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どんなにリスク管理が高度化しても、不確定要素のある未来への意思決定は本質的にはギャンブルです(金融リスク管理を変えた10大事件/餃子)

 ども、ハイリスク・ハイリターンなんかいらんので、のんびり本でも読んで暮らしたいおぢさん、たいちろ~です。
 これでも入社以来、某IT企業で金融機関向けソリューションの企画・販売をやっております(これは本当)。まあ、半沢直樹風に言うと”バブル直前入社組”ですので(1)、かれこれ30年弱になりますか。んで、たまたまちょうどこの時期の金融史を書いた本があったんで読んでみました。今回ご紹介している”金融リスク管理を変えた10大事件”であります。

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写真はたいちろ~さんの撮影。自家製の餃子です(事件とは関係ありません)


【本】金融リスク管理を変えた10大事件(藤井健司、きんざい)
 日本長期信用銀行。三和銀行(*2)、三菱UFJフィナンシャルグループ、あおそら銀行などでリスク管理を担当した著者によるブラックマンデー(1987年)からフラッシュ・クラッシュ(2010年)までの金融リスク管理に多大な影響を及ぼした10ケの事件をまとめた本。
【料理】餃子
 挽肉、ニラ、白菜等の餡を薄皮で包んだ代表的な中華料理の一つ。自分で作ると安くできるんですが、材料をみじん切りにして、こねて、包んで、焼いてととっても手間がかかりますできあいのを買った方が安いんですけどねぇ。


 まあ、10ケ並べるとけっこう量が多いので自分史に重ね合わせてつらつら書いてみます。

〔ブラックマンデー 1987年〕
  ※1987年10月19日の月曜日、ニューヨーク証券取引所で株価が1日で
   22.8%暴落、時価にして5000億ドル(約71兆円)を失った事件。
 まだ入社からあんましたっなかったので、事件の重要性があんまり解かってなくて、新聞の株式欄が”▲”で真っ黒になってるぐらいの(*3)印象しかありませんでした。
 この時話題になったのが”プログラム・トレーディング”(プログラム売買と言ってたかなぁ)。これはコンピューターがあらかじめ決められたプログラムに従って株を売買するという仕掛けで、株価暴落の犯人扱いされてました。当時のパソコンはというとCPUがIntel 80386/80286、OSがMS-DOS 3.1と今から見ればスマホよりも圧倒的にしょぼい性能でしたが、”コンピューターってすげ~”と思った記憶があります。

〔ベアリングズ銀行と不正トレーダー 1995年〕
  ※イギリスのベアリングズ銀行の先物子会社のトレーダー”ニック・リーソン”の
   トレーディング失敗に端を発し、ベアリングズ銀行が破綻した事件。
 実はこの年、大規模なトレーダーの不正事件が2件ありました。一つが上記のベアリングズ銀行の事件で、もうひとつが大和銀行(*4)のニューヨーク支店の現地行員”井口俊英”による米国国債にかかわる不正トレーディング事件です。一介のトレーダーの不正(正確に言えばアメリカ金融当局への報告をせず隠蔽しようとした経営姿勢のが問題だったんですが)が原因で大和銀行がアメリカから撤退することになりました。まあ、護送船団方式(*5)どっぷりの時代でしたから”アメリカって厳しいんだなぁ”とか思いました。
 あと、逮捕された井口俊英が書いた”告白(*6)”がベストセラーになったのもちょっと驚き。今でこそ”ホリエホン”みたいに堀江貴文が刑務所内で書いた本が売れてますが、当時は珍しかったんじゃないかなぁ

〔ヘッジファンドLTCM破綻 1998年〕
  ※巨大ヘッジファンドLTCM(Long-Term Capital
   Management)が運用失敗から破綻した事件
 ノーベル賞経済学者のマイロン・ショールズ(*7)をはじめとするドリームチーム”LTCM”が高い運用成績を上げながらロシア財政危機を契機に膨大な損失を計上。正直”天才的に頭のいい人が集まっても失敗するときゃ失敗するんだ!”とか凡人の私は思ったもんです。
 金融工学というのは”ボラティリティ(資産価格の変動の激しさ)”は正規分布、つまり”1ドル100円が1日で1円変動する確率は高いが50円変動する確率は極めて低い”というのを前提にしているので、想定外の急激な変動には対処できないってことがウィークポイントかな(LTCMはロシアが債務不履行を起こす確率は100万年に3回だと計算してたそうです)

〔バーゼルⅡとオペレーショナルリスク 2001~07年〕
  ※金融危機への反省からバーゼル(国際決済銀行によるリスク管理のルールと
   思ってください)がバージョンアップ(Ⅱ)されました。
 この頃、”バーゼルⅡ対応”の経営管理ソリューションの企画・拡販てのをやってました、マジで。これがまた”PD”だ”LGD”だ”EL”だ”EAD”だと訳のわからん略語のオンパレード(*8)。まあ、これをやったおかげで社会現象もこんな発想で考えるようになりましたが・・・
 まあ、ワケ分かんないものは売れないので、営業担当向けに”サルでもわかる経営管理入門(*9)”なんつ~小冊子を作って遊んでました。このブログの原点が実はこれですから、人生何があるかはわかりません。

〔サブプライムローン問題と証券化商品 2007年〕
〔リーマンショックと金融危機からバーゼルⅢへ 2008年~〕

 ※信用度の低い借り手を対象とした住宅ローン(サブプライムローン)を返済原資
  とした証券化商品が不良債権化、リーマン・ブラザース証券など名だたる金融機関
  が経営危機に陥った事件
 記憶に新しいサブプライムローン問題とリーマンショックですが、一言で言うと金融機関全体が疑心暗鬼に陥ってお金の流れが止まっちゃった(信用収縮)ということ。なぜ疑心暗鬼になったかというと、本来は返済が危なっかしそうな住宅ローンを証券化する段階でその組み合わせがあまりに複雑怪奇になっちゃったために、その証券のリスクがどれぐらいあるのか誰にもわからなくなったから。100万円200万円ならともかく千億円、兆円単位ですから、アメリカの最大手の金融機関でもたまったもんじゃありません。
 ちょうどこのころ”中国製冷凍餃子中毒事件(*10)”ってのがあったんですが、構造的には同じ。つまり毒が混入された餃子はほんの一部なんですが、どれに毒が混入されれるのかわからないんで冷凍餃子全体が売れなく(自主回収も含め)なっちゃいました
 で、こういった事態に対処するためにバーゼルのさらなるバージョンアップ(Ⅱ→Ⅲ、リスク管理の向上、リスク拡大に対処するための自己資本比率のアップなど)をやってます。

 こうやって振り返ってみるとほんっとリスク管理ってモグラたたきなんだよな~~
 金融機関ってのはかなり厳格なルール(厳格に守られているかは別にして)と処罰(業務改善命令とか)で運用されてるんですが、それでも次から次へと問題がでてきてるのがわかります。まあ、金融機関ってのは預かったお金や自己資本を安全に保全する(リスクの最小化)と、産業や個人の将来に向かった資金需要に応える(リスクをとる)という矛盾した命題を抱えているのでどこでどうバランスをとるかが重要。でも、不確定な未来に対する決断という意味では競馬や就活(*11)と同じく”ギャンブル的”な要素ってなくなんないんだよね。

 ちょっと長くなりましたが、書きだすといろいろ思い出しちゃってすいません。
 本書は金融の専門出版社(きんざい)から出ているので、まったく金融知識のない人にはちょっときついかも。でも知識のある人には面白いでしょうね、リアルタイムで事件にかかわったおぢさん世代とか特に。でもどっちかというと金融機関に入社した新人あたりにお勧めかな。リスク管理の良い入門書になります。


《脚注》
(*1)半沢直樹風に言うと~
 いや~流行りましたな、TBSの”半沢直樹”。職業別視聴率のデーターがあれば銀行員視聴率100%に近いんじゃないかと。原作は”オレたちバブル入行組”、”オレたち花のバブル組”。主人公の半沢直樹は原作では1989年と 東京証券取引所の大納会で日経平均株価が史上最高値の38,915円87銭をつけた年。ちなみに私はバブルの遠因となったプラザ合意(為替レート安定化に関する合意 1985年)の前年に入社したんで”バブル直前入社組”でしょうか。
(*2)日本長期信用銀行。三和銀行
 日本長期信用銀行はバブル崩壊の影響で経営破綻、一時国有化を経て現在は”新生銀行”、三和銀行は2001年に東海銀行が合併したUFJ銀行を経て、さらに東京三菱銀行と合併して三菱東京UFJ銀行となりました。まあ、私が入社した頃にはこんなことになるとは思ってもみませんでしたが
(*3)新聞の株式欄が”▲”で
 株式欄の”▲”マークは株価が下落したことを意味します。ニューヨーク証券取引所とは直接関係はないはずなんですか、翌日の東証株価もそりゃあもう見事なぐらい真黒でした。
(*4)大和銀行
 2003年3月にあさひ銀行(1991年に協和銀行と埼玉銀行の合併行)と合併し現在は”りそな銀行”。ちなみに”りそな銀行”はメガバンクではなくスーパー・リージョナル・バンク(地域金融機関の連合体)です。
(*5)護送船団方式
 競争力の最も弱い金融機関にあわせて行政が指導すること。当時の銀行って”銀行員の嫁になれば一生安泰”と思われるぐらいのステータスがありましたが、反面”箸の上げ下げまでお伺いを立てる”的な自由競争とは無縁の世界でした。
(*6)告白(井口俊英 文春文庫)
 大和銀行巨額損失事件の顛末を井口俊英が獄中で執筆した本。
 キャッチコピーは”日本金融業の墓碑銘”。墓を掘った人に言われてもなぁ
(*7)マイロン・ショールズ
 フィッシャー・ブラックとともに”ブラック-ショールズ方程式(金融派生商品の価格づけに現れる確率微分方程式)”を組み立てた経済学者。
 余談ですが、金融工学系のアプリケーションを提供する””新日鉄住金ソリューションズ”という新日本製鐵(設立当時)の子会社があります。なぜ製鉄会社の関連会社が金融工学をやってるかというと”ブラック・ショールズ方程式と”と製鉄業で利用されていた”熱伝導方程式”がよく似てるんだとか。へぇ~~
(*8)”PD”だ”LGD”だ~
 PD :倒産確率(Probability of Default)
 LGD:デフォルト時損失率(Loss Given Default)
 EL :期待損失(Expected Loss)
 EAD:デフォルト時貸出残高(Exposure At Default)
  企業が倒産した時に発生する損失はどれぐらいかを計算する式は
     期待損失(EL)
       =倒産確率(PD)×デフォルト時損失率(LGD)×デフォルト時貸出残高(EAD)

になります。まあ、解かってみれば難しいことを言ってるわけではないんですけどね。
 社会現象でいうと福島第一原発が壊滅的な状態になる確率(=PD)は極めて低いもののいったんそうなると補助金等の収益に比べて損失率(=LGD)が極めて大きくなるようなモンです。
(*9)サルでもわかる経営管理入門
 これは当時流行っていた”サルでも描けるまんが教室(相原コージ、竹熊健太郎、小学館)によるのパクリです、はい
 表題は”マリリン、ソブリン、ゆうこりん”なんてふざけたのを付けてましたんで、内容も推して知るべしです。(マリリンはマリリン・モンロー、ゆうこりんは小倉優子、ソブリンはソブリン債(政府関係機関が発行、保証している国債などの債券)のこと)
(*10)中国製冷凍餃子中毒事件
 中国の天洋食品が製造した冷凍餃子に有毒な殺虫剤が混入され中毒症状を起こした事件。食の安全問題や日中間で国際問題化しました。
(*11)就活
 ちょうど子供が今年就活だったので。限られたコイン(エントリーシートや会社訪問にかける労力や時間)を自分というカードの手役(本人のキャラクター、成績や能力、大学のブランド等)を見ながら、どこの会社にベット(賭ける)するかって考えるとまさにギャンブルです。

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