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”タチコマ”誕生秘話だったりして・・(富士学校まめたん研究分室/攻殻機動隊/10式戦車)

 ども、ミリタリーオタクというより単なるメカ好きのおぢさん、たいちろ~です。
 SFの中に”開発モノ”としかいいようのないジャンルがあります。リアルの社会だと”プロジェクトX(*1)”や”黒部の太陽(*2)”みたいのをSFの中でやっちゃうような作品。代表的なのは”楽園の泉(*3)”とか”第六大陸(*4)”みたいなのといえばSFファンにはご理解いただけるかと。
 まあ、”前田建設ファンタジー営業部(*5)”なんかもそうですが、こういう一見SFでしかないものを真面目に作ったらどうなるかといったことを真面目に扱った本っていうのが結構好きなんですが、先日ロボットモノでこういうのを扱った本を読みました。ということで、今回ご紹介するのはそんな開発を扱った”富士学校まめたん研究分室”であります。


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写真はたいちろ~さんの撮影。
富士総合火力演習(2013年 予行演習)での”10式戦車”です(横に走りながら砲塔をぶっ放すところ)。


【本】富士学校まめたん研究分室(芝村裕吏、ハヤカワ文庫)
 陸上自衛隊富士学校勤務の藤崎綾乃はロボットを研究するめんどくさいアラサー工学系女子(処女)。セクハラ騒動の責任を押し付けられて閑職にまわされるが、”自分の必要性を認めさせてから辞めてやる!”と研究に着手したのがローコストな自立型戦車”まめたん”だった。同僚でおせっかいな”伊藤信士”の協力で発足した研究はいつのまにやら一大プロジェクトになって・・・
 最近自衛隊モノ流行りですが、その中でも開発を扱ったという異色のミリタリー系ラブコメ開発エンタテインメントSFです。
【DVD】攻殻機動隊(士郎正宗 講談社)
 士郎正宗による漫画及び原作とするアニメ。電脳や義体(サイボーグ)、ロボットなどが登場するやたらマニアックなサイバーパンクSFです。
【乗り物】10式戦車(ひとまるしきせんしゃ)
 2009年に制式化された日本の四代目主力戦車。
 主砲に自動追尾機能付き44口径120mm滑腔砲、最高時速70kmの高速移動が可能で実際に演習では走行中に高速移動しながら正確に目標を破壊するというのをやってました。また、基幹連隊指揮統制システム(Regiment Command Control system, ReCs)という戦術レベルのC4I(戦車同士が相互に情報をやりとりし、連携して攻撃ができるシステム)が組み込まれています。


 ところで、上記にある10式戦車ですが、wikipediaによると開発費が約484億円、単価約9.5億円。高いと見るか、安いと見るかは人それぞれでしょうが(*6)、まあ、単体の乗り物としては高いんでしょうね。
 いきなり真面目な話になりますが、管理会計ではモノの値段というのは簡単に言うと下記の式で決まります。

  利益  = 売上高 - 変動費 - 固定費
  売上高 = 単価 × 販売数量
  損益分岐点売上高(利益が0となる点)=固定費÷{1-(変動費÷売上高)}

 

固定費とは人件費、研究開発費用、設備関係費用(減価償却費)など、生産量にかかわらず固定的にかかるコスト、変動費は原材料費や仕入原価など製品を1ケ作る度に増加するコストのことです。
 なぜ、兵器が高いかというと開発費がめちゃめちゃ高い上に、転売が効きにくいので該当する兵器でコストを回収しないといけない。生産数量が限られるから固定費率も高く品質の良い物を使ってそうなので変動費も高そう。つまり1台あたり単価は調達台数が少なくなるほど高くなります。それでも、戦闘機なんかだとハードウェアよりパイロット育成の費用が高いそうですから、映画みたいに簡単に落っことされた日にゃお金がいくらあっても足りません。(*7)

 ということを理解した上で、本書に登場する”まめたん”こと”20式自動歩兵(*8)(にまるしきじどうほへい)”の開発を見ると、実に理にかなっているんですな。

①機能の絞り込み
 要求される機動力、攻撃力、防御力のうち機動力に特化してます。元々歩兵の代わりに戦車の死角をカバーして、ビル陰などに潜む歩兵を掃討することに重点を置くというコンセプトなので重装備はいらないという考え方。機能の絞り込みによる開発・生産コスト=固定費の削減です。作品中でも水陸両用機能や空挺能力の追加の話がでてきますが、前者はお断り、後者は外付けオプションで対応していますがこれは正解。実際にシステムの開発でも”せっかく作るんだからあれもこれもやらそう!”とかやりだすと納期は伸びるわコストは膨らむわとロクなことになりません

②量産化が前提
 いきなり10万台の作成ってことになってますが、これだけ量産すれば1台あたり100万円を切るんだとか。ダイハツの軽自動車”ミラシリーズ”なみの低価格です。ワンオフの試作機が7000万円ぐらいかかるだろうと言ってますので、相当なコスト削減です。大量生産すると1台あたりの固定費は下がりますし、大量発注による調達コストの削減もありますから、かなり効果が見込めます。フォード・モデルTに代表されるマス・プロダクション手法大幅なコスト削減を実現しましたし、ウェポンシステムでは(バリエーションはあっても)一律装備のほうが望ましいでしょうから、なおさらです。

③あり物はできるだけ使う
 多足歩行基礎理論は公表されている論文から、銃器関係は人間の使うものをそのまま流用、作成は日立建機の土浦工場(*9)、操作はタブレット端末(*10)。新兵器のわりにはけっこうありもので組み立てています。まあ、一からやれば1年半なんかでロールアウトしないでしょうし。
 最近のシステム開発でも機能の多くをミドルウェアみたいな汎用品にして、ビジネスロジック部分のみを開発するという手法が流行りですが同じようなもの。まあ、多少機能を割り切ってでも”汎用品でもなんでも使えるものはなんでも使う”って貧乏人の発想は開発費、原材料費を下げるには有効なんでしょう。

④コンパクトに軽く作る

 まあ、なんでも小さくすればコストが下がるとは限りませんが、普通はコンパクトに作ればその分材料費(変動費)は安くなります。防御力に劣るまめたんは物陰に隠れるなんて使い方も想定されますし、小さい方が弾が当たりにくいのでなにかといいことありそう。また小さく作ると軽くなるので輸送にも便利。本書では3トン半トラックで16台搭載できると書いてますが、輸送機による搬送数も増えます。これは”兵装をすばやく展開する”という戦術的メリットにつながります。
 上記の10式戦車の最高速度を見て”あんまし早くない”と思われたかもしれませんがなんせ全備重量約44トンもあるシロモノなのでしょうがないか。どう見ても燃費悪そうですからランニングコストもばかにならなさそうだし。この点、まめたんは燃費よさそうだしな~

⑤全体最適化を図る
 一台一台の性能はあまり高くありませんが、10式戦車にも搭載されている”ReCs(基幹連隊指揮統制システム)”の2型というのが組み込まれていて、それぞれが連動して稼働、作中でも700mの遠距離狙撃を成功させてます。このように低性能のセンサーしか搭載してなくても相互補完するとか、高度な作戦機能を外出しするのも1台あたりのコストを下げることにつながります。現実でもコンピューターの分散処理みたいに、1台あたりの性能が低いCPUでも数を集りゃスーパーコンピュータ並みの性能をたたき出すってことをやってます。簡単ではないんですけどね。

⑥人は乗せない
 実は機械の中に人を乗せないというのは、スペース面、防御力を削減できるなどメリットが。このあたりは”機能を絞る”にもつながります。それに、もし人間が乗るとなると10万人の自衛隊員が必要なわけで、開発以前に運用コストがかかりすぎます。まあ、平時では人間が一番コストがかかりますから(戦時ではこの限りではありませんが・・・

 ところで、この”まめたん”って、なんとなく攻殻機動隊に出てくる”タチコマ”のご先祖様って感じがするんだよな~~ (こんな感じ)
  Photo

 人こそ乗りますが、丸っこい胴体にマニピュレータ、車輪と4本脚足のハイブリットで移動するとか、自立行動のできるAIがネットワークにより協調して動くとか。
 まあ、”タチコマ”の開発秘話があるとしたら意外とこんな感じだったりして。そうだったら面白いだろうなぁ。
 まあ、本編とあんまし関係ない話ばっかしか来ましたが、これも開発マニアの性ということでご容赦のほどを。ストーリーもめんどくさいアラサーのツンデレもとっても面白い本です。


《脚注》
(*1)プロジェクトX
 2000年代前半にNHKで放映されたドキュメンタリー番組及び書籍。無名のリーダー達を主人公とした開発物語は全国のお父さん達が感涙にむせび泣いたものです。日本の産業史を開発者側から捉えたという点では秀逸な番組でした。
(*2)黒部の太陽(監督 熊井啓、主演 三船敏郎、石原裕次郎 ポニーキャニオン)
 黒部第四ダム建設の苦闘を描いた木本正次の小説を三船敏郎、石原裕次郎の主演で1968年に映画化。観たい映画の一つだったんですが、石原裕次郎が”映画館の大迫力の画面・音声で見て欲しい”と言い残したことから長らくDVD化されていませんでした。2013年にDVDが出たんでさっそく観ましたが期待を裏切らない良い映画です。
(*3)楽園の泉(アーサー・C・クラーク ハヤカワ文庫)
 赤道上空の静止衛星とスリカンダの山頂をケーブルをつなげて地球~宇宙間の”軌道エレベーター”を建造を作成するというSF。カーボンナノチューブの発見により実現のための研究が行われているという現実がSFに追いついてきたモノの一つです。
 高校時代のSFマニアの友人が新婚旅行にスリランカに行きましたが、きっとこの山を見に行ったんだろうな~ 
(*4)第六大陸(小川一水 ハヤカワ文庫)
 ”月面に結婚式場を建てる”というお話。なんとなく、”ひょっとしたら出来ちゃうかも?!”と思わせる建築系エンタテインメントSFです。
(*5)前田建設ファンタジー営業部
 ”マジンガーZの格納庫”や”銀河鉄道999の高架橋”などを実際に作ったらいくらぐらいかかるかを前田建設工業(実在の会社です)が真面目に見積もった本。うちの会社もこれぐらい洒落っ気のあることやんないかなぁ、”MAGI”(エヴァンゲリオンに登場するスーパーコンピューター)の見積もりとか・・・
(*6)高いと見るか、安いと見るかは~
 ちなみに、同じく富士総合火力演習で飛んでいたヘリコプター”AH-64D(アパッチ・ロングボウ)”は機体の価格が83億円、アメリカの最新鋭ステルス戦闘機”F-22(ラプター)”に至っては初期生産1台あたりコストは約1億5,000万ドル(約148億円)だとか(諸説あるようです)。まあ、貧乏人は戦争なんかしちゃいかんということです。
(*7)映画みたいに簡単に落っことされた日にゃ
 自衛隊の装備って、おっそろしく長く使ってるケースがあります。富士総合火力演習でも登場したヘリコプター”CH-47(チヌーク)”なんて初飛行が1961年ですが50年たった今でも現役で飛んでいます。まあ、おいそれとリプレースなんかできないんでしょうなぁ
(*8)20式自動歩兵
 名称の”○○式”の○○は採定年度(制式採用された年)の下二桁なので、この物語は2020年頃の話ってことになります。ま、東京オリンピックの時に新国立競技場の周りを”まめたん”が警備してるってのはまさにSFみたいでしょうね。
(*9)日立建機の土浦工場
 日立建機は建設機械、運搬機械などの製造・販売などを行う実在の企業。土浦工場も実際にあります。建物や生産ラインぐらいは作るかもしれませんが、あり物の工場を使うほうが新しく生産設備を準備するよりゃ圧倒的に安く済むでしょう。
(*10)操作はタブレット端末
 市販品とは書いてませんが、まあ、自衛隊仕様にしたとしても基礎技術は市販品をベースだと思われます。実際、10万台のまめたんに対しコントローラーは予備機も入れれば数万台ぐらい必要でしょうから、このぐらい数がでれば市販品の高級機よりやや高いぐらいの価格になるんじゃないかと。

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コメント

近未来にもしかしたら実現可能なんじゃないかな、そう思わせるものにワクワクする私です。創作物なんだからオモシロけりゃなんでもありとは思いつつも、どこかで矛盾点が気になりだして興味が無くなりだしたのはガンダムからかな?宇宙空間での戦闘に人型の兵器?とか、この時代は30歳くらいが平均寿命なの?とかが変にひっかかって見なくなったんですね。
その反面、現代テクノロジーの延長線上にあるような、少し具体的に想像できるものがあると、そこからのめりこんでいくところがある。少しでもリアリティが欲しいのですね。
ところがそうするにはかなりコアなところまで調べないといけないから、漫画家みたいに締切のある人にはちょっとむずかしいかもね。でも小説家なんかはどんだけ調べとんねんというくらい調べとるから、もう少し突っ込んで調べてよと思うのは無茶でしょうか?

これは絢爛舞踏祭のBALLSやろなぁ。
作者のおっさんはそれなりの軍ヲタ小説家やから綺麗にまとまってましたわ。
不満なのは足の速さと12機をタブレットで指揮できるかでしょうね。
1mで80キロはでないですよねー
安価な殺人をためらわない兵士が100万で生産できるのはごついと思いますがね

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