« 2010年8月8日 - 2010年8月14日 | トップページ | 2010年8月22日 - 2010年8月28日 »

2010年8月15日 - 2010年8月21日

術者はおのれの秘術をあみだしたとき、その術をやぶる方法も考えるものだ(愚者の黄金/アロエ)

 ども、相変わらずビンボ~生活のおぢさん、たいちろ~です。
 先日、上司から”08年度から09年度に人が増えているのに人件費があまり増えていないのはなぜか調べて”という依頼があったので、データーをいろいろひっくり返してみました
 08年といえば、サブプライム問題で経済がガタガタだった年。というころで、今回ご紹介するのはサブプライム問題の一因であったCDSをめぐるお話、”愚者の黄金”であります。


20090201

写真はたいちろ~さんの撮影。近所のアロエです。


【本】 愚者の黄金(ジリアン テット 日本経済新聞社)
 J・Pモルガンのデリバティブチームが創り出した革新的な金融技術CDS。銀行から信用リスクを移転し、経営の自由度を高めるはずのイノベーションなぜ金融業界の崩壊をもたらしたのか?
 邦題の副題は”大暴走を生んだ金融技術”ですが、原書の副題は”J・P・モルガンの小グループの革新的な技術は、ウォール街の強欲によってどのように歪められて金融危機をもたらしたのか”という”博士の異常な愛情(*1)”っぽいもの。でも、こっちのほうが内容には合ってるかな。
【花】アロエ
 アロエ科アロエ属の多肉植物の総称。ヨーグルトに入れたりやけどなどに効くなど健康食品の代名詞のようなアロエですが、とげとげ肉厚の葉っぱと実際に植えられているのを見るとかなり異形。でも、赤いきれいな花が咲きます。
 花言葉は”健康、健やか”の他に”信頼”も。

 金融に縁のない方には聞き慣れない言葉かもしれませんが”CDS”とはクレジット・デフォルト・スワップ (Credit default swap)の略。銀行などの貸出債権がデフォルト(回収不能)した時に発生する損失を補填してくれるというもの。簡単にいえば保険みないなもんですが、どうしてこのような取引が成立するかというと、

 銀行:デフォルトした時のリスクが回避できる、自己資本比率を高めることができる
 買う側:手数料を得ることができる、レバレッジで持ってるお金以上の取引が可能

と、いいことずくめ。ただし、デフォルトが発生しなければですが

 この取引のポイントは”どれぐらいの確率でデフォルトが発生するか、その時の損失額がどれぐらいか”を決定すること。物語の主人公であるJ・P・モルガンがこの手法を開発した時は、比較的このリスクがはっきり計算できる範囲でやってたんですね。
 当然、これを住宅ローンにも適用しようというアイデアが出るわけですが、当のJ・P・モルガンは開発自体を中止することにします。なぜかというと”データがない(モデルが組めない)”から。つまりリスクがわからないことはやらないという姿勢です。

 この本の中でポイントになっているのは実はここ。J・P・モルガンCOOだったジェイミー・ダイモンが示唆に富んだ指摘をしています

①銀行業は私の祖母でもわかるような事業でなければならない
 サブプライム問題に代表される金融危機の特徴は”リスクがどこにどんだけあるかわからない”ということ。金融工学の発達により、普通の人だけでなく、金融機関のトップですら内容がよく理解できない状態になっちゃたわけです。
 にもかかわらず、多くの銀行が儲かっているという結果だけで突っ走っちゃったんですね。他の銀行が大儲けしている中で、J・P・モルガンだけがちゃんとわかっていたので突っ走らななかった。そのため負け組の非難を受けた時期もあって風当たりも強かったようですが、結果的には最も損失が少なく、生き残るということになります。
 日本からアメリカのサブプライム問題で分かりにくい点の一つは”なぜああも早いスピードで金融機関が破綻したのか”という点ですが、本書を読むと、”知らない間にリスク威嚇がハンパじゃない規模に膨らんでいたから”ということみたいです。しかも、そのリスクというのが、想定できない状態になっていて、市場がパニックになってしまったとのこと(*2)

②数学的モデルはご宣託としてではなく、羅針盤として使ってこそ有益なツール
 金融工学で使われるモデルっていうのは簡単に言うと過去のデータを数学的に分析して将来の動きを予測するものなので、データの精度(数、正確性など)が低ければ結果もアバウトになるし、過去になかった事例についてはもっとアブナイ。J・P・モルガンが住宅ローンのCDSをやらなかった理由がこれです。にもかかわらず、数字で出てくると信じちゃう
 いみじくもJ・P・モルガンの調査担当者デビッド・リーが指摘しているように

  モデルの算出結果をだれもが無条件に信じるようになった時が一番危険だ

 の状態が発生してしまったわけですね。

 この本を読んで印象的なのは、J・P・モルガンのCDS開発チームのメンバーが”なぜ他の金融機関が危ないリスクを大量に抱えていたのか”を不思議に思っている点。開発チームにとって、そんなリスクを取ってはいけないのは自明の理のと考えていたようです。
 表題の”術者はおのれの秘術をあみだしたとき、その術をやぶる方法も考えるものだ”というのは、白土三平の”カムイ外伝(*3)”から。忍者カムイの必殺技”飯綱落とし”を破ろうとする敵対する忍者に対する一言です。つまり、技を開発する人間がその技の弱点を一番理解しているということです(そうでない例もありますが)。

 ”CDS”は金融危機を引き起こしたいわば”異形のもの”扱いされていますが、実際にちゃんと使えば有益なイノベーションと思います。そういう意味で形は不気味だけど実は役に立つアロエみたいなもんかもしれません。

 ”愚者の黄金”はファイナンシャル・ブック・オブ・ジ・イヤー賞を受賞しているだけあって、面白い本。サブプライム問題に興味のある人にはお勧めです。

PS.
 09年度に人件費が減っている理由ですが、月額給与の増加分以上に09年度のボーナスがガタ減りだったから。ボーナスは前年度の利益が反映されるのでこうなります。改めて愕然としました・・・

《脚注》
(*1)博士の異常な愛情
 核戦争が勃発しそうになり人類滅亡の危機が急迫する中、利己的な政府高官や軍の上層部のドタバタを描いたコメディ映画。監督 スタンリー・キューブリック、主演 ピーター・セラーズ。
 正式な題名は”博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
(*2)想定できない状態になっていて~
 荒っぽく言うと、資産の価値というのは”いくらで売れるか”とうい情報があって初めて決まるので、売れない状態では損失が確定できたいと言えます。また、その資産が安全なのかヤバイのかがわからなければ、それを買う人自体がいなくなる、つまり”毒入り餃子事件”と同じです。
(*3)カムイ外伝
 1965年ごろに少年サンデーに不定期連載された白土三平の忍者漫画。
 カムイは非人部落の出身で抜け忍になった忍者の名前です。

« 2010年8月8日 - 2010年8月14日 | トップページ | 2010年8月22日 - 2010年8月28日 »

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

無料ブログはココログ