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推理小説を読みたいなら原作を、アクションを見たいなら映画を(野性の証明/ナス/CH-47 チヌーク)

 ども、秘められた野性のおぢさん、たいちろ~です。
 先日、チャンドラーの”プレイバック(*1)”を読みました。ある世代の人にとっては、ハードボイルドな私立探偵”フィリップ・マーロウ”というより、

 男はタフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない

のフレーズのほうが通りが良いかも。この名言の元ネタが”プレイバック”なんですが、まあ、このフレーズがキャッチコピーとなったほうも読んでみましょうということで、
今回ご紹介する”野性の証明”であります。

Photo
 写真は”フリー素材屋Hoshino”より。丸なすとナスの花です。
 自分の庭に毎年ナスを植えてるのに、なぜか写真がなかった・・・


Ch47jja0700


 写真はたいちろ~さんの撮影。アメリカ空軍横田基地の”CH-47 チヌーク”です。


【本】野性の証明 (森村 誠一 角川文庫)
【DVD】野性の証明 (原作 森村 誠一、製作 角川春樹)
 岩手県の寒村で皆殺し事件が発生、一人の少女”長井頼子”だけが生き残った。
 2年後、元自衛隊員の”味沢岳史”は頼子を連れて羽代市に現れる。そこは”大場一族”が牛耳る独裁の街であった・・・
 角川映画版では味沢岳史を高倉健が、長井頼子を薬師丸ひろ子が演じました(*2)。
 音楽監督は大野雄二。BGMだけ聴いてるとほとんどルパン三世です。
【花】なす(茄子)
 ナス科ナス属の植物。食用の果実が生ります。
 果実と花の色は必ずしも一致しないんですが、なぜだかナスの場合は花や枝も紫のナスビ色になります。
【乗り物】CH-47 チヌーク
 ボーイング・ヘリコプター社製造のタンデムローター式の大型輸送用ヘリコプター。
 映画版では自衛隊演習のシーンに登場しますが、自衛隊への配備は1986年と映画公開(1978年)の後とのこと。


 さてこの作品、森村誠一の原作を映画化したものですが原作と映画でこうも印象が違うモンかと。ネタバレになりますが、上記の他にも

 ・味沢岳史は自衛隊でスパイやゲリラ戦を担当する特殊工作隊出身。
  今風に言うなら、”亡国のイージス”に登場するDAISの如月行(*3)みたいなもん。
 ・長井頼子は直観像記憶(*4)を持つ異能者
 ・保険外交員となった味沢岳史は伊崎輝夫の妻の死亡を調査する
 ・大場一族の不正を暴こうとする越智朋子(味沢が助けれれなかった越智美佐子の姉)に協力する協力する

 といったプロットは一緒なんですが、なんでこうなるのと思うぐらい別モノ。
 主人公の味沢の扱いにしても、原作では越智朋子暴行殺害事件の手掛かりとして、凌辱に使われたと思われるなす(*5)から犯人をたぐりよせるようなアプローチを見せていますが、味沢はスパイ養成の教育を受けているという設定なので、これはありなんでしょう。でもこのエピソードは映画ではいっさい出てきません。
 一方、映画版では”ゲリラ戦のエキスパート”という部分がかなり拡大解釈されていて、のっけからのレンジャー訓練、過激派によるアメリカ大使人質立てこもり事件(*6)の解決など殺人テクニックをたたきこまれた味沢という人の扱い方をよく表しています。でも、原作ではこういったエピソードはなく、味沢の前身は岩手県警の刑事によってのみ語られるだけ。後半にある自衛隊演習に出てくる戦車(M60パットン)やヘリコプター(ベル206CH-47 チヌーク)なんてのはいっさいありません。
 まあ、原作では味沢を探偵的な人として描いているのに対し、映画版ではほとんど体育会系の人として扱ってるようです。

 エンディングで、戦車や歩兵隊の大群に亡くなった頼子を背負って拳銃ひとつで立ち向かうってシーンはほとんど任侠映画の世界。耐えに耐えた主人公が長ドス一本持って敵であるヤクザの組に殴りこみをかけるシーンを彷彿とさせます。絶望的な状況ながらもカタルシスを感じる場面です。
 まあ、主人公を演じるのが高倉健だから余計にそう感じるのかも。

 一方、原作のほうはほとんど救いのない終末。頼子を救うために戦った味沢は病気による精神障害で発狂したとして精神病院に入院させられ、冒頭の大量殺人事件の真相は闇に葬られ、協力した刑事も同様の病気で言動に異常、頼子にいたっては”その後の長井頼子の行方を知る者はいない”の一言で片づけられ・・・
 昔、この本を読んだ時に”映画と違ってずいぶん救いのない話だなぁ”と思いましたが、あらためて読んでみると、やっぱりそんな話です。

 ”野性の証明”は推理小説を読みたい人は原作を、アクション好きなら映画版でしょう。でも、こんだけ違う話をメディアミックスで一緒に商売してたのは角川春樹(*7)らしいとも言えます。

《脚注》
(*1)プレイバック (レイモンド・チャンドラー 訳:清水 俊二 早川文庫)
 弁護士から謎の美女ベティ・メイフィールドの尾行を依頼された私立探偵フィリップ・マーロウ。どうやら彼女は脅迫されているらしい。尾行を続け、彼女に接触を持ったマーロウは・・・
 正統派ハードボイルド作家、レイモンド・チャンドラーの遺作。
 詳細は”プレイバック、ハードボイルドの時代!”をどうぞ。
(*2)味沢岳史を高倉健が、長井頼子を薬師丸ひろ子が演じました
 そのほかにも今や”釣りバカ日誌”で好々爺のスーさんを演じる三國連太郎が大場一族のドン”大場一成”を、その息子で暴走族の頭、けっこうへたれで殺される(原作では生き残った)”大場成明”を舘ひろしが担当。
 舘ひろしにとっては、黒歴史なんだろうなぁ。
(*3)DAISの如月行
 福井晴敏の”亡国のイージス”などに登場する特殊工作員。
 ”DAIS(ダイス)”は”Defence Agency Information Service(防衛庁情報局)”の略で如月行はその配下の特殊要撃部隊”SOF(Special Operation force)の所属。
 福井晴敏もはずれの作品のない作家です。お勧め。
 余談ですが、神奈川県川崎市に”ダイス”(綴りはDICE)"というショッピングモールがあるんですが、これを見るたびに地下に防衛庁の秘密基地があるんじゃないかなどと思ってしまいます。
(*4)直観像記憶
 眼に映った対象を写真のように記憶する能力のこと。
 1997年に発生した”神戸連続児童殺傷事件(通称 酒鬼薔薇聖斗事件)”の犯人の少年がこの能力の持ち主ということで話題になりました。
 信じられないような能力ですが、中学の時に学年トップの成績の友人になんでそんなに勉強ができるのかと聞いたところ”教科書なんて、1回読んだら覚えるだろう”との返事。うらやましい限りです。
(*5)凌辱に使われたと思われるなす
 いしかわじゅんの名作漫画”約束の地”にも”電動ナス”というエッチなバイブレーターが登場しますが、まあそんな使い方です。
(*6)過激派によるアメリカ大使人質立てこもり事件
 浅間山荘に連合赤軍が武装して立てこもった”浅間山荘事件”が発生したのが1972年ですので、まあ時代の産物とも言えます。
 ちなみに過激派のリーダの役をやっているのは年の差婚で話題になった寺田農だそうです。
(*7)角川春樹
 元角川書店社長。映画監督、映画プロデューサー、俳人、冒険家。
 1970年代後半から80年代にかけて大作映画と本を大規模な宣伝で売るメディアミックス路線(通称 角川商法)を始めた人。
 弟の角川歴彦が春樹との対立から独立してメディアワークスを設立、この人が今のライトノベルとそのアニメ化、コミカライズというメディアミックスを継承した点では、ある意味今の萌え文化の源流にある人ともいえます。

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