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人は脳によってのみ生くるにあらず(ポポイ/挿し木)

 ども、不況のおり最近首が危ないたいちろ~です。
 さて、以前に書きましたが私の本の選び方は”本に載っている本を数珠繋ぎに読む”というのをよくやります。で、今回ご紹介するのは桜庭一樹の”書店はタイムマシーン 桜庭一樹読書日記”から倉橋由美子の”ポポイ”であります。

200907100055
写真はたいちろ~さんの撮影
近所の園芸店にあったパインアップルです
植木鉢に植えられている人の首に見えないこともありません。




【本】ポポイ(倉橋由美子 新潮文庫他)
 元首相の邸宅に押し入った美少年は仲間により首を切り落とされて果てる。その首は科学の力で生かされて元首相の孫娘・舞が面倒を見ることになるのだか・・・
 現代版”ドウエル教授の首(*1)”といったところでしょうか。
【家庭菜園】挿し木
 茎・葉・根などの一部を切り取って、挿し床に挿すことで増やしていく園芸の手法の一つ。樹木ではサツキ、ハーブだとローズマリー、果実だとパインアップルなどが代表。Wikipediaの解説によると”クローン技術の元祖”。


 ジャンル的にはSFなんでしょうが、倉橋由美子って歴史的仮名遣い(*2)で物語を書く人なので、どの時代の話なのかわからないような不思議な酩酊感に襲われます。文体だけだと最初は明治の話かと思って読み始めましたが、三島由紀夫(*3)が出てきて昭和40年代後半の話のようであり、ワープロやポジトロンCT(*4)とか出てくるので昭和後期の話のようでもあり。

 登場人物も二面性というより混沌といった感じ。主人公の舞は、婚約者がいる貞淑なお嬢さんのように見えて複数の男に抱かれているし、この婚約者も冷徹なマッド・サイエンティストっぽいし。”ポポイ”こと美少年テロリストの首も哲学的なのかそうでないのか? 一番常識人らしいのが全身マヒに近い元首相のおじいさんだし。

 首だけになっても科学の力で生かされているというのは、球根の水耕栽培というよりも、挿し木といった感じでしょうか。遺伝子的には挿し木は元の株と同じものだそうですが、首だけになった人間の挿し木は元の人間とは異なる意識を持つ新しい生命のようです。

 首だけになった元テロリストの言葉

  ボクノ頭脳ニハ宇宙ノアラユルトコロカラ絶エズ光ヤ宇宙線ト一緒ニ
  宇宙情報ガ降リカカッテクル。
   (中略)
  要スルニ、今ノボクハ宇宙カラ聞コエテクル音楽ノヤウナモノニ
  ボク自身ヲ開放シテヰル

 これに対する元首相のコメント

  例ヘバ、神、私、宇宙、意識、存在、生命、真実、自由、永遠、救ヒ、平和、
  超越、死、再生、メッセージ、人間、世界、善悪、正邪、美醜・・・
  ソレニ比喩的表現ノタメノイクツカ具体的ナモノヲ指ス言葉・・・
  ソレダケアレバドンナ神秘的思想デモ語レル。


                         (本書より引用)

 夢見がちなテロリストとリアリスムのかたまりのような政治家の対比が興味深いです。
 SFとは”サイエンス・フィクション”のほかに”スペキュレイティブ・フィクション(*5)”の略だとする意見もありますが、まあ、好き嫌いは分かれるでしょうね。私はけっこう好きです。
 映像化するなら、押井守(*6)あたりに監督をさせれば面白いかも


 最後に同じく元首相の言葉から

  自我ヲササエテヰルノハ記憶、ツマリ過去ノ貯蔵庫ダ。
  人間ハ現在ヲ生キルノデハナクテ、
  コノ過去ノ貯蔵庫カラ引キ出シタモノヲ消費シテ生キテヰル。

 私のような知識集約型のブログでは、過去の作品の知識をいろいろ引っ張り出して書いています。でも、どんどん新しいものを読んでいかないとストックが尽きてしまうしな~
 なんだか、因果なこと始めちゃいました


《脚注》
(*1)ドウエル教授の首
 ”ソ連のヴェルヌ”ことアレクサンドル・ベリャーエフのSF小説。
 首だけになって生きているドウエル教授の物語。子供のころに読みましたが当時はSFではなく”少年空想科学小説”と呼ばれてましたね、確か。
 読もうかと思ったんですが、子供向け以外はほとんど絶版状態です。
(*2)歴史的仮名遣い
 ”美少年でせう?”とか、”それはさうでせう。首は生きてゐるんですから”とか。
(*3)三島由紀夫
 1970年11月25日、陸上自衛隊東部方面総監部(市ヶ谷駐屯地)のバルコニーで自衛隊決起(=反乱)を促す演説をしたあと割腹自殺。”ポポイ”の中でもこのエピソードが取り上げられています。
(*4)ポジトロンCT
 コンピュータ断層撮影のこと。”CTスキャン”といたほうがとおりが良いかも。画像処理はコンピュータの性能に依存するそうです。1971年に作成された原型の画像作成は大型計算機で2.5時間かかったそうですが、現在ではほぼリアルタイムに画像を確認できるんだそうです。
 なんで、こんな説明をしてるかというと、コンピュータ屋にとってコンピュータの性能というのは時代のイメージとけっこう結びついてるんですね。
(*5)スペキュレイティブ・フィクション(Speculative fiction)
 サイエンスフィクション(空想科学小説)に哲学的な要素を取り込んだもの。思弁小説(しべんしょうせつ)。思弁とは”経験に頼らず、純粋な論理的思考だけで、物事を認識しようとすること(大辞泉)”。
(*6)押井守
 ”攻殻機動隊”、”スカイ・クロラ”などを手がけた映画監督。小難しい理屈をこねまわすアニメを作らせたらこの人の右に出るものはいません。宮崎駿と並び、名前だけでお客を呼べるカリスマ監督であります。

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