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充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。黒か白かは知らんけど(クォンタム・ファミリーズ/サワロ)

 ども、並行宇宙を行き来するおぢさん、たいちろ~です。(ウソです)
 一応、コンピューターを作っている会社なんぞで働いてはいるんですが、コンピュータ屋にとってひとつの目標が”とにかく早いコンピュータを作ること”ってのがあります。2009年度の事業仕分けで話題になった次世代スーパーコンピューターなんてのがまさにそれ。生命情報工学研究センターの”Magi Cluster(*1)”、もうすぐ完成予定の理化学研究所のプロジェクトなどなど。
 この次のスーパーコンピュータとして考えられているのが”量子コンピューター”。
 ということで、今回ご紹介するのはこれを使ったSF(かな?)小説”クォンタム・ファミリーズ”であります。


Photo
写真は”竹居のデジカメ写真”のHPより。巨大なサボテン”サワロ”です。


【本】クォンタム・ファミリーズ(東 浩紀 新潮社)
 量子コンピュータが実用化された高度情報化社会。それは、コンピューターからの情報が信用できない、並行世界(*2)と行き来することのできる社会でもあった。
 壊れた家族の絆を取り戻すため、並行世界を遡る量子家族の物語。
【花】サワロ
 小説内に登場する”サワロ”とはサワロサボテンのこと。ラテン語で「巨大なローソク」という意味で、最高20メートル、重量12トン、寿命200年にもなるそうです。


 ネタバレになりますが、この物語は葦船友梨花(あしふねゆりか)が並行世界の間で
夫の往人(ゆきと)、子供たちである理樹(りき)、風子(ふうこ)、汐子(しおこ)たちの意識(魂?)を移動させることで、家族の絆というか、幸せ探しをするような物語です。
 平行世界なんで、子供たちは生まれてたり、生まれてなかったり、生き残ったり死んだりととってもややこしい。じゃあ、この技術でみんなが幸せになれたかというとそれはまた別。主人公の往人はテロに巻き込まれて妻子を亡くしたり、自殺したり、自首したりとどの世界でもさんざんな目にあっています。
 平行世界モノの根本には”あの時こうしておけば、もっと良い人生を送れたはずだ”という思いがあるんですが、ベーシックな性格と能力が変わらなければねぇ。よく、”もし、もう一度高校生に戻れたら、もっと勉強するのに”とぬかすヤツがいますが、それが出来るぐらいなら、今も真面目に勉強しているハズです

 このあたりの話を本書では”35歳問題”という言葉で表しています。要約すると

 1.人の人生は過去に成し遂げたこと、現在成し遂げていること、
  未来に成し遂げるであろうことだけでなく、”成し遂げられたかもしれない”
  ことからも出来ている。
 2.生きるとは、成し遂げられるかもしれないこのとの一部を選択し、あとの
  可能性を”成し遂げられたかもしれないこと”に変えていく行為。

 3.35歳で成し遂げられたかもしれない過去が、実際の過去の量を超える
 4.だから人は憂鬱になり、どんなに幸せな人でもこの憂鬱から逃れられない。

 まあ、35歳ってのがビミョ~です(*3)

 現在の人生ってのは”無数の可能性から、自分の意思で選択したことの結果”(いわゆる自己責任原則)。たとえ、偶然の要素が大きかったとしてもです。大学受験なんかでも、どの大学を受験するかを決めるのは結局自分の問題。で、選択を間違えると私のように二浪するハメになります(選択の問題だけか?)。
 まあ、二浪しなければ、今の会社には入っていないだろうとか、もっと素敵な奥様と結婚できたいたはず(*4)とか可能性は捨て切れませんが・・・

 話は戻って、クォンタム・ファミリーズのSF的ポイントは”量子コンピュータによる平行世界間の意識の転移”。量子論てのは現在の科学の中ではもっともわかりにくい理論のひとつで、SF的にケムにまくには格好の素材。でも、この小説ではもっともらしい用語がちりばめられてはいるものの、ほとんど魔法の世界です。
 魔法(魔術)には、白魔術と黒魔術に分かれますが、前者は”好ましい目的のために、人のために使う魔法”、後者が”他人に危害を与えたり、自己の欲求・欲望を満たすために目的のために使われる魔法”のこと。家族のためであれば白魔術だし、自分の人生を再構築するなら黒魔術だし。結局、結果からだけ見れば黒魔術的なんでしょうかね。

 物語の随所に出て来るサワロというサボテンにしても、荒涼とした風景を表現するというより、私としては、葦船友梨花の家族に対する”ハリネズミのジレンマ(*5)”を連想しちゃいました。
 結局のところ、どんなに人生をリセットするような魔法の技術があっても、人間の愛憎といった業の問題を解決することはできないのかもしれません。

 今回のおまとめ

  充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。
  Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic
   クラークの第三法則(*6)

  善悪はそれを持ちいる者の心の中にあり。科学者がよく使う詭弁じゃ!
   サクラさんのお言葉(”うる星やつら ビューティフルドリーマー(*7)”より)

《脚注》
(*1)Magi Cluster
 マギ・クラスターは分子機能系を担当するCaspar(カスパー)、生命システム系を担当するBalthazar(バルタザール)、遺伝子情報系を担当する Melchior(メルキオール)などから構成されています。
 命名をしたヤツは絶対エヴァンゲリオンのファンでしょう。決裁した人も偉いけど。
 実物は生命情報工学研究センターのHPでご覧いただけますのでどうぞ。
(*2)並行世界
 いわゆるパラレルワールド。理論的には存在する可能性があるそうです。
 ”よく似ているけど、ちょっと違う”という世界なので、SF的には便利な設定。
(*3)35歳ってのがビミョ~です
 ”OL進化論”(秋月りす 講談社)の”35歳で独身で”を読んでいただければよろしいかと。
(*4)もっと素敵な奥様と結婚できたいたはず
 いや、あの、その、今の奥様が最高です。
(*5)ハリネズミのジレンマ
 鋭い毛を全身に生やしたハリネズミが二匹、巣穴の底で震えている。
 ハリネズミは,寄り添い暖めあおうとするが,互いの針で相手を傷つけあってしまう。 エヴァンゲリオンの屈折した親子関係を表現するのに使われて有名になりました。
(*6)クラークの第三法則
 イギリスのSF作家、アーサー・C・クラークが定義した法則。ちなみに第一と第二は下記のとおり。
 1.高名だが年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違いない。
  また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違っている。
 2.可能性の限界を測る唯一の方法は、不可能であるとされることまでやってみる
  ことである。
 至言です。
(*7)うる星やつら ビューティフルドリーマー
 高橋留美子原作、押井守監督の劇場版アニメ。名作です。
 このセリフは巫女のサクラさんが、夢を操る妖怪”無邪鬼”と対決する時のもの。

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