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昔ここで働いていてね、かわいい女だった(さよなら、愛しい人/サルビア)

 ども、愛のさすらい人、たいちろ~です。
 さて、今回のお題は”あなたは愛したい派?愛されたい派?”ですが、まあ、愛する派でしょうか。なぜなら、”愛するって耐えること”なので(*1)、未だに離婚をしていない忍耐の人である私は愛する派の人なのでしょう。もっとも、奥様も同じことを言っていますが・・・
 ということで、今回紹介する本は愛する男の悲哀を描いた”さよなら、愛しい人”です。

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写真はたいちろ~さんの撮影
近所の園芸店にあったブルーサルビアです





【本】さよなら、愛しい人(レイモンド・チャンドラー 村上春樹訳 早川書房)
 刑務所から出所したばかりのマロイは、8年前に別れた恋人ヴェルマを探しに黒人街の酒場にやってきたが、そこで殺人を犯してしまう。偶然、居合わせた私立探偵フィリップ・マーロウは、逃亡したマロイと女を探して事件に巻き込まれていく・・・
 ハードボイルド史上もっとも有名なマーロウものの第2作。原題は”Farewell, My Lovely”。2009年に村上春樹の訳(*1)で出版されました。
【花】サルビア
 シソ科の一年生。赤いサルビアの花言葉は”あなたのことばかり思う”、青いサルビアの花言葉は”永遠にあなたのもの”です。


 銀行強盗で8年の刑期を終えて出所したへら鹿(ムース)・マロイは2m近い大男で、酒場の用心棒を投げ飛ばすほどの怪力の持ち主。でも、昔の恋人”ヴェルマ”のことを話すときはとっても純なんですね。表題の”昔ここで働いていてね、かわいい女だった”は、マロイがマーロウに恋人を説明するときのセリフ。おそらくこのセリフのおかげで、マーロウは金にもならない苦労を背負い込むことになりますが、言ってみればそれこそがハードボイルドの真骨頂かもしれません。

 以前に書いたサム・スペード(*3)もそうですが、ハードボイルドとは”タフガイ”、”やさしさ”、”己の心情への忠実さ”

  If I wasn't hard,
   I wouldn't be alive.
  If I couldn't ever be gentle,
   I wouldn't deserve to be alive

  しっかりしていなかったら、生きていられない。
  やさしくなれなかったら、生きている資格がない
(*4)
    (”プレイバック”より 清水俊二訳)

 だから、ハードボイルドの男達って愛されるんでしょう。
 時として利用される愛もありますが・・・
 この本に登場するマロイにしても、8年間同じ女性を愛し続けて、裏切らたとわかっても死を称揚と受け入れているし、マーロウにしても女性の罪を告発するのは己にある矜持によるもので、決して恨みによるものではありません。
 (あんまり書くとネタバレになるので、このへんで)

 そんなマーロウに愛を捧げる女性”アン・リオーダン”も登場しています。マーロウ自身、口が悪いというか相当な毒舌家で、現実にマーロウのようなセリフをはけば嫌われるのは必至ですが、それを補ってあまりある魅力的な男性です。

  アン  :みんながよってたかってあなたの頭をぶちのめし、
       首を絞め、顎に一発食らわせ、体を麻薬漬けにする。(中略)
  マーロウ:遠慮するなよ、言いたい事は言った方がいい
  アン  :私はキスされたいのよ。ひどい人ね。

 言わせて見たいものです。

 さて、ハードボイルドなマーロウですが、以外と花の記述も見られます。作中で繰り返し出てくるのが”サルビア”。マーロウがぶちのめされる場所でもサルビアの匂いがしています。
 で、調べてみてわかりましたが、サルビアの花言葉が”あなたのことばかり思う”、”永遠にあなたのもの”。まさにマロイを思わせる花言葉です。私も含めてほとんど知られていない知識でしょうが(*5)、こういった細かいとことろを知っていると、単なるタフガイな男達の物語でない面を楽しめるかも。


 ”さよなら、愛しい人”は、”ロング・グッドバイ(*6)”に続く村上春樹訳によるマーロウものの2冊目。ぜひ、”大いなる眠り(*7)”なんかも訳して欲しいです。なにはともあれ、古典的名作がまた読まれることは喜ばしいことです。

 迷走の上の解散とか、麻生降ろしが出たり引っ込んだりとか(*8)、なんだか芯が通っていないことが多い昨今、こういった己に忠実な男達の物語なんかもいいですよ。
 お勧めの一冊です。


《脚注》
(*1)”愛するって耐えること”なので
 有名なフレーズの割には出典を知らなかったので調べてみたところ、浅丘ルリ子のシングルレコード”愛の化石”のフレーズでした。浅丘ルリ子は耐え切れず石坂浩二と離婚しました。
(*2)村上春樹の訳
 それまでは清水俊二訳が有名。邦題は”さらば愛しき女(ひと)よ”。どちらかというとこちらの邦題のほうが好きです。
 ちなみにルパン三世TV第2シリーズの最終話のタイトルが”さらば愛しきルパンよ”。監督は宮崎駿で”風の谷のナウシカ”や”天空の城ラピュタ”の原点が垣間見える作品です。
(*3)サム・スペード
 ダシール・ハメットによるハードボイルド小説に登場する私立探偵。詳しくはこちらをご参照ください。
(*4)しっかりしていなかったら、生きていられない~
 日本では、角川映画”野生の証明”のキャッチコピーのほうが有名。
  男はタフでなければ生きて行けない。
  優しくなれなければ生きている資格がない

(*5)私も含めてほとんど知られていない知識でしょうが
 私が知らなかっただけかもしれません。外国だと常識なのでしょうか?
(*6)ロング・グッドバイ
 原題は”The Long Goodbye”。オールドファンにとっては”長いお別れ”といったほうがとおりがいいかも。邦題としては、こちらのほうが気に入っています。
(*7)大いなる眠り
 原題は”The Big Sleep”。余談ですが、この題名の連想で、”さらば長き眠り(原 尞)”も読みました。日本のハードボイルド小説の傑作”沢崎シリーズ”の一冊。マーロウへのオマージュが感じられます。こちらもお勧め。
(*8)迷走の上の解散とか~
 このブログは2009年7月23日、麻生内閣解散の直後です。まあ、この人も身内からボコボコにされた末に、解散権という最後の矜持を守った解散劇と言えなくもないですが・・・

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