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世界の破滅の預言者と、鋼の錬金相場師の物語(世紀の空売り/ニュートンのリンゴ)

 ども、相変わらず金儲けに縁のないおぢさん、たいちろ~です。
 さて、売り上げノルマをてんこ盛りに先送りにしつつ、2010年も終わろうとしています。
 世界規模の不景気のトリガーとなったリーマン・ショックからはや2年、新興国の経済成長とかもあり、11年はもうちょっと景気が回復してくれるでしょうか。  ただ、どんな時でも金儲けをする御仁はいるもので、今回ご紹介するのはあの大混乱の中で大金をつかんだ男達の物語”世紀の空売り”であります。

Photo

写真は”小石川・後楽園・本郷・散歩ガイド”より。
小石川植物園のニュートンのリンゴです。


【本】世紀の空売り(マイケル・ルイス 文藝春秋)
 2000年代半ば、サブプライムローンと呼ばれる優良客よりも下位の層へのローンが活況を呈していた。ゴールドマン・サックスやリーマン・ブラザーズといった超優良・巨大金融機関がこぞって大量の投資を行っていた・・・
 副題の”世界経済の破綻に賭けた男たち”とあるのように、このローンが遠からず破綻することを見越して賭けをした人々の物語。
【花】ニュートンのリンゴ
 アイザック・ニュートンの”木から落ちるリンゴを見て万有引力の法則に気づいた”という逸話に出てくるリンゴの木。最初の木は枯れてしまってるそうですが、接木をして増やしたのは今も栽培されています。


 投資信託にしろ、先物取引にしろ、デリバティブにしろ、金融商品を買う・売るというのは、不確実な未来を予測してお金を投資するという点では本質的に”ギャンブル”です(*1)。なので、ルーレットの赤に賭けるか黒に賭けるかが等価なように、相場が上がる方に賭けるか、下がる方に賭けるかはその人の相場の予想次第、どっちが良いか悪いかという問題ではありません。
 ありませんが、大体”悪いことが起こる”という預言(*2)は嫌われるモンです。株が上がるか下がるかぐらいならまあ損得の世界ですが、アメリカ経済が破綻の瀬戸際まで追い込まれるほうに賭けるのはなかなか勇気のいること。ましてや、格付け機関がトリプルA(*3)をつけたサブプライムローンがデフォルトすると言い切るのは至難の業です。

 でも、”世紀の空売り”を読んでみると、サブプライムローンの中身がいかにぐしょぐしょというか、だれも分かっていなかったかということがよく分かります。
 1990年代の日本のバブルではリスクが金融機関に集中していたんですが、逆にいうと金融機関さえなんとかすれば対応が取れた。ところがサブプライムローンではどこの何がヤバイかすらよく分からない状態になっちゃってるんですね(*4)。

 で、このからくりをいち早く見抜いたのは、アスペルガー症候群(*5)を患う隻眼孤高の個人投資家マイケル・バリーであり、フロントポイント・パートナーズのスティーブ・アイズマンであり、コーンウォール・キャピタルのジェイミーとチャーリーであるわけです。

 先見の明のあった人達ですが、どこか迫害されているにおいがしてます。
 マイケル・バリーの場合だと、彼のサイオン・キャピタルに投資した人達は489.34%の利回り(同時期のS&P500種株価指数の利回りは2%強程度)を受け取ったにもかかわらず、

  まるで、常に正論を述べてきたことで、墓穴を掘ってしまったかのように、
  バリーの存在は多くの人間に気まずい思いを味わわせていた。

   (中略)
  何が起こったかといえば、バリーが正しく、世界が間違っていて
  それゆえに世界がバリーを憎んだということだ。
(本書より抜粋)

 じゃあ、世界が破綻しない方に賭けた投資銀行などの人たちがどうだったかというと、アイズマンの評価は、

  投資銀行業界は、もうだめだ。
  中にいる連中も、今ようやく、自分たちがどれぐらいだめか、わかりかけてきた。
  ニュートン以前の学者みたいなもんだよ。
  ニュートンが登場して、ある朝目覚めたら、
  『あちゃあ、おれは間違っている!』ということになる

 余談ですが、ニュートンは”近代物理学の祖”という評価のほかに、”最後の錬金術師”とも呼ばれています。錬金術ってのは金意外の金属から金を作り出す技術のことですが、ニュートンもこれをやってました。
 サブプライムローンを進めた人達は、トリプルBの債権をトリプルAにするとこなんか、現代の錬金術師とも言えます。ニュートンの場合は近代科学に役立つ研究を残したんですが、こっちの場合は鋼(鉄面皮)の錬金術師といったとこでしょうか・・・

 ”世紀の空売り”はビジネス書というより、秀逸な”ピカレスクロマン(*7)”を読んでいるような感じです。面白い本ですので、ご一読のほどを。

《脚注》
(*1)不確実な未来を予測してお金を投資するという点では
 ”普通預金や定期預金は違う”との反論があるかもしれませんが、日本振興銀行が経営破綻して初めてペイオフ(預金保護)が発動して1000万円以上の場合とはいえ戻ってこないことが実際に発生しました。決済用預金は全額保護になっていますが、これは”ありうべき将来利益を放棄しているのでハナから”負け”の勝負です。
(*2)預言
 正確な意味は”予言”は”未来の物事を予測して言うこと”であり、”預言”は”神の意志の解釈と予告、それを語ること”です(デジタル大辞泉より抜粋)。つまり、預言の内容の責任は本来は神様に帰するはずですが、神様をフルボッコにするわけにはいかないので、それを喋った人間を迫害することになります。
(*3)トリプルA
 格付け機関のつける最上位のランク。モノによって違うのでごっちゃにすると危険です。分かりやすい例だと、スタンダード&プアーズの金融機関格付けの場合、トリプルAランクが5年以内にデフォルトする率は0.1%、後で出てくるトリプルBだと3.0%になります(詳しくは”スタンダード&プアーズ 金融機関格付けの概要 2005年”をご参照ください)
(*4)どこの何がヤバイかすら~
 CDS(クレジット・デフォルト・スワップ Credit default swap)というのが使われてるんですか、これは銀行に集中していたリスクを投資家に転移することによってリスクを広く分散する手法のこと。CDS自体は合理的な手法ではあるんですが、運用する人がねぇ・・
 詳しくは”愚者の黄金”をご参照ください。
(*5)アスペルガー症候群
 同時代の友人関係が築けない、楽しみや興味を他人と分かち合う自発性に欠ける、情動の調節や制御機能が不完全、コンピュータが理想的な興味の対象など(本書より)
 Wikipedliaだと「知的障害がない自閉症」。
 まあ、デイトレーダーには向く資質なのかもしれませんが。
(*6)489.34%の利回り
 同時期のS&P500種株価指数の利回りは2%を僅かに超える程度だったそうです。
(*7)ピカレスクロマン
 悪漢小説。主人公の悪者が巨悪に立ち向かうといった内容です。経済分野では、”白昼の死角(高木彬光 光文社文庫)なんか読んだなぁ。
 最近あまり聞かないジャンルですが、これは世の中に悪モノしかいないから?!

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