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恋には我身の命もいらぬ(夜叉ケ池/インパチェンス)

 ども、電車賃がなくてなかなか自宅に帰れない単身赴任のたいちろ~です(*1)。
 会社の出張だと交通費は気になりませんが、自腹となるとやはり往復2万円は結構な出費(*1)。なかなか連休とかないと帰れない状態です。
 ということで、今回は別れ別れの恋人=竜神を扱った泉鏡花の”夜叉ケ池”のご紹介です。

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写真はたいちろ~さんの撮影。
近所の公園に咲いていたインパチェンスです。












【本】夜叉ケ池(泉 鏡花 岩波文庫他)
 大昔に竜神と人間の間に交わされた契約。それは「竜神がその力を封じ続けるには日に3回鐘をつくこと」。その鐘を撞き続ける若い夫婦と、村人たちとの対立。そして恋に焦がれる竜神”白雪”の想い。
 泉 鏡花の代表的な戯曲。
【花】インパチェンス(Impatiens)
 アフリカのタンザニアからモザンビークにかけての高原地帯に分布する一年草。別名、アフリカホウセンカ(鳳仙花)。語源は、ラテン語の”impatient 我慢できない”から。花言葉は”豊かさ”のほかに”短気”などもあります。

 で、なんでこんな。大正時代の戯曲(*1)を読む気になったかというと、最近読んだ野村美月の「”文学少女”と月花を孕く水妖」のモチーフがこれなんですね。
 こちらのほうは別のブログで書きましたので省略しますが、本歌(*3)である”夜叉ケ池”はというと2つの恋の交錯する幻想的なお話です。

 人間のお話は学生の荻原晃と村娘の百合が竜神との約束に従って鐘をつく役目を引き継ぎますが、日照りに悩む村人たちは百合を竜神への雨乞いの生贄に捧げようとします(*4)。

  晃  生命に掛けても女房は売らん、
     竜神が何だ、八千人が何(ど)うしたと!
     神にも仏にも恋は売らん。

 かたや、竜神の白雪は遠く剣ケ峰にいる恋人の妖怪に会いたいものの、人間との約束のため、鐘がつかれている間は夜叉ケ池から離れられない身(*5)。

  白雪 人の生命が何う成ろうと、其(それ)が私の知ることか!
     恋には我身の命もいらぬ。
     (中略)
     あこがれ慕ふ心には、冥土(よみじ)の関を据ゑたとて、
     夜のあくるのも待たれうか

 目先の利益のため、他人を平気で犠牲にできる代議士や村人たちと、恋人に会いに行きたい気持ちが我慢できず、村人の犠牲をいとわない白雪はある意味相似形なのかもしれませんが、我が身をも犠牲の内に考える白雪と一方的に他人に犠牲を強いる村人ではやはり深みが違います。

 で、誰を犠牲にしなくても家に帰れるのに帰らないおとうさんは”我慢できない”という名をもつインパチェンスの花を見ながら、交通費の捻出をしみじみ考えるのであります

 泉 鏡花の名前は知っていましたが、読むのは今回が初めて。食わず嫌いというか、こんなに面白い話だとは思っていませんでした。大正期の文章ですが、戯曲だけあって言葉のリズムが流れるようで思いの他すらすらと読めます。私が読んだのは”鏡花幻想譚”に収録されたものですが、解説や振り仮名もあって読みやすかったです。他に収録されている”天守物語”、”海神別荘”もお勧めです。

《脚注》
(*1) 大正時代の戯曲
 泉 鏡花(いずみ きょうか)は、明治後期から昭和初期にかけて活躍した小説家、戯曲作者。”高野聖”や”婦系図”が代表作。近代における幻想文学の先駆者ともいわれています。”夜叉ヶ池”は1913年(大正2年)に発表。
(*2) ”文学少女”と月花(げっか)を孕(だ)く水妖(ウインディーネ)
    (作 野村 美月 イラスト 竹岡 美穂 ファミ通文庫)
 「悪い人にさらわれました。着替えと宿題を持って、今すぐ助けに来てください」
 そんな”文学少女”こと遠子先輩に呼ばれて行った先では80年前の殺人に端を発する因縁の事件だった。
 ライトノベル系の推理小説。
(*3)本歌
 本歌取りは、有名な和歌を自作に取り入れて作歌を作る和歌の作成技法の1つ。
 ”文学少女シリーズ”は主人公の遠子さんが古今東西の文学に精通した人なので、有名な小説をモチーフにしています。
(*4)竜神への雨乞いの生贄に捧げようとします
 処女を裸にして牛の背中に縛り付けて夜叉ヶ池に追い立てるというもの。あまりいい趣味とはいえません。
 ちなみに晃の友人学円によると、雨が降るのは牛の背中の犠牲を見るに忍びないので天道が泣くからとのこと。
(*5)夜叉ケ池から離れられない身
 白雪が夜叉ケ池から動くと大雨、洪水によって多くの生命が失われることになるそうです。


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