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2010年5月9日 - 2010年5月15日

金採掘者を掘ることがゴールドラッシュの成功法則だ(金融危機の本質は何か/藍)

 ども、経営管理のスペシャリスト、たいちろ~です。
 まあ、スケシャリストというのは言い過ぎですが、以前ITによる経営管理システムの拡販というのをやっていました。
 でも、この”経営管理系”のシステムというのが営業が売るのがもっとも苦手な分野のソリューションのひとつなんですね。PDだLGDだ内部格付手法だと(*1)、なんだか難しそうな専門用語がポンポン飛び出してくるので、根っから文系人間の集まりである営業にはかなりハードルが高い分野です。
 まがりなりにも、売っていく人がこのレベルなので、世の中のおっちゃん、おばちゃんにはかなり難しい分野。ということで、今回ご紹介するのは、専門家にケムに巻かれないためのお勉強”金融危機の本質は何か”であります。


Photo


写真は”日々是好日”のHPより。藍の花です。


【本】金融危機の本質は何か(野口 悠紀雄 東洋経済新報社)
 サブタイトルが”ファイナンス理論からのアプローチ”とあるように、サブプライム問題やエンロン事件でとかく悪役にされがちなファイナンス理論に対し”なにが間違っていたか”をわかりやすく解説した経済書。
【花】(アイ)
 青色の染料(インディゴ)として使われるタデ科の植物。現在は染料が工業的に生産できるので、あまり栽培はされていないようです。
 ジーンズを染めるのに使われたこともあるようですが、現在はほとんど合成品を利用しているとのこと。


 ”ファイナンス理論”で求められるもののひとつに、将来のある時点の値段がわからないものを、今ならどれぐらい価値と考えれば良いかを計算するというのがあります。
 金融の話だとわかりにくいので、身近の例にするとこんな感じ。

 たいちろ~さんは前回のテストで、ちょうど平均点を取りました。
 部屋でマンガを読んでいると、おかんが入ってきてこう言いました。

  おかん:たいちろ~、もうちょっと勉強せんとええ学校にいかれへんで!
  たいちろ~:だって、やる気で~へんねん。お小遣いくれたらやる気でるんやけど
  おかん:また、そんなこと言うて。そやったら、お母ちゃんと賭けしよか。
  たいちろ~:どんな?
  おかん:ここに1000円出し。次のテストで60点以上取れたらお金を
      何倍かにして返したげるわ。なんぼやったらええねん?

 学習意欲をお金で買うのがいいかどうかは別にして、たいちろ~さんは幾ら以上もらえたら、この賭けに乗るべきでしょうか?

 この前のテストの平均点は50点、標準偏差は10の正規分布だったとして、次回のテストもまったく同じであるとすると、60点以上を取る確率は約16%ですので、84:16に勝ち負けが分かれるくじ引きをするようなもの。損をしないためには、だいたい5250円以上のお金を貰えばこの賭けはプラスになります(*2)。

 で、お金をもってないたいちろ~さんは、弟のじろ~くんにこんな話を持ちかけます。
  たいちろ~:あんな、おかんとこんな賭けしたんやけど、お金もってないねん。
        でな、1000円貸してくれへんか?
        5250円貰ったら割り増しして返すから。
        その代わり、貰われへんかった500円しか返されへんねん。
        いくら割り増しで出したらええやろか?
  じろ~  :なんぼや言われても・・・

 きわめて単純にいうと、”ファイナンス理論”ってのは、上のような会話を高度な数学と膨大なデータを使って延々計算するような側面があります。
 理論の高度化によって緻密な計算式が構成されたこと、コンピュータの発達により膨大な計算が短時間でできるようになったこと、インターネット等によりデータが入手しやすくなったことなど、さまざまな環境変化が働いてかなりのレベルで高い精度の結果を得ることが出来るようになりました。

 で、翻って、上記の賭けをどう考えますか?
 実は5250円っていうのもかなりムリな前提条件で計算しています。まず、次回のテストが前回のテストと同じ分布になるとは限りません。これは過去のデータをいくら積み重ねても、”こうなりそう”度合が上がりはしますが、”必ずこうなる”といった保証をするものではないです。
 そもそも、標準偏差は正規分布を前提としていますが、成績なんてランダムウォークしないので、きれいな正規分布の結果にならないのが当たり前(*3)。
 では、まったくムダなことをやっているかと言うとそうではなくて、得をする(損をしない)ためには、この程度は必要という数字を出さないと取引が成立しないからです。でも、小数点以下の数字まで出されることに意味があるかというとそればまた別。往々にして細かい数字を出されると”きっちり計算しているので安心”と思い込んでしまうことのほうが問題であります。

 さて、おかんとたいちろ~さんの賭けの正しい答えは

  そんな計算をやってるヒマがあったら、ちゃんと勉強する

 であります。

 表題の”金採掘者を掘ることがゴールドラッシュの成功法則だ”というのは、金儲けをしたのは金を掘り当てて一発当てようという人ではなくて、金採掘者にジーパンを売ったリーバイ・ストラウス(*4)のこと。まあ、まじめに働くのが一番ということで・・

 ”金融危機の本質は何か”のスタンスは、ファイナンス理論はあくまで”道具”であって良い使い方をすると役に立つが、間違った使い方をするととんでもない結果を引き起こすということ。原子力なんかで語られる技術のあり方と同じです。
 ”行動ファイナンス”の本なんかと比べるとやや古典的な印象はありますが(*5)、わかりやすい本ですので、ご興味のある方はどうぞ。

《脚注》
(*1)PDだLGDだ内部格付手法だと
 PG :倒産確率(Probability of Default)
     企業が一定期間に倒産する確率のこと
 LGD:倒産時損失率(loss given default)
     倒産した時にどれぐらい回収できない損失が発生するかの確率
 企業に貸しているお金が、倒産した時にどれぐらい返ってこないかの比率は
  PD×LGD(倒産確率×倒産時損失率)
 で決まります。倒産しなさそうな大企業(しないわけではないです)では小さくなるし、担保が少なければ担保を処分して回収する部分が少なくなるので大きくなります。
 これらの確率を金融機関の中で算出するのが内部格付手法。
(*2)だいたい5250円以上のお金を貰えばこの賭けはプラスになります
  貰う金額×16%(勝つ確率)-払う金額×84%(負ける確率)> 0
 を満たせばよいので、この金額になります。
(*3)そもそも、標準偏差は正規分布を前提としていますが~
 正規分布は結果の曲線がきれいな釣鐘型になることを前提としていますが、実際に子供の持ってきたテスト結果を見ると、ふたコブになってたりします(できる子と出来ない子が二極分化しています)
 ランダムウォークはサイコロのように、前回出た目と次に出る目にまったく関係がなく、ランダムに発生する状態。前回のテストで30点しか取れなかったヤツが次のテストで100点とることがありうると言ってますが、実際には(まったくないとは言いませんが)まずありえないと考えるのが常識的な判断。
(*4)リーバイ・ストラウス
 アメリカのアパレルメーカー”リーバイ・ストラウス社”の創業者。
 金採掘者のために、破れにくいスボン”ジーンズ”を作って儲けました。
(*5)”行動ファイナンス”の本なんかと比べると~
 ”行動ファイナンス”は、ファイナンス理論に心理学的なアプローチを加えた学問。別に古典的だから悪いという意味ではなく、基礎をちゃんと抑えておかないとこっちも理解できないので、両方理解する必要があります。

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