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二十年も経てば殺人事件だって時効です。ましてや恋バナなども(阿寒に果つ/カーネーション)

 ども、七つの顔を持つおぢさん、たいちろ~です。
 人は色々な顔を持っています。人によっては七つの顔だったり、二十面相だったり、千の異なる顕現だったりしますが(*1)、まあ、そこまで行かなくても一人の人格を形成するのは”科学者として私”、”母としての私”、”女としての私”だったりします(*2)ので、見る人によってとかお互いの関係で同じ人がぜんぜん違う人のようなこともあったりします。
 ということで、二十年の時を超えてさまざまな顔を持つ一人の少女を再構成をするお話、渡辺淳一の”阿寒に果つ”であります。


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写真は~たいちろさんの撮影。近所のカーネーションです。


【本】阿寒に果つ(渡辺淳一 講談社文庫)
 二十年前に阿寒で自殺を遂げた天才少女画家・時任純子。高校時代に彼女に恋をした作家の田辺俊一は、彼女と関係を持っていたかつての恋人たちを訪れ、”純子”の本当の姿を再構成しようと試みる。水晶のような多くの面を持つ彼女の本当の姿とは、彼女が自殺した理由とは・・・
【花】カーネーション
 ナデシコ科ナデシコ属の多年草。”母の日”のイメージが強いカーネーションですが、花言葉では”母への愛”のほかにも”熱愛”ってのもあります。


 しかし、渡辺淳一って初期のころははまっていていて、医療モノ(”無影燈”、”白い宴”)とか、伝記モノ(”花埋み”、”遠き落日”)とかほとんど読みましたねぇ(*3)。その中で、ちょっと異色だったのがこの”阿寒に果つ”。読んだのが高校生ぐらいだったと思うので、時任純子や若き日の田辺俊一と同じ年頃。年上の男と付き合って寝ちゃうような女の子が周りにいなかったので(知らなかっただけかもしれませんが・・)、けっこうどきどきして読みました。今回再読しましたが、中年作家となった田辺俊一より年上になっちゃうとやっぱり感じが違いますねぇ。

 で、お話しはというと、彼女をめぐる6人の男と実の姉”蘭子”による昔話です。

〔田辺俊一〕
 高校時代に純子と付き合った男。
 なんとなく純子に誘惑され恋人に。純情で振り回されっぱなしですが、最初に読んだ時は私もこの世代でしたので、今読んでも”そんな時代もあったねと♪”と思っちゃいます。
 同世代としての”純粋”な私。

〔浦部雄策〕
 純子の絵の先生にして、絵を描くためといって処女(かもしれない)純子を抱いちゃういけない人。純子を独占したいがために妻を捨て結婚まで考えたのに

  一緒になれるなら離婚する、なれないなら離婚しない、なんていうのは卑怯よ。
  なれてもなれなくても、まず離婚すべきよ

 と言われちゃってます。利用されるだけ利用されたおぢさん。
 師匠として、年上としての”中年愛”な私

〔村木浩司〕
 新聞記者で純子の姉”蘭子”の恋人。純子は彼とも寝ちゃってます。
 村木と蘭子が寝た日に純子が雪の中にカーネーションを置いてくシーンがありますが、実際にやられるとプレッシャーでしょうなぁ。カーネーションには”熱愛”って花言葉もあるので、手もなく落とされそうです。
 姉の恋人という”不倫”な私。

〔千田義明〕
 自殺未遂を図った純子の担当医師。一度キスしただけというこの中では一番淡白な関係の人ですが、それだけに一番冷静に彼女を見ています。表題の言葉はこの人のモノ。

  千田:でも負け惜しみではないが純ちゃんとは愛し合うより、
     親しい間柄でいたほうが無難だといった気持がしたのも事実です
  田辺:それは賢明だったと思います

      (中略)
  田辺:変なことをおききして、申し訳ありません
  千田:いやいや、もう二十年も経っているのですから。
     二十年もたてば殺人事件だって、時効です

 ですんで、昔の彼女の話をしても、あまり目くじらをたてないようにね、奥様。
 冷静な判断のできる”科学者”な私。

〔殿村知之〕
 純子の同窓生の兄。東京の医科大を中退して左翼グループのオルグ(*4)として北海道に。寒村の診療所を手伝いながら宣教活動を行うもが医師法違反で逮捕。まあ、こういう話題にリアリティがあったのも時代ですねぇ。現在の職業はカメラマン。
 文学に造詣が深く、左翼活動家としても弁舌巧みで東京大学出身(*5)ということもあって”素敵な先輩”キャラのポジションの人。
 純子が最後に会った人ですが、その時の描写

  殿村はいま純子が最後に見せた笑いを思い出す
  その顔は笑っていながら、心の底から笑っていない
  笑おうとして笑いきれぬ、燃えつきぬ淋しさがその顔の滲んでいた

 純子の一面を的確に表現してるって感じの言葉です
 同世代よりやや上の先輩としての”青年愛”な私。 

〔時任蘭子〕
 今は中年となってますがかつては双生児と言われるほどよく似てた純子の姉(*6)。二人は百合な関係にありました。
 蘭子は純子の自殺の原因を田辺に聞かれて

  無理に理由をあげれば、ただ疲れていただけ
  あの人、天才少女だといわれ、美しいといわれ、小悪魔だといわれ
  それにいちいち応えて、疲れ果てたのかもしれません

 人生をマスカレード(仮面舞踏会)に例えるなら、純子のようにたくさんの仮面を持った人ってのは、その分たくさん自分を演じないいけないから疲れちゃうのかもしれません。まあ、一つの仮面でさえい~かげんに生きてるおぢさんには測りかねる世界ではありますが。それが自ら求めたことであってもそれが自殺の原因であるなら哀しすぎますねぇ・・
 もっとも身近な存在であった”姉妹愛”な私。

 多面的な少女を再構成するっていう作業を”渡辺淳一”という一人の作家が行っているってのは、作家そのものが多面的な視点でものを見てるって相互の関係があるのかな~~

  純子と一人の男とのつながりの深さを知る度に
  私はメスを揮う外科医のような緊張と、
  切られる患者の痛みを同時に覚えていたのである

と書いてますが、このへんが初期の医療小説を書いてた渡辺淳一の真骨頂であります。

 ”阿寒に果つ#渡辺淳一の初期の名作。絶版になっていたようですが、”渡辺淳一セレクション”として2013年7月に講談社文庫より再刊されました。ぜひご一読のほどを。

PS.
 実はこの本の再読を思い立ったのは”永遠の0(*7)”から。こっちは特攻隊で亡くなった祖父の過去を再構成する話ですが、語る人によって見え方が違うというモチーフが同じなので、なんとなく連想しました。
 電車の吊り広告で上記の”渡辺淳一セレクション”と”永遠の0”が並んで出てましたが、同じよなこと考えた人がいたのかなぁ・・・


《脚注》
(*1)人によっては七つの顔だったり、二十面相だったり、千の異なる顕現だったり~
・七つの顔
 ”七つの顔の男シリーズ”の主人公”多羅尾伴内”のこと。生まれる前の映画なのでさすがに見たことはないですが、石森章太郎の漫画”多羅尾伴内”(1977年)は読みました。
・二十面相
 江戸川乱歩の小説”少年探偵シリーズ”に登場した大怪盗。
・千の異なる顕現
 ラヴクラフトによる”クトゥルフ神話”に登場する一柱”ニャルラトホテプ”のこと。”這いよれ! ニャル子さんシリーズ”(逢空万太 GA文庫)では女子高校生だったりします。
(*2)”科学者として私”、”母としての私”、”女としての私”~
 アニメ”新世紀エヴァンゲリオン”に登場するコンピュータ”MAGI(マギ)”は、科学者としての、母としての、女としての人格が移植された3台のコンピュータが合議制により意思決定をするというもの。人間の持つジレンマを再現するためにこんなシステムにしたようですが、それがゆえに命令者の言うことを否決しちゃったりします(旧劇場版より)
(*3)ほとんど読みましたねぇ
 あんまり読まなくなったのは”失楽園”以降かなぁ。きっと映画で黒木瞳にエッチさせた恨みからではないかと・・・
(*4)オルグ
 オルガナイズ(organize=組織化)の略。組織拡大のために勧誘して構成員にすることですが、死語なんだろうねぇ。私んとこの大学(もう30年近く前ですが)でもオルグと称して中○派の人が授業時間に乗りこんできてアジテーション(これも死語?)してましたが・・・
(*5)東京大学出身
 これは身分詐称で実際は東京のT医科大学中退。わざわざ詐称しなくてもこれだけでも立派な学歴だと思うんですが、地方大学の文科系出身者としては。
(*6)よく似てた純子の姉
 蘭子いわく
  才能のないものはむざむざと生き残り、こんな醜くなって
  俗物的なことで走りまわっています

 まあ、女王様のように華やかな天才美少女画家で、その絶頂期に刻を止めた純子の姉という微妙なポジションで青春時代を過ごしてたらそう言いたくなるもの分かるような気がします。
(*7)永遠の0(百田尚樹 講談社文庫)
 佐伯健太郎は姉の頼みで特攻で死んだ祖父”宮部久蔵”の生涯を調べることになった。ある人は空戦技術の天才といい、ある人は命の恩人だと言い、ある人は臆病者という。特攻という狂気の作戦の中、最後に久蔵が死んだ真相とは・・
 詳しくはこちらをどうぞ

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コメント

七つの顔とか二十面相とかいうと、最近はどうしても多重人格とか憑依されたとかの方にいってしまう私。
8月3日にはオールナイトの怪談ライブ(ファンキー中村・大阪堀江の怪)に行くし、稲川淳二の恐怖の現場・最終章とか北野誠のおまえら行くな!GEAR2なんかも早々に借りてきてリッピング済みだし。
怪談好きも程々にしないとそのうちなんかに取り憑かれるかも。

3つのコンピューターといえば”Solty Rei”に出てくるエウノミヤ・エイレネ・ディケなんかも、本来は3つが連動していたはずなのに、上空に残ったエイレネ・地上に降りて人類をコントロールしていたエウノミヤ・人型で直接人と接していたディケ、それぞれ違った環境下でそれぞれが暴走していくというのがあるけど、知っているやつが少ないんだよなぁ。

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