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2009年7月19日 - 2009年7月25日

昔ここで働いていてね、かわいい女だった(さよなら、愛しい人/サルビア)

 ども、愛のさすらい人、たいちろ~です。
 さて、今回のお題は”あなたは愛したい派?愛されたい派?”ですが、まあ、愛する派でしょうか。なぜなら、”愛するって耐えること”なので(*1)、未だに離婚をしていない忍耐の人である私は愛する派の人なのでしょう。もっとも、奥様も同じことを言っていますが・・・
 ということで、今回紹介する本は愛する男の悲哀を描いた”さよなら、愛しい人”です。

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写真はたいちろ~さんの撮影
近所の園芸店にあったブルーサルビアです





【本】さよなら、愛しい人(レイモンド・チャンドラー 村上春樹訳 早川書房)
 刑務所から出所したばかりのマロイは、8年前に別れた恋人ヴェルマを探しに黒人街の酒場にやってきたが、そこで殺人を犯してしまう。偶然、居合わせた私立探偵フィリップ・マーロウは、逃亡したマロイと女を探して事件に巻き込まれていく・・・
 ハードボイルド史上もっとも有名なマーロウものの第2作。原題は”Farewell, My Lovely”。2009年に村上春樹の訳(*1)で出版されました。
【花】サルビア
 シソ科の一年生。赤いサルビアの花言葉は”あなたのことばかり思う”、青いサルビアの花言葉は”永遠にあなたのもの”です。


 銀行強盗で8年の刑期を終えて出所したへら鹿(ムース)・マロイは2m近い大男で、酒場の用心棒を投げ飛ばすほどの怪力の持ち主。でも、昔の恋人”ヴェルマ”のことを話すときはとっても純なんですね。表題の”昔ここで働いていてね、かわいい女だった”は、マロイがマーロウに恋人を説明するときのセリフ。おそらくこのセリフのおかげで、マーロウは金にもならない苦労を背負い込むことになりますが、言ってみればそれこそがハードボイルドの真骨頂かもしれません。

 以前に書いたサム・スペード(*3)もそうですが、ハードボイルドとは”タフガイ”、”やさしさ”、”己の心情への忠実さ”

  If I wasn't hard,
   I wouldn't be alive.
  If I couldn't ever be gentle,
   I wouldn't deserve to be alive

  しっかりしていなかったら、生きていられない。
  やさしくなれなかったら、生きている資格がない
(*4)
    (”プレイバック”より 清水俊二訳)

 だから、ハードボイルドの男達って愛されるんでしょう。
 時として利用される愛もありますが・・・
 この本に登場するマロイにしても、8年間同じ女性を愛し続けて、裏切らたとわかっても死を称揚と受け入れているし、マーロウにしても女性の罪を告発するのは己にある矜持によるもので、決して恨みによるものではありません。
 (あんまり書くとネタバレになるので、このへんで)

 そんなマーロウに愛を捧げる女性”アン・リオーダン”も登場しています。マーロウ自身、口が悪いというか相当な毒舌家で、現実にマーロウのようなセリフをはけば嫌われるのは必至ですが、それを補ってあまりある魅力的な男性です。

  アン  :みんながよってたかってあなたの頭をぶちのめし、
       首を絞め、顎に一発食らわせ、体を麻薬漬けにする。(中略)
  マーロウ:遠慮するなよ、言いたい事は言った方がいい
  アン  :私はキスされたいのよ。ひどい人ね。

 言わせて見たいものです。

 さて、ハードボイルドなマーロウですが、以外と花の記述も見られます。作中で繰り返し出てくるのが”サルビア”。マーロウがぶちのめされる場所でもサルビアの匂いがしています。
 で、調べてみてわかりましたが、サルビアの花言葉が”あなたのことばかり思う”、”永遠にあなたのもの”。まさにマロイを思わせる花言葉です。私も含めてほとんど知られていない知識でしょうが(*5)、こういった細かいとことろを知っていると、単なるタフガイな男達の物語でない面を楽しめるかも。


 ”さよなら、愛しい人”は、”ロング・グッドバイ(*6)”に続く村上春樹訳によるマーロウものの2冊目。ぜひ、”大いなる眠り(*7)”なんかも訳して欲しいです。なにはともあれ、古典的名作がまた読まれることは喜ばしいことです。

 迷走の上の解散とか、麻生降ろしが出たり引っ込んだりとか(*8)、なんだか芯が通っていないことが多い昨今、こういった己に忠実な男達の物語なんかもいいですよ。
 お勧めの一冊です。


《脚注》
(*1)”愛するって耐えること”なので
 有名なフレーズの割には出典を知らなかったので調べてみたところ、浅丘ルリ子のシングルレコード”愛の化石”のフレーズでした。浅丘ルリ子は耐え切れず石坂浩二と離婚しました。
(*2)村上春樹の訳
 それまでは清水俊二訳が有名。邦題は”さらば愛しき女(ひと)よ”。どちらかというとこちらの邦題のほうが好きです。
 ちなみにルパン三世TV第2シリーズの最終話のタイトルが”さらば愛しきルパンよ”。監督は宮崎駿で”風の谷のナウシカ”や”天空の城ラピュタ”の原点が垣間見える作品です。
(*3)サム・スペード
 ダシール・ハメットによるハードボイルド小説に登場する私立探偵。詳しくはこちらをご参照ください。
(*4)しっかりしていなかったら、生きていられない~
 日本では、角川映画”野生の証明”のキャッチコピーのほうが有名。
  男はタフでなければ生きて行けない。
  優しくなれなければ生きている資格がない

(*5)私も含めてほとんど知られていない知識でしょうが
 私が知らなかっただけかもしれません。外国だと常識なのでしょうか?
(*6)ロング・グッドバイ
 原題は”The Long Goodbye”。オールドファンにとっては”長いお別れ”といったほうがとおりがいいかも。邦題としては、こちらのほうが気に入っています。
(*7)大いなる眠り
 原題は”The Big Sleep”。余談ですが、この題名の連想で、”さらば長き眠り(原 尞)”も読みました。日本のハードボイルド小説の傑作”沢崎シリーズ”の一冊。マーロウへのオマージュが感じられます。こちらもお勧め。
(*8)迷走の上の解散とか~
 このブログは2009年7月23日、麻生内閣解散の直後です。まあ、この人も身内からボコボコにされた末に、解散権という最後の矜持を守った解散劇と言えなくもないですが・・・

目覚めよと呼ぶ声が聞こえる(カンタータ第140番/田園/我が家の朝日)

 ども、目覚まし要らずのたいちろ~です。
 さて、今回のお題は”朝、どうやって起きてる?”ですが、ほとんど勝手に眼が覚めます。出張とかで、よっぽど寝すごすと困るとき意外は目覚まし時計も使いません。

 ”何時まで寝取るんじゃ、ボケ! とっとと起きんかい、このアホンダラ!!(*1)”

という内なる声に呼ばれて眼がさめます
 ということで、今回のテーマは”目覚めよ、と我らに呼びかける声がする”目覚めの音楽(宗教編)であります。

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写真はたいちろ~さんの撮影
自宅の朝の日の出です。



【CD】カンタータ第140番 BWV140(*2)(バッハ)
 タイトルは”目覚めよと、われらに呼ばわる物見らの声(Wachet auf, ruft uns die Stimme)”。ヨハン・セバスティアン・バッハが作曲したカンタータです。カンタータとは単声または多声のための器楽伴奏付の声楽作品のこと。
【CD】交響曲第6番ヘ長調作品68”田園”(ベートーヴェン)
 たぶん、一度は聴かれたことはあるでしょうクラシックの定番。各楽章に標題がつけられた標題音楽としても有名で、第一楽章は”田舎に到着したときの晴れやかな気分”
【旅行】我が家の朝日
 ベランダからとった朝日です。ご覧のとおり、目の前は森以外何もありません。
 冬に撮影したので、雪景色です。


 クラシックはわりと聴く方で、家にもバッハのCDが何枚かあります。どちらかというと本を読むときにかけっぱなしのながら族ですがバッハのカンタータなんかは荘厳な雰囲気でいいですね。クリスチャンでも、敬虔な人生を生きているわけでもありませんが、落ち着いた気分にさせてくれます

 で、今回のお題に合わせて曲名で選んだのがカンタータ第140番”目覚めよと、われらに呼ばわる物見らの声”です。第1曲の歌詞は
 
  目覚めよ、と我らに呼びかける声がする。
  はるか高い塔の上から見張番たちの声だ。
  目覚めよ、エルサレムの町よ!
  今、時は真夜中である。
    (Kenichi Yamagisi’s WebSiteより

 私自身、何時かというより、どうも6~7時間寝ると勝手に眼が覚める体質のようで、早く寝てしまうとけっこう真夜中でも目がさめます。で、ブログを書いていたりして・・・




 上の画像では第一曲ですが、第四曲のオルガン曲に編曲されたものも有名です(BWV645)。一般的にはこちらのほうがご存知かもしれませんね。




 さて、朝の宗教音楽として個人的に思い出があるのは、ベートーヴェンの交響曲第6番”田園”。別にこの曲自身は宗教曲でもなんでもないんですが、学生時代に聞いていた朝のラジオ番組”心のともしび(*3)”のテーマソングだったから。

  ”心に愛がなければ どんなに美しい言葉も 相手の胸に響かない”
     聖パウロの言葉より


 で始まるキリスト教の番組で、学生時代に朝5時ごろ目が覚めてラジオをつけるとこの番組がやっていました。最近は聞いていませんが、今でもやっているみたいです。

 聴いていたのはちょうど受験の時代でして、当時としては夜の”大学祝典序曲(*4)”と朝の”田園”がクラシックの定番でした。学生にとってラジオ全盛の時代でしたから、こういった音楽と思い出というのはダイレクトにリンクしています。オールナイトニッポンのオープニングなんて、正に深夜を代表する曲でしたし。

 まあ、”カンタータ第140番”にしても、”田園”にしても朝起きてさわやかな気分をたのしむBGMであって、目覚まし代わりの音楽には向きません。そのままいい気分でねちゃいそうです。
 
 結局、早起きの秘訣は、酒でも飲んで夜は早く寝るに限るということでしょうか。


《脚注》
(*1)何時まで寝取るんじゃ、ボケ!~
 根が関西人なので、このあたりによしもと文化が根強くでますね~~
(*2)BWV140
 ”BWV”はバッハ作品主題目録番号(Bach-Werke-Verzeichnis)のこと。ドイツ語式に”ベー・ヴェー・ファウ”と読むとかっこいいかも。BMWと間違えてはかっこ悪いです。
 ちなみに、モーツァルトの作品を時系列的に配列した番号が”ケッヘル番号”です。
(*3)心のともしび
 調べてみたところ、ジェームス・ハヤット司祭が京都の河原町教会で創始した”カトリック善き牧者の会(Good Shepherd Movement)”の布教番組。HPでは今でも”心のともしび運動YBU本部”の名称を使っています。
 ちなみみこの番組の前後で”念法眞教 心のいこい”というこちらも宗教番組がやっていました。
(*4)大学祝典序曲 ハ短調(ハ長調) Op.80
 ブラームスの序曲というより、旺文社の”大学受験ラジオ講座”のテーマ曲といったほが有名。最後の放送は学年度だと1994年だそうですので、たぶん30代以上の方ならこの曲=受験のイメージといえばご理解いただけるかと。
 今でも聴くと心が痛いクラシック曲No.1です

人は脳によってのみ生くるにあらず(ポポイ/挿し木)

 ども、不況のおり最近首が危ないたいちろ~です。
 さて、以前に書きましたが私の本の選び方は”本に載っている本を数珠繋ぎに読む”というのをよくやります。で、今回ご紹介するのは桜庭一樹の”書店はタイムマシーン 桜庭一樹読書日記”から倉橋由美子の”ポポイ”であります。

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写真はたいちろ~さんの撮影
近所の園芸店にあったパインアップルです
植木鉢に植えられている人の首に見えないこともありません。




【本】ポポイ(倉橋由美子 新潮文庫他)
 元首相の邸宅に押し入った美少年は仲間により首を切り落とされて果てる。その首は科学の力で生かされて元首相の孫娘・舞が面倒を見ることになるのだか・・・
 現代版”ドウエル教授の首(*1)”といったところでしょうか。
【家庭菜園】挿し木
 茎・葉・根などの一部を切り取って、挿し床に挿すことで増やしていく園芸の手法の一つ。樹木ではサツキ、ハーブだとローズマリー、果実だとパインアップルなどが代表。Wikipediaの解説によると”クローン技術の元祖”。


 ジャンル的にはSFなんでしょうが、倉橋由美子って歴史的仮名遣い(*2)で物語を書く人なので、どの時代の話なのかわからないような不思議な酩酊感に襲われます。文体だけだと最初は明治の話かと思って読み始めましたが、三島由紀夫(*3)が出てきて昭和40年代後半の話のようであり、ワープロやポジトロンCT(*4)とか出てくるので昭和後期の話のようでもあり。

 登場人物も二面性というより混沌といった感じ。主人公の舞は、婚約者がいる貞淑なお嬢さんのように見えて複数の男に抱かれているし、この婚約者も冷徹なマッド・サイエンティストっぽいし。”ポポイ”こと美少年テロリストの首も哲学的なのかそうでないのか? 一番常識人らしいのが全身マヒに近い元首相のおじいさんだし。

 首だけになっても科学の力で生かされているというのは、球根の水耕栽培というよりも、挿し木といった感じでしょうか。遺伝子的には挿し木は元の株と同じものだそうですが、首だけになった人間の挿し木は元の人間とは異なる意識を持つ新しい生命のようです。

 首だけになった元テロリストの言葉

  ボクノ頭脳ニハ宇宙ノアラユルトコロカラ絶エズ光ヤ宇宙線ト一緒ニ
  宇宙情報ガ降リカカッテクル。
   (中略)
  要スルニ、今ノボクハ宇宙カラ聞コエテクル音楽ノヤウナモノニ
  ボク自身ヲ開放シテヰル

 これに対する元首相のコメント

  例ヘバ、神、私、宇宙、意識、存在、生命、真実、自由、永遠、救ヒ、平和、
  超越、死、再生、メッセージ、人間、世界、善悪、正邪、美醜・・・
  ソレニ比喩的表現ノタメノイクツカ具体的ナモノヲ指ス言葉・・・
  ソレダケアレバドンナ神秘的思想デモ語レル。


                         (本書より引用)

 夢見がちなテロリストとリアリスムのかたまりのような政治家の対比が興味深いです。
 SFとは”サイエンス・フィクション”のほかに”スペキュレイティブ・フィクション(*5)”の略だとする意見もありますが、まあ、好き嫌いは分かれるでしょうね。私はけっこう好きです。
 映像化するなら、押井守(*6)あたりに監督をさせれば面白いかも


 最後に同じく元首相の言葉から

  自我ヲササエテヰルノハ記憶、ツマリ過去ノ貯蔵庫ダ。
  人間ハ現在ヲ生キルノデハナクテ、
  コノ過去ノ貯蔵庫カラ引キ出シタモノヲ消費シテ生キテヰル。

 私のような知識集約型のブログでは、過去の作品の知識をいろいろ引っ張り出して書いています。でも、どんどん新しいものを読んでいかないとストックが尽きてしまうしな~
 なんだか、因果なこと始めちゃいました


《脚注》
(*1)ドウエル教授の首
 ”ソ連のヴェルヌ”ことアレクサンドル・ベリャーエフのSF小説。
 首だけになって生きているドウエル教授の物語。子供のころに読みましたが当時はSFではなく”少年空想科学小説”と呼ばれてましたね、確か。
 読もうかと思ったんですが、子供向け以外はほとんど絶版状態です。
(*2)歴史的仮名遣い
 ”美少年でせう?”とか、”それはさうでせう。首は生きてゐるんですから”とか。
(*3)三島由紀夫
 1970年11月25日、陸上自衛隊東部方面総監部(市ヶ谷駐屯地)のバルコニーで自衛隊決起(=反乱)を促す演説をしたあと割腹自殺。”ポポイ”の中でもこのエピソードが取り上げられています。
(*4)ポジトロンCT
 コンピュータ断層撮影のこと。”CTスキャン”といたほうがとおりが良いかも。画像処理はコンピュータの性能に依存するそうです。1971年に作成された原型の画像作成は大型計算機で2.5時間かかったそうですが、現在ではほぼリアルタイムに画像を確認できるんだそうです。
 なんで、こんな説明をしてるかというと、コンピュータ屋にとってコンピュータの性能というのは時代のイメージとけっこう結びついてるんですね。
(*5)スペキュレイティブ・フィクション(Speculative fiction)
 サイエンスフィクション(空想科学小説)に哲学的な要素を取り込んだもの。思弁小説(しべんしょうせつ)。思弁とは”経験に頼らず、純粋な論理的思考だけで、物事を認識しようとすること(大辞泉)”。
(*6)押井守
 ”攻殻機動隊”、”スカイ・クロラ”などを手がけた映画監督。小難しい理屈をこねまわすアニメを作らせたらこの人の右に出るものはいません。宮崎駿と並び、名前だけでお客を呼べるカリスマ監督であります。

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