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2010年10月31日 - 2010年11月6日

枯れた技術の水平思考(ゲームの父・横井軍平伝/エノコログサ)

 ども、以外とショットガンをぶっっぱなすのがうまいおぢさん、たいちろ~です。
 50代前後のおぢさん方は”レーザークレイ”ってのを覚えてるでしょうか?
 1970年代の前半にボーリングブームの去ったあと、ボーリング場を改装して作ったものです。大型スクリーンにクレー(的)を投影してそれをショットガンにみたてた光線銃で撃ち落とすといったゲームで、現在のガンシューティングゲームの超大型のものと思っていただければいいかと。でも、これがなかなかの優れモノで、銃床に圧搾空気(たぶん)を送り込んで衝撃を再現するとか、でかい発射音が出るとか。死んだ親父がここの支配人をやってまして、よく連れてってもらいました。
 で、このゲームを作った人が横井軍平。ということで、今回ご紹介するのは”ゲームの父・横井軍平伝”であります。


200803
 写真はたいちろ~さんの撮影。庭のエノコログサ。


【本】ゲームの父・横井軍平伝(牧野武文 角川書店)
 横井軍平はサブタイトルの”任天堂のDNAを創造した男”とあるように、任天堂のゲームを数多く開発した部長さん。この人がいなければ現在の任天堂の隆盛はなかったというゲーム界では知られざる伝説の人。この本は言ってみれば任天堂版”プロジェクトX”みたいなもんです。
【花】エノコログサ
 漢字で書くと狗尾草。犬の尾に似ていることから、犬っころ草(いぬっころくさ)だそうですが、”猫じゃらし”というほうが一般的。花言葉は”遊び”

 横井軍平が開発した代表的なモノを上げると

Lovetesters_2
【ラブテスター】
 男性と女性が手を握ってセンサーを握ると愛情をアナログの針の振れで愛情の度合いが計測できるというおもちゃ。1969年の発売。堂々と女性の手を握れるというシロモノで、若き日にこれで女の子を手を握ったという甘塩っぱい思い出を持つおぢさん、おばさんも多いのではないかと。
 技術的には、人間の体を流れる電流を測る検流計にすぎないんですが、若い男女にとってそんなこた、ど~でもいい話です

Sp
【光線銃SP】
 ビール瓶型の的に向かって銃を撃つと、瓶が飛んだりするおもちゃ。1970年の発売。マカロニ・ウェスタン(*1)なんかがはやっていたのころです。
 光線銃ってのは文字通り光線の出る銃だと思っていましたが方式は、2通りあって”光線銃SP”は銃にある豆電球の光を的の光センサーで感知しますが、上記のレーザークレイは的の光を銃の中にあるセンサーで感知するしかけで光は出ないとのこと。知らなんだ・・・
 ちなみに、光線銃SPの光センサーは太陽電池で、シャープでこれを開発していたのがのちにファミコンを世に出す上村雅之
  ※ラブテスター、光線銃SPの写真は”ルチオのオーラ”のHPより

【ゲームボーイ】
 1989年に発売、1億1800万台が販売されニンテンドーDSがその記録を抜くまで20年間”世界一でもっとも普及したゲーム機”。オリジナルポケモンシリーズもこれで動いてました。

 先日、”衝撃! 三世代比較TV ジェネレーション天国(*2)”を見てて思ったんですが、世代間でピピピと反応するのって、思った以上に違うモンです。おぢさんとしてはやっぱり前の二つですねぇ。
 その他にも、この人が作ったのはウルトラマシン、テンビリオン、ゲーム&ウォッチなど多数(*3)。

 ところで、これらって当時としては”ハイテクおもちゃ”ではありましたが、そんなに先端技術をバリバリに使ってるわけではないんだそうです。むしろ普通の技術をどう使うかってところに知恵を絞っていて、その発想が”枯れた技術の水平思考”
 メーカーに勤める人間から言わせてもらうと、性能と価格ってのは一般的にはトレードオフの関係にあるので、高性能のものを作ろうとすると高くなります。また、新しいデバイスで性能が上がると新しい使い方とか、要求レベルが上がってきて、結局価格性能比ってのは悪くなります。まあ、CPUやメモリみたいにムーアの法則(*4)で急速に安くなりましたが、1980年代半ばに16Kとかのメモリで平気で動いていたパソコンが、Windows Vistaでは512MB(約3.3万倍)積んでも”遅い”と言われてますから、イタチごっこみたいなもんです。

 安くあげようとすると大量に生産して固定比率を下げるとか、安い部品を工夫してうまく使うとか。それにおもちゃみたいに故障しない、フリーズしないことも要件になるので、結局は大量生産でコストが下がって技術的に枯れたもの(*5)をつかうのもありになります。で、これをうまくやった会社の代表が任天堂であり、この会社のDNAを作ったのが横井軍平です。

 初代のゲームボーイがモノクロだったのは、カラー液晶(すでに存在していた)だとコストは高いし、電池は保たないし、見えにくいしという問題もあったけど、根本には横井軍平のこんな言葉があったから

  私はいつも「試しにモノクロで雪だるまを書いてごらん」と言うんです。
  黒で書いても、雪だるまは白く見えるんですね。
  リンゴはちゃんとモノクロでも赤く見える。

 さきほどのジェネレーション天国でも、おぢさん世代は”そこは想像力でカバーしてたんだ!”みたいなことを言ってます。まあ、風呂敷ひとつで月光仮面になりきれた時代の人たちではあります。今のコスプレイヤーにはわかんないかもしんないけど。

  技術者というのは自分の技術をひけらかしたいものですがら、
  すごい先端技術を使うことに夢を描いてしまいます。
  それは商品作りにおいて大きな間違いとなる。
  売れない商品、高い商品ができてしまう。

 売れないだけなら会社に損害をかけるだけですみますが、担当者はデスマーチ(*6)を行進するハメになっちゃったり・・・

 本書は題名だけだとゲームマニア向けの本と思われるかもしれませんが、すべての技術者に読んで欲しい本であります。

《脚注》
(*1)マカロニ・ウェスタン
 1960~70年代前半に作られたイタリア製の西部劇。ジュリアーノ・ジェンマの”荒野の1ドル銀貨”、クリント・イーストウッド”荒野の用心棒”など。どうも記憶がごっちゃになっているようで、アラン・ラッドの”シェーン”は1953年、ユル・ブリンナーの”荒野の七人”は1960年のアメリカ映画でした。
(*2)衝撃! 三世代比較TVジェネレーション天国
 フジテレビで放映されてるスペシャルバラエティ番組。
 50~60歳のおぢさん世代に対する10~20代アイドルのクールなリアクションが秀逸。でも、共感するのはおぢさん世代のほうなんだな~、やっぱり。
(*3)ウルトラマシン、テンビリオン、ゲーム&ウォッチ
 ウルトラマシン:部屋の中で遊べるピッチングマシン
 テンビリオン :樽型のルービックキューブのようなパズル
 ゲーム&ウォッチ:専用小型携帯ゲーム機。ニンテンドーDSやPSPのご先祖様
(*4)ムーアの法則
 インテルの創業者、ゴードン・ムーアの言った”集積回路上のトランジスタは18ヶ月ごとに倍になる”というもの。
(*5)技術的に枯れたもの
 1976年にソ連のベレンコ中尉が亡命した事件で、乗っていたMiG-25ジェット戦闘機に真空管が多用されていて話題になりました。これは先進性より信頼性を重視したもの。一概にハイテク機器でもすべてハイテクってわけではない事例です。
(*6)デスマーチ
 ソフトウェア産業において、デスマーチとは、長時間の残業や徹夜・休日出勤の常態化といったプロジェクトメンバーに極端な負荷を強い、しかも通常の勤務状態では成功の可能性がとても低いプロジェクト、そしてこれに参加させられている状況を主に指す。(Wikipediaより)
 詳しくは、”デスマーチ(エドワード・ヨードン 日経BP社)”をどうぞ

キリストの十字架は痛みを感じるか?(未来の二つの顔/ハナミズキ)

 ども、コンピュータ会社に勤めるおぢさん、たいちろ~です(これは本当)。
 2010年7月12日、SF作家のジェイムズ・P・ホーガンが亡くなられました。
 ハードSFの巨匠にして、元DEC(*1)のセールスエンジニアという、コンピュータ関係者にとっては小椋佳(*2)みたいな存在。
 若いころにはけっこうはまっったな~と思いつつ、久しぶりに”未来の2つの顔”を読んでみました。


0072
 写真はたいちろ~さんの撮影。近所の公園に咲くハナミズキです。


【本】未来の二つの顔(ジェイムズ・P・ホーガン、東京創元社)
 月面の工事現場で、コンピューターが勝手に下した誤った判断のために大事故が発生した。人工知能を研究しているダイアー博士は人類とコンピュータの未来のためにある実験を提案する。それは、閉鎖された空間でコンピュータネトワークをシミュレートするというものだった・・・
【花】ハナミズキ
 ミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属の落葉高木。春には十字状のきれいな花が咲きます。一説によると、キリストの十字架に使われたのはこの木だとか(聖書にも記述はないそうです)。


 さて、表題の”キリストの十字架は痛みを感じるか?”ですが、この質問のポイントは”十字架のキリスト”ではなく”キリストの十字架”である点。釘を打たれたキリストが痛みを感じているのは容易に想像できますが、はたして十字架も痛みを感じているのか? という問いです。
 これは”異なる知性体が人間と同じように感じ、考えるか”というアナロジーで、コンピュータでも当てはまります。”未来の二つの顔”で語られていることのバックボーンになっている問いでもあります。で、痛みとかを感じないコンピュータに生存本能みたいなのが目覚めるか、その時、コンピュータがどのように行動するかが予想できないということで、”実験してみましょう”ということになります。

 まあ、バイオスフィア2(*3)みたいな考え方で、実際にやってみるのがスペースコロニー”ヤヌス(Janus)”になります。”ヤヌス”はローマ神話に出てくる2つの顔を持つ神様の名前。2つの未来を象徴するにはナイスなネーミングです(*4)。
 で、ヤヌスに組み込まれたコンピューターネットワークが”スパルタカス”。

 実験のもうひとつの目的は”いざとなったら電源が切れるか?
 SFではよく出てくるネタですが、現実を照らし合わせて考えると、実はこれってけっこう難しいんですね。昔のメインフレーム(*5)には”エマージェンシーボタン”ってのがあって、緊急停止させることができるんですが、復旧させるにはCE(ハードウェア保守の専門担当者)が必要で、社会インフラで使っている場合、これを押すには勇気のいるシロモノ。実際にこの機械を撤去するために停止させる時”私に押させてください!”という人が何人かいましたが、気持ちはよくわかります。
 それに、現在のコンピュータはアベイラビリティ(*6)が高いので、そうそう止まらないように作られています。

 ネタバレになりますが”未来の二つの顔”でも人類側は多大な犠牲をはらいながら結局コンピュータを停止させることはできませんでした。”多大な犠牲”というのはコンピュータが人類側を攻撃したから。”生存本能”というのはつきつめると自分の生存を脅かす存在を排除することにつながりますので、人類側を攻撃するのは論理的な行動。問題はどこまでが適正かということ。
 ボクシングだと倒れた相手を殴ってはいけないし、ほっぺたをなぐられたからといってナイフで相手を刺せば過剰防衛といわれます。前者はルールの問題で、後者は程度の問題。だいたいルールを知らなければ、それがやっていいことか悪いことかがわからんし、プロレスなら倒れた相手をマウントポジションでフルぼっこできるので”今、自分がなにをやっているか”の認識も必要です。
 程度の問題はもっとやっかいで、シチュエーションによってかなりの幅で変化するので人間でも判断が難しい(*7)。ましてや”痛み”という感覚のないモノに論理で説明するというのは、そうとうに厄介なことです。

 で、最初のお題に戻ると、痛みを持たないコンピュータに人間の痛みを理解させるには、相手のことを自分に置き換えて類推することが必要。”コンピュータが生きたいならば人間も生きたいはずだ。そのためには協力することが最適解である”というロジックを確立しなければならないワケです。

 物語の最後に語られるダイアー博士の言葉。

  スパルタカスがわれわれに言おうとしているのはこういうことだ。
   ”きみたちは、そうしたければ、私の電源を切ることもできる。
    きみたちが何者であるかを知ったいま、私は闘うことはできないのだから。
    だがきみたちは私が必要なんだぞ、ばか者ども!”

 今の人類より、よっぽど知的な存在であります。

 ”未来の二つの顔”は1979年と30年以上前の作品ですが、今だに色あせない作品。コンピュータ関係の方にはぜひ読んでいただきたい名作です。

《脚注》
(*1)DEC(ディジタル・イクイップメント・コーポレーション)
 かつて一世を風靡したミニコンピュータメーカ。パソコン黎明期の本を読むと、”PDP-11”、や”VAX”が憧れとともに語れています。
 実は、就活でこの日本法人を受けて合格してたので、今の会社に入っていなければここにいたはずです。現在は買収されてヒューレット・パッカード (HP) に。
(*2)小椋佳みたいな存在
 小椋佳はシンガーソングライターにして第一勧業銀行(現みずほ銀行)の支店長/部長を歴任という、二足のわらじを履ききった70年代サラリーマン憧れの人。
 代表作は”俺たちの旅(中村雅俊)”、”愛燦燦(美空ひばり)”、”シクラメンのかほり(布施明)”など多数。
(*3)バイオスフィア2(Biosphere2)
 アメリカのアリゾナ州に建設された”密閉空間の中の人工生態系”実験施設。
 人類が宇宙空間に移住する場合、閉鎖された狭い生態系で果たして生存することが出来るのかを確かめるために建設されましたが、いろいろあって失敗したみたいです。
(*4)2つの未来を象徴するにはナイスなネーミングです
 出入り口と扉の神様なので、新しい未来の入り口という意味もあるのかも。一年の終わりと始まりの境界なので1月を司る神様。Januaryの語源です。
(*5)メインフレーム
 汎用機とも呼ばれ大型コンピューターのこと。金融機関などの基幹系で使われていて、パソコンが普及する前の”コンピュータ”といえばこのイメージ。
(*6)アベイラビリティ(availability)
 現在のコンピュータは障害・停止・破損が発生しにくく、不具合が生じた際にも速やかに復旧できるように設計されています。二重化だとかクラスタリングなどいろんな技術があります。日本語では”可用性”。
(*7)シチュエーションによってかなりの幅で変化する
 One murder makes a villain; millions a hero. Numbers sanctify
 一人の殺害は犯罪者を生み、百万の殺害は英雄を生む。数が(殺人を)神聖化する
  チャールズ・チャップリン -殺人狂時代-

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