ボラティリティ(資産価格の変動の激しさ)”は正規分布、つまり”1ドル100円が1日で1円変動する確率は高いが50円変動する確率は極めて低い”というのを前提にしているので、想定外の急激な変動には対処できないってことがウィークポイントかな(LTCMはロシアが債務不履行を起こす確率は100万年に3回だと計算してたそうです)

〔バーゼルⅡとオペレーショナルリスク 2001~07年〕
  ※金融危機への反省からバーゼル(国際決済銀行によるリスク管理のルールと
   思ってください)がバージョンアップ(Ⅱ)されました。
 この頃、”バーゼルⅡ対応”の経営管理ソリューションの企画・拡販てのをやってました、マジで。これがまた”PD”だ”LGD”だ”EL”だ”EAD”だと訳のわからん略語のオンパレード(*8)。まあ、これをやったおかげで社会現象もこんな発想で考えるようになりましたが・・・
 まあ、ワケ分かんないものは売れないので、営業担当向けに”サルでもわかる経営管理入門(*9)”なんつ~小冊子を作って遊んでました。このブログの原点が実はこれですから、人生何があるかはわかりません。

〔サブプライムローン問題と証券化商品 2007年〕
〔リーマンショックと金融危機からバーゼルⅢへ 2008年~〕

 ※信用度の低い借り手を対象とした住宅ローン(サブプライムローン)を返済原資
  とした証券化商品が不良債権化、リーマン・ブラザース証券など名だたる金融機関
  が経営危機に陥った事件
 記憶に新しいサブプライムローン問題とリーマンショックですが、一言で言うと金融機関全体が疑心暗鬼に陥ってお金の流れが止まっちゃった(信用収縮)ということ。なぜ疑心暗鬼になったかというと、本来は返済が危なっかしそうな住宅ローンを証券化する段階でその組み合わせがあまりに複雑怪奇になっちゃったために、その証券のリスクがどれぐらいあるのか誰にもわからなくなったから。100万円200万円ならともかく千億円、兆円単位ですから、アメリカの最大手の金融機関でもたまったもんじゃありません。
 ちょうどこのころ”中国製冷凍餃子中毒事件(*10)”ってのがあったんですが、構造的には同じ。つまり毒が混入された餃子はほんの一部なんですが、どれに毒が混入されれるのかわからないんで冷凍餃子全体が売れなく(自主回収も含め)なっちゃいました
 で、こういった事態に対処するためにバーゼルのさらなるバージョンアップ(Ⅱ→Ⅲ、リスク管理の向上、リスク拡大に対処するための自己資本比率のアップなど)をやってます。

 こうやって振り返ってみるとほんっとリスク管理ってモグラたたきなんだよな~~
 金融機関ってのはかなり厳格なルール(厳格に守られているかは別にして)と処罰(業務改善命令とか)で運用されてるんですが、それでも次から次へと問題がでてきてるのがわかります。まあ、金融機関ってのは預かったお金や自己資本を安全に保全する(リスクの最小化)と、産業や個人の将来に向かった資金需要に応える(リスクをとる)という矛盾した命題を抱えているのでどこでどうバランスをとるかが重要。でも、不確定な未来に対する決断という意味では競馬や就活(*11)と同じく”ギャンブル的”な要素ってなくなんないんだよね。

 ちょっと長くなりましたが、書きだすといろいろ思い出しちゃってすいません。
 本書は金融の専門出版社(きんざい)から出ているので、まったく金融知識のない人にはちょっときついかも。でも知識のある人には面白いでしょうね、リアルタイムで事件にかかわったおぢさん世代とか特に。でもどっちかというと金融機関に入社した新人あたりにお勧めかな。リスク管理の良い入門書になります。


《脚注》
(*1)半沢直樹風に言うと~
 いや~流行りましたな、TBSの”半沢直樹”。職業別視聴率のデーターがあれば銀行員視聴率100%に近いんじゃないかと。原作は”オレたちバブル入行組”、”オレたち花のバブル組”。主人公の半沢直樹は原作では1989年と 東京証券取引所の大納会で日経平均株価が史上最高値の38,915円87銭をつけた年。ちなみに私はバブルの遠因となったプラザ合意(為替レート安定化に関する合意 1985年)の前年に入社したんで”バブル直前入社組”でしょうか。
(*2)日本長期信用銀行。三和銀行
 日本長期信用銀行はバブル崩壊の影響で経営破綻、一時国有化を経て現在は”新生銀行”、三和銀行は2001年に東海銀行が合併したUFJ銀行を経て、さらに東京三菱銀行と合併して三菱東京UFJ銀行となりました。まあ、私が入社した頃にはこんなことになるとは思ってもみませんでしたが
(*3)新聞の株式欄が”▲”で
 株式欄の”▲”マークは株価が下落したことを意味します。ニューヨーク証券取引所とは直接関係はないはずなんですか、翌日の東証株価もそりゃあもう見事なぐらい真黒でした。
(*4)大和銀行
 2003年3月にあさひ銀行(1991年に協和銀行と埼玉銀行の合併行)と合併し現在は”りそな銀行”。ちなみに”りそな銀行”はメガバンクではなくスーパー・リージョナル・バンク(地域金融機関の連合体)です。
(*5)護送船団方式
 競争力の最も弱い金融機関にあわせて行政が指導すること。当時の銀行って”銀行員の嫁になれば一生安泰”と思われるぐらいのステータスがありましたが、反面”箸の上げ下げまでお伺いを立てる”的な自由競争とは無縁の世界でした。
(*6)告白(井口俊英 文春文庫)
 大和銀行巨額損失事件の顛末を井口俊英が獄中で執筆した本。
 キャッチコピーは”日本金融業の墓碑銘”。墓を掘った人に言われてもなぁ
(*7)マイロン・ショールズ
 フィッシャー・ブラックとともに”ブラック-ショールズ方程式(金融派生商品の価格づけに現れる確率微分方程式)”を組み立てた経済学者。
 余談ですが、金融工学系のアプリケーションを提供する””新日鉄住金ソリューションズ”という新日本製鐵(設立当時)の子会社があります。なぜ製鉄会社の関連会社が金融工学をやってるかというと”ブラック・ショールズ方程式と”と製鉄業で利用されていた”熱伝導方程式”がよく似てるんだとか。へぇ~~
(*8)”PD”だ”LGD”だ~
 PD :倒産確率(Probability of Default)
 LGD:デフォルト時損失率(Loss Given Default)
 EL :期待損失(Expected Loss)
 EAD:デフォルト時貸出残高(Exposure At Default)
  企業が倒産した時に発生する損失はどれぐらいかを計算する式は
     期待損失(EL)
       =倒産確率(PD)×デフォルト時損失率(LGD)×デフォルト時貸出残高(EAD)

になります。まあ、解かってみれば難しいことを言ってるわけではないんですけどね。
 社会現象でいうと福島第一原発が壊滅的な状態になる確率(=PD)は極めて低いもののいったんそうなると補助金等の収益に比べて損失率(=LGD)が極めて大きくなるようなモンです。
(*9)サルでもわかる経営管理入門
 これは当時流行っていた”サルでも描けるまんが教室(相原コージ、竹熊健太郎、小学館)によるのパクリです、はい
 表題は”マリリン、ソブリン、ゆうこりん”なんてふざけたのを付けてましたんで、内容も推して知るべしです。(マリリンはマリリン・モンロー、ゆうこりんは小倉優子、ソブリンはソブリン債(政府関係機関が発行、保証している国債などの債券)のこと)
(*10)中国製冷凍餃子中毒事件
 中国の天洋食品が製造した冷凍餃子に有毒な殺虫剤が混入され中毒症状を起こした事件。食の安全問題や日中間で国際問題化しました。
(*11)就活
 ちょうど子供が今年就活だったので。限られたコイン(エントリーシートや会社訪問にかける労力や時間)を自分というカードの手役(本人のキャラクター、成績や能力、大学のブランド等)を見ながら、どこの会社にベット(賭ける)するかって考えるとまさにギャンブルです。

« 2013年10月20日 - 2013年10月26日 | トップページ | 2013年11月3日 - 2013年11月9日 »

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

無料ブログはココログ