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2010年6月13日 - 2010年6月19日

狂気の果ての正気やら、正気の果ての狂気やら(脱走と追跡のサンバ/ブドウ)

 ども、自分は正気だと思い込んでるおぢさん、たいちろ~です。
 先日、東 浩紀の”クォンタム・ファミリーズ(*1)”を読みました。
 一言でいうと並行世界をあっちこっちに引きずり回されるといったお話ですが、そういえば、あっちこっちの世界を逃げ回るといった話を昔に読んだよな~ということで、今回ご紹介するのSFの古典的名作、筒井康隆の”脱走と追跡のサンバ”であります。


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写真はたいちろ~さんの撮影。福島で見かけた夏の”ブドウ”です。


【本】脱走と追跡のサンバ(筒井 康隆 新潮社)
 どんなことがあっても脱走してやる。このいやらしい世界から逃げ出してやる。こんなところに閉じこめられてたまるものか。汚物の墓場の下水管を通り抜けもとの世界からこっちの世界へ入り込んでしまったおれは…。情報による呪縛、時間による束縛、空間による圧迫にあえぐ現代をパロディ化し、境界のゆらぎはじめた現実と虚構の「世界」を疾走する傑作長編。(Amazon.comより)
【花】ブドウ(葡萄)
 ブドウ酒(ワイン)や干しぶどう、生食に利用されるブドウですが、ブドウ酒の起源は古く紀元前6000年頃とのこと(*2)。
 花言葉は”酔いと狂気”。たぶんブドウ酒からの連想。


 ”クォンタム・ファミリーズ”はその根本に”青い鳥症候群(*3)”がありそうですが、”脱走と追跡のサンバ”はそんなのはな~なんもなし。
 情報と時間と空間がぐじょぐじょにねじれ、渦巻き、混じり、逆流し、奔流し、流離し、混乱し、錯乱し(以下延々)・・・ といったお話。
 あらすじといえば、いつのまにか以前いた世界から元の世界に脱走する”おれ”、それを追跡するみどり色の背広の”追跡者”。逃げるおれに尾行する男が追いつ追われつ、立場を入れ替えつつ、先回りしつつ、多重化しつつ、重ねあわせつつ(以下延々2)・・・ それにこの世界に引きずり込んだ”正子”が恋人になり、人質になり、殺される人になり、合体する人になり、精神世界の主になり(以下延々3)・・・
 一昨年以来、200ケ以上のブログネタを書きました、これほどあらすじの書きにくい話はなかったです。
 でも、面白いんですなあ、これが

 なぜ、こんな状況になったのかは一切説明なし。脱走する目的もなければ、手段の正当性もな~んもなし。前出の”クォンタム・ファミリーズ”が並行世界の移動を一所懸命理屈付けして、その目的を明らかにしようとしてかえって中途半端の印象になったのに対し、こちらはそんな賢しさをすっとばして、あるのは正気と狂気の狭間だけ
 でもこっちのほうがSFマインドを感じてしまうのはなぜでしょう???

 酒に酔った”狂気”なんていう生易しいものではなく、脅迫神経症的、パラノイア的、自我崩壊的、神経脱毛症的(以下延々4)・・・
 まあ、ようはワケのわからない”狂気”であります。

 とにかく、読んでみないと判らないという類の本。角川文庫では”リバイバルコレクション エンタテインメントベスト”で出版されていましたが、ジャンル的には不条理SF    (*4)。筒井康隆が狂気の天才であることを改めて認識させられた本であります。

《脚注》
(*1)クォンタム・ファミリーズ(東 浩紀 新潮社)
 量子コンピュータが実用化された高度情報化社会。それは、コンピューターからの情報が信用できない、並行世界と行き来することのできる社会でもあった。
 壊れた家族の絆を取り戻すため、並行世界を遡る量子家族の物語。
(*2)紀元前6000年頃とのこと
 Wikipediaによると、ヨーロッパでは中石器時代とのこと。ということは、人類ってのはその頃から酔っ払っていたんでしょうなぁ。
(*3)青い鳥症候群
 今の自分は本当の自分じゃないので、本当の自分や幸せを求めてあちこちをさまよう人のこと。SFになるとifモノになりますが、あんましハッピーエンドってのがないです。
(*4)不条理SF
 昔は、筒井康隆の一連の作品や、赤塚不二夫のギャグマンガ、吾妻ひでおの”不条理日記(*5)”なんてのがありましたが、最近はあんまりこの手のものは見ないですねぇ。私が知らないだけかもしれませんが。ある意味、1970年代という時代の空気を反映したジャンルだったのかもしれません。
 この分野につっこむと、日常生活も破綻する危険がありそうです。
(*5)不条理日記(吾妻ひでお 早川文庫)
 吾妻ひでおによるSFや漫画をモトネタにしたギャグマンガ。相当なSFマニアでもモトネタが判らないと言うディープな作品でもあります。1979年に星雲賞コミック部門を受賞。”アズマニア2”に収録されているので、現在も入手可能です。
 吾妻ひでおは自殺未遂やアル中のはてに失踪、その経験を書いた”失踪日記”で再ブレークしました。

座敷わらしはあなたかもしれない・・・(アナザー/カタクリ)

 ども、警視庁捜査一課の八番目の男、たいちろ~です(ウソです)。
 いよいよ、ワールドカップが始まりました。サッカーは11人で行うとルールで決まっています。きっとサッカーを自分のチームだけ12人でやればきっと勝ちやすいでしょう。では、明らかに1名多いのがわかっているのに誰が多いのかわからないとしたら・・・
 というころで、今回ご紹介するのはそんなクラスの厄災のお話”アナザー”であります。


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写真は”植物園へようこそ!”のHPより。カタクリです。


【本】アナザー(綾辻 行人 角川書店)
 夜見山北中学に転校してきた榊原恒一は、入院していた病院で見かけた美少女、見崎鳴(ミサキ・メイ)に学校で声をかける。それは3年3組の厄災の引き金でもあった。
 いるのにいないことになっているメイ、なぜか次々に死んでいくクラスメイトとその親族・・・
【花】カタクリ(片栗)
 ユリ科カタクリ属に属する多年草。片栗粉の原料として有名ですが、現在の片栗粉はほとんどジャガイモから作っているそうです。つまり名前だけ残って、実態がなくなってしまっている状態のようです。
 花言葉は”寂しさに耐える”。
 春に紫色の繊細な花が咲く草で、ぜひ実物を見たいと思っている花のひとつです。

 ”いないはずの人がいるのに、それがみんなには誰だかわからない”というシチュエーションでメジャーなのが”座敷わらし(*1)”。子供たちが遊んでいるのを数えると、本来の人数より一人多いのに、それがだれだかわからない。でも、座敷わらしは”いる家は栄え、去った家は衰退する(*2)”といういわば福の神の眷属でもあります。

 怪談モノの小品なんかも多いですが、このバリエーションはSFジャンルでもあって、有名なところでは、”エイトマン(*3)”とか”11人いる!(*4)”とか。イントロの「警視庁捜査一課の八番目の男」というのはエイトマンのネーミングの元になっています。
 ”11人いる!”では、宇宙大学の入試最終テストで、10人で行われるはずの試験会場になぜか11人目がいるという設定。正体不明の11人目を含んで合格に向けてチームワークを反目を繰り返して行くストーリーは秀逸です。

 これらの作品の多くは座敷わらし自体は”自分が座敷わらしである”ことを自覚していますが、今回の”アナザー”では自分自身も含めて誰が座敷わらしか判らない、つまりひょっとしたら自分が厄災の元凶たる”座敷わらしかもしれない”という恐怖。犯人探しをすることが自分に跳ね返ってくるかもしれない不安。ミステリーとしても、ホラーとしてもなかなか面白い設定です。

 もうひとつ面白かったのが、人が死んでいくのが理屈ではなく”現象”であること

  これは誰かの作為じゃなくて、そういう「現象」なんだ
  だから、これはいわゆる「呪い」とは違うものなんだって・・・。

 そこのはいわゆるミステリーで言う”フーダニット、ハウダニット、ホワイダニット”も何にもなく、経験則としてただ回避する方法だけ。呪いであれば動機が明確である分、対処の方法とか恨まれる動機に納得するってのもありますが、”現象”だからといって理不尽にどんどん人が死んでいくとなると”なんでやねん!”と言うしかありません。これって、別の意味でかなり怖いです。

 ネタバレになりますが、その回避方法っていうのが”だれか一人をいなかったことにして人数を合わせる”というもの。それが”みんなを守るために寂しさに耐える”ってことであっても、通常だったら耐えられないでしょうね。
 悪意によるいじめとしての”シカト”ってのもつらいでしょうが、恐怖と畏怖の対象として”いないことにされる”ってのもかなりきついと思います。現実にこんな”クラスぐるみのシカト”があったらPTAがだまっちゃいないでしょうが、実際に人死にがで出したら手のひら返すんだろうな~~。それを考えるのも怖いけど。

 ”アナザー”は2010年版の「このミステリーがすごい!」で国内第3位、第10回本格ミステリ大賞の最終候補作にもなったそうですが、”フーダニット、ハウダニット、ホワイダニット”がないことからも、むしろホラーとして読んだほうがいいんじゃなんかなと思います。どっちにしても面白かったけど。

PS.どうも綾辻 行人は椎名高志(*6)のファンらしいです。

《脚注》
(*1)座敷わらし(座敷童子)
 岩手県を中心に伝えられる民間伝承。読んでませんが、柳田國男の”遠野物語”なんかにも載っているようです。
(*2)いる家は栄え、去った家は衰退する
 座敷わらしのいる宿として有名だった岩手県の緑風荘(りょくふうそう)ですが、座敷わらしを祀る亀麿神社以外が全焼したということで、けっこうなニュースになりました(2009年10月4日。ただし、従業員・宿泊客は全員無事)
 座敷わらしがいなくなってたんでしょうか?
(*3)エイトマン
 原作はSF作家の平井和正、作画は桑田次郎によるマンガ及び、TVアニメ。
 アニメ版の放映が1964年。主題歌に流れるトランペットを吹いていたのがラッツ&スターのトランペッター桑名信義の父親さんというぐらい古い作品。
 ”8番目の刑事”というのはアニメのナレーションで語られているのでこっちの印象がありますが、最近のマンガ版に登場する機体No”8th”のほうがメジャーかも。
(*4)11人いる!
 萩尾望都のSFマンガ。
 試験の内容は”漂流中の宇宙船で、10人のチーム全員が53日間生き延びる”というもの。
  宇宙はつねに変化にみちている。概念が通用しない場合もある。
  事態は急変する。的確です早い判断力が必要だ。
  常に異端の11人目が存在するようなものだ。
 至言です。
 1976年、小学館漫画賞少年少女部門を受賞した名作です。
(*5)フーダニット、ハウダニット、ホワイダニット
 フーダニット(Whodunit):誰が犯人なのか
 ハウダニット (Howdunit):どのように犯罪を成し遂げたのか
 ホワイダニット(Whydunit):なぜ犯行に至ったのか
(*6)椎名高志
 マンガ家。最近では”絶対可憐チルドレン”がTVアニメ化されていますが、今回の話のネタつながりは別の作品です。

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