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2012年7月22日 - 2012年7月28日

世代宇宙船と移民団のパラドックス(天冥の標/殺意の底/神戸港移民乗船記念碑)

 ども、定年したらどっかへ移民でもしようかと考えてるおぢさん、たいちろ~です。
 現在は東京で働いています。まあ、便利ではあるしいろんなモノであふれかえってはいますが、物価は高いわ人は多すぎるわ。ネットワークでつながっている現在、とりあえず本とDVDさえあれば満足してるおぢさんとしては歳をとってから積極的に東京に住み続ける動機はあんましないわけです。
 まあ、移住するにはそれなりに理由があるわけですが、これを集団で行う”移民”というのはさらに強固な動機づけが必要になります。ということで、今回紹介するのはそんなお話”天冥の標”、”殺意の底”であります。


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 写真はたいちろ~さんの撮影。神戸メリケンパークの”希望の船出”像です。


【本】天冥の標(小川一水 ハヤカワ文庫JA)
 西暦2349年、小惑星パラスの地下で農業を営むタックは、反抗期の娘ザリーカの扱い悩んでいた。そのザリーカがある日誘拐されてしまう。
 一方、はるかその6000万年前、宇宙のとある星で原始サンゴ虫の中で自我に目覚めたある存在があった。後に”ノルルスカイン”と呼ばれる寄生的被展開生命体である。
 (天冥の標Ⅴ”羊と猿と百掬の銀河”より)
 各巻ごとにまったく違う物語が撚り合っていく大河SF。
【本】殺意の底(竹宮 惠子 中公文庫)
 2085年、惑星エデンを目指す宇宙移民船”エデン2185”は2000人余の人々を乗せて旅立った。到着は100年後、目標の星へ到着できるのは自分達の子供や孫の世代。目的を持って出発した彼らだったが航海が進むにつれさまざまな問題が発生する。地球への帰還の想い、市民(一般乗務員)とフライング・マン(船員)との反目・・・
 フライング・マン”シド・ヨーハン”を主人公とするSF連作集。竹宮惠子SF短篇集(3)に収録。
【旅行】神戸港移民乗船記念碑(希望の船出像)
 1868年(*1)のハワイ集団移住に始まる神戸港の移民。その後ペルー、アメリカ、カナダ、ブラジルなどさまざまな国への移民を送り出してきました。現在の日本の海外進出のルーツとなった人たちです。
 この記念碑はブラジルへの移民を記念して2001年に建立されました。


 さて、移民というと、経済発展型(個人的には”一旗揚げる”)と、脱出型があるようです。SFなんかだとそれこそ山ほどあって近場ではスペースコロニー(*2)や、ルナネクサスみたいな月面基地(*3)、多くの火星開拓モノ、遠くなるとそれこそ銀河帝国(*4)までいとまがありません。
 脱出型の例としては、母星の滅亡から脱出するタイプ(*5)とか、政治的な迫害からの脱出とか(*6)こちらも例は多数。

 で、今回のお話は”天冥の標”に出てくる”移民団のパラドックス”です。”ノルルスカイン”が語っている話で、要約するとこんな感じ。

・星から星への移民はしばしば個体の寿命を超えるし、膨大なコストがかかる。
・よって、移民団には長い航海のための強固な動機づけを必要とする
・遠くにある移民先の星の環境ははっきりしない場合が行ってみないとわからない。
 特に個体の寿命を超える場合は、何のためにいくか分からなくなってしまう。
・解決策として”旅そのものの目的化”が考えられる
・そのためには宇宙船という拘束された閉鎖空間が肯定されなければならない
・よって、外部と隔絶した閉鎖生活を独力で営む仕組みができあがる。
・これでは移民そのものを行う意味が失われ、移民そのものと矛盾する

 まあ、言われてみりゃもっともな話で、膨大なコストをかけての(*6)長期間のミッション、総論としてはokでも個人単位にしてみりゃ船に乗るための人生みたいなもんです。
 いつの間にか移民モノになっちゃった”マクロス移民船団(*7)”みたく、目的地に辿り着けなければ永続的に航行してもよいみたいな本末転倒もおこりうるのかも。

 移民船団も何年か飛び続けると”やっぱりやめたい”と思う人がでてくるのもいたしかたのないこと。今回”殺意の底”に出てくるのもそんな話で、出発から3年後にクーデターを起こした犯人プローラは全市民の投票によってエデンへの移住を中止し地球にもどることをを要求します。このみょ~な所で民主的なところがポイントで、秘密調査では市民の60%以上が犯人の意見に同調しているとの結果。そしてプローラを有無も言わさず殺したのが航行管理主任補佐のシド・ヨーハン中尉。

  プローラはエデン市民すべての心を代弁した
  それが、ぼくの「奴を殺した理由」

   (中略)
  ぼくたちは 翔ぼうとしたのだ --翼を広げて!
  だったら 飛ぶんだ 下を見ずに!
  太陽の光に焼かれて落ちるなら本望だ

 移民、特に世代宇宙船ってのはワンウェイなので戻るという選択肢はまず不可能。それでも行くんだという強い思い入れが必要なんでしょうね。
 現実世界での移民も、歴史的には必ずしも移民先で良い環境だったとは言い難いようですが、それを切り拓いて行ったのはやはり強い想いがあったんでしょう。

 ”殺意の底”は現在でも入手可能。同じ作者の”地球へ…(*8)”ほど話題になることはありませんが、名作です。

《脚注》
(*1)1868年
 慶応4年にして明治元年。
 つまり王政復古の大号令が出て明治新政府が樹立した年です。もっとも戊辰戦争もこの年なのでまだ世の中が落ち着いてたとは言えなかったんではないかと。
 黒船でペリーが来たのが1853年、日米修好通商条約の調印が1858年ですがら、移民そのものはかなり早い段階から行われていたようです。
(*2)スペースコロニー
 機動戦士ガンダムに登場する宇宙に浮かぶ人工天体。
 地球と月の重力平衡点(ラグランジュポイント)にあるのでSF的には地球の玄関先にあるようなモンです。
(*3)ルナネクサスみたいな月面基地
 ”MOONLIGHT MILE(太田垣康男 小学館)”より。月は人類が有人で到達しえた唯一の天体なので、リアル系SFではよく登場。
(*4)銀河帝国
 ”銀河帝国興亡史(アイザック・アシモフ)”、”スター・ウォーズ(ジョージ・ルーカス)”、”銀河英雄伝説(田中芳樹)”、 ”超人ロック(聖悠紀)”など名作が綺羅星のごとく。
 なぜ宇宙に版図を広げるほど発達した人類が、政治形態として前近代的な帝国主義的国家となるかは”銀河英雄伝説”に詳しく載ってます。
(*5)母星の滅亡から脱出するタイプ
 代表例は宇宙戦艦ヤマト。地球ではなくガミラスの方。ガミラス人は自分の星が寿命を迎えたため、地球に移住を計画しました。でも、確率的には充分大マゼラン星雲の中で居住できそうな星を探せたはずなのに、わざわさ14万8千光年も先のしかもテラフォーミングしないと住めないような星を選んだのかはこの作品の最大のナゾ。
 ちなみに宇宙船としての”ヤマト”も、本来は滅亡に瀕した人類を脱出させるために建造された移民船です。
(*6)政治的な迫害からの脱出とか
 代表例は”銀河英雄伝説”に登場するイオン・ファゼカス号。アーレ・ハイネセンら共和主義者が、全長122Kmの渓谷にあるドライアイスをくりぬいて40万人を乗せて流刑惑星から脱出した宇宙船です。のちの銀河帝国vs自由惑星同盟の長きにわたる対立のきっかけとなったデキゴトであります。
(*6)膨大なコストをかけての
 世代宇宙船の建造コストがいくらかかるかはわかりませんが、スペースシャトルの打ち上げコストだと135回の打ち上げで2,090億ドル(16.7兆円)、1回あたり1,240億円かかっています。スペースシャトルが乗員7名、14日間のミッションとして上記の”エデン2185”の2000人、100年との比で掛け算すると8.87京億円。まあ、こんな計画が実用化されるころには劇的にコストがさがってるんでしょうが、それでも国家予算がふっとぶぐらいの費用がかかりそうです。
(*7)マクロス移民船団
 アニメ”マクロスシリーズ”に登場する宇宙移民船団。地球だけに居続けると宇宙からの攻撃に人類が滅亡してしまう可能性があるので、移民による分散で全滅を防ごうという経済発展型と脱出型の混ざった”リスク分散型”ともいえる形態です。
 初期の作品は観ましたが、さすがに最新シリーズ(マクロスF)は観てないなぁ
(*8)地球へ…(テラへ)(竹宮惠子 中公文庫)
 修復不可能なまでに進んだ環境破壊から地球を再生させるために、人類が植民惑星に移住した未来。そこはスーパーコンピュータによる管理社会と、その社会からはじき出された”ミュウ”という超能力者たちがいた・・・
 1977年に発表され、1980年にアニメ映画化、2007年にテレビアニメ化されました。

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