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これは何時代の発言でしょうか?(大恐慌を駆け抜けた男 高橋是清/高橋是清翁記念公園)

【本】大恐慌を駆け抜けた男 高橋是清(松元 崇 中央公論新社)
 大蔵大臣などを歴任した大政治家 高橋是清を軸に、日露戦争から第二次世界大戦前までの財政の状況を描いた歴史書。著者の松元 崇も大蔵省(現財務省)のエリート官僚です。
【旅行】高橋是清翁記念公園
 東京都赤坂にあった高橋是清の邸宅跡を公園にしたもの。カナダ大使館の横にあります。そんなに大きくはないですが、木立の多い落ち着いた公園です。日曜朝に行きましたが小鳥のさえずりが心地よかったです。

20090419 20090419_2
写真はたいちろ~さんの撮影
左は公園内の池と灯篭、右は高橋是清翁の銅像です

 さて、問題です。下記は何時代の話でしょうか?

 救済事業だといって用もない道路を拓いたりするが、それに使う金は、その土地に落ちても、事業が終わると拓いた道は生業の助けにならず、村は以前にも増して窮追する例がしばしばある。(中略)農村に限らず、失業の問題でも無意味な救済はしてはならぬ。それは相手に間違った安心を与えるからである。(本書より引用)

 答え
 高橋是清の1935年(昭和10年)ごろの発言です(*1)。高橋是清は1936年(昭和11年)の二・二六事件(*2)で暗殺、その後の軍部の暴走により第二次世界大戦(1941年)に つながっていきます。

 今回のお題は”健全財政”ということで、”大恐慌を駆け抜けた男 高橋是清”を取り上げます。

 高橋是清は日銀総裁、大蔵大臣、総理大臣を歴任した政治家であり、財政のエキスパート。その高橋是清が目指したのが”健全財政”のように読み取れます。個人の家計にしろ国家の財政にしろ、収入と支出のバランスをとるのは大前提。つまり、”ご利用は計画的に(*3)”です。ましてや、国家財政に”おまとめローン(*4)”なんてありません。

 本書を読みますと、国家財政は
  ①国家の収入を増やすのは増税か国債の発行
  ②税負担は必ずしも国民に均等にかかるわけではない
  ③ほっておけば支出は増える。
   特に戦争の機運が高まると軍事予算の拡大要求が大きい(*5)
 ことがわかります。

 国家戦略として、戦争なんかしないのが一番です。まあ、時代背景を考えると、国防上の予算要求拡大はわからんでもないですが、それにしても海軍と陸軍の確執とか、関東軍の暴走とかはいただけません。ましてや、軍部からの

 「国債は国民の債務なると共にその債権なるを以って、国債の増発も国民全体としては財の増減が無い故に、内国債である限り国債の増加も国民全員負担の増加にあらず、何等恐るゝに足らず。(本書より引用)」

 の発言に至っては、はっきり言って”借金返す気ないやろ、おまえら!”とつっこんでしまいそうです。

 財政に関して高橋是清が懸念しているは、モラルハザードと野放図な拡大。上記の道路建設や、失業問題にしても、”安易にやるな”と警鐘を鳴らしているわけです。
 軍事費についても、立派な軍隊を作っても国民が維持できなければ、役に立たないといった趣旨の発言をしています。私自身はコンピュータ業界の人間ですが、多くの仕様をとりいれて立派なものを造っても維持メンテのコストが膨大になるという例がままあります。何事にもLCM(*6)的な観点は必要です。

 で、これにブレーキをかけるのが”財政の論理”、つまり国家の収支バランスです。戦争に勝っても国家が困窮すればそれは”財政的な負け戦”
 歴史的経緯でおっかけていくと、昔の戦争は勝った国が負けた国から賠償金を分捕って戦争費用の充当に当てるという財政構造になっていました。日露戦争の場合、日本は外国から借金をして戦争をしましたが、賠償金が取れなかった=財政的には負け戦。この負債がめぐりめぐって農村部に過度に経済的な負担をかけ、農村出身者の多い軍部の青年将校の決起を促し、二・二六事件につながっていくわけです。
 ましてや、ドイツに対する過度な賠償金要求がナチス・ドイツの台頭を招いたという反省から、現在では敗戦国への賠償金請求が行いにくい状態です。今、戦争をやったら少なくとも財政的には”勝者なき戦い”にならざるをえません。

 このへんのカラクリについては、もうちょっと学校で教えたほうが良いんじゃないですかね。背後にある問題をすっとばして”二・二六事件”という出来事だけを覚えさせても、その重要性がわかるように思えません。
 まあ、政治家としては、あまり触れて欲しくないテーマなのかもしれませんが。

 財政の論理の敗北について、吉田茂(*7)がこんなことを言っています。

 「特に大蔵大臣は、事(こと)予算編成に関する場合は、各省大臣を同時に敵にせねばならぬ立場のもので、その立場を強力にすることは、政治の根本を正す所以である。(中略)この機関は民主政治において最も重要な機関である。(本書より引用)」

 さすがに明治の男は気骨があります。まあ、このやり方に問題がないわけではないですが(*8)、政局がらみでばらまき財政をやっている孫の現状を見たらなんということやら・・・(*9)

 本書は、”高橋是清”という人物名がタイトルについていますが、いわゆる伝記のような記載はほとんどなく、大蔵省から見た財政史といったほうが合っている気がします。
 現在の2009年度予算において、与野党ともに大盤振る舞いをやってるのを見ていると、こういった本を読んで一度冷静に考えたほうがいいのかもしれませんね。

《脚注》
(*1)昭和10年ごろの発言です
 本書にて正確な記述はないですが、前後の文脈からこのころとしました。
(*2)二・二六事件
 2月26日~29日に、青年将校らによるクーデター未遂事件。斎藤内大臣、高橋蔵相、及び渡辺教育総監が殺害されました。高橋蔵相が狙われたのは、軍部予算の削減案が陸軍軍人の恨みを買ったからというのが教科書的な説明。
(*3)ご利用は計画的に
 消費者金融のコマーシャルでは最後に出てくるフレーズ。薬のコマーシャルの”ピンポ~ン”と同じ。薬の場合は注意喚起の文章を入れることが薬事法で決まっているんだそうですが、これもそうなんでしょうか?
(*4)おまとめローン
 複数の金融機関からの高額な借り入れをまとめてひとつすることで、金利を低くし、返済総額を抑えることが出来る方法のこと。複数の金融機関で商品化されているサービスですが、重要なのは借入総額が減るわけではないこと。
 ”おまとめローン.org”などに詳しく載っていますが、まあ、これを使う状況にならないことが肝要かと。
(*5)特に戦争の機運が高まると~
 本書であつかっている時代は日露戦争~第二次世界大戦前です
(*6)LCM(life cycle management)
 企画~開発(初期コスト)~運用・メンテ(ランニングコスト)~廃棄をトータルでとらえるという考え方。注意しないと初期コストよりもランニングコストのほうがかかるケースも結構あります。身近な例では、パソコンのプリンタは購入代金はしれていても、インク代のほうが圧倒的にかかるといったものです。
(*7)吉田茂
 戦後の混乱期に5回にわたって総理大臣をつとめた大政治家。戦後の自由民主党政治の基礎を築いた人でもあります。
(*8)このやり方に問題がないわけではないですが
 Power tends to corrupt, and absolute power corrupts absolutely.
 「権力は腐敗する、専制的権力は徹底的に腐敗する」
   ジョン・アクトン(イギリスの歴史家・思想家・政治家)
(*9)政局がらみでばらまき財政をやっている孫~
 現内閣総理大臣、ローゼン麻生閣下であります(2009年4月現在)

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