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2010年10月10日 - 2010年10月16日

温泉三昧、読書三昧、だけどやっぱり”何もせんほうがええ”(ひとめあなたに/チャイニーズ・スープ/えんどうまめ)

  ども、余命あと一週間のおぢさん、たいちろ~です(たぶんウソだと思いますけど・・・)
 さて、今回のお題は”地球滅亡まであと1週間だと分かったら何をする?”ですが、あまりジタバタするのは趣味ではないので、のんびりしたいもんですなぁ。家族といっしょに露天風呂でも入りに行って、あとは読み残した本(膨大にありますが)でも読みながら、終焉の時を迎えるなんてのがオツなもんです
 そういえば、昔、同じお題に”「愛に時間を(*1)」をもういっぺん読み直す”と答えた友人がおりましたが、本読みとはこうありたいものです。
 まあ、どうしても何かやれと言われたら、高層ビルの上から人々を見下ろして”愚民どもよ、おのれの所業を恥じ、神の怒りの前に滅びるがよい!”なんて叫んでみるのも面白いかもね。
 というわけで、今回のお題の答えとしてはもはや古典とも言える新井素子の”ひとめあなたに”のご紹介であります。


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 写真はたいちろ~さんの撮影。えんどうまめの実とその花です。


【本】ひとめあなたに(新井素子 創元SF文庫)
 「一週間後に巨大な隕石が地球に隕石が激突する。地球そのものが消滅してしまう」。そのニュースを見た女子大生の圭子は、恋人・朗に会うために練馬から西鎌倉までの歩いていくことを決意する。その道すがらに見た人々の行動とは・・・
 双葉社版の裏表紙には”SF作家新井素子が、リリカルに謳う」とあるけどどっちかというとモダンホラーって感じがします。
【CD】チャイニーズ・スープ(荒井由実)
 ハモンドオルガンの音色が軽快なお料理ソング。ただ軽快な外見とは裏腹に中身はユーミン曰く、「女の持っている無意識な残酷性とか、ぬるい頽廃みたいなものが書きたかった」との事(wikipediaより)。
 荒井由実(ユーミン)の3枚目のオリジナルアルバム『COBALT HOUR』に収録。
【花】えんどうまめ
 煮物やサラダなどに使うエンドウマメですが、歴史は古く古代オリエント地方や地中海地方で栽培化されていたそうです。スーパーでは実しか見ませんが、けっこうかわいらしい紫色の花が咲きます。


 さて、”ひとめあなたに”ですが、あらすじは上記のとおりですが構成は連作集というべきもの。登場人物は日本人形みたいな新妻 由利子さん、おとなしくていい子の受験生 真理ちゃん、眠ることが大好きな小学生 智子ちゃん、学生結婚した女子大生 恭子さん。こう書くとまともな女性たちかと思われるでしょうが、実はみんな静かなる狂気をはらんだ人たちです。

 ネタバレになりますが、受験生の真理ちゃんはあと一週間で地球がなくなる=受験もななくなるというのに世界史の参考書を抱えて勉強するような子。妹が受験勉強で泳げなくなったことで”私の時間を返して!”と母親に喰ってかかるのとは対照的。別にパニックするのが正しいとは言いませんが、この静けさ、日常の延長のような淡々とした振る舞いは実際に見ると怖いでしょうねぇ

 ぬいぐるみのくじらを抱えて眠る智子ちゃん。つらい現実を否定して夢の中に生きる少女。小学生に”この世界は、全部、わたしの夢なんだもの。だって、こんなことが本当の世界の筈、ないじゃない。じゃ、お姉ちゃんの知っている現実が本当の現実だって証拠、ある?”なんて廬生(ろしゅ)や、荘周ばりの(*2)哲学的な命題を、しかも地球滅亡の時につきつけられるなんて、かなりシュールだと思います。

 学生結婚した恭子さん。夫を捨てて、昔の恋人の持つシェルターに行こうとする妻。その理由は”お腹の赤ちゃんを生き延びさせるため”。利己的とまでいえる赤ちゃんへの愛と叫びは狂気にまで昇華されているよう。

 そして極め付きは由利子さん。デコレーションケーキの生クリームを塗ったようなマンションに住む可憐な新妻。でも、この人は愛人の所に行こうとする夫を包丁で刺し殺して料理しちゃうんですね。

   莢が私の心なら、豆はわかれた男たち
   みんなこぼれて 鍋の底
   煮込んでしまえばみんな形もなくなる もうすぐ出来上がり

 荒井由美の”チャイニーズ・スープ(CHINESE SOUP)”です。明るいくテンポの良い曲ですが、この曲を口ずさみながら夫の肉を煮込んでいるシーンってかなり怖いですよ・・・

 今や、ライトノベルのご先祖様的な存在の新井素子ですが、こういった怖い話も平気で書いてるんですよね。どこが怖いかって言うと、極限状態になった人間がとる狂気や自暴自棄がある意味で共感できるのに対し、その狂気が日常生活となんら変わらないというところ。それは日常生活自体がすでに狂気であったのかもしれないからでしょうか。

 双葉社版の初版は1981年と30年近く昔の作品ですが、今でも入手可能。このお題を語るなら、ぜひ読んでほしい一冊です。

 ところで、表題の”何もせんほうがええ”は小松左京の”日本沈没(*3)”から。謎の黒幕、渡老人が”日本民族の将来”というレポートを丹波哲郎演じる総理大臣に手渡すシーンです。4つめの意見として挙げたもの。1億1千万の日本人が日本列島とともに沈んだほうが日本人にとって一番良いことだと。
 日本SF史上、有数の名シーンであります。


《脚注》
(*1)愛に時間を(ロバート・A・ハインライン ハヤカワ文庫)
 4000年以上の時を生き、死のほかはすべて体験した男、ラザルス・ロング。ひっそりと死を迎えようとしていた彼は子孫たちにひとつの要求をつきつけた。彼の波乱に満ちた人生でも、まだ体験していないことを捜せと・・・
 ハインラインのSF小説。まだ読んでないですが死ぬまでには読んでみたい本です。
(*2)廬生(ろしゅ)や、荘周ばりの
 廬生という若者が呂翁という道士に出会い、夢が叶うという不思議な枕を貰った。廬生は栄旺栄華を極め、幸福な生活を送っり多くの人々に惜しまれながら眠るように死んだ。ふと目覚めると、それはすべて夢で、まだ栗粥がまだできあがっていないほんのわずかの時間しかたっていなかった。(邯鄲の枕
 荘周は以前、夢の中で胡蝶となった。荘周であることは全く念頭になかった。荘周である私が夢の中で胡蝶となったのか、自分は実は胡蝶であって、いま夢を見て荘周となっているのか、いずれが本当か私にはわからない。(胡蝶の夢
(*3)日本沈没(小松左京 小学館文庫)
 地球物理学者である田所雄介博士は、地震の観測データから日本列島に異変が起きているのを直感し、一つの結論に達する。それは「日本列島は2年以内に陸地のほとんどが海面下に沈降する」というものだった・・・
 2006年に草彅剛と柴咲コウの主演でリメイクされましたが、お勧めは1973年版のほう。小林桂樹、丹波哲郎といったおじさんたちがいい味を出しています

戦ったり、推理する能力ってのは人間の属性なのかも(ロボット刑事/鋼鉄都市/蟻塚)

 ども、娘がロボット工学するおぢさん、たいちろ~です。
 先日、”科捜研の女(*1)”を見てました。微細試料を分析するとこがけっこうコンピュータ屋の心をくすぐるとこもあって、時々見てました。 で、こういう科学捜査を突き詰めると、”歩く分析マシン=ロボット刑事”に行きつくわけでして、今回ご紹介するのはロボット刑事もの2題、石ノ森章太郎の”ロボット刑事”と、アイザック・アシモフの”鋼鉄都市”であります。


Photo
 写真は蟻塚。世界遺産イェーイから。
 何百万人もの人間が住む鋼鉄でパッケージされた都市ってこんな感じ?


【本】 ロボット刑事(石ノ森章太郎 中公文庫コミック版)
 カンと経験で事件を解決してきた芝刑事の前に現れたのはさまざな薬品、器具、電子頭脳を含めた最近の捜査用システムの総合体”ロボット刑事 K”だった・・・
 TV特撮シリーズもありますが、ストーリーは別物。
 表題は”ロボット刑事K”だと思っていましたが、意外にも”ロボット刑事”が正しいです。
【本】 鋼鉄都市(アイザック・アシモフ ハヤカワSF文庫)
 人々が鋼鉄のドームの中で生活する未来の地球。ニューヨーク市警の刑事イライジャ・ベイリが捜査を命じられたのは、宇宙移民者の子孫が駐在する施設内での殺人事件。そしてパートナとして現れたのはロボット刑事のR・ダニール・オリヴォーだった。
 原題は”The Caves Of Steel”と”都市”ではなく”洞窟”。話的にはこちらのほうがしっくりきます。
【自然】蟻塚
 巣を地中に作る過程でできる、土や砂や松葉や粘土などの堆積でできた山。熱帯地方には高さ6メートルにも及ぶ塔もあるそうです。


 2冊ともずいぶん以前に読んでいて同じような話だと思っていましたが、改めて読んでみると実はかなりテイストの違う作品。同じ点と違う点をまとめるとこんな感じ。

〔同じ点〕
冒頭には人間の刑事から嫌われている
 ”ロボット刑事”では老刑事である芝にとって科学捜査そのものが自らの”カンと経験”を否定するもの。だから科学捜査の象徴である”K”に反発を持つのは当然。
 ”鋼鉄都市”では、人間の仕事を奪うロボット自体が社会にとって嫌悪の対象。
最後にはお互いに認め合う
 芝刑事は、Kの心の優しさ、優秀さに最後は心をひらきます。
 ベイリも、人間とロボットによる新しい宇宙植民への道を説くようになります。

 こう書くとストーリー的には同じように見えますが、意外にも同じ点はこれぐらいで、相違点のほうが圧倒的に多いんですね。

〔相違点〕
容貌
 Kは一目でロボットとわかるような徹仮面的容貌。多くのロボットと違って変身せず、日常生活もこのまま。
 R・ダニールは高名なロボット学者でさえすぐには見抜けないほどの人間のそっくりさん。
捜査ロボットとしての性能
 Kのほうは光学分析、うそ発見機、線条痕の比較、血液分析など科学分析機能のかたまり。歩く科捜研みたいなもんです。
 一方、R・ダニールのほうは脳分析という高度なうそ発見機以外は分析機能はなさそうです。
ロボット工学第一条の順守性(*2)
 R・ダニールは暴徒化しそうな民衆に銃を向けますが、これは裏ワザ。基本的には第一条を順守しています。
 一方Kはロボット同士の戦いをする前提で作製されているので、基本的には武器の塊。実際に犯人を逮捕するために、痛がっている人間の腕をねじあげるなんて平気でやっています。作製者の霧島博士によると”アシモフの三原則を組み込んでいる”とのことですが・・・
推理する能力
 2つの小説で面白いのは、”ロボット刑事”では実際の事件ではKがホームズ役で、芝刑事がワトスン役。ただしKの正体を探る場合にみこれが逆転します。
 一方、”鋼鉄都市”では、いろいろ推理するのは(はずれることも多いけど)人間のベイリの役目。R・ダニールはむしろいろいろ証拠固めをするほうに回っています。

 この違いはどこから来るのか?
 意外なことに”ロボットの刑事”というジャンルで”純粋”にロボットは少ないんですね。Kにしたところで、頭脳には培養した霧島博士の母親の脳を使ったいわばサイボーグ。R・ダニールという存在はむしろ少数派です。
 古典的な8マンアーネスト・ライト、特撮モノのロボコップ機動刑事ジバン、最近ではルーン=バロットボイルドなど、みんなサイボーグの系列になります(*3)。

 思うに、純粋なロボットとして作製されたR・ダニールの存在意義が”観察者”であるのに対し、戦ったり、推理(=人を疑う)する能力ってのは畢竟、人間の属性なのかも。そしてKをはじめ、自分のありように悩むサイボーグたちの原点もそこにあるのかもしれません。

 良書とも、SFでは古典的名作。合わせて読んでみると、また別の趣があります。

《脚注》
(*1)科捜研の女
 沢口靖子演じる京都府警科学捜査研究所の法医学研究員”榊マリコ”の活躍を描くテレビ朝日の刑事ドラマ。
 調べて意外だったのは、科学捜査研究員は刑事部に所属するものの(京都府警の場合)身分上は警察官ではなく、拳銃の携帯や逮捕権などは認められていないとのこと。ただし、採用は県警本部で行い警察学校に通う必要もあります。
 京都府警科学捜査研究所の活動はこちらからどうぞ。
(*2)ロボット工学第一条の順守性
 アイザック・アシモフが提唱したロボットが従うべき三原則
    第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。
      また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない
  第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。
      ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
  第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、
      自己をまもらなければならない。
 SFでロボットを描く上では、守るべき大原則。
 ただし、リアルでこれを実現させるには、超絶的なコンピュータサイエンスと社会科学の発展が必要です。
(*3)8マンやアーネスト・ライト~
 8マン:平井和正、桑田二郎。人間の東刑事の記憶を移植したということで、
     ボディーはロボットだが魂は人間というサイボーグ。
 アーネスト・ライト:平井和正”サイボーグ・ブルース”より
     同僚に狙撃され殉職した警官がサイボーグとして再生。
 ロボコップ:殉職した警官の頭脳を移植したロボット警官が登場するSF映画。
     デザインは東映の”宇宙刑事ギャバン”の引用だそうです。
 機動刑事ジバン:東映の特撮テレビ番組。ヒロインを救うために殉職した刑事を救う
     ためにサイボーグ化。ロボコップの動きがとりいれられてます。
 ルーン=バロット、ディムズデイル・ボイルド:
     冲方丁”マルドゥックシリーズ”。ロボット刑事モノとは言い難いですが、
     超人的な捜査官ということで。

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