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2012年3月11日 - 2012年3月17日

虚偽は疑惑よりも快適であり、愛よりも有用であるらしい(族長の秋/パンヤ)

 ども、家庭内ですら独裁に程遠いおぢさん、たいちろ~です。
 世の中には”独裁者”というお仕事があります(*1)。お隣の国でもお父さんが亡くなられて三男への権力継承がうんぬんという記事が新聞のトップに出ておりました。外交的には相変わらずすったもんだしているようですが、外から見る限りではおおむね平穏に継承が進んでいるように見受けられます。
 ところで”独裁者というのは割のいいお仕事か?”というと結局のところどうなんでしょうねぇ。ということで、今回ご紹介するのは独裁者(正確には独裁的な権力を持つ大統領)の登場する”族長の秋”であります。


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 写真はたいちろ~さんの撮影。北海道大学植物園のパンヤ科のトックリキワタ(徳利木綿)です。


【本】族長の秋 (ガルシア=マルケス 集英社文庫)
 小国に君臨する大統領は独裁者の地位についた。奇行、悪行ざんまいとやりたい放題だが、気力、体力、記憶力の減退と人生の秋を迎える・・・
【花】パンヤ科
 世界の熱帯に分布する木本ですが、日本には自生しません(植物園などでは見ることはできます)
 カポック(パンヤノキ)、パキラ、バルサ、ドリアン、バオバブ、それに写真のトックリキワタなどが含まれます。パンヤ科の植物には幹に刺があるものが多いんだそうです。


 ”族長の秋”に登場する”彼”ことこの独裁者を見ている限り、まあ悪いお仕事とは言えなさそうです。
 美女を我が物にしてその家の周りを街ごと改造したり、山ほど子供を作ったり、死んだ母親を神格化したり。でも、その美女がわがまま放題やってたり、国家財政の破綻で外国から責められたり、部下を信用できなかったりといいことづくめでもないご様子
 じゃあなんで独裁者なんかになりたかったかというと、いくつかのパターンがあるようで

 ①上昇志向をもって実力(往々にして武力)で
   軍部のクーデターなんかがこれ(*2)。
   ミャンマー、タイやラテン・アメリカ諸国など事例多数。
   ところで、橋本徹の大阪市長選の前に寄ってたかって独裁者扱いしてましたが
   選挙後のあの手のひらの返し方はいったいなんなんでしょう?
 ②世襲制で
   親からの権力継承。お隣の国がこれ。
 ②権力に抵抗するために仕方なく
   独裁政治の問題点は独裁者の権力行使に抑制が効かないこと。
   つまり”独裁者から何をされるかわからない”訳で身を守るために
   自分が独裁者になる必要があった人。後継者候補が複数いる場合なんかではありそう
   小説ですが”銀河英雄伝説”のカイザー・ラインハルト(*3)もこのケースです

 ”族長の秋”の場合は①のケースですが、わかんないのは”じゃあ何がしたくて独裁者になったのか?”。本書の場合に限った話ではないですが、意外と多いんですね、何のために独裁者になったのかわかんないのって(*4)。贅沢をしたいとか美女を侍らせたいという理由にしては独裁者は大げさすぎ。むしろ敵を殲滅した結果として独裁者になったんだったら憎悪の無限ループに陥るだけで確かに気が安まるヒマがないでしょうし。”彼”の場合も暗殺を恐れてか寝る時に3つの錠前をかけてます(*5)。

 独裁者といえども一人で統治ができるわけではないので、幕僚や内閣といったスタッフが必要。でもこいつらも信用できるかどうか分からないし、目を離すと好き勝手やらかすし、おべんちゃらで虚偽をするし。本書でもそんな例がいっぱいでています。
 でも、結局のところ独裁者ってのでそんなのに安住しちゃうんでしょうか。

  彼がそもそもの初めから心得ていたのは
  周囲の者たち歓心を買うためにあざむいていることだった。
  媚を売ることによって彼から金を得ていることだった。

    (中略)
  長い年月の流れるあいいだに、虚偽は疑惑よりも快適であり、愛よりも有用であり、
  真実よりも永遠のものであることを知ったのだった。
  権力を持たないのに命令し、栄光を与えられないのに称賛され、
  権威をそなえていないの服従されるという、恥ずべき欺瞞に思い至っても
  別に驚きはしなかった。

 本書の中に”彼”がパンヤの木のハンモックで休むというシーンが出てきますが、パンヤ科の木というのは写真のような凶悪そうなトゲトゲがあるものが多いんだそうです。
 独裁者も同じで、場合によっては有用でも近づくと危険だったりしそう。別にお隣の国がそうだと言ってるわけではありませんが。

 ”族長の秋”は改行のない文章が延々と続くとか、何の説明もなく語り手が変わるとか決して読みやすい本ではないですが(*6)、読んでいくとなかなか味のある本。ご興味のある方はどうぞ。

《脚注》
(*1)世の中には”独裁者”というお仕事があります
 実態はどうあれ、独裁者は”国民の圧倒的支持によって誕生した者”という形式を取っています。この点が国民の支持を形式上は必要としない専制君主との違い。
 先日亡くなられた方も国政選挙である最高人民会議選挙によって投票率99.9%、100%の賛成と圧倒的な支持で選出されています。
(*2)軍部のクーデターなんかがこれ
 意外なようですが、独裁者の代表のような”アドルフ・ヒトラー”は軍事力ではなく合法的な選挙により勢力を拡大してます。国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)は憲法改正的法令に必要な3分の2の賛成を獲得して全権委任法を可決させ、議会と大統領の権力を形骸化しています。
(*3)カイザー・ラインハルト
 、田中芳樹のSF小説”銀河英雄伝説”に登場する銀河帝国ローエングラム王朝を建てた初代皇帝。この人は幼い時に愛する姉のアンネローゼを銀河帝国ゴールデンバウム王朝の皇帝フリードリヒ4世の寵姫として奪われたことから、王朝打倒を目指すことになります。
 創元SF文庫版で本編10冊、外伝5冊と超大作ですがぜご一読いただきたい名作。
(*4)何のために独裁者になったのかわかんないのって
 昭和仮面ライダーシリーズに登場する”世界征服を企む悪の秘密結社”ショッカーの首領にしてもなんであんなに手間暇かけて世界征服をしようとしてるのか分かりません。別に安全保障ってわけでもないでしょうし。
 むしろ高屋良樹による漫画”強殖装甲ガイバー”に登場するクロノスの長”アルカンフェル”のように創造主たる”降臨者”の元に詰め寄らるという目的が明確なほうが例外的なのかも。
(*5)寝る時に3つの錠前をかけてます
 まあ、独裁者を倒せば独裁者になれるという構造は必然的に”暗殺”を生むわけで、たえず暗殺者に備える必要があるわけです。食べ物で毒殺されないために”お毒見役”なんてのもありますが、検査が終わった食べ物は”目黒のさんま”状態です。
(*6)決して読みやすい本ではないですが
 ノーベル文学賞授賞者だから許されるのであって、小中学校の作文でこの文体をマネたらバッテンくらいます、たぶん。

データ集めに膨大な金を使いすぎるくせに、データの整理には充分に使わない(レッド・オクトーバーを追え/潜水艦おやしお)

 ども、CIAのエージェントのおぢさん、たいちろ~です。(ウソです、マジで)
 先日、会社の企画担当の人と”データーって集めるだけじゃなくて、分析をする人も重要だよね”という話になりました。まあ、当たり前っちゃ当たり前の話でデータがなければ状況が分からないですが、かといって同じデータを見ても分析する人の善し悪しで導きだされる結論の質はそうとう変わってきます
 いちおうコンピュータ屋ですので、昨今のビッグデータキュレーターだ(*1)という話はでてきますが、どんだけ大量のデータを集めてスーパーコンピューター並みのシステムを提供しても結局はデータを分析する人の能力や感性によるんじゃないかと思ってしまいます。
 そういえば、こんなことやってる人がいたよなぁということで、今回ご紹介するのはそんな人が主人公の本”レッド・オクトーバーを追え”であります。


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 写真はたいちろ~さんの撮影。横須賀海上自衛隊基地の潜水艦”おやしお”です(手前)。横須賀基地の一般公開(サマーフェスタ2011)にて。


【本】レッド・オクトーバーを追え (トム・クランシー 文春文庫)
 ソ連の最新鋭ミサイル原子力潜水艦”レッド・オクトーバー”が処女航海で突然行方をくらました。艦長ラミウスの意図は? その謎を追うCIAのアナリスト、ジャック・ライアンは?
 1985年(原書は1984年)に発売されベストセラーとなった海洋冒険小説。
【乗り物】潜水艦”おやしお”
 海上自衛隊所属のディーゼル・エレクトリック方式の潜水艦。おやしお型潜水艦の1番艦。
 全長82.0m、全幅8.9mと、海上自衛隊の中では最大サイズの”そうりゅう型潜水艦”(全長84.0m、全幅9.1m)に次ぐ大きさです。


 さて、本書に登場する”レッド・オクトーバー”ですが、全長650フィート(約198m)、全幅85フィート(約26m)ととにかくでかい。潜水艦なんてめったに見れるもんではないですが(まあ、他の戦艦もそうですが)、実際の潜水艦てのはけっこう大きな乗り物です。写真ではそんなに大きく見えないかもしれませんが、これは大半が水の下に潜っているから。海上自衛隊呉史料館(*2)で”おやしお”より一回り小さいゆうしお型潜水艦”あきしお”を見ることができますが、圧倒されます。
 ”レッド・オクトーバー”は上記の”おやしお”と比べても全長で2.4倍、全幅で2.9倍。形は違いますが、大型フェリーの”さんふらわー”(大洗~苫小牧航路)がだいたい190~192mぐらいですので、それよりややでかいぐらいと言えばイメージできるかと(*3)。
 しかも無音の推進ができる”キャタピラー・ドライブ”を搭載し、全世界の海のどこでも秘密裏にいけるというスグレもんです。

 潜水艦というのは、その隠密性から(小説内の設定では)いったん潜航するとどこにいて、何をやるかがわかんないというリスクをはらんでいます。しかも”レッド・オクトーバー”はシーホークミサイル26基を搭載し200の都市を破壊できるという剣呑なシロモノ。
 まあ、沈黙の艦隊やりたい気持ちになるのも分からんではないですが(*4)、亡命も同じでしょう。ラミウス艦長は上級士官とともにアメリカへの亡命を企てるわけですが、事前になんの相談もなくいきなり来られるアメリカだって大変です。艦長の意図を見抜いたのが本書の主人公、ジャック・ライアンです。

 で、ジャック・ライアンはCIA職員(*5)で映画では銃撃戦をやっていますが(*6)、本来はアナリストで歴史家。本人いわく”専門はデスクワーク”。スパイというイメージではないです。ヘリコプター墜落事故が原因で海軍を退役、メリル・リンチ(*7)の証券トレーダーとして資産を作って歴史学の大学博士課程に進むというかなり異色の経歴の持ち主です。

 ジャック・ライアンの何が凄いかというと、まったく会話をしていないラミウス艦長の意図をその周辺情報だけで正確に見抜いている点です。
 ライアンの上司であるグリーアCIA情報担当副長官の言葉

  ライアンには、山のようなデータを選りわけて
  重要な意味をもつ二、三の事実を突き止める能力が備わっていた。
  これは、CIAではめったにないことだった。
  うちの局はデータ集めに膨大な金を使いすぎるくせに、
  データの整理には充分に使わない、とグリーアは思っていた。
  アナリストは、外国で活躍する秘密諜報員のように華々しい存在ではない。
  しかしライアンは、そうした諜報員がよこす報告や専門分野の情報源から来る
  データを分析する術を知っていた。

 まあ、データとアナリストがそろってこそ有益な情報になるわけで、結局のところビッグデータのビジネスが成功するかどうかは、アナリスト(キュレーター)が養成できるかどうかにかかってるんだろうなぁ。

 ”レッド・オクトーバーを追え”は絶版になっているようですが、図書館あたりにはあるはず。掛け値なしに面白い小説です。

《脚注》
(*1)ビックデータだキュレーターだ
 ビックデータとは今までのデータベースでは扱えないような巨大なデータのこと。
 キュレーターとはそれを分析する人。キュレーターは一般的には博物館や美術館にいる学芸員のことですが、分子生物学では”独立した実験結果や報告を付き合わせ、妥当と思われる事柄を注釈として選択する作業をする人(ウィキペディアより抜粋)”のことだそうで、イメージ的にはこっちのほうが近そうです。
(*2)海上自衛隊呉史料館
 愛称”てつのくじら館”。広島県呉市にあります。
 ”あきしお”は全長76.0m、全幅9.9mとやや小さいですが相当なモンです。
(*3)それよりややでかいぐらいと言えば~
 ありえないほどでかいかというとそんなこともなく、東西を代表する最大の潜水艦は下記のとおりです
 アメリカ  :オハイオ級原子力潜水艦  全長170.67m、全幅12.8m
 ソビエト連邦:タイフーン型原子力潜水艦 全長175.0m、全幅23.0m
(*4)沈黙の艦隊やりたい気持ちになるのも~
 ”沈黙の艦隊”はかわぐちかいじによる漫画。
 極秘に建造された原子力潜水艦”シーバット”を乗っ取って戦闘国家「やまと」の独立を宣言、国連軍となるべくアメリカを目指すというお話。
(*5)CIA職員
 アメリカ中央情報局(Central Intelligence Agency)。
 スパイ小説では諜報活動から情報操作、買収、暗殺なんでもありですが、言われてみれば分析をする人がいないと情報なんて役に立ちません。
(*6)映画では銃撃戦をやっていますが
 主演 ショーン・コネリー 、アレック・ボールドウィン、監督 ジョン・マクティアナンで映画化。1990年公開。
 原作に比べてはしょったストーリーですがけっこう面白い映画です。
(*7)メリル・リンチ
元米国三大投資銀行の一つ。2007年のサブプライムショックで巨額の損失を計上し、2009年にバンク・オブ・アメリカに吸収されました。
 ソ連といい、メリル・リンチといい、ちょっと前の話なんですが時の流れを感じさせます。

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