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失礼ながら、閣下は樽に住んだ哲人をご存知でしょうか?(ディオゲネスは午前3時に笑う/樽)

 ども、哲学的な人生を送るおぢさん、たいちろ~です。
 先日DVDで”コクリコ坂から(*1)”を見てると、どう見ても武道系にしか見えない”哲学研究会”の巨漢の学生と(*2)、学校の理事長がこんな会話をしてました。

  理事長:君は新しい部室が欲しくないかね? かわいい後輩もいるようじゃないか
  哲学研:失礼ながら、閣下は樽に住んだ哲人をご存知でしょうか?
  理事長:ディオゲネスか! あはははは。
       校長先生、いい生徒達じゃありませんか!

 なかなか、エスプリの聞いた会話ですが、なつかしいなぁディオゲネス。
 といっても、こっちは世界史や倫社・政経の授業じゃなくある小説からの知識ですが。ということで、今回紹介するのはちょっと昔の推理小説”ディオゲネスは午前3時に笑う”であります。


0383

 写真はたいちろ~さんの撮影。仙台のニッカウイスキー工場にあった樽です。


【本】ディオゲネスは午前3時に笑う(小峰元 講談社)
 高校3年生の”正之”は姉”信子”の不倫相手が金沢で列車事故で亡くなったことを知る。しかもその男はまったく別の女性”多可子”と抱き合って死んでいた。
 正之は偶然知り合った”チン浪”、落語家の卵”五六”、多可子の妹”英理”たちことの真相の究明に乗り出す・・・
 ”アルキメデスは手を汚さない”で江戸川乱歩賞を受賞した小峰元の青春推理小説。
【道具】
 主に液体を詰めておくための円筒形の容器。写真の樽はウイスキーを発酵させ熟成させるためのものです。
 写真は手前からButt(477.3リットル)、Puncheon(318.2リットル)、Hogshead(238.7リットル)、Barrel(119.3リットル)(カッコ内はイギリスのワイン樽の容量)
 ディオゲネスの住んでいた樽がどれかは分かりませんが、現在のカプセルホテルと比べても相当狭そうです。


 この本、初版が1976年なんでたぶん高校生ぐらいの時かなぁ、読んだの。
 ストーリーはほとんど覚えてませんでしたが、権力や権威に媚びることなく自由に生きたディオゲネスってのがミョ~に印象に残ってました。
 本書のストーリーは上記のとおりですが、登場人物の中でディオゲネス的なのが”チン浪”。何かとディオゲネスの言葉を引用する人ですが、実は東京大学を3ケ月で自主退学した優秀だけど変わり者。東大をやめた理由ってのが

  ディオゲネスが、白昼、アテネの目抜き通りを、
  ランプをかざして歩いてたって話を知っているだろう?
  なにをしているんだと尋ねられたら、
  人間を探してるのさと、答えたっていうが・・
  同じことを、おれは大学で感じたね。
  あそこはマージャンとマンガで明け暮れるアホの楽園か、
  でなけりゃゲリラ予備軍の養成所さ。
  ときたま講義に出席率がいいやつがいると思えば、
  成績をあげて官庁か一流企業を目指しているススけた野郎さ。
  つまり学生は、数えるほども、いやしない

 まあ、そのアホの楽園に入るのに人様より2年も余分にかかったアホですのであんまし偉そうには言えませんが、リアルタイムで読んだ時ってのはそんな空気でしたねぇ。
 実際、主人公の正之も”大学に行くべきか、行かざるべきか”なんて悩んでますが、大学全入時代(*3)の若者たちもおんなじように感じるんでしょうか。
 大学に入ることが敷かれたレールのレールを走るだけなのでいやだという正之に対してチン浪は、その意見に賛成しつつも

  実際はレールの上を走らされるだけさ。
  ただ、鈍行か急行か特急かを選ぶことが許されている
  もっとも、その男に、金か、能力があればの話だがね

 のちに”ドラゴン桜(*4)”で”東大卒はプラチナチケット”ってな発言をしていますが、状況認識としては同じでしょうか。でも”ドラゴン桜”ではチケットを手に入れること自体に疑問を持たない(持たせない)ってのが今の時代風です。

 チン浪は本書の中では突出した状況判断能力の持ち主として描かれています。本書の中でディオゲネスをして

  ディオゲネスは、何でも見えすぎたんだ。
  人間の心の裏の裏まで知りすぎたものだから
  人間に失望したのかもしれないな

 という評価をしていますが、これは一面チン浪にも当てはまること。
 優秀なのはいいけど、優秀すぎることが必ずしも幸せとは限んないのかもしれません。
 とはいえ、正直なとこ受験生を持つ親としては、せめて急行列車ぐらいには乗って欲しいもんです。ディオゲネスは哲学者として名を残し、アネテの人々にも愛されていたそうですが、現代で樽に住んでりゃ”ホームレス”としか言われんでしょうしねぇ・・・

 ”ディオゲネスは午前3時に笑う”は、ちょっと今風ではないかもしれませんがお父さん世代が”あの頃”を振り返って読むには良い本かも。”コクリコ坂から”だっておじいさん世代のお話なんだし。

《脚注》
(*1)コクリコ坂から(監督 宮崎吾朗、スタジオジブリ)
 東京オリンピックの開幕を目前に控えた日本。横浜にある高校では古い部室棟”カルチェラタン”の建て替えを巡って論争が巻き起こっていた。女子高性のメルはあるきっかけから知り合ったった俊とカルチェラタン存続に向け奔走することになる。
 ”ゲド戦記”に続く宮崎吾朗監督の第2作目。
(*2)どう見ても武道系にしか見えない
 別に武道系に含むところがあるわけではありません。
 でも、カルチェラタンの大掃除の時に3人がかりで押さえつけてるとこみると力はありそうです。
(*3)大学全入時代
 2007年頃に日本の大学への入学希望者総数が入学定員総数を下回る、つまり”大学・学部を問わなければ希望者全員が大学に入れる”ようになりました。
 だからと言って大学入試が楽になったわけではなさそうですが・・・
(*4)ドラゴン桜(三田紀房 講談社)
 このマンガが連載されたのは2003~07年と全入時代直前のころ。
 プラチナチケットうんぬんの発言をしているのは元暴走族の弁護士の桜木建二先生。チン浪と違いは社会の荒波にもまれた人だからの発言ではあります。

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