スマホのささやきに身をゆだねれば間違いはない、かな?(モバイルパワーの衝撃/ささやき/ビクターの犬)
ども、スマホではなく携帯電話のユーザのおぢさん、たいちろ~です。
家では娘が就活に向けてそろそろスマホに変えようかという話が出ています。私については奥様から”新しモン好きのくせにナゼにスマホに変えないのか?”という質問が出ていますが、端的に言って機種変更がメンドウなだけなんですが・・・
スマホにすると便利そうなのは確かなんですが、まあ他の理由としてはスマホにするとツイッターやFacebookにハマりそうで(*1)、それでなくても少ない読書時間が減っちゃいそうだからであります。
写真はWikipediaより。グラモフォン(円盤型蓄音機)を覗いているニッパー(犬)の絵です。
【本】モバイルパワーの衝撃(辻村 清行 東洋経済新聞社)
筆者はNTTドコモ代表取締役副社長というスマホを売っている人。
サブタイトルが”スマートフォン時代の事業モデル革命”とあるように、スマホの機能というより”スマートフォンでどんなビジネスが出来るか?”という内容を中心にまとめたビジネス書です。
【本】ささやき(星新一 新潮文庫)
5年ぶりに火星から帰ってきた男。友人がパーティを開いてくれるとのことだが、自信のない男はR万能サービス社に助けを求める。すると小型のイヤホンが送られてきて・・・
”ショートショートの神様(*2)”星新一の1編。
”おせっかいな神々”(新潮文庫)に収録。
【動物】ビクターの犬
イギリスの風景画家マーク・ヘンリー・バロウドが病死したさい、彼の飼っていた犬を引き取った弟の画家フランシス・バラウドが、亡き飼い主の声が聞こえる蓄音機を不思議そうにのぞき込むニッパーの姿を描いたもの。一般には”His Master’s Voice(*3)”としてビクターのマークに使われている事で有名。
で、最近読んだ本に”モバイルパワーの衝撃”というのがあります。この本によるとスマートフォンや携帯電話の何がすごいかというとこれらの持っている5つの特性
①本人性 :携帯電話の所有者が特定できる
②常時性 :常に携帯して活用している
③位置の特定性 :携帯電話の(=その持ち主の)現在位置を把握できる(*4)
④ネットワーク性 :簡単につながる事ができる
⑤リアルへの拡張性:インターネットの世界とリアルな世界をつなげる事が出来る
によるものだとか。これによってビジネスがどう変わるかというと
1)個客の見える化
2)個客ニーズの顕在化
3)商品・サービスのマイクロ化
4)商品・サービス提供の適時化
5)商品・サービス提供チャネルのポータブル化
詳細は本書を読んでいただきたいんですが、どんなことができるかを本書から引用すると、
ドコモが俳優の渡辺謙さんを起用したスマートフォンのCMで描いているように、
常にかたわらに寄り添い、困った時にはアドバイスをささやき、
道に迷ったら地図データを開くように必要な情報を提供する姿は、
まさにケータイの特性を象徴的に表したものであり、
だからこそリアルな現場にも入り込めるのである。
で、これを読んでてふと思い出したのが、星新一の”ささやき”というショートショート。読んだのはたぶん中学か高校の時だったはずですが、こんな内容。
男はR万能サービス社から送られてきたイヤホンをつけてパーティに出席する。
パーティでは、イヤホンからのささやきに従って行動したところ
とてもスムーズに会話もはずんだ。
翌日にR万能サービス社にお礼に行ったところ、その行動を指示していたのは
幅の広いトラックの録音機だった(*5)。
実はパーティに出席した友人達もその”火星帰りの人のためのテープ”に従って
会話をしていたのだった。
今のスマホを使って究極的にパーソナライズされたリコメンデーション(*6)が実現すると、コンピュータが作ったシナリオ通りに行動すれば最適な行動ができるはず。といってそのままに行動するんだったら(実際にしちゃうんでしょうが)、レコートから流れる主人の声に聞き入る犬とあんまし変わんないかも。星新一がこのショートショートで描いたようなブラックユーモア的なことが現実に起こりかねません。
ドコモの副社長にしても、この本に掲載されているJR東日本、マクドナルド、ローソンなどのトップにしても、顧客の利便性とそれに伴う売り上げ増加をしたくても別にそんな社会を作りたいわけではないでしょうが、ユートピアの追求がどこかのタイミングでディストピア(*7)に転嫁しないとも限りませんし。
てなことを考えながら、やっぱりスマホが欲しいなぁなんて思ってしまうのであります。
《脚注》
(*1)ツイッターやFacebookにハマりそうで
最近電車の中や昼休みのレストランでしょっちゅうスマホをのぞいている人がいますが、ああなってくると中毒じゃないかと思う時があります。確かにやっている人の話を聞くと気になってしょうがないらしくはあるそうですが。
(*2)ショートショートの神様
だいたい原稿用紙10枚以内ぐらいの小説。昔は小松左京、筒井康隆、眉村卓といったSF作家が書いていたんですが最近は見なくなりましたね。星新一が”原稿料が枚数でいくらなので、枚数の少ないショートショートは労力の割に合わない”てなことを言ってましたが原因はこのあたりかも。
星新一は1000編以上を書いたこの分野では神様です。
(*3)His Master’s Voice
余談ですが、レコード販売店の”HMV”はこの略だそうです。知らなんだ・・・
(*4)携帯電話の現在位置を把握できる
本書によると携帯電話のGPS機能で誤差数メートルの範囲で位置が特定できるんだそうです。で、この機能を使って彼女が彼氏の居場所を特定できるのが”カレログ”。
ラブラブな間柄なら便利な機能ですが一つ間違えるとネットワーク社会のストーカーに(以下自主規制)
(*5)幅の広いトラックの録音機だった
カセットテープレコーダすら見る事の少なくなった昨今は分かりにくいネタですが、磁気テープで1つの音のつながりをある幅に当てはめているのがトラック。”幅が広い”ということは沢山の人が並行して音を聴いている事を意味します。
このショートショートが書かれたのは1965年頃のようですので、まだパソコンもインターネットも世に出る前ですので録音機ですが、今ならきっと”ネットワークにつながったサーバ群”になるんだろうなぁ。
(*6)究極的にパーソナライズされたリコメンデーション
”パーソナライズ”は何かを個人の状況に合わせて変更(カスタマイズ)すること。
”リコメンデーション”は利用者の好みにあった物品やサービスを推薦する手法。アマゾン.comなどで”この商品を買った人はこんな商品も買っています”ってのがそれ。
つまり、最適なサービスを個人それぞれに情報を提供するという意味ですが、こういう言葉を何気に使うのがIT産業のイヤミな所です。
(*7)ディストピア
ユートピア(理想郷)の反対の社会。
SFなんかだと、見た目は平等で秩序正しい理想的な社会だが実は、徹底的な管理・統制された社会で自由が奪われていたりなんかします。
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