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こんなに情けなくて卑怯な僕を、広い心で許したりしないでくれよ(パズルの軌跡/笹)

 ども、なんも考えずにぼ~っと生きてるおぢさん、たいちろ~です。
 とはいえ、何にも悩みがないわけではなくて、例えばお金がないとか、お金がないとか、お金がないとか。それにつけても金の欲しさよ・・・(*1)
 まあ、死んでしまいたいと思うほどの悩みがあるわけはないので、そういった意味ではまずまず幸せな人生なんでしょうなあ。
 死んでしまわないまでも、人生を上書きしたいと思う人はいらっしゃるようで(*2)、それをハイテクノロジーで実現しましょうというのが、今回ご紹介するSF”パズルの軌跡”であります。


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 左の写真はたいちろ~さんの撮影。近所の笹です


【本】パズルの軌跡(機本 伸司、ハルキ文庫)
 大学のゼミで天才美少女物理学者”穂端沙羅華(ほずみさらか)と共に”宇宙作り”をやろうとした綿さんこと、”綿貫基一(わたぬきもとかず)”。彼の元に届いた依頼は、資産家の子息たちの失踪事件を調査して欲しいというものだった・・・
 小松左京賞受賞の”神様のパズル”の続編。
【花】(ささ)
 イネ科タケ亜科(タケ科)なんですが、タケ亜科にはタケ、ササ、バンブーが属しています。地下茎が横に伸びず大型のがバンブー、竹の子のように鞘がむけて大きくなるのがタケで、剥けなくて小さいのが笹なんだそうです。だから、オトコの人のナニを見て”笹!”とか言わないように。


 ネタバレになりますが、この話のテクノロジーのキモは、加速器による粒子線を照射することで、脳細胞の一部を破壊し、自我を上書きするといったもの。原理的には癌の放射線治療と同じ様なものと言ってますが、やっているのはトレパネーション(*3)
 個人の自我をジグソーパズルのピースにたとえると、ひとつだけだと、何の絵かわからなくて形も歪、それを粒子線を使って自我を司る脳細胞変化させて、全体の一部であるという自覚を与えると言うもの。これを”全体我”と呼んでいます。

 仏教で言うところの「自他一如」とか「涅槃」(*4)みたいなものをハイテクノロジーで実現しましょうというのがウリです。現状に対して希望を失っているけど、自殺するほどの覚悟がない(*5)といった中途半端な状態の人には魅力的な提案なんでしょうな。相手がいままでの生活を捨てて失踪を希望する人たちとはいえ、作中では”断った人はいない”と言っているし。
 クールなようですが、このような自我を喪失するような処置を受けるかどうかはその本人に”生きていることの意味”が見出せるかどうか。それは、自分だけでなく自分を取り巻く人たちを含めてのことです。だから、真剣に止める人がいれば思いとどまるべきなんでしょうね。

 で、この処理を受けようとする沙羅華を止めようとする綿さんのセリフ。ほぼ3ページにわたる中から一部を抜粋すると

  それにまた、喧嘩もしよう。
  いつもみたいに、僕のことを馬鹿にしてくれていい。
  僕は怒った顔をすると思うけど、気にしなくていいからさ。
  そうやって喧嘩して、相性も合わなくても、
  ずっと友だちでいようや、なあ沙羅華
  お前の裸を想像して興奮している、駄目な僕を叱っておくれ。
  こんなに情けなくて卑怯な僕を、広い心で許したりしないでくれよ。
  僕に今まで通り、高飛車で意地の悪いお前の言うことを聞きながら、
  陰でブツブツ言わせてくれ。
  お前だけ、悟って立派な世界に行かないでくれよ。
  馬鹿な僕を見捨てて、自分だけ立派にならないでおくれ。
  お願いだから・・・ お願いだから・・・

 はっきり言って、精神的なドMです。
 でも、こういったセリフを言ってもらえるってのは、やはり幸せなんでしょうねぇ。

 このSFのメインテーマは”宇宙とは何か、自分とは何か”。宇宙が変えれないのであれば、自分の中の内宇宙を変えてみるって所です。”神様のパズル”では宇宙を作ってみるってことをやってますが、今回は内宇宙側をいじってみるってお話です。
 そういえば、作品中に沙羅華のお兄さんが、無限大の形に似た笹舟を作るシーンがありますが、これって見ようによっては、メビウスの帯(*6)を連想させます。表と裏が一体となった形って、意外に外宇宙と内宇宙の関係みたいなものかも。

 ハードSFしながらコミカルでちょっとラブコメな面白い作品。前作の”神様のパズル”とあわせてどうぞ。

《脚注》
(*1)それにつけても金の欲しさよ・・・
 江戸時代の狂歌師、大田南畝の
  世の中は いつも月夜に米の飯 さてまた申し金の欲しさよ
 がオリジナルで、どんな上の句にも繋がる下の句の代表例として有名。
 ちなみに、この人の辞世の歌は
  今までは 人のことだと 思ふたに 俺が死ぬとは こいつはたまらん
 死に際にこれぐらい、しゃれっ気のある言葉をはいてみたい物です。
(*2)人生を上書きしたいと思う人は~
 以前、何かのアンケートで”ドラえもんに出して欲しい道具は?”という質問に”過去を消せる消しゴム”と答えた人がいました。なかなかシュールな回答です。
(*3)トレパネーション
 頭皮を切開して頭蓋骨に穴を開ける民間療法の一種で、特に治療を目的とした行為というよりも、神秘主義観におく物(Wikipediaより抜粋)。
 SFファンにはロボトミー手術における前頭葉切断といったほうが通りが良いかも。
(*4)「自他一如」とか、「涅槃」
・自他一如(じたいちによ):自分と他人は一つ如しだということ
・涅槃(ねはん):人間の本能から起こる精神の迷いがなくなった状態。さとり。
 あまり、この分野は詳しくないんですが、だいたいこんな感じのようなものです。
(*5)自殺するほどの覚悟がない
 自殺を宗教的に禁止しているキリスト教およびイスラームなどと、輪廻転生の仏教では感じ方が違うのかもしれませんが。
(*6)メビウスの帯
 帯状の紙の片方を180°ねじってもう片方にくっつけたもの。
 身近なところだと、リサイクルのシンボルマークはこのデザインなんだそうです。

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